説明

食品素材、その製造方法およびその用途

【課題】加熱下においても容易に溶解せず、保水力に優れ、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感を与えることのできる新規な食品素材、その製造方法およびその用途を提供する。
【解決手段】本発明にかかる食品素材は、架橋ゼラチンからなり膨潤して食される新規な食品素材であって、前記架橋ゼラチンが、不溶化率40〜100重量%であり、100メッシュ標準篩は通過しないが2メッシュ標準篩は通過するものであるとともに、密度が0.7g/cm以上である、ことを特徴とし、本発明にかかる食品素材の製造方法は、ゼラチンに対して、100〜150℃の予備加熱による乾燥と、180〜220℃の外部加熱による熱架橋との2段階の加熱処理を施すことを特徴とし、本発明にかかる食品は、前記食品素材を、膨潤後に添加してなるか、または、添加後に膨潤してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品素材、その製造方法およびその用途に関する。特に、膨潤状態においてゲル状で弾力がある食感を有し、かつ、十分な保水性を有する、新規な食品素材とその製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の素材の一部または全部を、類似の食感を有する別の食品素材で代替することで、低コスト化、栄養面での改良、食感の改良などを図った食品が知られている。
例えば、肉粒感を出すために粒状大豆蛋白質(大豆そぼろ)として分離大豆蛋白、グルテン、澱粉、グルタチオン含有酵母エキスまたはγ−グルタミルシステイン含有酵母エキスを主原料とした組織状蛋白含有物を用いるとともに、分離大豆蛋白と小麦粉を主原料とした組織状蛋白含有物をつなぎとして用いて、ハンバーグ様食品を製造する技術が知られている(特許文献1参照。)。
また、肉食品用組織改良組成物として、乾燥こんにゃく加工品を含むゲル化物が知られている(特許文献2参照。)。この組織改良組成物は、脂肪に類似した風味、食感を有するとされ、この組織改良組成物をソーセージやハンバーグなどの畜肉や魚肉における脂肪分に代えて添加することで、低脂肪化されたにも関わらず、風味、食感とともに良好な肉食品を得ることができるとされている。
【0003】
さらに、こんにゃくを主材料とするペーストと、たんぱく系の非水溶性食品と、他の必要素材とを用いて、肉代替食品素材を製造する技術(特許文献3参照。)が知られている。この技術では、こんにゃくの食物繊維マトリックス間に、非水溶性食品中のたんぱく成分が取り込まれて充填され、肉に似た適度の弾力性を持たせ、肉の食感や食味を得ることができるとされている。
ところで、栄養価が高く美容効果も期待される動物性タンパク質としてゼラチンが知られているが、このゼラチンは、そのままでは、膨潤しても十分な弾力を有するものは得られず、また、熱によって容易に溶解してしまうので、上記のような食品素材として用いられることはなかった。
【0004】
また、ゼラチンを架橋した架橋ゼラチンも知られているが、架橋ゼラチンを食品に利用した従来技術としては、例えば、ソーセージなどに食感改良剤として添加する程度であった(特許文献4参照。)。この食感改良剤を添加することで、材料コストを増大させることなく、肉類加工食品の食感を改善することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−61592号公報
【特許文献2】特開2004−173585号公報
【特許文献3】特開2008−142035号公報
【特許文献4】特開平5−176720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記大豆蛋白やこんにゃくなどの植物性原料では、ゲル状で弾力のある食感を得ることは困難であった。
また、上記架橋ゼラチンを用いた技術は、ソーセージなどの肉類加工食品の食感を改良する技術であり、食品素材自体が優れた食感を有するものではない。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感を有する新規な食品素材と、その製造方法およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。
まず、本発明者が検討したことは、栄養価が高く美容効果も期待される動物性タンパク質であるゼラチンを用いることであるが、上述の通り、ゼラチンは、膨潤しても弾力が不十分で、熱にも弱いので、ゼラチンを架橋した架橋ゼラチンを用いることを検討した。
先に述べたように、架橋ゼラチンを食品に利用した技術としては、特許文献4記載の食感改良剤としての利用が知られている程度であったが、この技術は、肉類加工食品を改良する技術であり、個々の架橋ゼラチンに食感を持たせるものではないので、架橋ゼラチンが、粒径の非常に小さな粉体状で用いられており、具体的には、粒径100μm以下の微粉末の状態で用いることが好ましいとされ、その実施例においても、45μmという非常に小さな粉体が用いられている。
【0008】
本発明者は、前記従来技術のように、架橋ゼラチンを肉類加工食品の食感を改良するために用いるのではなく、その膨潤物が有する食感を利用することはできないかと考え、種々検討を図った結果、粒径を所定の範囲に調整したゼラチンを用いて、その不溶化率を架橋により所定の範囲に調整した架橋ゼラチンが、膨潤状態において、ゲル状で弾力のある食感となり、例えば、肉の代替などとして非常に好適に利用できることを見出した。
さらに、前記特許文献4には、ゼラチンを架橋してその不溶化率を高めるための具体的な処理方法として、加熱処理する方法や紫外線照射や遠赤外線照射する方法などの物理的方法と、グルタールアルデヒド、タンニン、明バン、硫酸アルミニウムなどで処理する方法などの化学的方法が例示されているが、それぞれ、以下に述べる問題が生じるおそれがあった。
【0009】
加熱処理の場合、低温加熱(例えば、50〜150℃程度)では架橋に非常に時間が掛かるため非効率的であり、高温加熱(例えば、150〜200℃程度)では膨潤させたときに見た目や食感が悪くなってしまい、また、ゼラチンがその内部に含まれる水によって溶解してしまい、ゼラチン同士が結合して塊を生じたり、製造設備などに溶着して焦げるという問題が生じるおそれがあった。
さらに、紫外線照射や遠赤外線照射では、これら紫外線などの透過率が弱いため、ゼラチン粒子を微粒化する必要があり、このための工程にコストがかかる問題があり、また、化学的方法では、反応を起こさせるための化合物を添加する必要があり、食品などに使用するときに用途が限定される問題が生じるおそれがあった。
【0010】
そして、従来、例えば、150〜200℃程度の温度で加熱した架橋ゼラチンを膨潤させた場合に、見た目や食感が悪くなるのは、熱架橋の際の急激な加熱によりゼラチン中の水分が膨張することで、局所的に膨化が起こっているためであり、このような局所的膨化を起こさせずに、架橋ゼラチンとして、密度が0.7g/cm以上である架橋ゼラチンを用いることが必要であることを見出した。また、このような食品素材を得る方法として、ゼラチンを熱架橋させる際に、2段階に分けて加熱すれば、局所的膨化を起こさせず、前記条件を満たす熱架橋ゼラチンとなることを見出すとともに、さらに、ゼラチンを外部加熱により熱架橋したものは、相対的に外側の架橋密度が高く内側の架橋密度が低くなるので、外側は容易に溶け出さないが内側はゼラチン本来の吸水性や弾力に富むという性質を備えており、この架橋ゼラチンを用いることが、高温下でも容易に溶解せず、保水力に優れ、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感を与える食品素材を得るために好適であることも見出した。
【0011】
本発明はこれらの知見に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明にかかる食品素材は、架橋ゼラチンからなり膨潤して食される新規な食品素材であって、前記架橋ゼラチンが、不溶化率40〜100重量%であり、100メッシュ標準篩は通過しないが2メッシュ標準篩は通過するものであるとともに、密度が0.7g/cm以上である、ことを特徴とする。
本発明にかかる食品素材の製造方法は、前記食品素材を製造する方法であって、ゼラチンに対して、100〜150℃の予備加熱による乾燥と、180〜220℃の外部加熱による熱架橋との2段階の加熱処理を施す、ことを特徴とする。
【0012】
本発明にかかる食品は、前記食品素材を、膨潤後に添加してなるか、または、添加後に膨潤してなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感を有する食品素材、その製造方法およびその用途を提供することができる。前記食品素材は、耐熱性に優れる架橋ゼラチンからなるので、加熱時においても容易に溶解せず、保水力に優れる利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる食品素材、その製造方法およびその用途について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔食品素材〕
本発明にかかる食品素材は、以下に詳述する特定の架橋ゼラチンからなるものである。
前記架橋ゼラチンは、100メッシュJIS標準篩は通過しないが2メッシュJIS標準篩は通過するものである。2メッシュJIS標準篩を通過しない架橋ゼラチンでは、その膨潤物が食品中で異物感を与えるおそれがあり、100メッシュJIS標準篩を通過する架橋ゼラチンでは、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感がほとんど感じられなくなるおそれがある。なお、必要に応じて架橋処理後に粉砕機や振動篩などを用いて粒度調整するようにしても良い。
【0015】
前記架橋ゼラチンは、また、ゼラチンを架橋することにより部分的または全部が不溶化されたものであり、具体的には、不溶化率40〜100重量%である。不溶化率50〜95重量%が好ましく、不溶化率60〜90重量%がより好ましい。不溶化率が少なすぎると、その膨潤物を加熱下においた時にゲル状で弾力のある食感を得ることが困難となり、ヌメリが生じたり、加熱時の歩留まりが低下するおそれがある。不溶化率が多すぎると、その膨潤物を加熱下においた時にパサパサとした紙のような食感になってしまうおそれがある。なお、本発明における前記不溶化率の値は、後述の実施例に記載の方法で測定される値とする。
【0016】
前記架橋ゼラチンの原料となるゼラチンとしては、牛、豚、鶏などの哺乳動物や鳥類の骨、皮部分や、サメやティラピアなどの魚類の骨、皮、鱗部分などのコラーゲンを含有する材料から従来公知の方法で得ることができる。アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンのいずれでも良い。
前記ゼラチンのゼリー強度も、特に限定されず、例えば、50〜300gのものを用いることができる。
本発明にかかる架橋ゼラチンは、密度が0.7g/cm以上である。好ましくは0.8g/cm以上である。前記条件を満たす架橋ゼラチンであれば、十分な保水性が得られるとともに、膨潤状態におけるゲル状で弾力のある食感をも十分に得ることができる。なお、本発明において、架橋ゼラチンの密度は、後述の実施例に記載の方法により算出される値とする。
【0017】
前記条件を満たす架橋ゼラチンは、例えば、以下の条件でゼラチンを架橋させることにより得ることができる。
すなわち、まず、ゼラチンを100〜150℃で予備加熱することにより乾燥したのち、180〜220℃で加熱することにより熱架橋させるようにする方法が採用できる。このようにゼラチンを予備加熱してゼラチン中の自由水を減じておくことにより、高温で熱架橋する際にゼラチンの内部から水分が揮散して局所的膨化を引き起こすことを防止することができるのである。さらに、ゼラチン中の自由水を減じておくことにより、ゼラチンの溶解を防ぎ、ゼラチン同士の結着による塊の形成や、製造装置へ溶着して焦げを生じることも防止できる。
【0018】
加熱方法としては、伝導熱や輻射熱などの外部加熱やマイクロ波加熱などの内部加熱があるが、好ましくは外部加熱により熱架橋を起こさせることが好ましい。前述のとおり、外部加熱によれば、ゼラチンの外側から加熱されるので、相対的に外側の架橋密度が高く内側の架橋密度が低くなるため、この架橋ゼラチンの膨潤物は、外側は溶けにくく、内側はゼラチン本来の吸水性や弾力に富むという理想的な状態となる。一方、マイクロ波加熱などの内部加熱では、内側から加熱されるので、内側で集中的に架橋し、架橋が不十分な外側が十分に不溶化されず、所望の保水力や食感が得られなくなるおそれがある。
上記架橋ゼラチンからなる本発明の食品素材は、膨潤して食されるものであるが、所望のゲル状で弾力のある食感を得る観点から好ましい膨潤倍率としては、例えば、7〜14倍である。食品素材の膨潤は水性液により行えばよく、単なる水であっても良いし、調味液により行ってもよい。そして、食品素材の膨潤は、食品素材を食品に添加する前に予め行っておいても良いし、食品素材を未膨潤のまま食品に添加してその加工や保存中に共存する調味液などの水性液により行うようにしても良い。
【0019】
〔食品素材の用途〕
本発明にかかる食品素材は、食品全般に用いることができ、具体的には、適用できる食品は、例えば、以下のとおりである。
液状あるいは半固形状の食品、または、それらに加熱、乾燥、冷蔵、冷凍などの加工調理を施した食品や、それらを包皮した食品が挙げられる。
前記液状食品として、飲料、スープ、鍋物など、前記半固形状食品として、カレー、シチュー、マヨネーズ、ドレッシングなどが挙げられる。
前記液状あるいは半固形状の食品に加工調理を施した食品として、ハンバーグ、シュウマイ、サラミソーセージなどの畜肉練り製品;かまぼこ、さつま揚げ、魚肉ソーセージ、はんぺんなどの水産練り製品;パン、クッキー、ドーナツなどの小麦粉などの粉末を主体とした食品;卵焼き、茶碗蒸し、プリンなどの卵を主体とした食品;ゼリー、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓デザート;米飯、炒飯、雑炊などの米を主体とした米飯食品;餃子、春巻、肉まん、小籠包、コロッケなどの包皮食品などが挙げられる。
【0020】
また、ゼリーやプリンなどのデザート、サラダ、その他の固形食品などにトッピングとして添加することもできる。
本発明にかかる食品素材を食品に利用することで、栄養価が高く美容効果も期待されるコラーゲンタンパク質の効率的な摂取が可能であり、また、優れた保水効果も得られる。さらに、特に、畜肉加工食品、水産練り加工食品、包皮食品においては、肉の代替、増量や保水目的で使用することができ、これにより、材料コストの低減や、ジューシー感の付与あるいは維持が可能となり、また、飲料やスープなどの液状食品やマヨネーズなどの半固形食品においては、通常固形物の含まれないこれらの食品の中に、所々で、本発明にかかる食品素材の膨潤物に由来するゲル状で弾力のあるつぶつぶが感じられて、独特の味わいを与えることができる。しかも、本発明にかかる食品素材は、加熱時においても容易に溶解することがないので、製造時や喫食時に高温下におかれても、溶解せずにその食感を楽しむことができる。
【0021】
食品素材の添加量は、食品の種類に応じて適宜決定すれば良く、例えば、乾燥状態の食品素材を基準に、食品全量に対して、0.01〜5重量%とすることが好ましい。0.1〜3重量%とすることがより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ここで、本実施例において架橋ゼラチンの不溶化率、保水率、密度は、下記の方法で算出される値である。
<不溶化率>
架橋ゼラチン10gを水500gに投入し、室温で2時間静置したのち、温浴加熱により、15分かけて90℃まで加熱し、さらに90℃を10分間維持する。その後、直ちに、恒量したろ紙を用いてろ過し、得られたろ過残渣を105℃で17時間乾燥し、その重量を測定して、このようにして測定される不溶成分の重量と試験前の重量(10g)とから、不溶化率(重量%)を求める。
【0023】
<保水率>
前記不溶化率の測定方法における乾燥前のろ過残渣の重量と試験前の重量(10g)とから、保水率(重量%)を求める。
<密度>
100メッシュ以下の微粉ゼラチン100gを、500ml容メスシリンダーに、空隙ができないように充填し、その体積(A)を測定する。
つぎに、前記微粉ゼラチンが充填されたメスシリンダーに、密度測定対象となる架橋ゼラチン100gを投入し、均一に分散させるようにして空隙ができないように充填し、その体積(B)を測定する。
【0024】
上記体積(A)、体積(B)の測定値を下式に代入して、密度を算出する。
密度(g/cm)=100/(B−A)
〔実施例1〕
ゼリー強度150g程度で、100メッシュJIS標準篩は通過しないが2メッシュJIS標準篩は通過するアルカリ処理ゼラチン「ヌードルG(商品名)」(新田ゼラチン社製)5000gを加熱回転釜に投入し、130℃で30分間予備加熱することにより乾燥した。さらに、200℃まで昇温して30分間加熱することにより熱架橋を起こして、架橋ゼラチンからなる実施例1にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は86.2重量%であり、保水率は1200重量%であり、密度は1.02g/cmであった。
【0025】
〔実施例2〕
実施例1において、予備加熱に続く熱架橋のための加熱の時間を30分から15分に変更したこと以外は同様にして実施例2にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は45.8重量%であり、保水率は920重量%であり、密度は1.05g/cmであった。
〔実施例3〕
実施例1において、予備加熱に続く熱架橋のための加熱の時間を30分から70分に変更したこと以外は同様にして実施例3にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は98.5重量%であり、保水率は1080重量%であり、密度は0.82g/cmであった。
【0026】
〔実施例4〕
実施例1において、架橋処理を以下のように変更したこと以外は同様にして実施例4にかかる食品素材を得た。
すなわち、実施例1と同様のアルカリ処理ゼラチン「ヌードルG(商品名)」150gを45cm四方のトレイにおき、庫内温度130℃に設定したトンネルオーブンにて20分間予備加熱して乾燥し、さらに庫内温度を180℃に昇温して15分間加熱することにより熱架橋させるようにした。
この食品素材の不溶化率は84.5重量%であり、保水率は1130重量%であり、密度は0.85g/cmであった。
【0027】
〔実施例5〕
実施例1において、架橋処理を以下のように変更したこと以外は同様にして実施例5にかかる食品素材を得た。
すなわち、実施例1と同様のアルカリ処理ゼラチン「ヌードルG(商品名)」を実施例1と同様にして予備加熱したのち、マイクロ波加熱装置で、2450MHz、出力17.0kWの電界を加えて15分間加熱することにより熱架橋させるようにした。
この食品素材の不溶化率は72.1重量%であり、保水率は750重量%であり、密度は0.75g/cmであった。
【0028】
〔比較例1〕
実施例1において、予備加熱に続く熱架橋のための加熱の時間を30分から10分に変更したこと以外は同様にして比較例1にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は34.8重量%であり、保水率は570重量%であり、密度は0.92g/cmであった。
〔比較例2〕
実施例1において、原料ゼラチンとして、「ヌードルG(商品名)」を用い、これを粉砕機で粉砕して、200メッシュJIS標準篩は通過しないが100メッシュJIS標準篩は通過するゼラチンを用いたこと以外は同様にして比較例2にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は78.4重量%であり、保水率は810重量%であり、密度は0.82g/cmであった。
【0029】
〔比較例3〕
実施例1において、原料ゼラチンとして、「ヌードルG(商品名)」を用い、これを粉砕機で粉砕して、200メッシュJIS標準篩を通過するゼラチンを用いたこと以外は同様にして比較例3にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は70.6重量%であり、保水率は730重量%であり、密度は0.80g/cmであった。
〔比較例4〕
実施例1において、原料ゼラチンとして、2メッシュJIS標準篩を通過しないゼラチンを用いたこと以外は同様にして比較例4にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は81.3重量%であり、保水率は1260重量%であり、密度は0.72g/cmであった。
【0030】
〔比較例5〕
実施例1において、予備加熱を行うことなく、200℃で30分間、熱架橋のための加熱を行ったこと以外は同様にして比較例5にかかる食品素材を得た。この食品素材の不溶化率は83.3重量%であり、保水率は1320重量%であり、密度は0.65g/cmであった。
〔評価〕
<ハンバーグへの利用>
各実施例、比較例にかかる食品素材を利用したハンバーグを作製し、食感評価を行った。
【0031】
ボールに合い挽き肉535g、豚脂50g、ビーフ系調味料10g、食塩6gを入れ、2分間混練した。ここに、前記各実施例、比較例にかかる食品素材の膨潤物(食品素材15gを水で膨潤させたもの)150g、ソテーオニオン140g、卵白50g、パン粉50g、砂糖3g、グルタミン酸ナトリウム3gを入れ、2分間混練した。ここに、ホワイトペッパー1g、ガーリック1g、ナツメグ1gを入れ、1分間混練した。その後、100gずつ小判状に成形して、フライパンを使って200℃で両面2分間ずつ焼いたのち、5分間蒸した。
得られた各ハンバーグについて、パネラー10人に試食してもらい、食感、ジューシーさを5点満点で評価してもらい、その平均点を算出した。結果を表1に示す。評価基準は以下のとおりである。
【0032】
食感 :ゲル状で弾力のある食感であり、パサパサした食感がなく、ハンバーグの食感に違和感がないものを5点とし、その程度が劣るものほど点数を低くした。
ジューシー感:具材が柔らかくジューシーなものを5点とし、その程度が劣るものほど点数を低くした。
【0033】
【表1】

【0034】
<餃子への利用>
各実施例、比較例にかかる食品素材を利用した餃子を作成し、食感評価を行った。
ボールに、豚挽き肉700g、醤油150g、紹興酒150g、ごま油100g、砂糖10g、グルタミン酸ナトリウム10gを入れ、混合した。さらに、みじん切りにして水を切ったキャベツ1000g、ニラ300g、白ねぎ180g、擦り生姜100gと、前記各実施例、比較例にかかる食品素材の膨潤物(食品素材30gを水で膨潤させたもの)300gを加えて撹拌し、餃子の具材を得た。前記具材を15gずつ包皮して、5分間蒸煮したのち、フライパンで皮に焼き色が付くまで焼いた。
【0035】
また、前記各実施例、比較例にかかる食品素材の膨潤物300gに代えて、前記各実施例、比較例にかかる食品素材(非膨潤物)30gを用いて同様に餃子を得た。
得られた各餃子について、パネラー10人に試食してもらい、食感、ジューシーさ、皮の焦げ付きを5点満点で評価してもらい、その平均点を算出した。結果を表1に示す。評価基準は以下のとおりである。
食感 :ゲル状で弾力のある食感であり、パサパサした食感がなく、餃子の食感に違和感がないものを5点とし、その程度が劣るものほど点数を低くした。
ジューシー感:ジューシーな食感のものを5点とし、その程度が劣るものほど点数を低くした。
【0036】
皮の破れ:皮の外側へスープが染み出してフライパンに皮が焦げ付くことで皮が破れた個数の割合により評価し、その割合が30%以上のものを1点、20%以上30%未満のものを2点、10%以上20%未満のものを3点、10%未満のものを4点、皮が破れなかったものを5点とした。
<ゼリーのフィリングとしての利用>
各実施例、比較例にかかる食品素材をゼリーのフィリングとして利用し、該ゼリーの食感評価を行った。
ステンレスビーカーに水250gと100%オレンジジュース500gを投入し、さらに、砂糖120g、「GF−100」(新田ゼラチン社製のゼリー用ゲル化剤)15gと、前記各実施例、比較例にかかる食品素材(非膨潤物)100gを投入し、分散させた。分散後、30分間静置し、その後、撹拌しながら80℃まで加熱し、10分間保温した。ここに、オレンジキュラソー10gを入れ、総量が1000gとなるように水で調整し、カップに充填した。4℃で一晩静置したのち、ゼリーを得た。
【0037】
得られた各ゼリーについて、パネラー10人に試食してもらい、食感、つぶつぶの数を5点満点で評価してもらい、その平均点を算出した。結果を表1に示す。評価基準は以下のとおりである。
食感 :ゼリー中の食品素材由来のつぶつぶ感があり、パサパサした食感ではなく、ゼリーの食感に違和感がないものを5点とし、その程度が劣るものほど点数を低くした。
つぶつぶの数:つぶつぶが多いものを5点とし、その程度が劣るものほど点数を低くした。
【0038】
<結果の考察>
上記ハンバーグ、餃子、ゼリーの製造工程を見れば分かるように、ハンバーグや餃子はフライパンで焼く工程、ゼリーは80℃まで加熱して10分間保温する工程、という加熱工程を含んでいるが、実施例にかかる食品素材は、前記加熱工程においても容易には溶解することがなく、その結果、表1に見るように、各食品を食したときに、ゲル状で弾力のある食感が得られている。また、食品素材の保水性の高さから、食品素材それ自体が十分な水分を含んでいるとともに、肉汁や調味液の流出を抑えることもできるので、極めてジューシー感に優れている。
【0039】
実施例1と実施例5の比較から、外部加熱で熱架橋した架橋ゼラチンからなる実施例1の食品素材のほうが、マイクロ波加熱のような内部加熱で熱架橋した架橋ゼラチンからなる実施例5の食品素材よりも、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感に優れ、かつ、ジューシー感の付与効果にも優れたものであることが分かる。
比較例1の食品素材は、不溶化率の低い架橋ゼラチンからなるものであるため、加熱調理時の溶解が著しく、歯応えが低下し、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感が得られていない。
比較例2や比較例3の食品素材は、粒径の小さな架橋ゼラチンからなるものであるため、膨潤状態においてゲル状で弾力のある食感が十分に得られていない。
【0040】
比較例4の食品素材は、粒径の大きな架橋ゼラチンからなるものであるため、いずれの食品に適用した場合においても、食感に違和感を生じさせている。
比較例5の食品素材は、架橋ゼラチンの密度が低いことから、架橋処理の際に局所的膨化が起こってしまっているものと理解され、そのために、膨潤状態において弾力がなく、パサパサした食感となってしまい、いずれの食品に適用した場合においても、食感に違和感を生じさせている。
なお、本発明にかかる食品素材を、醤油や紹興酒などの水分を含む調味液を材料として使用する餃子や、水を材料として使用するゼリーなどに利用する場合には、予め膨潤しておく必要はなく、未膨潤の食品素材をそのまま添加できることが分かる。実施例2の食品素材を用いた餃子の「皮の破れ」の評価結果から分かるように、食品やゼラチンの種類、材料中の水分量などによっては、予め膨潤しておかないほうが良い場合もあるので、食品やゼラチンの種類、材料中の水分量なども考慮して、予め膨潤したものを添加するか、膨潤させずにそのまま添加するかを決定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明にかかる食品素材、その製造方法およびその用途は、例えば、畜肉加工食品や水産練り加工食品などの各種加工食品に添加する食品素材、その製造方法や、該食品素材を添加してなる各種加工食品として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ゼラチンからなり膨潤して食される新規な食品素材であって、前記架橋ゼラチンが、不溶化率40〜100重量%であり、100メッシュ標準篩は通過しないが2メッシュ標準篩は通過するものであるとともに、密度が0.7g/cm以上である、ことを特徴とする、食品素材。
【請求項2】
請求項1に記載の食品素材を製造する方法であって、ゼラチンに対して、100〜150℃の予備加熱による乾燥と、180〜220℃の外部加熱による熱架橋との2段階の加熱処理を施す、ことを特徴とする、食品素材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の食品素材を、膨潤後に添加してなるか、または、添加後に膨潤してなる、食品。