説明

食品

【課題】食料資源として小麦粉は製パン及び加工食品に広く利用されており、これの加工あるいは品質を改良して、さらに有用な食品を開発することが求められおり、これを達成するためには小麦のタンパク質のグルテンの改良が求められている課題である。
【解決手段】カルシウムイオン一定量を醸造酢に溶存し、これを小麦粉の加工に際して使用することにより小麦粉グルテンに作用してその機能を向上させ、小麦粉あるいは小麦粉を原料とする加工食品の品質を高めることができる。さらに国産小麦の用途拡大を推進して国内農業の振興に役立ち、併せて栄養の供給に資する利益もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉を使用した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦グルテンは小麦のタンパク質のグルテニンとグリアジンが小麦粉の加工の混捏の際に水の媒介により結合してグルテンを形成する小麦独特の性質であり、これが小麦でん粉質と共に食料資源としての大きな位置を占めている理由となっている。小麦は小麦粉として利用され、加工食品の多くが小麦粉を原料とするかあるいは原料の一部として製造し、加工工程において、また品質についてグルテンの機能を広く利用されている。
【0003】
小麦粉を原料とする加工食品の中心の製パンにおいて製品の品質を決定するのが小麦粉のタンパク質のグルテンであり、製麺あるいは菓子、惣菜の品質に関してもグルテンは食品の品質に大きな影響を与えている。したがってタンパク質含有量の多い即ちグルテンの多い小麦粉に対する需要が強いが、この性質を持つ小麦はカナダ、アメリカを主生産国とし我が国はこれを大量に輸入している。輸入小麦にはグルテンの少ない品種も多く、また国内で栽培される小麦についてもグルテンの成分が少ないため用途に制約があり、これらの事情から内麦の品種改良あるいは加工技術の開発がおこなわれている。
【0004】
小麦のグルテン成分を抽出加工した小麦グルテン粉末あるいは活性グルテンが商品化されており、グルテンの補充に充てる、あるいはグルテン強化小麦粉があり、食品添加物の乳化剤にステアリル乳酸カルシウムがあり、炭酸カルシウムを利用する技術がある。
国内産小麦粉にグルテンと食塩を含有させた混合物を添加物としてこれを大量生産の製パンに利用し、グルテン量の少ない小麦粉を製パンに利用しやすくする。
国内産小麦粉にグルテンとタンパク分解酵素を加え製パン用の専用小麦粉とする。
小麦粉にペクチンとグルテンを添加してドーナッツの品質を改良し吸油量の少ない低カロリードーナッツを製造する。小麦粉に代わり米粉入りのパンを作る際に糊化温度を調節したでん粉を併用して米粉との適合性を改良する。
パン原料の小麦粉にグルテン、卵白と酵素を添加してパンの品質を向上させる。
グルテンの弱い国内産の小麦粉に超強力粉を混合して小麦粉のグルテンを改質して強力粉と同様な機能を付与して製パンに利用する技術にみられように開発はおもに製パンの技術に関する。ほかに栄養補給として有機酸ナトリウムを利用して炭酸カルシウムを加えパン食のカルシウムの栄養補給の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−95056
【特許文献2】特開平06―125692
【特許文献3】特開平06−62722
【特許文献4】特開2004−201508
【特許文献5】特開2004−242577
【特許文献6】特開2002−125579
【特許文献7】特開2006−20529
【特許文献8】特開2008−543309
【特許文献9】特開2007−520219
【特許文献10】特開平10−28537
【特許文献11】特開2000−350559
【特許文献12】特開平08−66146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
小麦グルテンの改良はパンの品質向上にとどまらず菓子、麺あるいは小麦粉を使用する食品の品質の改良につながり、また抽出グルテンを補充し粘弾性の増加をはかる製品においては小麦粉本来のタンパク質と澱粉の成分バランスとは異なり食味の向上が図られるとは限らない場合もあり、小麦粉のグルテンの機能を増強する合理的かつ有効な方法、手段、物質を見出すことの要請がある。
また、国産小麦のグルテンの改良による用途の拡大の要請もある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、広範囲の食品に使用されている小麦粉について、主要な成分のタンパク質であるグルテンを改良することは、製パンをはじめとして小麦粉を原料あるいは原料の一部としてまたグルテンそのものを利用する菓子、めん、惣菜製品の加工性と製品価値について従来にない品質に改良し向上をはかることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するために、第1の観点の発明の食品は、 小麦を使用した食品であって、動物性カルシウムを0.1〜9.0重量%溶存する醸造酢を、前記動物性カルシウムが0.01〜3.0重量%となるように含有している。
【0009】
好適には、本発明の食品の前記動物性カルシウムは貝殻あるいは卵殻を約400〜約1300℃の温度で焼成した焼成カルシウムである。
【0010】
好適には、本発明の食品は、グルテンを5重量%から7重量%以下を含有する小麦粉を使用した製菓用クリーム、ジャム、クッキー、どら焼、蒸し羊羹、饅頭、パンのいずれかであり、前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.08重量%含有している。
【0011】
好適には、本発明の食品は、グルテンを8重量%から10重量%以下を含有する小麦粉を使用したお好み焼き、うどん、そば、肉饅頭、餃子、ナン、パンのいずれかであり、前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.09重量%含有している。
好適には、本発明の食品は、グルテンを11重量%から16重量%以下を含有する小麦粉を使用したクラッカー、ピザ、パスタ、麩、パンのいずれかであり、
前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.12重量%含有している。
【0012】
好適には、本発明の食品は、抽出グルテンを1重量%から99重量%以下を成分とした麩あるいは麩加工品であり、前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.12重量%含有している。
【0013】
好適には、本発明の食品は、小麦粉を使用、あるいはグルテンを含有した食品であって、前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.2重量%含有され、
該食品の粘弾性、伸展性、保水性、保存性、保型、食感の一つあるいは二つ以上を改良したものである。
【0014】
好適には、本発明の食品は、前記動物性カルシウムが国内産小麦に0.01〜0.12重量%含有されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に発明の実施例について記述をするが本発明はこれらに限定されない。またグルテンの重量%は本来小麦粉の成分とし含有している量である。
<実施例1>
グルテン5重量%から7重量%の小麦粉は薄力粉に分類され主に製菓用クリーム、どら焼、蒸し羊羹、饅頭、クッキー、パンあるいは同小麦粉を使用した食品の生地にカルシウムイオンを使用してグルテンの吸水機能を向上させる効果について試験をした。
試験はグルテンが5〜7重量%の小麦粉100gに加水55gにベーキングパウダー3gの配合とし、ベーキングパウダーは均質を図るため使用する捏ね水に加え、また動物性カルシウムイオンは相当する濃度を各区別に加え、所定の配合を行い、小型ミキサー12rpmで10分間攪拌して生地を作り、これを40gに3区分しプリンカップに収納し、蒸し器で6分間蒸して一旦取り出し容器の配置を換えてさらに6分間蒸して取り出し、容器から出し室温下で30分間放冷し水滴の付着の無いのを確認し計量した。
【0016】
このとき、動物性カルシウムイオンを0.1〜9.0重量%含有する醸造酢を加工水に添加することでグリアジンとグリテニンが動物性カルシウムイオンと醸造酢及び水分を介して速やかに混和浸潤しグルテンを形成し、膨張する際にカルシウムイオンの存在により有利に作用するという機序があるため、動物性カルシウムイオンを食品内に含有させる意義がある。このように醸造酢とともに食品に含有させるのは醸造酢に溶存することで容易に効果を発揮するという利点があるためである。
また、上記動物性カルシウムは貝殻あるいは卵殻を約400〜約1300℃の温度で焼成した焼成カルシウムである。ここで、焼成の温度を400〜1300℃としたのは400℃未満であると未焼成成分が残存するという不都合があり、1300℃を超えると焼成は完了しエネルギーの浪費という不都合がある。
醸造酢は米、コーン、果汁、アルコールを原料として醸造し、酸濃度は4.3から15%程度でありカルシウの溶解量は酸濃度に比例し約1.1から9重量%である。実施例の醸造酢はアルコールを原料としており動物性カルシウムはホタテの貝殻を材料とした。
【0017】
生地重量40gが蒸しの工程中にRHがほぼ100%の水蒸気との接触により生地に取り込まれた水分を増加した吸水量として、出来上がりの対照区の重量が42gでありこれを100としこれに対して試験区の数値が「2」以上の増加を有効とした。
ここで、上記「2」以上の増加を有効としたのは「1」までは対照区の近似値であり、吸水量の増加が不十分であるとの理由である。
【0018】
この結果表1のグルテン含有量5〜7重量%ではカルシウムイオン濃度0.01〜0.08重量%までが有効範囲であった。また0.09重量%以上は吸水量が平衡になり、
その上試験品の内部組織と外皮が硬化して食感を阻害するため食品として不適であることから0.09重量%を超える範囲を無効とした。
【0019】
【表1】

【0020】
<実施例2>
グルテン5重量%から7重量%の薄力粉についてグルテンの機能の膨張について、前記試験品を使用して比容積を測定し、カルシウムイオンがグルテンの膨張機能に作用しその向上に寄与し容積を増加する効果を計測した。
グルテン含有量とカルシウムイオンの濃度区分に対応して計測し表2に結果を記載した。比容積は粒径0.6mmのガラスビーズを使用しカップのスペースに充填し試験品の容積を算出した。
対照区の比容積は(1.77)であったのでこれより少なくとも2%増加の(1.81)以上を有効とした。このように、2%増を基準としたのは(1%までは製造時の温度などの条件の微差や測定誤差)のためである。また、上限値は比容積の数値が平衡するかまたは増加であっても試験品の内相の状態と外皮の硬化により食感を阻害する場合に効果の範囲外とした。
すなわち、1.84以上を範囲外とした。これは、1.84以上になると、比容積の増加が進み水蒸気から過剰に吸水し、水気の多い食感とってしまうためである。
【0021】
【表2】



【0022】
<実施例3>
グルテン8重量%から10重量%の小麦粉は薄力粉に分類され主な用途はたこ焼き、お好み焼き、うどん、そば、肉饅頭、餃子、ナン、パン製品あるいはこの小麦粉を使用した食品である。
実施例1と同じ方法で試験を実施しカルシウムイオンがグルテンの機能に作用し、吸水機能を向上した推移を表3に記載した。
対照区の出来上がり重量は42gでありこれを100としカルシウムイオン使用の試験区の数値が「102」以上の増加を有効とした。
ここで、上記「102」以上の増加を有効としたのは「101」までは対照区の近似値であ有効との判断ができないことが理由である。
この結果、表3のグルテン含有量8〜10重量%ではカルシウムイオン濃度0.01〜0.08重量%までが有効範囲であった。また0.10重量%以上は吸水量が平衡になり、その上試験品の内相と外皮が硬化して食感を阻害するため食品として不適であることから0.10重量%を超える範囲を無効とした。
【0023】
【表3】



【0024】
<実施例4>
グルテン含有量が11から16重量%の小麦粉は強力粉に分類され主にクラッカー、ピザ、パスタ、麩、パン製品あるいは同小麦粉を使用した食品であって、この小麦粉にカルシウムイオンを使用して実施例1と同様に蒸しパンを作り、吸水量の比較によりグルテンの吸水機能の向上について効果を試験した。生地の材料の配合及び加工方法は実施例1と同一である。対照区の出来上がり重量が43gでありこれを100として102以上を有効とし、 表4にカルシウムイオンの効果試験の結果を記載した。
表4のグルテン含有量11から16重量%ではカルシウムイオンが0.01〜0.12重量%が有効範囲であり、0.01以下で(重量比が101)までは対照区の近似値で吸水性が不十分であるという理由で無効であり、0.15以上の範囲は食感を阻害するため無効とした。
【0025】
【表4】



【0026】
<実施例5>
実施例の追加をお願いします。
市販の小麦たんぱく粉で生麩を作り動物性カルシウムイオンの効果について試験をした。上記の品はたんぱく質の含有量は約85%である。この小麦たんぱく粉60gに水100gを加えて攪拌しペースト状としさらに100gの水を加えて混練し生麩を作り、ペーパータオルで余剰の水分を除去して試験品とした。対照区の加水にはなにも加えず、試験区の加水に対しては醸造酢に溶解したカルシウムイオンを0.04重量%となるよう計量して使用した。
試験区の生麩の外観を観察すると、対照区に比較して試験区は同じ白灰色であっても透明感と表面の光沢があり、試食においても食感、香気も良い。生麩の重量は対照区は138gで試験区は144gであった。これを容器に入れ15℃で2日経過後の一般生菌数を計測して保存性について試験をした。
希釈培養試験の結果対照区は4X10であり、試験区は6X10であった。これらのことからカルシウムイオンは小麦たんぱく粉の成分であるグルテンの吸水機能を向上し保存性にも有効であることが確認できた。
【0027】
<実施例6>
実施例の追加をお願いします。
醸造酢に溶存したカルシウムイオンがグルテンの機能を改良しこれが食感と食味の向上に及ぼす効果について以下の試験をした。グルテン含有量14重量%の輸入小麦粉と同じく14重量%の国内産小麦粉を使用し、通常の材料配合をもって直捏法で食パンを作り、国内産の製パン性の品質向上を確認することができた。
上記2種について対照区と試験区を設定し、試験区にはカルシウムイオン0.08重量%を使用した。食パンは焙焼後放冷し、平均21.5℃の室温で保存し、3時間後と1日後及び3日後までの経時変化に伴う食感と食味についてパネラー7名の評価法に準拠した官能試験を実施し、表7〜10に示す。
【0028】
食パンは厚み11から12mmでトーストはせずまたバター、ジャムは使用しない。
外観の色、焦げ、シワ、形状、容積及び皮の柔らかさ、内相の色、組織の密度、弾力、柔らかさ、香気、湿潤感を評価点とした。3時間経過後の試食後、試験品を各12枚持ち帰り経時変化の評価をし得点記録書を別途回収し結果を表に記載した。
添加区の食パンは、内装のスダチは緊密に構成され、外皮については亀裂が無く、柔らかであり、またいわゆるしっとり感ともちもち感がありしかも経時の老化も少なかった。
国内産小麦粉の製パンについて品質の向上が確認できた。
従来、食パンについては日数の経過と共に、パンが乾燥していわゆるパサパサの食感を呈する傾向があり、これを防止するため乳化剤、糖アルコール、増粘剤、液糖、油脂等を複数を使用して湿潤感を保持しているが、これらの添加物を使用しないでカルシウムイオン液はこのグルテン機能の改良について有効であることが確認できた。

【0029】
【表5】



【0030】
【表6】



【0031】
【表7】



【0032】
【表8】



【0033】
本実施例にある動物性カルシウムは貝殻、卵殻、魚骨、サンゴ殻であり、これらのいずれかを1種あるいは1種以上を醸造酢に溶解したものを含有したものであればよい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦を使用した食品であって、
動物性カルシウムを0.1〜9.0重量%溶存する醸造酢を、前記動物性カルシウムが0.01〜3.0重量%となるように含有した食品。
【請求項2】
前記動物性カルシウムは貝殻あるいは卵殻を約400〜約1300℃の温度で焼成した焼成カルシウムである
請求項1に記載の食品。
【請求項3】
前記食品は、グルテンを5重量%から7重量%以下を含有する小麦粉を使用した製菓用クリーム、ジャム、クッキー、どら焼、蒸し羊羹、饅頭、パンのいずれかであり、
前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.08重量%含有されている請求項1〜2に記載の食品。
【請求項4】
前記食品は、グルテンを8重量%から10重量%以下を含有する小麦粉を使用したお好み焼き、うどん、そば、肉饅頭、餃子、ナン、パンのいずれかであり、
前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.09重量%含有されている請求項1〜2に記載の食品。
【請求項5】
前記食品は、グルテンを11重量%から16重量%以下を含有する小麦粉を使用したクラッカー、ピザ、パスタ、麩、パンのいずれかであり、
前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.12重量%含有されている請求項1〜2に記載の食品。
【請求項6】
前記食品は、抽出グルテンを1重量%から99重量%以下を成分とした麩あるいは麩加工品であり、
前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.12重量%含有されている請求項1〜2に記載の食品。
【請求項7】
前記食品は、小麦粉を使用、あるいはグルテンを含有した食品であって、
前記動物性カルシウムイオンが、0.01〜0.2重量%含有され、
該食品の粘弾性、伸展性、保水性、保存性、保型、食感の一つあるいは二つ以上を改良した請求項1〜2に記載の食品。
【請求項8】
前記動物性カルシウムが国内産小麦に0.01〜0.12重量%含有された食品。

【公開番号】特開2011−223984(P2011−223984A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535(P2011−535)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000129150)株式会社カランテ (5)
【Fターム(参考)】