説明

食器

【構成】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、特定のアルキルケテンダイマー(B)0.01〜20重量部を必須成分とするポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる食器。
【効果】本発明のアルキルケテンダイマーを必須成分とするポリカーボネート樹脂組成物から成る食器は、優れた耐衝撃性、耐熱性のみならず、優れた耐薬品性を有している。そのため、本発明の食器に洗剤、ハンドクリーム等の各種薬品が付着しても割れ等の不具合の発生が抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性を改善したポリカーボネート樹脂製の食器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、ITE、機械、自動車などの分野で広く用いられている。また、耐衝撃性および耐熱性が優れることから、食器にも採用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂から得られた食器に洗剤、ハンドクリーム等の各種薬品が付着する事で割れ等の不具合が発生する場合があり、かかる不具合が発生しないように耐薬品性に優れたポリカーボネート樹脂が要望されている。
【0003】
上記欠点を改良する目的でポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を配合した樹脂組成物が提案されている。しかしながら、ポリエステル樹脂を配合する事で、
(1)耐薬品性は若干改良されるものの、アタック性の強いアルカリ洗剤等が付着した場合に割れ等の不具合が発生するなど改良効果は十分とはいえず、
(2)ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性が損なわれる、
という問題があった。
【0004】
また、耐衝撃強性を改良する為にポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂からなる樹脂組成物にMBS等の耐衝撃改良材を配合する方法が提案されている。(特許文献1)しかしながら、MBSに起因する着色やポリエステル樹脂がエステル交換を起こして分解するという問題があり、更なる改良が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特公昭55−9435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する衝撃性、耐熱性等を保持したまま、耐薬品性を著しく改善したポリカーボネート樹脂製の食器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に特定のアルキルケテンダイマーを配合することにより驚くべきことに耐薬品性が著しく改良できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式1に示すアルキルケテンダイマー(B)0.01〜20重量部を必須成分とするポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる食器を提供するものである。
一般式1:
【0009】
【化1】

(一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基をあらわす。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の食器は、優れた耐衝撃性、耐熱性のみならず、優れた耐薬品性を有している。そのため、本発明の食器に洗剤、ハンドクリーム等の各種薬品が付着しても割れ等の不具合の発生が抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0012】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0013】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0014】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0015】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは14000〜30000、さらに好ましくは16000〜26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0016】
本発明にて使用されるアルキルケテンダイマー(B)は下記一般式にて示される化合物である。
一般式1:
【0017】
【化2】

【0018】
一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基、好ましくは炭素数10〜21のアルキル基である。
【0019】
一般式1において、更に好ましくは、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数が10〜21のアルキル基である化合物が使用できる。
【0020】
アルキルケテンダイマー(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.01〜20重量部である。0.01重量部未満では耐薬品性に劣り、20重量部を越えると造粒加工が困難になり樹脂組成物のペレットを得ることができなくなることから好ましくない。好ましい配合量は、0.01〜10重量部、更に好ましくは0.03〜5重量部である。
【0021】
本発明の各種配合成分(A)、(B)の配合方法には特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の単軸または二軸押出機等で溶融混練することができる。また、これら配合成分の配合順序や一括混合、分割混合を採用することについても特に制限はない。
【0022】
また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、酸化防止剤、熱安定剤、染顔料、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)、他の樹脂を配合することができる。
【0023】
本発明の食器は、主として射出成形方法にて製造される。この場合、特に限定されないが、100〜300Tクラスの射出成形機が用いられる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、部や%は特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0025】
使用した配合成分は、以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂:
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200−20
粘度平均分子量:19000、以下、PCと略記)
酸化防止剤:
アデカ社製 PEP36(以下、AOと略記)
アルキルケテンダイマー(B):
永恒化工社製 AKD1840(以下、AKDと略記)
【0026】
前述の各種配合成分を表1および2に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度280℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0027】
(成形品の耐薬品性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cmにて試験片(127x13x3.2mm)を作成した。
得られた試験片を片持ち梁の耐薬品性試験の治具(図1参照)を用いて任意の歪みをかけて、試験片の中央部に下記薬剤をそれぞれ塗布した。
評価用薬剤
花王社製 マジックリン(以下、C1と略記)
ニベア花王社製 ニベアクリーム(以下、C2と略記)
上記の薬剤塗布後の試験片を23℃および85℃の雰囲気下で48時間放置し、試験片上の割れやヒビの位置から臨界歪み(%)を次式により求めた。
【0028】
【数1】

【0029】
上記式にて求めた臨界歪みから、耐薬品性を下記基準にて判定し、臨界歪みが0.7%超(○〜◎)を合格とした。
耐薬品性の判定:
◎:臨界歪みが1.0%以上
○:臨界歪みが0.7%以上〜1.0%未満
△:臨界歪みが0.5%以上〜0.7%未満
×:臨界歪みが0.3%以上〜0.5%未満
××:臨界歪みが0.3%未満
【0030】
(成形品のノッチ付きシャルピー衝撃強度および荷重たわみ温度の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cmにてISO試験法に準じた試験片を作成し、得られた試験片を用いてISO 179−1、ISO75−2に準じノッチ付きシャルピー衝撃強さ及び荷重たわみ温度を測定し、ノッチ付きシャルピー衝撃強度が10KJ/m以上、および、荷重たわみ温度が105℃以上を合格とした。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜3)にあっては、耐薬品性および耐溶剤性、衝撃強度、耐熱性のそれぞれに亘って良好な結果を示した。
【0034】
一方、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
アルキルケテンダイマーが添加されていない例(比較例1)およびアルキルケテンダイマーの添加量が本発明の定める範囲よりも少ない例(比較例2)においては、何れも耐薬品性に劣っていた。
比較例3はアルキルケテンダイマーの添加量が本発明の定める範囲より多い事から、造粒困難よりペレットが作成出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】片持ち梁の耐薬品性試験の評価用治具の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 耐薬品性試験の評価用治具本体
2 試験片
3 試験片の固定用ネジ
4 試験片に歪を与えるネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式1に示すアルキルケテンダイマー(B)0.01〜20重量部を必須成分とするポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる食器。
一般式1:
【化1】

(一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基をあらわす。)
【請求項2】
アルキルケテンダイマー(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.03〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の食器。

【図1】
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【公開番号】特開2013−94568(P2013−94568A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242618(P2011−242618)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(396001175)住化スタイロンポリカーボネート株式会社 (215)
【Fターム(参考)】