説明

食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉

【課題】冷蔵、冷凍、乾燥時の経時的な変性を抑制することができる食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉を提供する。
【解決手段】食肉のドリップ抑制剤は、ソルビット、トレハロースまたはそれらと他の糖質および/または調味料との組み合わせと、生の塊状食肉のpHをアルカリ側に調整可能なpH調整剤とを含んでいる。食肉のドリップ抑制剤は、有機酸類および/または食塩をさらに含んでいてもよい。食肉のドリップ抑制剤を、生の塊状食肉、特に生の節足動物または甲殻動物に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類、鳥獣肉等の食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の保存、貯蔵方法として冷蔵、冷凍および乾燥がある。しかしながら、これらの方法には、それぞれ一長一短がある。すなわち、冷蔵方法では、食品の長期の保存に耐えられず、微生物の増殖、食品の変質、変敗等を完全に防止出来ない。食品の冷凍貯蔵方法では、長期の保存には耐えられるが、食品の変性、変質、変色を完全に抑制できないのが現状である。乾燥方法では、長期の保存には耐えられても、品質の劣化、特に油やけ(脂質の酸化、変敗)を抑制することが出来ない等の問題がある。
【0003】
魚介類には、脊椎動物(マグロ、サバ、マダイ等)、軟体動物(イカ、タコ等)、節足動物(エビ等)、甲殻類(カニ等)、蕀皮動物(ウニ、ナマコ等)および貝類(ホタテ、カキ等)等がある。魚介類由来の食品としては、タラコ、かずのこ、いくら、すじこ、白子、心臓、腸、フカヒレなどがある。鳥獣肉には、鶏、七面鳥、カモ、キジ、ウズラ等の鳥類と、牛、豚、馬、羊等の動物由来の肉類とが含まれる。かかる魚介類または鳥獣肉由来の食品の長期の保存、貯蔵には、冷蔵、冷凍、乾燥方法が採られている。
【0004】
しかしながら、これまでの方法では、食品の変性、変色を完全に抑制できないため、種々の対策が採られている。因みに、マグロでは肉色の保持には、ミオグロビンの自動酸化を抑制するために酸素除去を行うか、高濃度酸素包装でオキシミオグロビンの保持を行うことで、鮮紅色を保持する方法などが採られている。軟体動物のイカ、タコ類では、冷凍耐性は強いが、冷凍やけによる品質の低下があり、イカの種類によっては、異味異臭の除去を必要とするものがある。
【0005】
さらに、変色を起こす原因として、ヘモシアニンの付着による問題等がある。節足動物のエビでは、肉質のpHが高く、エキス分の多い多水系のために、肉質が柔軟で、組織がき弱であることから、凍結速度が遅いと微細な氷晶が生じ、細胞が脱水されて、たんぱく質変性が促進される。甲殻類のカニでは、解凍、凍結時の黒変の抑制や、生冷凍品のボイル後の肉離れが悪いという問題がある。蕀皮動物のウニでは、凍結による身崩れが生じ、ナマコでは、粕漬けにした場合は色素の溶出、干ナマコの場合は歩留まりが悪くなる現象がみられる。
【0006】
さらに、貝類では、ホタテなどで、冷蔵品での鮮度保持、乾燥品での脂質の酸化、白干しの褐変などが問題とされている。さらに、魚類由来の食品である魚卵(タラコ、かずのこ、いくら、すじこ等)、魚の内臓の白子、心臓、腸等では、冷蔵、冷凍による変性、変色ならびに脂質の酸化を生じると、著しくその商品価値を失う結果となる。
【0007】
これまでの研究では、一般には、魚類の冷蔵、冷凍、乾燥時の変性抑制方法は確立されていない。食品の変色に関しても、マグロのヘムたんぱく質ミオグロビンの鮮紅色を保つために、急速凍結技術の導入によりその問題の解決をみるぐらいで、これまでに画期的な技術の開発をみることが出来なかった(例えば、特許文献1乃至5参照)。
【0008】
ところで、本発明者らの発明として、砂糖や麦芽糖等と同じ二糖類の仲間でキノコ類に広く存在するトレハロースを用いるものがある(例えば、特許文献6参照)。トレハロースは、近年、澱粉を原料に高純度トレハロースが大量安価に製造できるようになり、良味質の甘味糖質として食品分野で広く利用されるようになった。
【0009】
【特許文献1】特開平10−290685号公報
【特許文献2】特開2000−287617号公報
【特許文献3】特開2000−41573号公報
【特許文献4】特許第2684561号公報
【特許文献5】特許第3083821号公報
【特許文献6】特開2000−262252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、前述の問題を解決するため、先の発明をさらに進展させ、機能性糖質のトレハロースに澱粉変性抑制効果、たんぱく質変性抑制効果、脂質変敗抑制効果があることに着眼し、トレハロースと無機塩類、有機酸類、調味料との組み合わせで、剥きエビの冷凍耐性、歩留まりの向上効果があることを確認した。また、軟体動物のイカ類、例えば、ペルーイカでは、トレハロースと炭酸Naの溶液に浸漬することで、酸味、えぐみを除去し、さらに、調味料との併用によりこの効果が増大することを確認した。
【0011】
魚類由来の食品であるタラの白子においては、トレハロースと炭酸Naとの併用で、冷凍変性抑制効果と変色抑制効果があることを確認した。マグロの心臓の変色に関しては、トレハロースと炭酸Naとの併用で、ミオグロビンの酸化を抑制すると共にヘムたんぱく質の冷凍変性抑制効果があることを確認した。
【0012】
こうして、本発明者らは、各種糖類、無機塩類および有機酸類のスクリーニングを行うことにより、トレハロースと各種アルカリ塩類の組み合わせで各種魚類の冷蔵、冷凍、乾燥時の経時的な変性ならびに変色を抑制する方法を確立した。本発明によれば、トレハロース、無機塩類、有機酸類ならびに各種調味料との併用により、各種魚類ならびに魚類由来の食品の冷蔵、冷凍、乾燥時の経時的な変性ならびに変色を抑制することができ、さらに、焼く、煮る、油で揚げる等の加工調理を行った際の味の面でも、ジュウシーな食感を維持することができるものである。
【0013】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、冷蔵、冷凍、乾燥時の経時的な変性を抑制することができる食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る食肉のドリップ抑制剤は、ソルビット、トレハロースまたはそれらと他の糖質および/または調味料との組み合わせと、生の塊状食肉のpHをアルカリ側に調整可能なpH調整剤とを含むことを特徴とする。本発明に係る食肉のドリップ抑制剤は、食塩をさらに含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係るドリップ抑制食肉は、前述の本発明に係る食肉のドリップ抑制剤を生の塊状食肉に含有させて成ることを特徴とする。本発明に係るドリップ抑制食肉は、例えば、前述の本発明に係る食肉のドリップ抑制剤を生の節足動物または甲殻動物に含有させて成る。本発明に係る食肉のドリップ抑制剤は、特に、エビ・イカや、魚介類の白子・心臓などの内臓、切り身に効果的である。
【0016】
本発明において、無機塩には、炭酸ナトリウムおよび/または炭酸カリウムが好ましい。本発明において、「生の塊状食肉」は、擂潰した食肉以外の生の食肉を意味し、切断加工していない生の食肉のほか、内臓や切り身であってもよい。本明細書において、「有機酸類」とは、有機酸、そのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を意味する。有機酸類としては、コハク酸およびコハク酸Na等の飽和ジカルボン酸類、リンゴ酸およびリンゴ酸Na等のオキシカルボン酸類、クエン酸およびクエン酸Na等のオキシトリカルボン酸類、乳酸および乳酸Na等のオキシモノカルボン酸類、グルコン酸およびグルコン酸Na等のポリオキシモノカルボン酸類、アスパラギン酸・アスパラギン酸Na・グルタミン酸およびグルタミン酸Na等のアミノ酸類を使用することができる。
【0017】
本発明において、pH調整剤は、もとのpHよりアルカリ側に調整可能なものであれば、調整後のpHが酸性であってもよいが、望ましくは、調整後のpHを7を越え10未満、望ましくは7.5を越え9.5未満の範囲のアルカリ性にするものであることが好ましい。
【0018】
本発明において、他の糖質は、例えば、グルコース、マルトース、ラクトース、フラクトースなどの還元糖であっても、砂糖(スクロース)、ラフィノースなどの非還元糖であっても、さらには、マンニット、ラクチトール、マルチトールなどの糖アルコールであってもよい。しかしながら、本発明で使用する糖質としては、トレハロースが特に好ましく、ソルビットまたはソルビットとトレハロースとの組み合わせも好ましいが、製造コストの面からは、トレハロースと、ソルビットおよび/または砂糖との組み合わせが好ましい。
【0019】
トレハロースには、α,α体が好適に使用される。トレハロースは、タンパク質変性抑制作用を発揮し、この発明において有利に用いることができる。トレハロースは、全体として有効量含まれてさえいれば、その調製方法、性状及び純度は問わない。トレハロースは、種々の方法で調製することができる。
【0020】
この発明はトレハロースの調製に関するものではないので詳細な説明は割愛するけれども、経済性を問題にするのであれば、特開平7−143876号公報、特開平7−213283号公報、特開平7−322883号公報、特開平7−298880号公報、特開平8−66187号公報、特開平8−66188号公報、特開平8−336388号公報及び特開平8−84586号公報のいずれかに開示された非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素を澱粉部分加水分解物に作用させる方法が好適である。この方法によるときには、廉価な材料である澱粉から、トレハロースのα,α体が高収量で得られる。ちなみに、斯かる方法により調製された市販品としては、食品級トレハロース粉末(登録商標『トレハ』、純度98%以上、株式会社林原商事販売)及び食品級トレハロースシロップ(登録商標『トレハスター』、純度28%以上、株式会社林原商事販売)がある。
【0021】
なお、トレハロースのα,α体は、例えば、特開平7−170977号公報、特開平8−263号公報及び特開平8−149980号公報のいずれかに記載されたマルトース・トレハロース変換酵素を作用させるか、あるいは、公知のマルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼを組合わせて作用させることによっても得ることができる。
【0022】
なお、この発明においては、トレハロースは必ずしも単離されておらずともよく、調製方法に特有な他の糖質との未分離組成物としての形態、あるいは、この発明の目的を逸脱しない範囲で、他の適宜物質との混合物としての形態であってもよい。pH調整剤は、無機塩であっても、有機酸塩であってもよいが、炭酸塩などの無機塩、特に、炭酸ナトリウムおよび/または炭酸カリウムが好ましい。この場合、炭酸ナトリウムおよび/または炭酸カリウムは、ソルビット、トレハロースまたはそれらと他の糖質との組み合わせの重量に対し、0.05重量%乃至10倍重量の範囲で含まれることが好ましく、1乃至5重量%の範囲で含まれることが特に好ましい。本発明において、高甘味度甘味料とは、ソルビットやトレハロースより甘味度の高い甘味料を意味し、例えば、砂糖が好適に用いられる。本発明において、乾燥した食肉は、塩乾であっても、一夜干しであってもよい。
【0023】
本発明に係る食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉は、さらに乳化剤を含んでもよい。乳化剤には、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。乳化剤は、pH調整剤に対し10重量%乃至10倍重量の範囲で含まれることが好ましく、等量乃至2倍重量の範囲で含まれることが特に好ましい。乳化剤は、氷の結晶の生成を抑制することにより、冷凍変性を抑制する効果をもたらす。
【0024】
また、本発明に係る食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉は、配糖体甘味料を含んでもよい。配糖体甘味料には、例えば、グリチルリチン酸ナトリウム塩、甘草エキス、ステビア甘味料などを使用することができる。配糖体甘味料は、pH調整剤が呈する塩味の塩カドをとることを主な使用目的として利用され、他に甘味付けや乳化安定作用の目的にも利用される。なお、本発明に係るドリップ抑制剤は、歩留り向上剤として取り扱われてもよい。
【0025】
本発明に係る食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉は、さらに他の添加剤として、例えば、コーンスターチ、甘薯澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、大麦澱粉などの澱粉質、グルタミン酸ナトリウム、食塩などの調味料、ソルビン酸などの保存料、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤、グリチルリチン酸ナトリウム塩、甘草エキス、ステビア甘味料などの配糖体甘味料、さらには、必要に応じて、着色料、着香料など1または複数の添加剤を含有せしめてもよい。乳化剤は、食肉に対し0.01乃至1重量%の範囲で含有せしめることが好ましく、特に0.1乃至0.2重量%の範囲で含有せしめることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る食肉のドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉によれば、冷蔵、冷凍、乾燥時の経時的な変性を抑制することができる。本発明に係るドリップ抑制剤およびドリップ抑制食肉によれば、生の塊状食肉のドリップを抑制することができる。
【実施例1】
【0027】
〔剥きエビに対する効果〕表1に示す処方の水溶液200重量部に剥きエビ100重量部を4時間浸漬し、その後、水切りを行い、エビの重量を計り、膨潤率を求めた。トレハロースには、本実施例1および後述の実施例2乃至7を通じて、食品級トレハロース粉末(登録商標『トレハ』、純度98%以上、株式会社林原商事販売)を用いた。その後、−30℃にて24時間凍結を行い、その際のたんぱく質の変性の程度を肉眼で評価した。なお、膨潤率は、式1により求めた。官能評価は、表2に示す5点法により行った。試験結果を表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【数1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表3から、試験区−1,2では、対照区に比べて、ドリップが防止され、膨潤度が高いことがわかる。
【実施例2】
【0033】
〔ペルーイカに対する効果〕冷凍ペルーイカを解凍後、耳、足を裁断し、かごに入れて表4に示す処方の水溶液に10時間浸漬した後、水切りを行い、その後24時間凍結を行った。24時間凍結後、解凍し、加熱を行い、食感について官能評価を行った。また、その際の加熱後のドリップの出方について肉眼的な観察で評価を行った。評価は、フライパンにて焼いた際の加熱後のドリップについての評価を肉眼的に行うと共に、食感、味について官能試験により行った。試験結果を表5に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
表5から、試験区−1,2では、対照区に比べて、ドリップが抑制され、食感が柔らかく、えぐみが弱まって味が改善されることがわかる。
【実施例3】
【0037】
〔タラ白子に対する効果〕市販のスケソウダラ白子に対して、表6に示す処方でトレハロ−ス、トレハロ−ス+炭酸Naをまぶした後、室温にて15分放置後、ー30℃の冷凍庫にて凍結した。明ばんと併用する場合には、スケソウダラ白子を5%明ばんに10秒間浸漬後、同様の操作を行った。効果の確認については、24、96、360時間凍結後、解凍し、効果の確認を行った。効果の確認は、pH測定、歩留り率の測定、官能検査により行った。
【0038】
pH測定は、白子10gに対して水90gを加え、ホモジナイズを行い、pHメーターにて測定することにより行った。歩留まり率の測定は、凍結前の重量と解凍後の重量を測定し、凍結による乾燥減量を測定して行った。歩留まり率は、式2により求めた。官能検査は、解凍後の白子について3%食塩水にて1分間ボイルを行い、冷却後に行った。官能検査は、外観、色、味、香り、食感について下記に示す評価基準にてパネル5名にて行い、その平均値を取り評価した。評価は、(良い:+1、普通:0、悪い:−1)で示した。白子の凍結貯蔵中のpH測定結果を表7に、白子の凍結貯蔵後の歩留まり量の経時変化を表8に、白子の官能評価を表9に示す。
【0039】
【表6】

【0040】
【数2】

【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【0044】
表8から、特に、試験区−(4)および(8)では、対照区に比べて、ドリップが抑制されることがわかる。表9から、特に、試験区−(4)では、対照区に比べて、外観、色、味、香り、食感に対する官能評価が高いことがわかる。
【実施例4】
【0045】
〔ヨーロッパ産マダラ白子に対する効果〕マダラの白子に対して、表10に示す処方でトレハロ−ス、トレハロ−ス+炭酸Naをまぶした後、ー30℃の冷凍庫にて凍結した。明ばんと併用する場合には、それぞれの処理を施す前後に処理を行った。凍結後、効果の確認を行った。効果の確認は、たんぱく質の変性度の測定、pHの測定および官能検査により行った。たんぱく質の変性度の測定については、まず、白子10gに対して3%食塩水90gを加え、ホモジナイズ処理を行った。その後、200mlメスシリンダーに分注し、5℃の冷蔵庫にて一晩放置後、その上澄み液の濁度を610nmにて測定して求めた。
【0046】
pHの測定は、白子10gに対して3%食塩水90gを加え、ホモジナイズ処理を行った溶液のpHをpH測定器にて測定して行った。官能検査は、パネル5名により、解凍後の白子を煮物用調味液を加えて20分間加熱を行い、冷却後、外観(色の程度)、食感について5点評点法にて評価することにより行った。評価は、官能的に良好と判断される検体の上位3位までの順位付けを行うことにより行った。表11に評価基準表を示す。白子たんぱく質の変性度合、白子のpHの測定結果(凍結後90日)を表12に示す。白子の官能評価結果(凍結貯蔵後90日、パネル5名)を表13に示す。
【0047】
【表10】

【0048】
【表11】

【0049】
【表12】

【0050】
【表13】

【0051】
表12から、特に、試験区−(8)では、対照区に比べて、濁度が小さいことがわかる。表13から、特に、試験区−(2)、(3)、(9)では、対照区に比べて、色、食感、口溶けなどの官能評価が高いことがわかる。
【実施例5】
【0052】
〔マグロの心臓に対する効果〕マグロの心臓の重量に対して、表14に示す処方で、トレハロース+炭酸Na、トレハロースの溶液をそれぞれ等量部加え、冷蔵庫(5℃)にて17時間浸漬後、−30℃の冷凍庫にて凍結保存した。なお、いずれの試験区も前処理として流水洗滌を30秒間行った。凍結保存後、官能評価、色調の測定およびpH測定を行った。官能評価は、各処理を施した凍結貯蔵後(120日)のマグロの心臓を解凍後、マグロの心臓,浸漬液の色調を肉眼的に観察することにより行った。官能評価基準は、3.0:極めて鮮紅色が強い、2.0:やや黒ずんだ赤色、1.0:黒ずんだ色(赤色感がない)とした。
【0053】
また、ミオグロビンの酸化状況について分光光度計にて最大吸収値を示す波長を調べた。色調の測定は、凍結後の侵漬液の色調を、色調測定器(ミノルタ製のデータ.プロセッサDP−300)を用いてL値、a値、b値を測定して行った(L値:白色度の値を示す、a値:赤色度の値を示す、b値:緑色度の値を示す。)。pH測定は、浸漬液およびマグロの心臓について行った。マグロの心臓のpHは、心臓10gを精秤し、水90mlを加えてホモジナイズした後の溶液ついて測定した。さらに、凍結後のマグロの心臓の重量、浸漬量について、マグロの心臓の重量、浸漬液の量で測定した。それらの結果を表15に示す。
【0054】
【表14】

【0055】
【表15】

【0056】
実施例5において、ミオグロビンの酸化状況について調べた結果、トレハロース+炭酸Na使用区は、浸漬溶液の最大吸収値が未処理区に比べて長波長に位置し、マグロの肉色が赤色を維持していることが確認された。この現象がpH効果によるものか、トレハロース+炭酸Naとの併用により特異的な現象としてみられたのかを検討した。
【実施例6】
【0057】
〔マグロの心臓に対する効果〕マグロの心臓の重量に対して、表16に示す処方で、トレハロース+炭酸Na、トレハロースの溶液をそれぞれ等量部加えて、冷蔵庫(5℃)にて17時間浸漬後、−30℃の冷凍庫にて凍結保存した。なお、いずれの試験区も前処理として流水洗滌を30秒間行った。その後、ミオグロビンの酸化状況の確認を行った。ミオグロビンの酸化状況の確認は、各浸漬液を3000×gで20分遠心処理後、酸剤として0.1N塩酸、10重量%乳酸を用い、アルカリ剤として、0.1N苛性ソーダ、10%炭酸Naを用いて、所定のpHに調整し、その後、分光光度計にて最大吸収値の波長を調べて行った。アルカリ剤、酸剤にてpHを調整した場合の各検体区の最大吸収値(nm)を表17に示す。
【0058】
表17に示すように、対照区、トレハロース5%区ではpHをアルカリ側に調整しても最大吸収値の波長は長波長にシフトせず、マグロの肉色が赤色を維持する現象が単なるpH効果によるものではないことが解った。すなわち、トレハロースと炭酸Naの併用処理を凍結前に施すことにより、メト化の抑制が可能であることが解った。この現象は、pHを酸性側にシフトさせても、いったんメト化を抑制すれば、赤色の程度が低下することはなく、無機酸、有機酸に関係なく色調の安定を保つ結果を示した。
【0059】
【表16】

【0060】
【表17】

【実施例7】
【0061】
〔切り身に対する効果〕表18に示す処方の水溶液のpHを、10%炭酸Naで6.5乃至11.0の範囲に調整し、浸漬液とした。本浸漬液に、ブリ、タラの切り身を5℃で2時間、(切り身:浸漬液=1:1)の比率で浸漬した後、水切りを行い、−20℃にて2週間凍結を行った。その後、常温にて解凍を行い、各切り身の歩留まり量の測定ならびに官能評価により、効果の確認を行った。
【0062】
歩留まり量の測定は、各試験区にて処理した切り身の歩留まり量を生の切り身の重量(A)とし、各浸漬液にて処理後、凍結(−20℃:2週間)した後、常温にて解凍した時の重量(B)との差を求めることにより行った。官能評価は、各試験区にて処理した切り身(3ケ)を常温解凍後、フィッシュロースター(株式会社イワタニ製フィッシュロースターIFR−130:両面焼きグリル)にて8分間焼成し、次に、60分冷却したものについて行った。官能評価は、パネル5名にて塩味、食感、外観、臭い、総合評価(好み)について7段階評価法にて行い、その平均値にて結果を求めた。評価基準を表19に示す。浸漬液pHとトレハロースの影響の結果を表20に示す。
【0063】
【表18】

【0064】
【表19】

【0065】
【表20】

【0066】
表12から、試験区−(3),(4),(5)では、生、試験区−(1),(2)に比べて、歩留り率が良好で、官能評価が高いことがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビット、トレハロースまたはそれらと他の糖質および/または調味料との組み合わせと、生の塊状食肉のpHをアルカリ側に調整可能なpH調整剤とを含むことを特徴とする食肉のドリップ抑制剤。
【請求項2】
食塩をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の食肉のドリップ抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の食肉のドリップ抑制剤を生の塊状食肉に含有させて成ることを特徴とするドリップ抑制食肉。
【請求項4】
請求項1または2記載の食肉のドリップ抑制剤を生の節足動物または甲殻動物に含有させて成ることを特徴とする請求項3記載のドリップ抑制食肉。
【請求項5】
請求項1または2記載の食肉のドリップ抑制剤を含む水溶液に魚介類を浸漬することを特徴とする魚介類の加工方法。
【請求項6】
前記水溶液がトレハロース、炭酸ナトリウムおよび食塩を含むことを特徴とする請求項5記載の魚介類の加工方法。
【請求項7】
前記水溶液がpH7.5を越え9.5未満の水溶液であることを特徴とする請求項5記載の魚介類の加工方法。
【請求項8】
前記魚介類が、マグロ、サバ、マダイ、ブリ、タラ、イカ、タコ、エビ、カニ、ウニ、ナマコ、ホタテ、カキ、タラコ、かずのこ、いくら、すじこ、白子またはフカヒレであることを特徴とする請求項5、6または7記載の魚介類の加工方法。


【公開番号】特開2008−289503(P2008−289503A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223527(P2008−223527)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【分割の表示】特願2001−47802(P2001−47802)の分割
【原出願日】平成13年2月23日(2001.2.23)
【出願人】(591219566)青葉化成株式会社 (21)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】