説明

食肉植物を用いた組換えタンパク質の生産のための方法

本願は、食肉植物の栽培を含む、少なくとも1つのタンパク質を生産するための方法であって、該植物が該タンパク質またはタンパク質群を発現するように遺伝子改変されており、該タンパク質またはタンパク質群が、該食肉植物トラップの消化分泌液、特にグルー、嚢状葉、トランペット状葉または嚢トラップから収集されることを特徴とする方法の提供に関する。対象となる前記タンパク質は、消化酵素の存在にもかかわらず、機能的である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、食肉(carnivorous)植物または食虫(insectivorous)植物の栽培を含む、少なくとも1つのタンパク質を生産するための方法であって、該植物が該タンパク質またはタンパク質群を発現するように遺伝子改変されていることを特徴とする方法に関する。
【0002】
今日、タンパク質は治療分野または診断分野においても実験用試薬としても広く用いられる分子種である。そのため、既存の組換えタンパク質生産方法を改善するため、またはより効率的な新規生産システムを開発するために多くの試みがなされてきた。
【0003】
組換えタンパク質を生産するための通常のシステムでは、遺伝子改変することができる様々な種類の生存生物:微生物(細菌、酵母、真菌)、培養哺乳類細胞、培養昆虫細胞、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を必要とする。
【0004】
トランスジェニック植物系には利点がある。特に、既知病原因子は植物と動物の両方に感染し得ないため、トランスジェニック植物系はより高い生物学的安全を提供する。加えて、これらのトランスジェニック植物を栽培することによって大規模生産が可能である。また、他の工業生産システムよりも安価でもあり得る。また、トランスジェニック植物を用いることで、1以上の翻訳後成熟プロセスを受けたタンパク質を生産することも可能になる。最後に、現在の植物バイオテクノロジーでは、対象となるタンパク質が蓄積するであろう組織、例えば容易に接近可能なその葉またはその種子、を具体的に対象とすることができる。
【0005】
組換えタンパク質の発現は、一般に葉および種子に向けられる。葉は合成に多くの可能性を提供する(1)。そのため、例えば、遺伝子改変されたタバコがヒトヘモグロビンの生産に用いられる。しかしながら、葉には除去することが難しい不要物質(タバコ葉中に存在するポリフェノール)が含まれることがある。加えて、組換えタンパク質は、急速に劣化するため、これらの葉から迅速に抽出しなければならない。
【0006】
また、組換えタンパク質が蓄積する、水分含有量が少ないより安定した環境であるため、種子も貯蔵組織として用いられることがある。そのため、例えば、遺伝子改変されたトウモロコシが胃リパーゼの生産に用いられる。種子には、主に、合成能力の低さと、導入遺伝子が他家受粉によって分散される危険性を伴う開花を待つ必要性から限界がある。
【0007】
いずれにしても、トランスジェニック植物の葉または種子において組換えタンパク質を生産するこれらのシステムの主要な欠点は、葉であれ種子であれ、植物組織から組換えタンパク質を分離するためには困難な抽出/精製段階が必要であるという事実につながる。実際、組換えタンパク質は植物組織マトリックスに挿入され、それによって抽出および精製が困難になり、また、このステップは均質化後の急速なタンパク質分解のために可能な限り迅速に実施しなければならない(2)。それゆえ、この最後のステップは、トランスジェニック植物を用いて組換えタンパク質を生産するための現行のシステムの利点を制限する。従って、トランスジェニック植物を用いた現行の生産システムの利点を有するが、特に組換えタンパク質の抽出/精製を大幅に単純化することによって、それらの不利点を可能な限り制限する生産システムが真に求められている。
【0008】
食肉植物は、餌を捕獲することができ、食肉植物の窒素要件の一部を得るためにその餌の全てまたは一部を同化することができる植物である。栄養素のない環境に生息することが多いこれらの植物は、光合成に必要であるために空気から二酸化炭素を固定し、根を介して水および無機塩を吸収する能力の他に、それらの植物に追加の窒素をもたらす餌を様々な方法で捕獲するように作用するトラップを様々な種類の葉に発達させた。トラップの作用形態および方法が様々であるにもかかわらず、食肉植物のトラップは、事実上効率的な餌消化およびその同化を可能にする消化酵素を含む液体を産生するという共通した特徴を有する。
【0009】
食肉植物には、発現させ、消化酵素をトラップに輸送するシステムが存在し、そのトラップでは、事実上粘稠で粘着性の液体中に存在するこれらの消化酵素が直接入手可能であり、精製が容易である。加えて、トラップからの消化液の収集は、食肉植物を破壊せずに実施することができ、そのため生産を続けることができる。ある特定の属において、ある特定の事前準備を条件として、植物を非無菌環境において栽培したときでさえ、消化液の収集は無菌条件下で実施され得る。最後に、トラップ中での消化液の排出は、トラップにかかった昆虫が存在することによる化学的刺激あるいは機械的刺激によって誘導され得る。この化学的刺激は、有機窒素、リン酸塩、塩化ナトリウム、ゼラチン、サリチル酸、またはキチン質を含有する溶液の適用に置き換えることができる(3,4)ため、消化液からの精製タンパク質の生産を簡単に増大させる可能性がある。
【0010】
そのため、様々な文献に食肉植物タンパク質の精製が記載されている。EPOO19808(5)には、癌治療における食肉植物消化液の使用が記載されている。同様に、WO9942115(6)には、ある特定の疾患に関与するキナーゼタンパク質を阻害するための食肉植物消化液の使用が記載されている。WO02057408(7)には、製薬学的用途(抗真菌薬)または農学的用途(隠花植物疾患予防(anti-cryptogamic diseases))でのウツボカズラ属(Nepenthes)食肉植物の葉汁中に自然状態で見出されるタンパク質であるキチナーゼの使用が記載されている。それでもやはり、これらのどの文献においても、生産および精製されるタンパク質は食肉植物の天然内因性タンパク質である。食肉植物は遺伝子改変されていないため、組換えタンパク質は産生されていない。これらの特許には、自然条件下でこれらの食肉植物中にすでに存在するもの以外の食肉植物由来タンパク質を産生する可能性が一切記述されていない。
【0011】
さらに、Hirsikorpi et al.による論文には、ルシフェラーゼ遺伝子を有するアグロバクテリウム属(Agrobacterium) ベクターによるモウセンゴケ(Drosera rotundifolia)の形質転換が記載されている(8)。それでもやはり、前記植物の葉の表面で見出される液中にルシフェラーゼタンパク質が存在することを示す結果は一切なかった。
【0012】
実際には、ある特定のタンパク質だけが食肉植物の消化液に輸送される。食肉植物によるタンパク質排出プロセスはいくつかの解剖学的説明の対象とされてきた(9)。形式的証明はないが、すでに他の植物でそうであるように(10)、葉分泌物の産生は小胞体(ER)からのゴルジ小胞の産生の増加によるものであるというのは正しいと思われる。それでもやはり、ER内部にタンパク質が存在することでそのタンパク質が食肉植物によって排出されるということは保証されない。
【0013】
一般に、最近の刊行物にタンパク質の位置に関して予期せぬ結果が記載されていることがある。それゆえ、タンパク質が、アドレッシングシグナルなしにあるいはERへのアドレッシングシグナルによって、食肉植物のトラップの消化分泌液中で検出されるのに十分な量で排出されることを保証するものは何もない。この理由で、現在まで、食肉植物トラップの消化分泌液中にすでに自然に存在しているタンパク質しか精製されていない。組換えタンパク質をトラップ中に排出する遺伝子改変食肉植物を生む可能性を記載または示唆した文献はなかった。
【0014】
加えて、食肉植物トラップ中に分泌される消化液は、プロテアーゼ、ペルオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、エステラーゼ、酸性ホスファターゼ、キチナーゼおよびグリコシラーゼなどの消化酵素を含む。消化酵素、特にプロテアーゼをトラップ中に分泌するこの自然能力は、これらのプロテアーゼの存在によって誘導される分解の危険性から、トラップ中への分泌によって組換えタンパク質を産生するための障害となると推測される。
【0015】
しかし、本発明者らは、驚くべきことに、外因性組換えタンパク質を発現する遺伝子改変食肉植物を生みだすことができ、かなりの量の外因性組換えタンパク質がトラップ中の消化分泌液中で検出できることを発見した。加えて、本発明者らによっていくつかの異なる組換えタンパク質において実施された試験では、それゆえ消化酵素によって著しく分解されない機能タンパク質を単離することができることが示された。本発明者らは、予想に反して、組換え外因性タンパク質を発現するように食肉植物を遺伝子改変することによって、食肉植物の消化分泌液中において十分な量でこの組換えタンパク質を検出することができ、消化酵素の存在にもかかわらず、このタンパク質を機能的形態で精製することができることを示した。組換えタンパク質のトラップへの輸送および消化酵素による分解に関する問題が克服された今、この生産システムはトラップの消化分泌液からの組換えタンパク質の収集に関して数多くの利点を与える:
【0016】
食肉植物を破壊せず、収集によって著しく損傷することもないため、後の他の収集のために成長させ続けることができ;
【0017】
トラップは自然に容易に接近可能な器官であり、消化分泌液の容易収集が可能になり;
一部の食肉植物、特に嚢状葉(pitchers)または嚢(bladders)の形態のトラップを有するものでは、かなりの量の消化分泌液が産生され、外部環境に対して閉鎖されているトラップ中に排出される;このトラップは、餌を消化する準備ができて初めて外部環境に対して開く。たとえ食肉植物を非無菌環境において成長させたとしても、そのトラップの準備期間中に、消化液は天然に無菌条件下で排出される。トラップが開く前に消化分泌液を収集し、いくつかの事前準備をすることを条件として、組換えタンパク質の収集はある特定の生産方法において無菌条件下で行うことができる。
【0018】
精製すべき組換えタンパク質が、固形植物組織(葉または種子など)中ではなく植物体外部の液体媒質中に存在するという事実によって、組換えタンパク質の精製段階は大いに単純化され;
【0019】
最後に、このシステムは、餌が存在することを擬態する機械的シグナルおよび/または化学的シグナルによって消化液の排出を増加させることができるということから生じ得る。
【0020】
本発明は、食肉植物の栽培を含む、少なくとも1つのタンパク質を生産するための方法であって、該植物が該タンパク質またはタンパク質群を発現するように遺伝子改変されていることを特徴とする方法に関する。
【0021】
好ましい実施形態では、前記方法は、前記タンパク質またはタンパク質群が前記食肉植物トラップの消化分泌液から収集されることをさらに特徴とする。
【0022】
用語「食肉植物」とは、トラップ中への消化酵素の発現および輸送システムを用いて、動物性餌(動物界からのいかなる種類の餌もこの定義に含まれる)を捕獲し、消化することができる任意の植物を意味する。通常、前記動物性餌は昆虫である(前記植物はより正確には食虫植物と呼ばれる)が、小型齧歯類または両生類動物、あるいは水生食肉植物の場合には小型水生動物も、ある特定の食肉植物のトラップにかかり得る。よって、本明細書における用語「食肉植物」とは、トラップ中への消化酵素の発現および輸送システムを有するあらゆる種類の食肉植物、特に、限定されるものではないが、食虫植物を含む。その一方で、トラップ中への消化酵素の発現および輸送システムを有する食肉植物だけが本発明の意味に含まれる。特に、消化酵素の分泌のないある特定の属の植物は、消化酵素を分泌する該植物外部の微生物の存在によって補われ、通常は食肉植物とみなされるが、本発明の意味においては食肉植物とみなされない。よって、ブロッキニア属(Brochinia)、カトプシス・ベルテロニアナ(Catopsis berteroniana)、イビセラ・ルテア(Ibicella lutea)、ヘリアンフォラ属(Heliamphora)、およびダーリングトニア属(Darlingtonia)は、本発明の意味においては食肉植物であるとみなされない。
【0023】
これまでに示したように、食肉植物は、トラップの消化液中に排出されるタンパク質の存在から興味深いものである。これらのタンパク質は植物組織内に挿入されず、少なくともある特定の場合においては、しばらくの間、その植物によって無菌形態で保存されることから、直接入手可能であり、精製が容易である。
【0024】
これらの利益を享受するために、前記植物によって発現された組換えタンパク質も前記植物のトラップ中に排出させなければならない。よって、本発明による方法では、前記タンパク質またはタンパク質群は、有利には、前記植物の細胞中で発現され、前記植物の天然タンパク質を排出する自然システムによって排出される。
【0025】
このようにして、前記遺伝子改変食肉植物によって発現された組換えタンパク質またはタンパク質群は、前記植物トラップの消化分泌液から容易に収集することができる。
【0026】
用語「遺伝子改変された植物」とは、遺伝子または遺伝子断片が挿入されている植物を意味する。従って、これには、対象となる遺伝子または遺伝子断片の発現ベクターで形質転換されている植物であって、この植物においてこの遺伝子または遺伝子断片の発現が可能な植物が含まれる。前記植物に完全にまたは部分的に挿入される対象となる遺伝子は、前記植物によって自然には発現されない外因性遺伝子であってよく、または前記植物によってすでに自然に発現されているが、前記植物内でその発現を増加することが望まれる内因性遺伝子であってよい。
【0027】
特に、本発明による方法の有利な実施形態では、栽培される前記食肉植物は、アグロバクテリウム属、バイオリスティック(biolistics)、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションでの形質転換によってあるいはウイルスベクターの使用によって遺伝子改変されている。
【0028】
アグロバクテリウム属を用いた植物の形質転換は当業者に周知の技術である。簡潔には、植物における病原微生物であるAgrobacterium tumefaciensは、20世紀初期から知られている。A. tumefaciensは、その腫瘍誘発プラスミド(Ti)由来の特定のDNAセグメント(T−DNA)を感染植物細胞の核に移入する特別な自然能力を有し、そこでそのDNAセグメントは宿主ゲノムに安定的に組み込まれ、転写され、根頭癌腫病を引き起こす。T−DNAの断片には、移入器官のシス調節エレメントシグナルとして作用する25塩基対(bp)の直接反復配列がフランキングする。実際には、これらのT−DNA境界間に配置されている全ての外来DNAが植物細胞に移入され得ることは証明されている。従って、前記病気を引き起こす遺伝子が、特異的に選択されたDNAに置き換えられているアグロバクテリウム属の株を生むことができ、その結果この特異的に選択されたDNAを前記植物のゲノムに安定的に組み込むことが可能になる。
【0029】
植物のバイオリスティック形質転換(Biolistic transformation)は、粒子衝撃とも呼ばれる、宿主ゲノムにDNAを直接放出するために用いられる当業者に周知の技術である。要約すると、関連する遺伝子または遺伝子群を含むプラスミドまたは線状化DNAをタングステンまたは金粒子(マイクロビーズ)に固定し、これらの粒子を宿主細胞内に高速で放出させて、植物細胞核に侵入させる。その核内で前記DNAが担体マイクロビーズから分離し、宿主ゲノム内に組み込まれ得る。粒子衝撃またはバイオリスティックはほとんどの植物種の組織を形質転換するために用いることができる。
【0030】
電気インパルスを使用する当業者に周知のプロトプラストのエレクトロポレーション技術も植物を形質転換するために用いることができる。簡潔には、この技術は、プロトプラストとDNAの混合物を一連の高電圧短電気ショックに付すことからなる。その電場によって、原形質膜を形成しているリン脂質の分極により原形質膜が不安定になり、その結果DNA分子が通過することができる孔が形成される。電気ショックをあまり激しくしない場合には、その現象は可逆的であり、原形質膜はその最初の状態に戻り、プロトプラストを完全に生存させる。
【0031】
マイクロインジェクション技術は、選択されたDNAを、顕微鏡下でマイクロピペットまたはマイクロシリンジを用いて、プロトプラストの核に直接注入することからなる。
【0032】
ウイルスベクターも形質転換に用いることができる。当業者に周知のこの技術は、ゲノム中に二本鎖DNAを有する植物ウイルスを用いることからなり、そのゲノム内では病原遺伝子が不活性化され、対象となる遺伝子が挿入されている。従って、植物は改変ウイルスの感染によって形質転換される。
【0033】
形質転換は、有利にはAgrobacterium tumefaciensを用いて、バイオリスティックによって、最も一般的に使用されている技術であるエレクトロポレーションによって実施されている。
【0034】
用語「タンパク質」とは、アミノ酸骨格を含むいかなる種類の高分子も意味すると考えられる。そのため、この用語には、完全タンパク質だけでなく完全タンパク質のサブユニットまたは断片に相当するペプチドまたはポリペプチドも含まれ、そのペプチドまたはポリペプチドが既知タンパク質の断片に相当しない場合でも、そのペプチドまたはポリペプチドがかかる断片の変異体(参照断片に対して突然変異を有する)であるか、作出したペプチドまたはポリペプチドであるかには関係なく対象となる任意のペプチドまたはポリペプチドも含まれる。特に、本発明の意味において、タンパク質には、自然状態では存在しない改変アミノ酸が含まれ得る。同様に、ペプチド結合も改変されていてよい。加えて、本発明の意味におけるこの用語タンパク質は、グリコシル化、リン酸化またはメチル化による翻訳後修飾の任意存在も含む。
【0035】
加えて、本発明による方法によって生産されるタンパク質は、あらゆる分野の人間活動において有用であり得る。特に、前記タンパク質は、獣医用またはヒト用の医薬品、化粧品、植物用医薬品(phytopharmaceutical agent)、診断薬、栄養補助剤または実験用試薬から選択され得る。
用語「医薬」タンパク質とは、ヒト疾患または獣医学的疾患を治療するための製造承認を受けた任意のタンパク質を意味する。かかる医薬タンパク質には、特にタンパク質ホルモン(性ホルモン、成長ホルモンなど)、酵素、抗体(特にモノクローナル抗体)などが含まれる。
【0036】
用語「化粧品」タンパク質とは、ヒト身体外部、特に皮膚もしくは毛髪、を洗浄し、良好な状態に保ち、または装飾することができる任意のタンパク質を意味する。化粧品タンパク質の例としては、スキンケアに用いられるコラーゲン、ボツリヌス毒素およびヘビ毒タンパク質が挙げられる。
【0037】
用語「植物用医薬品」タンパク質とは、あらゆる有害生物から植物または植物生成物を守り、あるいはあらゆる有害生物の活動を妨げる任意のタンパク質を意味し、このタンパク質には、特に、殺虫剤;植物の生命過程に、例えばそれらの成長を増加または減少させることによって作用する任意のタンパク質;あるいは植物生成物を保存する任意のタンパク質が含まれる。
【0038】
用語「診断薬」タンパク質とは、対象において特定の疾患または状態の有無を決定するin vitroまたはin vivo試験に関与する任意のタンパク質を意味する。かかる診断薬タンパク質には、特に:
サンプル中での出現が疾患の存在を示すタンパク質に対する抗体、例えば、微生物または癌を検出することを可能にする病原微生物抗原または腫瘍抗原に対する抗体など;
疾患が生じたときに特異的に発現されるタンパク質、例えば、対象におけるこれらのタンパク質に対する抗体の存在の検出、結果として該疾患の診断を可能にする病原微生物のタンパク質など
が含まれる。
【0039】
用語「実験用試薬」タンパク質とは、医学研究所分析または調査に用いられる任意のタンパク質、例えば、特に、抗体、酵素、抗原、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、細胞受容体などを意味する。
【0040】
用語「栄養補助タンパク質」とは、消費者の健康状態を維持するために、その健康上の利益といわれるもののために用いられる任意のタンパク質、例えば特に細胞再生または増殖に対して、中枢神経系、心血管系、アレルギー、および代謝性疾患(肥満症、糖尿病)の予防に対して作用するタンパク質を意味する。
【0041】
本発明による方法において用いられる食肉植物の栽培は、選択された種類の食肉植物の独特の特徴を考慮して、従来の方法で実施される。様々な種類の食肉植物の栽培方法は当業者に周知である。一般に多くの食肉植物は有機物が非常に多く含まれる土壌(例えば泥炭湿原)で成長し、またはつる植物として宿主木上でも成長する(これはウツボカズラ属の場合である)。タヌキモなどの水生生物もある。食肉植物の栽培についての一般プロトコールは、Juniper et alによる著書(11)に記載されており、当業者ならばこのプロトコールをそれぞれの特定の植物に容易に適合させることができる。
【0042】
タンパク質を排出するための食肉植物の自然システムを用いることに関するこれまでに述べた利点の1つは、該システムが、餌が存在することを擬態する機械的シグナルおよび/または化学的シグナルによって誘導され得るということである。よって、本発明による方法の有利な実施形態では、前記植物は、餌捕獲を擬態しかつ前記植物がタンパク質を産生し、それらを前記トラップ中に排出する前記システムの活性化を誘導する化学的刺激および所望により機械的刺激に付される。かかる化学的刺激には、とりわけ、有機窒素、リン酸塩、塩化ナトリウム、ゼラチン、サリチル酸、またはキチン質を含有する溶液の適用も含まれ得る(1,2)。しかし、前記植物は、餌捕獲を擬態しかつ前記植物がタンパク質を生産し、それらをトラップ中に排出する前記システムの活性化を誘導する化学的刺激および/または機械的刺激の不在下でも栽培され得る。
【0043】
これまでに示したように、前記トラップの消化分泌液中での対象組換えタンパク質の排出と潜在的に関連がある問題の1つは、これらの分泌物中の消化酵素、特にプロテアーゼの存在に関するものである。これらの消化酵素の存在は、実際には、機能タンパク質の精製に対する障害ではないことを本発明者らが示したという事実は別にして、これらの酵素に関する危険性をさらに低下させるために、本発明による方法に、前記食肉植物による1以上の消化酵素、特に1以上のプロテアーゼの合成阻害を含めることもできる。よって、本発明による方法の一実施形態によれば、前記方法は、前記食肉植物による1以上の消化酵素の合成阻害をさらに含む。有利には、合成を阻害する前記消化酵素のうちの少なくとも1つはプロテアーゼである。実際、これらは前記トラップ中で排出される組換えタンパク質に損傷を与える可能性が最も高い酵素である。しかし、前記組換えタンパク質を分解し得る他のタンパク質も対象とし得る。例えば、グリコシル化タンパク質の場合では、単独でまたはプロテアーゼと同時に、1以上のグリコシラーゼを対象とすることができる。他の種類の翻訳後修飾に損傷を与える他の酵素も対象とし得る。
【0044】
かかる阻害は部分的または完全なものであり、異なる方法で誘導することができる。
【0045】
まず第一に、かかる阻害を引き起こす遺伝子技術を用いて阻害を誘導することができる。
【0046】
特に、遺伝子を直接標的とすることができ、それらの遺伝子の発現を、とりわけ前記植物のゲノムから前記消化酵素の遺伝子または遺伝子群を欠失させることによってあるいはこれらの遺伝子の転写の停止(「遺伝子サイレンシング」として知られる方法)によって、阻害することが望まれる。
【0047】
前記植物のゲノムからの対象消化酵素または酵素群の遺伝子または遺伝子群の欠失(「ノックアウト」または「KO」としても知られる)は、当業者に現在周知の技術を用いて行われる。
【0048】
サイレンシングによる対象消化酵素または酵素群の遺伝子または遺伝子群の転写スイッチオフには、植物について十分に記載されている一連の技術が含まれる。
【0049】
このように、ウイルス誘導型遺伝子サイレンシング技術(the Virus Induced Gene Silencing technology)(VIGS)では、対象植物遺伝子の短配列の植物ウイルスへのクローニングが必要である。問題の遺伝子断片を含むウイルス感染後数週間で、前記植物の自然防御機構は、前記植物の標的内因性遺伝子に対応するmRNAを特異的に破壊する。この技術を用いて正常植物から、前記ウイルスでの前記植物の全体汚染の原理を用いて、ウイルス感染から3〜4週間以内に、形質転換細胞のin vitro再生を行わずに、標的遺伝子を迅速にサイレンシングする(12)。
【0050】
同時欠失によっても標的遺伝子の発現を特異的にスイッチオフすることができる。このスイッチオフ(switching off)は、構成的プロモーターもしくは誘導プロモーターまたは組織特異的プロモーターの制御下で標的遺伝子を定められた植物に再挿入することによって行われる。遺伝子移入には任意の遺伝子形質転換技術(アグロバクテリウム属感染、ウイルスベクター、マイクロインジェクション、バイオリスティックなど)を用いることができる。一部の遺伝子形質転換植物では、標的遺伝子によってコードされる特徴または機能の消失が認められる(13)。
【0051】
遺伝子の転写後不活性化も、干渉RNA(RNAi(14))の原理を用いて、転写をスイッチオフする遺伝子の断片を対象植物に挿入することにより任意の植物遺伝子形質転換技術(アグロバクテリウム属感染、ウイルスベクター、マイクロインジェクション、バイオリスティックなど)によって行うことができる。
【0052】
対象消化酵素または酵素群の遺伝子または遺伝子群の遺伝子阻害も、前記食肉植物における少なくとも1つのプロテアーゼ阻害遺伝子、すなわち発現が少なくとも1つのプロテアーゼの発現の部分的または完全減少につながる少なくとも1つの遺伝子の異所発現によって間接的に実施され得る。よって、一特定実施形態では、用いられる食肉植物は少なくとも1つのプロテアーゼ阻害遺伝子を発現するようにさらに形質転換され、該形質転換は当業者に公知の任意の技術によって、特にこれまでに記述した任意の技術によって実施される。いかなる種類のプロテアーゼ阻害遺伝子も用いることができる。ほとんどのプロテアーゼは酸性pHにおいて最適酵素活性を有する。例として、ウツボカズラ属植物において知られる2つのプロテアーゼ(エンドペプチダーゼおよびネペンテシン)は、酸性pHにおいて最適活性を有する酵素である(15)。このため、酸性プロテアーゼの発現を阻害することが知られている遺伝子を用いることが有用である。特に、サッカロペプシン(saccharopepsin)の阻害剤をコードする酵母遺伝子IPA3_YEAST(Swissprot受託番号P01094)は、ウツボカズラ属の植物におけるものに近い酸性プロテアーゼの阻害剤をコードすることが知られている。
【0053】
よって、少なくとも1つのプロテアーゼの発現を阻害する本発明による方法の特定の実施形態では、前記食肉植物による1以上のプロテアーゼの合成阻害は、前記植物のゲノムからの少なくとも1つのプロテアーゼ遺伝子の欠失、サイレンシングによる少なくとも1つのプロテアーゼ遺伝子の転写スイッチオフ、および/または少なくとも1つのプロテアーゼ阻害遺伝子の異所発現から選択される遺伝子技術によって実施される。
【0054】
あるいは、前記食肉植物による1以上の消化酵素の合成阻害は、非遺伝子技術を用いて誘導してもよい。特に、前記阻害は、対象消化酵素または酵素群を阻害する溶液を前記トラップ中の消化液に直接加えることによって、あるいは対象消化酵素または酵素群の活性を制限するために消化液のpH条件および/または温度条件を制御することによって誘導してもよい。実際には、ほとんどの酵素の分野において阻害剤は分かっており、ほとんどの酵素は最適なpH条件および/または温度条件を有し、これらの条件の範囲を超えるとそれらの酵素の活性は制限される。従って、前記消化分泌液を阻害剤の存在下にかつ/またはその酵素活性の最適条件の範囲外に置くことによって対象酵素の活性を制限することができる。
【0055】
実際には、前記トラップは容易に接近可能であるため、前記トラップ中の消化液に対象消化酵素または酵素群の阻害剤を含む溶液を加えることができ、これは嚢状葉トラップ(例えばウツボカズラ属)または嚢トラップ(例えばタヌキモ属(Utricularia))を有する植物の嚢状葉または嚢に該溶液を注入することによるか、あるいはグルートラップ(接着トラップ;glue traps)を有する植物(例えばモウセンゴケ属(Drosera genus)の植物)のグルー(接着性物質;glue)に該溶液を噴霧することによる。
【0056】
さらに特に、前記プロテアーゼに関しては、様々な種類のプロテアーゼ阻害剤を用いることができる。特に、ウツボカズラ属プロテアーゼの活性は、動物および真菌において見出される酸性プロテアーゼ阻害剤:DDE(ジクロロジフェニルジクロロエチレン、(16))によって阻害されることも分かっている。アスパラギン酸プロテアーゼと複合体を形成するStreptomycin testaceusおよび他の放線菌から単離された2つの他の酸性プロテアーゼ阻害剤、DAN(ジアゾアセチル−DL−ノルロイシンメチルエステル)およびペプスタチン(3S,4S−4−アミノ−3−ヒドロキシ−6−メチル−ヘプタン酸)は、ウツボカズラ属の嚢状葉(杯葉(ascidia)とも呼ばれる)の消化活性を完全に阻害する(15,17)。
【0057】
他のプロテアーゼ阻害剤さらには異なるタンパク質を標的とするいくつかのプロテアーゼ阻害剤の混合物は市販されている。これらの混合物は数多くの異なるプロテアーゼ(例えばシステインプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、およびメタロプロテアーゼ、さらにペプスタチン)を阻害し、本発明者らの対象となるタンパク質を保存するためにより一層の保護を提供する。
【0058】
従って、これらの阻害剤の1以上を前記トラップに注入または噴霧される溶液として加えることができる。
【0059】
また、前記消化液の温度および/またはpHを制御することによってトラッププロテアーゼの活性を制限することもできる。実際には、特に、ウツボカズラ属の嚢状葉の消化液から抽出されるプロテアーゼの消化活性は温度とともに増加し、およそ50℃/60℃で最適条件に達することが分かっている(15)。従って、前記嚢状葉の成長時から前記植物をより低い温度に維持することによってプロテアーゼの活性を制限することもできる。有利には、プロテアーゼ活性を制限するために、温度は5〜25℃間であるべきであり、よりよくは5〜20℃間、さらによくは5〜15℃間、好ましくは5〜10℃間であろう。
【0060】
加えて、消化液の酸性化によって消化活性が増加するように、食肉植物の消化液のプロテアーゼ活性は低pHにおいて最適であることが分かっている(15)。消化は、主に、杯葉が若くpHが低いときに腺から分泌される酵素によるものと思われる。しかしながら、老化とともにpHが高まり、微生物が消化の大部分に関与するようになる。Nepenthes villosaでは、例えば、消化液は約4〜5ヶ月活性がある状態にあり、その期間中pHは約2に維持される。その後、pHは急速に6まで上昇する。従って、消化液のpHを制御することによって、特に塩基性溶液を加えること、その溶液を嚢状葉または嚢に注入することあるいはその溶液をグルートラップに噴霧することによって、このことを利用することができる。これによってプロテアーゼ活性が制限される。プロテアーゼ活性はおよそpH2〜3において最適であるため、pHは4または4.5より高く、より有利には5または5.5より高く、一層有利には6または6.5よりさらに高く、好ましくは7または7.5より高く維持すべきである。好ましくは、pHは塩基性すぎるべきではないため、9より低く、有利には8.5より低く、好ましくは8より低く維持すべきである。従って、プロテアーゼ活性を制御するためには、pHは4〜9間であるべきであり、有利には5〜8.5間であるべきであり、より有利には6〜8間、好ましくは7〜8間であろう。
【0061】
本発明による方法の別の可能性ある改善は、小胞体(ER)への輸送を可能にするペプチドシグナル配列を前記タンパク質中に存在させることによって、または前記植物中のSNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性融合タンパク質付着タンパク質受容体)ファミリーのタンパク質の遺伝子を過剰発現させ、ERからゴルジ体へ、その後、ゴルジ体から原形質膜、膜透過経路を介して前記トラップへの輸送を促進することによって、前記組換えタンパク質の前記トラップへの排出を促進することからなる。
【0062】
前記ペプチドシグナル配列に関しては、これまでに示したように、かかるペプチドの存在は、前記トラップの消化液へのエクスポートを可能にするのに必ずしも十分ではないが、前記トラップ中に存在する消化酵素の排出経路がERを通ることから、小胞体に対するペプチドシグナル配列の存在は前記組換えタンパク質の前記トラップへのよりよい輸送に貢献し得ると思われる。よって、本発明による方法の一実施形態では、生産すべき対象となるタンパク質は、小胞体への輸送を可能にするペプチドシグナル配列を含んでなる。かかるシグナル配列は、前記タンパク質中に自然に存在していてよく、またはペプチドシグナル配列を有していないタンパク質に融合されていてもよい。
【0063】
ERの細胞内膜コンパートメント内にアドレッシングするタンパク質は2つの代替機構によって決定される:
【0064】
1/可溶性であるかまたは後に膜に結合される前記タンパク質N末端部におけるシグナル配列の存在。このシグナル配列は、一般に、前記タンパク質がERへ侵入することを可能にする疎水性モチーフを含む。ERへの侵入後、前記タンパク質は、前記タンパク質の最適空間コンホメーションを保証するシャペロンによって管理され得る。
2/膜結合リボソームの助けを借りてER付近で(完全にまたは部分的に)起こり得るmRNAのタンパク質への翻訳。例えば、ある特定のタンパク質の場合、N末端部に数十個のアミノ酸の疎水性シグナル配列が存在する。翻訳プロセス中に、細胞質SRP(シグナル認識タンパク質)はリボソームの表面と結合し、それにより翻訳プロセスが停止する。リボソームと結合したSRP粒子は、それ自体が小胞体膜表面上の受容体と結合する。こうして、前記タンパク質の疎水性シグナル配列はER膜を通過する。翻訳が再び開始し、その後、内腔内で前記タンパク質が放出される(19)。
【0065】
よって、ある興味深いタンパク質の場合、N末端位置において疎水性を有するペプチドシグナル配列を一次配列に付加することによってERへのそのアドレッシングを促進することができる。疎水性N末端モチーフの一例は真核生物P450シトクロムファミリーにおいて見られ、P450シトクロムはER膜上に位置する酵素である(CYP2C5、CYP73A1)。
【0066】
ERからゴルジ体への、その後、ゴルジ体から前記トラップの外部へアドレッシングに関しては、SNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性融合タンパク質付着タンパク質受容体)として知られる、小胞または膜と結合するペプチドモチーフが、SNARE−SNARE型分子相互作用より始まる膜融合機構による植物におけるエキソサイトーシスプロセスに関与すると思われる(18)。特に、ERからゴルジ体へのタンパク質を含有する小胞の輸送を目標とするかかるSNAREペプチドモチーフは、シロイヌナズナ(Arabidopsis)におけるタンパク質において記載されている(18):それらのSNAREペプチドモチーフは、シンタキシン−41ペプチド、シンタキシン−42ペプチド、シンタキシン−43ペプチドのSNAREドメイン(AtSYP41〜43、それぞれのGenbank受託番号:065359、Q9SWH4、およびQ9SUJ1)である。シロイヌナズナの他のSNARE型ペプチドも知られている。それらのSNARE型ペプチドはゴルジ小胞の表面上に存在し、ゴルジ体から原形質膜への輸送(エキソサイトーシス)を決定する;それらのSNARE型ペプチドはシンタキシン−121〜125(AtSYP121〜125、Genbank受託番号:Q9ZSD4、Q9SVC2、Q9ZQZ8、064791、およびQ9SXB0)に相当する。以下の表1において様々なSNAREドメインを要約する。
【0067】
表1.Arabidopsis thalianaで知られているSNAREドメイン
【表1】

【0068】
従って、これら2つのSNAREタンパク質ファミリーの少なくとも1つ、または1以上のSNAREドメインもしくは誘導体を有するタンパク質を過剰発現する遺伝子形質転換食肉植物は、そのER中に存在する前記タンパク質の排出の増加につながるはずである。本発明による方法の一実施形態では、前記栽培食肉植物は、少なくとも1つのSNARE型ドメインを含む少なくとも1つの遺伝子を発現するようにさらに遺伝子改変され、その結果前記トラップ中への対象となるタンパク質またはタンパク質群の排出の増加につながる。「SNARE型ドメイン」とは、表1に示したSNAREドメインの1つと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、さらに100%同一である任意のペプチドモチーフを意味する。特に、表1に記載したSNAREドメインを含む遺伝子は、用いられる食肉植物において過剰発現させることができる。
【0069】
本発明による方法は、いかなる種類の食肉植物に関しても用い得る。食肉植物は、トラップの種類によって異なるカテゴリーに分類することができ、そのため、本発明による方法の実際的な態様はトラップの種類によって異なることがある。異なる種類のトラップに対応する前記方法の様々な特定の有利な実施形態については以下に記載する。
【0070】
特に、用いられる食肉植物の種類、より正確には選択される食肉植物が有するトラップの種類によって、トラップの消化分泌液の収集ステップは様々な好適な方法を用いて行われる。特定のトラップの種類に好適ないくつかの収集方法を以下に記載する。
【0071】
しかしながら、当業者ならは他の実施形態も容易に開発し得るため、本発明による方法を以下に記載する特定の有利な実施形態に限定することはできない。
【0072】
本発明による方法の有利な実施形態において用いることができる食肉植物の第1のカテゴリーは、グルートラップを有する食肉植物のカテゴリーである。
【0073】
用語「グルートラップ」とは、接着性の葉によって形成されたトラップを意味するよう意図されている。これらの葉は餌が離れなくなるグルーまたは粘液と呼ばれる小液滴を分泌する。これらのトラップは、受動的(粘液滴を分泌する葉は動かない)または半能動的(粘液滴を分泌する葉は接触面を増加するために巻き上がるため、よりよい消化が可能となる)であり得る。いくつかの食肉植物属はグルートラップを有する。よって、グルートラップを有する食肉植物を用いる本発明による方法では、前記植物は、モウセンゴケ属、ムシトリスミレ属(Pinguicula)、ビブリス属(Byblis)、ドロソフィルム属(Drosophyllum)、およびトリフィオフィルム属(Triphyophyllum )から選択される。有利には、グルートラップを有する食肉植物はモウセンゴケ属に属する。
【0074】
グルートラップを有するこれらの食肉植物では、前記粘液は開放空気に直接接近可能であり、対象となるタンパク質は、開放空気中に存在するグルーを採取することによって直接得ることができる。よって、トラップからのグルーの採取は、栽培されたグルートラップを有する食肉植物を浸漬、噴霧または洗浄することによって、グルーを布帛(特に任意の種類の紙、例えばブロッティングペーパー)へ吸引または吸収することによって、あるいは栽培されたグルートラップを有する食肉植物からグルーを直接取り出すことによって実施することができる。特に、有利な実施形態では、グルートラップを有する食肉植物は、一連の植物を操作することが可能な固定システムで栽培され、ひっくり返され、それらの地上部が溶液に浸漬される。あるいは、グルートラップを有する食肉植物は、防水性材料で覆われた斜面で栽培され、トラップのグルーは、食肉植物の地上部に噴霧および/または洗浄することによって採取され、得られた溶液は該斜面の下部で収集される。
【0075】
本発明による方法の有利な実施形態において用いることができる食肉植物の第2のカテゴリーは、嚢状葉、トランペット状葉(trumpets)または嚢を有する食肉植物のカテゴリーである。
【0076】
用語「嚢状葉トラップ」とは、蓋(operculum)と呼ばれる一種の覆いが上にある、末端が嚢状葉または杯葉になる葉を意味する。蜜腺によって誘引された餌はトラップに入り、頑強なリングが上にある内壁を滑り;その餌はトラップ中に含まれる液体に溺れる。嚢状葉トラップを有する食肉植物としては、とりわけウツボカズラ属およびセファロタス属(Cephalotus)が挙げられる。
【0077】
用語「トランペット状葉トラップ」とは、筒状トランペット状葉に変容した葉によって形成されたトラップの意味としてみなされる。蜜腺によって誘引された昆虫は、トラップの上部付近にある開口部を介して入る。トラップの内壁は粘稠であるか、または餌がはい出るのを防ぐ逆毛で覆われており、前のケースの場合と同じように最後には餌は溺れることになる。トランペット状葉トラップを有する食肉植物としては、とりわけサラセニア属(Sarracenia)が挙げられる。
【0078】
用語「嚢トラップ」とは、根の長さに沿って並んだ事実上透明な小ポケットまたは嚢から構成される、一端に分岐毛によって囲まれた穴を有するトラップを意味し、餌(多くの場合微小な餌)が分岐毛をかすったときに分岐毛の一部によってトラップの跳ね返りが制御される。嚢は水および餌の両方を吸い込んで突然に(1/500s.)いっぱいになる。その後、その嚢は約1/2時間でその元の形にゆっくりと戻り、そのときまでには餌に逃げる機会はもはやなくなっている。かかるトラップは主としてタヌキモ属に属する種において見られる。よって、有利には本発明による方法において用いられる嚢トラップを有する食肉植物はタヌキモ属に属する。
【0079】
有利には、用いられる食肉植物は嚢状葉トラップを有し、ウツボカズラ属またはセファロタス属から選択される。
【0080】
このケースでも、トランペット状葉トラップを有する植物のケースでも、対象となるタンパク質が排出される消化分泌液は、無菌条件または非無菌条件のいずれかにおいて、容易に採取することができる嚢状葉またはトランペット状葉の下部で液状となる。よって、本発明による方法において用いられる食肉植物が嚢状葉トラップまたはトランペット状葉トラップを有するときには、対象となるタンパク質は、有利には嚢状葉内部で見出される排出液を採取することによって得られる。これは、例えば無菌条件で、嚢状葉を犠牲にすることによってまたは嚢状葉内部の排出液への穿刺を可能にする装置(例えば、シリンジなど)を使用することによって行うことができる。非無菌条件では、消化分泌液は、例えば、ピペットまたはシリンジあるいは好適な任意収集手段を用いて開かれた嚢状葉から収集される。
【0081】
嚢状葉トラップ、すなわち蓋を有するトラップの重要性は、トラップの成長におけるある特定の段階においてその植物によってのみ蓋が開かれるということである。この段階まで蓋は閉じられているため、トラップ中に排出された消化分泌液は無菌条件下にある。かかる植物を用いるときには、蓋が開く前に消化分泌液を採取し、無菌条件下で採取することを条件として、食肉植物によって産生され、トラップ中に排出された組換えタンパク質を無菌形態で収集することができる。よって、有利には、本発明による方法において用いられる食肉植物は、嚢状葉トラップを有し、ウツボカズラ属またはセファロタス属から選択される。このケースでは、それゆえ、嚢状葉内部の液体は有利には食肉植物の嚢状葉が自然に開く前に採取される。特に、嚢状葉内部の液体は、嚢状葉を犠牲にすることによってまたは無菌条件下で嚢状葉内部の液体への穿刺を可能にする装置を使用することによって採取される。
【0082】
嚢状葉トラップに関してもトランペット状葉トラップに関しても、食肉植物によって産生される天然プロテアーゼは嚢状葉またはトランペット状葉の下部で少しずつ蓄積する。消化酵素による対象タンパク質の分解の危険性を制限するために、嚢状葉内部の液体は、有利には食肉植物によって産生される天然プロテアーゼがその液体中に大量に蓄積されていない食肉植物の成長段階において採取される。当業者ならば、各種類の植物について、対象タンパク質の量が最大であるが、食肉植物によって産生される天然プロテアーゼの量が、限られている段階にまだある段階を簡単に決定することができる。
【0083】
嚢トラップを有する食肉植物を本発明による方法において用いるときには、前記タンパク質は、有利には嚢内部の排出された液体を採取することによって得られる。特に、嚢内部の液体は、機械的ストレス(微細繊維のコーミング、ブラッシング、もしくは軽擦など)を加えることによって、または嚢表面に超音波あるいは他の音波を発することによって放出させることができる
【実施例】
【0084】
実施例1 モウセンゴケ植物の形質転換
1.1 材料と方法
1.1.1.GFP遺伝子またはGUS遺伝子でのモウセンゴケ植物の形質転換
モウセンゴケ属形質転換は、Hirsikorpi et al.によって記載されているように、T−DNAの植物細胞への移入を実施するために、葉を傷つけ、それらの葉をAgrobacterium tumefaciensと同時培養して、葉から誘導した。本発明者らのケースでは、前記植物の形質転換は、異なるマーカー遺伝子を含む2つの異なるプラスミドの構築を用いて行った。
【0085】
T−DNAには、カナマイシン耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼIIをコードするNPTII遺伝子と:
紫外線によって励起させたときに可視範囲において蛍光を発する(395nm)、クラゲ(Aequorea victoria)由来のGFP、緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、または
X−Gluc基質(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロン酸)の存在下で青色の生成物の出現をもたらす、GUS酵素、β−グルクロニダーゼをコードする遺伝子
のいずれかを含めた。
【0086】
1.1.1 X−Gluc基質とのインキュベーション後の葉の観察結果
X−Gluc原液をX−Glucバッファー(100mM Tris HCl、NaCl 50mM、pH7)で希釈して、終濃度1mMを得、それを前記植物部位に直接適用した。次いで、これを 37℃で12時間暗所に置いた。その後、これらの葉をエタノール浴に浸漬して、葉緑素を除去し、GUS酵素が存在する可能性によって起こる青色染色がよりよく示された。
【0087】
1.2 結果
1.2.1 GFP形質転換モウセンゴケ植物
1.2.1.1 紫外線顕微鏡下での葉の観察結果
対照食肉植物およびGFP形質転換食肉植物のリーフリム(Leaf limbs)を紫外線顕微鏡下で観察した。ある特定のGFP形質転換葉は著しい蛍光領域を示したが(図1Aおよび1B、矢印参照)、一方、対照植物の葉は蛍光を示さなかった(図1C):
顕微鏡下でのこれらの観察結果は、モウセンゴケ植物がGFP形質転換を受け、リーフリムにおいてGFPタンパク質を発現したことを示している。
【0088】
1.2.1.2 紫外線顕微鏡下での毛および粘液の観察結果
次いで、昆虫消化酵素を分泌する腺を有する葉の腺毛の観察結果およびこれらの腺によって産生されるグルーまたは粘液の液滴の観察結果に対して蛍光調査を行った。
【0089】
対照植物では、観察された毛は蛍光を概して示さなかった(図2A)。ところが、ある特定の観察結果によって対照毛の端における蛍光の存在が明らかになった。しかし、これは、GFPタンパク質が発現されるように思われるGFP植物のある特定の毛において観察されるものよりずっと著しくない(図2B、矢印参照)。
【0090】
1.2.1.3 シガレットペーパーへの吸収後の紫外線顕微鏡下での粘液の観察結果
グルー液滴においてGFPタンパク質が存在する可能性を見るために、シガレットペーパーを小さな正方形に切って、対照植物およびGFP植物の葉を軽くこすり、シガレットペーパーへグルーを吸収させた。
【0091】
GFP植物の粘液滴を吸収させたペーパーを紫外線顕微鏡下で観察した:そのペーパーには蛍光スポットが認められた(図3A、矢印参照)。対照ペーパーは何も示さなかった(図3B)。この観察結果は、GFP形質転換植物のグルー液滴がGFPタンパク質を発現し、GFPタンパク質を含むことを示している。
【0092】
1.2.2 GUS形質転換モウセンゴケ植物
1.2.2.1 X−Gluc基質とのインキュベーション後の葉の観察結果
モウセンゴケ植物が実際に形質転換されたことを検証するために、恐らく形質転換されたであろう2植物の葉および対照葉をX−Gluc基質とともにインキュベートした。
【0093】
推定GUS葉は、対照葉と比べて著しい青色の領域(図4A、暗灰色領域参照)を示した(図4B)。そのため、X−Gluc基質の存在下でこのような青色生成物が出現したことを考えると、GUS酵素は推定形質転換植物中に存在し、活性を有すると推測された。注目すべきは、葉は完全に着色されたわけではなく、ある特定の領域は白いままである。対照葉は葉の傷ついた場所すなわち植物から葉を切り離すときに切り込まれた場所に青色領域を示したが、リムは染色されなかった(図4B)。
【0094】
1.2.2.2 X−Gluc基質とのインキュベーション後の単対物双眼顕微鏡を用いた葉の観察結果
インキュベーション後にこれらの対照葉およびGUS葉を単対物双眼顕微鏡下で観察して、青色染色を確かめまたは正確に位置づけた。
【0095】
GUS形質転換植物の葉(図5Aおよび5B)は毛の下部でのみ染色を示した(暗灰色染色参照)。グルー形成部位である毛端は着色されなかった。対照植物の葉の毛には染色はなかった(図5C)。
【0096】
1.2.2.3 Whatman社製ペーパーへのグルーの吸収後、X−Gluc基質とのインキュベーション後のグルー液滴の観察結果
GFP植物の場合と同様に、GUS植物および対照植物のグルー液滴を、今回はWhatman社製ペーパー(ペーパーで液滴を軽くこすり、できる限り多く吸収させた)を用いて吸収させた。次いで、これらのペーパー片をバッファーおよびX−Gluc基質中で37℃で12時間インキュベートした。
【0097】
1時間のインキュベーション後には染色が観察することができた。インキュベーションの12時間後に写真を撮影した(図6)。
【0098】
GUS葉の液滴を含むペーパー(図6A上および図6B左)は、グルーを吸収させた場所に青色に染色されている(暗灰色領域参照)。対照葉のグルー液滴を含むペーパー(図6A中央および図6B右)は染色を示さず、グルーのないペーパー(図6A下)も染色を示していない。よって、GUS酵素はGUS形質転換植物の葉の粘液滴において発現され、存在しているが、対照植物のものにおいては発現されず、存在していない。
【0099】
これらの試験を17のGUS形質転換植物で再現し、形質転換はX−Gluc基質とのインキュベーション後の葉の青色染色によって示された。これらの17のGUS形質転換植物のうち、14のGUS形質転換植物はGUS酵素を含む液滴を有していた(ペーパーには青色が点在していた)。明らかに形質転換された3植物だけは液滴中で推定タンパク質を発現しないように思われた。そのため、これらの結果は、少なくとも大多数の場合においては、GUS形質転換植物はGUS酵素を発現し、この酵素がトラップの粘液滴中に存在しているということを示している。
【0100】
加えて、Whatman社製ペーパーには異なる強度および量の青色が観察することができ、ある特定の形質転換植物は葉の粘液においてGUS酵素を事実上発現し、分泌することが示唆される。このことを確認するために、GUS植物の単葉の液滴において試験を実施した:これまでに試験している5つのGUS植物の5枚の葉を採取し、各葉の液滴をWhatman社製ペーパーへ別々に吸収させた。これまでに得られた結果は、GUS形質転換植物は粘液滴においてGUSタンパク質を事実上発現し、分泌することを裏付けている。
【0101】
1.2.2.4 発現ベクターの形質転換植物のゲノム中への挿入についてのPCR解析
同じT−DNA断片上に存在する2つの遺伝子を用いて植物を形質転換した:GUS遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子(NPTII)(培養培地に抗生物質を添加することにより植物選抜が可能になる)。実際には、植物がカナマイシン耐性遺伝子を組み込んだならば、その植物はカナマイシン含有培地中で生存し、一方、形質転換を受けていない植物は死滅し、その結果形質転換植物が選抜される。
【0102】
GUS遺伝子とNPTII遺伝子の両方を同時に植物のゲノムに組み込んだ。そのため、植物ゲノム中のNPTII遺伝子の存在によって植物ゲノム中のGUS遺伝子の存在が分かり、植物の形質転換が示される。
【0103】
PCRに関する技術的な理由で、植物ゲノム中のNPTII遺伝子の存在は、酵素試験でGUS遺伝子の存在がすでに示されている2植物におけるNPTII遺伝子の断片のPCR増幅によって検出した。これらの結果は図7に示しており、これらの2植物においてNPTII遺伝子の断片がPCRによって増幅されたことが分かるため、GUS遺伝子およびNPTII遺伝子を含む発現ベクターの植物のゲノム中への挿入が示される。
【0104】
1.3 結論
上に示した結果は、対象となるタンパク質の遺伝子が挿入された遺伝子改変食肉植物を生みだすことができ、そして該植物によって排出されたトラップの消化分泌液から(本明細書においてはグルーから)対象となるタンパク質を容易に採取することができることを明確に示している。
【0105】
加えて、用いた2つの対象タンパク質(GUSおよびGFP)において実施した試験は、得られたタンパク質は、消化酵素の存在にもかかわらず、機能的であることを示している。
【参照文献】
【0106】



【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】GFP形質転換したモウセンゴケ(Drosera rotundifolia)植物(AおよびB)および対照植物(C)についての紫外線顕微鏡を用いた観察結果。矢印はGFPの発現に関係している蛍光領域(最も明るい領域)の位置を示す。
【図2】昆虫消化酵素を分泌する腺を有するモウセンゴケ植物の葉に存在する腺毛についての観察結果−対照(形質転換を受けていない野生型植物、A)またはGFP形質転換植物(B)。矢印はGFPの発現に関係している蛍光領域(最も明るい領域)の位置を示す。
【図3】モウセンゴケ植物の粘液についての観察結果−シガレットペーパーへの吸収後の紫外線顕微鏡下でのGFP形質転換植物(A)または対照植物(形質転換を受けていない野生型植物、B)。矢印はGFPの発現に関係している蛍光領域(最も明るい領域)の位置を示す。
【図4】モウセンゴケ植物の葉についての観察結果−X−Gluc基質とのインキュベーション後のGUS形質転換植物(A)または対照植物(形質転換を受けていない野生型植物、B)。暗灰色領域は青色領域と一致し、つまり、X−Gluc基質がGUS酵素によって形質転換されているということであり、従って、これらの領域にGUS酵素が存在することが示される。
【図5】モウセンゴケ植物の葉および毛についての観察結果−X−Gluc基質とのインキュベーション後の単対物双眼顕微鏡下でのGUS形質転換植物(AおよびB)または対照植物(形質転換を受けていない野生型植物、C)。暗灰色領域は青色領域と一致し、つまり、X−Gluc基質がGUS酵素によって形質転換されているということであり、従って、これらの領域にGUS酵素が存在することが示される。
【図6】Whatman社製ペーパーへのグルーの吸収後、X−Gluc基質とのインキュベーション後のグルー粘着性液滴について観察結果。A. GUS形質転換モウセンゴケ(上)のグルー液滴をコートし、対照モウセンゴケ(形質転換を受けていない野生型植物、中央)のグルー液滴をコートし、または液滴なし(下)でのペーパーの比較。B.GUS形質転換モウセンゴケ(上)のグルー液滴をコートし、対照モウセンゴケ(形質転換を受けていない野生型植物、中央)のグルー液滴をコートしたペーパーAの拡大。C.他のGUS形質転換モウセンゴケ植物のグルー液滴をコートしたペーパー。暗灰色領域は青色領域と一致し、つまり、X−Gluc基質がGUS酵素によって形質転換されているということであり、従って、これらの領域にGUS酵素が存在することが示される。
【図7】GUS遺伝子およびNPTII遺伝子を含む発現ベクターの形質転換植物ゲノム中への挿入についての、NPTII遺伝子の欠失によるPCR解析、Mk:サイズマーカー。1および2:試験植物。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図4A】

【図4B】

【図5A】

【図5B】

【図5C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉植物の栽培を含んでなる、少なくとも1つのタンパク質を生産するための方法であって、該植物は該タンパク質またはタンパク質群を発現するように遺伝子改変されており、該タンパク質またはタンパク質群は該食肉植物トラップの消化分泌液から収集されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記タンパク質またはタンパク質群が、前記植物の細胞中で発現され、前記植物の天然タンパク質自然排出システムによって排出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物が、アグロバクテリウム属、バイオリスティック、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、またはウイルスベクターの使用による形質転換によって遺伝子改変されている、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質が、獣医用もしくはヒト用の医薬品、化粧品、植物用医薬品、診断薬、栄養補助剤または実験用試薬から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記植物が、餌捕獲を擬態し、かつ前記植物がトラップ中にタンパク質を産生し排出する前記システムの活性化を誘導する化学的刺激および所望により機械的刺激に付される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記植物が、餌捕獲を擬態し、かつ前記植物がトラップ中にタンパク質を産生し排出する前記システムの活性化を誘導する、いずれの化学的刺激および/または機械的刺激の不在下で栽培される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記食肉植物による1以上の消化酵素の合成阻害をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
合成が阻害される前記消化酵素のうちの少なくとも1つがプロテアーゼである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記食肉植物による1以上の消化酵素の合成阻害が、前記植物のゲノムからの少なくとも1つの消化酵素遺伝子の欠失、サイレンシングによる少なくとも1つの消化酵素遺伝子の転写スイッチオフ、および/または少なくとも1つの消化酵素阻害遺伝子の異所発現から選択される遺伝子技術によって実施される、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記食肉植物による1以上の消化酵素の合成阻害が、該消化酵素もしくは消化酵素群を阻害する溶液を前記トラップの消化液に直接加えること、または該消化液のpH条件および/または温度条件を制御することによって行われる、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質が、小胞体への輸送を可能にするペプチドシグナル配列を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記食肉植物が、少なくとも1つのSNARE型ドメインを含む少なくとも1つの遺伝子を発現するようにさらに遺伝子改変される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記食肉植物が、グルートラップを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
グルートラップを有する前記食肉植物が、モウセンゴケ属、ムシトリスミレ属、ビブリス属、ドロソフィルム属、およびトリフィオフィルム属から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が、前記植物の浸漬、噴霧もしくは洗浄によって前記トラップから前記グルーを採取することによって;前記植物の前記グルーの布帛への吸引もしくは吸収によって;または前記グルーの直接収集によって得られる、請求項13または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記植物が、一連の植物を操作することが可能な固定システムで栽培され、ひっくり返され、それらの地上部が溶液に浸漬される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記植物が、防水性材料で覆われた斜面で栽培され、前記トラップの前記グルーが、前記植物の地上部に噴霧および/または洗浄することによって採取され、得られた溶液が該斜面の下部で収集される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記食肉植物が、嚢状葉、トランペット状葉または嚢トラップを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法
【請求項19】
前記タンパク質が、前記嚢状葉、トランペット状葉または嚢内部で見出される排出液を採取することによって得られる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
嚢状葉トラップを有する前記食肉植物が、ウツボカズラ属またはセファロタス属から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記嚢状葉内部で見出される前記液体が、前記植物の嚢状葉が自然に開く前に採取される、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記嚢状葉内部の前記液体が、前記嚢状葉を犠牲にすることによって、または無菌条件下で前記嚢状葉内部の前記液体への穿刺を可能にする装置を使用することによって採取される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記嚢状葉内部の前記液体が、前記植物によって産生される天然プロテアーゼが前記液体中に大量に蓄積されていない前記植物成長段階において採取される、請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。

【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−505401(P2010−505401A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530822(P2009−530822)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/058950
【国際公開番号】WO2008/040599
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(509096234)プラント、アドバンスド、テクノロジーズ、ペアテ、エスアエス (1)
【氏名又は名称原語表記】PLANT ADVANCED TECHNOLOGIES PAT SAS
【Fターム(参考)】