説明

食肉製品の製造方法およびこれに用いる製造装置

【課題】食肉の品質を低下させることなく、短時間に冷凍食肉を均一に解凍し、製品歩留まりも高い食肉の製造方法を提供すること。
【解決手段】以下の(1)および(2)の工程により、短時間に凍結肉を解凍することができ、その後製造工程における品質も維持できる。(1)冷凍食肉を6〜55℃の水溶液に浸漬し、加熱する工程。(2)(1)で得られた食肉を0〜4℃の水溶液に浸漬し、冷却する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉製品の製造方法に関する。詳しくは、冷凍状態の食肉を6〜55℃の水溶液に浸漬することにより食肉を解凍する工程を含む食肉製品の製造方法に関する。また、当該製造方法に用いる製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、食肉加工原料肉の約70%は、凍結状態で輸入されており(非特許文献1,2)、加工の際、冷凍食肉の解凍工程は不可欠である。
従来、冷凍食肉の解凍方法としては、(i)冷凍食肉に地下水などの流水をかけ流す(ii)冷凍食肉を4℃の空気雰囲気下におく(以下、空気解凍法ということがある)(iii)冷凍食肉を直接−6℃〜−3℃の塩漬液に漬ける、またはこれらを組み合わせた方法などが知られている。
しかし、(i)は地下水を大量に消費するためにコストと場所を要し、(ii)、(iii)は(i)以上に長時間を要し、製品の生産性向上が望めないという問題があった。
上記(iii)の具体例としては、特許文献1および非特許文献3が挙げられる。特許文献1には、凍結状態の原料肉を完全に解凍することなく、凍結状態の食肉を塩漬調味液に直接接触させて、マイナスの温度帯で解凍しながら塩漬する方法が開示されている。
また、上記(i)〜(iii)以外の方法として、特許文献2には、冷凍食肉を配置した空間を真空状態とし、該空間内に飽和蒸気を供給する方法が開示されている。
特許文献3には、回転ドラム内、減圧下でドラムを回転させて冷凍食肉を解凍する方法が開示されている。
特許文献4には、冷凍食肉を液体が貯留した液体槽内に浸漬して解凍する方法が開示されているが、液体の温度は0〜5℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-154797号公報
【特許文献2】特開平10-179019号公報
【特許文献3】特開2008-79538号公報
【特許文献4】特開平7-313132号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】天野慶之,藤巻正生,安井勉,矢野幸男 食肉加工ハンドブック 光琳 東京都 p3〜7 p205〜211 (1980)
【非特許文献2】新村裕,瀬川正治,山田順一,西坂嘉代子,遠藤久,佐々木道夫 ハム・ソーセージ製造新食肉加工Q&A 渡邉博臣 共栄社 東京都 p22〜138 (2001)
【非特許文献3】宮原晃義,赤尾真,櫻井英敏,金山喜一,村上直哉 凍結豚ロース肉の塩漬解凍により製造したロースハムの品質と製品歩留りの検討 食科工62〜66 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の技術は、依然としてコストや広大な場所や大掛かりな設備を要し、また、時間を要する方法であり、満足のできる方法は無かった。本発明はこのような課題を解決するための食肉製品の製造方法であって、食肉製品を小規模で短期間に低コストで製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
冷凍状態の食肉を6〜55℃の水溶液に浸漬することにより、短時間に凍結肉を解凍することができ、その後製造工程における品質も維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
〔1〕食肉製品の製造方法であって、以下の工程を含む方法。
(1)冷凍食肉を6〜55℃の水溶液に浸漬し、加熱する工程
(2)(1)で得られた食肉を0〜4℃の水溶液に浸漬し、冷却する工程
〔2〕前記(1)の工程における水溶液が、45〜55℃の水溶液である前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記水溶液が、塩漬液である前記〔1〕または前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕さらに、以下の工程を含む前記〔3〕に記載の方法。
(3)前記(2)で得られた食肉を塩漬する工程
〔5〕前記(1)の工程が、食肉の中心温度が−2℃になるまで加熱する工程である前記〔1〕〜前記〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕前記(2)の工程が、食肉の表面温度が4℃になるまで冷却する工程である前記〔1〕〜前記〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕以下を含む、食肉製品の製造装置。
(1)水溶液の保持部であって、0〜55℃に温調する手段を備えた保持部
(2)前記(1)とは別に設けられた水溶液の保持部であって、0〜4℃に温調する手段を備えた保持部
〔8〕さらに以下を含む、前記〔7〕に記載の製造装置。
(3)前記(1)の保持部と前記(2)の保持部の間において、食肉を移動させるための手段
〔9〕さらに以下を含む、前記〔7〕または前記〔8〕に記載の製造装置。
(4)塩漬液を食肉にインジェクションする手段
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、冷凍状態の食肉の解凍時間を大幅に短縮することができ大幅な生産性の向上が達成できる。そして、解凍に伴う製品化後の水分量や塩分量は、空気解凍法などの従来法に比べて遜色なく、製品としての官能検査結果も従来法と同様の品質を保持することができる。
さらに、製品の歩留まりが向上するという効果も有している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明(50℃塩漬液解凍法)および比較例(空気解凍法)による凍結豚ロース肉の解凍曲線(中心温度)を示す図である。
【図2】本発明(50℃塩漬液解凍法)および比較例(空気解凍法)による凍結豚ロース肉の解凍曲線(表面温度)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔水溶液の温度範囲〕
本発明は、冷凍食肉を6〜55℃の水溶液に浸漬し、加熱する工程および当該工程により得られた食肉を0〜4℃の水溶液に浸漬し、冷却する工程を含む。
加熱工程における水溶液の温度は、6〜55℃であればよく、20〜55℃が望ましく、30〜55℃がより望ましく、45〜55℃がよりいっそう望ましく、50℃がもっとも望ましい。
冷却工程における水溶液の温度は、0〜4℃であればよく、2〜4℃が望ましく、4℃がより望ましい。
【0010】
〔水溶液〕
本発明において用いる水溶液の組成は、製造する食肉製品に応じて異なるが、冷凍肉を単に解凍し生肉として製品化するのであれば、塩濃度は低いものが望ましく、生理食塩水などが挙げられる。
また、冷凍食肉を解凍後、ハムなどの塩濃度の高い製品を製造する場合には、当該水溶液は、塩漬液であることが望ましい。塩漬液としては、たとえば4〜8%の食塩とニュー硝素、調味料を含むような組成の塩漬液が挙げられる。一例として、後述する実施例1の表1に示す組成が挙げられる。
また、一般に、食肉の塩分含量は食塩濃度の高い塩漬液で塩漬したものがより高い塩分含量となることは一般に知られていることから、塩漬液中の食塩濃度については、製品化する目的に応じて適宜設定すればよい。
また、加熱工程および冷却工程における水溶液の組成は同一であっても、異なるものであってもよい。
また、加熱工程および冷却工程における水溶液の量は、肉の全体が浸る程度であればよく設置面積等を考慮すれば肉と等量程度(重量)が望ましい。
【0011】
〔時間〕
本発明において冷凍肉を6〜55℃の水溶液に浸漬して加熱(解凍)する時間は、肉の中心温度が−2℃〜0℃になる時間が望ましい。
後述する実施例では、従来の空気解凍法では解凍時間は約19時間要したところ、本発明の50℃塩漬液解凍法では約1.5時間後に中心部が0℃に達し解凍が終了し、大幅な時間短縮が実現できた。
また、加熱し解凍した食肉を0〜4℃の水溶液に浸漬して冷却する時間は、肉の表面温度が4℃になる時間が好ましい。
【0012】
〔その後の工程〕
本発明の方法により解凍した食肉は、その後用途に応じて各製品化工程を経て製品化される。製品化工程は、加工工程のみならず、広く包装化工程等も含む。したがって、解凍後そのまま、食肉として販売する場合は包装化工程が製品化工程となる。また、製品がハムである場合には、加熱工程と冷却工程の後、いわゆる塩漬工程を経ることによりハムを得ることができる。塩漬工程は塩漬液に一定時間浸漬する工程であってもよいし、インジェクションにより塩漬液を食肉に注入する工程であってもよく、当業者の通常行う方法であればいずれも適用することができる。
塩漬工程の塩漬液の食塩濃度は、製品化する目的に応じて適宜設定すればよい。また、製品の食塩濃度は、塩漬液の食塩濃度以外にも塩漬時間によってもコントロールすることができる。後述する実施例より、食塩5.3%の塩漬液で7日間および14日間塩漬したものを比較すると,7日間塩漬したものは塩分含量が1.81%となり、14日間塩漬したものは2.33%となったことから、同じ食塩濃度でも塩漬日数を長くすることにより、より高い塩分含量の食肉製品を製造することができる。
【0013】
〔対象とする食肉〕
本発明の方法を適用する食肉としては、冷凍された食肉であれば肉の種類は問わずいずれにも適用することができる。
【0014】
〔評価方法〕
本発明の方法を適用して得られる食肉は、従来法である空気解凍法に比べ、色、香り、柔らかさ、塩分、しっとり感またはうまみのいずれか1以上、好ましくはすべての項目において同等以上であることが望ましい。水分含量は、凍結前の本来の食肉の水分含量であることが望ましく、解凍による損失、いわゆるドリップが少ない方が望ましい。後述する実施例に示すように従来の空気解凍法では製品の水分含量が61.6%となったところ、本発明の50℃塩漬液解凍法で7日間塩漬したものが65.0%であり、14日間塩漬したものが65.7%となり、本発明の方が3.4〜4.1%高い値を示した。
【0015】
〔装置〕
本発明の製造方法を実際に適用するための装置としては、少なくとも下記(1)および(2)を含む装置が挙げられる。これによれば、冷凍食肉を0〜55℃の水溶液に浸漬して加熱し、解凍することができる。
(1)水溶液の保持部であって、0〜55℃に温調する手段を備えた保持部
(2)前記(1)とは別に設けられた水溶液の保持部であって、0〜4℃に温調する手段を備えた保持部
また、さらに以下(3)を含むことにより、冷凍食肉を連続的に加熱(解凍)し冷却することができる。食肉を移動させるための手段としては、ベルトコンベア等の移動装置が挙げられる。
(3)前記(1)の保持部と前記(2)の保持部の間において、食肉を移動させるための手段
さらにまた、以下(4)を含むこともできる。これにより解凍後の食肉に塩漬液をインジェクションすることにより、塩漬液に浸漬するのと同じ作用効果が得られ、ハムなどの塩分濃度の高い食肉製品を短時間に製造することができる。なお、このほか、塩漬液に代えて、あるいは追加して調味料など、最終製品に応じた成分をインジェクションすることもできるし、他の加工手段を追加できることはいうまでもない。
(4)塩漬液を食肉にインジェクションする手段
【実施例】
【0016】
〔実施例1〕50℃塩漬液解凍法
凍結肉を50℃の塩漬液に漬けて解凍し、ロースハムを製造した。
I 試験方法
1.実験材料と温度計の設置
凍結状態のカナダ産豚ロース肉(約4kg)を重さが同じになるよう3等分にし、ドリルで中心部と表面部に穴を開け、温度センサーを取り付け−20℃の冷凍庫で肉の温度が安定するまで1日放置した。その後、温度測定装置(株式会社 T and D社製、TR−71U,Thermo Recorder(おんどとり)を装着して、以下各工程において肉の温度を測定した。
【0017】
2.塩漬液の調製
塩漬液は、水道水に食塩、砂糖、ニュー硝素(千代田商工(株)製で組成は硝酸カリウム10%,亜硝酸ナトリウム5%,食品素材85%)、化学調味料、香辛料を配合して調整した。この塩漬液の組成割合(%)を表1に示した。用いた塩漬液の重量は肉重量と同量にした。
【0018】
【表1】

【0019】
3.ロースハムの製造
(1)凍結ロース肉の解凍工程および塩漬工程
温度センサーを取り付けた凍結ロース肉の温度が−20℃で安定した後、あらかじめ50℃に温めておいた塩漬液(流水)に漬け、中心温度が−2℃になった時点で4℃に保った塩漬液(静止水)に移し、表面温度が4℃となった時点(この時点での肉重量を以下、「解凍後の肉重量」という)で調整ずみの塩漬液(4℃)に移し、4℃の塩漬室で7日間、または14日間塩漬した。4℃の塩漬室の温度コントロールは、5℃で冷却装置をONとし、3℃で冷却装置をOFFとすることで行った。
<解凍時間の測定フロー>
(−20℃で安定化) ⇒ 50℃塩漬液 ⇒ (中心温度−2℃) ⇒ 4℃塩漬液 ⇒ (表面温度4℃)⇒ 4℃塩漬液につけて4℃雰囲気下 7日または14日間
【0020】
(2)ロースハムの製造工程
7日間または14日間の塩漬が終了したロース肉の遊離水を布で軽く拭き取り、それぞれのロース肉の重量を測定した。次に10℃以下の流水で塩抜きを20分間行い、その後ロース肉を整形せずにファイブラスケーシングに充填し、60℃で60分間乾燥後、65℃以上で90分間燻煙した。次に72℃雰囲気下で90分間蒸煮し、20℃前後の冷水で30分冷却してロースハムを得た。得られたロースハムを冷蔵庫に保管した。なお、72℃雰囲気下で90分間蒸煮処理することは、すなわち、肉の中心温度が63℃を維持したまま30分間蒸煮処理されたことと同じ処理内容であることを示す。
ロースハムの水分含量と塩分含量はその日のうちに測定し、また5日以内に官能検査を実施した。
【0021】
4.評価方法
(1)重量の測定による歩留り
上記1.において凍結ロース肉を3等分した後に測定した重量を「解凍前の肉重量」とした。また、「解凍後の肉重量」は、上記3(1)において4℃に保った塩漬液(静止水)に移し、表面温度が4℃となった時点のロース肉を容器から取り出し、ロース肉に付着している遊離水を布で軽く拭き取ってから測定した。「塩漬後の肉重量」は、上記2.(2)において塩漬が終了した後に塩漬液からロース肉を取り出し、布で軽く拭き取ってから測定した。「製品の重量」は冷却後に測定した。それぞれの歩留りは「解凍前の肉重量」を100として算出した。具体的には以下の式により求めた。
解凍後の歩留まり(%)= 解凍後の肉重量 ÷ 解凍前の肉重量 × 100
塩漬後の歩留まり(%)= 塩漬後の肉重量 ÷ 解凍前の肉重量 × 100
製品の歩留まり(%)= 製品の重量 ÷ 解凍前の肉重量 × 100
【0022】
(2)水分含量の測定
水分含量の測定は125℃で2時間の常圧加熱乾燥法で行った(参考文献6,7)。

参考文献6
前田安彦,近藤栄昭,金子憲太郎,宇田靖,松岡寛樹,小澤好夫,阿部雅子,八木昌平 わかりやすい基礎食品分析法 初版 前田安彦,金子憲太郎 アイ・ケイコーポレーション 川崎市4-12-5 p41〜45,p114〜117 (2004)
参考文献7
(社)日本食品科学工学会、新・食品分析法編集委員会 新・食品分析法 光琳 東京都 2-18-1 p6〜7 (1996)
【0023】
(3)塩分含量の測定
塩分の測定はモール法で行った(参考文献6)。
【0024】
(4)官能検査
上記3.の工程で製造したロースハムについて色、香り、柔らかさ、塩分、しっとり感、うまみ、総合評価の7項目について5段階(良くない→1〜良い→5)のスコアリング方式で採点した。パネラーは20歳代の男女11人で行った。統計処理はJMPによる対応のないt検定(Unpaived-Students-test)を用いた。
【0025】
〔比較例1〕空気解凍法
I 試験方法
本発明と比較するために従来技術である空気解凍法により凍結ロース肉の解凍を行い、その後塩漬によりハムの製造を行った。
上記「3.ロースハムの製造」において、以下のように行った以外は、すべて本発明方法と同様に測定を行った。
温度センサーを取り付けた凍結肉の温度が−20℃で安定した後、解凍庫に移し、解凍時の温度を測定した。空気解凍法は5℃の解凍庫(冷却ON:OFFを7℃:5℃の設定,庫内風速は約0.5m/sec)で解凍した。解凍したロース肉は調整ずみの塩漬液(4℃)に移した後、4℃の塩漬室で14日間塩漬した。4℃の塩漬室の冷却ON:OFFは5℃:3℃設定とした。
【0026】
II 結果と考察
1.解凍時間
本発明(50℃塩漬液解凍法)と比較例(空気解凍法)の温度変化を図1、2に示した。
温度測定を開始するまでに記録計の準備やセンサーのセットをする間に冷凍庫から取り出した肉を室温に放置していたため、−20℃で安定していた肉の温度が上昇し、図1の比較例の解凍曲線が0時に−18℃になった。凍結肉の中心部が0℃に達する時間は、比較例では約19時間、本発明では約1.5時間であった(図1)。表面部が0℃を通過する時間は比較例では約8時間、本発明では塩漬液に漬けた直後に0℃を通過した(図2)。
【0027】
2.解凍・塩漬中の重量変化とロースハムの歩留まり
本発明(50℃塩漬液解凍法)と比較例(空気解凍法)による肉の重量変化を表2に示した。
解凍前の肉重量を100とすると、比較例では解凍後に95.1%、塩漬後に100.7%となった。これは空気解凍によって凍結肉の水分がドリップとして4.9%流出したことになる。本発明で7日間塩漬したものは解凍後に99.4%、塩漬後に102.8%となった。また、本発明で14日間塩漬したものは解凍後に99.5%、塩漬後に103.7%となった。これは本発明では解凍中のドリップロスは0.5〜0.6%程度で、比較例に比べ4.3〜4.4%の差が出た。
また、製品としての歩留まりは、比較例では87.9%であるのに対して本発明で7日間、14日間塩漬したものは共に92.8%であり、本発明の方が製品歩留まりが高いことが示された。
【0028】
【表2】

【0029】
3.解凍法の違いによる水分含量の比較
本研究では14日間の塩漬期間を基本としているが、水分含量がどのように変化するか知るために塩漬期間を変えてロースハムの水分含量を測定した。その結果を表3に示した。
水分含量は解凍法別に平均すると、空気解凍法で製造したものは61.6%と最も低い値となり、次いで本発明で7日間塩漬したものが65.0%であった。本発明で14日間塩漬したものは65.7%と最も高い値となった。比較例と本発明で14日間塩漬したものを比べると4.1%の差が出た。よって比較例で製造したものよりも本発明で製造した製品の方が水分含量が高くなる傾向が認められた。
【0030】
【表3】

【0031】
4.解凍法の違いによる塩分含量の比較
塩分含量測定の結果を表4に示した。塩分含量は食塩濃度の高い塩漬液で塩漬したものがより高い塩分含量となることは一般に知られている。また、実験結果より、50℃塩漬液解凍法で7日間、14日間塩漬したものを比較すると、7日間塩漬したものは塩分含量が1.81%となり、14日間塩漬したものは2.33%となったことから、同じ食塩濃度の塩漬液で塩漬したものでも、塩漬日数の長いものの方がより高い塩分含量となる傾向がみられた。
【0032】
【表4】

【0033】
5.ロースハムの官能検査
解凍法別官能検査の結果を表5に示した。色、香り、柔らかさ、塩分、しっとり感、うまみ、総合評価の7項目について平均値の差の検定を危険率5%で検定した結果、7項目全てにおいて差は認められなかった。
以上のことから50℃塩漬液解凍法の方が解凍時間を約17.5時間短縮でき、品質面でも比較例よりも良い製品を製造できることが示唆された。
【0034】
【表5】

【0035】
6.まとめ
凍結状態の肉を50℃に温めた塩漬液に漬けて解凍を行うことで、最大氷結晶融解帯(食品解凍の最新技術 工業技術会 p48(1992))を迅速に通過し、解凍時間の短縮が図ることができた。また、製品の肉質についても比較例である空気解凍法と遜色ないものであった。さらに、製品歩留りも4.9%高い値を示し、製品水分含量は3.4〜4.1%高い値を示した。さらにまた、官能検査でも本発明と比較例の方法を用いて製造したロースハムに差は認められなかった。
このことから総合すると、本発明の50℃塩漬液解凍法は比較例の空気解凍法よりも速く、歩留まりもよく、品質に優れた製品を製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
食肉の品質を低下させることなく、短時間に冷凍食肉を均一に解凍することができ、製品歩留まりも高い食肉の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉製品の製造方法であって、以下の工程を含む方法。
(1)冷凍食肉を6〜55℃の水溶液に浸漬し、加熱する工程
(2)(1)で得られた食肉を0〜4℃の水溶液に浸漬し、冷却する工程
【請求項2】
前記(1)の工程における水溶液が、45〜55℃の水溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶液が、塩漬液である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、以下の工程を含む請求項3に記載の方法。
(3)前記(2)で得られた食肉を塩漬する工程
【請求項5】
前記(1)の工程が、食肉の中心温度が−2℃になるまで加熱する工程である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記(2)の工程が、食肉の表面温度が4℃になるまで冷却する工程である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
以下を含む、食肉製品の製造装置。
(1)水溶液の保持部であって、0〜55℃に温調する手段を備えた保持部
(2)前記(1)とは別に設けられた水溶液の保持部であって、0〜4℃に温調する手段を備えた保持部
【請求項8】
さらに以下を含む、請求項7に記載の製造装置。
(3)前記(1)の保持部と前記(2)の保持部の間において、食肉を移動させるための手段
【請求項9】
さらに以下を含む、請求項7または8に記載の製造装置。
(4)塩漬液を食肉にインジェクションする手段

【図1】
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【図2】
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