説明

食道癌を診断する方法

食道癌の発生に関与する分子ならびに診断マーカーのみならず新たな薬物および免疫療法の標的にも有用である分子を同定するために、32,256遺伝子に相当するcDNAマイクロアレイを構築し、レーザーキャプチャーマイクロダイセクションにより精製された19の食道扁平上皮癌(ESCCS)の発現プロファイルを解析した。食道癌において有意に上方制御または下方制御されている一連の遺伝子についての詳細なゲノム全体でのデータベースを本明細書において開示する。これらの遺伝子は、腫瘍マーカーのみならず治療薬物または免疫療法の開発における使用も見出す。さらに、リンパ節転移および手術後再発と関連する遺伝子を本明細書において開示する。候補の分子標的遺伝子の中で、ヒト上皮細胞形質転換配列2癌遺伝子(ECT2)および細胞分裂周期45、出芽酵母、ホモログ様(CDC45L)をさらに述べる。ECT2またはCDC45Lの低分子干渉RNA(siRNA)によるESCC細胞の処理によって、癌細胞の成長が抑制された。したがって、本明細書におけるデータは、食道癌についての診断システムおよび治療標的分子を同定するための有益な情報を提供する。さらに、本発明者らは、肺癌および食道癌などの癌の診断のため、ならびにこれらの疾患を有する患者の不良な予後の予測のための潜在的バイオマーカーとしてDKK1を同定した。DKK1は、本発明者らが調査したほとんどの肺癌および食道癌の組織で特異的に過剰発現し、およびこれらの腫瘍を有する大部分の患者の血清中で上昇していた。DKK1は、その他の腫瘍マーカーと組み合わせて、癌診断の感度を著しく改善することができた。さらに、この分子は、抗体療法などの治療アプローチの開発のための有望な候補でもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、食道癌、例えば、食道扁平上皮癌(ESCC)、および肺癌を検出し、診断し、および該癌の予後を提供するための方法に関し、ならびに食道癌、食道癌転移、食道癌再発を治療および防止する方法にも関する。あるいは、本発明はさらに、食道癌または肺癌を含む癌を検出し、診断し、および該癌の予後を提供するための方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本発明は、2005年7月27日に提出された、米国仮特許出願第60/703,263号の恩典を主張し、その開示は、全ての目的のために全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
肺癌は、世界における癌関連死の主要な原因である。早期検出における幾ばくかの進展およびその治療における最近の改善にもかかわらず、肺癌を有する患者の予後は悪いままである(Parkin et al, Lancet Oncol. 2001 Sep;2(9):533-43)。一方で、食道扁平上皮癌(ESCC)は、胃腸の癌腫ファミリーにおいて最も致命的な悪性腫瘍の1つである。大多数の食道癌は提示および診断の時点で進展しており、とりわけ手術のみによる治癒を見込みのないものにしている(Shimada et al., Surgery. 2003;133(5):486-94)。放射線療法および化学療法などの、多重治療(multi-treatment)様式と組み合わせた現代的な外科的技術の使用にもかかわらず、全体の5年生存率は40〜60%のままであるが(Tamoto et al., Clin Cancer Res. 2004;10(11):3629-38)、肺癌の5年生存率はわずか15%(Parkin et al, Lancet Oncol. 2001 Sep;2(9):533-43)である。実際、中央値37.3か月の追跡調査で、再発ESCCは、一見治癒的切除を受けた患者のほぼ半分で発症していたということが報告されている(Mariette et al., Cancer. 2003;97(7):1616-23)。その結果として、特に有効性および最小毒性の観点から最良の治療計画を定義する際、ならびに反応を予測する試みにおいて、多くの研究努力がアジュバント化学療法および化学放射線療法の検討の方向に向けられている。しかしながら、ネオアジュバントおよびアジュバント療法の進歩によって、雑多な結論がもたらされている。総合すると、過去の研究は、生存利益という点で最適なネオアジュバントまたはアジュバント治療方法を示していない。それゆえ、癌の早期検出のための新規の診断ツールならびに低分子および抗体に基づくアプローチを含む分子標的治療に対する緊急の必要性がある。
【0004】
そのような方向で、例えば、SCC(扁平上皮癌抗原)、CEA(癌胎児性抗原)、およびCYFRA 21-1などの、幾つかの腫瘍マーカーは、ESCCを有する患者の診断および追跡調査に用いられている。最近、ESCCを有する患者における血清MK(ミッドカイン)、CD147、MMP-2(マトリックスメタロプロテイナーゼ-2)、MMP-26、およびMMP-9が不良な予後と関連することが報告された(Shimada et al., Cancer Sci. 2003;94(7):628-32;Kawaguchi et al., Cancer. 2000;89(7):1413-7;Ishibashi et al., Cancer. 2004;101(9):1994-2000;Yamamoto et al., Carcinogenesis. 2004;25(12);2353-60)。しかしながら、現在、早期でかつ潜在的に治癒的な段階のESCCの検出に臨床的に有用な特異的腫瘍マーカーはない。それゆえ、分子標的作用物質および抗体のみならず癌ワクチンの開発などの新たな診断および治療戦略が緊急に必要とされている。proGPP、NSE、サイトケラチン19断片(CYFRA21-1)、扁平上皮癌抗原(SCC)、および癌胎児性抗原(CEA)などの、幾つかの腫瘍マーカーは、肺癌患者の血液循環中で増加しており(Castaldo G, et al., J Clin Oncol. 1997 Nov;15(11):3388-93.;Peck et al., Cancer Res. 1998 Jul 1;58(13):2761-5.;Salerno et al., Chest. 1998 Jun;113(6):1526-32.)、一方、ESCCについてのSCC、CEA、およびCYFRA21-1は、診断用だけでなく患者の追跡調査においても臨床で用いられている(Shimada et al., Surgery. 2003 May;133(5):486-94, Kawaguchi et al., Cancer. 2000 Oct 1;89(7):1413-7)。NSCLC患者において、CEAの感度は、扁平上皮癌で25%および腺癌で50%であり、一方、SCCの感度は、扁平上皮癌で30%であった(Rastel et al., Eur J Cancer. 1994;30A(5):601-6)。CYFRA21-1の感度は、扁平上皮癌で57%および腺癌で27%であった(Rastel et al., Eur J Cancer. 1994;30A(5):601-6)。伝えられるところでは、ESCCを有する患者の血清SCCの陽性率は、ステージIで18%、ステージIIで22%、ステージIIIで34%、およびステージIVで37%であった。ステージIV ESCCを有する患者におけるCEA陽性の発生率は、わずか16%であった。CEAは予後因子ではないが、多変量解析を用いることにより、SCCがpTNM因子に対する独立の予後因子であることが示された(Shimada et al., Surgery. 2003 May;133(5):486-94)。これらの事実によって、治癒の見込みのある段階の肺癌およびESCCの検出に有用であることが証明されている腫瘍マーカーはなく、かつ限られた数の実用的予後マーカーが、個々の患者に対する治療様式の選択に現在利用可能であることが示されている。
【0005】
cDNAマイクロアレイ上での遺伝子発現プロファイルの解析によって、癌細胞における遺伝子発現プロファイルの包括的解析が可能となり、およびそのような転写プロファイルを記載した幾つかの検討が報告されている。例えば、ESCCに関しては、幾つかの検討によって、診断マーカーまたは治療標的としての候補であるヒトESCCの遺伝子発現プロファイルが報告された(Luo et al., Oncogene. 2004;23(6):1291-9;Kihara et al., Cancer Res. 2001;61(17):6474-9;Tamato et al., Clin Cancer Res. 2004;10(11):3629-38)。しかしながら、ヒトESCCにおける以前の検討は全て、大量の腫瘍組織を含み、かつESCCが間葉細胞および炎症性細胞などの、様々な種類の細胞を含むので、食道癌発生の間の正確な発現変化を反映することができない(Nishida et al., Cancer Res. 2005;65(2):401-9)。したがって、より正確な検討が必要とされている。
【0006】
本発明は、これらの必要性に応える。具体的には、癌と関連する癌腫発生機構を理解しかつ新規の抗癌剤を開発するための標的を同定する取り組みにおいて、本発明者らは、32,256の転写遺伝子からなるcDNAマイクロアレイを用いて、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)で純化された19のESCC試料を含む、純化された食道癌細胞の集団で見出された遺伝子発現プロファイルの大規模な、網羅的ゲノム解析を行なった。
【0007】
肺癌および食道癌の診断、治療、および/または予防のための潜在的な分子標的を単離するために、本発明者らは、cDNAマイクロアレイを用いて、その全てがレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)によって純化されていた、101人の肺癌患者および19人のESCC患者由来の癌細胞の遺伝子発現プロファイルのゲノム全体での解析を行った(Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10;22(14):2192-205, Int J Oncol. 2006 Apr;28(4):799-805;Kakiuchi et al., Mol Cancer Res. 2003 May;1(7):485-99, Hum Mol Genet. 2004 Dec 15;13(24):3029-43. Epub 2004 Oct 20;Yamabuki T, et al, Int J Oncol. 2006 Jun;28(6):1375-84)。それぞれの遺伝子産物の生物学的重要性および臨床病理学的重要性を検証するために、本発明者らは、RNA干渉(RNAi)技術と臨床的な肺癌材料の腫瘍組織マイクロアレイ解析の組み合わせによるスクリーニングシステムを確立した(Suzuki et al., Cancer Res, 2003 Nov 1;63(21):7038-41, Cancer Res. 2005 Dec 15;65(24):11314-25;Ishikawa et al., Clin Cancer Res. 2004 Dec 15;10(24):8363-70, Cancer Res. 2005 Oct 15;65(20):9176-84;Kato et al., Cancer Res. 2005 Jul 1;65(13):5638-46;Furukawa et al., Cancer Res. 2005 Aug 15;65(16):7102-10)。その過程において、本発明者らは、Dikkopf-1(DKK1)を新規の血清学的および組織化学的なバイオマーカーとして同定し、かつ肺癌および食道癌の治療標的として同定した。
【0008】
DKK1は脊椎動物の発生における頭部の形成において重要な役割を果たす分泌タンパク質であることが報告され、かつWntシグナル伝達の負の調節因子として公知である(Niida et al., Oncogene. 2004 Nov 4;23(52):8520-6)。Dkk1はLRP5/6およびKremenタンパク質に結合し、それによりWnt-Frizzled-LRP5/6受容体複合体の形成を妨げるLRPのエンドサイトーシスを誘導する(Gonzalez et al., Oncogene. 2005 Feb 3;24(6):1098-103)。これらの生物学的検討にもかかわらず、ヒト癌におけるDKK1の活性化の重要性ならびに診断標的および治療標的としてのその可能性を記載した報告はない。
【0009】
本発明者らは、新規の、診断および予後のバイオマーカーならびに治療物質/抗体の潜在的標的としてのDKK1の同定をここに報告し、ならびにヒトの肺癌発生および食道癌発生におけるその果たし得る役割の証拠も提供する。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
したがって、本発明は、食道癌と相関する独特な遺伝子発現のパターンの発見のみならず、ヒト食道癌におけるシグナル抑制戦略の開発の標的の発見も必然的に含む。例えば、食道扁平上皮癌(ESCC)などの、食道癌(EC)において差次的に発現される遺伝子は、本明細書において「EC核酸」または「ECポリヌクレオチド」と総称され、および対応するコードされたポリペプチドは、本明細書において「ECポリペプチド」または「ECタンパク質」と呼ばれる。
【0011】
したがって、例えば、固形組織または体液試料などの、患者由来の生物学的試料におけるEC関連遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における食道癌を検出し、診断し、予後を提供し、または食道癌の素因を決定するための方法を提供することこそが、本発明の目的である。「EC関連遺伝子」という用語は、正常細胞と比較してEC細胞で異なる発現レベルにより特徴づけられる遺伝子を指す。正常細胞とは、ECを有さないことが知られている個体由来の食道組織から得られた細胞である。本発明の文脈において、EC関連遺伝子は、表1〜2および4〜7に列挙された遺伝子(すなわち、EC番号1〜1716の遺伝子)、または表1〜2および4〜7に列挙された遺伝子に対する少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列同一性ならびに同じ機能を有する遺伝子(例えば、ホモログ、遺伝子変異体、および多型)である。当技術分野において公知のアルゴリズムを用いて、2つまたはそれ以上の核酸配列の配列同一性を決定することができる(例えば、BLAST、下記参照)。例えば、遺伝子の正常対照レベルと比較した場合の遺伝子の発現のレベルの増加または減少などの変化は、対象がECを罹患するかまたはECを発症するリスクを有することを示す。
【0012】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されたmRNAまたはタンパク質発現レベルを指し、ならびに正常対照レベルおよび食道癌対照レベルの両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンまたは複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであり得る。例えば、対照レベルは、以前に試験された細胞由来の発現パターンのデータベースであり得る。「正常対照レベル」とは、正常で、健康な個体または食道癌を罹患していないことが公知の個体の集団において検出された遺伝子発現のレベルを指す。正常個体とは、食道癌の臨床症状のない個体である。これに対して、「EC対照レベル」とは、食道癌を罹患している集団に見出されるEC関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0013】
正常対照試料由来の発現レベルと比較して、試験試料で検出される表2、5、および7に列挙された1つまたは複数のEC関連遺伝子(すなわち、EC番号728〜1543、1603〜1679、および1689〜1716の遺伝子)の発現レベルの増加は、(試験試料を入手した)対象がECを罹患するかまたはECを発症するリスクを有することを示す。対照的に、正常対照試料由来の発現レベルと比較して、試験試料で検出される表1、4、および6に列挙された1つまたは複数のEC関連遺伝子(すなわち、EC番号1〜727、1544〜1602、および1680〜1688)の発現レベルの減少は、(試験試料を入手した)対象がECを罹患するかまたはECを発症するリスクを有することを示す。
【0014】
あるいは、試験試料中のEC関連遺伝子のパネルの発現レベルを同じ遺伝子のEC対照パネルの発現レベルと比較することができる。試験試料パネル中の遺伝子とEC対照パネル中の遺伝子との間の発現レベルの類似性は、(試験試料を得た)対象がECを罹患するかまたはECを発症するリスクを有することを示す。
【0015】
本発明によれば、遺伝子発現レベルは、対照レベルと比較して10%、25%、または50%増加または低下している場合に「変化している」または「異なる」とみなされる。または、発現レベルは、対照レベルと比較して少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍またはそれ以上増加または低下している場合に変化しているとみなしてもよい。発現は、例えばアレイ上で、EC関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料における遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される。
【0016】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料は、試験対象から、例えば、ECを有することが判明しているかその疑いがある患者から得られる任意の試料である。例えば、組織には上皮細胞が含まれ得る。より具体的には、組織は食道扁平上皮癌からの上皮細胞であり得る。
【0017】
本発明はまた、表1〜2および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子のうち2つまたはそれ以上に関する遺伝子発現レベルを含む、EC基準発現プロファイルも提供する。
【0018】
本発明はさらに、EC関連遺伝子を発現する試験細胞を試験化合物と接触させること、EC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を決定することによって、EC関連遺伝子、例えば表1〜2および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子の発現または活性を阻害するまたは増強させる作用物質を同定する方法も提供する。試験細胞は、例えば食道扁平上皮癌から得られた上皮細胞であり得る。上方制御されるEC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が、その遺伝子または遺伝子産物の正常対照発現レベルまたは活性と比較して低下していることにより、試験物質がEC関連遺伝子の阻害因子であることが示され、これはECの症状、例えば、表2、5および7に列挙された1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現を緩和するために用いられ得る。または、下方制御されるEC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性が、遺伝子または遺伝子産物の正常対照発現レベルまたは活性と比較して増加していることにより、試験物質がEC関連遺伝子の発現または機能に対する増強因子であることが示され、これはECの症状、例えば、表1、4、および6に列挙された1つまたは複数のEC関連遺伝子の低発現を緩和するために用いられ得る。
【0019】
本発明はまた、1つまたは複数のEC核酸またはECポリペプチドと結合する検出試薬を含むキットも提供する。1つまたは複数のEC核酸と結合する核酸のアレイも提供される。
【0020】
本発明の治療方法には、対象におけるECを治療または予防する方法であって、1つまたは複数のアンチセンスヌクレオチドを含む組成物を対象に投与する段階を含む方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は1つまたは複数の特異的な標的遺伝子の発現を低下させる。例えば、アンチセンス組成物は、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子からなる群より選択される上方制御されるEC関連遺伝子配列の1つまたは複数に対して相補的なヌクレオチドの1つまたは複数を含み得る。または、本方法は、1つまたは複数の低分子干渉RNA(siRNA)オリゴヌクレオチドを含む組成物を対象に投与する段階を含み得る。本発明の文脈において、siRNA組成物は、表2、5、および7に列挙された上方制御されるEC関連遺伝子からなる群より選択されるEC核酸の発現の1つまたは複数を低下させる。さらにもう1つの方法において、対象におけるECの治療または予防を、1つまたは複数のリボザイムオリゴヌクレオチドを含む組成物を対象に投与することによって実施することができる。本発明の文脈において、核酸特異的なリボザイム組成物は、表2、5、および7に列挙された上方制御されるEC関連遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のEC核酸の発現を低下させる。表中に列挙された選択されたEC関連遺伝子に対するsiRNAの阻害効果を本明細書において確認している。具体的に、siRNAヒト(Homo sapiens)上皮細胞形質転換配列2癌遺伝子(ECT2)(配列番号:30、31)および細胞分裂周期45、出芽酵母(S. Cerevisiae)、ホモログ様(CDC45L)(配列番号:32、33)は、食道癌細胞の増殖および生存能力を阻害することが本明細書において示されている。したがって、本発明の幾つかの態様において、ECT2およびCDC45Lを含む、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子は、食道癌の治療標的である。
【0021】
その他の治療方法には、表1、4、および6に列挙された下方制御されるEC関連遺伝子の1つもしくは複数の発現、または表1、4、および6に列挙された下方制御されるEC関連遺伝子の1つもしくは複数によってコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物を対象に投与する方法が含まれる。
【0022】
本発明にはワクチンおよびワクチン接種法も含まれる。例えば、対象におけるECを治療または予防する方法は、表2、5、および7に列挙された上方制御されるEC関連遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数の核酸によってコードされる1つもしくは複数のポリペプチド、またはそのようなポリペプチドの免疫学的活性断片を含むワクチン組成物を対象に投与する段階を含むことができる。本発明の文脈において、免疫学的活性断片とは、全長の天然タンパク質より長さは短いが、全長タンパク質によって誘導されるのと類似した免疫応答を誘導するポリペプチドである。例えば、免疫学的活性断片は、少なくとも8残基の長さで、かつT細胞またはB細胞を含む免疫細胞を刺激することができる。細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の生成、または抗体の産生によって、免疫細胞刺激を測定することができる。例えば、Harlow and Lane, Using Antibodies:A Laboratory Manual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory Press;およびColigan, et al., Current Protocols in Immunology, 1991-2006, John Wiley & Sonsを参照されたい。
【0023】
新規の分子標的およびECに特有な発現パターンを提供することが本発明のさらなる目的である。同定された遺伝子は、新規の治療薬物または免疫療法の開発における候補として役立つ。例えば、ECT2およびCDC45Lは、本発明の有望なスクリーニングシステムによって同定された2つの代表的な候補として本明細書において特徴づけられる。さらに、本発明は、悪性の食道癌を治療または予防するための、より詳しくは食道癌の転移または手術後の再発を治療または予防するための標的分子を提供する。本発明に従って、表4〜5に列挙された遺伝子(すなわち、EC番号1544〜1679の遺伝子)をリンパ節転移のある食道癌細胞において特有の変化した発現パターンを有する遺伝子として同定し、および表6〜7に列挙された遺伝子(すなわち、EC番号1680〜1716の遺伝子)を手術後の再発と関連する食道癌において特有の変化した発現パターンを有する遺伝子として同定した。したがって、表5および表7の上方制御される遺伝子またはそれらの遺伝子産物の発現または活性の抑制を介して、食道癌の転移および/または再発を治療または予防することができる。あるいは、表4および表6の下方制御される遺伝子またはそれらの遺伝子産物の癌性細胞における発現または活性を増強させることによって、食道癌の転移および/または再発を治療または予防することができる。
【0024】
本発明は食道癌転移を予測するための方法も提供する。具体的には、本方法は、表4および表5に列挙された遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを測定する段階を含む。これらのマーカー遺伝子は、リンパ節転移のある患者から単離された食道癌細胞において特有の変化した発現パターンを有する遺伝子として本明細書において同定されている。それゆえ、対象由来の試料中で検出される発現レベルが、参照試料におけるリンパ節転移陽性症例の平均発現レベルとより近いか、または陰性症例の平均発現レベルとより近いかを決定することによって、対象における食道癌の転移を予測することができる。
【0025】
本発明は食道癌の手術後の再発を予測するための方法も提供する。具体的には、本方法は、表6および表7に列挙された遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを測定する段階を含む。これらのマーカー遺伝子は、手術後の再発のある患者から単離された食道癌細胞において特有の変化した発現パターンを有する遺伝子として本明細書において同定されている。それゆえ、対象由来の試料中で検出される発現レベルが、参照試料中の再発陽性症例の平均発現レベルとより近いか、または陰性症例の平均発現レベルとより近いかを決定することによって、対象における食道癌の再発を予測することができる。
【0026】
本明細書において記載された方法の1つの利点は、明白な臨床症状が検出される前に食道癌が同定されるということである。本発明のこれらおよびその他の目的および特色は、以下の詳細な説明が添付の図および実施例と併せて読まれることで、より十分に明らかになると考えられる。しかしながら、本発明の前記の概要および以下の詳細な説明は両方とも好ましい態様であり、本発明または本発明の他の代わりの態様を制限するものではないということが理解されるべきである。
【0027】
好ましい態様の詳細な説明
I.概説
本明細書において使用される場合の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、他に特記しない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0028】
通常、食道癌細胞は、高度に炎症性の反応を有しかつ間葉細胞および炎症性細胞などの非癌性細胞を含む、様々な細胞性構成要素を含む固形塊として存在する。それゆえ、以前に公表された遺伝子発現データは異種プロファイルを反映し、および食道癌発生の間の正確な発現変化を必ずしも反映している訳ではない。
【0029】
したがって、これらの正常細胞の汚染を避けるために、本発明は、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)システムを利用して、手術標本から癌性細胞および正常上皮細胞の集団を純化した(Gjerdrum et al., J Mol Diagn. 2001;3(3):105-10;Kitahara et al., Cancer Res. 2001;61(9):3544-9;Kakiuchi et al., Hum Mol Genet. 2004;13(24):3029-43)。これは、LMMシステムと組み合わせたcDNAマイクロアレイ上でのヒトESCCの遺伝子発現プロファイルの最初の検討であると考えられる。
【0030】
具体的には、本明細書において、ESCCにおいて差次的に発現される一連の遺伝子についての詳細なゲノム全体のデータベースを確立する。ESCCにおけるそれらの発現および34の正常ヒト組織(成人が30および胎児器官が4)におけるcDNAマイクロアレイによって決定されたそれらの分布と32,256遺伝子全てに関するデータを連結した。本明細書におけるデータは、食道癌発生に関する重要な情報を提供するだけでなく、その産物が診断マーカーとしておよび/または食道癌を有する患者の治療のための分子標的として役立つ候補遺伝子の同定も容易にし、かつ臨床的に関連する情報も提供する。
【0031】
これまで、816候補遺伝子が、癌で特異的に上方制御される腫瘍マーカーまたは治療標的(表2参照)として同定されている。上方制御される遺伝子は、癌精巣抗原または癌胎児性抗原をコードする遺伝子のみならず細胞成長、増殖、生存、運動性/浸潤、および形質転換に重要な遺伝子も含み、様々な機能を表す。これらの標的は、診断/予後マーカーのみならず食道癌治療における新たな分子標的物質または免疫療法の開発のための治療標的としての有用性も見出している。それらは細胞表面上もしくは細胞外空間内に、および/または血清中に提示され、それらを分子マーカーおよび治療標的として容易に利用できるようにするので、上方制御される遺伝子はまた、顕著な利点を有する腫瘍特異的な膜貫通/分泌タンパク質を表す。CYFRAまたはPro-GRPなどの、既に利用可能な幾つかの腫瘍特異的マーカーは、膜貫通/分泌タンパク質であり(Pujol JL, et al., Cancer Res. 1993;53(1):61-6;Miyake Y, et al., Cancer Res. 1994 Apr 15;54(8):2136-40);CD20陽性リンパ腫に対するヒト化モノクローナル抗体である、リツキシマブ(リツキサン)の例により、特異的な細胞表面タンパク質を標的することが、顕著な臨床的利益を結果的にもたらすことができるという証明が提供されている(Hennessy BT, et al., Lancet Oncol. 2004;5(6):341-53)。上方制御される遺伝子の中で、38遺伝子を半定量的RT-PCR実験によるバリデーション用に選択し、およびそれらの癌特異的発現を確認した(図2)。
【0032】
リンパ節転移は腫瘍進行において主要な段階であり、かつ不良な予後のリスク因子であるので、次に、リンパ節転移(節陽性)症例の発現プロファイルを節陰性症例の発現プロファイルと比較した。結果的に、リンパ節転移と関連する136遺伝子が同定された。さらに、手術後の再発と関連する37遺伝子を同定した。32か月の観察期間中の再発のパターンは、局部再発、領域リンパ節、および遠隔転移(肺)を含んでいた。手術後の再発までの平均(SD)時間は、21.8±11.1か月(範囲、2〜32)であった。これらの遺伝子は、EC腫瘍進行の過程における主要な分子である。したがって、このデータにより、手術後のアジュバント療法を受けることができる患者の同定および選択が可能になる。
【0033】
32,256遺伝子を含む本発明のcDNAマイクロアレイシステムから、食道癌において上方制御される遺伝子としてECT2(GenBankアクセッション番号AY376439;配列番号:30、31)を同定した。以下で議論されるノーザンブロット解析およびsiRNA実験によって証明されたように、ESCCの大部分で活性化される癌精巣抗原であることが分かったこの分子は、細胞成長/生存において中心的な役割を果たすと考えられている。ECT2遺伝子は、1対の、BRCTドメイン、RhoGEFドメイン、およびPHドメインを有する882アミノ酸のタンパク質をコードする。それはヌクレオチド交換因子であることが報告され、および細胞質分裂の調節に関与している(Tatsumoto et al., J Cell Biol. 1999;147(5):921-8;Saito et al., J Cell Biochem. 2003;90(4):819-36, Liu et al., Mol Cell Biol. 2004;24(15):6665-75)。
【0034】
さらに、上方制御される遺伝子としてCDC45L(GenBankアクセッション番号AJ223728;配列番号:32、33)を単離した。この分子は、ESCCの多くで活性化される癌精巣抗原であることが分かった。ノーザンブロット解析およびsiRNA実験によって証明されたように、CDC45Lは細胞成長および生存と関連することが示唆された。CDC45L遺伝子は566アミノ酸のタンパク質をコードする。本タンパク質は、DNA複製の開始に必要とされる必須タンパク質である、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)Cdc45とのその強い類似性によって同定された(Saha et al., J Biol Chem. 1998;273(29):18205-9)。
【0035】
これまで同定されている腫瘍抗原の中で、癌精巣抗原は、癌ワクチンの極めて魅力的な標的の一群として認識されている(Li et al., Clin Cancer Res. 2005;11(5):1809-14)。タンパク質のインビボ免疫原性を含むその他の因子も重要ではあるが(Wang et al., Clin cancer Res. 2004;10(19):6544-50)、ECT2およびCDC45Lは両方とも新たな抗癌薬物の開発のみならず免疫療法の良い標的でもあるように思われる。
【0036】
つまり、本明細書において記載されたLMMシステムと組み合わせたcDNAマイクロアレイによって、癌の発生、リンパ節転移、および手術後の再発と関連するESCCの特徴的な遺伝子発現プロファイルが明らかになった。ヒトESCCの統合された遺伝子発現データベースの使用によって、食道癌の個別化治療のためのECT2およびCDC45Lのような標的分子の速やかな同定およびさらなる評価に向けての強力な戦略が与えられる。
【0037】
肺および食道の癌腫の遺伝子発現プロファイルおよびその後の解析によって、Dikkopf-1(DKK1;アクセッション番号NM_012242;配列番号:109、110)が様々な種類の肺癌および食道扁平上皮癌(ESCC)の大部分でトランス活性化されていることが明らかになった。ノーザンブロット解析により、DKK1の発現は、正常組織の中の胎盤および前立腺でのみ検出された。279の保管された非小細胞肺癌(NSCLC)標本および220のESCC標本からなる腫瘍組織マイクロアレイを用いた免疫組織化学染色によって、DKK1タンパク質がこれらの腫瘍において高頻度で過剰発現し;その陽性染色が、調べられた279のNSCLCのうち227(81.4%)で、および220のESCCのうち135(61.4%)で観察されることが確認された。さらに、高レベルのDKK1発現は、NSCLCのみならずESCCを有する患者の不良な予後とも関連し、および多変量解析によってその独立した予後値が確認された。DKK1の血清レベルは、健康対照よりも肺癌および食道癌の患者において顕著に高かった。本発明者らの基準によって定義された血清DKK1陽性症例の割合は、162人のNSCLC患者のうち101人(62.3%)、71人のSCLC患者のうち47人(66.2%)、および67人のESCC患者のうち45人(67.2%)であったが、220人の健康ボランティアのうち11人(5%)しか陽性と誤診されていない。その後NSCLC患者の78.6%は陽性と診断されたが、健康ボランティアの8.2%しか陽性と誤診されていないので、DKK1およびCEAの両方を用いた組み合わせアッセイによって感度が増加した。DKK1およびproGRPの両方の使用によって、84.8%までのSCLCを検出するよう感度が増加したが、健康ドナーにおける偽陽性率はわずか6.2%であった。さらに、DKK1の外因性発現によって、哺乳動物細胞の移動および浸潤活性が増加し、DKK1がある種の癌の進行において重要な役割を果たし得るということが示された。本発明者らのデータは、DKK1が新規の診断/予後マーカーとして、ならびにおそらくは肺癌および食道癌の治療標的として有用であるということを暗に示す。
【0038】
II.食道癌の診断
本明細書で同定された、差次的に発現されるこれらの遺伝子には、ECマーカーおよびEC遺伝子標的としての診断および予後における有用性がみられ、その発現は、EC症状の治療または軽減を目的に変化され得る。EC患者において発現レベルが変化している(すなわち、増加または低下している)遺伝子は表1、2、および4〜7にまとめられており、本明細書において「EC関連遺伝子」、「EC核酸」、または「ECポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされるポリペプチドは「ECポリペプチド」または「ECタンパク質」と呼ばれる。別に指示する場合を除き、「EC」とは、本明細書中に開示した配列のうち任意のもの(例えば、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子)、および同じ機能を共有し、かつ少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列(すなわち、ホモログ、変異体および多型)を指す。前述の遺伝子群はデータベースのアクセッション番号と共に示している。
【0039】
細胞の試料における種々の遺伝子の発現を測定することにより、ECを診断することができる。同様に、種々の物質に応答したこれらの遺伝子の発現を測定することにより、ECを治療するための物質を同定することができる。
【0040】
本発明は、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子の少なくとも1つ、最大で全ての発現を決定すること(例えば、測定すること)を含む。既知の配列に関するGenBank(商標)データベースの登録情報によって得られる配列情報を使用し、当業者に周知の手法を用いてEC関連遺伝子を検出および測定することができる。例えば、EC関連遺伝子に対応する配列データベース登録情報中の配列を、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析において、EC関連遺伝子に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築するために用いることができる。プローブは、典型的には参照配列のうちの少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、または少なくとも200ヌクレオチドを含む。別の例としては、これらの配列は、例えば増幅に基づいた検出方法(例えば、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応)におけるEC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築するのに用いることができる。
【0041】
続いて、試験細胞集団、例えば患者由来の組織試料における、EC関連遺伝子の1つまたは複数の発現レベルを、参照細胞集団における同じ遺伝子の発現レベルと比較する。参照細胞集団は、比較されるパラメータが既知である1つまたは複数の細胞、すなわち、食道扁平上皮癌細胞(例えば、EC細胞)または正常食道上皮細胞(例えば、非EC細胞)を含む。
【0042】
試験細胞集団における遺伝子発現のパターンが、参照細胞集団と比較してECまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非EC細胞から構成される場合には、試験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現パターンに類似性があることにより、試験細胞集団が非ECであると示される。その反対に、参照細胞集団がEC細胞から構成される場合には、試験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現プロファイルに類似性があることにより、試験細胞集団がEC細胞を含むと示される。
【0043】
試験細胞集団におけるECマーカー遺伝子の発現レベルは、それと参照細胞集団における対応するECマーカー遺伝子の発現レベルとの違いが1.0倍を上回る、1.5倍を上回る、2.0倍を上回る、5.0倍を上回る、10.0倍を上回る、またはそれ以上の倍数を上回るならば「変化している」または「異なる」とみなされる。
【0044】
試験細胞集団と参照細胞集団との間の差次的な遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞が癌状態にあるか非癌状態にあるかによっての差がないことが判明している核酸である。対照核酸の発現レベルは、試験細胞集団および参照細胞集団におけるシグナルレベルを標準化するのに用いることができる。対照遺伝子の例には、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒドβ-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が非制限的に含まれる。
【0045】
試験細胞集団は複数の参照細胞集団と比較することができる。多数の参照細胞集団のそれぞれは既知のパラメータに関して差があり得る。したがって、試験細胞集団を、例えばEC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、ならびに例えば非EC細胞(正常細胞)を含むことが判明している第2の参照細胞集団と比較することができる。試験細胞集団は、EC細胞を含むことが判明しているかまたはEC細胞を含むことが疑われる対象からの組織試料または細胞試料中に含み得る。
【0046】
試験細胞集団は、体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液、痰、唾液)から得ることができる。例えば、試験細胞集団を食道組織から精製することができる。好ましくは試験細胞集団は上皮細胞を含む。上皮細胞は、好ましくは食道扁平上皮癌であるか食道扁平上皮癌であることが疑われる組織からのものである。
【0047】
参照細胞集団中の細胞は、試験細胞集団の組織型と類似した組織型に由来する。任意には、参照細胞集団は細胞株、例えば、EC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常非EC細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメータまたは条件に関して既知である細胞からの分子情報のデータベースに由来し得る。
【0048】
対象は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物の例には、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシが非制限的に含まれる。
【0049】
本明細書に開示した遺伝子の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質レベルまたは核酸レベルで決定することができる。例えば、遺伝子発現を決定するには、これらの核酸配列の1つまたは複数を特異的に認識するプローブによるノーザンハイブリダイゼーション分析を用いてもよい。または、遺伝子発現は、例えば、差次的に発現される遺伝子配列に対して特異的なプライマーを用いて逆転写に基づくPCRアッセイにより測定することもできる。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち、本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルまたはその生物学的活性を測定することによって決定することもできる。この種の方法は当技術分野で周知であり、例えば、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を利用したイムノアッセイが含まれるが、これに限定されない。遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性は一般に周知である。Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition, 2001, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, 1987-2006, John Wiley and Sons; and Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【0050】
本発明の文脈において、ECは、試験細胞集団(すなわち、患者由来の生物学的試料)からの1つまたは複数のEC核酸の発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは試験細胞集団は、上皮細胞、例えば、食道組織から得られた細胞を含む。遺伝子発現を、血液または他の体液、例えば唾液または痰、から測定することもできる。他の生物学的試料をタンパク質レベルの測定のために用いることもできる。例えば、診断しようとする対象から得た血液または血清中のタンパク質レベルを、イムノアッセイまたは従来の生物学的アッセイによって測定することができる。
【0051】
1つまたは複数のEC関連遺伝子、例えば、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子の発現を、試験細胞集団または生物学的試料において決定し、アッセイした1つまたは複数のEC関連遺伝子に付随する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、ECに罹患していないことが判明している対象由来の細胞集団で一般に認められるEC関連遺伝子の発現プロファイルのことである。正常対照試料からの発現と比較して、患者由来の組織試料における1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現レベルに変化または相違(例えば、増加または低下)があることにより、対象がECに罹患しているかECを発症するリスクを有することが示される。例えば、試験細胞集団における、表2、5、および7に列挙された、上方制御されるEC関連遺伝子のうち1つまたは複数の発現が正常対照細胞集団における発現と比較して増加していることにより、その対象がECに罹患しているかECを発症するリスクを有することが示される。逆に、試験細胞集団における、表1、4、および6に列挙された1つまたは複数の下方制御されるEC関連遺伝子の発現が正常対照細胞集団における発現と比較して低下していることにより、その対象がECに罹患している、またはECを発症するリスクを有することが示される。
【0052】
試験細胞集団におけるEC関連遺伝子のうち1つまたは複数の発現レベルにおける変化が、正常対照発現レベルと比較して変化していることにより、その対象がECに罹患している、またはECを発症するリスクを有することが示される。例えば、EC関連遺伝子群(表1、2、および4〜7に列挙された遺伝子)の、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%またはそれ以上の発現レベルが変化していることにより、その対象がECに罹患している、またはECを発症するリスクを有することが示される。
【0053】
III.スクリーニングアッセイ
EC関連遺伝子の発現を阻害するまたは増強させる作用物質の同定
EC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する作用物質は、ECに関連して上方制御される遺伝子を発現する試験細胞集団を試験物質と接触させた後に、EC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性を決定することによって同定することができる。作用物質の存在下での、EC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが、試験物質の非存在下でのその発現または活性レベルと比較して低下していることにより、その作用物質がECに関連して上方制御される遺伝子の阻害因子であって、ECを阻害するのに有用であることが示される。
【0054】
または、ECに関連して下方制御される遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増強させる作用物質は、EC関連遺伝子を発現する試験細胞集団を試験物質と接触させた後に、ECに関連して下方制御される遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって同定することができる。作用物質の存在下での、EC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが、試験物質の非存在下でのその発現レベルまたは活性レベルと比較して増加していることにより、その作用物質がECに関連して下方制御される遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増大させることが示される。
【0055】
試験細胞集団は、EC関連遺伝子を発現する任意の細胞であり得る。例えば、試験細胞集団には、上皮細胞、例えば食道組織由来の細胞が含まれ得る。さらに、試験細胞集団は食道扁平上皮癌細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、試験細胞集団は、EC関連遺伝子をトランスフェクトされた細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に結合したEC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクトされた細胞で構成され得る。
【0056】
薬剤は、例えば、阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイム)、抗体、ポリペプチド、有機低分子であり得る。マルチウェルプレート(例えば、96ウェル、192ウェル、384ウェル、768ウェル、1536ウェル)を用いて複数の作用物質を同時にスクリーニングすることによる、ハイスループット法を用いて、作用物質のスクリーニングを実行することができる。ハイスループットスクリーニング用の自動化システムは、例えば、Caliper Life Sciences, Hopkinton, MAから市販されている。スクリーニングに利用可能な有機低分子ライブラリは、例えば、Reaction Biology Corp., Malvern, PA;TimTec, Newark, DEから購入することができる。
【0057】
治療物質の同定:
本明細書に開示した、差次的に発現されるEC関連遺伝子を、ECを治療するための候補治療剤を同定するのに用いることもできる。本発明の方法は、候補治療剤が、EC状態に特徴的な表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子のうち1つまたは複数の発現プロファイルを、試験物質が非EC状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変換させ得るか否かを判定することを目的に、候補治療剤をスクリーニングすることを含む。
【0058】
本方法では、試験細胞集団を試験物質または複数の試験物質(逐次的にまたは組み合わせで)に対して曝露させ、細胞における表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子のうち1つまたは複数の発現を測定する。試験細胞集団でアッセイしたEC関連遺伝子の発現プロファイルを、試験物質に曝露されていない参照細胞集団における同じEC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0059】
低発現遺伝子の発現を刺激し得るか、または過剰発現される遺伝子の発現を抑制し得る物質は、臨床的に有益である。このような物質はさらに、動物または試験対象における食道癌増殖を防止する能力に関して試験することができる。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、ECの治療における標的となる候補物質をスクリーニングするための方法を提供する。以上に詳述したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたはそれらの遺伝子産物の活性を制御することにより、ECの発症および進行を制御することができる。このため、ECの治療における標的となる候補物質を、このような発現レベルおよび活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング方法によって同定することができる。本発明の文脈において、このようなスクリーニングは、例えば、以下の段階を含み得る:
(a)試験化合物を、表1、2、4、5、6、または7に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
(b)ポリペプチドと試験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c)ポリペプチドと結合する試験化合物を選択する段階。
【0061】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含み得る:
(a)候補化合物を、表1、2、4、5、6、または7に列挙された遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞に接触させる段階;および
(b)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、表2、5、および7に列挙された遺伝子からなる群より選択される、1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、または表1、4、および6に列挙された遺伝子からなる群より選択される、1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを増加させる候補化合物を選択する段階。
【0062】
マーカー遺伝子を発現する細胞には、例えば、ECから樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングに用いることができる。
【0063】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含み得る:
(a)試験化合物を、表1、2、4、5、6、または7に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドに接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、表2、5、および7に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、または表1、4、および6に列挙された遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を高める化合物を選択する段階。
【0064】
本発明のスクリーニング方法に用いるためのタンパク質は、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質に関する情報に基づき、当業者は、タンパク質の任意の生物学的活性をスクリーニングのための指標として選択し、選択した生物学的活性に関するアッセイのために適した任意の測定方法を選択することができる。
【0065】
または、本発明のスクリーニング方法は、以下の段階を含み得る:
(a)候補化合物を、表1、2、4、5、6、または7に列挙された遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域とその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性レベルと比較して、該マーカー遺伝子が表2、5、および7に列挙された遺伝子からなる群より選択される、上方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性レベルを減少させるか、または該マーカー遺伝子が表1、4、および6に列挙された遺伝子からなる群より選択される、下方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性レベルを高める、候補化合物を選択する段階。
【0066】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。本発明のスクリーニング方法に適したレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製し得る。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知である場合には、その既知の配列情報を用いることによってレポーター構築物を調製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリから単離することができる。
【0067】
ECを治療するための治療物質の選択:
個体の遺伝子構成の相違は、様々な薬物を代謝する相対的能力の相違を結果的にもたらし得る。対象において代謝されて抗EC剤として作用する物質は、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの対象の細胞における遺伝子発現パターンの変化を誘導することによって、それ自身を明示することができる。したがって、本明細書において開示された差次的に発現されるEC関連遺伝子によって、ECの想定される治療剤または予防のための阻害剤が、作用物質が対象におけるECの好適な阻害剤であるかどうかを決定するために選択された対象由来の試験細胞集団の中で試験されるのを可能にする。
【0068】
特定の対象に適切であるECの阻害剤を同定するために、対象由来の試験細胞集団を治療物質に曝露させ、および表1、2、および4〜7に列挙された1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現を決定する。
【0069】
本発明の方法の文脈において、試験細胞集団は、1つまたは複数のEC関連遺伝子を発現するEC細胞を含む。好ましくは、試験細胞集団は上皮細胞を含む。例えば、試験細胞集団を候補物質の存在下でインキュベートすることができ、および試験細胞集団の遺伝子発現のパターンを測定し、かつ1つまたは複数の参照発現プロファイル、例えば、EC参照発現プロファイルまたは非EC参照発現プロファイルと比較することができる。
【0070】
ECを含む参照細胞集団に対する試験細胞集団における表2、5、および7に列挙された1つもしくは複数のEC関連遺伝子の発現の減少、または表1、4、および6に列挙された1つもしくは複数のEC関連遺伝子の発現の増加は、物質が治療用途を有するということを示す。
【0071】
本発明の文脈において、試験物質は任意の化合物または組成物であり得る。例示的な試験物質には、免疫調整物質(例えば、抗体)、阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、短い阻害性オリゴヌクレオチド、およびリボザイム)、ならびに低分子有機化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
転移性食道癌に対する治療物質の同定:
本発明は、転移食道癌を治療または予防するための標的分子を提供する。EC転移と関連するマーカー遺伝子を用いて、上記のEC用の方法に従って、本発明のEC転移についてのスクリーニングアッセイを実施することができる。
【0073】
本発明において、表4および表5に列挙された遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子はスクリーニングに有用である。本発明によって得られる、1つもしくは複数の上方制御される遺伝子の発現またはそれらの遺伝子産物の活性を抑制する物質は、リンパ節転移のあるECを治療または予防するために有用である。あるいは、本発明によって得られる1つもしくは複数の下方制御される遺伝子の発現またはそれらの遺伝子産物の活性を増強させる物質も、リンパ節転移のあるECを治療または予防するために有用である。
【0074】
本発明において、EC関連遺伝子発現を阻害するまたは増強させる物質の同定と同じ様式で、表4および表5に列挙された遺伝子の発現レベルを調節する物質を同定することができる。あるいは、EC関連遺伝子産物を阻害するまたは増強させる物質の同定と同じ様式で、それらの遺伝子産物の活性を調節する物質を同定することもできる。
【0075】
再発食道癌に対する治療物質の同定:
本発明は、再発食道癌を治療または予防するための標的分子を提供する。EC転移と関連するマーカー遺伝子を用いて、上記のEC用の方法に従って、本発明のEC転移についてのスクリーニングアッセイを実施することができる。
【0076】
本発明において、表6および表7に列挙された遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子はスクリーニングに有用である。本発明によって得られる、1つもしくは複数の上方制御される遺伝子の発現またはそれらの遺伝子産物の活性を抑制する物質は、手術後再発のECを治療または予防するのに有用である。あるいは、本発明によって得られる、1つもしくは複数の下方制御される遺伝子の発現またはそれらの遺伝子産物の活性を増強させる物質も、手術後再発のECを治療または予防するために有用である。
【0077】
本発明において、EC関連遺伝子発現を阻害するまたは増強させる物質の同定と同じ様式で、表6および表7に列挙された遺伝子の発現レベルを調節する物質を同定することができる。あるいは、EC関連遺伝子産物を阻害するまたは増強させる物質の同定と同じ様式で、それらの遺伝子産物の活性を調節する物質を同定することもできる。
【0078】
キット:
本発明には、例えば、EC核酸の一部に相補的であるオリゴヌクレオチド配列を含む、1つもしくは複数のEC核酸に特異的に結合するかもしくはそれを同定する核酸、またはEC核酸によってコードされる1つもしくは複数のタンパク質に結合する抗体などの、EC検出試薬も含まれる。検出試薬をキットの形態で共に包装することができる。例として、例えば、(固体マトリックスに結合しているか、もしくはそれらをマトリックスに結合させるための試薬と共に個別に包装されているかのいずれかの)核酸または抗体、対照試薬(陽性および/または陰性)、ならびに/または検出可能な標識などの、検出試薬を個別の容器に包装することができる。アッセイを行うための取扱説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROMなど)もキット内に含めることができる。キットのアッセイ形式は、ノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであることができ、その両方ともが当技術分野において公知である。例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning:A Laboratory Manuals, 3rd Edition , 2001, Cold Spring Harbor Laboratory Press;and Using Antibodies, 前記を参照されたい。
【0079】
例えば、EC検出試薬を、例えば、多孔性ストリップなどの、固体マトリックスの上に固定化し、少なくとも1つのEC検出部位を形成することができる。多孔性ストリップの測定または検出領域は、各々が核酸を含む、複数の部位を含むことができる。試験ストリップは、陰性および/または陽性対照用の部位を含むこともできる。あるいは、対照部位を試験ストリップから離れたストリップの上に配置することができる。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定化された核酸、すなわち、第一の検出部位にはより高い量を、およびそれに続く部位にはより少ない量を含むことができる。試験試料の添加時に、検出可能なシグナルを示す部位の数によって、試料中に存在するECの量の定量的な指標が提供される。検出部位は、任意の適した検出可能な形状で構成されうり、典型的には試験ストリップの幅にわたるバーまたはドットの形状である。
【0080】
あるいは、キットは1つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイを含み得る。アレイ上の核酸により、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子によって表わされる1つまたは複数の核酸配列が特異的に同定される。アレイ試験ストリップまたはチップへの結合のレベルによって、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子によって表わされる2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50、またはそれ以上の核酸の発現を同定することができる。基質アレイは、例えば、固体基板、例としてその内容全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,744,305号に記載された「チップ」の上に存在し得る。本方法で役立つアレイ基板は、例えば、Affymetrix, Santa Clara, CAから市販されている。
【0081】
アレイおよび複数性:
本発明には、1つまたは複数の核酸を含む核酸基質アレイも含まれる。アレイ上の核酸は、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子によって表わされる1つまたは複数の核酸配列に特異的に対応する。アレイに結合する核酸を検出することによって、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子によって表わされる2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50、またはそれ以上の核酸の発現のレベルを同定することができる。
【0082】
本発明には、単離された複数の核酸(すなわち、2つまたはそれ以上の核酸の混合物)も含まれる。核酸は、液相中に、または例えば、ニトロセルロース膜などの、固体支持体の上に固定化された固相中に存在し得る。複数には、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子によって表わされる1つまたは複数の核酸が含まれる。様々な態様において、複数には、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子によって表わされる2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、もしくは50、またはそれ以上の核酸が含まれる。
【0083】
候補化合物:
スクリーニングによって単離された化合物は、マーカー遺伝子の発現またはマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害し、かつ食道癌の治療または予防に適用することができる薬物の開発において候補となる。
【0084】
その上、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている化合物も同様に、本発明のスクリーニング法によって得ることができる化合物として含まれる。
【0085】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーを含むがこれらに限定されない、他の哺乳動物のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、患者の必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口摂取されるか、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取され得る。例えば、化合物は、薬学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。これらの調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0086】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、以下に限定されないが、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムを含む結合剤;結晶セルロースを含む賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸を含む膨張剤;ステアリン酸マグネシウムを含む潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンを含む甘味料;ならびにペパーミント、スペアミント、アカモノ油、およびチェリーを含む着香料が含まれる。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油を含む液体担体を上記の成分にさらに含めることができる。注射用滅菌組成物は、注射用に適した溶剤、例えば蒸留水または生理食塩水を用いて通常の薬物の実施に従って製剤化することができる。
【0087】
生理食塩液、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのような補助剤を含む他の等張液は、注射用水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールを含むアルコール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールを含む多価アルコール;ポリソルベート80(商標)およびHCO-50を含む非イオン性界面活性剤といった適した溶解剤と共に用いることができる。
【0088】
ゴマ油または大豆油を油脂性液体として用いることができ、安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールを溶解剤として共に用いてもよく、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液を含む緩衝液;塩酸プロカインを含む鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールを含む安定化剤;ならびに/または抗酸化剤と共に製剤化することができる。調製された注射剤は適したアンプルに充填することができる。
【0089】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を患者に、例えば動脈内、静脈内、経皮注射として投与し、または鼻腔内、気管支内、筋肉内、もしくは経口投与として投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変化する;しかし、当業者は、適した投与法を日常的に選択することができる。該化合物がDNAによってコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療のベクターに挿入して、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変化するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0090】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、用量は、正常な成人(体重約60 kg)に経口投与する場合、一般に約0.1 mg〜約100 mg/日、好ましくは約1.0 mg〜約50 mg/日、より好ましくは約1.0 mg〜約20 mg/日である。
【0091】
正常な成人(体重約60 kg)に化合物を注射剤形で非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、約0.01 mg〜約30 mg/日、好ましくは約0.1〜約20 mg/日、およびより好ましくは約0.1〜約10 mg/日を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合においては、慣行的に体重60 kgに換算して適切な用量を計算することができる。
【0092】
IV.食道癌のモニタリングおよび予後診断
治療の有効性の評価:
本明細書において同定された差次的に発現されるEC関連遺伝子によって、ECの治療の経過をモニターすることも可能になる。この方法において、試験細胞集団は、ECに対する治療を受けている対象から提供される。必要ならば、治療前、治療中、および/または治療後の、様々な時点で、対象から試験細胞集団が得られる。その後、試験細胞集団における1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現を決定し、およびそのEC状態が分かっている細胞を含む参照細胞集団における同じ遺伝子の発現と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は関心対象の治療を受けていない。
【0093】
参照細胞集団がEC細胞を含まない場合、試験細胞集団および参照細胞集団におけるEC関連遺伝子の発現の類似性は、関心対象の治療が有効であることを示す。しかしながら、試験細胞集団および正常対照参照細胞集団におけるEC関連遺伝子の発現の相違は、臨床結果または予後がそれほど好ましくないことを示す。同様に、参照細胞集団がEC細胞を含む場合、試験細胞集団および参照細胞集団の間におけるEC関連遺伝子の発現の相違は、関心対象の治療が有効であることを示すが、試験集団およびEC対照参照細胞集団におけるEC関連遺伝子の発現の類似性は、臨床結果または予後がそれほど好ましくないことを示す。
【0094】
さらに、治療開始前に得られる対象由来の生物学的試料において決定される1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療前レベル)と治療後に得られる対象由来の生物学的試料において決定される1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、治療後レベル)を比較することができる。EC関連遺伝子が上方制御される遺伝子である場合、治療後試料における発現レベルの減少は、関心対象の治療が有効であることを示すが、治療後試料における発現レベルの増加または維持は、臨床結果または予後がそれほど好ましくないことを示す。逆に、EC関連遺伝子が下方制御される遺伝子である場合、治療後試料における発現レベルの増加は、関心対象の治療が有効であることを示すが、治療後試料における発現レベルの減少または維持は、臨床結果または予後がそれほど好ましくないことを示す。
【0095】
本明細書において使用される場合、「有効である」という用語は、治療によって、病理学的に上方制御される遺伝子の発現の低下、病理学的に下方制御される遺伝子の発現の増加、または対象における食道管癌腫のサイズ、有病率、もしくは転移の可能性の減少がもたらされるということを示す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効である」という用語は、治療によって、食道腫瘍の形成が遅延もしくは予防されるか、または臨床的ECの症状が遅延、予防、もしくは緩和されるということを意味する。標準的な臨床プロトコルを用いて、食道腫瘍の評価を行うことができる。
【0096】
さらに、有効性を、ECを診断または治療するための任意の公知の方法と関連して決定することができる。例として、症候性の異常、例えば、体重減少、腹痛、背痛、食欲不振、吐き気、嘔吐および全身倦怠、衰弱、ならびに黄疸を特定することによって、ECを診断することができる。
【0097】
食道癌を有する対象の予後の評価:
本発明はまた、ECを有する対象の予後を評価する方法であって、試験細胞集団における1つまたは複数のEC関連遺伝子の発現を、全疾患病期にわたる患者から得られた参照細胞集団における同じEC関連遺伝子の発現と比較する段階を含む方法も提供する。試験細胞集団および参照細胞集団における1つもしくは複数のEC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することにより、または対象から得られた試験細胞集団の経時的な遺伝子発現のパターンを比較することにより、対象の予後を評価することができる。
【0098】
例えば、表2、5、または7に列挙された遺伝子を含む上方制御されるEC関連遺伝子の1つもしくは複数の発現が、試験試料において正常対照試料と比較して増加すること、または表1、4、または6に列挙された遺伝子を含む下方制御されるEC遺伝子のうち1つもしくは複数の発現が、試験試料において正常対照試料と比較して低下することは、予後がそれほど好ましくないことを意味する。その反対に、表1、2、および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子のうちの1つまたは複数の発現が、試験試料において正常対照試料と比較して類似していることは、対象の予後が比較的好ましいことを意味する。好ましくは、対象の予後を、表1、2、および4〜7に列挙された遺伝子からなる群より選択される遺伝子の発現プロファイルを比較することによって評価できる。
【0099】
さらに、本発明はまた、
(a)EC番号1544〜1679(表4〜5)の遺伝子からなる群より選択される、対象から採集された試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(b)該試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを転移陽性症例および転移陰性症例の1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルと比較する段階;
を含み、かつ
(c)転移陽性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが高リスクの食道癌の転移を示し、および転移陰性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが低リスクの食道癌の転移を示す、
対象における食道癌の転移を予測するための方法を提供する。
【0100】
あるいは、本発明は、
(a)EC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子からなる群より選択される、対象から採集された試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(b)該試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを再発陽性症例および再発陰性症例の1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルと比較する段階;
を含み、かつ
(c)再発陽性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが高リスクの食道癌の再発を示し、および再発陰性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが低リスクの食道癌の再発を示す、
対象における食道癌の再発を予測するための方法を提供する。
【0101】
本明細書において同定された差次的に発現されるEC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子によって、対象における食道癌の転移および再発の予測もそれぞれ考慮される。この方法において、試験生物学的試料は、食道癌に対する治療を受けている対象から提供される。必要に応じて、例えば手術などの、治療前、治療中、または治療後の、様々な時点で、対象から複数の試験生物学的試料を得る。その後、試料におけるEC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)より選択される1つまたは複数の遺伝子の発現を決定し、ならびに食道癌の転移および再発のあるおよび/またはない参照試料における同じ遺伝子の発現と比較する。
【0102】
本発明において、転移陰性患者から得られた食道癌細胞を転移陰性症例の参照試料として用いることができる。例えば、通常、病理学的診断で手術切除された腫瘍にリンパ節転移が観察されなかった場合、患者は転移陰性である。したがって、幾つかの好ましい態様において、
(i)食道癌の転移が予測される対象から採集された試料におけるEC番号1544〜1679(表4〜5)からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(ii)該試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを転移陰性試料由来の同じ1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルと比較する段階;
を含み、かつ
(iii)転移陰性試料由来の同じ遺伝子の発現レベルと比較した場合、段階(i)におけるEC番号1544〜1602(表4)からなる群より選択される1つもしくは複数の遺伝子の発現レベルの減少、または段階(i)におけるEC番号1603〜1679(表5)からなる群より選択される1つもしくは複数の遺伝子の発現レベルの増加によって、対象が食道癌を罹患するかまたは食道癌の転移のリスクを有することが示される、
方法によって食道癌の転移を予測することができる。
【0103】
同様に、本発明において、再発陰性患者から得られた食道癌細胞を再発陰性症例の参照試料として用いることができる。例えば、通常、手術後32か月以内に再発が観察されなかった場合、患者は再発陰性である。したがって、幾つかの好ましい態様において、
(i)食道癌の再発が予測される対象から採集された試料におけるEC番号1680〜1716(表6〜7)からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(ii)該試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを再発陰性試料由来の同じ1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルと比較する段階;
を含み、かつ
(iii)再発陰性試料由来の同じ遺伝子の発現レベルと比較した場合、段階(i)におけるEC番号1680〜1688(表6)からなる群より選択される1つもしくは複数の遺伝子の発現レベルの減少、または段階(i)におけるEC番号1689〜1716(表7)からなる群より選択される1つもしくは複数の遺伝子の発現レベルの増加によって、対象が食道癌を罹患するかまたは食道癌の再発のリスクを有することが示される、
方法によって食道癌の再発を予測することができる。
【0104】
本発明の方法において、以下の方法の任意の1つによって、EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)の発現レベルを検出することができる:
(a)EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)のmRNAを検出すること、
(b)EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)のタンパク質を検出すること、および
(c)EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)のタンパク質の生物学的活性を検出すること。
【0105】
本発明はまた、以下からなる群より選択される任意の1つの構成要素を含む、転移または再発を予測するためのキットを提供する:
(a)EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)のmRNAを検出するための試薬、
(b)EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)のタンパク質を検出するための試薬、および
(c)EC番号1544〜1679(表4〜5)またはEC番号1680〜1716(表6〜7)のタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【0106】
V. 食道癌の治療および予防
食道癌を阻害する方法:
本発明はさらに、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子のうちの1つまたは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を低下させるか、または表1、4、および6に列挙されたEC関連遺伝子のうちの1つまたは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を増加させることにより、対象におけるECの症状の1つまたは複数を予防、治療または軽減するための方法も提供する。適した治療用化合物を、ECに罹患している対象またはEC発症のリスク(もしくはそれに対する感受性)を有する対象に対して、予防的または治療的に投与することができる。このような対象は、標準的な臨床的方法を用いて、または表1、2および4〜7に列挙されたEC関連遺伝子のうちの1つまたは複数の異常な発現レベルもしくはその遺伝子産物の異常な活性を検出することにより、同定することができる。本発明の文脈において、適した治療薬には、例えば、細胞周期調節、細胞増殖、およびプロテインキナーゼ活性の阻害物質が含まれる。
【0107】
本発明の治療方法は、EC細胞から回収された同じ種類の組織の正常細胞と比較して、EC細胞において発現が低下している遺伝子(「下方制御される」または「低発現される」遺伝子)の1つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を増大させる段階を含むことができる。これらの方法において、対象は、対象における低発現される(下方制御される)遺伝子のうち1つまたは複数の量を増加させる化合物の有効量によって治療される。投与は全身的でも局所的でもよい。適した治療用化合物には、低発現される遺伝子のポリペプチド産物、その生物活性断片、ならびに低発現される遺伝子をコードしEC細胞における発現を可能にする発現制御エレメントを有する核酸;例えば、EC細胞にとって内因性であるこのような遺伝子の発現レベルを増大させる作用物質(すなわち、低発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を上方制御するもの)が含まれる。このような化合物の投与は、対象の食道細胞における、異常に低発現される1つまたは複数の遺伝子の影響に対抗し、対象の臨床状態を改善する。
【0108】
または、本発明の治療方法は、食道細胞において発現が異常に増加している遺伝子(「上方制御される」または「過剰発現される」遺伝子)の1つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能またはその両方を低下させる段階を含むことができる。発現は、当技術分野で公知の幾つかのやり方のうち任意のものによって阻害させることができる。例えば、化合物、例えば過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を阻害するまたはそれに拮抗する核酸を、例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することによって発現を阻害することができる。
【0109】
阻害性核酸
上述のように、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子のヌクレオチド配列に相補的な阻害性核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、リボザイム)を用いて遺伝子の発現レベルを低下させることができる。例えば、食道癌で上方制御されている表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子に相補的な阻害性核酸は、食道癌の治療に有用である。具体的には、本発明の阻害性核酸は、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子、もしくはそれに対応するmRNAに結合し、それによって遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、ならびに/または表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を阻害し、それによって、タンパク質の機能を阻害することによって、作用することができる。
【0110】
本明細書において使用される場合の「阻害性核酸」という用語は、標的配列に完全に相補的であるヌクレオチドおよび阻害性核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズすることができる限り、1つまたは複数のヌクレオチドの不一致を有するヌクレオチドの両方を包含する。本発明の阻害性核酸には、少なくとも15の連続するヌクレオチドの範囲にわたって少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い配列同一性を有するポリヌクレオチドが含まれる。当技術分野において公知のアルゴリズムを用いて配列同一性を決定することができる。
【0111】
1つの有用なアルゴリズムは、Altschul et al.,(1990)J. Mol. Biol. 215:403-10で最初に記載された、BLAST2.0である。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公に入手可能である(ncbi.nlm.nih.gov のワールドワイドウェブ上で入手可能)。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合、幾つかの正の値の閾値スコアTと一致するかまたはそれを満たすかいずれかの、クエリー配列中の長さWの短いワードを同定することによって、高スコアリング配列対(HSP)を最初に同定することを伴う。Tは近隣ワードスコア閾値と称される(Altschul et al., 前記)。これらの最初の近隣ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを見出すための検索を開始するためのシードとして働く。その後、このワードヒットは、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各々の配列に沿って両方向に伸長される。ヌクレオチド配列については、パラメータM(1対の一致残基に対する報酬スコア;常に>0)およびN(不一致残基に対する罰則スコア;常に<0)を用いて、累積スコアを計算する。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスを用いて累積スコアを計算する。累積アラインメントスコアがその最大達成値から量Xだけ低下する場合;1つもしくは複数の負のスコアリング残基アラインメントの蓄積によって、累積スコアがゼロもしくはそれ未満に進む場合;またはどちらかの配列の末端に達する場合、各々の方向におけるワードヒットの伸長は停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXは、アラインメントの感度および速度を決定する。(ヌクレオチド配列についての)BLASTNプログラムは、11のワード長(W)、10の期待値(E)、100のカットオフ、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較をデフォルトとして用いる。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、3のワード長(W)、10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリングマトリックスをデフォルトとして用いる(Henikoff & Henikoff(1989)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915-9、を参照されたい)。
【0112】
有用な配列アラインメントアルゴリズムのさらなる例はPILEUPである。PILEUPは、進行性の、対を成すアラインメントを用いて、関連配列の群から多重配列アラインメントを作製する。それはまた、アラインメントを作製するために用いられるクラスタリング関係性を示す樹状図をプロットすることができる。PILEUPは、Feng & Doolittle,(1987)J. Mol. Evol. 35:351-60の進行性アラインメント法の単純化したものを用いる。用いられる方法は、Higgins & Sharp,(1989)CABIOS 5:151-3によって記載された方法に類似している。本プログラムは、例えば、5,000字の最大長の300配列まで整列させることができる。多重アラインメント手順は、2つの最も類似する配列の対を成すアラインメントで始まり、2つの整列させた配列のクラスターを生成する。その後、このクラスターは、次に最も関連した配列または整列させた配列のクラスターに対して整列させることができる。配列の2つのクラスターは、2つの個々の配列の対を成すアラインメントの単純な伸長によって整列させることができる。最終的なアラインメントは、一連の進行性の、対を成すアラインメントによって達成される。本プログラムを用いてクラスタリング関係性の系統樹または樹状の図表示を作製することもできる。配列比較の領域用の特定の配列およびそれらのアミノ酸またはヌクレオチド座標を指定することによって、本プログラムは実行される。例えば、単量体ドメインファミリーにおける保存されたアミノ酸を決定するかまたはファミリーにおける単量体ドメインの配列を比較するために、本発明の配列、またはコード核酸を整列させ、構造-機能情報を提供する。
【0113】
本発明のアンチセンス核酸は、ECに関連したマーカー遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、これらのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合することによって作用し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、タンパク質の発現を阻害して、その結果タンパク質の機能を阻害する。
【0114】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性の適切な基剤と混合することにより、外用製剤、例えばリニメント剤または湿布剤の形にすることができる。
【0115】
同じく、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、本発明のアンチセンス核酸を、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬、および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは既知の方法に従って調製可能である。
【0116】
本発明のアンチセンス核酸は、罹患部位に直接適用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に投与することができる。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス封入用媒質を用いることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体が非制限的に含まれる。
【0117】
本発明の阻害性核酸の投与量は、患者の状態に従って適切に調整でき、所望の量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0118】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害し、そのため、本発明のタンパク質の生物学的活性を抑制するのに有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害物質も、本発明のタンパク質の生物学的活性を阻害し得るため、有用である。
【0119】
本発明の方法は、細胞における、上方制御されるEC関連遺伝子の発現、例えば、細胞の悪性転換に起因する上方制御を変化させるために用いることができる。標的細胞におけるsiRNAと表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子のいずれか1つに相補的な転写物との結合は、細胞によるタンパク質産生の低下を引き起こす。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物程度の長さであり得る。好ましくは、オリゴヌクレオチドは75、50、25ヌクレオチド長未満である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは19〜25ヌクレオチド長未満である。
【0120】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ抵抗性を付与するためにチオエート化オリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0121】
また、マーカー遺伝子に対するsiRNAを、マーカー遺伝子の発現レベルを低下させるために用いることもできる。本明細書において「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。DNAが転写してRNAを生じる鋳型である手法を含め、siRNAを細胞に導入するための標準的な手法を用いることができる。本発明の文脈において、siRNAは、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子等の上方制御されるマーカー遺伝子に対するセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0122】
表2、5、および7に列挙された遺伝子を含むEC関連遺伝子のsiRNA は、標的mRNAとハイブリダイズし、正常な一本鎖mRNA転写物と会合することによって、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子によりコードされるポリペプチドの産生を低下または阻害し、それにより翻訳を妨げ、タンパク質の発現を妨げる。本発明の文脈において、siRNAは好ましくは、500, 200、100、50、または25ヌクレオチド長未満である。より好ましくは、siRNAは19〜25ヌクレオチド長である。ECT2 siRNAの作製のための核酸配列の例には、標的配列としての配列番号:8および9のヌクレオチドの配列が含まれる。CDC45L siRNA産生のための例示的な核酸配列は、標的配列として、配列番号:10および11のヌクレオチドの配列を含む。siRNAの阻害活性を高める目的で、ウリジン「u」ヌクレオチドの1つまたは複数を、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端に付加することもできる。付加する「u」の数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端に一本鎖を形成する。
【0123】
表2、5、および7に列挙された遺伝子を含むEC関連遺伝子のsiRNAは、mRNA転写物と結合し得る形態で、細胞に直接導入することができる。または、siRNAをコードするDNAを、ベクター中にある状態で送達することができる。
【0124】
ベクターは、例えば、EC関連遺伝子標的配列を、前記配列に隣接する機能的に結合した調節配列を有する発現ベクター中に、両方の鎖の発現が(DNA分子の転写によって)可能になるような様式でクローニングすることによって作製し得る(Lee, N.S.,et al., (2002) Nature Biotechnology 20:500-5)。EC関連遺伝子のmRNAに対するアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側にあるプロモーター配列)によって転写させ、EC関連遺伝子のmRNAに対するセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側にあるプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖およびアンチセンス鎖をインビボでハイブリダイズさせて、EC関連遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を生成させる。または、2つの構築物を利用して、siRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することもできる。クローニングされたEC関連遺伝子は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するような、ヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることができる。
【0125】
ヘアピンループ構造を形成させる目的で、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列との間に配置することができる。したがって、本発明は、一般式5'-[A]-[B]-[A']-3'(式中、[A]は表2、5、または7から選択される遺伝子の配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である)を有するsiRNAも提供する。領域[A]は[A']とハイブリダイズし、すると領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は3〜23ヌクレオチド長であり得る。ループ配列は例えば、以下の配列より選択することができる(ワールドワイドウェブ上のambion.com/techlib/tb/tb_506.htmlで見られる)。さらに、23ヌクレオチドからなる1つのループ配列によって活性のあるsiRNAを得ることもできる(Jacque, J.M., et al., (2002) Nature 418:435-8)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, J. M, et al., (2002) Nature, Vol. 418:435-8。
UUCG:Lee, N.S., et al., (2002) Nature Biotechnology 20:500-5;Fruscoloni, P., et al., (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100(4):1639-44。
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, D. M.,et al., (2003) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4:457-67。
【0126】
したがって、幾つかの態様において、ループ配列を、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ配列はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。本発明の文脈における使用に適したヘアピンsiRNAの例には以下が含まれる。
ECT2-siRNAに対して:
gaugcacucaccuuguagu-[b]-acuacaaggugagugcauc(配列番号:8の標的配列に対して)、
ggcaaauacuccugagcuc-[b]-gagcucaggaguauuugcc(配列番号:9の標的配列に対して)、
CDC45L-siRNAに対して:
gagacauccucuuugacua-[b]-uagucaaagaggaugucuc(配列番号:10の標的配列に対して)、
cagaccagugggugcaaga-[b]-ucuugcacccacuggucug(配列番号:11の標的配列に対して)。
【0127】
適切なsiRNAのヌクレオチド配列は、ワールドワイドウェブ上Ambionのウェブサイトambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.htmlで入手可能なsiRNA設計コンピュータープログラムを用いて設計することができる。コンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0128】
siRNA標的部位の選択:
1.対象となる転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を求めて下流にスキャンする。siRNA標的部位として、各AAおよび3'隣接ヌクレオチド19個の出現を記録する。Tuschl, et al. Genes Dev 13(24):3191-7(1999)によると、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域が、調節タンパク質結合部位により富んでいる可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計しないことを推奨している。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.標的部位をヒトゲノムデータベースと比較して、他のコード配列と有意な配列同一性を有する如何なる標的配列も検討から除外する。配列同一性検索は、NCBIサーバー、ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において認められ得るBLAST2.0(Altschul SF, et al., Nucleic Acids Res. 1997;25(17):3389-402; Altschul SF, J Mol Biol. 1990;215(3):403-10.)を用いて行うことができる。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。アンビオンアルゴリズムを用いて、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿っていくつかの標的配列を選択することができる。
【0129】
EC関連遺伝子配列に隣接する調節配列は同一でもよく、またはそれらの発現を独立的に、または時間的もしくは空間的に調節し得るように異なっていてもよい。siRNAは、EC関連遺伝子鋳型のそれぞれを、例えば核内低分子RNA(snRNA)U6由来のRNA ポリメラーゼIII転写単位またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクター中にクローニングすることにより、細胞内で転写される。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション促進物質を用いることができる。FuGENE(Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(和光純薬工業)は、トランスフェクション促進物質として有用である。
【0130】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害するので、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質は、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを1つまたは複数含む組成物は、食道癌を治療するのに有用である。
【0131】
抗体:
または、ECにおいて過剰発現された遺伝子の1つまたは複数の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する化合物、さもなければ遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害され得る。例えば、化合物は、1つまたは複数の過剰発現された遺伝子産物に結合する抗体であり得る。
【0132】
本発明では、抗体、特に上方制御されるマーカー遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の断片の使用に言及する。本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわち上方制御されるマーカー遺伝子の遺伝子産物)またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに、抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の1つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であり得る。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはHおよびL鎖からのFv断片が適当なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であり得る(Huston, J.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-83(1988))。より詳しく述べると、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンを含む酵素によって処理することによって産生することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して、発現ベクターに挿入し、適当な宿主細胞において発現させることができる(例えば、Co M.S. et al., J. Immunol. 152:2968-76(1994);Better M. and Horwitz A.H., Methods Enzymol. 178:476-96(1989);Pluckthun A. and Skerra A., Methods Enzymol. 178:497-515(1989);Lamoyi E., Methods Enzymol. 121:652-63(1986);Rousseaux J. et al., Methods Enzymol. 121:663-9(1986);Bird R.E. and Walker B.W., Trends Biotechnol. 9:132-7(1991)を参照されたい)。
【0133】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む多様な分子に結合させることによって修飾することができる。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学修飾することによって得ることができる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0134】
または、抗体には、ヒト以外の抗体に由来する可変領域とヒト抗体に由来する定常領域とを有するキメラ抗体、またはヒト以外の抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体が含まれ得る。そのような抗体は、既知の技術を用いて調製することができる。
【0135】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を治療するためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)を含む抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F and Tortora G. Clin Cancer Res. 2001;7(10):2958-70. Review.;Slamon DJ, et al., N Engl J Med. 2001;344(11):783-92.;Rehwald U,et al., Blood. 2003;101(2):420-4.;Fang G, et al., (2000). Blood, 96, 2246-53)。これらの薬物は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬物は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的薬物は、標準的な化学療法と併用して用いた場合に、その有効性を増強させることができる(Gianni, L. (2002), Oncology 63 suppl 1, 47-56;Klejman A, et al.,(2002), Oncogene 21:5868-76)。したがって、将来の癌治療は、従来の薬物を、腫瘍細胞の異なる特徴、例えば血管新生および浸潤性をねらった標的特異的薬物と併用することを含むであろう。
【0136】
これらの調節方法は、エクスビボもしくはインビトロで行うこともでき(例えば、細胞を物質と共に培養することにより)、またはインビボで行うこともできる(例えば、物質を対象に投与することにより)。本方法は、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを、差次的に発現される遺伝子の異常な発現またはそれらの遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療法として投与することを含む。
【0137】
遺伝子および遺伝子産物の各発現レベルまたは生物学的活性が(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)増加していることによって特徴づけられる疾患および障害は、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、それを低下させるまたは阻害する)治療薬によって治療され得る。活性に拮抗する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。
【0138】
したがって、本発明の文脈において利用し得る治療薬には、例えば以下のものが含まれる:(i)過剰発現または低発現される1つまたは複数の遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体;(ii)過剰発現される遺伝子または遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現または低発現される1つまたは複数の遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸、または「機能欠損」である核酸(すなわち、1つまたは複数の過剰発現される遺伝子の核酸内部への非相同的挿入のため);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、阻害物質、過剰発現または低発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させるアゴニストおよびアンタゴニスト)。機能欠損アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために用いられる(例えば、Capecchi, Science 244:1288-92 1989を参照)。
【0139】
生物学的活性の低下(疾患または障害に罹患していない対象と比較して)によって特徴づけられる疾患および障害は、活性を増加させる(すなわち、それに対するアゴニストである)治療薬によって治療することができる。活性を上方制御する治療薬は、治療的または予防的に投与することができる。用い得る治療薬は、ポリペプチド(またはその類似体、誘導体、断片もしくはホモログ)、または生物学的利用能を高めるアゴニストを含むが、これらに限定されない。
【0140】
レベルの増加または低下は、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、患者の組織試料を得て(例えば、生検組織から)、これをRNAまたはペプチドレベル、発現されたペプチドの構造および/または活性(またはその発現が変化している遺伝子のmRNA)に関してインビトロでアッセイすることによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知である方法には、イムノアッセイ(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンアッセイ、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるがこれらに限定されない。
【0141】
予防的投与は、疾患もしくは障害が予防されるように、またはその進行が遅れるように、疾患または傷害の明白な臨床症状が発現する前に行われる。
【0142】
本発明の治療方法は、細胞を、差次的に発現される遺伝子の遺伝子産物の活性のうち1つまたは複数を調節する作用物質と接触させる段階を含み得る。タンパク質活性を調節する作用物質の例には、核酸、タンパク質、このようなタンパク質の天然の同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣物およびその他の低分子が含まれるが、これらに限定されない。例えば、適した作用物質は、差次的に低発現される1つまたは複数の遺伝子の1つまたは複数のタンパク質活性を賦活化し得る。
【0143】
食道癌に対するワクチン接種:
本発明はまた、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子(すなわち、上方制御される遺伝子)からなる群より選択される核酸の1つまたは複数にコードされるポリペプチドの1つまたは複数、該ポリペプチドの免疫学的活性断片(すなわち、エピトープ)、またはポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む、対象における食道癌を治療または予防する方法にも関する。ポリペプチドの投与は、対象において抗腫瘍免疫を誘導する。抗腫瘍免疫を誘導するために、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子からなる群より選択される核酸の1つまたは複数にコードされるポリペプチドの1つまたは複数、該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または該ポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを、治療または予防が必要な患者に投与する。さらに、表5および表7に列挙されたEC関連遺伝子からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチドは、転移性および再発性の食道癌に対してそれぞれ抗腫瘍免疫を誘導し得る。ポリペプチドまたはその免疫学的活性断片はECに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片は、T細胞受容体(TCR)に結合した形で投与してもよく、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)、もしくはB細胞を含む抗原提示細胞(APC)によって提示された形で投与することができる。DCの強い抗原提示能のため、APCの中では、DCを用いることが最も好ましい。
【0144】
免疫学的活性断片(すなわち、エピトープ)の同定は、当技術分野において周知である。B細胞エピトープは、連続的なアミノ酸またはタンパク質の三次折り畳みによって近接した非連続的なアミノ酸配列の両方から形成することができる。連続的なアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露で保持されるが、三次折り畳みによって形成される(すなわち、立体構造的に決定される)エピトープは、典型的には、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的には、特有の空間的立体構造中に、少なくとも3、およびより一般的には、少なくとも5または8〜10アミノ酸を含む。エピトープの空間的立体構造を決定する方法には、例えば、X線結晶学および2次元核磁気共鳴が含まれる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, 第66巻, Glenn E. Moris編.(1996)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、ある抗体が別の抗体の標的抗原への結合をブロックする能力を示す簡単なイムノアッセイ(例えば、競合的ELISAまたは固相ラジオイムノアッセイ(SPRIA))で同定することができる。T細胞は、CD8細胞については約9アミノ酸、またはCD4細胞については約13〜15アミノ酸の連続的なエピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに応答して準備刺激されたT細胞による3H-チミジン取り込みによって決定されるような、抗原依存性増殖を測定するインビトロアッセイによって(Burke et al., J. Inf. Dis. 170, 1110-19(1994))、抗原依存性殺傷によって(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ、Tigges et al., J. Immunol.(1996)156:3901-10)、またはサイトカイン分泌によって同定することができる。免疫原性エピトープを決定するための方法は、例えば、Reineke, et al., Curr Top Microbiol Immunol(1999)243:23-36;Mahler, et al., Clin Immunol(2003)107:65-79;Anthony and Lehmann, Methods(2003)29:260-9;Parker and Tomer, Methods Mol Biol(2000)146:185-201;DeLisser, Methods Mol Biol(1999)96:11-20;Van de Water, et al., Clin Immunol Immunopathol(1997)85:229-35;Carter, Methods Mol Biol(1994)36:207-23;およびPettersson, Mol Biol Rep(1992)16:149-53に記載されている。
【0145】
本発明において、ECに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明によると、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子にコードされるポリペプチドまたはその断片は、表2、5、および7に列挙されたEC関連遺伝子を発現するEC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導するHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープである。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般的に、抗腫瘍免疫には、以下を含む免疫応答が含まれる:
−腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導、
−腫瘍を認識する抗体の誘導、および
−抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0146】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか1つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると決定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の反応をインビボまたはインビトロで観察することによって検出することができる。
【0147】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的に応答するT細胞は、抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによるT細胞へのペプチドの提示およびCTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も同様に抗腫瘍免疫において重要であることから、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用は、これらの細胞の活性化効果を指標として用いて評価することができる。Coligan, Current Protocols in Immunology, supraを参照されたい。
【0148】
APCとして樹状細胞(DC)を用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中でも最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、試験ポリペプチドをまずDCに接触させて、このDCをT細胞に接触させる。DCに接触させた後に、被検体細胞に対して細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、試験ポリペプチドが細胞障害性T細胞の誘導活性を有することを示している。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(乳糖デヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法も同様に周知である。
【0149】
DCとは別に、末梢血単核球(PBMC)も同様にAPCとして用いることができる。CTLの誘導は、GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによって増強されることが報告されている。同様に、CTLは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによって誘導されることが示されている。
【0150】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された試験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであるとみなされる。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドに接触させることによって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示により細胞障害性を獲得したCTLも同様に、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いるそのような腫瘍の治療法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0151】
一般的に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、CTL誘導効率は、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせて、それらをDCに接触させることによって増加することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片によって刺激する場合、複数のタイプの断片の混合物を用いることが有利である。
【0152】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することができる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、そのポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、そして腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有するとみなすことができる。
【0153】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導によって、ECを治療および予防することができる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制を含む段階のいずれかが含まれる。癌を有する個体の死亡率および疾病率の低下、血液中の腫瘍マーカーのレベルの減少、癌に伴う検出可能な症状の軽減等も同様に、癌の治療または予防に含まれる。そのような治療および予防効果は好ましくは統計学的に有意である。例えば、細胞増殖疾患に対するワクチンの治療または予防効果を、ワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えば、スチューデントのt-検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いることができる。
【0154】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質またはそのタンパク質をコードするベクターをアジュバントと併用することができる。アジュバントは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合にタンパク質に対する免疫応答を増強させる化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適当に組み合わせることができる。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等が含まれる。さらに、ワクチンは必要に応じて、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含み得る。ワクチンは、例えば、皮内経路、筋肉内経路、皮下経路、経皮的経路、頬側経路、または鼻腔内経路を通じて、全身または局所投与され得る。ワクチン投与は、1回投与によって行ってもよく、または複数回投与によって追加刺激してもよい。用量は以下に記載する通りである。
【0155】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、腫瘍を例えばエクスビボ法によって治療または予防することができる。より詳しく述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取して、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させて、APCまたはCTLの誘導後、細胞を対象に投与することができる。APCはまた、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することができる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する高い活性を有する細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法をより効率よく行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを用いて、細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体から回収された類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いることができる。
【0156】
ワクチンを開発するための一般的な方法は、例えば、Vaccine Protocols, Robinson and Cranage, Eds., 2003, Humana Press; Marshall, Vaccine Handbook: A Practical Guide for Clinicians, 2003, Lippincott Williams & Wilkins; and Vaccine Delivery Strategies, Dietrich, et al., Eds., 2003, Springer Verlagに記載されている。
【0157】
薬学的組成物:
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、細胞増殖疾患、例えば癌を治療または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いることができる。
【0158】
本発明の文脈において、適切な薬学的製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は静脈内である。製剤は任意で用量単位ごとに個別に包装される。
【0159】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれが活性成分の規定量を含むカプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。適切な製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、任意でボーラス舐剤またはペーストとして投与される。経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、潤滑剤、崩壊剤、および/または湿潤剤を含む通常の賦形剤を含み得る。錠剤は、任意で1つまたは複数の製剤成分との圧縮または成形によって作製することができる。圧縮錠は、流動状の活性成分、例えば粉剤または顆粒剤を、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤、および/または分散剤と混合して、適した装置において圧縮することによって調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適した機械において成形することによって作製することができる。錠剤は、当技術分野で周知の方法に従ってコーティングすることができる。経口液体調製物は、例えば、水性もしくは油性懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形であり得、または使用前に水もしくは他の適した溶剤によって構成するための乾燥製品として提供することもできる。そのような液体調製物は、通常の添加剤、例えば懸濁剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油が含まれ得る)、および/または保存剤を含むことができる。錠剤は任意で、活性成分の徐放または制御放出を提供するように調製することができる。錠剤の包装は、毎月服用される錠剤1錠を含むことができる。
【0160】
非経口投与用の適切な製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤および対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含んでいてもよい水性および非水性滅菌注射剤、ならびに懸濁剤および/または濃化剤を含む水性および非水性滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量で容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れることができ、滅菌液体担体、例えば生理食塩液、注射用水を使用直前に加えるだけでよい凍結乾燥状態で保存することができる。または、製剤は、連続注入用であり得る。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に記述した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0161】
直腸投与用の適切な製剤には、標準的な担体、例えばカカオバターまたはポリエチレングリコールを含む坐剤が含まれる。口内への、例えば口腔内または舌下への局所投与用の適切な製剤には、着香基剤、例えばショ糖およびアカシアまたはトラガカントに活性成分を含むトローチ剤、ならびに基剤、例えばゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアに活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、もしくは分散性の粉末として、または点鼻剤の形態で用いることができる。点鼻剤は、1つまたは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤も含む水性または非水性基剤によって調製することができる。
【0162】
吸入による投与の場合、吸入器、ネブライザー、加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達するための他の都合のよい手段によって化合物を都合よく送達することができる。加圧パックは、適した噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適したガスを含み得る。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、一定量を送達するための弁を提供することによって決定できる。
【0163】
または、吸入または吹入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば化合物と、適した粉末基剤、例えば乳糖またはデンプンとの粉末混合物の形状をとることができる。粉末組成物は、単位投与剤形、例えば、粉末が吸入器または吹入器を利用して投与され得るカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形で提供され得る。
【0164】
他の製剤には、治療剤を放出する埋め込み可能装置および接着パッチが含まれる。
【0165】
必要に応じて、活性成分を持続的に放出するように適合された上記の製剤を用いることができる。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤、および/または保存剤を含む他の活性成分を含み得る。
【0166】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において通常の他の物質が含まれ得ると理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含み得る。
【0167】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用するように、活性成分またはその適当な分画の有効量を含む。
【0168】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で経口または注射によって投与され得る。成人ヒトの用量範囲は一般的に、約5 mg〜約17.5 g/日、好ましくは約5 mg〜約10 g/日、および最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。錠剤または個別の単位で提供される他の単位投与剤形は、便宜上、同一単位量を複数回投与した量で有効性を示すような単位量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常約100 mg〜約500 mgを含み得る。
【0169】
用いられる用量は、対象の年齢および性別、治療しようとする詳細な障害およびその重症度を含む、様々な要因に依存すると考えられる。また、投与の経路も状態およびその重症度に依存して変化し得る。いずれにしても、適切で最適な投与量は、当業者により、上述した要因を考慮した上で慣行的に計算され得る。
【0170】
VI. 癌の血清診断:
対象由来の生物学的試料におけるDKK1のレベルを測定することによって、対象における癌の発生または癌を発症する素因を決定することができる。好ましくは、癌は食道癌および肺癌のどちらか、または両方である。したがって、本発明は、生物学的試料におけるDKK1のレベルを決定すること(例えば、測定すること)を伴う。
【0171】
DKK1遺伝子かまたはDKK1タンパク質かのいずれかを試料中で検出することができる限り、任意の生物学的材料をDKK1のレベルを決定するための生物学的試料として用いてもよい。好ましくは、生物学的試料は、血液、血清、または痰などのその他の体液を含む。好ましい生物学的試料は、血液または血液由来の試料である。血液由来の試料には、血清、血漿、または全血が含まれる。
【0172】
本発明の方法に従って癌について診断される対象は、好ましくは哺乳動物であり、ならびにヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む。
【0173】
本発明の1つの態様において、DKK1レベルを決定するために、DKK1遺伝子の遺伝子転写物(例えば、DKK1タンパク質)を検出する。当業者に周知の技術を用いてDKK1遺伝子を検出および測定することができる。本方法によって検出される遺伝子転写物には、mRNAおよびタンパク質などの、転写産物および翻訳産物の両方が含まれる。例えば、DKK1遺伝子に対応する配列を用いて、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によってDKK1 mRNAを検出するためのプローブを構築することができる。対象生物学的試料中の遺伝子転写物へのプローブのハイブリダイゼーションは、DNAアレイ上で行うこともできる。別の例として、DKK1配列を用いて、例えば、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの増幅に基づく検出方法においてDKK1ポリヌクレオチドを特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。
【0174】
代わりの態様において、生物学的試料中のDKK1タンパク質の量を測定することによって、DKK1のレベルを決定する。生物学的試料中のDKK1タンパク質の量を決定するための方法には、イムノアッセイ法が含まれる。好ましい態様において、イムノアッセイはELISAを含む。
【0175】
その後、生物学的試料中のDKK1レベルを正常対照試料などの、参照試料と関連するDKK1レベルと比較する。「正常対照レベル」という語句は、癌を罹患していない集団の生物学的試料において典型的に見出されるDKK1のレベルを指す。参照試料は、好ましくは試験試料の性質と類似した性質である。例えば、試験試料が診断または予後診断されるべき患者から採集された血清を含む場合、参照試料も血清であるべきである。対照および試験対象由来の生物学的試料中のDKK1レベルを同時に決定してもよくまたは、あるいは、対照群から以前に採集された試料中のDKK1のレベルを解析することによって得られる結果に基づく統計的方法によって、正常対照レベルを決定してもよい。
【0176】
また、DKK1レベルを用いて癌の治療の経過をモニターしてもよい。この方法において、試験生物学的試料は、癌の治療を受けている対象から提供される。好ましくは、癌は食道癌および肺癌である。好ましくは、治療前、治療中、または治療後の様々な時点で対象から複数の試験生物学的試料を得る。その後、治療後試料中のDKK1のレベルを治療前試料中のDKK1のレベルまたは、あるいは、参照試料(例えば、正常対照レベル)と比較してもよい。例えば、治療後DKK1レベルが治療前DKK1レベルよりも低い場合、治療は有効であったと結論付けることができる。同様にまた、治療後DKK1レベルが正常対照DKK1レベルと類似している場合、治療は有効であったと結論付けることができる。
【0177】
「有効な」治療とは、DKK1のレベルの低下または対象における癌のサイズ、有病率、もしくは転移の可能性の減少をもたらす治療である。治療が予防的に適用される場合、「有効である」とは、治療によって癌の発生が遅延もしくは予防されるか、または癌の臨床症状が緩和されるということを意味する。標準的な臨床プロトコルを用いて、癌の評価を行うことができる。さらに、癌を診断または治療するための任意の公知の方法と関連して治療の有効性を決定することができる。例えば、組織病理学的にまたは慢性の咳、嗄声、喀血、体重減少、食欲不振、息切れ、喘鳴、繰り返し起こる気管支炎または肺炎の発作、および胸痛などの症候性異常を同定することによって、癌は日常的に診断される。
【0178】
さらにまた、癌を診断するための本方法を、患者に由来する生物学的試料中のDKK1のレベルと参照試料のDKK1のレベルを比較することによって、癌を有する患者の予後を評価するために適用してもよい。好ましくは、癌は食道癌および肺癌である。あるいは、患者の予後を評価するために、一連の病期にわたって生物学的試料中のDKK1のレベルを測定してもよい。正常対照レベルと比較したDKK1のレベルの増加は、あまり良好でない予後を示す。正常対照レベルと比較した場合のDKK1のレベルの類似性は、患者のより良好な予後を示す。
【0179】
VII. 癌の予後を評価するための方法
本発明によって、DKK1発現が患者のより不良な予後と著しく関連するということが新たに発見された(図2参照)。したがって、本発明は、患者の生物学的試料中のDKK1遺伝子の発現レベルを検出し;検出された発現レベルを対照レベルと比較し;そして不良な予後(不良な生存)を示すような対照レベルに対して増加した発現レベルを決定することによって、癌、特に、食道癌および肺癌を有する患者の予後を決定または評価するための方法を提供する。
【0180】
本明細書において、「予後」という用語は、症例の性質および症状によって示されるような疾患からの回復の見込み、ならびに疾患の起こりそうな結果に関する予想を指す。したがって、あまり良好でない、悲観的な、不良な予後は、より低い治療後の生存期間または生存率によって定義される。逆に、見通しの明るい、良好な、または良い予後は、上昇した治療後の生存期間または生存率によって定義される。
【0181】
「予後を評価する」という用語は、患者の癌の将来の結果(例えば、悪性、癌の治癒の見込み、生存、およびそれらと同様のもの)を、予測し、予想し、または所与の検出または測定と関連付ける能力を指す。例えば、長時間にわたるDKK1の発現レベルの決定によって、患者についての結果(例えば、悪性の増加または減少、癌の悪性度の増加または減少、癌の治癒の見込み、生存、およびそれらと同様のもの)を予測することが可能となる。
【0182】
本発明の文脈において、「予後を評価(または決定)する」という語句は、癌、進行、特に癌再発、転移拡散、および疾患のぶり返しの予測および尤度解析を包含するよう意図される。予後を評価するための本方法は、治療的介入、病期などの診断基準、ならびに新生物性疾患の転移または再発に対する疾患モニタリングおよび監視を含む、治療様式に関する決定を行う際に臨床的に用いられるよう意図される。
【0183】
本方法に用いられる患者由来の生物学的試料は、DKK1遺伝子が試料中で検出され得る限り、評価されるべき対象に由来する任意の試料であってもよい。好ましくは、生物学的試料は食道細胞および肺細胞(食道および肺から得られる細胞)を含む。さらに、生物学的試料は、痰、血液、血清、または血漿などの体液を含む。その上、試料は組織から純化された細胞であってもよい。生物学的試料は、治療前、治療中、および/または治療後を含む、様々な時点で患者から得てもよい。
【0184】
本発明によって、患者由来の生物学的試料において測定されるDKK1遺伝子の発現レベルが高ければ高いほど、治療後の寛解、回復、および/または生存についての予後は不良で、かつ不良な臨床結果の尤度は高いということが示された。したがって、本方法によって、比較に用いられる「対照レベル」は、例えば、治療の後で、癌の良いまたは見通しの明るい予後を示した個体または個体の集団において任意の種類の治療の前に検出されるDKK1遺伝子の発現レベルであってもよく、それは本明細書において「良い予後対照レベル」と称される。あるいは、「対照レベル」は、治療の後で、癌の不良なまたは悲観的な予後を示した個体または個体の集団において任意の種類の治療の前に検出されるDKK1遺伝子の発現レベルであってもよく、それは本明細書において「不良な予後対照レベル」と称される。「対照レベル」は、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであるか、または複数の発現パターンに由来する。したがって、対照レベルは、癌の患者、または疾患状態(良いもしくは不良な予後)が公知である患者の集団において任意の種類の治療の前に検出されるDKK1遺伝子の発現レベルに基づいて決定されてもよい。好ましくは、癌は食道癌および肺癌である。公知の疾患状態を有する患者群におけるDKK1遺伝子の発現レベルの標準値を用いることが好ましい。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法によって得てもよい。例えば、平均±2 S.D.または平均±3 S.D.の範囲を標準値として用いてもよい。
【0185】
対照レベルは、任意の種類の治療の前に疾患状態(良い予後または不良な予後)が公知である癌患者(対照または対照群)から以前に採集および保存された試料を用いることによって、試験生物学的試料と同時に決定されてもよい。
【0186】
あるいは、対照レベルは、対照群から以前に採集および保存された試料中のDKK1遺伝子の発現レベルを解析することによって得られる結果に基づく統計的方法によって決定されてもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞由来の発現パターンのデータベースであり得る。その上、本発明の局面によって、生物学的試料中のDKK1遺伝子の発現レベルを複数の対照レベルと比較してもよく、対照レベルは複数の参照試料から決定される。患者由来の生物学的試料の組織型と類似する組織型に由来する参照試料から決定された対照レベルを用いることが好ましい。
【0187】
本発明によって、DKK1遺伝子の発現レベルの良い予後対照レベルとの類似性は、患者のより良好な予後を示し、そして良い予後対照レベルに対する発現レベルの増加は、治療後の寛解、回復、生存、および/または臨床結果についてのあまり良好でない、不良な予後を示す。これに対して、不良な予後対照レベルに対するDKK1遺伝子の発現レベルの減少は、患者のより良好な予後を示し、そして発現レベルの不良な予後対照レベルとの類似性は、治療後の寛解、回復、生存、および/または臨床結果についてのあまり良好でない、不良な予後を示す。
【0188】
発現レベルが1.0、1.5、2.0、5.0、10.0倍より多く、またはそれを上回って対照レベルと異なる場合、生物学的試料中のDKK1遺伝子の発現レベルは変化していると考えることができる。あるいは、発現レベルが対照レベルに対して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、80%、90%、またはそれより多く増加または減少する場合、生物学的試料中のDKK1遺伝子の発現レベルは変化していると考えることができる。
【0189】
試験生物学的試料と対照レベルとの間の発現レベルの相違は、対照、例えば、ハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素、およびリボソームタンパク質P1をコードするポリヌクレオチドを含む、発現レベルが癌性細胞と非癌性細胞の間で異ならないことが公知であるポリヌクレオチドを用いてDKK1遺伝子の発現レベルを標準化してもよい。
【0190】
当技術分野において周知の技術を用いて、患者由来の生物学的試料中の遺伝子転写物を検出することによって、発現レベルが決定されてもよい。本方法によって検出される遺伝子転写物には、mRNAおよびタンパク質などの、転写産物および翻訳産物の両方が含まれる。
【0191】
例えば、DKK1遺伝子の転写産物は、遺伝子転写物に対してDKK1遺伝子プローブを用いる、ハイブリダイゼーション、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によって検出することができる。検出はチップまたはアレイ上で行ってもよい。DKK1遺伝子を含む複数の遺伝子の発現レベルを検出するためにアレイの使用が好ましい。別の例として、DKK1遺伝子に特異的なプライマーを用いる逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの、増幅に基づく検出方法を検出に使用してもよい(実施例参照)。DKK1遺伝子(配列番号:109)の配列全体を参照することによって従来の技術を用いてDKK1遺伝子特異的プローブまたはプライマーを設計および調製してもよい。例えば、RT-PCRによる検出のために実施例で用いられるプライマー(配列番号:74および111、73および74)を使用してもよいが、本発明はそれに制限されない。
【0192】
具体的には、本方法に用いられるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな、中程度にストリンジェントな、または低ストリンジェントな条件下でDKK1遺伝子のmRNAにハイブリダイズする。本明細書において使用される場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーがその標的配列にはハイブリダイズするが、その他の配列にはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、および異なる状況下で異なると考えられる。より短い配列よりも高い温度でより長い配列の特異的ハイブリダイゼーションが観察される。一般的に、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列に対する熱融解点(Tm)よりも約5℃低くなるように、ストリンジェントな条件の温度が選択される。Tmは、(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度の下で)平衡状態で標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列にハイブリダイズする温度である。標的配列は通常、過剰に存在するので、Tmにおいて、平衡状態でプローブの50%が取られる。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH 7.0〜8.3において約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には約0.01〜1.0Mナトリウムイオン(またはその他の塩)、ならびに温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)について少なくとも約30℃、およびより長いプローブまたはプライマーについて少なくとも約60℃である条件であると考えられる。また、ホルムアミドなどの、不安定化剤の添加によってストリンジェントな条件を達成してもよい。
【0193】
あるいは、本発明の評価のために翻訳産物を検出してもよい。例えば、DKK1タンパク質の量を決定してもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、DKK1タンパク質を特異的に認識する抗体を用いるイムノアッセイ法が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。さらに、断片がDKK1タンパク質への結合能力を保持する限り、抗体の任意の断片または修飾(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)を検出のために用いてもよい。タンパク質の検出用のこれらの種類の抗体を調製するための方法は当技術分野において周知であり、ならびにそのような抗体およびその同等物を調製するために任意の方法を本発明において使用してもよい。
【0194】
その翻訳産物に基づいてDKK1遺伝子の発現レベルを検出するための別の方法として、DKK1タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析によって染色の強度を観察してもよい。すなわち、強い染色の観察はDKK1タンパク質の存在の増加および同時にDKK1遺伝子の高い発現レベルを示す。
【0195】
さらに、DKK1タンパク質は細胞増殖活性を有することが公知である。それゆえ、DKK1遺伝子の発現レベルは、そのような細胞増殖活性を指標として用いて、決定することができる。例えば、DKK1を発現する細胞を生物学的試料の存在下で調製および培養し、その後増殖の速度を検出することによって、または細胞周期もしくはコロニー形成能を測定することによって、生物学的試料の細胞増殖活性を決定することができる。
【0196】
さらにまた、評価の精度を向上させるために、DKK1遺伝子の発現レベルに加えて、例えば、食道癌および肺癌で差次的に発現していることが公知の遺伝子などの、その他の食道細胞および肺細胞関連遺伝子の発現レベルを決定してもよい。そのようなその他の肺細胞関連遺伝子には、国際公開公報第2004/031413号および国際公開公報第2005/090603号に記載された遺伝子が含まれる。
【0197】
本方法によって癌の予後について評価されるべき患者は好ましくは哺乳動物であり、ならびにヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシを含む。
【0198】
VIII. 癌の予後を評価するためのキット
本発明は、癌の予後を評価するためのキットを提供する。好ましくは、癌は食道癌および肺癌である。具体的には、キットは、患者由来の生物学的試料中のDKK1遺伝子の発現を検出するための少なくとも1つの試薬を含み、試薬は以下からなる群より選択されてもよい:
(a)DKK1遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)DKK1タンパク質を検出するための試薬;および
(c)DKK1タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【0199】
DKK1遺伝子のmRNAを検出するための好適な試薬には、DKK1 mRNAの一部に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、DKK1 mRNAに特異的に結合するかまたはDKK1 mRNAを同定する核酸が含まれる。これらの種類のオリゴヌクレオチドは、DKK1 mRNAに特異的であるプライマーおよびプローブによって例示される。当技術分野において周知の方法に基づいて、これらの種類のオリゴヌクレオチドを調製してもよい。必要ならば、DKK1 mRNAを検出するための試薬を固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、DKK1 mRNAを検出するための1つより多くの試薬をキットに含めてもよい。
【0200】
これに対して、DKK1タンパク質を検出するための好適な試薬には、DKK1タンパク質に対する抗体が含まれる。抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。さらに、断片がDKK1タンパク質への結合能力を保持する限り、抗体の任意の断片または修飾(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab')2、Fvなど)を試薬として用いてもよい。タンパク質の検出用のこれらの種類の抗体を調製するための方法は当技術分野において周知であり、ならびにそのような抗体およびその同等物を調製するために任意の方法を本発明において使用してもよい。さらに、直接的連結または間接的標識技術によってシグナル発生分子で抗体を標識してもよい。標識ならびに抗体を標識しおよびそれらの標的への抗体の結合を検出するための方法は当技術分野において周知であり、ならびに任意の標識および方法を本発明に使用してもよい。その上、DKK1タンパク質を検出するための1つより多くの試薬をキットに含めてもよい。
【0201】
さらに、LRP5/6およびKremenを発現する細胞を試薬として用いる場合、例えば、生物中の発現したDKK1タンパク質によって細胞増殖活性を測定することで、生物学的活性を決定することができる。例えば、細胞を患者由来の生物学的試料の存在下で培養し、その後増殖の速度を検出することによって、または細胞周期もしくはコロニー形成能を測定することによって、生物学的試料の細胞増殖活性を決定することができる。必要ならば、DKK1 mRNAを検出するための試薬を固体マトリックスの上に固定化してもよい。その上、DKK1タンパク質の生物学的活性を検出するための1つより多くの試薬をキットに含めてもよい。
【0202】
キットは前述の試薬のうちの1つより多くを含んでもよい。さらに、キットはDKK1遺伝子に対するプローブまたはDKK1タンパク質に対する抗体を結合するための固体マトリックスおよび試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性対照試薬および陰性対照試薬、ならびにDKK1タンパク質に対する抗体を検出するための2次抗体を含んでもよい。例えば、良い予後または不良な予後を有する患者から得られた組織試料は、有用な対照試薬として役立つ。本発明のキットは、使用に関する取扱説明書と共に緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、注射器、および添付文書(例えば、書面、テープ、CD-ROMなど)を含む、商業的観点および使用者の観点から望ましいその他の材料をさらに含んでもよい。これらの試薬およびそのようなものは、ラベル付きの容器に含まれていてもよい。好適な容器には、瓶、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの、様々な材料から形成されてもよい。
【0203】
本発明の態様として、試薬がDKK1 mRNAに対するプローブである場合、少なくとも1つの検出部位を形成するために、多孔性ストリップなどの、固体マトリックスの上に試薬を固定化してもよい。多孔性ストリップの測定または検出領域は、各々が核酸(プローブ)を含む、複数の部位を含んでもよい。試験ストリップはまた、陰性対照および/または陽性対照用の部位を含んでもよい。あるいは、対照部位を試験ストリップから離れたストリップの上に配置してもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定化された核酸、すなわち、第一の検出部位にはより高い量を、およびそれに続く部位にはより少ない量を含んでもよい。試験試料の添加時に、検出可能なシグナルを示す部位の数によって、試料中に存在するDKK1 mRNAの量の定量的な指標が提供される。検出部位は、任意の適した検出可能な形状で構成されてもよく、および典型的には試験ストリップの幅にわたるバーまたはドットの形状である。
【0204】
本発明のキットは、陽性対照試料またはKDD1標準試料をさらに含んでもよい。KDD1陽性血液試料を採集することによって本発明の陽性対照試料を調製してもよく、その後それらのKDD1レベルをアッセイする。あるいは、精製されたKDD1タンパク質またはポリヌクレオチドをKDD1を含まない血清に添加し、陽性試料またはKDD1標準を形成してもよい。本発明において、精製されたKDD1は組換えタンパク質であってもよい。陽性対照試料のKDD1レベルは、例えばカットオフ値を上回る。
【0205】
以下、実施例への参照によって本発明をより詳細に記載する。しかしながら、以下の材料、方法、および実施例は、本発明の局面を例証するに過ぎず、かつ決して本発明の範囲を限定するようには意図されない。そのようなものとして、本明細書において記載されたものと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試行において用いることができる。
【0206】
実施例
実施例1:材料および方法
細胞株:
本明細書において使用された10のヒトESCC細胞株および1つの咽頭癌腫細胞株には、10の扁平上皮癌(SCC;TE1、TE2、TE3、TE4、TE5、TE6、TE8、TE9、TE10、およびFaDu)、ならびに1つの腺癌(ADC;TE7)が含まれた。この検討において使用された25のヒト肺癌細胞株には、9つの腺癌(ADC)、A427、A549、LC319、PC-3、PC-9、PC-14、NCI-H1373、NCI-H1666、およびNCI-H1781、2つの腺扁平上皮癌(ASC)、NCI-H226、NCI-H647、7つの扁平上皮癌(SCC)、EBC-1、LU61、NCI-H520、NCI-H1703、NCI-H2170、RERF-LC-AI、およびSK-MES-1、1つの大細胞癌(LCC)、LX1、ならびに6つの小細胞肺癌(SCLC)、DMS114、DMS273、SBC-3、SBC-5、NCI-H196、およびNCI-H446が含まれた。細胞は全て10%胎仔ウシ血清(FCS)を補充した適切な培地中、単層で増殖させ、および5% CO2の加湿空気の雰囲気中において37℃で維持した。
【0207】
組織試料およびマイクロダイセクション:
ESCC由来(n=19)および正常食道由来(n=5)組織試料をインフォームドコンセントを得た外科標本から入手した。この検討および言及された全ての臨床材料の使用は、個々の研究施設の倫理委員会によって承認された。癌組織は全て、病理学者によって食道の扁平上皮癌であると組織学的に確認されていた。臨床情報は医療記録(5人の女性患者および14人の男性患者;年齢中央値66.6歳で51〜76歳の範囲)から得た。臨床ステージはUICC TNM分類に従って判定した。正常食道組織は病理学的に正常上皮と観察され、かつそれらは異形成ではなかった。標本は全て外科切除後すぐに採取し、-80℃で保存される前にTissueTek OCT溶剤(Sakura, Tokyo, Japan)中に埋め込んだ。これらの凍結組織をクライオスタット(Sakura, Tokyo, Japan)を用いて8μm切片に切り、その後組織学的検査用にヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。製造元のプロトコルに従ってパルス紫外線狭ビーム焦点レーザー(pulsed ultraviolet narrow beam-focus laser)(SL Microtest GmbH, Germany)付きのEZカットシステムを用いてESCC細胞および正常食道上皮細胞を選択的に採集した。
【0208】
ESCC細胞の正確な発現プロファイルを得るために、LMMを使用して非癌性細胞による試料の汚染を回避した。マイクロダイセクション後、5つの正常食道上皮細胞を混合してマイクロアレイハイブリダイゼーション用の「一般対照」を作製した。図1は、マイクロダイセクションの前(A)および後(B)の代表的な癌ならびに解剖された癌細胞(C)の顕微鏡画像を示している。
【0209】
正常対照として使用するヒト小気道上皮細胞(SAEC)をCambrex Bio Science社から購入した最適化培地(SAGM)中で増殖させた。10の原発性ESCC組織試料だけでなく、5つがADC、5つがSCC、および5つがSCLCと分類される、15の原発性肺癌試料もインフォームドコンセントを得て先に入手していた(Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10;22(14):2192-205、Yamabuki et al., Int J Oncol. 2006 Jun;28(6):1375-84)。臨床ステージはUICC TNM分類に従って判定した(Sobin et al., TNM Classification of Malignant Tumours, 第6版. New York:Wiley-Liss社., 2002)。埼玉がんセンター(埼玉、日本)、ならびに北海道大学およびその関連病院(札幌、日本)で手術を受けた279人の患者(161 ADC、96 SCC、18 LCC、4 ASC;96人の女性患者および183人の男性患者;年齢中央値63.3歳で26〜84歳の範囲)から、組織マイクロアレイ上での免疫染色に使用するホルマリン固定した原発性肺腫瘍および近隣正常肺組織試料を入手していた。手術を受けた患者から、合計220のホルマリン固定した原発性ESCC(18人の女性患者および202人の男性患者;年齢中央値61.4歳で42〜81歳の範囲)および近隣正常食道組織試料も入手していた。この検討および言及された全ての臨床材料の使用は、個々の研究施設の倫理委員会によって承認された。
【0210】
血清試料:
全血液細胞数、C反応性タンパク質、赤血球沈降速度、肝機能検査、腎機能検査、尿検査、検便、胸部X線、または心電図に異常を示さない220人の健康対照個体(179人の男性および41人の女性;年齢中央値、50.2±6.8 SD;範囲、31〜61歳)から、書面によるインフォームドコンセントを得て血清試料を入手した。また、広島大学病院およびその関連病院に入院した94人の肺癌患者(72人の男性および22人の女性;年齢中央値、65.5±12.3 SD;範囲、30〜86歳)、日本のオーダーメイド医療のためのプロジェクトの一員として登録されている139人の肺癌を有する患者(バイオバンクジャパン;100人の男性および39人の女性;年齢中央値、64.5±8.8 SD;範囲、41〜89歳)から、インフォームドコンセントを得て血清試料を入手した。これら233の肺癌症例には、106例のADC、56例のSCC、および71例のSCLCが含まれていた。また、バイオバンクジャパンの同じプロジェクトに登録されている67人のESCC患者(55人の男性および12人の女性;年齢中央値、63.8±6.3 SD;範囲、46〜74歳)から、インフォームドコンセントを得て血清試料を入手した。合計300人の癌患者由来のこれらの血清試料を以下の基準に基づいて検討用に選択した:(a)患者は新たに診察され、かつ以前に治療されていない、ならびに(b)彼らの腫瘍が病理学的に肺癌または食道癌(I〜IV期)と診断されている。血清は診察の時に入手し、および-80℃で保存した。臨床病理学的な記録は全て文書化した。
【0211】
cDNAマイクロアレイ
National Center for Biotechnology Information(NCBI)のUniGeneデータベース(ビルド#131)から選択された32,256のcDNAによって、ゲノム全体でのcDNAマイクロアレイを製作した。このマイクロアレイシステムは本質的に以前に記載された通りに構築された(Ono et al., Cancer Res. 2000;60(18):5007-11)。簡潔に述べると、様々なヒト臓器から単離されたポリ(A)+ RNAを鋳型として用いたRT-PCRによってcDNAを増幅し;アンプリコンの長さは、任意の繰り返し配列またはポリ(A)配列のない、200〜1100bpの範囲であった。
【0212】
RNA抽出、T7に基づくRNA増幅、およびハイブリダイゼーション
レーザーマイクロダイセクトされた細胞の各試料から全RNAを350μlのRLT溶解緩衝剤(QIAGEN, Hilden, Germany)の中に抽出した。抽出されたRNAを1UのRNase阻害剤(TOYOBO, Osaka, Japan)の存在下で30UのDNaseI(Roche, Basel, Switzerland)で室温で30分間処理し、全ての混入したゲノムDNAを除去した。70℃で10分間の不活性化の後、製造元の推奨に従ってRNeasy Mini Kit(QIAGEN)でRNAを精製した。DNaseI処理したRNAの全てをT7に基づくRNA増幅に供し;2ラウンドの増幅によって各試料から50〜100μgのaRNAが得られた。その後、他に記載された通りに(Ono et al., Cancer Res. 2000;60(18):5007-11)、それぞれCy5-dCTPまたはCy3-dCTP(GE Healthcare/Amersham Biosciences社)で逆転写によって癌細胞または正常食道上皮細胞由来のaRNA の2.5μgアリコートを標識した。ハイブリダイゼーション、洗浄、およびスキャニングもまた以前に記載された方法に従って実行した(Ono et al., Cancer Res. 2000;60(18):5007-11)。
【0213】
データ解析
ArrayVisionソフトウェア(Imaging Research社, St Catharines, Ontario, Canada)を用いて、バックグラウンドを置換することによって、32,256スポット由来のCy3およびCy5のシグナル強度を定量および解析した。次に、アレイ上の52のハウスキーピング遺伝子の平均Cy3/Cy5比が1と等しくなるように、各々の標的スポットについてのCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を調製した。低いシグナル強度に由来するデータは信頼性に劣るため、以前に記載されたように各スライドについてカットオフ値を決定し(Ono et al., Cancer Res. 2000;60(18):5007-11)、ならびにCy3およびCy5色素の両方がカットオフより低いシグナル強度を生み出す場合、さらなる解析から遺伝子を排除した(Saito-Hisaminato et al., DNA Res. 2002;9(2):35-45)。その他の遺伝子について、各試料の生データを用いて、Cy5/Cy3比を算出した。
【0214】
半定量的RT-PCR
高度に上方制御される遺伝子を選択し、かつ半定量的RT-PCR実験によってそれらの発現レベルを調べた。ランダムプライマー(Roche)およびSuperscript II(Invitrogen)を用いて、各試料由来のaRNA の合計の3μgアリコートを一本鎖cDNAに逆転写した。標的DNAまたはβ-アクチン(ACTB)特異的反応用に調製された同じプライマーセットによるその後のPCR増幅のために各cDNA混合物を希釈した。(プライマー配列は表3に示されている)。ACTBの発現は内部対照とした。増幅の線形位相内の産物強度を確保するためにサイクルの数についてPCR反応を最適化した。
【0215】
ノーザンブロット解析
ノーザン解析のために、ヒト多重組織ノーザンブロット(BD Biosciences, Palo Alto, CA)を、プライマー5'-CAATTTTCCCATGGTCTTATCC-3' (配列番号; 1)および5'-GCGTTTTCAAGATCTAGCATGTG-3'(配列番号; 2)を用いた逆転写PCR(RT-PCR)によってプローブとして調製されたECT2(C9098)の[α-32P]-dCTP標識した、269-bp PCR産物とハイブリダイズさせた。CDC45L(A2466)の1019-bp PCR産物を、プライマー5'-ATGAGGAGAACACACTCTCCGT-3' (配列番号; 3)および5'-GCTTCTACATCTCAAATCATGTCC-3'(配列番号; 4)を用いた逆転写PCR(RT-PCR)によってプローブとして調製した。プライマー5'-CATCAGACTGTGCCTCAGGA-3'(配列番号: 111)および5'-CAAAAACTATCACAGCCTAAAGGG-3'(配列番号: 74)を用いてプローブとして調製されたDKK1の776-bp PCR産物。
【0216】
製造元の仕様書に従って、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄を実施した。増感スクリーンを用いて-80℃で7日間、ブロットのオートラジオグラフを作製した。
【0217】
RNA干渉アッセイ
癌細胞におけるECT2およびCDC45Lの生物学的機能を評価するために、以前に記載されたように、標的遺伝子に対する短いヘアピンRNAの発現用にpsiH1BX3.0ベクターを用いた(Shimokawa T, et al., Cancer Res. 2003;63(19):6116-20)。終結シグナルとしての5つのチミジンおよびジェネティシン(Sigma)による選択用のneoカセットと共に、H1プロモーターを遺伝子特異的配列の上流(より短いスペーサー、TTCAAGAGA(配列番号:5)、によって同じ配列の逆相補体(reverse complement)から隔てられた、標的転写物由来の19ヌクレオチド配列)にクローン化した。RNAi用の合成オリゴヌクレオチドの標的配列は以下の通りであった:対照1(EGFP:増強された緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)GFPの突然変異体)、5’-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3’(配列番号; 6);対照2(スクランブル(SCR):5Sおよび16S rRNAをコードする葉緑体ユーグレナグラシリス(Euglena gracilis)遺伝子)、5’-GCGCGCTTTGTAGGATTCG-3’(配列番号; 7);
si-ECT2-1、5'-GATGCACTCACCTTGTAGT-3'(配列番号; 8);
si-ECT2-2、5'-GGCAAATACTCCTGAGCTC-3';(配列番号; 9)
si-CDC45L-1、5'-GAGACATCCTCTTTGACTA-3';(配列番号; 10)
si-CDC45L-2、5'-CAGACCAGTGGGTGCAAGA-3'(配列番号; 11)。
FaDuおよびTE9細胞を10cmディッシュ上に蒔き(1ディッシュ当たり1.5×106細胞)、ならびに製造元の取扱説明書に従って、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、EGFP、SCR、ECT2、およびCDC45Lに対する標的配列が含まれるpsiH1BXベクターをトランスフェクトした。細胞を1mg/mlのジェネティシン(Invitrogen)を含む培地中で7日間選択し、および4日後に個々の遺伝子に対するノックダウン効果のRT-PCR解析用に採取した。これらのRT-PCR実験用のプライマーは上記のプライマーと同じであった。7日間のインキュベーションの後、コロニー形成を評価するために、これらの細胞をギムザ溶液によって染色し、および細胞数を3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイによって評価した。
【0218】
ウェスタンブロッティング:
腫瘍組織または細胞を溶解緩衝剤;50mM Tris-HCl(pH 8.0)、150mM NaCl、0.5% NP40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、およびプロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII(Calbiochem)中で溶解した。ウシ血清アルブミン(BSA)を標準として用い、Bio-Radタンパク質アッセイ(Bio-Rad, Hercules, CA)によって、各溶解物のタンパク質含有量を決定した。10マイクログラムの各溶解物を(3%ポリアクリルアミドスタッキングゲルを伴った)10%〜12%変性ポリアクリルアミドゲル上で分離し、および電気泳動でニトロセルロース膜(GE Healthcare Bio-sciences)に転写した。5%脱脂粉乳を含むTBST中でのブロッキング後、膜を1次抗体と室温で1時間インキュベートした。免疫反応性タンパク質をセイヨウワサビペルオキシダーゼと結合した2次抗体(GE Healthcare Bio-sciences)と室温で1時間インキュベートした。TBSTによる洗浄の後、増強化学発光キット(GE Healthcare Bio-sciences)を用いて、反応物を現像した。正常組織だけでなくNSCLCおよびESCCの組織および細胞株の溶解物も用いたウェスタンブロット解析によって、市販されているヒトDKK1に対するウサギポリクローナル抗体(カタログ番号sc-25516, Santa Cruz, CA)がヒトDKK1に特異的であることが証明された(図2参照)。
【0219】
免疫細胞化学的解析:
細胞をカバーガラス片(Becton Dickinson Labware, Franklin Lakes, NJ)上に蒔き、4%パラホルムアルデヒドで固定し、および0.1% Triton X-100を含むPBSで室温で3分間透過処理した。非特異的結合をCASBLOCK(ZYMED)により室温で10分間ブロックした。その後細胞を3% BSAを含むPBSで希釈した1次抗体と共に室温で60分間インキュベートした。PBSで洗浄後、細胞をFITCが結合した2次抗体(Santa Cruz)で室温で60分間染色した。PBSでもう一度洗浄した後、各標本を4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドレンジハイドロクロライド(DAPI)を含むVectashield(Vector Laboratories社, Burlingame, CA)で取り付け、およびスペクトル共焦点走査システム(TSC SP2 AOBS:Leica Microsystems, Wetzlar, Germany)用いて可視化した。
【0220】
免疫組織化学および組織マイクロアレイ:
パラフィンブロックに埋め込まれた臨床試料中のDKK1タンパク質の存在を調べるために、本発明者らは、以下の様式で切片を染色した。簡潔に述べると、内在性ペルオキシダーゼおよびタンパク質のブロッキング後、3.3μg/mlのウサギポリクローナル抗ヒトDKK1抗体(Santa Cruz)を各スライドに添加し、ならびに切片を2次抗体としてのセイヨウワサビペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(Histofine Simple Stain MAX PO(G), Nichirei, Tokyo, Japan)とインキュベートした。基質色原体を添加し、そして標本をヘマトキシリンで対比染色した。他に記載された通りに、ホルマリン固定した279の原発性肺癌および220の原発性食道癌を用いて腫瘍組織マイクロアレイを構築した(Chin et al., Mol Pathol. 2003 Oct;56(5):275-9;Callagy et al., Diagn Mol Pathol. 2003 Mar;12(1):27-34, J Pathol. 2005 Feb;205(3):388-96)。スライドガラス上の対応するH&E染色切片を用いた視覚的配置に基づいてサンプリング用の組織部を選択した。ドナー腫瘍ブロックから採取された3つ、4つ、または5つの組織コア(直径、0.6mm;深さ、3〜4mm)を組織マイクロアレイヤー(Beecher Instruments, Sun Prairie, WI)でレシピエントパラフィンブロック中に置いた。各症例から穴を開けて正常組織のコアを採取し、そして結果として得られるマイクロアレイブロックの5μm切片を免疫組織化学的解析に用いた。以前に報告された通りに、3人の独立した調査員が、臨床病理学的データの事前知識を持たずに、DKK1陽性度を半定量的に評価した(Suzuki et al., Cancer Res. 2005 Dec 15;65(24):11314-25;Ishikawa et al., Clin cancer Res. 2004 Dec 15;10(24):8363-70,Cancer Res. 2005 Oct 15;65(20):9176-84;Kato et al., Cancer Res. 2005 Jul 1;65(13):5638-46;Furukawa et al., Cancer Res. 2005 Aug 15;65(16):7102-10)。以下の基準を用いて、DKK1染色の強度を評価した:強陽性(2+としてスコア化)、細胞質を完全に不明瞭化する腫瘍細胞の50%より多くにおける濃褐色染色;弱陽性(1+)、腫瘍細胞細胞質中に感知できる任意のより低い程度の褐色染色;なし(0としてスコア化)、腫瘍細胞中に感知できる染色なし。検閲者が独立してそれらをそのように定義する場合にのみ、症例を強陽性として容認した。
【0221】
統計的解析:
StatView統計プログラム(SaS, Cary, NC)を用いて統計的解析を実施した。手術の日からNSCLCもしくはESCCに関連する死までの、または最後の追跡調査観察までの腫瘍特異的生存曲線を算出した。各関連変数についておよびDKK1発現について、カプラン-マイヤー曲線を算出し;ログランク検定を用いて、患者亜集団間の生存時間の相違を解析した。臨床病理学的変数および癌関連死亡率の間の関連を決定するために、Cox比例ハザード回帰モデルで単変量解析および多変量解析を実施した。第1に、本発明者らは、1度に1つの因子を考慮に入れながら、死と、年齢、性別、組織像、pT分類、およびpN分類を含む可能性のある予後因子との間の関連を解析した。第2に、0.05未満のP値という入口レベルを満たす任意のおよび全ての変数と共に、常に強いDKK1発現を本モデルに強いる逆の(段階的)手順に対して、多変量Cox解析を適用した。本モデルは因子を追加し続けるので、独立した因子はP<0.05という出口レベルを超過しなかった。
【0222】
ELISA:
最初に構築されたELISAシステムによってDKK1の血清レベルを測定した。まず、DKK1に特異的なウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz)を捕捉抗体として96ウェルマイクロプレート(Apogent, Denmark)に添加し、および室温で2時間インキュベートした。全ての未結合抗体を洗い流した後、5% BSAをウェルに添加し、およびブロッキングのために4℃で16時間インキュベートした。洗浄後、3倍に希釈された血清をウェルに添加し、そして室温で2時間インキュベートした。全ての未結合物質を洗い流した後、ビオチン標識キット-NH2(Dojindo Molecular Technologies社)を用いてDKK1に特異的なビオチン化ポリクローナル抗体を検出抗体としてウェルに添加し、および室温で2時間インキュベートした。全ての未結合抗体-酵素試薬を除去するための洗浄の後、HRP-ストレプトアビジンをウェルに添加し、そして20分間インキュベートした。洗浄の後、基質溶液(R&D System社)をウェルに添加し、そして30分間反応させた。反応は、100μlの2N硫酸を添加することによって停止させた。色の強度は、570nmの参照波長を用い、450nmの波長で光度計によって決定した。血清中のCEAのレベルは、供給元の推奨に従って、市販されている酵素検査キット(HOPE Laboratories, Belmont, CA)を用いてELISAによって測定した。血清中のProGRPのレベルは、製造元のプロトコルに従って、市販されている酵素検査キット(TFB, Tokyo, Japan)を用いてELISAによって測定した。マン-ホイットニーのU検定によって、腫瘍群および健康対照群の間のDKK1、CEA、およびProGRPのレベルにおける相違を解析した。最適な診断精度および尤度比を有するカットオフレベルを決定するために、DKK1、CEA、およびProGRPのレベルを受信者動作特性(ROC)曲線解析によってさらに評価した。スピアマン順位相関を用いてDKK1とCEA/ProGRPの間の相関係数を算出した。有意性をP<0.05と定義した。
【0223】
DKK1発現プラスミド:
アスパラギン256をアラニンにしたC末端FLAGタグ付きDKK1の、野生型および点突然変異体型のコンストラクトを他に報告された通りに作製した(Suzuki et al., Cancer Res. 2005 Dec 15;65(24):11314-25)。ウェスタンブロット解析に、DKK1を発現するp3XFLAGタグ付きプラスミド(野生型もしくは点突然変異体)または偽プラスミドのいずれかをトランスフェクトされたCOS-7細胞を用いた。
【0224】
マトリゲル浸潤アッセイ:
DKK1を発現するp3XFLAGタグ付き(C末端)プラスミドまたは偽プラスミドのいずれかをトランスフェクトしたNIH3T3およびCOS-7細胞を、10% FCSを含むDMEM中でコンフルエンス近くまで増殖させた。細胞をトリプシン処理によって採取し、血清またはプロテイナーゼ阻害剤の添加をしていないDMEMで洗浄し、そして1×105細胞/mlでDMEM中に懸濁した。細胞懸濁液を調製する前に、マトリゲルマトリックス(Becton Dickinson Labware)の乾燥層を室温で2時間DMEMで再水和させた。24ウェルマトリゲル浸潤チャンバー中の各下部チャンバーに10% FCSを含むDMEM(0.75ml)を添加し、そして上部チャンバーの各挿入部に0.5ml(5×104細胞)の細胞懸濁液を添加した。挿入部のプレートを37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション後、チャンバーを処理し;供給元によって指示された通りに、マトリゲルの中を通って浸潤する細胞を固定し、そしてギムザによって染色した(Becton Dickinson Labware)。
【0225】
実施例2:ESCCにおいて一般に下方/上方制御されている遺伝子
ESCCにおいて一般に上方および下方制御されている遺伝子を以下の基準に従って同定した:(1)調査した癌の50%より多く(少なくとも19症例中10)において発現データが入手可能であった遺伝子;および(2)情報提供症例の40%より多くにおいてESCC細胞中で発現比が3.0を上回る(上方制御遺伝子と定義される)遺伝子または情報提供症例の50%より多くにおいて発現比が0.33未満の(下方制御遺伝子と定義される)遺伝子。ESCCにおいて一般に下方制御されている合計727の遺伝子を表1に列挙し、一方、一般に上方制御されている816の遺伝子を表2に列挙した。
【0226】
マイクロアレイ解析によって得られた発現データを確証するために、ほとんど全ての情報提供症例で高度に過剰発現する遺伝子について半定量的RT-PCR実験を実施した。上記の候補の中で、38遺伝子(C1948、A9371、E0341、A3097、A2735、A5065、D9504、C6209、B3827、A4513、E0556、A8172、A3802、C8926、A9723、G3996、F5946、B7534、A7296、A8487、C9490、C9858、E0133、A7856、A7608、A7908、C9098、C9517、C9046、A8335、C9016、A6598、B4161、E2191、B6125N、D8457、B8814、およびA2466)を選択し、そして半定量的RT-PCRを用いて、それらの遺伝子発現パターンを腫瘍および正常組織で確認した(図2)。RT-PCR実験の結果は、検査症例におけるマイクロアレイデータと専ら一致していた。
【0227】
実施例3:リンパ節転移または手術後再発と関連する遺伝子
遺伝子発現プロファイルと臨床病理学的特色との間の関係を検出するために、本発明者らは、患者の予後を決定する際の重要な因子である、リンパ節転移と関連する可能性のある遺伝子を探索した。
【0228】
リンパ節転移陽性(節陽性)(r)および節陰性(n)、再発陽性(r)および再発陰性(n)などの、臨床病理学的特色と関連する遺伝子を以下の2つの基準に従って選択した:(i)シグナル強度が症例の少なくとも80%でカットオフ値よりも高く;および(ii)|Medr−Medn|≧0.5、式中、Medは2つの群における対数変換した相対発現比から導かれる中央値を指す。それらが各々の臨床病理学的状態において0.05より小さい並べ替えP値(permutation P-value)を有する基準を満たす場合、遺伝子を候補として選択した。
【0229】
まず始めに、13のリンパ節陽性および6つの節陰性症例を用いて、発現プロファイルおよびリンパ節転移状態を調べた。2つの群で差次的に発現する遺伝子を同定するために、ランダムな並べ替え検定を適用した。それぞれ、節陽性(r)および節陰性(n)症例、再発陽性(r)および再発陰性(n)症例における各遺伝子の対数変換した相対発現比から平均(μ)および標準偏差(σ)を算出した。各遺伝子についての識別スコア(DS)を以下のように定義した。
DS = (μr - μn) / (σr + σn)
【0230】
個々の遺伝子が2つの集団を区別する能力を見積もるために、並べ替え検定を実行、すなわち2つの分類間で10000回、試料をランダムに並べ替えた。各遺伝子のDSデータセットは正常な分布を示したので、本発明者らは、ユーザーが定義したグルーピングについてP値を算出した(Golub et al., Science. 1999;286(5439):531-7)。
【0231】
本明細書において、13のリンパ節陽性および6つのリンパ節陰性症例からなる19症例の発現データ、ならびに6つの再発陽性症例および13の再発陰性症例からなる19症例の発現データを利用した。解析により、ランダムな並び替え(p値<0.05)によってリンパ節状態と関連する136遺伝子の同定がもたらされた。これらのうち、節陽性腫瘍(図6)において、59遺伝子は下方制御され(表4)、および77遺伝子は相対的に上方制御されていた(表5)。さらに、再発がある6症例の発現プロファイルを、32か月の観察期間の間に手術後の再発がない13症例の発現プロファイルと比較した。再発の部位には、局部、肺、および領域リンパ節が含まれた。再発を有する症例で独自に変化した発現パターンを示す37遺伝子が同定された:腫瘍において、それらのうちの28(表7)は相対的に上方制御され、およびそれらのうちの9つ(表6)は相対的に下方制御されていた(図7)。これらの同定された遺伝子セットを用いる管理された階層クラスタリング解析もまた、リンパ節状態に関するまたは再発がある集団を明確に分類することができる(図6および図7)。
【0232】
実施例4:ECT2
ECT2 cDNA断片をプローブとして用いるノーザンブロット解析によって、精巣でのみ発現する4.3kb転写物が同定された。すなわち調査した任意のその他の臓器において発現は観察されなかった。ECT2は癌-精巣抗原(CTA)をコードすると考えられた(図3A)。
【0233】
ECT2が癌細胞の成長または生存に役割を果たすかどうかを評価するために、2つの異なる対照プラスミド(EGFPおよびSCRに対するsiRNA)と共に、ECT2に対するsiRNA(si-ECT2-1(#1)および-2(#2))を発現するようにプラスミドを設計および構築し、ならびに内在性ECT2の発現を抑制するために、内在的に高レベルのECT2を発現するTE9細胞にそれらをトランスフェクトした。si-ECT2-1およびsi-ECT2-2をトランスフェクトした細胞におけるECT2 mRNAの量は、2つの対照siRNAのいずれかをトランスフェクトした細胞と比較して有意に減少していた(図4A)。ECT2のレベルに対するその抑制的効果と一致して、トランスフェクトされたsi-ECT2-1およびsi-ECT2-2は、コロニー形成アッセイおよびMTTアッセイによって測定されたコロニー数および細胞生存率における有意な減少を引き起こした(図4Bおよび4C)。類似の効果がFaDu細胞株において観察された(データは示さず)。
【0234】
実施例5:CDC45L
CDC45L cDNA断片をプローブとして用いたノーザンブロット解析によって、精巣でのみ発現する2.2kb転写物が同定された。すなわち調査した任意のその他の臓器において発現は観察されなかった。CDC45Lは癌-精巣抗原(CTA)をコードすると考えられた(図3B)。
【0235】
CDC45Lが癌細胞の成長または生存に役割を果たすかどうかを評価するために、2つの異なる対照プラスミド(EGFPおよびSCRに対するsiRNA)と共に、CDC45Lに対するsiRNA(si-CDC45L-1(#1)および-2(#2))を発現するようにプラスミドを設計および構築し、ならびに内在性CDC45L の発現を抑制するために、内在性に高レベルのCDC45L を発現するFaDu細胞にそれらをトランスフェクトした。si-CDC45L-1およびsi-CDC45L-2をトランスフェクトした細胞におけるCDC45L mRNAの量は、2つの対照siRNAのいずれかをトランスフェクトした細胞と比較して有意に減少していた(図5A)。CDC45Lのレベルに対するその抑制的効果と一致して、トランスフェクトされたsi-CDC45L-1およびsi-CDC45L-2は、コロニー形成アッセイおよびMTTアッセイによって測定されたコロニー数および細胞生存率における有意な減少を引き起こした(図5Bおよび5C)。類似の効果がTE9細胞株において観察された(データは示さず)。
【0236】
実施例6:DKK1
肺癌および食道癌ならびに正常組織におけるDKK1発現:
初期の癌細胞を検出することができ、かつ癌細胞の生物学的特徴に基づいた個別化された治療に適用することができる新規の分子を同定するために、本発明者らは、cDNAマイクロアレイを用いたレーザーマイクロダイセクションによって純化された肺癌およびESCC細胞の遺伝子発現プロファイルのゲノム全体の解析を実施した(Kikuchi T et al., Oncogene. 2003 Apr 10;22(14):2192-205、Int J Oncol. 2006 Apr;28(4):799-805、Kakiuchi S et al., Mol Cancer Res. 2003 May;1(7):485-99, Hum Mol Genet. 2004 Dec 15;13(24):3029-43. Epub 2004 Oct 20, Yamabuki et al., Int J Oncol. 2006 Jun;28(6):1375-84)。スクリーニングされた27,648遺伝子の中で、本発明者らは、調査した肺癌および食道癌試料の大多数において正常上皮細胞(対照)よりも癌細胞で3倍またはそれより高い平均発現倍数を示す、DKK1転写物を同定した。本発明者らは、半定量的RT-PCR実験によって、15の肺癌組織中の10で、25の肺癌細胞株中の21で、10のESCC組織中の10で、および10のESCC細胞株中の10で、その過剰発現を確認した(図2A〜C)。
【0237】
本発明者らは続いて、抗DKK1抗体を用いたウェスタンブロット解析によって、解析された代表的な対のNSCLC試料中の腫瘍組織における35-kDa DKK1タンパク質の発現を確認した(図2D)。
【0238】
DKK1 cDNA断片をプローブとして用いたノーザンブロット解析によって、胎盤において高発現しかつ前立腺において非常に低レベルで発現する約1.8kb転写物が同定され;その他の正常組織においてはいずれも発現は観察されなかった(図3C)。本発明者らは、ESCC細胞株TE8およびNSCLC細胞株LC319における内在性DKK1の細胞内局在を調べるために免疫蛍光解析を実施した。DKK1は粒状の外観を伴って腫瘍細胞の細胞質で検出された(TE8細胞の代表的データを図3Dに示した)。
【0239】
DKK1発現と不良な予後との関連
DKK1の生物学的および臨床病理学的意義を検証するために、本発明者らは、根治的な外科切除を受けた279のNSCLC症例および220のESCC症例由来の組織切片を含む組織マイクロアレイに対する免疫組織化学染色を実行した。DKK1に特異的なポリクローナル抗体によるDKK1染色は腫瘍細胞の細胞質で主に観察されたが、正常細胞では検出されなかった(図8A、C)。本発明者らは、組織アレイ上のDKK1発現のパターンを、なし(0としてスコア化)から弱/強陽性(1+〜2+としてスコア化)の範囲にまで分類した。279のNSCLC中、DKK1は125症例(44.8%;スコア2+)で強く染色され、102症例(36.6%;スコア1+)で弱く染色され、および52症例(18.6%;スコア0)で染色されなかった(詳細は表10Aに示されている)。NSCLC患者の生存期間中央値は、DKK1のより高い発現レベルと一致して、有意により短かった(ログランク検定でP=0.0039;図8D)。本発明者らはまた、患者の予後と、年齢、性別、組織像(ADC 対 非ADC)、pT段階(腫瘍サイズ;T1+T2 対 T3+T4)、pN段階(N0 対 N1+N2)、およびDKK1状態(スコア2+ 対 0、1+)を含む幾つかの因子との間の関連を評価するために、単変量解析を適用した。それらのパラメータは全て、不良な予後と有意に関連していた。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析によって、DKK1(P=0.0163)は外科的に治療されたNSCLC患者に対する独立予後因子であるということが明らかにされた(表10B)。これに対して、調査された220のESCC症例のうち、DKK1は60症例(27.3%;スコア2+)で強く染色され、75症例(34.1%;スコア1+)で弱く染色され、およ85症例(38.6%;スコア0)で染色されなかった(詳細は表9Aに示されている)。ESCC患者の生存時間中央値は、DKK1のより高い発現レベルと一致して、有意により短かった(ログランク検定でP=0.042;図8B)。本発明者らはまた、ESCC患者の予後と、年齢、性別、pT段階(腫瘍の深さ;T1+T2 対 T3+T4)、pN段階(N0 対 N1)、およびDKK1状態(スコア2+ 対 0、1+)を含む幾つかの因子の間の関連を評価するために、単変量解析を適用した。それらのパラメータは全て、不良な予後と有意に関連していた。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析によって、DKK1は外科的に治療されたESCC患者に対する独立予後因子ではないということが明らかにされた(表9B)。
【0240】
癌細胞におけるDKK1のN-グリコシル化
DKK1タンパク質は、DKK1発現ベクターをトランスフェクトした細胞においておよそ35-kDaタンパク質として発現され、35〜40kDaタンパク質の形態として培養培地中に分泌されるということが報告された(Fedi et al., J Biol Chem. 1999 Jul 2;274(27):19465-72、Niida et al., Oncogene. 2004 Nov 4;23(52):8520-6)。図10Aに示されたように、ウェスタンブロット解析によって、トランスフェクトされたCOS-7細胞の馴化培地中の35〜40kDa前後のバンドとして内在性DKK1タンパク質が認識された。ウェスタンブロッティングによって、分泌されたDKK1タンパク質を2本のバンドとして検出した。それゆえ、本発明者らはまず、トランスフェクトされたCOS-7細胞由来の馴化培地から採集した細胞抽出物およびタンパク質をN-グリコシダーゼFの存在下または非存在下でインキュベートし、ならびにウェスタンブロット解析によってDKK1タンパク質の分子量を解析した。予想通り、N-グリコシダーゼFで処理した細胞抽出物および馴化培地中の大部分のDKK1タンパク質の測定された重量は、未処理細胞中の大部分のDKK1タンパク質の測定された重量よりも小さかった(図10A)。DKK1は、タンパク質のC末端付近に位置した1つの潜在的N-グリコシル化部位(アスパラギン-256)を保有するので、本発明者らは、DKK1中の潜在的N-グリコシル化部位(アスパラギン-256)をアラニンに置換した。ウェスタンブロット解析によって、馴化培地中および細胞ペレット中の野生型DKK1の脱グリコシル化型と類似した分子量の免疫反応性バンドとして突然変異型DKK1を検出した(図10A)。N-グリコシダーゼFによる処理は、細胞ペレットおよび馴化培地中のDKK1の突然変異体バンドの移動を全く引き起こさなかった(図10A)。これらの結果により、アスパラギン-256はDKK1のN-グリコシル化部位と同じ性質ではあるが、DKK1の分泌に影響を及ぼさないということが示唆された。
【0241】
肺癌またはESCCを有する患者におけるDKK1の血清レベル
インビトロの知見により、DKK1の分泌型を用いて新規の腫瘍マーカーを開発する可能性が示唆されていたので、本発明者らは、DKK1タンパク質が肺癌または食道癌を有する患者の血清中に分泌されているかどうかを調べた。ELISA実験によって、これらの患者由来の血清学的試料中のDKK1タンパク質が検出された。肺癌患者における血清DKK1の平均(±1SD)は、27.2±21.0 U/mlであり、およびESCC患者における血清DKK1の平均は、33.5±25.3 U/mlであった。対照的に、健康な個体におけるDKK1の平均(±1SD)血清レベルは、6.3±5.0 U/mlであった。相違は、<0.001のP値(マン-ホイットニーのU検定)を伴い有意であった。肺癌における組織型に従って分類した場合、DKK1の血清レベルは、ADC患者において25.5±18.4 U/ml、SCC患者において24.7±17.7 U/ml、およびSCLC患者において31.8±25.8 U/mlであり(図9A)、3つの組織型間の相違は有意ではなかった。
【0242】
受信者動作特性(ROC)曲線を引いてそれらのカットオフレベルを決定することによって、肺癌およびESCC患者の両方だけでなく健康な個体にも由来する血清試料において、DKK1のレベルをさらに解析した(図9B)。このアッセイにおけるカットオフレベルを、DKK1についての最適な診断精度および尤度比、すなわち、14.7 U/ml(63.7%(191/300)の感度および95.9%(211/220)の特異性を有する)をもたらすように設定した。健康な個体における血清DKK1レベルの平均(±2SD)は16.3 U/mlであり、このことはこのカットオフポイントが適切であるということを示唆している。
【0243】
血清DKK1レベルを腫瘍検出バイオマーカーとして用いる実行可能性を評価するために、本発明者らはまた、同じ患者および対照において、肺癌の組織型についての2つの従来の腫瘍マーカーである、NSCLC患者についてのCEAおよびSCLC患者についてのproGRPの血清レベルをELISAによって測定した。CEAのカットオフ値は、NSCLCを有する患者では2.5ng/ml(40.3%(64/159)の感度および97.1%(204/210)の特異性を有する)と決定された。血清DKK1値とCEA値との間の相関係数は有意ではなく(スピアマン順位相関係数:ρ=-0.034、P=0.668)、このことは血清中の両方のマーカーを測定することによってNSCLCの検出のための全体の感度を78.6%(159中125)まで向上させることができるということを示している(NSCLCの診断について、CEAのみの感度は40.3%(159中64)であり、およびDKK1の感度は61.6%(159中98)である)。正常ボランティア(対照群)間の2つの腫瘍マーカーのいずれかについての偽陽性率は8.2%(208中17)になるのに対し、同じ対照群におけるCEAおよびDKK1についての偽陽性率は、個々に2.9%(208中6)および5.3%(208中11)であった。これに対して、SCLCを有する患者におけるproGRPについてのROC解析によって、ProGRPのカットオフ値を46.0pg/ml(60.6%(40/66)の感度および99.3%(145/146)の特異性を有する)と決定した。血清DKK1値とProGRP値との間の相関係数は有意ではなく(スピアマン順位相関係数:ρ=0.113、P=0.362)、このことは血清中の両方のマーカーを測定することによってSCLCの検出のための全体の感度を84.8%(66中56)まで向上させることができるということを示している(SCLCの診断について、ProGRPのみの感度は60.6%(66中40)であり、およびDKK1の感度は63.6%(66中42)である)。146人の正常ボランティア(対照群)間の2つの腫瘍マーカーのいずれかについての偽陽性結果は6.2%(146中9)になるのに対し、同じ対照群におけるproGRPおよびDKK1についての偽陽性率は、個々に0.7%(146中1)および5.5%(146中8)であった。
【0244】
DKK1による細胞浸潤活性の活性化
組織マイクロアレイ上での免疫組織化学的解析によって、DKK1陽性腫瘍を有する肺癌および食道癌患者は、腫瘍がDKK1について陰性である患者よりも短い癌特異的生存期間を示すということが示されていたので、本発明者らは、NIH3T3およびCOS-7細胞を用いて、マトリゲルアッセイで細胞の運動性および浸潤におけるDKK1の可能性のある役割を調べた。図10B、Cに示されたように、どちらの細胞株にDKK1 cDNAをトランスフェクトしても、偽ベクターをトランスフェクトした細胞と比べて、マトリゲルの中を通るその浸潤活性が顕著に増強された。
【0245】
考察
現代の外科的技術およびアジュバント化学放射線療法の改善にもかかわらず、肺癌およびESCCは悪性腫瘍の中で最も悪い予後を露呈することが公知である。それゆえ、癌の早期検出のための、および特有の患者に対するアジュバント治療様式のより良い選択のための新規の診断バイオマーカーを開発することが現在緊急に必要とされている。本発明者らは、27,648遺伝子を含むcDNAマイクロアレイを用いたレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)によって精製された101の肺癌細胞および19のESCC細胞の遺伝子発現プロファイルのゲノム全体での解析を実施した(Yamabuki et al. Int J Oncol. 2006 Jun;28(6):1375-84;Kikuchi et al., Oncogene. 2003 Apr 10;22(14):2192-205, Int J Oncol. 2006 Apr;28(4):799-805;Kakiuchi et al., Mol Cancer Res. 2003 May;1(7):485-99, Hum Mol Genet. 2004 Dec 15;13(24):3029-43. Epub 2004 Oct 20)。その過程で、本発明者らは、新規の診断マーカー、治療薬物、および/または免疫療法の開発のための潜在的に良い候補である多数の遺伝子を同定した(Suzuki et al., Cancer Res. 2003 Nov 1;63(21):7038-41, Cancer Res. 2005 Dec 15;65(24):11314-25;Ishikawa et al., Clin Cancer Res. 2004 Dec 15;10(24):8363-70, Cancer Res. 2005 Oct 15;65(20):9176-84;Kato et al., Cancer Res. 2005 Jul 1;65(13):5638-46;Furukawa et al., Cancer Res. 2005 Aug 15;65(16):7102-10)。それらの中で、推定上の腫瘍特異的な膜貫通タンパク質または分泌タンパク質をコードする遺伝子は、細胞表面上もしくは細胞外空間内に、および/または血清中に存在し、このことがそれらを分子マーカーおよび治療標的として容易に利用できるようにしているので、顕著な利点を有すると考えられる。この検討において、本発明者らは、肺癌および/またはESCCについての新規の診断および予後のバイオマーカーを同定するために、分泌タンパク質をコードする上方制御される遺伝子(DKK1)を選択し、ならびに組織マイクロアレイ解析およびELISAによってタンパク質発現状態を調べた。
【0246】
DKK1は、1つのシグナルペプチド配列および2つのシステインリッチドメインを含む266アミノ酸タンパク質であり(Fedi et al., J Biol Chem. 1999 Jul 2;274(27):19465-72)、ならびにWntシグナル伝達の負の調節因子として機能し、かつ脊椎動物の発生における頭部の形成に重要な役割を果たす分泌タンパク質であることが公知である(Glinka et al., Nature. 1998 Jan 22;391(6665):357-62;Fedi et al., J Biol Chem. 1999 Jul 2;274(27):19465-72;Mao et al., Nature. 2002 Jun 6;417(6889):664-7. Epub 2002 May 26, Nature. 2001 May 17;411(6835):321-5;Mukhopadhyay et al., Dev Cell. 2001 Sep;1(3):423-34)。さらに、DKK1は、β-カテニン/TCFの下流標的であり、およびWntシグナル伝達における負のフィードバックループに関与することが報告されている(Gonzalez et al., Oncogene. 2005 Feb 3;24(6):1098-103;Niida et al., Oncogene. 2004 Nov 4;23(52):8520-6)。
【0247】
ヒトDKK(hDKK)関連遺伝子のファミリーは、Soggy(Sgy)と呼ばれる独特のDKK3関連タンパク質と共に、DKK1、DKK2、DKK3、およびDKK4から構成された。hDKK1〜4は、10個のシステイン残基の位置がファミリーメンバー間で高度に保存されている2つの別個のシステインリッチドメインを含む。hDKK1およびhDKK4は、アフリカツメガエル(Xenopus)胚におけるWnt誘導性二次軸誘導を抑制するが、hDKK2、hDKK3、またはSgyは抑制しない(Krupnik et al., Gene. 1999 Oct 1;238(2):301-13)。DKK4は、遺伝子発現(SAGE)および定量的逆転写(RT)-PCRの連続解析によって胃癌に対する高い特異性を示すことが分かった(Aung et al., Oncogene. 2006 Apr 20;25(17):2546-57)。その他の検討によって、ウィルムス腫瘍、肝芽腫、および肝細胞癌(HCC)におけるDKK1の過剰発現が示されているが(Wirths et al., Lab Invest. 2003 Mar;83(3):429-34;Patil et al., Oncogene. 2005 May 26;24(23):3737-47)、ヒト癌における血清学的/組織化学的マーカーとしてのDKK1タンパク質の臨床的有用性はこれまで示されていない。DKK1タンパク質と同様、Wnt阻害因子-1(WIF-1)およびFrizzled関連タンパク質(FRP)は、Wntタンパク質に結合し、およびそれらの活性を阻害することが示されている、分泌分子であることが公知であった(Hsieh et al., Nature. 1999 Apr 1;398(6726):431-6;Wodarz et al., Annu Rev Cell Dev Biol. 1998;14:59-88;Moon et al., Dev Suppl. 1993;:85-94)。これら2つのタンパク質は、結腸直腸癌を含むヒト癌と関連があることが報告された(Cebrat et al., Cancer Lett. 2004 Mar 31;206(1):107-13)。FRP-4タンパク質は、正常粘膜と比べて結腸直腸癌で著しく増加した発現レベルを示したが、病理学的特色とのまたは患者の転帰との顕著な関連はなかった(Horvath et al., Clin Cancer Res. 2004 Jan 15;10(2):615-25)。様々なDKKファミリータンパク質がヒト癌で過剰発現していると記載されていたので(Aung et al., Oncogene. 2006 Apr 20;25(17):2546-57;Horvath et al., Clin Cancer Res. 2004 Jan 15;10(2):615-25)、DKK1は腫瘍の発生または進行における潜在的な役割を有する可能性が高いと思われた。
【0248】
本発明において、本発明者らは、DKK1の外因性発現の誘導によって正常哺乳動物細胞の細胞移動/浸潤活性が増強されるということを示した。それと一致して、組織マイクロアレイ解析により検出された原発性NSCLC組織中の強いDKK1染色はより不良な予後と相関した。肺および食道の発癌におけるDKK1の正確な機能は未知であり、隣接組織への癌細胞浸潤および遠隔転移の過程は一連の複雑な連続的段階からなるが、これらの結果は、細胞移動を刺激することによって、DKK1発現が腫瘍の播種を促進する可能性があるということを示している。DKK1は、脊椎動物の発生における頭部の形成に重要な役割を果たす分泌タンパク質であると記載され、およびWntシグナル伝達の負の調節因子として公知である(Niida et al., Oncogene. 2004 Nov 4;23(52):8520-6)。DKK1はLRP5/6およびKremenタンパク質に結合し、それによって、Wnt-Frizzled-LRP5/6受容体複合体の形成を妨げる、LRPエンドサイトーシスを誘導する(Gonzalez et al., Oncogene. 2005 Feb 3;24(6):1098-103)。しかしながら、本発明者らが、半定量的RT-PCRによって、肺および食道の癌細胞株および癌組織におけるDKK1およびLRP5/6のmRNA発現を解析した時、LRP5/6の発現パターンはDKK1の発現パターンと一致しなかった(データは示さず)。ヒト癌におけるDKK1の未知の結合パートナーおよび受容体を同定するためのさらなる検討は、新規の腫瘍マーカーおよび治療標的の同定に寄与する可能性があるだけでなく、DKK1発現によって媒介されるシグナル伝達経路の新たな理解ももたらすはずである。
【0249】
本発明者らは、酵素的処理およびアラニン置換変異体を用いることにより、C末端の潜在的部位、アスパラギン-256は、DKK1におけるN-グリコシル化部位であることを確認したが、それはDKK1の分泌には影響を及ぼさなかった。最近、糖質抗原を含む様々な癌特異的抗原が血清腫瘍マーカーとして報告された。特異的グリコシル化;すなわち、肝細胞癌に対するα-フェトタンパク質(AFP)(Poon et al., Clin Chem. 2002 Jul;48(7):1021-7)、膵臓の腫瘍細胞によって産生される時に異なるオリゴ糖鎖を有する、ヒト膵臓リボヌクレアーゼ(Peracaula et al., Glycobiology. 2003 Apr;13(4):227-44. Epub 2002 Nov 26)、または前立腺癌スクリーニングに現在用いられている腫瘍マーカーである、前立腺特異的抗原(PSA)(Tabares et al., Glycobiology. 2006 Feb;16(2):132-45. Epub 2005 Sep 21)、が診断目的に用いられている。N結合型グリコシル化における変化は、癌の発生の間に生じることが報告された。オリゴ糖の分岐の増加は転移と関連し、かつ乳房、結腸、およびメラノーマのヒト癌における腫瘍進行と相関している(Comunale et al., J Proteome Res. 2006 Feb;5(2):308-15)。さらなる評価が必要であると考えられるが、DKK1のグリコシル化は、肺癌および食道癌治療のための新規の診断および治療の標的であり得る。
【0250】
DKK1を診断ツールとして適用する実行可能性を調べるために、本発明者らは、診断に対する感度および特異性に関して、DKK1の血清レベルを、NSCLCおよびSCLCについての従来の診断マーカーである、CEAまたはProGRPの血清レベルと比較した。同じ血清試料中での陽性症例の割合はDKK1について60%を上回る一方、DKK1についての偽陽性率は5.0%前後であり、このことはCEAの診断能力に対するDKK1の同等、またはより良い診断能力を示している。さらに、両方のマーカーを組み合わせたアッセイ(DKK1+CEAまたはDKK1+ProGRP)によって、肺癌を有する患者の約80%が陽性と診断される一方、健康なボランティアの6.2〜8.2%が陽性と誤って診断されるように感度が増加した。様々な臨床ステージに及ぶ大規模な一連の血清試料を用いたさらなるバリデーションが必要であると考えられるが、ここに十分に提示されたデータによって、肺癌および食道癌のための血清学的/組織化学的マーカーとしてのDKK1それ自体の潜在的な臨床適用が示されている。
【0251】
結論として、本発明者らは、肺癌および食道癌の診断用ならびにこれらの疾患を有する患者の不良な予後の予測のための潜在的バイオマーカーとしてDKK1を同定した。DKK1は、本発明者らが調査した多くの肺および食道の癌組織で特異的に過剰発現し、およびこれらの腫瘍を有する大部分の患者の血清中で上昇していた。その他の腫瘍マーカーと組み合わせた、DKK1は、癌診断の感度を顕著に改善することができた。さらに、この分子は、抗体治療などの治療アプローチの開発のための有望な候補でもある。
【0252】
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャーダイセクションおよびゲノム全体でのcDNAマイクロアレイの組み合わせを通じて得られた、本明細書において記載された食道癌の遺伝子発現解析によって、特定の遺伝子が癌の予防および治療のための標的として同定されている。これらの差次的に発現した遺伝子のサブセットの発現に基づいて、本発明は、食道癌を同定および検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0253】
本明細書において記載された方法は、食道癌の予防、診断、および治療のためのさらなる分子標的の同定においても有用である。本明細書において報告されたデータは、食道癌の包括的理解を増し、新規の診断戦略の開発を容易にし、および治療薬物および予防物質のための分子標的の同定の手がかりを提供する。そのような情報は、食道の腫瘍形成に関するより深い理解に寄与し、および食道癌の診断、治療、および究極的な予防のための新規の戦略を開発するための指標を提供する。
【0254】
さらに、本明細書において記載された方法は、肺癌および食道癌を含む癌の診断において、ならびにこれらの疾患を有する患者の不良な予後の予測にも有用である。その上、本明細書で報告されたデータはまた、肺癌および食道癌を含む癌に対する治療アプローチの開発のための有望な候補を提供する。
【0255】
他に特に定義されない限り、本明細書において使用される技術的および科学的な用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾がある場合、定義を含む本明細書に従う。
【0256】
本明細書において言及された刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照は全て、全体として参照によって本明細書に組み入れられる。
【0257】
本発明は、詳細にかつ参照を伴いその特定の態様に関して記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がそこでなされ得るということが当業者には明白であると考えられる。
【0258】
(表1)下方制御される遺伝子
























【0259】
(表2)上方制御される遺伝子
























【0260】
(表3)RT-PCRプライマーセット


【0261】
(表4)リンパ節陽性症例において下方制御される遺伝子


【0262】
(表5)リンパ節陽性症例において上方制御される遺伝子



【0263】
(表6)再発陽性症例において下方制御される遺伝子

【0264】
(表7)再発陽性症例において上方制御される遺伝子

【0265】
(表8)siRNA発現ベクターに挿入された特異的二本鎖オリゴヌクレオチドの配列および各siRNAの標的配列

【0266】
(表9A)ESCC組織におけるDKK1陽性度と患者の特徴との間の関連性(n=220)

ADC、腺癌;SCC、扁平上皮癌
*P<0.05(フィッシャーの正確確率検定)
NS、有意性なし
【0267】
(表9B)ESCCを有する患者における予後因子のコックスの比例ハザードモデル解析

*P<0.05
NS、有意性なし
【0268】
(表10A)NSCLC組織におけるDKK1陽性度と患者の特徴の間の関連性(n=279)

ADC、腺癌;SCC、扁平上皮癌
非ADC、SCC、大細胞癌(LCC)、および腺扁平上皮細胞癌(ASC)
*P<0.05(フィッシャーの正確確率検定)
NS、有意性なし
【0269】
(表10B)NSCLCを有する患者における予後因子のコックスの比例ハザードモデル解析

1 ADC、腺癌
*P<0.05
【図面の簡単な説明】
【0270】
【図1】代表的なESCCのレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)を説明する。上の列(A)はダイセクション前の試料を示し;下の列(B)は、マイクロダイセクション後の同じ切片を示す(H.E.染色×100)。採集キャップ上に捕捉されたマイクロダイセクトされた癌細胞も(C)に示した。
【図2】腫瘍、細胞株、および正常組織における38の候補遺伝子の発現。図2Aは、38の候補遺伝子の半定量的RT-PCRの結果を表す。ACTBは内部対照である。図2Bは、正常肺組織および15の臨床肺癌試料におけるDKK1の発現を表す。図2Cは、半定量的RT-PCR解析によって検出された、25の肺癌細胞株を表す。図2Dは、ウェスタンブロット解析によって検出された、5つの代表的な組のNSCLC試料におけるDKK1タンパク質の発現を表す。
【図3】ノーザンブロット解析の結果を表す。図3Aは、多組織ノーザンブロット(MTN)を用いた正常臓器におけるECT2の発現を表す。約4.3-kbの転写物は精巣でのみ発現していた。図3Bは、多組織ノーザンブロット(MTN)を用いた正常臓器におけるCDC45Lの発現を表す。約2.2-kbの転写物は精巣でのみ発現していた。図3Cは、正常成人ヒト組織におけるDKK1転写物のノーザンブロット解析を表す。強いシグナルが胎盤で観察され、および非常に弱いシグナルが前立腺で観察された。図3Dは、TE8細胞における内在性DKK1タンパク質の細胞内局在を表す。DKK1は細胞の細胞質で染色された。
【図4】ECT2に対する低分子干渉RNA(siRNA)実験の結果を表す。(A)部において、si-ECT2-1およびsi-ECT2-2のノックダウン効果をRT-PCRによって確認した。MTTアッセイ(C)およびコロニー形成アッセイ(B)によって、si-ECT2-1およびsi-ECT2-2をトランスフェクトした細胞における細胞増殖の阻害が明らかとなった。
【図5】CDC45Lに対する低分子干渉RNA(siRNA)実験の結果を表す。(A)部において、si-CDC45L-1およびsi-CDC45L-2のノックダウン効果をRT-PCRによって確認した。MTTアッセイ(C)およびコロニー形成アッセイ(B)によって、si-CDC45L-1およびsi-CDC45L-2をトランスフェクトした細胞における細胞増殖の阻害が明らかとなった。
【図6】ランダムな並べ替え検定で選択されたリンパ節転移と関連する136の遺伝子を用いた管理された2次元階層クラスタリング解析の結果を表す。
【図7】ランダムな並べ替え検定で選択された手術後の再発と関連する37の遺伝子を用いた管理された2次元階層クラスタリング解析の結果を表す。
【図8】DKK1過剰発現とNSCLC患者およびESCC患者の不良な予後との関連。図8A、Cは、癌における強い、弱い、および存在しないDKK1発現についてならびに正常組織における非発現について示した例を表す(元の倍率×100);(A)食道癌、(C)肺癌。図8B、Dは、DKK1の発現によるESCC患者(B)およびNSCLC患者(D)の生存のカプラン-マイヤー解析を表す。
【図9】ELISAによって決定された、ESCC、肺癌を有する患者および健康対照におけるDKK1の血清学的濃度。図9Aは、ESCC、肺ADC、肺SCC、またはSCLCを有する患者由来血清におけるDKK1の分布を表す。相違は、ESCC患者と健康な個体との間(P<0.001、マン-ホイットニーのU検定)、ADC患者と健康な個体(P<0.001、マン-ホイットニーのU検定)、SCC患者と健康な個体との間(P<0.001)、およびSCLC患者と健康な個体との間(P<0.001)で有意であった。図9B、肺癌および食道癌についての血清マーカーとしてのDKK1(黒)の受信者動作特性(ROC)曲線解析(X軸、1-特異性;Y軸、感度)。
【図10】図10Aは、癌細胞における分泌されたDKK1の翻訳後修飾を表す。DKK1のアラニン置換突然変異体は、野生型DKK1の脱グリコシル化型に類似した分子量を有する免疫反応性バンドとして現れた。N-グリコシダーゼFによる処理は、馴化培地中だけでなく細胞ペレット中の突然変異体DKK1のバンドの移動も全くもたらさず、DKK1はアスパラギン-256のみでN-グリコシル化されていることが示唆された。DKK1発現プラスミドをトランスフェクトした哺乳動物細胞の浸潤性の促進。図10Bは、ヒトDKK1についての発現プラスミドによるトランスフェクション後のマトリゲルマトリックス中のNIH3T3およびCOS-7細胞の浸潤性の性質を示すアッセイを表す。上のパネル、ウェスタンブロット解析によって検出された、NIH3T3およびCOS-7細胞におけるDKK1の一過性発現。真ん中のパネルおよび下のパネル、ギムザ染色(×200)およびマトリゲルで覆われたフィルターを通って移動する細胞の数。アッセイは3回、および3連のウェルで実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来の生物学的試料における食道癌関連遺伝子の発現のレベルを決定する段階を含む、対象における食道癌または食道癌を発症する素因を診断する方法であって、該遺伝子の正常対照の発現レベルと比較して該試料の発現レベルの増加または減少によって、該対象が食道癌を罹患するかまたは食道癌を発症するリスクを有することが示される、方法。
【請求項2】
食道癌関連遺伝子が、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択され、さらに正常対照レベルと比較して、該試料の発現レベルの増加によって、該対象が食道癌を罹患するかまたは食道癌を発症するリスクを有することが示される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料発現レベルが正常対照レベルよりも少なくとも10%高い、請求項2記載の方法。
【請求項4】
食道癌関連遺伝子が、EC番号1〜727(表1)、1544〜1602(表4)、および1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択され、さらに正常対照レベルと比較して、該試料の発現レベルの減少によって、該対象が食道癌を罹患するかまたは食道癌を発症するリスクを有することが示される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
試料発現レベルが正常対照レベルよりも少なくとも10%低い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
食道癌が食道扁平上皮癌である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
生物学的試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
生物学的試料が食道癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
生物学的試料が食道癌由来の上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
複数の食道癌関連遺伝子の発現のレベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
遺伝子発現レベルが、以下からなる群より選択される方法によって決定される、請求項1記載の方法:
(a)食道癌関連遺伝子のmRNAを検出すること、
(b)食道癌関連遺伝子によってコードされるタンパク質を検出すること、および
(c)食道癌関連遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出すること。
【請求項12】
検出がDNAアレイ上で行われる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
EC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択される2つまたはそれ以上の食道癌関連遺伝子についての遺伝子発現のパターンを含む、食道癌参照発現プロファイル。
【請求項14】
食道癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)試験化合物を、EC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)該ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する段階;および
(c)該ポリペプチドに結合する試験化合物を選択する段階。
【請求項15】
食道癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、EC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択される、1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;ならびに
(b)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはEC番号1〜727(表1)、1544〜1602(表4)、および1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる、候補化合物を選択する段階。
【請求項16】
細胞が食道癌細胞を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
食道癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)試験化合物を、EC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;ならびに
(c)試験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物学的活性と比較して、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、またはEC番号1〜727(表1)、1544〜1602(表4)、および1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を増強させる、試験化合物を選択する段階。
【請求項18】
食道癌を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がEC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;ならびに
(c)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して、該マーカー遺伝子が、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される上方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルもしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子が、EC番号1〜727(表1)、1544〜1602(表4)、および1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択される下方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルもしくは活性を増強させる候補化合物を選択する段階。
【請求項19】
(a)EC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択される2つもしくはそれ以上の核酸配列、または(b)それらによってコードされるポリペプチド、に結合する検出試薬を含むキット。
【請求項20】
EC番号1〜1716の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の1つまたは複数に結合する2つまたはそれ以上の核酸を含むアレイ。
【請求項21】
対象における食道癌を治療または予防する方法であって、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む方法。
【請求項22】
対象における食道癌を治療または予防する方法であって、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる、siRNA組成物を対象に投与する段階を含む方法。
【請求項23】
ヌクレオチド配列が配列番号:30(ECT2)および32(CDC45L)からなる群より選択され、ならびにsiRNAが配列番号:8、9、10、および11のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
対象における食道癌を治療または予防するための方法であって、EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される任意の1つの遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する、抗体、またはその免疫学的活性断片の薬学的有効量を、該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項25】
対象における食道癌を治療または予防する方法であって、(a)EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または(c)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項26】
抗原提示細胞を、ポリペプチド、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、もしくは該ポリヌクレオチドを含むベクターと接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法であって、該ポリペプチドがEC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)からなる群より選択される遺伝子またはその断片によってコードされる方法。
【請求項27】
対象に抗原提示細胞を投与する段階をさらに含む、請求項26記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項28】
対象における食道癌を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1〜727(表1)、1544〜1602(表4)、および1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現、または(b)それらによってコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項29】
対象における食道癌を治療または予防するための方法であって、請求項14〜18のいずれか一項記載の方法によって得られる化合物を投与する段階を含む方法。
【請求項30】
対象における食道癌を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1〜727(表1)、1544〜1602(表4)、および1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b)それらによってコードされるポリペプチドを含む、作用物質の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項31】
EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対する、アンチセンスポリヌクレオチドまたはsiRNAの薬学的有効量を含む、食道癌を治療または予防するための組成物。
【請求項32】
siRNAが配列番号:8、9、10、および11のヌクレオチド配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含むセンス鎖を含む、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
EC番号728〜1543(表2)、1603〜1679(表5)、および1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、食道癌を治療または予防するための組成物。
【請求項34】
活性成分としての請求項14〜18のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、食道癌を治療または予防するための組成物。
【請求項35】
食道癌転移を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)試験化合物を、EC番号1544〜1679(表4〜5)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)該ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する段階;および
(c)該ポリペプチドに結合する試験化合物を選択する段階。
【請求項36】
食道癌転移を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、EC番号1544〜1679(表4〜5)の遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;および
(b)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはEC番号1544〜1602(表4)の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる、候補化合物を選択する段階。
【請求項37】
食道癌転移を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)試験化合物を、EC番号1544〜1679(表4〜5)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下で検出されるポリペプチドの生物学的活性と比較して、EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、またはEC番号1544〜1602(表4)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を増強させる、試験化合物を選択する段階。
【請求項38】
食道癌転移を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がEC番号1544〜1679(表4〜5)の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;ならびに
(c)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して、該マーカー遺伝子が、EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択される上方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルもしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子が、EC番号1544〜1602(表4)の遺伝子からなる群より選択される下方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルもしくは活性を増強させる、候補化合物を選択する段階。
【請求項39】
対象における食道癌転移を治療または予防する方法であって、EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、アンチセンス組成物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項40】
対象における食道癌転移を治療または予防する方法であって、EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させる、siRNA組成物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項41】
対象における食道癌転移を治療または予防するための方法であって、EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する、薬学的有効量の抗体、またはその断片を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項42】
対象における食道癌転移を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または(c)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含むワクチンを該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項43】
対象における食道癌転移を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1544〜1602(表4)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現、または(b)該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項44】
対象における食道癌転移を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1544〜1602(表4)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b)該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを含む作用物質の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項45】
EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対する、アンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、食道癌転移を治療または予防するための組成物。
【請求項46】
EC番号1603〜1679(表5)の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する薬学的有効量の抗体、またはその断片を含む、食道癌転移を治療または予防するための組成物。
【請求項47】
活性成分としての請求項35〜38のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、食道癌転移を治療または予防するための組成物。
【請求項48】
食道癌再発を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)試験化合物を、EC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)該ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する段階;および
(c)該ポリペプチドに結合する試験化合物を選択する段階。
【請求項49】
食道癌再発を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、EC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階;および
(b)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して、EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させるか、またはEC番号1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる、候補化合物を選択する段階。
【請求項50】
食道癌再発を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)試験化合物を、EC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物学的活性と比較して、EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制するか、またはEC番号1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物学的活性を増強させる、試験化合物を選択する段階。
【請求項51】
食道癌再発を治療または予防するための化合物をスクリーニングする方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)候補化合物を、1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域および該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターが導入された細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がEC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルまたは活性を測定する段階;ならびに
(c)候補化合物の非存在下で検出される発現レベルまたは活性と比較して、該マーカー遺伝子が、EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される上方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルもしくは活性を低下させるか、または該マーカー遺伝子が、EC番号1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択される下方制御されるマーカー遺伝子である場合、該レポーター遺伝子の発現レベルもしくは活性を増強させる、候補化合物を選択する段階。
【請求項52】
対象における食道癌再発を治療または予防する方法であって、EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス組成物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項53】
対象における食道癌再発を治療または予防する方法であって、EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される核酸配列の発現を低下させるsiRNA組成物を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項54】
対象における食道癌再発を治療または予防するための方法であって、EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する、薬学的有効量の抗体、またはその断片を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項55】
対象における食道癌再発を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b)該ポリペプチドの免疫学的活性断片、または(c)該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを対象に投与する段階を含む方法。
【請求項56】
対象における食道癌再発を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現、または(b)該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物、を該対象に投与する段階を含む方法。
【請求項57】
対象における食道癌再発を治療または予防する方法であって、(a)EC番号1680〜1688(表6)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b)該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、を含む作用物質の薬学的有効量を該対象に投与する段階。
【請求項58】
EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対する、アンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、食道癌再発を治療または予防するための組成物。
【請求項59】
EC番号1689〜1716(表7)の遺伝子からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する薬学的有効量の抗体、またはその断片を含む、食道癌再発を治療または予防するための組成物。
【請求項60】
活性成分としての請求項48〜51のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、食道癌再発を治療または予防するための組成物。
【請求項61】
(a)対象から採集された試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がEC番号1544〜1679(表4〜5)の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを転移陽性症例および転移陰性症例の1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルと比較する段階;
を含み、かつ
(c)転移陽性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが高リスクの食道癌の転移を示し、および転移陰性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが低リスクの食道癌の転移を示す、
対象における食道癌の転移を予測するための方法。
【請求項62】
(a)対象から採集された試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを検出する段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がEC番号1680〜1716(表6〜7)の遺伝子からなる群より選択される段階;
(b)該試料における1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを再発陽性症例および再発陰性症例の1つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルと比較する段階;
を含み、かつ
(c)再発陽性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが高リスクの食道癌の再発を示し、および再発陰性症例の発現レベルと類似した試料発現レベルが低リスクの食道癌の再発を示す、
対象における食道癌の再発を予測するための方法。
【請求項63】
対象における癌を診断するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)診断される対象から血液試料を採集する段階;
(b)血液試料中のDKK1のレベルを決定する段階;
(c)段階(b)で決定されたDKK1レベルを正常対照のDKK1レベルと比較する段階;および
(d)正常対照と比較して、血液試料中DKK1レベルが高いことが、該対象が癌を罹患していることを示すということを判定する段階。
【請求項64】
癌が食道癌および肺癌である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
血液試料が全血、血清、および血漿からなる群より選択される、請求項63記載の方法。
【請求項66】
血清中のDKK1タンパク質を検出することによってDKK1レベルが決定される、請求項63記載の方法。
【請求項67】
イムノアッセイによってDKK1タンパク質を検出する、請求項66記載の方法。
【請求項68】
イムノアッセイがELISAである、請求項67記載の方法。
【請求項69】
イムノアッセイが、抗DKK1ポリクローナル抗体を検出抗体として使用するサンドイッチ法である、請求項67記載の方法。
【請求項70】
(a)血液試料中のDKK1のレベルを決定するためのイムノアッセイ試薬;および
(b)DKK1についての陽性対照試料:
を含む、癌を検出するためのキット。
【請求項71】
癌が食道癌および肺癌である、請求項70記載のキット。
【請求項72】
陽性対照試料がDKK1について陽性である、請求項70記載のキット。
【請求項73】
陽性対照試料が液体形態である、請求項72記載のキット。
【請求項74】
正常レベルを上回る両方のDKK1を含む、癌を検出するための陽性対照血液試料。
【請求項75】
癌が食道癌および肺癌である、請求項74記載の陽性対照血液試料。
【請求項76】
癌を有する患者の予後を評価するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)患者由来の生物学的試料中のDKK1遺伝子の発現レベルを検出する段階;
(b)検出された発現レベルを対照レベルと比較する段階;および
(c)(b)の比較に基づいて患者の予後を決定する段階。
【請求項77】
対照レベルが良好な予後の対照レベルであり、および対照レベルと比較した発現レベルの増加が不良な予後として決定される、請求項76記載の方法。
【請求項78】
増加が対照レベルよりも少なくとも10%大きい、請求項77記載の方法。
【請求項79】
その他の癌関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、請求項76記載の方法。
【請求項80】
(a)DKK1遺伝子のmRNAを検出すること;
(b)DKK1タンパク質を検出すること;および
(c)DKK1タンパク質の生物学的活性を検出すること、
からなる群より選択される任意の1つの方法によって発現レベルを決定する、請求項76記載の方法。
【請求項81】
DKK1遺伝子の遺伝子転写物へのプローブのハイブリダイゼーションを検出することによって発現レベルが決定される、請求項76記載の方法。
【請求項82】
ハイブリダイゼーション段階がDNAアレイ上で行われる、請求項81記載の方法。
【請求項83】
DKK1タンパク質に対する抗体の結合をDKK1遺伝子の発現レベルとして検出することによって発現レベルが決定される、請求項76記載の方法。
【請求項84】
生物学的試料が痰または血液を含む、請求項76記載の方法。
【請求項85】
癌が食道癌および肺癌である、請求項76記載の方法。
【請求項86】
(a)DKK1遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)DKK1タンパク質を検出するための試薬;および
(c)DKK1タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬、
からなる群より選択される試薬を含む、癌を有する患者の予後を評価するためのキット。
【請求項87】
試薬がDKK1タンパク質に対する抗体である、請求項86記載のキット。
【請求項88】
癌が食道癌および肺癌である、請求項86記載のキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【公表番号】特表2009−502116(P2009−502116A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504285(P2008−504285)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/JP2006/315342
【国際公開番号】WO2007/013671
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】