説明

食道癌同所性移植モデル動物

【課題】本発明は、食道癌同所性移植モデル動物を提供することを課題とする。より詳しくは、予後評価が可能な食道癌同所性移植モデル動物を提供することを課題とする。
【解決手段】免疫力が低下した非ヒト動物の食道内に、シリンダー部、可動式ピストン部及び注入用デバイスを有する注射器様の器具を用い、注入用デバイスで上記非ヒト動物の食道粘膜を穿破し、シリンダー部から前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入することで、食道癌同所性移植モデル動物を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食道癌同所性移植モデル動物に関し、より詳しくは予後評価が可能な食道癌同所性移植モデル動物の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食道は、咽頭と胃の間をつなぐ長さ25cmぐらい、太さ2〜3cm、厚さ4mmの管状の臓器をいう。食道の壁は外に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれている。食道の内側は食べ物が通りやすいように粘液を分泌するなめらかな粘膜で覆われており、粘膜の下には筋層との間に血管やリンパ管が豊富な粘膜下層がある。食道癌は、食道に発生する上皮性由来の腫瘍(癌腫)である。食道癌の種類では扁平上皮癌と腺癌の2種に大別され、日本では全体の90%以上が扁平上皮癌といわれており、腺癌とあわせると、食道癌全体の95%以上を占めるといわれている。食道の内面を覆う粘膜から発生した癌は、大きくなると粘膜下層に広がり、さらにその下の筋層に入り込む。さらに大きくなると食道の壁を貫いて食道の外まで拡大する。
【0003】
食道癌の初期症状は食道違和感等の不定愁訴に近く、またリンパ節転移が多いことと、食道は他の消化器臓器と異なり漿膜(外膜)を有していないため、比較的周囲に浸潤しやすいこと等から、進行が早く、発見が遅れやすい。食道癌は進行に伴って、腫瘍が食道内外に進展していくことにより、腫瘍の内腔占拠や食道壁外からの圧迫による食道狭窄を呈し、あるいは周囲神経への障害により嚥下能が低下し、摂食障害を来すことが発症後早期に不幸な顛末を迎える要因のひとつと考えられる。
【0004】
食道癌に対しては、内視鏡治療、手術、放射線治療と抗がん剤の治療等様々な治療法が試みられている。その他に温熱療法や免疫療法などを行っている施設もあり、ある程度進行した癌では、外科療法、放射線療法、化学療法を組み合わせてこれらの特徴を生かした集学的治療も行われる。これらの治療法を前臨床段階で評価するにあたり、食道癌の臨床的特徴への効果を検証することは容易ではない。なぜなら、有用な動物モデルが広く一般に普及していないからである。食道癌同所性移植については、ラットに関する報告(非特許文献1)とマウスに関する報告(非特許文献2)があるが、いずれも繊細な外科的手技が必要であり、汎用性及び再現性の確立が困難である。また、予後評価可能な精度も認められない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Int J Cancer. 2001 May 15;92(4):489-96.
【非特許文献2】Int J Oncol. 2001 Nov;19(5):903-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食道癌同所性移植モデル動物を提供することを課題とする。より詳しくは、予後評価が可能な食道癌同所性移植モデル動物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、免疫力が低下した非ヒト動物の食道内に、シリンダー部、可動式ピストン部を有する注射器様の器具を用い、注入用デバイスで上記非ヒト動物の食道粘膜を穿破し、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入することで、食道癌同所性移植モデル動物を作製することに成功し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は以下よりなる。
1.以下の方法を含む食道癌同所性移植モデル動物の作製方法:
1)免疫力が低下した非ヒト動物を用意する工程;
2)前記非ヒト動物の食道内に、シリンダー部及び可動式ピストン部を有する注射器様の器具を用い、注入用デバイスで上記非ヒト動物の食道粘膜を穿破し、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入する工程。
2.上記工程2)において、注入用デバイスが、注射針である、前項1に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
3.上記工程2)において、前記注入用デバイスが外套管に挿入されており、腫瘍細胞を注入する際に、予め注入用デバイスと外套管を前記非ヒト動物の食道内に挿入し、当該外套管の先端部を頸部に位置させ、次に腫瘍細胞を装填したシリンダー部と可動式ピストンからなる注射器様器具の一部を注入用デバイスに結合し、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入する、前項1又は2に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
4.腫瘍細胞をマトリゲルと混合して注入する、前項1〜3のいずれか1に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
5.免疫力が低下した非ヒト動物がヌードマウスである、前項1〜4のいずれか1に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
6.腫瘍細胞が、ヒト食道癌由来株化細胞である、前項1〜5のいずれか1に記載の方法。
7.非ヒト動物1匹当たり10個〜10個の腫瘍細胞を食道粘膜皮下へ注入する、前項1〜6のいずれか1に記載の方法。
8.前項1〜7のいずれか1に記載の方法で作製され、腫瘍細胞が食道粘膜皮下に生着している食道癌同所性移植モデル動物。
9.前項8に記載の食道癌同所性移植モデル動物を用いることを特徴とする、薬剤の評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、再現性のある技法を用いて食道癌同所性移植モデル動物を作製することができた。本発明のモデルは、in vivoでのヒト食道癌の生物学的挙動及び治療の研究に有効である。本発明の食道癌同所性移植モデル動物は、体重、食物摂取、水分摂取において、ヒト食道癌の臨床的特徴と非常に類似することが確認された。また、公知の抗癌剤(5−FU剤)の抗腫瘍効果や延命効果も確認することができた。これらの結果より、本発明のモデル動物を用いると、食道癌に対する癌治療薬の開発、治療効果の検証、担癌正常食道組織の癌治療による副作用の検証、食道癌を検出及びイメージングする試薬の開発などが可能となり、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法の概念を示す図である。
【図2】本発明の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法の概念を示す写真図である。
【図3】作製された食道癌同所性移植モデル動物の食道部位に癌が生着している様子を示す写真図である。左:外観図 右:解剖図 (実施例1)
【図4】作製された食道癌同所性移植モデル動物の食道部の断面を示す写真図である。気管支及び食道の付近に腫瘍細胞が生着している。(実施例1)
【図5】作製された食道癌同所性移植モデル動物の食道部組織をHE染色したときの写真図である。(実施例1)
【図6】作製された食道癌同所性移植モデル動物の食道部の断面を、CT検査したときの写真図である。気管支及び食道の付近に腫瘍細胞が生着している。(実施例1)
【図7】作製された食道癌同所性移植モデル動物の食道部の断面を、3D−CT検査したときの写真図である。気管支及び食道の付近に腫瘍細胞が生着している。(実施例1)
【図8】食道癌同所性移植モデル動物の体重、摂食量、摂水量を観察した結果を示す図である。(実験例1)
【図9】食道癌同所性移植モデル動物の生存率を示す図である。(実験例1)
【図10】食道癌同所性移植モデル動物の生存率を示す図である。(実験例2)
【図11】食道癌同所性移植モデル動物に抗癌剤(5−FU)を投与したときの体重、摂食量、摂水量を観察した結果を示す図である。(実験例3)
【図12】食道癌同所性移植モデル動物に抗癌剤(5−FU)を投与したときの生存率を示す図である。(実験例3)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、食道癌同所性移植モデル動物は、以下の工程を含む方法により作製することができる。
1)免疫力が低下した非ヒト動物を用意する工程。
2)前記非ヒト動物の食道内に、シリンダー部及び可動式ピストン部を有する注射器様の器具を用い、注入用デバイスで上記非ヒト動物の食道粘膜を穿破し、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入する工程。
【0012】
免疫力が低下した非ヒト動物は、食道癌細胞が生着可能な程度に免疫力が低下した動物であればよい。動物の種類は特に限定されないが、実験室内で使用するのであれば、マウスやラットなどのげっ歯類が取り扱いが容易で便利である。例えば、ヌードマウス、ヌードラット、スキッドマウス、ALYマウスなどの免疫不全動物を挙げることができ、市販されているものを購入して用意してもよい。さらに、免疫力を低下させるために、非ヒト動物にX線などの放射線を照射してもよい。用意する非ヒト動物は例えばマウスの場合には、4〜12週齢のものを使用することができ、好適には6〜10週齢、より好適には6〜8週齢のものを使用することができる。また、ラットの場合には、4〜12週齢のものを使用することができ、好適には6〜10週齢、より好適には8〜10週齢のものを使用することができる。非ヒト動物は、免疫力低下の度合いに応じて、感染を防御した環境下で飼育することができる。感染防御の目的で、非ヒト動物に抗生剤を投与してもよい。
【0013】
注入される腫瘍細胞としては、食道癌細胞であればよく、特に限定されない。例えば、ヒト食道癌由来株化細胞であってもよく、具体的にはTE4細胞、TE8細胞、TE11細胞、T.Tn細胞などを挙げることができる。また、動物の腫瘍から採取した細胞であっても、それを継代培養したものであってもよい。あるいはまた、継代培養した肺癌細胞を皮下移植した動物から腫瘍を採取し、それを再度継代培養したものでもよい。
【0014】
本発明において、前記免疫力が低下した非ヒト動物に腫瘍細胞を注入する際の器具として、シリンダー部及び可動式ピストン部を有する注射器様の器具を用いることができる。さらに、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入することができる。ここで、注入用デバイスは、注射針のような管状構造をしており、非ヒト動物の食道粘膜を穿破可能である形状であればよい。具体的には注射針が挙げられ、環状構造の大きさは、18〜27Gとすることができ、好ましくは20〜24Gであり、より好ましくは約22G程度である。注入用デバイスを装着した注射器様器具のシリンダー部に腫瘍細胞を含む溶液を充填し、注入用デバイスで上記非ヒト動物の食道粘膜を穿破し、シリンダー部内の腫瘍細胞を、前記可動式ピストン部を押すことにより、注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入させ、モデル動物を作製することができる。
【0015】
あるいは、免疫力が低下した非ヒト動物の食道内に、予め注入用デバイスを挿入して当該注入用デバイスの位置を決めて食道粘膜を穿破した後に、注射器様器具のシリンダー部を注入用デバイスに結合させ、シリンダー部内の腫瘍細胞を前記可動式ピストン部を押すことにより、注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入し、モデル動物を作製することもできる。
【0016】
当該注入用デバイスは、外套管に挿入されていても良い。ここで、外套管とは、筒状の形状であり、例えば外套針が挙げられる。注入用デバイスが外套管に挿入されていることにより、注入用デバイスで非ヒト動物の口腔部や食道部等の部位に傷をつけることを防ぐことができる。例えば、図1及び図2に示すように、口腔内を介して食道内に外套管を挿入し、位置決めをした後に、注入用デバイスを外套管に挿入して食道粘膜を穿破することもできる。食道粘膜を穿破した後に、注入用デバイスを射器様器具のシリンダー部に結合させ、前記可動式ピストン部を押すことにより、シリンダー部内の腫瘍細胞を、注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入し、モデル動物を作製することもできる。あるいは、位置決めした外套管に、射器様器具と結合した注入用デバイスを挿入して食道粘膜を穿破し、前記可動式ピストン部を押すことにより、注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入し、モデル動物を作製することもできる。
【0017】
腫瘍細胞は、無血清培地(例えば、αMEM、RPMI1640等)やPBSなどに懸濁させてから、非ヒト動物の食道粘膜皮下に注入することができる。腫瘍細胞は、非ヒト動物1匹当たり10〜10個、好ましくは10〜10個を食道粘膜皮下へ注入することができる。腫瘍細胞懸濁液を非ヒト動物、例えばマウスに注入する場合には、腫瘍細胞懸濁液の容量は100μl以下であるとよく、好ましくは30〜50μlとすることができる。他の非ヒト動物に注入する場合には、動物の体重に基づいて、上記の値から腫瘍細胞懸濁液の容量を換算することができる。
【0018】
腫瘍細胞懸濁液には、細胞外基質成分からなるゲル、例えばマトリゲルTM(ベクトン・ディッキンソン社)を混合することができる。腫瘍細胞懸濁液を細胞外基質成分と混合することにより、非ヒト動物における腫瘍細胞の生着率が上昇すると考えられる。懸濁液:マトリゲルTMは、例えば10:1〜1:10の濃度で混合することができ、好ましくは、5:1〜1:5で混合することができ、より好ましくは1:1で混合することができる。腫瘍細胞を食道粘膜皮下に注入した後、非ヒト動物を7〜14日間程度飼育すると、腫瘍細胞の生着を確認することができる。腫瘍細胞の生着は、非ヒト動物の食道部を外観観察したり、解剖観察して確認することができる(図3参照)。また、頸部を切断し、食道部近辺の腫瘍を肉眼にて観察することもできる(図4参照)。さらには、食道部近辺の組織をパラフィンに包埋した後、薄切切片にスライスし、この切片をヘマトキシリン-エオシン(HE)染色することにより観察し、確認することができる(図5参照)。さらには、CTスキャンや、3D−CTスキャンにより確認することもできる(図6、7参照)。
【0019】
本発明は、上記方法により作製され、腫瘍細胞が食道粘膜皮下に生着している食道癌同所性移植モデル動物にも及ぶ。当該同所腫瘍移植モデル動物は、ヒト食道癌の臨床的特徴と非常に類似しているということができる。さらには、上記食道癌同所性移植モデル動物を用いることを特徴とする、薬剤の評価方法にも及ぶ。薬剤の評価は、上記食道癌同所性移植モデル動物に表現される指標により行うことができ、例えば、食物摂取量や水分摂取量、体重のほか、上記モデルの腫瘍の観察等により行うことができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)ヒト食道扁平上皮癌TE8細胞系を用いた食道癌同所性移植モデル動物
ヒト食道扁平上皮癌TE8細胞系を腫瘍細胞として用いた。血清培地に懸濁させた腫瘍細胞2500万/500μlとマトリゲルTM(ベクトン・ディッキンソン社)500μlを混じて、氷上に準備した。麻酔した無胸腺ヌードマウス(6〜8週齢)を準備し、背臥位にて固定した。無胸腺ヌードマウスは日本クレア株式会社より入手した。マウスを特に病原体を持たない条件下で維持し、オートクレーブ処理した食餌と水を与え、厳密に無菌の条件下で取り扱った。この研究の開始前1週間にわたり、マウスを順化させた。
【0022】
注射器及び22Gの内套針と外套管を用意し、外套管のみをマウス食道に挿入した。TE8細胞とマトリゲルTMを懸濁した混和物の入ったシリンジを内套針に結合し、ゆっくりと外套管に挿入した。内套針の針先が頸部に来るように位置を調整し、右頸部を目指して食道粘膜を内側から穿破し、皮下腫瘍を作る要領で1匹あたり200μlの混和物を注入した(図1、2参照)。
【0023】
移植された腫瘍細胞は増殖し、食道近傍に腫瘍塊を形成した(図3、4参照)。腫瘍の発育に伴い、徐々に周囲組織に浸潤、圧排が認められ、組織像では食道外膜への腫瘍の浸潤が認められた(図5)。この移植された腫瘍と周囲組織の位置関係を確認するために、CT検査を行なった。図6は、0.5mmスライスでのCT写真の一部であり、食道内には造影剤(ガストログラフィン)が注入されており、腫瘍による食道及び気管支への圧迫が認められた。さらに3D−CT画像を作成し、周囲組織との立体的位置関係及び腫瘍による食道の圧迫を確認した(図7)。
【0024】
上記により、ヒト食道扁平上皮癌TE8細胞系を用いた食道癌同所性移植モデル動物を作製することができた。
【0025】
(実験例1)食道癌同所性移植モデル動物の確認1
実施例1と同手法で作製した食道癌同所性移植モデル動物において、腫瘍の生着率、致死率、体重、食事量の変化を調べるために、8匹のマウスを腫瘍細胞を含まずマトリゲルTMのみを注入するコントロール群と、TE8細胞とマトリゲルTMを注入する同所性移植群に分けて検討を行なった。
【0026】
腫瘍の生着率は100%であった。移植後腫瘍の増大に伴い、食道への直接的な浸潤及び周囲からの圧迫が生じ、マウスの体重、食事量、水分摂取量は減少した(図8参照)。最終的に移植した全てのマウスが摂食不能となり死亡することが確認され(n=4)、確認のため同条件での実験をもう一度行なったが、同様の結果となった(n=8)(図9参照)。
【0027】
(実験例2)食道癌同所性移植モデル動物の確認2
ヒト食道扁平上皮癌TE4細胞系においても、実施例1と同手法にて食道癌同所性移植モデル動物を作製した。腫瘍の生着率は100%であった。移植後徐々に腫瘍は増大していき、食道に対して直接的な浸潤及び周囲からの圧迫により、マウスの体重、食事量、水分摂取量の減少が確認された(n=4)。また、腫瘍細胞注入後64日目で、全てのモデル動物が死亡した(図10参照)。
実験例1及び2の結果より、皮下腫瘍を形成する細胞種においては、上記方法により作製した食道癌同所性移植モデル動物は、同様の結果が得られる汎用性が示された。
【0028】
(実験例3)食道癌同所性移植モデル動物を用いた抗癌剤の効果の確認
実施例1と同手法により作製した食道癌同所性移植モデル動物に、ヒトで予後延長効果が認められている抗癌剤(5−FU)を投与することで、抗腫瘍効果が得られるか否かを確認した。8匹の食道癌同所性移植モデル動物を作製し、PBSのみを投与するコントロール群と5−FUを20mg/kg5投2休2週間投与の2群に分け、体重、食事摂取量、水分摂取量、予後について検証を行なった。
【0029】
コントロール群では腫瘍の増大に伴い、食事摂取量、水分摂取量、体重の減少が認められたが、5−FU投与群では、2週間の投与による下剤などの消化器系の副作用とともに、一過性に食事摂取量、水分摂取量、体重減少が認められたものの、休薬後には食事摂取量、水分摂取量、体重の回復が認められた(図11参照)。また、5−FUの投与により、有意な予後の延長が認められた(図12参照)。この事は、同所性移植モデル動物が、ヒト食道癌の臨床的特徴を良くシュミレートできており、簡便な手技により予後評価を可能にしていることを裏付けていると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上詳述したように、本発明の方法により食道癌同所性移植モデル動物を作製することができた。本発明の食道癌同所性移植モデル動物は、体重、食物摂取、水分摂取において、ヒト食道癌の臨床的特徴と非常に類似することが確認された。また、公知の抗癌剤(5−FU剤)の抗腫瘍効果や延命効果も確認することができた。これらの結果より、本発明のモデル動物を用いると、食道癌に対する癌治療薬の開発、治療効果の検証、担癌正常食道組織の癌治療による副作用の検証、食道癌を検出及びイメージングする試薬の開発などが可能となり、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の方法を含む食道癌同所性移植モデル動物の作製方法:
1)免疫力が低下した非ヒト動物を用意する工程;
2)前記非ヒト動物の食道内に、シリンダー部及び可動式ピストン部を有する注射器様の器具を用い、注入用デバイスで上記非ヒト動物の食道粘膜を穿破し、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入する工程。
【請求項2】
上記工程2)において、注入用デバイスが、注射針である、請求項1に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
【請求項3】
上記工程2)において、前記注入用デバイスが外套管に挿入されており、腫瘍細胞を注入する際に、予め注入用デバイスと外套管を前記非ヒト動物の食道内に挿入し、当該外套管の先端部を頸部に位置させ、次に腫瘍細胞を装填したシリンダー部と可動式ピストンからなる注射器様器具の一部を注入用デバイスに結合し、シリンダー部から注入用デバイスを介して前記非ヒト動物の食道粘膜皮下に腫瘍細胞を注入する、請求項1又は2に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
【請求項4】
腫瘍細胞をマトリゲルと混合して注入する、請求項1〜3のいずれか1に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
【請求項5】
免疫力が低下した非ヒト動物がヌードマウスである、請求項1〜4のいずれか1に記載の食道癌同所性移植モデル動物の作製方法。
【請求項6】
腫瘍細胞が、ヒト食道癌由来株化細胞である、請求項1〜5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
非ヒト動物1匹当たり10個〜10個の腫瘍細胞を食道粘膜皮下へ注入する、請求項1〜6のいずれか1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載の方法で作製され、腫瘍細胞が食道粘膜皮下に生着している食道癌同所性移植モデル動物。
【請求項9】
請求項8に記載の食道癌同所性移植モデル動物を用いることを特徴とする、薬剤の評価方法。

【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−268759(P2010−268759A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125089(P2009−125089)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)