説明

食酢もろみ粕及び食品廃棄物を用いた肥料

【課題】本発明は、腐敗しやすい食品廃棄物の日持ちを新たな環境負荷を増やさずに向上させた肥料を提供する。
【解決手段】食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐敗しやすい食品廃棄物の日持ちを新たな環境負荷を増やさずに向上させた肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造工場等の食品製造工程で発生する野菜の皮や豆腐のおから、魚介や肉類の骨等の非可食部、レストランやホテル、コーヒーチェーン店などの外食店舗で発生する食べ残しや調理残渣、スーパーやコンビニエンスストア等で発生するの売れ残り等の食品廃棄物は、一部は肥料や飼料として再利用されている。例えば食品廃棄物を有効活用する方法としては、特開2001−2486号公報(先行文献1)に、ビール製造時に発生するビール粕を、数週間の堆積により発酵させ、肥料として利用する方法が開示されている。肥料にすることで、ビール粕の成分を農産物へと有効活用することができる。
【0003】
しかしながら、水分を含んだ食品廃棄物は腐敗しやすいため、スーパーやレストラン等の店舗のバックヤードに放置しておくと、数日で腐敗臭が発生し、環境問題までも引き起こす。そのため、有効活用するためには、食品廃棄物が腐敗する前にトラックで毎日少しずつ集めて回ったり、各店舗などに堆肥処理機を設置したりとエネルギーやコストの無駄が生じている。このようなことから、現状は食品廃棄物の大部分がゴミとして処分され、その焼却費用や手間が社会問題となっている。
【0004】
一方、米酢、穀物酢、果実酢などの食酢を製造する際には酢酸発酵後などに濾過処理を施しているが、この濾過処理によって、大量の食酢もろみ粕が発生する。このようにして発生した食酢もろみ粕には、食酢の原料由来、酢酸発酵工程由来などによる様々な有用成分が含まれているが、食酢のもろみ粕は酸臭が強くpHが低いため、積極的な有効活用や用途の開発はほとんど行われていない状態であった。このことから、食酢もろみ粕の新たな有効活用方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−2486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、腐敗しやすい食品廃棄物の日持ちを新たな環境負荷を増やさずに向上させた肥料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、食酢のもろみ粕と食品廃棄物を混合させることで、意外にも、酸臭が強くpHの低い食酢もろみ粕を肥料として有効活用ができ、さらには水分を含んだ食品廃棄物の腐敗を遅らせ、日持ちを向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)食酢のもろみ粕と水分含量が20%以上の食品廃棄物の混合物を含有することを特徴とする肥料、
(2)前記混合物のpHが3〜6である請求項1記載の肥料、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物を含有させることで、意外にも、酸臭が強くpHの低い食酢もろみ粕を肥料として有効活用ができ、さらには水分を含んだ食品廃棄物の腐敗を遅らせ、日持ちを向上させることができる。これにより、食品廃棄物をトラックで毎日少しずつ集めて回ったり、各店舗などに堆肥処理機を設置したりするエネルギーやコストの無駄を削減でき、食品リサイクルの機会を拡大し、循環型社会の推進に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
本発明の肥料は、食酢のもろみ粕と水分含量が20%以上の食品廃棄物の混合物を含有する。食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物を含有させることで、酸臭が強くpHの低い食酢もろみ粕を肥料として有効活用ができ、さらには水分を含んだ食品廃棄物の腐敗を遅らせ、日持ちを向上させることができる。また、堆肥化するのに必要な腐熟も問題なく進むため、本発明は肥料として好ましいものである。
【0011】
本発明で用いる食品廃棄物とは、食品の製造、流通、消費の過程で廃棄される食品残渣を指す。食品廃棄物は水分含量が多いほど腐敗が起こりやすいため、本発明の効果を奏しやすい点で、水分含量が20%以上の食品廃棄物が好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60〜95%である。具体的には、食品製造工場等の食品製造工程で発生する野菜の皮や豆腐のおから、魚介や肉類の骨等の非可食部、レストランやホテル、コーヒーチェーン店などの外食店舗で発生する食べ残しや調理残渣、スーパーやコンビニエンスストア等で発生するの売れ残り等があげられる。前記食品廃棄物の水分含量は、減圧加熱乾燥法など常法により測定すればよい。
【0012】
本発明で用いる食酢のもろみ粕とは、食酢を製造する際に行われる濾過処理によって得られるもろみ粕をいい、具体的には、原料をアルコール発酵させたのちに食酢を添加し、酢酸発酵させ、その後の珪藻土等の濾過工程によって得られるもろみ粕、あるいは、原料をアルコール発酵させた後に食酢を添加し、その後の濾過工程によって得られるもろみ粕などをいう。この食酢もろみ粕は酢酸を含有することから、酸特有の刺激臭が強く、pHは2.5〜4と低い。
【0013】
食酢のもろみ粕に含まれる酢酸の含有量は、原料の状態や珪藻土の使用割合、圧搾程度によって異なるが、通常は1〜6%である。
【0014】
また、本発明で用いる食酢もろみ粕は、通常の食酢製造により得られるもろみ粕であればいずれのものでも良い。例えば、米酢、麦芽酢、穀物酢、黒酢や、リンゴ酢、ワインビネガー等の果実酢、醸造酢などの食酢を得るための、公知の酢酸発酵方法により得られる食酢もろみ粕が挙げられる。
【0015】
食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物のpHは、用いる食酢のもろみ粕や食品廃棄物によって異なるが、好ましくは3〜6、より好ましくは4.2〜5.5である。食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物のpHが前記範囲よりも高いと腐敗防止の効果が充分に得られにくいため好ましくなく、pHが前記範囲より低いと、肥料の腐熟に必要な微生物の活動などが抑えられるため、肥料として好ましくない。
【0016】
食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物の酢酸濃度は用いる食酢のもろみ粕や食品廃棄物によって異なるが、好ましくは0.1〜1.0%、より好ましくは0.1〜0.5%である。食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物の酢酸濃度が前記範囲よりも低いと腐敗防止の効果が充分に得られにくいため好ましくなく、配合割合が前記範囲より高いと肥料の腐熟に必要な微生物の活動などが抑えられるため、肥料として好ましくない。前記食酢のもろみ粕と食品廃棄物の酢酸濃度は、滴定法など常法により測定すればよい。
【0017】
食酢もろみ粕と食品廃棄物の混合物のpHと酢酸濃度を上記範囲とするための配合割合としては、用いる食品廃棄物の成分等により異なるが、食品廃棄物100部に対して食酢もろみ粕1〜70部、好ましくは3〜50部である。
【0018】
なお、本発明の食酢のもろみ粕と食品廃棄物の混合物には、珪藻土を含有してもよい。珪藻土とは、藻類の一種である珪藻の殻の化石よりなる堆積物(堆積岩)であり、ダイアトマイトともいう。珪藻の殻は二酸化ケイ素でできており、珪藻土もこれを主成分とする。珪藻土の主な用途としては濾過が挙げられ、食酢製造時の濾過工程で珪藻土を用いる場合には、食酢もろみ粕と混合された状態となる。なお、珪藻土の含有率は、食酢もろみ粕の原料に起因する物性で異なり、珪藻土を必要としないものから、食酢もろみ粕全体に対し35%程度含まれることもある。食酢もろみ粕と食品廃棄物が混合しやすい点、安定性の点から、珪藻土を含有する場合の含有率は、食酢もろみ粕全体に対し10〜50%であることが好ましい。
【0019】
なお、本発明の肥料には、上述した以外に、植物の栄養に供するチッ素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムといった栄養素を含む動植物質の有機物を混合したのち堆積し、腐熟させ肥料として用いることや、無機肥料、油粕、糠、刈敷、草木灰などの植物性肥料、魚粕、干鰯、堆肥、馬糞、牛糞、鶏糞、人糞尿(下肥)、骨粉、肉骨粉、厩肥などの動物性肥料、化学的に合成された化学肥料など、従来用いられている一般的な肥料等と併用して用いることができる。
【0020】
本発明の肥料の製造方法は、特に限定するものではなく、まず、食酢のもろみ粕と水分含量が20%以上の食品廃棄物を混合し、上述したその他の肥料原料を常法により混合して堆積し、腐熟させる方法などにより得ることができる。食品廃棄物には多くの有機物質を含むため、堆積し、腐熟させ、微生物によって有機物を分解することにより、堆肥化を行う。腐熟による有機物の分解が不十分であると作物が肥料中の栄養素を充分に活用できずに、作物の生育が悪くなる場合があるため、十分に腐熟を行い、堆肥化した肥料とすることで生育良好な作物を得ることができる。以上のようにして得られた肥料は、ポリエチレン製の袋などに充填することで容器入りの製品とすることもできる。なお、得られた肥料は常法により土壌と混合、散布し、農作物の栽培時に用いると良い。
【0021】
次に、本発明を実施例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
〔実施例1〕
下記の配合割合に準じ、本発明の肥料を製した。すなわち、食酢の製造工程において、穀類原料(米、大麦及びコーンを等量で混合したもの)をアルコール発酵後に食酢を加えて搾った食酢もろみ粕、及び、酢酸発酵後にオリを清澄濾過して生じた食酢もろみ粕を得た。次いで、これらの食酢もろみ粕を混合して、酢酸濃度2%、pH3の食酢もろみ粕を得た。続いて、この酢酸濃度2%の食酢もろみ粕20kgを攪拌機に投入し、撹拌しながら、食品廃棄物(カット野菜工場からでる野菜の残渣)180kgを添加して混合した。得られた混合物のpHは4.5、酢酸濃度は0.2%であった。この混合物を、常法により混合して堆積し、腐熟させ、本発明の肥料200kgを得た。なお、用いた食品廃棄物の水分含量は90%であった。
【0023】
〔実施例2〕
食酢もろみ粕と食品廃棄物の配合量を、食酢もろみ粕を60kg、食品廃棄物を200kgに変更した以外は、実施例1と同様に混合物を調製した。得られた混合物のpHは4.2、酢酸濃度は0.5%であった。この混合物を、常法により混合して堆積し、腐熟させ、本発明の肥料260kgを得た。なお、用いた食品廃棄物の水分含量は65%であった。
【0024】
〔実施例3〕
実施例1で得られた肥料75kgに、さらに市販の牛糞堆肥75kgを混合し、本発明の肥料150kgを得た。
【0025】
〔試験例1〕
食酢のもろみ粕と食品廃棄物の配合割合を変えて、混合物の酢酸濃度を表1に示すように調整した以外は実施例1と同様にして11種類の混合物を得た。得られた各混合物を25℃の環境下で2日間放置し、腐敗臭の発生の有無を確認した。また、発酵臭の有無から肥料として腐熟しやすいかどうかの腐熟適性を判断した。結果を表1に示した。
なお、ここで、発酵臭とは、漬物やぬか床のようなにおいをさす。
【0026】
【表1】

【0027】
食酢のもろみ粕を含有させなかった混合物は、2日後に腐敗臭が発生した。
一方、食酢のもろみ粕を含有させた混合物は、2日後でも腐敗臭を発生しなかった。腐敗臭が発生しなかった混合物の中でも、特にpHが4.2から4.8の混合物は漬物やぬか床のような発酵臭が感じられ、腐熟適性が高く好ましいことが判断できた。
【0028】
〔実施例4〕
実施例1の食品廃棄物の、カット野菜工場からでる野菜の残渣を豆腐の製造過程で生じたおからに変更した以外は実施例1に準じて、食酢もろみ粕と食品廃棄物(おから)を混合し、混合物を得た。得られた混合物のpHは5.2、酢酸濃度は0.3%であった。得られた混合物を25℃の環境下で2日間放置し、腐敗臭の発生の有無を確認したところ、腐敗臭の発生はなかった。また、発酵臭の有無から肥料として腐熟しやすいかどうかの腐熟適性を判断したところ、漬物やぬか床のような発酵臭が感じられ、腐熟適性が高く好ましいことが判断できた。この混合物を、常法により混合して堆積し、腐熟させ、本発明の肥料200kgを得た。なお、用いたおからの水分含量は75%であった。
【0029】
〔試験例2〕
実施例1〜4の肥料を、常法の肥料の利用方法と同様に栽培土壌に添加し、果菜物(じゃがいも)を栽培した。
なお、種いもの植え付けは肥料ごとに50株づつ行い、地上部が枯れ初めてから収穫を行った。
【0030】
食酢のもろみ粕と水分含量が20%以上の食品廃棄物の混合物を含有する肥料(実施例1〜4)を用いて栽培した果菜物は、いずれも葉の成長、総収穫量、青果物の大きさ共に問題なかった。
これらのことから、食酢のもろみ粕と水分含量が20%以上の食品廃棄物の混合物を含有する本発明の肥料は、果菜物等の栽培に用いる肥料として有用であることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食酢のもろみ粕と水分含量が20%以上の食品廃棄物の混合物を含むことを特徴とする肥料。
【請求項2】
前記混合物のpHが3〜6である請求項1記載の肥料。

【公開番号】特開2013−112555(P2013−112555A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259306(P2011−259306)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【出願人】(591112371)キユーピー醸造株式会社 (17)
【Fターム(参考)】