説明

飲料の透明化方法

【課題】各種飲料を簡便に透明化する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の飲料を透明化する方法は、飲料を陽イオン交換体で処理する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料の透明化方法に関する。本発明はまた、透明化飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
有色飲料の色や匂いは、飲料イメージに合わせた着色や着香を困難とし、飲料商品の開発に支障となる場合がある。そこで、飲料の有効成分を残したまま、飲料を透明化、脱色する方法が開発されている(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1には、活性炭などを用いてトマトを脱色して得られた透明トマト飲料が記載されている。特許文献2には、逆浸透膜や活性炭などを用いて脱色した醤油を含有する清涼飲料が記載されている。特許文献3には、卵殻膜を用いて黒酢を脱色する方法が記載されている。
【0004】
しかし、いずれの方法も、飲料固有の透明化方法、脱色方法であって、飲料一般に適用できる方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公開2003−135038号公報
【特許文献2】特許公開2004−65162号公報
【特許文献3】特許公開2006−42807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、各種飲料を簡便に透明化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、各種飲料を陽イオン交換体で処理することによって、各種飲料を簡便に透明化できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、飲料を透明化する方法を提供し、該方法は、飲料を陽イオン交換体で処理する工程を含む。
【0009】
1つの実施態様では、上記記陽イオン交換体は、強酸性陽イオン交換樹脂である。
【0010】
本発明はまた、上記方法で処理された飲料を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各種飲料を簡便に透明化する方法を提供することができる。本発明の方法は、飲料の有効成分を残したまま、飲料を透明化できるため、飲料イメージに合わせた着色や着香が容易となり、飲料商品の開発に大いに役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明でいう飲料とは、食品として摂取することができる液状物をいう。飲料としては、例えば、酒(アルコール飲料)、清涼飲料、調味料、茶、コーヒー飲料、乳飲料、スープ、豆乳、栄養ドリンクが挙げられる。
【0013】
本発明でいう飲料の透明化とは、飲料の脱色と同義である。具体的には、目視の確認で飲料の色が薄まり、消えることをいい、吸光度が低下することをいう。透明化、脱色の程度は特に限定されない。
【0014】
本発明の飲料を透明化する方法は、飲料を陽イオン交換体で処理する工程を含む。
【0015】
本発明でいう陽イオン交換体とは、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換セルロース、弱酸性陽イオン交換セルロース、あるいはこれらに含まれる陽イオン交換基を導入した膜状交換体である陽イオン交換膜などをいう。本発明でいう強酸性陽イオン交換樹脂および弱酸性陽イオン交換樹脂とは、それぞれ強酸性基および弱酸性基をイオン交換基として有する樹脂をいい、強酸性陽イオン交換セルロースおよび弱酸性陽イオン交換セルロースとは、それぞれ強酸性基および弱酸性基をイオン交換基として有するセルロースをいう。強酸性基とは、水に接した時に、完全に解離(解離度=1)して、負の電荷を持つ官能基をいう。弱酸性基とは、水に接した時に、解離が小さく(解離度<1)、強酸性基と比較して負の電荷を持つ割合が小さい官能基をいう。これらの官能基の対イオンとしては、例えば、水素イオン、ナトリウムイオンが挙げられる。陽イオン交換樹脂の強酸性基としては、例えば、スルホン酸基(−SO)が挙げられる。市販品としては、例えば、ダウエックス(登録商標)50W(The Dow Chemical Company社)、ダイヤイオン(登録商標)SK1B(三菱化学株式会社)が挙げられる。陽イオン交換樹脂の弱酸性基としては、例えば、カルボン酸基(−COO)、ホスホン酸基(−PO2−)、アルセニド基(−AsO2−)が挙げられる。市販品としては、例えば、カルボン酸基導入樹脂として、ダイヤイオン(登録商標)WK10(三菱化学株式会社)が挙げられる。陽イオン交換セルロースの強酸性基としては、例えば、スルホエチル基(−(CHSOOH)、弱酸性基としては、例えば、ホスホメチル基(−CHPO(OH))、リン酸基(−PO)、カルボキシメチル基(−OCHCOOH)が挙げられる。これらの陽イオン交換体によって交換できるイオンとしては、例えば、Ca2+イオン、Cu2+イオン、Zn2+イオン、Mg2+イオン、Kイオン、NHイオン、Naイオン、Hイオンが挙げられる。
【0016】
飲料を陽イオン交換体で処理する工程は、具体的には、飲料に陽イオン交換体を添加、あるいは飲料を陽イオン交換体に添加し、飲料と陽イオン交換体とが十分に接触した後に、飲料と陽イオン交換体とを分離する。飲料に対する陽イオン交換体の割合は、特に限定されず、用いる陽イオン交換体によって異なるが、強酸性陽イオン交換樹脂の場合、好ましくは飲料1mLに対して、樹脂0.1〜5gである。飲料と陽イオン交換体とを接触させる時間や方法は特に限定されない。
【0017】
本発明の方法は、他の処理工程を含んでいてもよい。他の処理工程としては、例えば、ろ過工程、遠心分離工程、濃縮工程、乾燥工程、混合工程、滅菌工程、包装工程が挙げられる。
【0018】
本発明はまた、上記方法で処理した透明化飲料を提供する。本発明の透明化飲料は、そのまま食品や食品原料として用いることができる。本発明の透明化飲料は、透明であり、匂いがないため、着色料や香料を適宜添加することができる。着色料としては、例えば、合成着色料として、タール酸性色素12種類、β-カロテン、水溶性アナトー、三二酸化鉄、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、鉄クロロフィリンナトリウム、二酸化チタンが挙げられ、天然着色料として、カラメル色素、クチナシ色素、アントシアニン色素、アマランス、エリスロシン、フロキシン、ローズベンガルが挙げられるが、これらに限定されない。香料としては、例えば、天然香料、合成香料、あるいはこれらの混合物である調合香料が挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加量は特に限定されない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0020】
(実施例1および比較例:麦焼酎残渣上清の透明化)
麦焼酎残渣(福岡県筑後市西吉田酒造株式会社より入手)を室温にて10000Gで30分間遠心分離して得られた上清に、表1に記載の割合で被検物質を添加し、混合物を30分間攪拌後、脱脂綿によりろ過し、ろ液の色を目視で確認した。
【0021】
【表1】

【0022】
この結果、実施例1の被検物質、すなわち陽イオン交換体で処理した場合は、ろ液の透明化度は高かったが、比較例1〜7の被検物質で処理した場合は、ろ液の透明化度は低かった。
【0023】
次いで、目視で透明化度が高かった実施例1のろ液について、分光光度計(日本分光株式会社製V−630BIO)を用いて660nmの波長にて吸光度を測定した。結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2より明らかなように、麦焼酎残渣上清の吸光度は、実施例1の処理により大幅に低下した。また、匂いに関する官能試験を6名で行ったところ、全員が麦焼酎特有の匂いが消失しているとの判定を行った。さらに、被検物質にバニラフレーバー(共立食品株式会社)を添加し、同様に官能試験を行ったところ、処理前の被検物質に添加したバニラフレーバーを認識した者は1名/6名であったが、処理後の被検物質に添加したバニラフレーバーを認識した者は6名/6名であった。
【0026】
(有機酸分析)
上記麦焼酎残渣上清および実施例1のろ液を、それぞれフリーズドライヤー(FDU−12AS;アズワン株式会社)を用いて凍結乾燥した。凍結乾燥物2gを超純水(MillQ水)に溶解し、この溶液にシリカゲル60N(球状,中性,63〜210μm,関東化学株式会社)10gを添加し、混合後、混合物を乾燥させた(シリカゲル乾燥物)。2cm×60cmのカラムの底にフィルター(VIDTEC社製No.2)を置き、その上に上記シリカゲル約50gを充填し、その上に上記シリカゲル乾燥物を載せた。溶媒(CHCl:メタノール:HO=5:3:0.4)をカラムに流し、溶出する成分を分画した結果、粘性の高い画分と粘性の低い画分とが得られた。各画分を薄層クロマトグラフィー(TLC:Whatman社製パーティシル(登録商標)K5Fシリカゲル,150Å,20×20cm)で展開し、展開後のTLC板に発色剤(p−アニスアルデヒド,エタノール溶液,東京化成工業株式会社)を噴霧後、TLC板を加熱し、TLC板上のスポットを確認した。同じRf値のスポットを集めて濃縮し、2mgを超純水(MillQ水)2000μLに溶解し、この溶液を0.45μmメンブレンフィルターによりろ過した。ろ液10μLを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、分析した。HPLCによる分析条件は以下のとおりである。
【0027】
HPLC:SHIMADZU LC−10A(株式会社島津製作所製)
ポンプ:LC−10AD 2台
検出器:CDD−6A(電気伝導度検出器)
コントローラ:SCL−10A
カラムオーブン:CTO−10A
オートインジェクター:SIL−10A
クロマトパック(カラム):Shim−Pack SCR−102H 300×8mm(内径)(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸
流速:0.8mL/分
温度:45℃
分析時間:40分
検出:電気伝導度(ポストカラム緩衝化法)
緩衝液:5mM p−トルエンスルホン酸,100μM EDTA,20mM Bis−Tris
流速:0.8mL/分
Polarity:+
Response:slow
【0028】
HPLCによる分析で得られたピークを標準液のピークと比較して成分およびその含有量を決定した。標準液としては、リン酸(546.9mg/L)および有機酸:クエン酸(220.6mg/L),リンゴ酸(220.4mg/L),コハク酸(298.8mg/L)乳酸(606.0mg/L),酢酸(575.9mg/L),ピログルタミン酸(288.5mg/L),ピルビン酸(218.4mg/L)を用いた。結果を表3に示す。なお、表3の画分の含有量(mg/L)は、麦焼酎残渣上清の体積に換算した値である。
【0029】
【表3】

【0030】
表3より明らかなように、麦焼酎残渣上清の有機酸の含有量は、実施例1の処理により低下することはなかった。
【0031】
以上より、麦焼酎残渣上清を陽イオン交換体で処理することによって、有効成分の有機酸を残したまま、麦焼酎残渣上清を透明化できることがわかった。
【0032】
(実施例2〜5:各種飲料の透明化)
以下の各種飲料10mLに、陽イオン交換体(ダウエックス50W)をそれぞれ10g添加し、混合物を40分間攪拌した。
実施例2:エビスビール(登録商標)(サッポロビール株式会社)
実施例3:純玄米黒酢(登録商標)(株式会社ミツカン)
実施例4:ブラックニッカ(登録商標)クリアブレンド(ウイスキー)(ニッカウヰスキー株式会社)
実施例5:完熟梅酒(大関株式会社)
【0033】
攪拌後、混合物をガラス繊維ろ紙(グレードGF/A、Whatman社)によりろ過し、ろ液について、分光光度計(日本分光株式会社製V−630BIO)を用いて450nmの波長にて吸光度を測定した。結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
表4より明らかなように、すべての飲料の吸光度は、陽イオン交換体を用いた処理により大幅に低下した。
【0036】
また、得られたろ液の匂いを嗅いだところ、いずれも匂いが大幅にとれていることがわかった。
【0037】
(比較例8:遠心分離による透明化)
実施例1で用いた麦焼酎残渣を室温にて約20380G(15000rpm)で20分間または40分間遠心分離して上清を得た。
【0038】
この結果、若干沈殿物があったのみで、上清の色の変化はほとんどなく、透明化度は低かった。したがって、遠心分離のみでは、飲料を透明化することはできないことがわかった。
【0039】
(比較例9および10:他の脱色剤による透明化)
実施例1で用いた麦焼酎残渣の上清5mLに、漂白剤として知られる亜硫酸ナトリウムNaSO(比較例9)1.5mg、10mg、50mgまたは100mgを添加し、あるいは亜塩素酸ナトリウムNaClO(比較例10)10mg、50mgまたは100mgを添加し、混合物を30分間攪拌後、脱脂綿によりろ過し、ろ液の色を目視で確認した。
【0040】
この結果、亜硫酸ナトリウムおよび亜塩素酸ナトリウムは、漂白剤として知られるが、これらの漂白剤で処理した場合は、ろ液の透明化度は低かった。亜塩素酸ナトリウムで処理した場合は、濃度を高くすると、むしろ透明化度が低下した。
【0041】
以上より、各種飲料を陽イオン交換体で処理することによって、有効成分の有機酸を残したまま、各種飲料を透明化できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、各種飲料を簡便に透明化する方法を提供することができる。本発明の方法は、飲料の有効成分を残したまま、飲料を透明化できるため、飲料イメージに合わせた着色や着香が容易となり、飲料商品の開発に大いに役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料を透明化する方法であって、飲料を陽イオン交換体で処理する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記陽イオン交換体が、強酸性陽イオン交換樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で処理された飲料。

【公開番号】特開2012−210180(P2012−210180A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77465(P2011−77465)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(506307809)株式会社アップウェル (9)
【Fターム(参考)】