説明

飲料及びその調製方法

粉末状前駆体と液体とを混合することによって酸性飲料を調製するための、粉末状の前駆体を製造する方法であって、以下の工程を含む方法:(a) タンパク源及びポリサッカライド安定剤を含む第1のスラリーを調製する工程であって、前記第1のスラリーが中性又は酸性のpHを有する、工程;(b) 必要な場合は、5.5〜7.5、好ましくは6〜7.5、より好ましくは6〜7の範囲の値に前記第1のスラリーのpHを調整する工程;及び、(c) 前記工程(a)又は工程(b)の後に、前記第1のスラリーをスプレードライする工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料、特に中性のpH、又は中性に近いpHを有する飲料に関するものであり、それらを調製する方法に関するものである。本飲料は、液体を添加することによって飲料へと転換するための粉末形態であってよい。
【背景技術】
【0002】
中性又は弱酸性のpHにおいて、粉末インスタント飲料で使用されるタンパク質は、分散性が乏しいために沈殿しやすく、相分離をもたらし、消費者に粉っぽさやざらつき感を与える。安定した酸性食品を製造するために、様々な安定剤が使用されており、タンパク粒子の凝固及び沈殿を防いでいる。安定剤の濃度が高くなると、相分離や沈殿などの所望しない影響が観察される。加えて、すべての安定剤は、使用時に粘度を増加させるため、低い粘度及び軽い食品テクスチャを好む現代の消費者の嗜好には適していない。
【0003】
また、流動床式凝集装置内で、炭水化物の水溶液をスプレーしながら、粉末状の大豆タンパク質を粒状化することも公知であり、US‐A‐2002/146487及びUS‐A‐2003/124226に記載されている。
【0004】
カラギナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC‐Na)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)、水溶性大豆ポリサッカライド(SSP)、及びビート由来ペクチン(BD‐ペクチン)などの安定剤が、すぐに飲むことのできる製品で通常使用されており、すぐに飲むことができる酸性のタンパク質食品の製造に際し、粉っぽさやざらつきの原因となるタンパク粒子の相分離を防ぐために、単独で、又はその組み合わせ物(他のポリサッカライドとの混合物を含む)として使用されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0146487号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0124226号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ほぼ中性pH、又は弱酸性pHの飲料を提供することが必要とされており、その形態は、液体、飲用に適した形態、又は液体中に分散することにより飲用に適した組成物となり得る形態のいずれかであって、飲用に適した組成物は、好ましくは、0.1s−1又は10s−1のどちらかのずり速度において5〜50mPasの範囲の低粘度を有し、タンパク粒子に起因する相分離、粉っぽさ、及びざらつきといった欠点を回避する飲料である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[発明の要旨]
本発明の第1の局面では、粉末状の前駆体と液体とを混合することによって中性又は弱酸性の飲料を調製するための、前記粉末状の前駆体を製造する方法が提供されており、前記方法は、以下の工程:
(a) タンパク源及びポリサッカライド安定剤を含む第1のスラリーを調製する工程であって、前記第1のスラリーが中性又は弱酸性のpHを有する、工程;
(b) 必要な場合は、5.5〜7.5、好ましくは6〜7.5、より好ましくは6〜7の範囲の値に前記第1のスラリーのpHを調整する工程;及び
(c) 前記工程(a)又は工程(b)の後に、前記第1のスラリーをスプレードライする工程、
を含む。
【0007】
本発明の第2の局面は、液体、好ましくは水性液体と、本発明の第1の局面の方法によって製造された粉末状の前駆体とを混合することにより調製される酸性飲料である。水性液体とは、少なくともいくらかの水を含むものであり、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも25重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%の水を含むものである。この用語には、水道水などの実質的に純粋な水も含まれる。
【0008】
特に好ましい実施態様では、ほぼ中性又は弱酸性pHである、タンパク質と安定剤の溶液をスプレードライすることによって上記の問題点が克服され得ることを、本発明者は示している。
【0009】
[発明の詳細な説明]
飲料の粉末前駆体は、消費者が飲用するのに適した組成物を形成するために、液体と混合されなければならない。飲用に適した液体は、どんなものでも使用され得るが、好ましい例は、水及びミルクである。「ミルク」には、フレーバーミルク飲料も含まれる。
【0010】
好ましくは、タンパク源を含む第2のスラリーを調製し、ポリサッカライド安定剤を含む第3のスラリーを調製し、この第2と第3のスラリーを混合することにより、前記第1のスラリーを準備する。
【0011】
本明細書では、「中性又は弱酸性」という用語は、好ましくは5.5〜8、より好ましくは6〜7のpHを意味する。低い方の値である「6〜」という範囲はいずれも、「6より大きい値〜」、「6.00001〜」、又は「6.01〜」に置き換えてもよい。
【0012】
第1のスラリーのpHが、目標とする6〜7.5の範囲外であるか、又は好ましい目標範囲である6〜7の範囲外である場合、工程(c)のスプレードライを行う前に、工程(b)において、そのpHを常法を用いて調整する。
【0013】
[タンパク源]
タンパク源には、任意の特定タイプのタンパク質、例えば、動物性タンパク質(特に、乳タンパク質)、又は植物性タンパク質が含まれる。
【0014】
好ましくは、タンパク源として、少なくともいくらかの植物性タンパク質(例えば、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質、若しくはルピナスタンパク質、又はそれらの混合物)が提供される。これらのタンパク質は、そのままであるか又は加水分解されていてもよく、単独で、又は互いの組み合わせ物として使用され得る。
【0015】
使用されるタンパク質の総量は、最終産物に対して、通常は、約0.5〜10重量%、好ましくは約0.5〜4重量%であり、より好ましくは約2.7重量%(例えば、最終産物150gに対して4g)であってよい。
【0016】
第1のスラリーに対して、第2のスラリー中のタンパク源の量は、例えば5〜20重量%であってよい。
【0017】
[ポリサッカライド安定剤]
広範囲のポリサッカライドが安定剤として使用され得るが、特にポリサッカライドガムが使用され得る。しかし、好ましい安定剤は、以下から選択される:ローカストビーンガム、タマリンド種子ポリサッカライド、ジェランガム、キサンタンガム、グアガム、タラガム、アラビアガム、カラヤガム、カラギナン、寒天大豆ポリサッカライド、及びそれらの混合物。
【0018】
1以上の補助的な非ポリサッカライド安定剤を、前記ポリサッカライド安定剤(1種又は複数種)に加えて使用してもよい。具体的には、好ましい補助的な安定剤とは、アルギン酸グリコールエステル、メトキシペクチン(HM‐ペクチン)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC‐Na)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)、及びビート由来ペクチン(BD‐ペクチン)である。これらは、単独で使用されても、組み合わせ物として使用されてもよい。最も好ましい安定剤は、グアガムである。
【0019】
使用される安定剤の量は、最終飲料製品に対して、通常は約0.05〜10重量%、好ましくは約0.05〜2重量%であるが、タンパク質濃度の差に応じて変動し得るので、これらの数値範囲は本発明の範囲を制限しない。タンパク質:安定剤の重量比は、好ましくは5:1〜50:1、より好ましくは10:1〜30:1である。
【0020】
第1のスラリー中の安定剤の量は、好ましくは0.02〜20重量%、例えば、5〜20重量%である。
【0021】
第3のスラリーに関して、第3のスラリー中の安定剤の量は、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。
【0022】
[炭水化物]
好ましくは、炭水化物は第1のスラリーに含まれ、より好ましくは、タンパク源を含む第2のスラリーを介して炭水化物が導入される。好ましい炭水化物には、糖、でんぷん、及びマルトデキストリンが含まれる。
【0023】
[他の成分]
本粉末は、好ましくは、さらに乳化剤、有機酸(例えば、乳酸、リンゴ酸、又はクエン酸)、及び油脂を含み、ミネラルやビタミンなどで強化されている。水又はミルクなどの液体中にいったん分散すれば、この飲料は、少なくとも30分間は凝固及び相分離せずに安定であることが好ましい。
【0024】
[製品の形態]
本粉末状の前駆体は、水又はミルクなどの適した液体と混合することによって、所望される中性又は弱酸性飲料を調製するために適用されてもよい。
【0025】
スプレードライ工程を実施する際、送られる液は、10〜50%、好ましくは30〜40%(m/m)の乾燥物含有量を有する成分の安定化溶液であってよい。このスラリーを、いわゆるスプレードライヤーでスプレードライし、微粒子物質を得る。スプレードライヤーとは、任意のタイプの噴霧器、すなわち、回転円板式、2又は1相のノズル式などの噴霧器を用いて送られる溶液を噴霧し、次いで乾燥することで粒子状物質を得る装置である。この装置で得られる前記物質の粒径は、5〜400μm、例えば5〜100μmである。乾燥粉末を製造するため、スプレータワーは、乾燥物含有量及びタワーへの負荷(空気に対するスラリーの質量流量比)に応じて、好ましくは150〜250℃で稼動される。得られた粉末は、一般的に疎水性となるだろう。その粉末度及び疎水性に起因し、得られる物質が、塊を形成せずに水中に分散することは一般的に困難である。追加の凝集工程又は造粒工程を行うと、各粒子の粒径は大きくなる。初めの粒子は、5〜100μm(例えば5〜35μm)のd4,3平均粒径を有するだろうが、造粒装置による好ましいd4,3平均粒径は、好ましくは50〜600μm、より好ましくは150〜400μmである。これにより、分散性が改善され、他の粉末との混合物中で、スプレードライした粉末を使用する粉末状飲料ミックスとして簡単に使用できる。凝集は、好ましくは、Fielder−Aeromaticタイプなどの流動床タイプの凝集装置で行われる。バインダーとなる流動体は、好ましくは淡水である。スプレードライした物質と炭水化物(例えば、スクロース、又はマルトデキストリン、又は溶解しやすい塩)との混合物を凝集することが有利である。
【0026】
別法として、任意の他のタイプの凝集装置を使用してもよく、例えば:
・ 高剪断ミキサー造粒装置、例えば、Schugiタイプ造粒装置又はLoedige ploughshareタイプ、
・ 圧縮造粒装置、例えばBepex basket extruderタイプ造粒装置、
又は
・ スチーム造粒装置、
などである。
【0027】
最も好ましい方法は、スプレードライヤーと流動床装置とを組み合わせた装置を使用することであり、スプレードライヤーから得られる粉末が、直接粒状化される。このような装置の例として、GEA Niro A/Sから販売されているFluidized Spray Dryer又はMultistage Spray Dryerが挙げられる。バインダーとして、水に溶解しやすい物質を添加するか否かに関わらず、スチーム処理又は水の噴霧によって粉末が密着した状態となり、凝集することができる。バインダーとなる物質とは、バインダーとして公知の、炭水化物、塩類、又はポリマーであってよい。
【0028】
レシチンを添加すると、粉末の湿潤性及び分散性を高めることができる。
【0029】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって、これから詳細に説明されるだろう。これらの実施例中、特記のない限り、割合及びパーセンテージは重量に基づいている。
【0030】
[実施例]
分析手法として、粘度測定、粒度測定、及び相分離測定を用いた。用いた方法は、以下の章で説明されるだろう。
【0031】
粘度は、回転式レオメータのコーンプレートジオメトリーで試験した。温度は20℃に設定した。データは、流れ曲線ヒステリシスの下降曲線から得られる。10 1/s及び50 1/sを、適したずり速度として選択した。
【0032】
飲料の安定性は、シリンダー中で相分離している量を測定することにより試験し、視覚的にも評価した。視覚的に明らかな凝集粒子の存在が認められる場合に、この系を不安定なものとして分類した。
【0033】
飲料中の粒子の表面加重体積平均粒径D3,2及びD4,3をレーザー回折により測定し、そのざらつき値を得た。
【0034】
不安定な分散物の量は、最終産物を、20℃、2800gで20分間遠心分離することにより測定した。沈殿物の割合(沈殿物/総量×100)は、水をこぼした5分後に測定した。
【0035】
[実施例1〜4]
これらの実施例は、それぞれ、スプレードライ工程及び凝集工程を行った4種の粉末状飲料前駆体の調製を含む。
【0036】
乳タンパク質源として使用した物質は、標準的なスプレードライスキムミルク粉末であった。この場合に用いられたスプレードライヤーは、Niro Mobile Minorであった。大豆タンパク質は、大豆タンパク質分離物(Solae社のFXP 219 D)であり、エンドウ豆タンパク質は、Cosucrua社のPisane HD NO5を使用した。安定剤は以下を使用した:Hercules社のBlanose 7LF(SCMC 7)、k‐Carragenan(CP Kelco社のGenugel X‐0909)、及びUnipektin社のVidocreme Aタイプのグアガム(guar)。使用したマルトデキストリンは、Rouquette社のDE 12マルトデキストリン(Glucidex IT 12)である。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例4は、流動床がスプレータワーに組み込まれた、いわゆるマルチステージドライヤーで凝集させた。凝集化された粉末を水に加え、スプーンで20秒間これを攪拌することにより、この粉末を分散させることができる。これにより、この粉末のインスタント特性が優れていることが示される。凝集化していないサンプル(1〜3)は、理想的なインスタント特性をほとんど有さず、ミキサータイプの装置で15秒間攪拌することによってすぐに分散した。
【0039】
上記の実施例との比較のために、参照サンプルを調製した。
【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の前駆体と液体とを混合することによって中性又は弱酸性の飲料を調製するための、前記粉末状の前駆体を製造する方法であって、以下の工程:
(a) タンパク源及びポリサッカライド安定剤を含む第1のスラリーを調製する工程であって、前記第1のスラリーが中性又は弱酸性のpHを有する、工程;
(b) 必要な場合は、5.5〜7.5、好ましくは6〜7.5、より好ましくは6〜7の範囲の値に前記第1のスラリーのpHを調整する工程;及び
(c) 前記工程(a)又は工程(b)の後に、前記第1のスラリーをスプレードライする工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記タンパク源を含む第2のスラリーを調製し、前記安定剤を含む第3のスラリーを調製し、次いでこの第2と第3のスラリーとを混合することにより、前記第1のスラリーを形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭水化物を、少なくとも1のスラリー、好ましくは請求項2記載の第2のスラリーに添加する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記ポリサッカライド安定剤が、ローカストビーンガム、タマリンド種子ポリサッカライド、ジェランガム、キサンタンガム、グアガム、タラガム、アラビアガム、カラヤガム、カラギナン、寒天大豆ポリサッカライド、及びそれらの混合物から選択される、請求項1乃至3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記スラリー又は前記スラリーのいずれか又は全ての前記スラリーを、加熱処理、好ましくは40〜80℃の範囲の加熱処理を行う工程をさらに含む、請求項1乃至4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記スラリー又は前記スラリーのいずれか又は全ての前記スラリーを、ホモジナイズする工程をさらに含む、請求項1乃至5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記工程(c)でスプレードライした産物を凝集させる工程をさらに含む、請求項1乃至6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記工程(a)において、前記第1のスラリーが、タンパク質の等電点を超えるpH、好ましくは6を超えるpHを有する、請求項1乃至7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記第3のスラリー中の安定剤が中性であるか、又は負に帯電している、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク源が、植物性タンパク質、動物性タンパク質、又はそれらの混合物を含む、請求項1乃至9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記植物性タンパク質が、大豆タンパク質、エンドウ豆タンパク質、若しくはルピナスタンパク質、又はそれらの混合物から選択され、及び/又は前記動物性タンパク質が乳たんぱく質から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記第3のスラリー中の前記安定剤の量が、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜20重量%である、請求項2記載の方法。
【請求項13】
1以上の追加成分を前記スラリーの混合物に添加する工程(d)を含み、これらの成分が、好ましくは脂質、乳化剤、及び有機酸から選択される、請求項1乃至12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
液体、好ましくは水性液体と、請求項1乃至13のいずれか一項記載の方法により製造された粉末状前駆体とを混合することによって調製される、中性又は弱酸性の飲料。
【請求項15】
0.05〜10重量%のレベルの安定剤を含む、請求項14記載の中性又は弱酸性の飲料。
【請求項16】
0.5〜10重量%のレベルのタンパク質を含む、請求項14又は15記載の中性又は酸性の飲料。
【請求項17】
0.1s−1又は10s−1のずり速度において、5〜50mPasの粘度を有する、請求項14乃至16のいずれか一項記載の中性又は弱酸性の飲料。

【公表番号】特表2007−515177(P2007−515177A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545955(P2006−545955)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013502
【国際公開番号】WO2005/063058
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】