説明

飲料容器の洗浄剤及び飲料注出装置の洗浄方法

【課題】 煩雑なスポンジ洗浄を併用することなく、飲食店において十分実施を見込める程度に作業を軽減し得る飲料注出装置の洗浄剤及び洗浄方法の提供。
【解決手段】 パパイヤ又は椰子の実の細胞の中の枯草菌から抽出した蛋白質分解酵素、脂肪関連分解酵素、又は糖質関連分解酵素に、シダ類や藻類から採ったセルラーゼをコーティングしてなる植物性天然酵素を水で溶かしてなる飲料容器の洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ビール等を注出するビールディスペンサなどの飲料容器の洗浄剤及び飲料注出装置の洗浄方法に関するものであって、特に、生ビールなど注出する飲料の品質を保つうえで極めて重要な洗浄作業に用いる洗浄剤及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、ビールディスペンサの洗浄作業には、洗浄作業の開始時もしくは終了時において、水通し洗浄と炭酸ガスの遮断と言う二つの重要な要請がある。
その目的とするところは、1)ホース内に残留したビールの劣化により注出されるビールの品質の低下すること、2)ホース内に残留したビール成分を栄養源として、ビールの風味を損なう微生物や野生酵母などが繁殖し、更にその有機物汚染源に細菌が蔓延り、非衛生的な状況になる可能性があること、3)更には、ホース内に残留したビール成分から酒石(ビール成分中のカルシウムとシュウ酸が化合したもの)生成されることを防止することにある。
【0003】
即ち、この有機物汚染源の洗浄を怠ると、味の変化、異臭、色の濁り、異物(酒石)の混入など、生ビールの品質に大きな影響を与えることとなる。殊に、前記酒石にあっては、生ビールの品質劣化を招来するのみならず、水に溶けにくく、ビールの注出経路の内側に固着して汚れの層を築くことから、ホース等、注出経路を構成する部材の劣化を招来するなどの問題もある。
【0004】
洗浄効果を得るためには、中性洗剤などの界面活性剤入りの石油化学系洗剤を使えば容易であるものの、化学系洗剤では、洗剤そのものの洗浄を充分しなければ、味のみならず、人体や環境に影響を与えることとなる。そこで、ビールメーカー各社は、以下の通り、ビールディスペンサの洗浄方法を指導し、注出する生ビール等の品質維持に努めていた。
【0005】
従来、ビールメーカー各社が指導するビールディスペンサの洗浄方法は、各社が支給するディスペンサ用洗浄器具に水道水を入れて、開始前もしくは終了時に一日一回水通し洗浄を行い、且つ一週間に一回スポンジを水圧でビール経路を通過させ、当該ビール経路の内側の澱や酒石などを擦り取るものである。
【0006】
洗浄剤に用いられる酵素の例としては、塩基性アミノ酸(例えば下記特許文献1参照)、プロテアーゼ、ベータグルカナーゼ、又はアミラーゼ(例えば下記特許文献2参照)が挙げられており、酵素(プロテアーゼ)を用いたタンパク質可溶化方法(例えば下記特許文献3参照)、及びビール用ディスペンサの少なくとも一部内を循環させる洗浄方法(例えば下記特許文献4参照)が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−239669号公報
【特許文献2】特開平11−323389号公報
【特許文献3】特開2002−212199号公報
【特許文献4】特開2000−104096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特にこのスポンジ洗浄は手間と時間を取られるため、多くの飲食店では、その指導を無視する例が少なからず存在する実態がある。
そこで、当該手法を指導した各ビールメーカーもしくは酒販店では、自社の生ビールの品質を保ち且つ自社の信用維持を図る苦肉の策として、自社負担によるスポンジ洗浄サービスを自社のサービス業務の一環として実施している実情にある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、煩雑なスポンジ洗浄を併用することなく、飲食店において十分実施を見込める程度に作業を軽減し得る飲料容器の洗浄剤及び飲料注出装置の洗浄方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為になされた本発明による飲料容器の洗浄剤は、パパイヤ又は椰子の実の細胞の中の枯草菌から抽出した蛋白質分解酵素、脂肪関連分解酵素、又は糖質関連分解酵素に、シダ類や藻類から採ったセルラーゼをコーティングしてなる植物性天然酵素を水で溶かしてなることを特徴とする。望ましいのは、前記植物性天然酵素を重量比約1〜数100倍の水で溶かしてなる水溶液としたものである。ここで、飲料容器とは、例えば、ビールディスペンサ等の飲料注出装置、ピッチャ、ジョッキ、又はグラス等の飲料を収容する器及びそれに付随する管路等である。
【0011】
上記課題を解決する為になされた本発明による飲料注出装置の洗浄方法は、飲料注出装置の管路に、5℃から80℃に保った前記洗浄剤を通過させることを特徴とする。
尚、飲料は、ビールやジュースを含み、タンパク質、脂肪、又は糖質(炭水化物)を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、飲料注出装置用の洗浄器具に、低温活性性を持たせた植物性天然酵素と水を投入して水通し洗浄するだけで、飲料注出装置における容器内や管路内の有機物汚染源を分解することができる他、酵素の持つ剥離作用とコーティング作用により、常温下であっても、管内の酒石も剥離分解することができ、容器内や管路内の黄ばみなどを除去することができる。
【0013】
一般の植物性天然酵素は、ぬるま湯の環境下(水温40℃前後)が最も活性するものの、従来から指導されていた日々の洗浄作業の手順の中で、前記洗浄器具に、常温の水道水と一緒に所定の量の植物性天然酵素を加えるだけで、週一回のスポンジによる煩雑な濾過洗浄作業も不要となる。
【0014】
以上の如く本発明によれば、例えば、生ビール業界では、飲料注出装置のメンテナンスコストや、管路の一部を構成するホースの劣化による取り換えのコストを、大幅に削減できる他、自店でスポンジ濾過洗浄している飲食店においては、作業の省力化に寄与する。
また、消費者へのサービス面では、ビールの品質を低下させることなく消費者へ提供することにも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による飲料容器の洗浄剤及び飲料注出装置の洗浄方法を用いる飲料注出装置及びその管路の一例を示す概略図である。
【図2】本発明による飲料容器の洗浄剤及び飲料注出装置の洗浄方法による作用効果の実績の一例を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による飲料容器の洗浄剤(以下「洗浄剤」と記す)の実施の形態を、それをビールディスペンサ(飲料注出装置)1に用いた洗浄方法と共に図面に基づき説明する。
本発明による洗浄剤は、パパイヤ又は椰子の実の細胞の中の枯草菌から抽出した蛋白質分解酵素、脂肪関連分解酵素、若しくは糖質関連分解酵素、又はそれらの複数を選抜配合したもの(以下「多様性植物性天然酵素」と記す)に、シダ類や藻類から採ったセルラーゼをコーティングしてなる植物性天然酵素を水で希釈してなるものである。
【0017】
ここで使用する蛋白質分解酵素はプロテアーゼであり、脂肪関連分解酵素はリパーゼであり、炭水化物(糖質)関連分解酵素はグルコシターゼであって、当該例による多様性植物性天然酵素は、これらのすべてを含有する。これらの酵素は、いずれも自然の生物素材なので、各々が、各生物の多様な生態(単数又は複数)を司る作用を持つものである。
当該天然酵素は、各々が奏する作用によって、汚れと臭いの元凶である脂肪、蛋白質、炭水化物などを分解洗浄するが、酵素であるだけに、人体に悪影響がなく、環境にも優しい新しい触媒分解洗浄効果を発揮する。
【0018】
この酵素自体は、外食産業や一般家庭の台所用酵素洗浄剤としてすでに販売され使用されており、5℃から80℃まで機能する耐熱性を有する。それに酵素の持続性も手伝って、外食産業では、食洗機や浸け置き洗浄に用いられ、厨房の排水溝やグリーストラップの臭いの分解能力と、グリーストラップ汚染物質そのものの炭酸ガスと水への変換能力の高さ(脂肪残留試薬、デンプン残留試薬、蛋白質残留試薬での残留度検査結果も全く残留が無い)より、産業廃棄物の発生を防いでもいるとの評価も高い。また1回の濯ぎ洗い後において、PH値5〜6の数値を示す安全な洗剤である事もこの酵素の特徴である。
【0019】
本発明による洗浄剤は、これらの酵素に、更に、保護膜としてシダ類・藻類より注出した自然由来のセルラーゼでコーティングしたことを特徴とする。これによって、PH9〜10のアルカリ性の環境でも充分長持ちし、低温下でも充分強い活性を持つなど、ビールディスペンサ1の洗浄剤等、酵素にとって過酷な条件下の洗浄に用いる酵素としての使用目的に合致した植物性分解酵素となる。
使用の際には、当該植物性天然酵素を重量比約1〜数100倍(約1重量パーセントから数重量パーセント)の水で溶かした水溶液とする。
【0020】
<洗浄方法>
上記洗浄剤を用いる洗浄方法は、例えば、図1のごとく、飲料注出装置にビールを供給するビール樽6をヘッド7から外し、その替りに、ビールディスペンサ用の洗浄器具3を装着して行うものである。
即ち、当該洗浄器具3に、例えば、約500mlの水道水と、約3〜4mlの植物性天然酵素を投入して混合し、それによって造られる植物性天然酵素水溶液を約5℃から約80℃に保温しつつポンプやガスボンベ4等の圧縮ガスにて加圧し、ビールディスペンサ1の注出経路5に通過させる流通工程を経るものである。
【0021】
この洗浄剤は、自然から得た酵素と水しか使っておらず、洗浄力強化の為に特別な化学成分等を人為的に加える必要は全くないので、人と環境に限りなく優しく、洗浄剤自体の洗浄も極めて容易な洗浄剤と言うことができる。
【0022】
図2は、上記洗浄方法を用いて実際にビールディスペンサ1の管路(3か月間スポンジ通し洗浄処理なし)2の内部を洗浄した際の、洗浄過程における廃水の性状を分析し、水道水によるスポンジ通し洗浄処理を行った場合と比較したもの(富山県農林水産総合技術センター)である。
ここで、検査対象項目A(農総技1329-1号)は、洗浄剤を含有する水溶液(図2中酵素水洗浄水)の流入によってビールディスペンサ(図中サーバー)1内の残留ビール液が全て排出され、前記水溶液が出始めた時の廃水であり、検査対象項目B(農総技1329-3号)は、前記水溶液での洗浄方法における最終廃水であり、検査対象項目C(農総技1329-2号)及び検査対象項目D(農総技1329-4号)は、各々異なる二種類のビール(ビール1,ビール2)を注ぐビールディスペンサ1について、水道水によるスポンジ通し洗浄処理を行った場合の廃水である。
【0023】
PH値は検査対象項目のいずれも4台であり、問題は無い。
検査対象項目Aはケルダール法による蛋白質残留が多少みられるものの、最終廃水たる検査対象項目Bにあっては、水道水によるスポンジ通し洗浄処理での検査対象項目C及び検査対象項目Dと全く同じ0.00g/100gであった。
この様に、蛋白質成分からなる分子である残留酵素の痕跡が見受けられない事は、酵素の剥離分解機能を発揮しきったものと思われる。
従って、当該洗浄方法による酵素の品質等への影響はないと推察される。
【0024】
一方、検査対象項目Bにおける過マンガン酸カリウム消費量(有機物質の量)が、水道水によるスポンジ通し洗浄処理検査対象項目C及び検査対象項目Dの3倍である。
これは酵素の剥離分解機能が働き、ビールディスペンサ1内における注出経路5内部の有機物質をスポンジ洗浄以上に有効に取り除いているものと判断される。
【0025】
以上の如く、当該洗浄剤及び洗浄方法は、前記流通工程を経るだけで、注出経路5の残存有機物を剥離分解して外部に排出するのみならず、ビールの味を害さない程度に注出経路5内部の洗浄剤を洗い流すので、ビールの味を損なうことなく繰り返し容易にビールディスペンサ1用の洗浄剤及び洗浄方法としての実用に供することができるとの評価を得た。
【0026】
この様に、本発明による洗浄剤は、本発明による洗浄方法を採用することによって、注出経路5内及び周辺機材の溝や孔の中に付着した極めて微細な分子レベルの有機物汚染源でさえ、殺菌工程を経ることなく分解除去することができ、それによって、ビールディスペンサ1内等に、菌や微生物が繁殖しない衛生的な環境をつくることができる。
またこの酵素は水溶性であり、前記の如くこれらの酵素により分解された有機物汚染源の分解物は残存酵素とともに容易に洗浄除去することができる。
【0027】
尚、ピッチャやジョッキやグラス等にあっても、ビールと接する面には無数の傷や溝があり、当該傷等に有機物汚染源が存在する。その汚染源を餌として有害菌が繁殖することは、ビールの質を低下させる原因となり、それを除去することは、各ビールメーカーもしくは酒販店にとっては大変重要な事項である。
【0028】
当該洗浄剤に用いられる酵素は、約1nm〜約10nmの極めて小さな蛋白質成分の分子であることから、上記の様なビールディスペンサ1のみならず、ピッチャやジョッキやグラス等に付着する油脂分にあっても、本発明による洗浄剤を漬け置き用やスポンジによる手洗い洗浄等の洗浄剤として用いれば、あらゆる傷や溝に入りこんで有機物汚染源を分解し、衛生的な状態が保たれる。
本発明による洗浄剤を用いることにより、各ビールメーカーもしくは酒販店は、ビールの品質管理上、大きなメリットを得ることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 飲料注出装置,
2 管路,
3 洗浄器具,
4 ガスボンベ,
5 注出経路,
6 ビール樽,
7 ヘッド,



【特許請求の範囲】
【請求項1】
パパイヤ又は椰子の実の細胞の中の枯草菌から抽出した蛋白質分解酵素、脂肪関連分解酵素、又は糖質関連分解酵素に、シダ類や藻類から採ったセルラーゼをコーティングしてなる植物性天然酵素を水で溶かしてなる飲料容器の洗浄剤。
【請求項2】
前記植物性天然酵素を重量比約1〜数100倍の水で溶かしてなる前記請求項1に記載の飲料容器の洗浄剤。
【請求項3】
飲料注出装置(1)の管路(2)に、5℃から80℃に保った前記請求項1又は請求項2に記載のいずれかの飲料容器の洗浄剤を通過させることを特徴とする飲料注出装置の洗浄方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87178(P2013−87178A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228074(P2011−228074)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(510104355)株式会社環境工研 (1)
【Fターム(参考)】