説明

飲料容器取っ手部のバリ除去方法および飲料容器

【課題】ビール樽等の飲料容器の上部のプロテクターに形成された取っ手部の内側に先鋭形状のバリ部が存在する場合、そのバリ部を効率的に除去して安全な形状に加工するための飲料容器取っ手部のバリ除去方法を提供する。
【解決手段】金属板材で形成された容器本体と、金属板材で形成され、前記容器本体の上部に固定されて前記容器本体を保護するプロテクターとを有し、前記プロテクターには孔部としての取っ手が形成されている飲料容器に対して取っ手部のバリ除去を行う。前記プロテクターの前記取っ手の内周縁端部の先鋭部分であるバリ部にTIG溶接用の電極を近接させ、前記プロテクターと前記電極との間に電流を流しつつ前記電極を前記バリ部に沿って移動させ、前記バリ部を溶融して先鋭部分を丸く安全な形状に加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビール樽等の飲料容器の上部の金属製プロテクターに形成された取っ手部の内側に先鋭形状のバリ部が存在する場合、そのバリ部を効率的に除去して安全な形状に加工するための飲料容器取っ手部のバリ除去方法に関し、また、そのバリ除去方法によって加工された飲料容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からビール樽等の飲料容器としては、ステンレス鋼等の金属板材で形成したものが一般的に使用されている。このような飲料容器としては、下記の特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、全体がステンレス鋼によって形成された飲料容器が記載されている。
【0003】
図1は、このような飲料容器10の全体形状を示す正面図である。この飲料容器10はビール樽として使用されるものである。飲料容器10は、概略、容器本体1、上プロテクター2および下プロテクター3とからなる。容器本体1はステンレス鋼板材で形成された密封可能な中空の容器である。
【0004】
上プロテクター2および下プロテクター3もステンレス鋼板材で形成されており、これらは容器本体1の上下部分を保護するために容器本体1に固定されている。上プロテクター2は容器本体1の上部に溶接によって固定されており、下プロテクター3は容器本体1の下部に溶接によって固定されている。
【0005】
上プロテクター2には水平方向に長い長円形の孔が形成されており、その孔部が取っ手4として使用される。すなわち、作業者が飲料容器10を手で持って運搬するときには、取っ手4に手を挿入し上プロテクター2を持つようにして飲料容器10を運ぶのである。この取っ手4の構造を断面で示すと、図2のようになる。図2は、図1におけるA−A矢視断面図である。
【0006】
取っ手4の孔の周縁は、手で持ったときに危険がないように上プロテクター2の内側に曲げられている。すなわち、孔の周縁の断面が図示のように円弧形状をなすように内側に曲げられている。通常は、取っ手4に手を挿入して飲料容器10を安全に運搬することができる。一方、取っ手4の内側に曲げられた部分の先端形状が、図2に示すように先鋭なバリ部41となっているものがあり、このような飲料容器が既にかなりの量流通している。このようなバリ部41がある飲料容器10でも、通常は、取っ手4を使用して安全に飲料容器10を運搬することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−301676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図1および図2に示した、飲料容器10における取っ手4の構造は、通常の使用においては問題がない。しかし、例えば、飲料容器10を積み重ねて複数個を同時に運ぶような場合、取っ手4に深く手を挿入し通常よりも力をこめて飲料容器10を持ち上げる必要がある。そのような場合に、バリ部41によって手を傷付けてしまうおそれがある。そのような安全上の問題点をなくすためには、取っ手4におけるバリ部41を除去して丸い安全な形状に加工することが好ましい。
【0009】
しかし、例えば、ヤスリがけ等によりバリ部41を除去するのは、多大な人手と作業時間が必要となる。その上、ヤスリがけにより大きなバリは除去しても、微小なバリが発生している可能性もあるため、バリ除去後の製品検査にも多大なコストが必要となる。このように、飲料容器10の取っ手4におけるバリ部41を効率的に低コストで除去する方法は今までに実現されていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、ビール樽等の飲料容器の上部のプロテクターに形成された取っ手部の内側に先鋭形状のバリ部が存在する場合、そのバリ部を効率的に除去して安全な形状に加工するための飲料容器取っ手部のバリ除去方法を提供することを目的とする。また、そのバリ除去方法によって加工された安全な飲料容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の飲料容器取っ手部のバリ除去方法は、金属板材で形成された容器本体と、金属板材で形成され、前記容器本体の上部に固定されて前記容器本体を保護するプロテクターとを有し、前記プロテクターには孔部としての取っ手が形成されている飲料容器に対して、前記プロテクターの前記取っ手の内周縁端部の先鋭部分であるバリ部にTIG溶接用の電極を近接させ、前記プロテクターと前記電極との間に電流を流しつつ前記電極を前記バリ部に沿って移動させ、前記バリ部を溶融して先鋭部分を丸く安全な形状に加工するようにしたものである。
【0012】
また、上記の飲料容器取っ手部のバリ除去方法において、前記容器本体および前記プロテクターは、ステンレス鋼板材で形成されたものであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の飲料容器は、金属板材で形成された容器本体と、金属板材で形成され、前記容器本体の上部に固定されて前記容器本体を保護するプロテクターとを有する飲料容器であって、前記プロテクターには孔部としての取っ手が形成されており、前記プロテクターの前記取っ手周縁端部の先鋭部分であるバリ部にTIG溶接用の電極を近接させ、前記プロテクターと前記電極との間に電流を流しつつ前記電極を前記バリ部に沿って移動させ、前記バリ部を溶融して先鋭部分を丸く安全な形状に加工したものである。
【0014】
また、上記の飲料容器において、前記容器本体および前記プロテクターは、ステンレス鋼板材で形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0016】
TIG溶接用の電極を利用して、現在既に流通し使用されている飲料容器の取っ手のバリを効率的に低コストで除去することができるので、現在使用中の飲料容器の安全性を低コストで向上させることができる。そして、従来の飲料容器を有効に利用できるため、資源の有効利用と地球環境の保護にも役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、飲料容器10の全体形状を示す正面図である。
【図2】図2は、図1におけるA−A矢視断面図である。
【図3】図3は、本発明のバリ除去方法を示す図である。
【図4】図4は、バリ部が除去された取っ手4の形状を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、従来から使用されている飲料容器10の全体形状を示す正面図である。この飲料容器10はビール樽として使用されるものである。飲料容器10は、概略、容器本体1、上プロテクター2および下プロテクター3とからなっている。容器本体1はステンレス鋼板材で形成された密封可能な中空の容器である。なお、ここでは図示していないが、容器本体1の上部には口金が固定されている。
【0019】
上プロテクター2および下プロテクター3もステンレス鋼板材で形成されており、これらは容器本体1の上下部分を保護するために容器本体1に固定されている。上プロテクター2は容器本体1の上部に溶接によって固定されており、下プロテクター3は容器本体1の下部に溶接によって固定されている。また、上プロテクター2と下プロテクター3は、複数の容器を積み重ねたときに、上の容器の下プロテクター3が下の容器の上プロテクター2の上面に嵌合する形状となっている。
【0020】
上プロテクター2には水平方向に長い長円形の孔が形成されており、その孔部が取っ手4として使用される。すなわち、作業者が飲料容器10を手で持って運搬するときには、取っ手4に手を挿入し上プロテクター2を持つようにして飲料容器10を運ぶのである。この取っ手4の構造を断面で示すと、図2のようになる。図2は、図1におけるA−A矢視断面図である。
【0021】
取っ手4の孔の周縁は、手で持ったときに危険がないように上プロテクター2の内側に曲げられている。すなわち、孔の周縁の断面が図示のように円弧形状をなすように内側に曲げられている。通常は、取っ手4に手を挿入して飲料容器10を安全に運搬することができる。一方、取っ手4の内側に曲げられた部分の先端形状が、図2に示すように先鋭なバリ部41となっているものがあり、このような飲料容器が既にかなりの量流通している。このようなバリ部41がある飲料容器10でも、通常は、取っ手4を使用して安全に飲料容器10を運搬することができる。
【0022】
図1および図2に示した、飲料容器10における取っ手4の構造は、通常の使用においては問題がない。しかし、例えば、飲料容器10を積み重ねて複数個を同時に運ぶような場合、取っ手4に深く手を挿入し通常よりも力をこめて飲料容器10を持ち上げる必要がある。そのような場合に、バリ部41によって手を傷付けてしまうおそれがある。そのような安全上の問題点をなくすためには、取っ手4におけるバリ部41を除去して丸い安全な形状に加工することが好ましい。
【0023】
図3は、本発明のバリ除去方法を示す図である。本発明はバリ除去にTIG溶接用の溶接トーチ5を使用する。TIG溶接とは、電気を用いたアーク溶接の一種であり、一般的に用いられている溶接方法である。TIGとは、タングステン・イナート・ガス(Tungsten Inert Gas)の略である。また、TIG溶接とは、溶接部をガスでシールドしての溶接方法であり、シールド用のガスとして不活性ガス(イナート・ガス)を用いる。不活性ガスとしては、アルゴンガスや窒素ガスが使用される。
【0024】
溶接トーチ5の内部にはタングステンからなる棒状の電極51が配置されている。溶接トーチ5の先端部はノズル上に形成されており、電極51の周囲を通って矢印で示すように不活性ガスが噴出される。溶接トーチ5には図示しない溶接電源から溶接用の電流と不活性ガスが供給される。
【0025】
溶接電源の電流出力を上プロテクター2に接続し、溶接トーチ5および電極51を図示のようにバリ部41に近接させる。そして、溶接電源から溶接用の電流と不活性ガスを供給してバリ除去作業を行う。バリ除去作業は溶接と同様の作業であり、溶接トーチ5をバリ部41に沿って適切な速度で移動させるのである。バリ部41と電極51との間に発生するアーク放電によりバリ部41は溶融する。そして、取っ手4の端縁部は、溶融金属の表面張力により断面形状が円弧に近い形状となり、さらに溶接トーチ5の移動とともに冷却されてその円弧形状のまま固化する。
【0026】
図4は、本発明のバリ除去方法によってバリ部が除去された取っ手4の端縁部の形状を示す拡大断面図である。上プロテクター2の取っ手4の端縁部は、図示のように断面形状が安全な丸い形状に加工されている。
【0027】
このように、溶接トーチ5を取っ手4の端縁部に近接させ、取っ手4の端縁部に沿って移動させるだけで、取っ手4の端縁部からバリ部41が除去されて、端縁部が丸い安全な形状に加工されるのである。本発明のバリ除去方法によれば、バリ除去作業に必要な時間はヤスリがけなどに比べて大幅に短縮される。また、バリ除去後の製品検査も簡素化することができる。したがって、本発明のバリ除去方法によれば、飲料容器10の取っ手4におけるバリ部41を効率的に低コストで除去することができる。
【0028】
このようにして、現在既に流通し使用されている飲料容器の取っ手のバリを効率的に低コストで除去することができるので、現在使用中の飲料容器の安全性を低コストで向上させることができる。そして、従来の飲料容器を有効に利用できるため、資源の有効利用と地球環境の保護にも役立つ。
【0029】
なお、以上の実施の形態では、飲料容器としてビール樽を例に挙げて説明したが、それ以外の任意の飲料と飲料容器にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、現在既に流通し使用されている飲料容器の取っ手のバリを効率的に低コストで除去することができるので、現在使用中の飲料容器の安全性を低コストで向上させることができる。そして、従来の飲料容器を有効に利用できるため、資源の有効利用と地球環境の保護にも役立つ。
【符号の説明】
【0031】
1 容器本体
2 上プロテクター
3 下プロテクター
4 取っ手
5 溶接トーチ
10 飲料容器
41 バリ部
51 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材で形成された容器本体(1)と、金属板材で形成され、前記容器本体(1)の上部に固定されて前記容器本体(1)を保護するプロテクター(2)とを有し、前記プロテクター(2)には孔部としての取っ手(4)が形成されている飲料容器に対して、
前記プロテクター(2)の前記取っ手(4)の内周縁端部の先鋭部分であるバリ部(41)にTIG溶接用の電極(51)を近接させ、
前記プロテクター(2)と前記電極(51)との間に電流を流しつつ前記電極(51)を前記バリ部(41)に沿って移動させ、前記バリ部(41)を溶融して先鋭部分を丸く安全な形状に加工するようにした飲料容器取っ手部のバリ除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載した飲料容器取っ手部のバリ除去方法であって、
前記容器本体(1)および前記プロテクター(2)は、ステンレス鋼板材で形成されたものである飲料容器取っ手部のバリ除去方法。
【請求項3】
金属板材で形成された容器本体(1)と、
金属板材で形成され、前記容器本体(1)の上部に固定されて前記容器本体(1)を保護するプロテクター(2)とを有する飲料容器であって、
前記プロテクター(2)には孔部としての取っ手(4)が形成されており、
前記プロテクター(2)の前記取っ手(4)周縁端部の先鋭部分であるバリ部(41)にTIG溶接用の電極(51)を近接させ、
前記プロテクター(2)と前記電極(51)との間に電流を流しつつ前記電極(51)を前記バリ部(41)に沿って移動させ、前記バリ部(41)を溶融して先鋭部分を丸く安全な形状に加工したものである飲料容器。
【請求項4】
請求項3に記載した飲料容器であって、
前記容器本体(1)および前記プロテクター(2)は、ステンレス鋼板材で形成されたものである飲料容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−78779(P2013−78779A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219551(P2011−219551)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(591036996)フジテクノ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】