説明

飲料水の製造方法

【課題】硼素および硬度成分を含む飲料用原水から硼素を除去して味覚に優れた飲料水を製造する方法を提供すること。
【解決手段】陰極と陽極の間にアニオン交換膜と、少なくとも一部が1価選択透過性カチオン交換膜であるカチオン交換膜とを交互に配し、この両膜に挟まれた脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置の脱塩室に、硼素および硬度成分を含む飲料用原水を供給することを特徴とする飲料水の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硼素および硬度成分を含有している飲料用原水から味覚に優れた飲料水を製造する方法に関する。特に海水やかん水から味覚に優れた飲料水を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料水を得るための逆浸透法による海水またはかん水の淡水化は、水不足に悩む世界各地で広く行なわれている。海水には通常5mg/l程度の硼素が硼酸として含まれている。飲料水中の硼素は人体に悪影響を与えるので除去されねばならず、例えばWHOの基準では0.5mg/l以下にすることが求められている。
【0003】
海水を逆浸透膜装置によって脱塩するには、海水中のカルシウムやマグネシウムによるスケールの析出を抑制するために、海水のpHを7以下にして逆浸透膜装置に供給する。硼酸のpKaは9であり、pH7以下の海水中ではほとんど非解離状態である。非解離状態の硼酸は逆浸透膜装置では十分除去されず、透過水中に1mg/l程度の硼素が残存し、上記WHOの基準を満足できない。
【0004】
透過水中の残存硼素をさらに低下させるために、例えば、海水を逆浸透膜装置によって2段処理することが提案されている(例えば特許文献1参照)。即ち、第一段目の逆浸透膜装置からの透過水にアルカリを添加し、pHを9以上に調整して第二段目の逆浸透膜装置に供給してさらに硼素を除去している。しかし、この方法では、pH調整の装置が必要となり、また第二段目の逆浸透膜装置におけるスケール析出の抑制等を考慮せねばならず、さらに煩雑なプロセスとなる。
【0005】
また、陽極と陰極の間にカチオン交換膜とアニオン交換膜を交互に配し、この両膜の間に脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置の少なくとも脱塩室に、イオン交換体を充填してなる電気式脱イオン装置によって、カルシウムやマグネシウム等の硬度成分の多い水を処理して、スケール発生なしに純水を得る方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
さらに、水を逆浸透膜装置によって処理して得られた、200ppbのシリカおよび20ppbの硼素を含む水を電気式脱イオン装置によって処理し、シリカおよび硼素が0.1ppb以下の純水を製造する方法も知られている(例えば特許文献3参照)。
また、飲料水では味覚の観点から適度な硬度(水中のカルシウムイオンおよびマゲネシウムイオンの合計量を、これに対応する炭酸カルシウムの濃度(mg/l)に換算して表わしたもの)を有することが望まれており、水道法では硬度が300mg/l以下と定められている。さらに、おいしく質の高い水道水を供給するための目標値を定めた快適水質項目では10〜100mg/lと定められている。
【0007】
【特許文献1】特許第3593765号公報
【特許文献2】特開2004−33822号公報
【特許文献3】特開2001−113281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述の状況に鑑みて、硼素および硬度成分を含む飲料用原水から硼素を除去して味覚に優れた飲料水を製造する方法を提供することであり、特に、スケール析出の心配のない簡単な装置およびプロセスで、海水やかん水から硼素を除去して味覚に優れた飲料水を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、硼素および硬度成分を含む飲料用原水を、陰極と陽極の間にアニオン交換膜と、少なくとも一部が1価選択透過性カチオン交換膜であるカチオン交換膜とを交互に配し、この両膜に挟まれた脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置の脱塩室に供給して処理することにより、硼素を除去することができ、硬度成分を適切な濃度に制御することができ、味覚に優れた飲料水が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。さらに、本発明者は、電気透析装置の脱塩室にイオン交換体が充填された、所謂電気式脱イオン装置を用いることにより、硼素の除去効率がさらに改良されることを見出した。
また、本発明者は、海水を逆浸透膜装置によって処理した非解離の硼酸が含まれるpH7以下の透過水からなる飲料用原水を、カチオン交換膜として1価選択透過性カチオン交換膜を用いた電気式脱イオン装置によって処理すると、非解離の硼酸が除去され、かつ味覚に優れた飲料水が得られることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は下記の発明を提供する。
(1)陰極と陽極の間にアニオン交換膜と、少なくとも一部が1価選択透過性カチオン交換膜であるカチオン交換膜とを交互に配し、この両膜に挟まれた脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置の脱塩室に、硼素および硬度成分を含む飲料用原水を供給することを特徴とする飲料水の製造方法。
(2)電気透析装置の脱塩室のpHを7以上に調整する上記1項に記載の飲料水の製造方法。
(3)飲料用原水が海水またはかん水を逆浸透膜装置に通液して得られた透過水である上記1または2項に記載の飲料水の製造方法。
(4)電気透析装置の少なくとも脱塩室にイオン交換体が充填されている上記1〜3項のいずれか一項に記載の飲料水の製造方法。
(5)イオン交換体が、アニオン交換体とカチオン交換体が1.5〜2.0の交換容量比(アニオン交換体/カチオン交換体)で混合されている上記4項に記載の飲料水の製造方法。
(6)交換容量比(アニオン交換体/カチオン交換体)が1.7〜2.0である上記5項に記載の飲料水の製造方法。
(7)陰極と陽極の間にアニオン交換膜と、少なくとも一部が1価選択透過性カチオン交換膜であるカチオン交換膜とを交互に配し、この両膜に挟まれた脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置を含むことを特徴とする飲料水の製造装置。
(8)逆浸透膜装置をさらに含む上記7項に記載の飲料水の製造装置。
(9)電気透析装置の少なくとも脱塩室にイオン交換体が充填されている上記7または8項に記載の飲料水の製造装置。
(10)逆浸透膜装置に海水またはかん水の供給ラインが接続され、逆浸透膜装置の透過水ラインが電気透析装置の脱塩室に接続されている上記7〜9項のいずれか一項に記載の飲料水の製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硼素および硬度成分を含む飲料用原水から味覚に優れた飲料水を得ることができる。また、本発明によれば、海水又はかん水を逆浸透膜装置によって処理して得られた透過水からなる飲料用原水を、カチオン交換膜として1価選択透過性カチオン交換膜を用いた電気透析装置の脱塩室に供給することにより、硼素が0.5mg/l以下で、硬度(カルシウムとマゲネシウムの合計量)が10〜100mg/lの飲用に適した水が脱塩室より直接得られるので、海水又はかん水から簡単なプロセスで味覚に優れた飲料水を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、飲料用原水とは、硼素を含有しているが故に飲料水として不適格であり、かつ硬度成分をある程度、例えば10mg/l以上含んでいる水のことを言う。例えば、井戸水(地下水)、各種回収水、かん水および海水またはかん水を逆浸透膜装置によって処理して得られた透過水等が挙げられる。
海水は通常5mg/l程度の硼素および6400mg/l程度の硬度成分を含有している。さらに海水の全溶解固形物は通常35000mg/l程度であり、このように全溶解固形物濃度(塩分濃度)が高い場合は、あらかじめ逆浸透膜装置によって処理して、得られた透過水を本発明における飲料用原水とすることが好ましい。
【0013】
かん水とは塩分を含有した地下水のことである。日本の水道法では全溶解固形物濃度(塩分濃度)が500mg/l以下と定められており、本発明では、全溶解固形物濃度が500mg/lを超える地下水をかん水とする。離島、海岸地帯および岩塩鉱床が近くに存在する地域では地下水は塩分を含み、かん水であることが多い。かん水中に含まれる硼素と硬度成分の量は地域によって異なる。また、かん水中の全溶解固形物濃度も地域によって異なり、海水に近い場合もある。かん水中の全溶解固形物濃度が高い場合は、海水と同様、あらかじめ逆浸透膜装置によって処理して、得られた透過水を本発明における飲料用原水とすることが好ましい。全溶解固形物濃度が低い場合、例えば5000mg/l以下の場合は、本発明における飲料用原水として直接用いることができる。直接用いる場合は500mg/l以下であればさらに好ましい。
【0014】
また、塩分濃度はそれほど高くはないが、硼素を含有しているが故に飲料水として不適格であり、かつ硬度成分をある程度、例えば10mg/l以上含んでいる井戸水(地下水)や各種回収水がある。このような井戸水や各種回収水も本発明における飲料用原水として使用できる。
なお、本発明において、硬度成分とはカルシウムおよびマグネシウムのことであり、カルシウムおよびマグネシウムの合計量を硬度という。
【0015】
前述したように、飲料水中の硼素は人体に悪影響を与えるので除去されねばならず、例えばWHOの基準では0.5mg/l以下にすることが求められている。また、飲料水中の硬度成分は味覚に大きな影響を与え、日本の水道法では硬度が300mg/l以下と定められている。硬度が低すぎると淡白でこくのない味となり、高すぎると硬くてしつこい味となり、適度に含まれるとこくのあるまろやかな味となるので、硬度は10〜200mg/lが好ましく、さらに好ましくは10〜100mg/lである。また、日本の水道法ではpHの範囲を5.8〜8.6と定めている。
【0016】
本発明において、飲料用原水は、カチオン交換膜として1価選択透過性カチオン交換膜を用いた電気透析装置の脱塩室に供給される。飲料用原水のpHが7以上のアルカリ側の場合は、飲料用原水中に含まれる硼酸は解離しやすくなり、1価イオンであるH2BO3-又はB(OH)4-となり、濃縮室に移動し、除去される。硼酸の1価イオンへの解離のpKaが9のため、pHが9に近づくにつれ1価イオンへの解離が大きくなり、除去性が大きくなる。飲料用原水のpHが7未満の場合でも、脱塩室にイオン交換体を充填し、水分裂を利用して硼酸を解離させることにより、生成したH2BO3-又はB(OH)4-がイオン交換体への吸着及び脱離を繰り返し、最終的にアニオン交換膜を透過して濃縮室に移動するので、硼素の除去が効率的に行なわれる。
【0017】
また、飲料用原水中に含まれる硬度成分は2価の陽イオンであるから、1価選択透過性カチオン交換膜を透過できず、カチオン交換膜が全て1価選択透過性カチオン交換膜であると、硬度成分は脱塩室から除去されない。従って、飲料用原水中に含まれる硬度成分の量(硬度)が、おいしいと感じられる10〜200mg/lよりも大きい場合には、カチオン交換膜として、1価選択透過性カチオン交換膜だけではなく、1価非選択透過性カチオン交換膜も併せて用いて、硬度成分を除去する必要がある。
【0018】
要するに、飲料用原水中に含まれる硬度成分の量に応じて、1価選択透過性カチオン交換膜と1価非選択透過性カチオン交換膜の使用比率を決める必要がある。即ち、硬度成分が多い場合には、1価選択透過性カチオン交換膜の使用比率を減らし、硬度成分が少ない場合には、1価選択透過性カチオン交換膜の使用比率を増やせばよい。また、飲料水製造設備が幾つかの系列に分かれている場合には、系列毎に1価選択透過性カチオン交換膜の使用比率を変えてもよい。
飲料用原水中の硬度成分が10〜200mg/lのおいしいと感じる好ましい範囲であれば、全てのカチオン交換膜として1価選択透過性カチオン交換膜を用いればよい。なお、飲料用原水中の硬度成分が目標とする値よりも少ない場合には電気透析装置による処理前に硬度成分を添加することができる。
【0019】
さらに、得られる飲料水中の硬度成分の調整は、下記式によって表されるカチオン交換膜のRTNを適宜選択することによってもできる。
RTN=PCa/Na=(tCa/tNa)/(CCa/CNa)
(ここで、PCa/NaはNaに対するCaの相対輸率を表し、tCaおよびtNaはそれぞれカルシウムイオンおよびナトリウムイオンの膜中での輸率、CCaおよびCNaはそれぞれ希釈側でのカルシウムイオンおよびナトリウムイオンの濃度である。)
飲料用原水中の硬度成分が多い場合には、RTNの大きなカチオン交換膜を用い、硬度成分が少ない場合には、RTNの小さなカチオン交換膜を用いればよい。
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を、電気透析装置として脱塩室にイオン交換体を充填した電気式脱イオン装置を用い、飲料用原水として海水を逆浸透膜装置によって処理して得られた透過水を用い、飲料水を製造するプロセスを例にとり説明する。しかし、本発明はこの例に限定されるものではなく、各種かん水からの飲料水の製造にも応用できるものである。また、飲料用原水として塩分の少ない地下水や各種回収水を用いる場合には、前処理および逆浸透膜装置による処理を省略できることは言うまでもない。
【0021】
図1は、本発明の処理方法により海水から飲料水を製造するためのプラント構成の一例の概略を示したブロック図である。海水1は、前処理工程10で前処理された後、逆浸透膜装置20に送られ、逆浸透膜装置の透過水は必要に応じて一旦貯槽に溜められて、電気式脱イオン装置30の少なくとも脱塩室に供給される。電気式脱イオン装置の脱塩室から塩分が除去された硼素が0.5mg/l以下で、硬度が10〜100mg/lの飲料水が得られる。
【0022】
前処理工程10は、逆浸透膜装置を利用した海水の淡水化装置のために通常使用されている前処理工程であれば、どのような前処理工程でもよい。図1には、砂濾過装置11と多孔ろ過装置15をシリーズに用いた例を示す。まず海水1を砂濾過装置11に導いて、海水中のゴミ類や微生物等の比較的大きな夾雑物を除去する砂濾過工程を経る。これにより続く多孔ろ過工程での膜の目詰まりやファウリングをできるだけ防止する。砂濾過装置の仕様や使用条件は特に限定されず、公知の砂濾過装置を通常の使用条件で用いればよい。なお、砂濾過装置11の前段に、さらに凝集沈澱工程を設けても良い。これにより砂濾過装置11の負荷が減少して後段におけるトラブルがより生じにくくなる。
【0023】
次に、濾水を多孔ろ過装置15に導いて濾水16を得る多孔ろ過工程を経る。これにより、後段の逆浸透膜装置20や電気式脱イオン装置30等で目詰まりやファウリングを生じるような比較的小さい不溶物をあらかじめ除去することができる。多孔ろ過装置15で用いられる多孔ろ過膜としては、精密濾過膜や限外濾過膜を用いることができる。好ましくは膜単位面積あたりの流量が大きく取れる精密濾過膜である。多孔ろ過膜の平均孔径は、除去性能と透過水量とのバランスの観点から0.01μm〜1μmとするのが好ましい。多孔ろ過装置15の仕様や使用条件は、平均孔径以外は特に限定されず、公知の多孔ろ過装置を通常の使用条件で用いればよい。なお、多孔ろ過膜を透過しなかった非透過水17は、そのまま全量を海洋投棄しても良いが、砂濾過装置11の取水側に少なくとも一部を還流するのが好ましい。これにより、海水の利用率を高めることができる。多孔ろ過された濾水16は、続く逆浸透膜装置20に送られる。海水のpHは一般に8近辺であるが、濾水16は、必要に応じて、pHが6〜7に調整されたり、スケール防止剤が添加されたりして、逆浸透膜装置20に送られる。
【0024】
逆浸透膜装置20では、濾過塩水16を受け入れて、海水のうち逆浸透膜を透過した部分である透過水21と、逆浸透膜を透過しなかった部分である非透過水22とに分離する。逆浸透膜装置は一段でもよいし、複数段でもよい。逆浸透膜装置の運転圧力および回収等の運転条件や、使用する逆浸透膜の仕様に関しては、常法に従って行えば良く特に制限されない。通常、逆浸透により海水のおよそ4〜6割の水分が、飲料水として利用する透過水21として海水1から分離され、残った6〜4割の部分が非透過水22となる。
【0025】
海水中の全溶解固形物は通常35000mg/l程度であり、硬度は通常6400mg/l程度であり、硼素は通常5mg/l程度である。逆浸透膜を透過した透過水21は全溶解固形物が200mg/l程度と飲用可能な程度まで塩分が除去される。しかし、硼素は1.5mg/l程度までしか除去されず、上記WHOの基準を満足できない。
【0026】
一方、硬度は30mg/l程度になる。水道法では硬度が300mg/l以下と定められているが、硬度が低すぎると淡白でこくのない味となり、高すぎると硬くてしつこい味となり、適度に含まれるとこくのあるまろやかな味となるので、硬度は10〜200mg/lが好ましく、さらに好ましくは10〜100mg/lである。従って、逆浸透膜を透過した透過水21の硬度は飲料水として非常に優れた硬度と言える。
この透過水21はpHが5前後の弱酸性を呈しているが、pH調整なしにそのまま電気式脱イオン装置30の少なくとも脱塩室に供給され、さらに硼素が除去される。
【0027】
非透過水22はそのまま海へ戻してもよい。また、非透過水22は透過水21分だけボリュームが減少する一方で、海水1中に含まれる塩のほぼ全量が残存しているから、海水より濃縮された状態となる。従って、濃縮水をさらに濃縮処理して、固形塩として回収したり、食塩電解の原料塩水として利用してもよい。
【0028】
電気式脱イオン装置30では、逆浸透膜装置の透過水21を少なくともその脱塩室に受け入れて、透過水中の硼素がさらに除去される。この際、硬度成分を除去しないことが重要である。電気式脱イオン装置は超純水製造等の分野で多数知られており、本発明においてもこれら周知の電気式脱イオン装置を何ら制限なく用いることができる。
【0029】
電気式脱イオン装置では、陽極を備える陽極室と陰極を備える陰極室との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜を交互に配し、この両膜の間に脱塩室と濃縮室を交互に形成した電気透析装置の脱塩室に、イオン交換樹脂を充填し、電圧を印加しながら、被処理水を脱塩室に流入させ、濃縮室には、被処理水又は濃縮水の一部を濃縮水として流入させている。陽極室および陰極室に隣り合うイオン交換膜はそれぞれ陽イオン交換膜でもよいし、陰イオン交換膜でもよい。直流電圧を両電極間に印加すると、脱塩室では、被処理水中の不純物イオンは、一旦脱塩室に充填されたイオン交換体により吸着除去され、次に電気的推進力によりイオン交換体から脱離されイオン交換膜を透過して、濃縮室に移動し、排出される。
【0030】
本発明においては、透過水21はpHが5前後であり、透過水中の硼素はイオン化していない非解離状態の硼酸であるが、直流電圧を両電極間に印加することにより、脱塩室内が分極し、硼酸が解離してイオン化し、イオン交換体への吸着および脱離を繰り返して濃縮室に移動し、排出されるものと推測される。
【0031】
本発明で用いる電気式脱イオン装置は、スタック形式の積層型やスパイラル型等、特に限定されない。陽極を備える陽極室と陰極を備える陰極室との間にカチオン交換膜とアニオン交換膜を交互に配置させ、陽極側がアニオン交換膜で区画され陰極側がカチオン交換膜で区画された脱塩室と、陽極側がカチオン交換膜で区画され陰極側がアニオン交換膜で区画された濃縮室とが交互に形成された電気透析装置の少なくとも脱塩室にイオン交換体を充填した電気式脱イオン装置を使用する。脱塩室には、透過水21を流入させ、濃縮室には透過水又は濃縮水の一部を循環しても構わない。又、必要に応じて脱塩室以外の濃縮室や電極室に、イオン交換体を充填しても構わない。
【0032】
脱塩室に充填されるイオン交換体としては、繊維状、粒状、シート状があるが、この中で単独又は組み合わせて使用する事ができ又、その大きさについても特に限定されるものではない。好ましいイオン交換体としては、イオン交換樹脂があげられる。又、交換体の構造では、強酸性や弱酸性のカチオン交換体及び強塩基性や弱塩基性のアニオン交換体の中から適宜選択出来る。又、カチオン交換体とアニオン交換体の比率も透過水の組成に合わせて適宜選択出来る。硼酸が解離して生じたH2BO3-又はB(OH)4-を除去しなければならないので、アニオン交換体の比率を多くすることが好ましい。アニオン交換体とカチオン交換体との好ましい比率(アニオン交換体/カチオン交換体)は交換容量比で1.5〜2.0であり、さらに好ましくは1.7〜2.0である。
【0033】
カチオン交換膜は1価イオン選択透過性カチオン交換膜を用いることが重要である。1価イオン選択透過性カチオン交換膜を用いることにより、脱塩室において2価イオンである硬度成分はほとんど除去されずに、硼酸が解離して生じた1価イオンであるH2BO3-又はB(OH)4-が除去される。
本発明において1価イオン選択透過性カチオン交換膜とは、下記式によって表されるRTNが1よりも小さいカチオン交換膜を言う。RTNが0.2以下の1価イオン選択透過性カチオン交換膜が好ましい。
RTN=PCa/Na=(tCa/tNa)/(CCa/CNa)
(ここで、PCa/NaはNaに対するCaの相対輸率を表し、tCaおよびtNaはそれぞれカルシウムイオンおよびナトリウムイオンの膜中での輸率、CCaおよびCNaはそれぞれ希釈側でのカルシウムイオンおよびナトリウムイオンの濃度である。)
【0034】
カチオン交換膜は1価イオン選択透過性カチオン交換膜であれば特に限定されず、補強材で補強された均一膜や交換樹脂と他のポリマーがブレンドされた不均一膜が使用出来る。構造としては、スチレンとジビニルベンゼン共重合体のスルホン化物やポリスチレンスルホン酸及びその塩、ポリビニルスルホン酸及びその塩、ポリアクリル酸及びその塩、ポリメタクリル酸及びその塩等を含有する膜が挙げられる。
【0035】
アニオン交換膜も、特に限定されず、補強材で補強された均一膜や交換樹脂と他のポリマーがブレンドされた不均一膜が使用出来る。構造としては、スチレンとジビニルベンゼン共重合体のクロロメチル化反応後の4級アミノ化物、クロロメチルスチレンとジビニルベンゼン共重合体の4級アミノ化物、4−ビニルピリジンとジビニルベンゼン共重合体の4級アミノ化物及びその4級ピリジニウム化物、2−ビニルピリジンとジビニルベンゼン共重合体及びその4級ピリジニウム化物、1−ビニルイミダゾールとジビニルベンゼン共重合体及びその4級化物、N,N−ジメチルアクリルアミドとジビニルベンゼン重合体及びその4級化物、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドとジビニルベンゼン重合体及びその4級化物等を含有する膜が挙げられる。
アニオン交換膜の種類としては1価イオン選択透過性アニオン交換膜でもよいし、非1価イオン選択透過性アニオン交換膜でもよい。しかし、非1価イオン選択透過性アニオン交換膜が多価アニオン、例えばSO42-の除去性に優れるので好ましい。
【0036】
電気式脱イオン装置30から得られた脱塩水31は、硼素が0.1mg/l程度まで除去される。また、硬度成分以外の塩類もさらに除去されて全溶解固形物は50〜100mg/l程度であるが、硬度は30mg/l程度をそのまま維持している。脱塩水31は飲料水として利用され、一方、濃縮水32は、そのまま海に戻してもよいが、少なくとも一部を逆浸透膜装置20の供給側に戻すことにより、海水を有効利用することができる。
【0037】
また、電気式脱イオン装置の濃縮室には、カルシウムやマグネシウムのスケールが析出し易いが、本発明では、電気式脱イオン装置に供給する逆浸透膜装置の透過水はpHが5前後であるため、濃縮室においてスケールが発生し難い。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例)
図1に示したプラント構成と同様のシステムによって実験を行なった。砂濾過装置11には三機工業社製の砂濾過装置(商品名ダイナサンドフィルター)を用い、多孔ろ過装置15には旭化成ケミカルズ(株)製の多孔ろ過膜(商品名マイクローザ UNA−620A)を用い、逆浸透膜装置20には東レ(株)製の逆浸透膜(商品名SU−820L)を用いた。
【0039】
電気式脱イオン装置30は以下の手順で組み立てた。陽極を有する陽極室からカチオン交換膜とアニオン交換膜を交互にセル枠を介して配置し、濃縮室6室と脱塩室6室を交互に設け、最後に陰極を有する陰極室を配置した。各セルの通電幅は32mmであり、通電長は240mmである。セル厚みは、濃縮室および脱塩室共に3mmである。イオン交換体には、再生型の強酸性カチオン交換樹脂(市販のダイヤイオンSA−10A)と再生型の強塩基性アニオン交換樹脂(市販のダイヤイオンSK−104)を用い、交換容量の割合が1.7(アニオン交換樹脂/カチオン交換樹脂)になるように均一に混合した。混合した樹脂を脱塩室および濃縮室の両方に80%の充填率で充填した。カチオン交換膜には(株)アストム製のRTNが0.1である1価イオン選択透過性のカチオン交換膜(商品名NEOSEPTA CIMS)を用い、アニオン交換膜には(株)アストム製のアニオン交換膜(商品名NEOSEPTA AMX)を用いた。
【0040】
海水(全溶解固形物:約35000mg/l、硬度:約6400mg/l、硼素:約5mg/l、pH:約8)を10l/Hrの流量で取水し、以下の処理を連続で行った。まず、砂濾過装置11に通液し、得られた濾水12を多孔ろ過膜装置15に通液して圧力0.1MPaで多孔ろ過した。このうち非透過水17は全量を海洋に放流し、濾水16を逆浸透膜装置20に供給した。
濾水16は逆浸透膜装置20に供給するに当たり、pHを約7に調整した。逆浸透膜装置20は回収率を50%に設定した。得られた透過水21は、全溶解固形物が約200mg/l、硬度が約30mg/l、硼素が約1.5mg/l、pHが約5であった。非透過水22は全量を海洋に放流した。
【0041】
得られた透過水21を電気式脱イオン装置30の脱塩室および濃縮室に供給した。脱塩室には対イオン交換体容積比で1時間当たり約25倍量、即ち約2.8l/Hr供給し、濃縮室には対イオン交換体容積比で1時間当たり約15倍量、即ち約1.6l/Hr供給した。陽極室および陰極室には、濃縮室の排液を通水した。
陽極および陰極間に4A/m2の直流電流を流した結果、脱塩室出口からは全溶解固形物が約80mg/l、硬度が約30mg/l、硼素が約0.1mg/l、pHが6.0の脱塩水31が得られた。得られた脱塩水は硬度成分を残したまま、充分飲用に適する味覚に優れたものであった。また、濃縮室でのスケールの発生は全く無かった。
【0042】
(比較例)
電気式脱イオン装置30のカチオン交換膜として非1価イオン選択透過性のカチオン交換膜(商品名NEOSEPTA CM−1)を用いたことを除いて、実施例と同様に海水の淡水化を行なった。
脱塩室出口からは全溶解固形物が約80mg/l、硬度がほとんど0mg/l、硼素が約0.1mg/l、pHが6.0の脱塩水31が得られた。得られた脱塩水は硬度成分ほとんど0mg/lなので、飲用には適するものの味覚に劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、海水又はかん水を逆浸透膜装置によって処理して得られた透過水を、電気式脱イオン装置の脱塩室に供給することにより、硼素が0.5mg/l以下の飲用に適した優れた味覚の水が脱塩室より直接得られるので、産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の処理方法により海水から飲料水を製造するためのプラント構成の一例の概略を示したブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極の間にアニオン交換膜と、少なくとも一部が1価選択透過性カチオン交換膜であるカチオン交換膜とを交互に配し、この両膜に挟まれた脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置の脱塩室に、硼素および硬度成分を含む飲料用原水を供給することを特徴とする飲料水の製造方法。
【請求項2】
電気透析装置の脱塩室のpHを7以上に調整する請求項1に記載の飲料水の製造方法。
【請求項3】
飲料用原水が海水またはかん水を逆浸透膜装置に通液して得られた透過水である請求項1または2に記載の飲料水の製造方法。
【請求項4】
電気透析装置の少なくとも脱塩室にイオン交換体が充填されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の飲料水の製造方法。
【請求項5】
イオン交換体が、アニオン交換体とカチオン交換体が1.5〜2.0の交換容量比(アニオン交換体/カチオン交換体)で混合されている請求項4に記載の飲料水の製造方法。
【請求項6】
交換容量比(アニオン交換体/カチオン交換体)が1.7〜2.0である請求項5に記載の飲料水の製造方法。
【請求項7】
陰極と陽極の間にアニオン交換膜と、少なくとも一部が1価選択透過性カチオン交換膜であるカチオン交換膜とを交互に配し、この両膜に挟まれた脱塩室と濃縮室を交互に形成させた電気透析装置を含むことを特徴とする飲料水の製造装置。
【請求項8】
逆浸透膜装置をさらに含む請求項7に記載の飲料水の製造装置。
【請求項9】
電気透析装置の少なくとも脱塩室にイオン交換体が充填されている請求項7または8に記載の飲料水の製造装置。
【請求項10】
逆浸透膜装置に海水またはかん水の供給ラインが接続され、逆浸透膜装置の透過水ラインが電気透析装置の脱塩室に接続されている請求項7〜9のいずれか一項に記載の飲料水の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−190025(P2009−190025A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1065(P2009−1065)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】