説明

飲料用紙容器及びこれに用いられる積層体

【課題】 液体浸透防止のためのポリオレフィン層が紙基材上に安定的に積層されていて、しかも、使用後は、紙基材の回収作業が容易で、更に回収率が高い飲料用紙容器、及びこれに用いられる積層体を提供する。
【解決手段】 紙基材とポリオレフィン層との間の中間層に、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を1〜20モル%含有するポリビニルアルコールを主成分とする層を設けている。式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。前記ポリビニルアルコール層は、前記紙基材と接して設けられていることが好ましい。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙コップ、牛乳やジュースの包装容器としての紙パック等の飲料用容器として用いられる紙容器であって、古紙回収性に優れている紙容器及び当該容器に用いられる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ファーストフード店等で販売提供されるジュース等の飲料容器や牛乳パックに代表される飲料容器として紙容器が用いられている。これらの飲料用紙容器は、紙が内容物である飲料に含まれる水分を吸水すると強度が極端に低下するため、通常、容器内面側に、疎水性を有するポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン層を積層した積層体が用いられている。このような積層体は、通常、紙基材上に、ポリオレフィンを押出ラミネートすることにより形成している。
【0003】
ところで、近年のエコロジー、リサイクルの要求化の高まりから、紙容器についても、紙基材を資源として回収し、古紙再生、リサイクル紙に利用しようとする気運が高まってきている。更に、容器包装リサイクル法等との関係から、リサイクル率が高いことも求められるようになってきている。
【0004】
従来より、牛乳パックなどについては、リサイクル用に回収が進んでいる。牛乳パックについては、容器組立てのための貼着部を剥がして平板状にし、防水のためにコーティングされたオレフィン樹脂層を剥離除去して、紙基材を回収している。しかしながら、紙基材上にポリオレフィンを溶融押出してなる積層体は、ポリオレフィン層と紙基材境界面において、ポリオレフィンの一部がアンカーのように紙基材表層部に入り込んだ状態となり、これによりポリオレフィンと紙基材とが強固に貼着されたようになっている。
【0005】
ポリオレフィンが強固に紙基材に貼着した積層体から、古紙回収のために、ポリオレフィン層を剥離除去するのは容易でなく、ポリオレフィンの一部が侵入している紙基材表層部分を削り取るような状態で回収することになる。このため、このような容器からの紙基材回収率は、紙基材の一部の回収にとどまることになり、効率よい回収が望まれている。
【0006】
このような事情下、リサイクル性に優れた液体用紙容器として、特開2007−62786号公報に、紙基材と樹脂フィルムとをワックス、具体的には融点40〜130℃のワックスにより貼着した包装用積層体が提案されている。ワックスによる紙基材と樹脂フィルムとの貼着力は、溶融ラミネートしたポリオレフィン層と紙基材との貼着力に比べて、はるかに小さいので、樹脂フィルムの剥離除去が容易であり、さらには紙基材を100%回収可能であるという点で、リサイクル性に優れているというものである。
【0007】
【特許文献1】特開2007−627863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ワックスによる貼着は、ポリオレフィンフィルムを剥離しやすい一方、紙基材に対するポリオレフィン層の接合強度不足から、飲料用容器としての流通過程や使用中にポリオレフィン層が剥がれてしまうおそれがある。特に、ワックスの場合、高温雰囲気下では粘度が低下するため、真夏の流通過程やホットコーヒー等の熱湯を用いる飲料容器としては、ポリオレフィン層を、安定的な所望の接合強度に保持できないおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体浸透防止のためのポリオレフィン層が紙基材上に安定的に積層されていて、しかも、使用後は、紙基材の回収作業が容易で、更に回収率が高い飲料用紙容器、及びこれに用いられる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の飲料用紙容器は、紙基材とポリオレフィン層との間の中間層に、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を1〜20モル%含有するポリビニルアルコールを主成分とする層を設けたものである。下記(1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合基を表す。
【化1】

【0011】
前記ポリビニルアルコール層は、前記紙基材と接して設けられていることが好ましい。また、前記ポリビニルアルコール層には、ポリエチレンイミンが含まれていないことが好ましい。
【0012】
本発明の紙容器用積層体は、内容物と接触する面にポリオレフィン層が積層されている紙容器に用いられる積層体であって、前記紙基材と前記ポリオレフィン層との間に、上記一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を1〜20モル%含有するポリビニルアルコールを主成分とする層を含む中間層が介層している。
【発明の効果】
【0013】
本発明の飲料用紙容器は、液体浸透防止のためのポリオレフィン層と紙基材との間に、水溶性のPVA層が介層されているので、使用後、水に浸漬することで、紙基材とポリオレフィン層とを分離することができ、紙基材回収作業が容易で且つ紙基材をほぼ100%回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明の飲料用紙容器は、紙基材とポリオレフィン層との間の中間層に、特定の構造を有するポリビニルアルコールを主成分とする層を設けたものである。
【0015】
<紙基材>
本発明の容器に用いられる紙基材としては、通常、容器に用いられる紙基材で、坪量30〜500g/m程度、好ましくは100〜400g/m程度、特に好ましくは250〜350g/m程度の天然紙、合成紙、混抄紙などを用いることができる。
紙の表面は、特にポリビニルアルコール層が積層される側の面は、必要に応じて、コロナ処理や火炎処理、またはプライマー処理等の表面処理を施しておいてもよい。
【0016】
<ポリオレフィン層>
ポリオレフィン層は、本発明の飲料容器の内側面を構成する層で、内容物となる飲料と接触することになる層でオレフィン系樹脂を主成分として構成される層である。
【0017】
オレフィン系樹脂としては、具体的に直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン−プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものやこれらのブレンド物などの広義のポリオレフィン系樹脂を挙げることができ、これらのうち、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリオレフィンが耐屈曲疲労性、耐振動疲労性等に優れる点から好ましく用いられる。
【0018】
上記オレフィン系樹脂の密度は0.86〜0.95g/cmであることが好ましい。尚、ここで言う密度とは、20℃においてJIS K6760によって測定される値である。
【0019】
ポリオレフィン層には、主成分となるポリオレフィン以外に、本発明の効果を損なわない範囲で且つ食品安全性の損なわない範囲で、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤など、公知の添加剤が適宜配合されていてもよい。
【0020】
ポリオレフィン層の厚みは、液体不透過性を確保できるように、ピンホール等がない範囲の厚みでなければならない。具体的には、通常10〜200μmであり、好ましくは20〜100μmであり、より好ましくは30〜70μmである。薄すぎた場合、防湿性、防水性が不十分となるおそれがあり、機械的強度が不足し破れやすくなる。
【0021】
<中間層>
中間層は、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール単位を有するポリビニルアルコール(以下「側鎖1,2−ジオール含有PVA」という)を主成分とする樹脂層(以下、「側鎖1,2−ジオール含有PVA層」という)を有しており、この側鎖1,2−ジオール含有PVA層が紙基材に接するように設けられている。
【化1】

【0022】
上記一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表す。R〜Rは、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよい。該有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0023】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合基であり、熱安定性の点、高温下や酸性条件下での安定性の点から、単結合であることが好ましい。上記結合基としては、特に限定しないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい)の他、−O−、−(CHO)m−、−(OCH)m−、−(CHO)mCH−、−CO−、−COCO−、−CO(CH)mCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられるが(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。なかでも、製造時あるいは使用時の安定性の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0024】
以上のような構成を有する側鎖1,2−ジオール含有PVAは、水溶性であり、しかも溶融押出成形できるという特徴を有している。従って、側鎖1,2−ジオール含有PVAを溶融押出することにより、紙基材上に、水溶性の側鎖1,2−ジオール含有PVA層を形成することができる。さらに、ポリオレフィン層を構成する樹脂と側鎖1,2−ジオール含有PVAを紙基材上に共押出ラミネートすることもできる。
【0025】
溶融押出により紙基材上に側鎖1,2−ジオール含有PVA層をラミネートすることで、側鎖1,2−ジオール含有PVAの一部が紙基材に浸透する。その結果、アンカー効果に基づいて、紙基材と中間層との高い接合強度を確保できる。さらに、紙基材上に、オレフィン系樹脂と側鎖1,2−ジオール含有PVAを共押出することにより、ポリオレフィン層と側鎖1,2−ジオール含有PVA層との接合強度も確保され、ひいては、液体浸透を防止するポリオレフィン層の、紙基材に対する安定的なラミネートが確保される。
【0026】
そして、ポリオレフィン層と紙基材との間に、水溶性の側鎖1,2−ジオール含有PVA層を設けたことにより、紙基材とポリオレフィン層との剥離が容易になる。つまり、積層体を水に浸漬するだけで、中間層である側鎖1,2−ジオール含有PVA層が溶出され、これにより、高い接合強度でラミネートしていたポリオレフィン層が紙基材から容易に剥離されることができる。しかもアンカーのように、紙基材表層部に侵入していた側鎖1,2−ジオール含有PVAの侵入部分も水に溶出されるので、紙基材を100%そのまま回収することが可能となる。
【0027】
尚、ポリ酢酸ビニルをケン化してなる通常のPVA(以下、「未変性PVA」という)も、同様に水溶性である。しかし、未変性PVAは、分解温度と融点が近接していて、溶融成形できないので、紙基材上に未変性PVA層を形成するためには、まず未変性PVAの水性塗工液を調製し、これを紙基材上に塗工することになるが、塗工液が紙基材に浸透してしまい、所定厚みを有するPVA層を形成することが困難である。この点、側鎖1,2−ジオール含有PVAでは、溶融状態の樹脂を紙基材上に押出ラミネートするので、容易に所定厚みを有する側鎖1,2−ジオール含有PVA層を形成することができる。
【0028】
PVAに含まれる側鎖1,2−ジオール単位の含有率は、通常1〜20モル%が好ましく、より好ましくは2〜15モル%、さらに好ましくは3〜10モル%である。側鎖1,2−ジオール単位の含有率が高くなりすぎると、押出成形時の熱安定性が低下する傾向にある。一方、側鎖1,2−ジオール単位の含有率が低く成りすぎると、融点が高くなって溶融押出成形に際して紙基材を損傷するおそれがあり、さらに熱分解温度(230〜240℃)に近接すると、成形温度の許容範囲が狭くなり、ポリオレフィン層とのラミネートとの関係で、生産条件の厳格化につながる。
【0029】
尚、PVA中の側鎖1,2−ジオール単位の含有率は、PVAを完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には、1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、及びメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0030】
本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVAの重合度は、200〜2000であることが好ましく、より好ましくは250〜1000、更に好ましくは300〜600である。重合度が高すぎると、溶融粘度が高くなり、安定した押出が困難となる傾向にある。また、剪断発熱が大きくなり、熱分解によるゲルや焦げが増加する傾向にあり、容器内表面の外観不良の原因となる。一方、重合度が低すぎると、強度が不十分となる傾向にある。
【0031】
また、本発明で用いられる側鎖1,2−ジオール含有PVAのケン化度は、通常70〜100モル%であり、好ましくは80〜99.9モル%であり、より好ましくは90〜99モル%である。ケン化度が低すぎると、成形時にアセチル基の分解に起因する酢酸臭が激しくなる傾向にあり、積層体に酢酸臭が付着してしまうと、飲料用容器として、内容物である飲料の風味を損ねることになるおそれがある。
【0032】
以上のような側鎖1,2−ジオール含有PVAの製造方法は特に限定しないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、好ましく製造される。
【0033】
【化2】

【化3】

【化4】

【0034】
(2)(3)(4)式中、R〜Rは、いずれも(1)式の場合と同様である。R及びRは、それぞれ独立して水素またはR−CO−(式中、Rは、アルキル基である)。R10及びR11は、それぞれ独立して水素原子又は有機基である。
【0035】
(i)、(ii)及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
【0036】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で(i)の方法が好ましく、特にR〜Rが水素原子、Xが単結合、R及びRがR−CO−であり、Rがアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、更にその中でも特にRがメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0037】
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710,r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701であり、これは(ii)の方法で用いられる一般式(3)で表される化合物であるビニルエチレンカーボネートの場合のr(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0038】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0039】
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)(3)(4)で示される化合物)の他に、水溶性、溶融押出性を損なわない範囲であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のαーオレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル、アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物が共重合されていてもよい。
【0040】
尚、側鎖1,2−ジオール含有PVA層は、上記側鎖1,2−ジオール含有PVA1種類で構成されていてもよいし、異なる2種類以上の側鎖1,2−ジオール含有PVAの混合物であってもよいし、側鎖1,2−ジオール含有PVAと側鎖に1,2−ジオール単位を有しない未変性PVA、さらには、他に変性されたPVA(例えば、カチオン変性PVA、カルボン酸変性PVA、スルホン酸変性PVA)やエチレン−酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物等の他のPVA誘導体との混合物であってもよい。水に溶解し、さらに溶融押出性が損なわれない限りは、他の水溶性樹脂が含まれていても良い。併用可能な水溶性あるいは水分散性樹脂としては、デンプン、酸化デンプン、カチオン変性デンプン等のデンプン誘導体;ゼラチン、カゼイン、等の天然系たんぱく質類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、CMC等のセルロース誘導体;アルギン酸ナトリウム、ペクチン酸等の天然高分子多糖類;ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸塩などの水溶性樹脂(ポリエチレンイミンを除く);SBRラテックス、NBRラテックス、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリルエステル樹脂系エマルジョン、塩化ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョンなどが挙げられる。
【0041】
尚、側鎖1,2−ジオール含有PVA層として、側鎖1,2−ジオール含有PVA以外のPVA系樹脂や他の水溶性樹脂を含む場合、水溶性、溶融押出性の観点から、側鎖1,2−ジオール含有PVAの含有率は60重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは80%以上である。
【0042】
また、溶融押出に供する側鎖1,2−ジオール含有PVA樹脂組成物として、溶融温度が150〜220℃となるように調製することが好ましい。溶融温度が150℃以上であれば、真夏の流通過程、ホットコーヒー等のホットドリンクの容器としても、紙基材とポリオレフィン層との接合強度に影響を与えずに済む。一方、溶融温度が高温になりすぎると、紙基材を焦がしたりするなど、損傷するおそれがある。
【0043】
中間層は、側鎖1,2−ジオール含有PVA層のみで構成されていてもよいし、紙基材と接する側を側鎖1,2−ジオール含有PVA層で構成し、ポリオレフィン層と接する側には、他の熱可塑性樹脂層を含んでもよい。例えば、ポリオレフィン層及び側鎖1,2−ジオール含有PVA層に対して接着性を有する熱可塑性樹脂層を介層してもよい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその無水物をオレフィン系重合体に付加反応やグラフト反応等により科学的に結合させてえられ得るカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体などが好ましく用いられる。
【0044】
中間層の厚みは、0.5〜50μm(さらには1〜30μm、特には2〜20μm、殊には3〜10μm)の範囲から選択することが好ましい。かかる厚みが0.5μm未満では、ピンホールなどが生じるおそれがあり、ポリオレフィン層と紙基材とが、直接、接触する部分が発生するおそれがある。逆に50μmを越えると機械的強度が不十分となり、また経済的にも不利となって好ましくない。
【0045】
<積層体>
本発明の飲料用紙容器の構成材料となる積層体は、紙基材上に、中間層を構成する樹脂層(側鎖1,2−ジオール含有PVA層、接着性層)、ポリオレフィン層を、順次積層することにより製造してもよいし、好ましくは、紙基材上に、中間層、ポリオレフィン層をそれぞれ構成する樹脂を溶融共押出することにより製造する方法であり、より好ましくは側鎖1,2−ジオール含有PVA層、ポリオレフィン層を構成する樹脂を溶融共押出することにより製造する方法である。溶融共押出の方法によれば、中間層が側鎖1,2−ジオール含有PVA層単独で構成される場合であっても、ポリオレフィン層に対して、高い接合強度を確保することができる。尚、共押出コーティング速度に関しては、特に限定されないが、30m/分以上、更には50m/分以上、特には80m/分以上が、生産性の点で好ましい。
【0046】
<容器>
本発明の飲料用紙容器は、以上のような構成を有する積層体を用いて構成されるものである。具体的には、コールドドリンク、ホットドリンクの容器としての紙コップが挙げられる。また、本発明の飲料用紙容器は、側鎖1,2−ジオール含有PVAがガスバリア性を有しているので、ジュースや牛乳などの液体を密封包装して、一定期間、内容物の飲料を酸素から遮断する必要があるような紙パック用紙容器にも利用できる。
【0047】
本発明の容器は、リサイクル性という点で優れている。すなわち、使用済み容器は、水に浸漬しておくだけでよい。紙基材の外側面から、あるいは積層体の外周縁から水が浸透し、側鎖1,2−ジオール含有PVA層が溶出して、ポリオレフィン層が紙基材から剥離される。この点、従来のように、ポリオレフィン層を、機械的力で剥離除去する必要がないので、便利である。特に、複雑な形状をした容器の場合、従来の紙容器であれば、ポリオレフィン層を剥離除去するために、一旦平板状にまで解体する必要があり、また、剥離除去作業前に、容器内面を洗浄しなければいけないが、本発明の容器では、水に浸漬すればよいので、洗浄は不要であり、解体も不要である。さらに、従来の容器では、ポリオレフィン層を剥離除去する前に容器を裁断してしまうと、ポリオレフィン層の剥離除去作業が煩雑になるという点からも、まず容器を平板状に解体する必要があった。一方、本発明の容器では、水に浸漬しておくだけでよい。容器外側となる紙基材側から水が浸透し、側鎖1,2−ジオール含有PVAにまで水が浸透して、側鎖1,2−ジオール含有PVAが溶出し、これにより、ポリオレフィン層と紙基材とが分離するようになる。容器を適宜裁断した状態で水に浸漬しておいてもよくことは、裁断面から水が直接側鎖1,2−ジオール含有PVA層に浸透できるので、溶出が早くなり好ましい。このように、容器から紙基材を回収する作業が、従来の紙容器と比べて、格段に簡便になる。
【0048】
さらに、本発明の紙容器では、側鎖1,2−ジオール含有PVA層の溶出により、紙基材とポリオレフィン層が分離できるので、紙基材のほぼ100%近くを回収することが可能である。この点、従来、ガスバリア性を有する紙容器では、紙基材とポリオレフィン層との間に、ガスバリア層としてのEVOH層を介在させている。しかし、EVOH層は、水溶性でないため、紙基材にポリオレフィン層を直接ラミネートしている容器と同様に、紙基材の回収のためには、機械的力を加えることにより、EVOH層を剥がす必要があり、あるいはアルカリ処理などによりパルプを回収する場合においても、紙基材からパルプを100%近く回収することは困難である。よって、本発明の紙容器は、従来の、ポリオレフィン層との間にガスバリア層を介在させた紙容器と比べても、簡便な回収作業で、しかも紙基材をほぼ100%という高効率で回収することが可能であり、近年のエコロジー、資源ゴミとしての古紙回収の要求に十分に応えることができるものである。
【0049】
尚、本発明の飲料用紙容器は、容器外側となる、紙基材の中間層が積層していない側の面に、装飾目的、防水などの適宜目的で、樹脂フィルムなどがさらに積層されていてもよい。この場合、本発明の効果であるリサイクル性を損なわないように、樹脂フィルムは剥がしやすいものであることが好ましく、あるいは、適宜目的で積層される樹脂フィルムと紙基材との間に、さらに側鎖1,2−ジオールPVA層を介層してもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0051】
〔実施例〕
(1)側鎖1,2−ジオール含有PVAフィルムの作製
特開2006−95285の製造例1に記載の方法に準じて、酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合し、これをケン化して、側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量4.5モル%、重合度450、ケン化度98.5モル%の側鎖1,2−ジオールPVA系樹脂を製造し、溶融押出して側鎖1,2−ジオール含有PVAフィルム(厚み30μm)を得た。
【0052】
(2)積層体の作製
紙基材として、厚み420μm、目付335g/mの板紙に、上記で作製した側鎖1,2−ジオール含有PVAフィルム、厚み27μmのポリエチレンフィルムをこの順で積層し、加熱加圧プレス機にて、220℃×4kg/cm×1分間プレスすることにより、積層体を作製した。
【0053】
(3)評価
作製した積層体を、5cm角程度に切断し、23℃の水中に3日間浸漬したところ、ポリエチレンフィルムと板紙とは分離していた。
次に、回収した板紙を乾燥した後、重量を測定し、下記式によって紙の回収率を算出した。なお、式中、Wは積層体作製前の板紙の質量、Wは回収処理後の板紙の質量である。
回収率(%)=(W/W)×100
回収処理後の板紙重量は、元の板紙重量と同じであり、回収率100%である事が確認できた。
【0054】
〔比較例〕
側鎖1,2−ジオール含有PVAフィルムに代えて、側鎖1,2−ジオール構造単位含有EVOH樹脂(エチレン含有率38モル%、ケン化度98.5モル%、重合度450、変性度1.5モル%)を調製し、これを溶融押出して、厚み30μmのEVOHフィルムを得た。
このEVOHフィルムを用いて、実施例と同様にして積層体を作製し、同様に評価した。
【0055】
水に3日間浸漬しても、板紙とポリエチレンフィルムとの分離は認められなかった。端縁からポリエチレンフィルムを引き剥がし、板紙に樹脂フィルムの付着がないことを目視で確認した後、板紙重量を測定し、上記式に基づいて回収率を算出した。回収率は84%であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の飲料用紙容器は、水に浸漬するだけで、構成材料として用いている紙基材と液体浸透防止のためのポリオレフィン層とを分離することができ、紙基材をほぼ元通り回収することができる。従って、本発明の積層体を飲料用紙容器として用いると、使用済みの容器を水に浸漬するだけで紙基材を高効率で回収できるので、紙容器のリサイクル、古紙回収システムの普及に役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材とポリオレフィン層との間の中間層に、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を1〜20モル%含有するポリビニルアルコールを主成分とする層を設けた飲料用紙容器。
【化1】

((1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合基を表す。)
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール層は、前記紙基材と接して設けられている請求項1に記載の飲料用紙容器。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール層には、ポリエチレンイミンが含まれていない請求項1又は2に記載の飲料用紙容器。
【請求項4】
内容物と接触する面にポリオレフィン層が積層されている紙容器に用いられる積層体であって、
前記紙基材と前記ポリオレフィン層との間に、一般式(1)で示される側鎖1,2−ジオール構造単位を1〜20モル%含有するポリビニルアルコールを主成分とする層を含む中間層が介層していることを特徴とする紙容器用積層体。
【化1】

((1)式中、R〜Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合基を表す。)

【公開番号】特開2013−100139(P2013−100139A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−28527(P2013−28527)
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2008−45565(P2008−45565)の分割
【原出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】