説明

飲料用缶体

【課題】比較的軽い力で掴んでも手中から滑り落ち難いだけでなく、高い安定性を得ることができ、しかも、缶胴表面に施す印刷等の視認性が高く、視覚的にも安定感があり、外観に優れた缶体を提供する。
【解決手段】缶胴2の上半部の範囲内に上端が位置してこの上端から下方に向かって次第に縮径する第1テーパ壁部8と、第1テーパ壁部8の下端から一定の外径を維持して下方に延びる小径壁部9と、缶胴2の下半部の範囲内に下端が位置してこの下端から上方に向かって次第に縮径すると共に上端が小径壁部9に連なる第2テーパ壁部10と、第1テーパ壁部8の上端から一定の外径を維持して上方に延びる上部大径壁部6と、第2テーパ壁部10の下端から一定の外径を維持して下方に延びる下部大径壁部7とを備える。第1テーパ壁部8は小径壁部9より高さ方向の長さが大とされ、第2テーパ壁部10は小径壁部9より高さ方向の長さが小とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料を内容物とする缶体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の飲料用缶体としては、円筒状の缶胴が全長にわたって一定の外径に形成されているものが一般に用いられているが、かかる缶体は、缶胴の表面に結露が生じていると、比較的弱い力で掴んだときに手中から滑り落ち易い。
【0003】
また、この種の飲料用缶体は、コーヒーやお茶等を内容物とする場合、内容物を充填して密封した後に、レトルト釜に投入されて高温蒸気や熱水による加熱殺菌が行われる。このとき、複数の缶体が密集した配列状態でレトルト釜内で加熱されるが、隣接する缶体同士の間を高温蒸気や熱水が流通し易くするために、缶胴の上半部に対して下半部を小径とした缶体が知られている(例えば特許文献1参照)。そして、この缶体は、缶胴の大径の上半部から次第に縮径されて下半部の小径部分に至る形状とされている。
【0004】
このような形状に缶胴を形成することによって、飲用時に缶胴を比較的弱い力で掴んでも大径側が手中に嵌り易く滑り難い利点がある。しかも、缶胴は、その上半部から次第に縮径されて下半部に至るために凹凸が少なく、缶胴表面の文字や図柄の視認性がさほど低下しない。しかしその反面、缶胴の上半部に対して下半部を小径とした缶体では、安定性が低く、転倒し易い不都合がある。また、視覚的にも不安定感がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−136903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の点に鑑み、本発明は、比較的軽い力で掴んでも手中から滑り落ち難いだけでなく、高い安定性を得ることができ、しかも、缶胴表面に施す印刷等の視認性が高く、視覚的にも安定感があり、外観に優れた缶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の飲料用缶体は、高さ方向に延びる円筒状の缶胴の上半部の範囲内に上端が位置してこの上端から下方に向かって次第に縮径する第1テーパ壁部と、該第1テーパ壁部の下端から一定の外径を維持して下方に延びる小径壁部と、前記缶胴の下半部の範囲内に下端が位置してこの下端から上方に向かって次第に縮径すると共に上端が前記小径壁部に連なる第2テーパ壁部と、前記第1テーパ壁部の上端から一定の外径を維持して上方に延びる上部大径壁部と、前記第2テーパ壁部の下端から一定の外径を維持して下方に延びる下部大径壁部とを備え、前記第1テーパ壁部は前記小径壁部より高さ方向の長さが大とされ、前記第2テーパ壁部は前記小径壁部より高さ方向の長さが小とされていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、前記第1テーパ壁部及び小径壁部を缶胴に形成したことにより、飲用時に小径壁部に手指を掛けやすく、缶胴を比較的弱い力で掴んでも該第1テーパ壁部の傾斜に沿って缶胴が手中に嵌り込むので、手中から缶体が不用意に落下することを防止することができる。
【0009】
更に前記第2テーパ壁部を介して前記下部大径壁部が設けられていることにより、第1テーパ壁部及び小径壁部を設けたことによる安定性の低下を防止することができ、缶体の不用意な転倒を防止することができる。
【0010】
しかも、上部大径壁部と下部大径壁部との間で、缶胴の上半部から下半部にかけて第1テーパ壁部の高さ方向の長さを比較的大きくすることができるので、上部大径壁部から小径壁部にかけての屈曲度合いが少なく、缶胴表面の文字や図柄の視認性の低下を抑えることができる。
【0011】
また、本発明の飲料用缶体においては、前記小径壁部に、前記缶胴の周方向に延びるビードを設けることが好ましい。これにより、小径壁部におけるパネリングに対する強度を付与することができるだけでなく、最も小径となる小径壁部を視覚的に強調して美観を向上させることもできる。
【0012】
また、本発明の飲料用缶体においては、前記上部大径壁部と前記下部大径壁部との何れか一方又は両方に、前記缶胴の周方向に延びるビードを設けることが好ましい。これにより、缶胴にパネリングに対する強度を付与することができ、缶胴の板厚を薄くして材料コストを低減させることができる。更に、缶体の美観を向上させることができると共に、視覚的にも安定感を得ることができる。
【0013】
また、本発明の飲料用缶体において、前記第1テーパ壁部、前記小径壁部、及び前記第2テーパ壁部は、前記缶胴の内部を気体により所定圧に維持した状態で、該缶胴の周壁を所定形状の押圧部材により押圧して形成されたものであることを特徴とする。
【0014】
これによれば、例えば、受け型等を缶胴の内部に挿入して外側から押圧部材により押圧した場合と比べて、缶胴の内面に傷つき等が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の缶体の説明的側面図。
【図2】図1の缶体の要部を示す説明的断面図。
【図3】缶胴における第1テーパ壁部、小径壁部、及び第2テーパ壁部の成形方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の缶体1は一般に3ピース缶と言われるものであり、図1に示すように、円筒状の缶胴2と、缶胴2の上端に巻締られた天蓋3と、缶胴2の下端に巻締られた底蓋4とで構成されている。缶体1の内部にはコーヒーやお茶等の飲料が充填されて密封されており、天蓋3に設けられた図示しない破断開口部を破断して飲み口を形成することにより内容物を飲用できるようになる。
【0017】
図1に示すように、缶胴2には周壁を凹入することにより縮径加工された凹状加工部5が形成されている。また、凹状加工部5の上部側は上部未加工部6(上部大径壁部)とされ、凹状加工部5の下部側は上部未加工部6と外径が等しい下部未加工部7(下部大径壁部)とされている。
【0018】
図2に説明の便宜上誇張して示すように、凹状加工部5は、上部未加工部6の下端から下方に向かって次第に縮径する第1テーパ壁部8と、第1テーパ壁部8の下端から一定の外径を維持して下方に延びる小径壁部9と、小径壁部9の下端から次第に拡径して下部未加工部7の上端に至る第2テーパ壁部10とにより構成されている。
【0019】
第1テーパ壁部8は小径壁部9より高さ方向の長さ寸法が大とされ、第1テーパ壁部8の上端は、缶胴2の上半部の範囲内に位置している。第2テーパ壁部10は小径壁部9より高さ方向の長さ寸法が小とされ、第2テーパ壁部10の下端は缶胴2の下半部の範囲内に位置している。従って、凹状加工部5は、缶胴2の中央を介して上下に延びて十分な長さに形成されている。
【0020】
また、小径壁部9には、缶胴2の周方向に沿って第1のビード11が形成されている。第1のビード11を設けることにより、小径壁部9にパネリングに対する強度を付与することができると共に、凹状加工部5における最深部の存在を明確に示して美観を向上させることができる。更に、下部未加工部7には、缶胴2の周方向に沿って第2のビード12が形成されている。第2のビード12を設けることにより、缶胴2にパネリングに対する強度を付与することができる。
【0021】
以上の構成による缶体1によれば、飲用時に手指により小径壁部9を掴みやすく、缶胴を比較的弱い力で掴んでも第1テーパ壁部8の傾斜により缶胴2が手中に嵌り込むように密着するので、缶体1が滑って手中から落下することが防止できる。
【0022】
更に第2テーパ壁部10を介して小径壁部9よりも外径が大きい下部未加工部7が缶胴2の下部位置に設けられているので、高い安定性を得ることができ、缶体1の転倒も防止できる。しかも、高さ方向の長さが比較的大きい第1テーパ壁部8が設けられていて、上部未加工部6から小径壁部9にかけての平坦な面が広く形成されるので、缶胴2の表面に印刷等による文字や図柄を設けても、文字や図柄を鮮明として視認性が高い。
【0023】
また、第1のビード11及び第2のビード12により、缶胴2にパネリングに対する強度を付与することができるので、缶胴2の板厚を薄くして材料コストが低減できる。
【0024】
なお、凹状加工部5は、缶胴2の高さ方向の全長に対して50%程度の長さとし、凹状加工部5の長さ範囲は、40〜60%とすることが最も美観の高い範囲として好ましい。
【0025】
また、凹状加工部5の小径壁部9は、上部未加工部6(及び下部未加工部7)の外径に対して90%程度(85〜95%)の外径に縮径されてるのが好ましい。小径壁部9の外径が上部未加工部6の外径に対して85%以上であれば、極度に縮径した形状により缶体1の内容量が不足することが防止でき、小径壁部9の外径が上部未加工部6の外径に対して95%以下であれば、凹状加工部5が十分に深く形成されるので内容物の飲用時に缶体1が手中から滑り落ちることを確実に防止できる。
【0026】
更に、缶胴2に凹状加工部5が形成されていることにより、例えば、図示しないレトルト釜に缶体1を密集させて投入しても、互いに隣合う缶体1の缶胴2の間には凹状加工部5による空間が形成されるので、レトルト釜の高温蒸気や熱水が缶胴2間を流通し易く、加熱殺菌を効率良く行うことができる。
【0027】
凹状加工部5は、次のようにして形成することができる。即ち図3に示すように、先ず、缶胴2を第1保持部材13と第2保持部材14の間に挟持する。第1保持部材13は、図示しない回転駆動手段に連結され、図示しないエア供給手段に接続されたエア導入口15をその軸心部に備えている。該第1保持部材13は缶胴2の一端縁に気密に当接する。前記第2保持部材14は、回転自在の回転軸16に連結されており、缶胴2の他端縁に気密に当接する。
【0028】
そして、第1保持部材13のエア導入口15を介して缶胴2の内部にエアを導入する。このとき缶胴2の内部に導入されたエアの圧力は前記エア供給手段によって所定のエア圧(例えば、約0.5MPa)に維持される。
【0029】
続いて、前記回転駆動手段により第1保持部材13を回転させる。そして、第2保持部材14は回転自在に設けられていることにより、缶胴2が回転する。この状態で、缶胴2の外方に設けられた昇降自在且つ回転自在の押圧ローラ17(押圧部材)により缶胴2の周壁外面を押圧し凹入変形させる。このとき、押圧ローラ17は缶胴2と同期回転する。缶胴2は回転しているので、缶胴2の周壁全周にわたって凹入変形される。更に、押圧ローラ17による缶胴2の周壁への押し込み量を凹状加工部5の形状に対応して変化させつつ該押圧ローラ17を缶胴2の軸線方向に移動させる。
【0030】
これにより、第1テーパ壁部8、小径壁部9、及び第2テーパ壁部10が夫々所定の長さ寸法に広げられる。このとき、例えば受け型等を缶胴2の内部に挿入する場合のように缶胴2に皺等が発生することがなく、凹状加工部5を良好に形成することができる。しかも、凹状加工部5を形成するときに缶胴2の内面にはエア(気体)のみが接するので傷つきが生じることもなく、精度のよい凹状加工部5を形成することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、下部未加工部7に第2のビード12を設けた例を示したが、第2のビード12は、上部未加工部6に設けてもよく、或いは、上部未加工部6と下部未加工部7との両方に設けてもよい。
【0032】
また、本実施形態においては、第1のビード11と第2のビード12との両方を備えた例を挙げたが、缶胴2が、例えば、板厚を増加させる等によりパネリングに対する十分な強度を備えていれば、第1のビード11及び第2のビード12を設けなくてもよく、また第1のビード11と第2のビード12との何れか一方のみを設けてもよい。
【0033】
かくして得られた缶胴2においては、その両端部に缶蓋巻締用フレンジを形成し、次いで、缶胴2に天蓋3(又は底蓋4)を巻き締めて内部に飲料を充填し、その後、底蓋4(又は天蓋3)を巻き締めることにより図1に示す缶体1が得られる。
【0034】
なお、本実施形態においては、一般に3ピース缶と言われる缶体1について説明したが、本発明の飲料用缶体は3ピース缶に限るものではなく、例えば、底部が缶胴と一体に成形された一般に2ピース缶と言われる缶体であっても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1…飲料用缶体、2…缶胴、6…上部大径壁部、7…下部大径壁部、8…第1テーパ壁部、9…小径壁部、10…第2テーパ壁部、11…第1のビード(ビード)、12…第2のビード(ビード)、17…押圧ローラ(押圧部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ方向に延びる円筒状の缶胴の上半部の範囲内に上端が位置してこの上端から下方に向かって次第に縮径する第1テーパ壁部と、該第1テーパ壁部の下端から一定の外径を維持して下方に延びる小径壁部と、前記缶胴の下半部の範囲内に下端が位置してこの下端から上方に向かって次第に縮径すると共に上端が前記小径壁部に連なる第2テーパ壁部と、前記第1テーパ壁部の上端から一定の外径を維持して上方に延びる上部大径壁部と、前記第2テーパ壁部の下端から一定の外径を維持して下方に延びる下部大径壁部とを備え、
前記第1テーパ壁部は前記小径壁部より高さ方向の長さが大とされ、前記第2テーパ壁部は前記小径壁部より高さ方向の長さが小とされていることを特徴とする飲料用缶体。
【請求項2】
前記小径壁部に、前記缶胴の周方向に延びるビードを設けたことを特徴とする請求項1記載の飲料用缶体。
【請求項3】
前記上部大径壁部と前記下部大径壁部との何れか一方又は両方に、前記缶胴の周方向に延びるビードを設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の飲料用缶体。
【請求項4】
前記第1テーパ壁部、前記小径壁部、及び前記第2テーパ壁部は、前記缶胴の内部を気体により所定圧に維持した状態で、該缶胴の周壁を所定形状の押圧部材により押圧して形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の飲料用缶体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−225259(P2011−225259A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97976(P2010−97976)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(505440295)北海製罐株式会社 (58)
【Fターム(参考)】