説明

飲用チョコレート

【課題】
沈殿等を生じることなく、簡便に風味豊かなチョコレートドリンクを作ることが可能な飲用チョコレートを提供する。
【解決手段】
HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1重量%以上2.0重量%未満であり、かつHLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルとHLB1〜5の乳化剤の含有量の合計が0.1重量%を越えて2.0重量%以下である飲用チョコレートを提供することにより、分散性、乳化安定性に優れ、風味豊かなチョコレートドリンクの製造が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲用チョコレートに関するものであり、お湯や温かい牛乳などに容易に分散させることができる、いわゆるチョコレートドリンク用として用いられるものに関する。
【背景技術】
【0002】
お湯や温かい牛乳にチョコレートを溶解分散させたチョコレートドリンクが、従来より飲用されている。チョコレートドリンクは、チョコレートそのものを原料としているため、油分を多く含みココアよりも濃厚で芳醇な風味であることが特徴である。しかしながらチョコレートは、油(ココアバター)の連続層の中に砂糖や粉乳、ココアパウダーなどが分散した油系食品であるため、カカオマスをアルカリ処理しココアバターを絞って油分を少なくしたココアパウダーを使用したココアよりも、さらに水系原料への乳化分散が困難である。形状が粒状や削り状などであっても、お湯や温かい牛乳に入れて攪拌するだけでは、凝集した大きい粒状のまま沈んでしまい一様に乳化することはできない。
このため、チョコレートショップなどのチョコレートドリンクは、粒状や削り状チョコレートを少量の牛乳と混合し、煮立てて練り上げながら乳化分散させ、それに残りの牛乳を足していく製法が一般的である。しかし家庭でチョコレートドリンクを楽しむために、同様に調理することは、手間も時間もかかり簡便性に問題がある。
【0003】
このチョコレートドリンクの乳化分散性を高める技術が公開されている。特許文献1にはプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有した、低温域でのカカオ脂の凝集の発生が防止されたカカオ脂飲料が開示されている。これは、高速ミキサーや高圧ホモゲナイザーで機械的に混合、均質化したものを安定化するものであり、手作りでチョコレートドリンクを作るためのものではない。特許文献2には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを食料用乳化剤として含有した飲料用の固形チョコレートについての開示がある。これは、アルカリ処理や熱水処理したカカオマスやココアパウダーを使用することが必須であり、チョコレートそのものを使用したチョコレートドリンクよりも風味が弱いものになってしまう。
特許文献3には、HLB8〜18の界面活性剤、例えばレシチン、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステルなどを含有した可溶性の粉末チョコレートが開示されている。これらは加水や加熱という操作が必要であり、そのことにより、チョコレートそのものを使用したチョコレートドリンクよりも風味が弱いものになってしまう。
【特許文献1】特開平5−328902号公報
【特許文献2】特開平2−219543号公報
【特許文献3】特開平8−205773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
背景技術に記載したように、チョコレートそのものをお湯や温かい牛乳に入れて攪拌するだけでは一様に乳化させることはできない。また、前記のアルカリ処理や熱水処理したカカオマスやココアパウダーと食用乳化剤を含有したものは、チョコレートそのものを使用したチョコレートドリンクよりも風味が弱いという欠点がある。そこで、本発明の課題は、沈殿等を生じることなく、簡便に風味豊かなチョコレートドリンクを作ることを可能とした飲用チョコレートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは各種乳化剤の組み合わせを検討した結果、下記のような手段を講じることにより課題を解決した。すなわち、
(1)HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1重量%以上2.0重量%未満であり、かつHLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルとHLB1〜5の乳化剤の含有量の合計が0.1重量%を越えて2.0重量%以下である飲用チョコレート。
(2)HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルが30℃で液状である(1)に記載の飲用チョコレート。
(3)HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルがポリグリセリンカプリル酸エステルである(1)又は(2)に記載の飲用チョコレート。
(4)HLB1〜5の乳化剤が、パルミチン酸、ステアリン酸、エルカ酸又はベヘン酸を構成脂肪酸とするグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より1種以上選択される(1)乃至(3)の何れかに記載の飲用チョコレート。
(5)(1)乃至(4)の何れかに記載の飲用チョコレートを含む組成物。
(6)組成物がチョコレートドリンクである(5)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明を用いることで、水系への分散性、乳化安定性に優れたチョコレートドリンクを作ることができる。従って、油脂を含み濃厚で芳醇な飲料を、市販されている粉末飲料などと同様にお湯や牛乳とカップの中に入れてスプーンで攪拌するだけで、簡単に作ることができる。また、本発明により高速ミキサーや高圧ホモゲナイザーにより機械的に混合し、分散させる製造工程を必要とせず、風味を減少させることなく、かつ簡便にチョコレートドリンクを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の飲用チョコレートは、砂糖、全粉乳等の粉体原料に溶融したカカオマスやココアバター等を加え、さらにHLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルとHLB1〜5の乳化剤を加えて混合し、油分を20〜40重量%としたものである。レファイニングやコンチング等を行っても良い。このとき、HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1重量%以上2.0重量%未満であり、HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルとHLB1〜5の乳化剤の含有量の合計が0.1重量%を越えて2.0重量%以下であることが好ましい。これより少ないと十分な効果が得られず、2.0重量%を越えると乳化剤の風味の影響が大きくなり、嗜好面で好ましくない。さらに、意外なことに粘度低下のために飲用チョコレートに通常使用されるレシチンを除いたものは、レシチンの入ったものよりも効果が大きくなる。飲用チョコレート中の油分は20〜40重量%であることが好ましく、25〜35重量%であるとさらに好ましい。20重量%未満ではチョコレートドリンクとした時の濃厚感が足りず、40重量%を越えると、乳化しにくくなる。
【0008】
本発明において、HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルは30℃で液状であるものが好ましい。本発明で液状とは、いわゆる流動性液体のみならず、粘稠液体やペースト状液体を含むものをいう。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、オレイン酸、パルミトオレイン酸、エルカ酸、カプリル酸、ラウリン酸等の脂肪酸を構成脂肪酸とするが、構成脂肪酸としてはカプリル酸が最も好ましい。また、HLB1〜5の乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられるが、パルミチン酸、ステアリン酸、エルカ酸、ベヘン酸を構成脂肪酸とするのが好ましい。いずれのポリグリセリン脂肪酸エステルも重合度が3〜12のものがよい。好ましくは5〜7の重合度がよい。
【0009】
本発明の飲用チョコレートには、ココアパウダー、ナッツペースト等の種実加工品、イチゴ、メロン、レモン、カシス等の果実粉末、人参、サツマイモ、栗等の野菜粉末、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー等の乳製品、ココアバター、ハードバター、乳脂、パーム油、サル脂等の油脂、香料、着色料、酸味料等を添加してもよい。本発明の飲用チョコレートを含む組成物としてはチョコレートドリンクが好ましいが、小児用医薬品、例えば風邪薬、胃腸薬、生ワクチンなど医薬品を含む、医薬用組成物も挙げられる。また、本発明の飲用チョコレートは、小児が医薬品を服用する際に医薬品と一緒に飲む嚥下補助食品として用いてもよい。また前記飲用チョコレートは、表面積が大きいものほど、水への分散性は向上する。すなわち、前記飲用チョコレートはうすいフレーク状や、小粒、粉状に加工したものがより好ましい。
【0010】
以下に実施例を例示して、本発明の製造方法を更に詳細に説明するが、これらは例示であって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0011】
試験例1
カカオマス42重量部、砂糖40重量部、ココアバター8重量部、全粉乳10重量部を40℃にて混合し油分26.7重量%としたものに、さらに乳化剤を下表1に示す配合で入れて混合し、実施例1〜4及び比較例1〜3の飲用チョコレートを作成した。前記の飲用チョコレート20gを90℃のお湯100mlに入れ、スプーンで20回攪拌したときの分散状態を調べた。その結果を表1に示す。表1から明らかなようにHLB12.7のポリグリセリンカプリル酸エステルとHLB1.0〜3.7の乳化剤を組み合わせると、HLB12.7のポリグリセリン脂肪酸エステル単独又はHLB9以下のポリグリセリン脂肪酸エステル同士の2種の組み合わせのものに比較して分散状態の改善が見られた。
【0012】
【表1】

【0013】
試験例2
HLB12.7のポリグリセリンカプリル酸エステルとHLB3.0のショ糖ベヘン酸エステルの配合を表2の配合割合に従って試験例1と同様の方法で混合し、実施例5〜6と比較例4〜5の飲用チョコレートを作成した。前記の飲用チョコレート20gを90℃のお湯100mlに入れてスプーンで20回攪拌した時の分散性、風味を比較した。その結果を表2に示す。表2から分かるように、HLB12.7のポリグリセリンエステルとHLB3.0のショ糖ベヘン酸エステルの合わせた量が0.1重量%を越えて、2.0重量%以下であると分散性と風味が改善される。
【0014】
【表2】

【0015】
実施例7
実施例1の飲用チョコレート100重量部に10重量部のココアバターを加えて40℃にて混合し、油分33.3重量%の飲用チョコレート生地を得た。前記生地を型に充填して冷却固化することで板状に成型し、刃で削ってフレーク状の削りチョコレートを得た。前記削りチョコレート20gを、90℃の牛乳100mlに入れてスプーンで攪拌したところ、チョコレート風味が良好で、溶け残りや油の浮きのないチョコレートドリンクが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1重量%以上2.0重量%未満であり、かつHLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルとHLB1〜5の乳化剤の含有量の合計が0.1重量%を越えて2.0重量%以下である飲用チョコレート。
【請求項2】
HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルが30℃で液状である請求項1に記載の飲用チョコレート。
【請求項3】
HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルがポリグリセリンカプリル酸エステルである請求項1又は2に記載の飲用チョコレート。
【請求項4】
HLB1〜5の乳化剤が、パルミチン酸、ステアリン酸、エルカ酸又はベヘン酸を構成脂肪酸とするグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びショ糖脂肪酸エステルからなる群より1種以上選択される請求項1乃至3の何れか1項記載の飲用チョコレート。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項記載の飲用チョコレートを含む組成物。
【請求項6】
組成物がチョコレートドリンクである請求項5に記載の組成物。



















【公開番号】特開2007−20438(P2007−20438A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205015(P2005−205015)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】