説明

飲酒操作防止装置及び飲酒操作防止方法

【課題】 運転者等の被検者の負担感が少なく、なりすましを有効に防止して、飲酒による事故を防止できる飲酒操作防止装置を提供する。
【解決手段】 被検者の眼の生体情報を被認証情報として取得する生体情報取得部20と、生体情報取得部20の動作と連動して、被検者の眼からの蒸発気体を用いて被検者の酩酊情報を測定する酩酊度測定部20と、操作対象に対して操作可能な特定操作者の生体情報として予め登録された登録生体情報及び酩酊度基準値を記憶する情報記憶部42と、登録生体情報と被認証情報とを比較し、被検者が特定操作者であるか否かを判定する認証部41aと、酩酊度基準値と酩酊情報とを比較し、被検者が飲酒状態であるか否かを判定する酩酊判定部41bと、認証部41a及び酩酊判定部41bの判定結果に基づいて、被検者の操作対象に対する操作の可否を判定する操作判定部41cとを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲酒運転等の飲酒状態での操作を防止する技術に関し、特に生体認証技術と血中アルコール濃度等の酩酊情報を測定する技術とを用いた飲酒操作防止装置及び飲酒操作防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車による交通事故は大きな社会問題であり、とりわけ飲酒運転による事故は、運転者本人はもとより、多くの他者の生命を奪う可能性が大きい、恐るべき凶器による事故といえる。道路交通法の改正(平成14年6月1日施行)により飲酒運転等の悪質・危険運転をした者への罰則が強化された。特に、酒気帯び運転については罪刑が引き上げられる共に、呼気中のアルコール濃度基準値が従来「0.25mg/L」であったものを、「0.15mg/L」に引き下げ、刑罰の威嚇効果によって、かかる事態の発生を事前抑制すべく対策を講じているところである。
【0003】
しかしながら、そのような刑罰の威嚇効果のみでは、飲酒運転による事故は一向に治まらないのが現状であり、自動車自体の運転を物理的に不可能とするような対策が一層望まれている。
このような対策として、運転者の呼気中に含まれるアルコール濃度を検出して飲酒運転の防止を物理的に図るアルコール成分検出装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、このようなアルコール成分検出装置では、呼気採取のために運転者がマウスピースを口にくわえる必要があるので、心理的にも衛生的にも問題があった。なお、毎回マウスピースを消毒したり交換したりすることも考えられるが、手間がかかって繁雑である。
さらに、呼気を吹き込むという行為は身体的な負荷があることから、運転者に疎まれ、特に咳や喘息等の呼吸器疾患を持つ運転者にとっては顕著な問題となる。また、呼気には、エタノールのように血液に由来し肺胞で気相へ移行する成分の他、口腔や消化器系等に由来する成分も含め、数百種類の物質が含まれるといわれ、エタノールとそれ以外の成分とを分別して定量するためには電気化学式センサ等を必要とし、高価にならざるを得ない問題があった。
【0005】
そして、このようなアルコール成分検出装置では、運転者以外の第三者が運転者になりすまして、アルコール成分検出装置の被検者となった場合は、酩酊した運転者の運転を禁止することができないという問題もある。ここで、「なりすまし」とは、システムのアクセス制御機構を悪用し、権限のない第三者が目的のアクセス制御を得るため、システムの正規な利用者に「なりすます」行為である。
【0006】
そこで、生体情報の認証によるなりすまし行為の防止と、飲酒による酩酊状態の情報取得とを一括して行う飲酒操作防止装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
このような飲酒操作防止装置では、例えば、被認証情報が取得される生体の部位と酩酊情報が測定される生体の部位がどちらも指先であり、同一であるので、なりすましを有効に排除できる。また、マウスピースを用いないので、心理的にも衛生的にも問題がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−172953号公報
【特許文献2】特開2009−153597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような飲酒操作防止装置では、指の皮膚を介して間質液由来のガスを採取する方法が記載されているが、皮膚には体内の水分の蒸散を防ぐ角質層が存在するため、採取効率が低くならざるを得ないという問題があった。
なお、皮膚の角質層を物理的なテープストリッピングや薬品等により除去することは可能ではあるが、自動車運転等の日常的な操作のたびに角質層を除去するというのは受容性の面で現実的ではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するべく本発明者らは、運転者等の被検者の負担感が少なく、なりすましを有効に防止して、飲酒による事故を防止できる方法について検討した。
人体のうち角質層が存在しない部位の一つとして、眼がある。人間の眼は常に体液(涙液)によって潤されており、その一部は常に蒸発している。また、涙液は98%が水であり、消化器系とも隔離されているため呼気に比べて不純物の量及び種類が少なく、半導体センサ等の安価な手段により測定が可能である。
なお、コンタクトレンズ使用者についても、コンタクトレンズの表面は、眼球と同様に涙液で覆われているため、蒸発が妨げられることはない。
【0010】
一方、生体認証に眼を用いる方法は既に知られており、例えば、虹彩パターンを用いる方法や、網膜の血管パターンを用いる方法等がある。そして、印刷された虹彩パターンを用いたなりすましについて、刺激に対する生体反応をチェックする方法や、光源の反射像をみる方法等の様々な防御方法も開示されている。さらに、虹彩パターンを用いる方法は、コンタクトレンズ使用者でも認証可能である。
そこで、被検者の眼からの蒸発気体を用いて被検者の酩酊情報を測定すると共に、被検者の眼の生体情報を被認証情報として取得することを見出した。なお、眼からの蒸発気体の採取には、眼の周囲をケース等に接触させる必要があるが、呼気の採取に用いられるマウスピースと比較して心理的にも衛生的にも問題は小さい。
【0011】
すなわち、本発明の飲酒操作防止装置は、被検者の眼の生体情報を被認証情報として取得する生体情報取得部と、前記生体情報取得部の動作と連動して、前記被検者の眼からの蒸発気体を用いて前記被検者の酩酊情報を測定する酩酊度測定部と、操作対象に対して操作可能な特定操作者の生体情報として予め登録された登録生体情報及び酩酊度基準値を記憶する情報記憶部と、前記登録生体情報と前記被認証情報とを比較し、前記被検者が特定操作者であるか否かを判定する認証部と、前記酩酊度基準値と前記酩酊情報とを比較し、前記被検者が飲酒状態であるか否かを判定する酩酊判定部と、前記認証部及び前記酩酊判定部の判定結果に基づいて、前記被検者の前記操作対象に対する操作の可否を判定する操作判定部とを備えるようにしている。
【0012】
ここで、「生体情報取得部の動作と連動して」とは、生体情報取得部の動作と酩酊度測定部の動作とのタイミングが特定の時刻で同期していればよく、生体情報取得部の動作か酩酊度測定部の動作のいずれか一方が速く開始してもよく、生体情報取得部の動作か酩酊度測定部の動作のいずれか一方が遅く終了してもよい。また、生体情報取得部の動作期間と酩酊度測定部の動作期間との時間的な長さは同一である必要もない。
また、「生体情報」とは、全ての人が持つ特徴であり、同じ特徴を持つ他人がいなく、時間によって特徴が変化しないもの等が挙げられ、虹彩、網膜等がある。
さらに、「酩酊情報」とは、単位体積の血液中に含まれるアルコール量を「%」で表した血中アルコール濃度である。そして、「酩酊度基準値」とは、操作対象(自動車)の操作が可能な酩酊情報(血中アルコール濃度)の上限の閾値である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の飲酒操作防止装置によれば、眼からの蒸発気体による血中アルコール濃度の測定を行う機能と、眼を用いて生体認証を行う機能とを組み合わせることにより、被検者の負担感が少なく、なりすましを有効に防止して、飲酒による事故を防止できる。
【0014】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
また、本発明の飲酒操作防止装置は、前記操作判定部からの信号に基づいて前記操作対象の始動を制御する操作対象制御部を備えるようにしてもよい。
【0015】
また、本発明の飲酒操作防止装置は、前記生体情報取得部及び前記酩酊度測定部が、筒形状の側壁と、当該側壁の下部を塞ぐように形成された底面部とを有するケースを備え、前記ケースには、アルコール濃度を検知するエタノールセンサと、ヒータと、温度センサとが配置されているようにしてもよい。
本発明の飲酒操作防止装置によれば、側壁と底面部と被検者の眼とで形成された空間が涙液の温度よりも低い場合、水やエタノールが凝結すると正しい測定が行えないが、ヒータで空間を加熱して温度調整することができる。
【0016】
また、本発明の飲酒操作防止装置は、前記ケースには、撮像装置が配置され、前記酩酊判定部は、前記被検者にまばたきを促し、前記被検者のまばたきの回数を前記撮像装置で測定した後、前記エタノールセンサに酩酊情報としてアルコール濃度を測定させるようにしてもよい。
ここで、眼球表面において、空気に触れている涙液の量は約2μLである。この涙液に含まれるエタノール量は、ケースの容積(例えば、約10mL)を飽和蒸気圧に到達させるために充分なものではない。結膜襄(まぶたの内側)には、約7μLの涙液が滞留しており、まばたきの都度、眼球表面の涙液が結膜襄にある涙液と混合されると共に、約0.4μLずつ新しい涙液が供給され、余剰分が排出される。この作用を利用し、測定中に被検者に10回程度のまばたきを促し、眼球表面に露出している涙液の更新を行うことで、ケースの容積内のエタノールを飽和蒸気圧まで到達させることができる。このとき、被検者がまばたきを何回行ったかは、撮像装置により動画撮影し、それを処理することにより検出可能である。
【0017】
また、本発明の飲酒操作防止装置は、前記生体情報取得部及び前記酩酊度測定部は、筒形状の側壁と、当該側壁の下部を塞ぐように形成された底面部とを有するケースを備え、前記ケースには、ポンプが接続された第一開口と、アルコール濃度を検知するエタノールセンサが接続された第二開口とが形成されており、前記ポンプは、前記第一開口から第二開口に向かって気体を流通させるようにしてもよい。
本発明の飲酒操作防止装置によれば、短い時間で測定を行うことができる。また、ケース内が微陽圧となるため、側壁の上部と眼の周囲との接触が不充分であったときにも、周辺空気が混入することがない。
【0018】
また、本発明の飲酒操作防止装置は、前記生体情報取得部及び前記酩酊度測定部は、筒形状の側壁と、当該側壁の下部を塞ぐように形成された底面部とを有するケースを備え、前記ケースには、第一開口と、ポンプとアルコール濃度を検知するエタノールセンサとが接続された第二開口とが形成されており、前記ポンプは、前記第一開口から第二開口に向かって気体を流通させるようにしてもよい。
本発明の飲酒操作防止装置によれば、短い時間で測定を行うことができる。また、ケース内が微負圧となるため、吸着により側壁の上部と眼の周囲との接触を強めることができる。
【0019】
そして、本発明の飲酒操作防止方法は、操作対象に対して操作可能な特定操作者の生体情報として登録生体情報及び酩酊度基準値を記憶させる情報記憶ステップと、被検者の眼の生体情報を被認証情報として取得する生体情報取得ステップと、前記被認証情報の取得のタイミングと連動して、前記被検者の眼からの蒸発気体を用いて前記被検者の酩酊情報を測定する酩酊度測定ステップと、前記登録生体情報と前記被認証情報とを比較し、前記被検者が特定操作者であるか否かを判定する認証ステップと、前記酩酊度基準値と前記酩酊情報とを比較し、前記被検者が飲酒状態であるか否かを判定する酩酊判定ステップと、前記認証ステップ及び前記酩酊判定ステップの判定結果に基づいて、前記被検者の前記操作対象に対する操作の可否を判定する操作判定ステップとを含むようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る自動車の構成を示す図。
【図2】本発明の一実施形態である飲酒操作防止装置の構成を示すブロック図。
【図3】飲酒操作防止方法の一例について説明するためのフローチャート。
【図4】接眼ユニットの構成を示す図。
【図5】接眼ユニットの構成を示す図。
【図6a】飲酒操作防止方法の他の一例について説明するためのフローチャート。
【図6b】飲酒操作防止方法の他の一例について説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0022】
図1は、本発明に係る自動車の構成を示す図である。また、図2は、本発明の一実施形態である飲酒操作防止装置の構成を示すブロック図である。なお、本実施形態における「特定操作者」は、自動車を運転する運転者である。
自動車1は、運転者Pが着席するための運転席3と、エンジン等の駆動部2と、飲酒操作防止装置10とを備える。
【0023】
飲酒操作防止装置10は、接眼ユニット(生体情報取得部)20と、コンピュータ40と、接眼ユニット20とコンピュータ40とを接続する接続部30とを備える。
接眼ユニット20は、円筒形状の側壁21aと、側壁21aの下部を塞ぐように形成された底面部21bとを有するケース21を備える。そして、側壁21aの上部には、円環形状のゴムパッド22が形成されている。よって、図1に示すように、運転者Pの眼Eの周囲にゴムパッド22が押し当てられることにより、側壁21aと底面部21bと運転者Pの眼Eとで気密な空間(例えば、約10mL)が形成されるようになっている。
【0024】
また、底面部21bには、エタノール濃度を検知するエタノールセンサ23と、撮像装置24と、赤外線を出射する照明25と、ケース21の内部を加熱するヒータ26と、ケース21の内部の温度を検知する温度センサ27とが配置されている。
エタノールセンサ23は、運転者Pの眼Eからの蒸発気体を用いて運転者Pのアルコール濃度(酩酊情報)を測定する。このようなエタノールセンサ23としては、エタノールの吸着による電気伝導度の変化を検知する半導体式のものや、電気化学反応による起電力変化を利用する電気化学方式のもの等が挙げられる。
【0025】
ヒータ26は、側壁21aと底面部21bと運転者Pの眼Eとで形成された空間を加熱して温度調整する。温度は、例えば、42℃程度まで上昇させればよい。
撮像装置24は、運転者Pの眼Eの虹彩パターン(生体情報)を被認証情報として取得する。また、運転者Pの眼Eの像を取得して、運転者Pがまばたきを何回行ったかも撮影する。このような撮像装置24としては、例えばCCDカメラ等が使用可能である。
【0026】
コンピュータ40は、CPU(制御部)41やメモリ(情報記憶部)42を備え、さらに入力装置44と、表示装置43とが連結されている。CPU41が処理する機能をブロック化して説明すると、運転者Pが特定操作者であるか否かを判定する認証部41aと、運転者Pが飲酒状態であるか否かを判定する酩酊判定部41bと、運転者Pの駆動部2に対する操作の可否を判定する操作判定部41cと、駆動部2の始動を制御する操作対象制御部41dとを有する。
また、メモリ42は、操作対象に対して操作可能な特定操作者の眼の虹彩パターン(生体情報)として登録生体情報を記憶する登録生体情報記憶領域42aと、酩酊度基準値を記憶する酩酊度基準値記憶領域42bとを有する。なお、特定操作者(運転者)としての登録は複数可能であり、操作対象(自動車)の所有者以外も運転(操作)できるよう利便性を向上させることも可能である。
【0027】
認証部41aは、登録生体情報記憶領域42aに予め記憶されている特定操作者の眼の虹彩パターンと、照明25で眼Eに光を照射しながら撮像装置24が被認証情報として取得した運転者Pの眼Eの虹彩パターンとを比較して、運転者Pが特定操作者であるか否かを判定する制御を行う。具体的には、比較した2つの眼の虹彩パターンが一致すれば運転者Pを登録された特定操作者として特定し、異なれば自動車1の操作資格がない運転者Pとして特定する。
【0028】
酩酊判定部41bは、酩酊度基準値記憶領域42bに予め記憶されている酩酊度基準値と、ヒータ26と温度センサ27とを用いて空間を42℃にしながらエタノールセンサ23が取得したエタノール濃度(酩酊情報)とを比較して、運転者Pが飲酒状態であるか否かを判定する制御を行う。具体的には、エタノール濃度の測定結果が、酩酊度基準値内に収まっていれば、飲酒状態でないと判定し、エタノール濃度の測定結果が酩酊度基準値を越えている場合には、飲酒状態であると判定する。このとき、運転者Pに表示装置43を用いてまばたきを促し、運転者Pのまばたきの回数を撮像装置24で観察した後、エタノールセンサ23にエタノール濃度を測定させる。
【0029】
操作判定部41cは、認証部41a及び酩酊判定部41bの判定結果に基づいて、運転者Pの駆動部2に対する操作の可否を判定する制御を行う。具体的には、特定操作者でありかつ飲酒状態でなければ、操作(運転)が可能と判定し、特定操作者でなかったり、飲酒状態であったりすれば、操作(運転)できないと判定する。そして、操作判定部41cは、操作(運転)が可能と判定したときには、操作可能信号を操作対象制御部41dに出力する。つまり、操作対象制御部41dは、操作可能信号が入力されないと、駆動部2を始動しない。
【0030】
次に、飲酒操作防止方法について説明する。図3は、飲酒操作防止方法の一例について説明するためのフローチャートである。本フローチャートは、運転者Pが、接眼ユニット20のゴムパッド22を左眼(若しくは右眼)Eの周囲に押し当てた後、入力装置44のスイッチ等を入れることにより呼び出されるものである。
まず、ステップS101の処理において、酩酊判定部41bは、ヒータ26と温度センサ27とを用いて空間を42℃にすると、表示装置43等を用いて運転者Pに10回以上のまばたきを促す。
次に、ステップS102の処理において、酩酊判定部41bは、撮像装置24から被認証情報を取得して、まばたきの回数を測定する。
【0031】
次に、ステップS103の処理において、酩酊判定部41bは、まばたきの回数が所定の回数(10回)を超えたか否かを判定する。所定の回数を超えていなければ、ステップS102の処理に戻る。
一方、所定の回数を超えていれば、ステップS104の処理において、酩酊判定部41bは、エタノールセンサ23からエタノール濃度を取得する。
次に、ステップS105の処理において、酩酊判定部41bは、エタノール濃度が酩酊度基準値(閾値)以下であるか否かを判定する。閾値を越えていれば、飲酒状態であると判定して、操作可能としない。一方、閾値以下であれば、ステップS108の処理に進む。
【0032】
一方、ステップS101〜S105の処理を実行している最中に、ステップS106の処理において、認証部41aは、撮像装置24から被認証情報(虹彩パターン)を取得する。
次に、ステップS107の処理において、認証部41aは、運転者Pが特定操作者であるか否かを判定する。特定操作者でないと判定すれば、操作可能としない。一方、特定操作者であると判定すれば、ステップS108の処理に進む。
【0033】
次に、ステップS108の処理において、操作判定部41cは、認証部41a及び酩酊判定部41bの判定結果に基づいて、運転者Pの駆動部2に対する操作の可否を判定する。飲酒状態でなく特定操作者であると判定すれば、操作可能とする。一方、それ以外は、操作可能としない。
【0034】
以上のように、本発明の飲酒操作防止装置10によれば、眼Eからの蒸発気体による血中アルコール濃度の測定を行う機能と、眼Eを用いて生体認証を行う機能とを組み合わせることにより、運転者Pの負担感が少なく、なりすましを有効に防止して、飲酒による事故を防止できる。
【0035】
<他の実施形態>
(1)上述した飲酒操作防止装置10において、接眼ユニット20を用いるような構成を示したが、接眼ユニット120を用いるような構成としてもよい。図4は、接眼ユニット120の構成を示す図である。なお、接眼ユニット20と同様のものについては、同じ符号を付している。
接眼ユニット120は、円筒形状の側壁121aと、側壁121aの下部を塞ぐように形成された底面部121bとを有するケース121を備える。そして、側壁121aには、第一開口121cと第二開口121dとが形成されている。
【0036】
底面部121bには、撮像装置24と、赤外線を出射する照明25とが配置されている。
第一開口121cと接続された流路には、ポンプ128と、揮発性有機化合物(VOC)を取り除く活性炭フィルタ129とが設けられている。また、第二開口121dと接続された流路には、気体中のエタノール濃度を検知するエタノールセンサ123が設けられている。
【0037】
このような接眼ユニット120によれば、ポンプ128は、第一開口121cから第二開口121dに向かって気体を流通させることができる。よって、第一開口121cから第二開口121dに向かって気体を流通させた際に、眼Eから分泌された涙液が気化した蒸発気体が、気体と共に第二開口121dに導入される。流通速度は、測定時間内にケース及び配管の容積を充分置換可能な程度、例えば100mL/min程度にすればよい。
なお、第二開口121dと接続された流路には、所定流量のガスを流すための流量センサが設けられてもよい。これにより、流量センサの検知流量が所定流量よりも小さい場合、漏れがあるとして注意を促したり、必要に応じて再測定を行ったりする等の判定を行うことができ、測定の安定化に寄与することができる。
以上のように、このような飲酒操作防止装置によれば、運転者Pにまばたきを促すこともなく短い時間で測定を行うことができる。また、ケース121内が微陽圧となるため、側壁121aの上部と眼Eの周囲との接触が不充分であったときにも、周辺空気が混入することがない。
【0038】
(2)上述した飲酒操作防止装置10において、接眼ユニット120を用いるような構成を示したが、接眼ユニット220を用いるような構成としてもよい。図5は、接眼ユニット220の構成を示す図である。なお、接眼ユニット120と同様のものについては、同じ符号を付している。
接眼ユニット220は、円筒形状の側壁121aと、側壁121aの下部を塞ぐように形成された底面部121bとを有するケース121を備える。そして、側壁121aには、第一開口121cと第二開口121dとが形成されている。
【0039】
第一開口121cと接続された流路には、揮発性有機化合物(VOC)を取り除く活性炭フィルタ229と、所定流量のガスを流すための流量センサ230とが設けられている。また、第二開口121dと接続された流路には、ポンプ228と、気体中のエタノール濃度を検知するエタノールセンサ223とが設けられている。
【0040】
このような接眼ユニット220によれば、ポンプ228は、第一開口121cから第二開口121dに向かって気体を流通させることができる。よって、第一開口121cから第二開口121dに向かって気体を流通させた際に、眼Eから分泌された涙液が気化した蒸発気体が、気体と共に第二開口121dに導入される。流通速度は、例えば、100mL/min程度にすればよい。
以上のように、このような飲酒操作防止装置によれば、運転者Pにまばたきを促すこともなく短い時間で測定を行うことができる。また、ケース121内が微負圧となるため、吸着により側壁121aの上部と眼Eの周囲との接触を強めることができる。
【0041】
(3)上述した飲酒操作防止装置10において、図3に示す飲酒操作防止方法を用いるような構成を示したが、図6に示す飲酒操作防止方法を用いるような構成としてもよい。図6は、飲酒操作防止方法の他の一例について説明するためのフローチャートである。なお、図3に示す飲酒操作防止方法と同様のものについては、説明を省略する。
ステップS201〜S204の処理は、上述したステップS101〜104の処理と同様であるので、説明を省略する。
【0042】
ステップS205の処理において、酩酊判定部41bは、ヒータ26と温度センサ27とを用いて空間を42℃にすると、表示装置43等を用いて運転者Pに10回以上のまばたきを促す。
次に、ステップS206の処理において、酩酊判定部41bは、撮像装置24から被認証情報を取得して、まばたきの回数を測定する。
【0043】
次に、ステップS207の処理において、酩酊判定部41bは、まばたきの回数が所定の回数(10回)を超えたか否かを判定する。所定の回数を超えていなければ、ステップS206の処理に戻る。
一方、所定の回数を超えていれば、ステップS208の処理において、酩酊判定部41bは、エタノールセンサ23からエタノール濃度を取得する。
次に、ステップS209の処理において、酩酊判定部41bは、エタノール濃度が先程のエタノール濃度と比較してどのように変化したかを判定する。エタノール濃度が増加していれば、ステップS205の処理に戻る。すなわち、運転者Pが眼Eを水等で洗浄した可能性があるため、再測定を行う。また、エタノール濃度が減少していれば、ステップS210の処理に進む。
【0044】
次に、ステップS210の処理において、酩酊判定部41bは、エタノール濃度が酩酊度基準値(閾値)以下であるか否かを判定する。閾値を越えていれば、ステップS205の処理に戻る。すなわち、運転者Pがエタノールを含有する点眼薬を使用した可能性があるため、再測定を行う。一方、閾値以下であれば、ステップS214の処理に進む。
また、ステップS209の処理において、エタノール濃度が変化していないのであれば、ステップS211の処理に進む。
なお、ステップS211〜S214の処理は、上述したステップS105〜108の処理と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
以上のように、このような飲酒操作防止装置によれば、エタノールを含有する点眼薬を使用した運転者Pや、眼Eを水等で洗浄した運転者Pであっても、正確に飲酒状態であるか否かを判定することができる。
【0046】
(4)なお、本発明は、飲酒による事故は自動車に限られず、船舶や航空機でも同様であり、さらに工作機械、建築機械、産業機械、製造装置、鉄鋼精錬炉、原子炉等の高温、高圧、高エネルギーを伴う種々の機械装置や設備等に使用することができる。
(5)また、コンピュータ40は、独立した存在である必要はなく、コンソールパネル等と一体化してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、生体認証技術と血中アルコール濃度等の酩酊情報を測定する技術とを用いた飲酒操作防止装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
20: 接眼ユニット(生体情報取得部及び酩酊度測定部)
41a: 認証部
41b: 酩酊判定部
41c: 操作判定部
42: メモリ(情報記憶部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の眼の生体情報を被認証情報として取得する生体情報取得部と、
前記生体情報取得部の動作と連動して、前記被検者の眼からの蒸発気体を用いて前記被検者の酩酊情報を測定する酩酊度測定部と、
操作対象に対して操作可能な特定操作者の生体情報として予め登録された登録生体情報及び酩酊度基準値を記憶する情報記憶部と、
前記登録生体情報と前記被認証情報とを比較し、前記被検者が特定操作者であるか否かを判定する認証部と、
前記酩酊度基準値と前記酩酊情報とを比較し、前記被検者が飲酒状態であるか否かを判定する酩酊判定部と、
前記認証部及び前記酩酊判定部の判定結果に基づいて、前記被検者の前記操作対象に対する操作の可否を判定する操作判定部とを備えることを特徴とする飲酒操作防止装置。
【請求項2】
前記操作判定部からの信号に基づいて前記操作対象の始動を制御する操作対象制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の飲酒操作防止装置。
【請求項3】
前記生体情報取得部及び前記酩酊度測定部は、筒形状の側壁と、当該側壁の下部を塞ぐように形成された底面部とを有するケースを備え、
前記ケースには、アルコール濃度を検知するエタノールセンサと、ヒータと、温度センサとが配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の飲酒操作防止装置。
【請求項4】
前記ケースには、撮像装置が配置され、
前記酩酊判定部は、前記被検者にまばたきを促し、前記被検者のまばたきの回数を前記撮像装置で測定した後、前記エタノールセンサに酩酊情報としてアルコール濃度を測定させることを特徴とする請求項3に記載の飲酒操作防止装置。
【請求項5】
前記生体情報取得部及び前記酩酊度測定部は、筒形状の側壁と、当該側壁の下部を塞ぐように形成された底面部とを有するケースを備え、
前記ケースには、ポンプが接続された第一開口と、アルコール濃度を検知するエタノールセンサが接続された第二開口とが形成されており、
前記ポンプは、前記第一開口から第二開口に向かって気体を流通させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の飲酒操作防止装置。
【請求項6】
前記生体情報取得部及び前記酩酊度測定部は、筒形状の側壁と、当該側壁の下部を塞ぐように形成された底面部とを有するケースを備え、
前記ケースには、第一開口と、ポンプとアルコール濃度を検知するエタノールセンサとが接続された第二開口とが形成されており、
前記ポンプは、前記第一開口から第二開口に向かって気体を流通させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の飲酒操作防止装置。
【請求項7】
操作対象に対して操作可能な特定操作者の生体情報として登録生体情報及び酩酊度基準値を記憶させる情報記憶ステップと、
被検者の眼の生体情報を被認証情報として取得する生体情報取得ステップと、
前記被認証情報の取得のタイミングと連動して、前記被検者の眼からの蒸発気体を用いて前記被検者の酩酊情報を測定する酩酊度測定ステップと、
前記登録生体情報と前記被認証情報とを比較し、前記被検者が特定操作者であるか否かを判定する認証ステップと、
前記酩酊度基準値と前記酩酊情報とを比較し、前記被検者が飲酒状態であるか否かを判定する酩酊判定ステップと、
前記認証ステップ及び前記酩酊判定ステップの判定結果に基づいて、前記被検者の前記操作対象に対する操作の可否を判定する操作判定ステップとを含むことを特徴とする飲酒操作防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2012−170735(P2012−170735A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37175(P2011−37175)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】