説明

飲酒状態判定装置、及び飲酒運転防止装置

【課題】いずれかの乗員が飲酒状態であるか否かを適切に判定することが可能な飲酒状態判定装置等を提供すること。
【解決手段】車室内の複数の箇所に配設され、それぞれ車室内の空気中に含まれる人の飲酒状態を示す指標成分濃度を検出する複数の指標成分濃度検出手段(20)と、車室内乗員の着座状態を検知する着座状態検知手段(30)と、前記指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度に基づいて、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを判定する判定手段(40)と、を備える飲酒状態判定装置(10)であって、前記判定手段は、前記着座状態検知手段により運転者以外の乗員が検知されている場合には、前記複数の指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度の差分に基づいて、各指標成分濃度検出手段の検出値に対する判定閾値を変更することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の空気中に含まれる特定の成分を検出することによりいずれかの乗員が飲酒状態であるか否かを判定する飲酒状態判定装置、及びこれを利用した飲酒運転防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全運転の観点から、運転者が飲酒状態であるか否かを判定し、飲酒状態でないと判定された場合にのみ車両の走行を許可するような飲酒運転防止装置についての研究が進められている。
【0003】
運転者が飲酒状態であるか否かを判定する手法としては、例えば、呼気吹き込み口を備えた検査装置を運転席付近に配設して、車両の発進時などに運転者に呼気を吹き込ませ、呼気中に含まれるアルコールやアセトアルデヒド等の指標成分の濃度を判定閾値と比較して判定を行なうことが考えられる。
【0004】
ところが、上記の如き手法では、車両の走行中に判定を行なうのが困難であることや、運転者が自ら行動を起こさなければならないことの煩わしさ、等の問題点が存在する。また、運転者が飲酒直後に乗車した場合、乗車時の運転者の呼気にはそれほどアルコール等が含まれず、時間の経過と共にアルコール等の濃度が上昇して判定閾値に至る結果、発進時の検査では飲酒状態でないと判定されてしまう場合も生じる。
【0005】
従って、発進時のみならず、走行中においても継続して(間欠的であってもよい)運転者が飲酒状態であるか否かの判定を行なうのが好ましい。そのためには、車室内の空気中に含まれるアルコールやアセトアルデヒド等の指標成分の濃度を検出することが考えられる。こうした手法により運転者が飲酒状態であるか否かの判定を行なうことについての技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この文献には、運転室内の空気のアルコール反応を常時、呼気ファンにより強制的に吸入し、電子式アルコールセンサーを用いてアルコール反応の有無を検出し、これにより疑わしいデータを得た場合に、運転者に呼気マウスに息を吹きかけるように促す制御手法が記載されている。
【特許文献1】特開2005−224559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、運転者以外の乗員が飲酒状態である場合にも、運転者が飲酒状態であると誤判定する場合がある。また、運転者以外の乗員が飲酒状態であるか否かを積極的に判断しようとするものでもない。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを適切に判定することが可能な飲酒状態判定装置、及びこれを利用して飲酒運転を適切に防止することが可能な飲酒運転防止装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第一の態様は、
車室内の複数の箇所に配設され、車室内の空気中に含まれる人の飲酒状態を示す指標成分濃度をそれぞれ検出する複数の指標成分濃度検出手段と、
車室内乗員の着座状態を検知する着座状態検知手段と、
前記指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度に基づいて、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを判定する判定手段と、
を備える飲酒状態判定装置であって、
前記判定手段は、前記複数の指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度の差分に基づいて、各指標成分濃度検出手段の検出値に対する判定閾値を変更することを特徴とする、
飲酒状態判定装置である。
【0009】
この本発明の第一の態様によれば、運転者以外の乗員が検知されている場合に、複数の指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度の差分に基づいて各指標成分濃度検出手段の検出値に対する判定閾値を変更するため、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを適切に判定することができる。
【0010】
なお、複数の指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度の差分に基づいて、各指標成分濃度検出手段の検出値に対する判定閾値を変更するのは、例えば、着座状態検知手段により運転者以外の乗員が検知されている場合である。
【0011】
本発明の第一の態様において、
前記判定手段は、各座席付近に配設された指標成分濃度検出手段の検出値をそれぞれ判定閾値と比較することにより、前記着座状態検知手段により着座していることが検知されている各乗員が、飲酒状態であるか否かを判定する手段であるものとしてもよい。
【0012】
また、本発明の第一の態様において、
前記判定手段は、
複数の指標成分濃度検出手段のうち、他の指標成分濃度検出手段の検出値よりも検出値が所定程度以上高い指標成分濃度検出手段の検出値について、
他の指標成分濃度検出手段の検出値と比較して検出値が高くなるのに応じて判定閾値が低くなるように、判定閾値を変更する手段であるものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の第一の態様において、
前記判定手段は、
複数の指標成分濃度検出手段のうち、他の指標成分濃度検出手段の検出値よりも検出値が所定程度以上低い指標成分濃度検出手段の検出値について、
他の指標成分濃度検出手段の検出値と比較して検出値が低くなるのに応じて判定閾値が高くなるように、判定閾値を変更する手段であるものとしてもよい。
【0014】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の飲酒状態判定装置と、この飲酒状態判定装置により運転者が飲酒状態であると判定された場合に運転を抑制する運転抑制手段と、を備える飲酒運転防止装置である。
【0015】
本発明の第二の態様によれば、本発明の第一の態様の飲酒状態判定装置を利用しているため、飲酒運転を適切に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを適切に判定することが可能な飲酒状態判定装置、及びこれを利用して飲酒運転を適切に防止することが可能な飲酒運転防止装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の一実施例に係る飲酒状態判定装置10及びこれを利用した飲酒運転防止装置1について説明する。
【0019】
[構成]
図1は、飲酒状態判定装置10及びこれを含む飲酒運転防止装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。飲酒状態判定装置10は、主要な構成として、指標成分濃度検出用センサー群20と、乗員検知用装置30と、飲酒状態判定用ECU(Electronic Control Unit)40と、を備える。飲酒運転防止装置1は、飲酒状態判定装置10と、飲酒運転抑制制御用ECU50と、を備える。なお、飲酒状態判定装置10と飲酒運転抑制制御用ECU50を、便宜上別体として表現したが、統合されたハードウエア上で各機能が実現されるものであっても構わない。
【0020】
指標成分濃度検出用センサー群20は、例えば、車室内の複数の箇所に配設された複数の子指標成分濃度検出用センサー22A、22B、24A、24B、26A、26B、28A、28Bを含んで構成される。各子指標成分濃度検出用センサーは、その配設位置付近の車室内空気について、例えばアルコールやアセトアルデヒド等、飲酒状態にある人の呼気(又は汗等)に含まれ、車室内の空気に含まれることとなる指標成分の濃度を検出する。各子指標成分濃度検出用センサーの出力値は、飲酒状態判定装置10に入力される。
【0021】
図2は、各子指標成分濃度検出用センサーの配設位置の一例を示す図である。子指標成分濃度検出用センサー22Aは運転席ヘッドレストに、子指標成分濃度検出用センサー22Bは運転席シート座面(股下;以下同じ)に、子指標成分濃度検出用センサー24Aは助手席ヘッドレストに、子指標成分濃度検出用センサー24Bは助手席シート座面に、子指標成分濃度検出用センサー26Aは後部右側座席ヘッドレストに、子指標成分濃度検出用センサー26Bは後部右側座席シート座面に、子指標成分濃度検出用センサー28Aは後部左側座席ヘッドレストに、子指標成分濃度検出用センサー28Bは後部左側座席シート座面に、それぞれ配設される。なお、各センサーの全部がこれらの位置に現実に配置されている必要はなく、例えば、空気吸い込み口が図2で例示した如き各位置に配設されて、負圧によって各位置付近の空気を吸い込み、一箇所に集積されたセンサー本体部に通気管を通して各位置の空気が流入するような構成であっても構わない。また、配設位置自体も、あくまで好適な一例であり、シートバックやセンターコンソール、インストルメントパネル付近等、適宜変更することが可能である。
【0022】
乗員検知用装置30は、各座席に人が着座しているか否かを検知するための装置である。乗員検知用装置30の具体的態様に特段の制限はなく、例えば、車室内カメラ(赤外線カメラを含む)による人物認識、着座センサー(圧力センサー)、シート座面に配設された温度センサー、シートベルトバックルスイッチ等を用いてそれぞれの座席に人が着座しているか否かを検知する。乗員検知用装置30の検知結果は、飲酒状態判定装置10に入力される。なお、係る検知の判断主体は飲酒状態判定用ECU40であってもよい。
【0023】
飲酒状態判定用ECU40は、例えば、CPUを中心としてROMやRAM等がバスを介して相互に接続されたコンピューターユニットであり、その他、HDD(Hard Disc Drive)やDVD(Digital Versatile Disk)等の記憶媒体やI/Oポート、タイマー、カウンター等を備える。ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。飲酒状態判定用ECU40は、各子指標成分濃度検出用センサーの検出値、及び乗員検知用装置30の判断結果に基づいて、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを判定する。本実施例においては、各子指標成分濃度検出用センサーの検出値をそれぞれ判定閾値と比較することにより、乗員検知用装置30により着座していることが検知されている各乗員が飲酒状態であるか否かを判定する。飲酒状態判定用ECU40には、車速信号等、車両の状態を把握可能な信号が入力されてよい。
【0024】
[判定処理]
図3は、飲酒状態判定用ECU40により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、例えば、所定時間(例えば、数[min]〜数十[min]程度)毎に繰り返し実行される。
【0025】
まず、飲酒状態判定用ECU40は、乗員検知用装置30の検知結果を参照し、運転席にのみ乗員が着座しているか否かを判定する(S100)。運転席にのみ乗員が着座している、すなわち運転者が一人で運転していると判定された場合は、運転席付近に配設された子指標成分濃度検出用センサー22A、22Bのみならず、他の子指標成分濃度検出用センサーを用いて運転者が飲酒状態であるか否かを判定する(S102)。具体的には、例えば、各子指標成分濃度検出用センサーのいずれかの検出値が、それぞれに対応する判定閾値を上回った場合に、運転者が飲酒状態であると判定する。そして、運転者が飲酒状態であると判定した場合には、飲酒運転抑制制御用ECU50にその旨を出力する。これにより、運転者の呼気が助手席や後部座席に流れた場合であっても、運転者が飲酒状態であることを検出することが可能となる。また、運転者が単独で乗車している場合に限定しているため、他の乗員が飲酒状態である場合に運転者が飲酒状態であると誤判定する事態を回避することができる。
【0026】
一方、運転席の他の座席にも乗員が着座していると判定された場合は、以下の処理によって、各座席付近に配設された子指標成分濃度検出用センサーの検出値に基づき、対応する座席に着座した乗員が飲酒状態であるか否かを判定する(S104〜S200)。すなわち、子指標成分濃度検出用センサー22A、22Bの少なくとも一方の検出値に基づき運転者が飲酒状態であるか否かを判定し、子指標成分濃度検出用センサー24A、24Bの少なくとも一方の検出値に基づき助手席に着座した乗員が飲酒状態であるか否かを判定し、子指標成分濃度検出用センサー26A、26Bの少なくとも一方の検出値に基づき後部座席(右側)に着座した乗員が飲酒状態であるか否かを判定し、子指標成分濃度検出用センサー28A、28Bの少なくとも一方の検出値に基づき後部座席(左側)に着座した乗員が飲酒状態であるか否かを判定する。
【0027】
以下、原則としてヘッドレスト付近に配設された子指標成分濃度検出用センサー22A、24A、26A、28Aの検出値を判定に用い、シート座面に配設された子指標成分濃度検出用センサー22B、24B、26B、28Bの検出値を補助的に用いるものとする。より具体的には、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値が判定閾値を超えた場合に運転者が飲酒状態であると判定し、子指標成分濃度検出用センサー24Aの検出値が判定閾値を超えた場合に助手席の乗員が飲酒状態であると判定し、子指標成分濃度検出用センサー26Aの検出値が判定閾値を超えた場合に後部座席(右側)の乗員が飲酒状態であると判定し、子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値が判定閾値を超えた場合に後部座席(右側)の乗員が飲酒状態であると判定する。なお、これに限らず、運転者の飲酒状態判定において子指標成分濃度検出用センサー22Aと22Bの検出値の平均を求めて判定に用いる等の処理を行なってもよい。
【0028】
各判定閾値は、それぞれ初期値が予め飲酒状態判定用ECU40のROM等に記憶されており、各子指標成分濃度検出用センサーの検出値の差分に基づいて、飲酒状態判定用ECU40により変更される。
【0029】
飲酒状態判定用ECU40は、運転席以外にどの座席に乗員が着座しているかを特定し(S104)、それぞれの場合に特有の判定閾値変更処理等を行なって、判定閾値の変更等を行ない(S150〜162)、座席に対応する各子指標成分濃度検出用センサーの検出値に基づいて、各乗員について飲酒状態であるか否かを判定する(S200)。
【0030】
以下、説明を簡略化するために、S104の処理内容に関して、運転者の他に後部座席左側に着座した乗員が存在する場合についてのみ説明し、他の場合については、以下の処理に準じた処理を行なうものとして説明を省略する。
【0031】
図4は、図3におけるS150〜162の処理の具体的内容を示す図である。以下、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値をVd、子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値をVa、子指標成分濃度検出用センサー22Aに対する判定閾値(運転者の飲酒状態判定に係る判定閾値)をThd、子指標成分濃度検出用センサー28Aに対する判定閾値(他の乗員の飲酒状態判定に係る判定閾値)をThaとする。
【0032】
まず、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdが所定値α以上であるか否かを判定する(S150)。なお、所定値αは適合値である。
【0033】
子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdが所定値α未満である場合は、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdと子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値Vaの差分が所定値βを超えるか否かを判定する(S152)。なお、所定値βは適合値である。
【0034】
S152において差分が所定値βを超えないと判定されるのは、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdがそれ程高くなく、且つ他の子指標成分濃度検出用センサーの検出値も同様にそれ程高くない場合である。従って、差分が所定値βを超えない場合は(S152のNo)、いずれかの乗員が飲酒状態であると積極的に判定する必要がないため、初期値として記憶されている判定閾値Thd、Thaを用いて、運転者及び後部座席(左側)に着座した乗員について、それぞれ飲酒状態であるか否かを判定する(S200)。
【0035】
差分が所定値βを超える場合は(S152のYes)、子指標成分濃度検出用センサー28Aに対する判定閾値Thaを次式(1)に従って変更する(S154)。これは、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdがそれ程高くないことが判っており、且つ子指標成分濃度検出用センサー間の検出値が乖離しているため、後部座席(左側)の乗員の飲酒状態を子指標成分濃度検出用センサー28Aが捉えた可能性が高いことに基づく。従って、このような場合に子指標成分濃度検出用センサー28Aに対する判定閾値Thaを低下させて、より積極的に後部座席(左側)の乗員が飲酒状態であることを検知しようとするものである。
【0036】
Tha=Tha(初期値)×{1+(Vd−Va)/Va} …(1)
【0037】
なお、S154において、上記の想定とは逆に、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdがそれ程高くないが、子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値Vaに比して十分に高い場合(Vd<α、且つVd>Va+βの場合)も想定して、次式(2)の如く判定閾値Thdを変更してもよい。これは、車両の窓が開いていたり空調装置が作動していたりすることにより、車室内空気中のアルコールやアセトアルデヒドの濃度が薄められた場合等を考慮したものである。すなわち、このような場合でも、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdが子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値Vaに比して十分に高い場合には、運転者が飲酒状態である可能性が高まるため、子指標成分濃度検出用センサー22Aに対する判定閾値Thdを低下させて、より積極的に運転者が飲酒状態であることを検知しようとするものである。
【0038】
Thd=Thd(初期値)×{1+(Va−Vd)/Vd} …(2)
【0039】
一方、S150において子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdが所定値α以上であると判定された場合は、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdと子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値Vaの差分が所定値γを超えるか否かを判定する(S156)。なお、所定値γは適合値である。
【0040】
S156において差分が所定値γを超えないと判定されるのは、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdがある程度高く、且つ他の子指標成分濃度検出用センサーの検出値もある程度高い場合である。従って、差分が所定値γを超えない場合は(S156のNo)、いずれの乗員についても飲酒状態であると積極的に判定する必要があるため、初期値として記憶されている判定閾値Thd、Thaにそれぞれ0コンマ6程度の値を乗じて判定閾値を低下させる(S158)。更に、ヘッドレスト付近に配設された子指標成分濃度検出用センサー22A、28Aの検出値だけでなく、シート座面に配設された子指標成分濃度検出用センサー22B、28Bの検出値を併せて用いることを決定するためのフラグをRAM等に立てる(S160)。係るフラグが立てられていると、後述するS200では、例えば、子指標成分濃度検出用センサー22Aと22Bの検出値のいずれかがS158において変更された判定閾値Thdを超えた場合に、運転者が飲酒状態であると判定することとなる。同様に、子指標成分濃度検出用センサー28Aと28Bの検出値のいずれかがS158において変更された判定閾値Thaを超えた場合に、後部座席(左側)の乗員が飲酒状態であると判定することとなる。
【0041】
差分が所定値γを超える場合は(S156のYes)、子指標成分濃度検出用センサー28Aに対する判定閾値Thaを上式(1)に従って変更する(S162)。これは、子指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdがある程度高いことが判っており、且つ子指標成分濃度検出用センサー間の検出値が乖離しているため、後部座席(左側)の乗員が飲酒状態でない可能性が高いことに基づく。すなわち、このような場合には子指標成分濃度検出用センサー28Aに対する判定閾値Thaを上昇させて、積極的に後部座席(左側)の乗員が飲酒状態であることを検知しないようにするものである。なお、式(1)から判るように、子指標成分濃度検出用センサー28Aの検出値Vaが、ある程度高い指標成分濃度検出用センサー22Aの検出値Vdよりも更に高いような場合には、判定閾値Thaは低下することになり、より積極的に後部座席(左側)の乗員が飲酒状態であることを検知することとなる。なお、S162においても、上式(2)の如く判定閾値Thdを変更してもよい。
【0042】
このように判定閾値の変更やシート座面に配設された子指標成分濃度検出用センサーの検出値を用いるか否かの決定が終了すると(S150〜S162)、これに従って各乗員が飲酒状態であるか否かを判定する(S200)。本ステップにより運転者が飲酒状態であると判定された場合には、その旨が飲酒運転抑制制御用ECU50に出力されて飲酒運転抑制制御が行なわれるのは勿論であるが、他の乗員が飲酒状態であると判定された場合にも、種々の制御を行なうと好適である。例えば、気分が悪くならないように車両挙動の抑制制御における制御パラメータを変更したり、後に運転者が飲酒状態であるか否かを判定する際に、既になされた他の乗員に関する判定結果を参照したりすることが考えられる。
【0043】
なお、前述の如く、助手席乗員や後部座席(右側)の乗員についても、子指標成分濃度検出用センサー24Aや26Aの検出値をVaとして扱うことにより、図4の処理フローをそのまま適用することができる。運転者以外に複数の乗員が存在する場合には、運転者以外のそれぞれの乗員に関して図4の処理フローを実行するものとすればよい。この際に、重複して判定閾値Thdを低下させるものとすると過剰となる可能性があるので、一度低下させた判定閾値Thdはそのまま用いる(重複低下させない)等の工夫がされてもよい。すなわち、助手席乗員用センサー(24A、24B)との関係で判定閾値Thdが初期値の0コンマ6倍された後に、後部座席の乗員用センサー(26A、26B等)との関係で判定閾値Thdが0コンマ6倍する条件に該当したとしても、判定閾値Thdを初期値の0コンマ6倍に維持するものとしてよい。
【0044】
また、上記の判定処理は、車両の走行時に行なわれるのが好適であり、乗車時には異なる判定処理が行なわれてよい。例えば、ACCオン時、或いは運転席に人が着座した時等のタイミングで、子指標成分濃度検出用センサー22A、22Bや、ドアトリムに配設された他の指標成分濃度検出用センサー等を用いて判定を行なう。また、運転者が吹き込み口に自発的に息を吹き込む形式のアルコール検査装置が併用されてもよい。
【0045】
[飲酒運転抑制制御]
運転者が飲酒状態である旨の信号を受信した飲酒運転抑制制御用ECU50は、飲酒運転を抑制するための種々の制御を実行する。制御対象となる機器は、エンジンECU、ブレーキECU、トランスミッションECU、ナビゲーション装置、通信装置等が挙げられる。
【0046】
具体例としては、飲酒運転抑制制御用ECU50は、まず、車速制限、シフト位置固定又は制限(1速や2速に制限する)、走行用モータの出力制限等を行なって、運転者が遠くまで走行できないように制御する(走行制限制御)。そして、ある一定車速以下になったときに強制ブレーキ作動や燃料供給カット等を行なって、車両を停止させる。なお、乗車時の判定処理によって運転者が飲酒状態であると判定された場合は、直ちに走行を禁止してもよい。
【0047】
車速が略ゼロとなった後は、強制ブレーキ作動、マニュアル車の場合はクラッチ接続の強制解除、オートマティック車の場合はシフト位置をニュートラルやパーキングに強制的に変更及び保持、操舵角を自動変更した後にステアリングロックをする、パワーステアリングの作動解除及び/又はステアリング荷重の増加制御、パーキングブレーキの強制作動、タイヤロック等を行なって、車両を移動させることができないようにする(走行禁止制御)。
【0048】
この際に、検出された指標成分濃度に応じて、車速制限における上限車速やシフト位置固定における上限シフト位置を可変とするものとしてもよい。
【0049】
また、上記の走行制限制御や走行禁止制御に限らず、無線通信によって車外設備(警察や営業車両の場合の事業会社等)に飲酒運転である旨を送信するものとしてもよい。この際に、車両の現在位置を併せて送信すると好適である。また、ステアリング振動の発生やステアリング荷重の増加、警告音の出力等により運転者に注意喚起をするものとしてもよい。
【0050】
本実施例の飲酒状態判定装置10によれば、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを適切に判定することができる。また、他の乗員についても飲酒状態であるか否かを適切に判定することができる。そして、これを利用する飲酒運転防止装置1は、飲酒運転を適切に防止することができる。
【0051】
[変形例]
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】飲酒状態判定装置10及びこれを含む飲酒運転防止装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図2】各子指標成分濃度検出用センサーの配設位置の一例を示す図である。
【図3】本実施例の飲酒状態判定用ECU40により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本実施例の飲酒状態判定用ECU40により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートの一部である。
【符号の説明】
【0054】
1 飲酒運転防止装置
10 飲酒状態判定装置
20 指標成分濃度検出用センサー群
22A、22B、24A、24B、26A、26B、28A、28B 子指標成分濃度検出用センサー
30 乗員検出用装置
40 飲酒状態判定用ECU
50 飲酒運転抑制制御用ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の複数の箇所に配設され、車室内の空気中に含まれる人の飲酒状態を示す指標成分濃度をそれぞれ検出する複数の指標成分濃度検出手段と、
車室内乗員の着座状態を検知する着座状態検知手段と、
前記指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度に基づいて、少なくとも運転者が飲酒状態であるか否かを判定する判定手段と、
を備える飲酒状態判定装置であって、
前記判定手段は、前記複数の指標成分濃度検出手段により検出された指標成分濃度の差分に基づいて、各指標成分濃度検出手段の検出値に対する判定閾値を変更することを特徴とする、
飲酒状態判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、各座席付近に配設された指標成分濃度検出手段の検出値をそれぞれ判定閾値と比較することにより、前記着座状態検知手段により着座していることが検知されている各乗員が、飲酒状態であるか否かを判定する手段である、
請求項1に記載の飲酒状態判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、
複数の指標成分濃度検出手段のうち、他の指標成分濃度検出手段の検出値よりも検出値が所定程度以上高い指標成分濃度検出手段の検出値について、
他の指標成分濃度検出手段の検出値と比較して検出値が高くなるのに応じて判定閾値が低くなるように、判定閾値を変更する手段である、
請求項2に記載の飲酒状態判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、
複数の指標成分濃度検出手段のうち、他の指標成分濃度検出手段の検出値よりも検出値が所定程度以上低い指標成分濃度検出手段の検出値について、
他の指標成分濃度検出手段の検出値と比較して検出値が低くなるのに応じて判定閾値が高くなるように、判定閾値を変更する手段である、
請求項2、又は請求項2に係る請求項3に記載の飲酒状態判定装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の飲酒状態判定装置と、
該飲酒状態判定装置により運転者が飲酒状態であると判定された場合に、運転を抑制する運転抑制手段と、
を備える飲酒運転防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−193227(P2009−193227A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31873(P2008−31873)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】