説明

飲食品のミルク感を増強する調味料

【課題】乳脂肪分が少ない乳製飲食品に対して、原料として脱脂乳や脱脂粉乳を用いない調味料によって、濃厚なミルク感やコクを付与する。
【解決手段】水に、酵母エキス10〜50重量部、デキストリン50〜90重量部の割合で添加し溶解したものを、100〜130℃で10〜60秒間加熱した後、乾燥して調味料を得る。原料のデキストリンとしては、DE値が20〜40のものが望ましい。原料の酵母エキスとしては、5’−グアニル酸塩を5’−グアニル酸ナトリウム換算で4重量%以上、5’−イノシン酸塩を5’−イノシン酸ナトリウム換算で4重量%以上含有量し、かつ含有する全アミノ酸に占めるペプチドの割合が90重量%以上のものが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳製品である飲料や食品に添加することにより、そのミルク感を増強し、コクを付与する調味料、その製造方法、その使用方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ミルクセーキやミルクプリンなど、多種の乳製飲食品が市販されているが、これらにおいては、カロリー低減のための乳脂肪分カット、原料コストの低減、あるいは他の材料の配合比を多くする目的のために、原材料の牛乳を多く配合できない、あるいは乳脂肪分の少ない加工乳で代替する場合がある。牛乳の乳脂肪分が少ないと、乳成分由来の濃厚なミルク感が得られず、高級感の無い食味となることが多い。
【0003】
一方、5’−グアニル酸ナトリウムを含有する酵母エキスと脱脂粉乳とを水に溶解し乾燥して得られる乳製品用調味料が、低脂肪の乳製品の風味や食感を改善し、コク、脂肪感、濃厚感、乳感、甘味などを付与できることが報告されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2008−237037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、原料として脱脂乳や脱脂粉乳を用いることなく、酵母エキスとデキストリンを加工して得られた調味料で、乳製飲食品に濃厚なミルク感を付与できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、
(1)水に、酵母エキス10〜50重量部、デキストリン50〜90重量部の割合で添加し溶解したものを、100〜130℃で10〜60秒間加熱した後、乾燥して得られた調味料、
(2)前記デキストリンのDE値が20〜40のものであることを特徴とする前記(1)に記載の調味料、
(3)前記酵母エキスが、5’−グアニル酸塩を5’−グアニル酸ナトリウム換算で4重量%以上、5’−イノシン酸塩を5’−イノシン酸ナトリウム換算で4重量%以上含有量し、かつ含有する全アミノ酸に占めるペプチドの割合が90重量%以上の酵母エキスであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の調味料、
(4)前記(1)〜(3)いずれか一に記載の調味料を、乳成分を含む飲食品に対し0.01〜5.0重量%添加することを特徴とする、該飲食品のミルク感を増強し、コクを付与する方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の調味料は、原料として牛乳や粉乳等を用いることなく得られ、これを乳製飲食品に添加することにより、該飲食品に濃厚なミルク感、牛乳様のコクや甘味を付与して風味を向上させることができるというものである。また、これにより、乳製飲食品のカロリーやコスト低減が可能になるほか、該飲食品に牛乳以外の原材料を多く配合することができるようになるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の調味料は、水に酵母エキス及びデキストリンを溶解したものを加熱した後、乾燥して得ることができる。
【0007】
本発明に用いる酵母エキスは、5´-グアニル酸塩を5´-グアニル酸ナトリウム換算で4重量%以上、さらに望ましくは5重量%以上含有し、5´-イノシン酸塩を、5´-イノシン酸ナトリウム換算で4重量%以上、さらに望ましくは5重量%以上含有し、かつ全アミノ酸に占めるペプチドの割合が90重量%以上のものが望ましい。5´-グアニル酸塩を4重量%以上、5´-イノシン酸塩を4重量%以上含有量し、かつ全アミノ酸に占めるペプチドの割合が90重量%以上ものを原料として用いることにより、得られた調味料は、飲食品に濃厚なミルク感を十分付与できるものとなる。
このような酵母エキスは、酵母菌体内の酵素を失活させ、酵母を熱水等により抽出した抽出物、あるいは酵母に細胞壁溶解酵素などを添加して得られた抽出物に、核酸分解酵素、必要に応じてアデニル酸分解酵素を作用させることにより製造することができ、具体的には(株)興人製の「アロマイルドG」が挙げられる。
このような酵母エキスの製造に用いられる酵母としては、パン酵母、ビール酵母、トルラ酵母などを挙げることができ、中でもトルラ酵母が望ましい。
なお、本発明でいうペプチドとは、アミノ酸が2個以上アミノ結合したものをいい、全アミノ酸量より遊離アミノ酸量を引くことにより算出した。
【0008】
本発明で用いるデキストリンとは、澱粉を化学的または酵素的方法により低分子化した澱粉部分加水分解物のことである。DE値とはデキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標となるものであり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。値が大きいほどデキストリンの鎖長は短くなる。
本発明に用いるデキストリンはDE値が20〜40のものが望ましい。デキストリンのDE値が20より小さいと、得られた調味料は濃厚感が十分でなく、DE値が40より大きいと、調味料自体の甘味が強いものとなる。好ましいデキストリンとして、具体的には、松谷化学(株)製のデキストリン「MPD」や「パインデックス♯3」が挙げられる。
【0009】
本発明では、水に、酵母エキス10〜50重量部、デキストリン50〜90重量部の割合で添加し溶解する。望ましくは、酵母エキス15〜30重量部、デキストリン70〜85重量部の割合とする。
水の量は、両者が全量溶解できる量であればよく、多すぎると乾燥に時間やコストがかかるので好ましくない。具体的には水100重量部に対し、固形分合計10〜100重量部となるように溶解し、酵母エキス・デキストリン水溶液を得る。溶解しやすくするために、水を適宜加温しておいてもよい。
【0010】
次いで、得られた酵母エキス・デキストリン水溶液を100〜130℃で10〜60秒間加熱し、加熱後は速やかに冷却し、乾燥工程に送る。このような高温短時間の加熱は、直接加熱、間接加熱のどちらでも可能であり、たとえば熱交換の連続殺菌機のような装置を用いることで容易に行える。加熱温度が100℃未満では効果の高い調味料が得られず、130℃を超えると、不快な風味が生じることがある。また加熱時間が10秒未満では効果の高い調味料が得られず、60秒を超過すると不快な風味を生じることがある。
【0011】
加熱処理した酵母エキス・デキストリン水溶液は、乾燥して、粉末にする。乾燥は、水溶液のスプレードライ、ドラムドライ、フリーズドライ、バキュームドライなどの方法によることができ、乾燥条件は公知の条件で行うことができる。
【0012】
本発明の調味料は、乳製飲食品に添加することで使用することができる。具体的には、ミルクセーキ、ミルクプリン、ラクトアイス、アイスミルク、アイスクリーム、スープ等の製造の際に添加し混ぜ込むことでよい。
添加量は、添加する飲食品によって異なるが、乳製飲食品に対し概ね0.01〜0.5重量%程度とする。
本発明の調味料は、乳製飲食品の製造工程のどの工程においても添加することができる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0014】
実施例1
DE24〜26のデキストリン(松谷化学製「MPD」)80gと酵母エキス((株)興人製「アロマイルドG」)20gを、150mlの水に溶解した。この溶液を125℃、30秒加熱し、70℃まで冷ました後スプレードライにかけて乾燥粉末とし、本発明の調味料(実施例1)を得た。
なお、本実施例で用いた酵母エキス「アロマイルドG」は、5´-グアニル酸塩を5´-グアニル酸ナトリウム換算で5.5重量%、5´-イノシン酸塩を5´-イノシン酸ナトリウム換算で5.5重量%含有し、含有する全アミノ酸に占めるペプチドの割合は92重量%であった。
【0015】
実施例2
実施例1において、デキストリンとして「MPD」の代わりに、DE10〜13のマルトデキストリン(三和澱粉工業社製「サンデック♯100」)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、調味料(実施例2)を得た。
【0016】
実施例3
実施例1において、酵母エキスとして「アロマイルドG」の代わりに、「SK酵母エキスHUAP」((株)日本製紙製)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、調味料(実施例3)を得た。なお、用いた酵母エキス「SK酵母エキスHUAP」は、グアニル酸塩1.36重量%、イノシン酸塩1.40重量%、ペプチドを45.2%含有するものであった。
【0017】
比較例1
DE24〜26のデキストリン(松谷化学製「MPD」)80gと酵母エキス「アロマイルドG」20gを粉末同士でブレンドし、100gの粉末調味料(比較例1)を得た。
【0018】
比較例2
DE24〜26のデキストリン(松谷化学製「MPD」)80gと酵母エキス「アロマイルドG」20gを、200mlの水に溶解した。この溶液を加熱することなくスプレードライして、粉末調味料(比較例2)を得た。
【0019】
評価例1 牛乳
牛乳(明治乳業製「おいしい牛乳」)に砂糖3重量%添加し、よくかき混ぜた後、5個の容器に分注し、各々に実施例1〜3、比較例1〜2で得られた粉末調味料のいずれか1つを0.1重量%添加して混ぜ合わせて、サンプルとした。
これらの牛乳について、15人のパネラーの試飲により、コク、ミルク感、甘味について官能評価を行った。パネラーは、決められた2または3個のサンプルを比較し、それらのうち最もコクが強いもの、最もミルク感が強いもの、最も甘味が強いものをそれぞれ選び、各サンプルを選んだパネラーの人数を示した。
【0020】
(1)加熱の有無
実施例1、比較例1、比較例2の調味料を添加した各サンプルについて官能評価を行い、選んだパネラーの人数を表1−1に示す。
【表1−1】

【0021】

(2)デキストリンのDE値の影響
実施例1、実施例2の調味料を添加した各サンプルについて官能評価を行い、選んだパネラーの人数を表1−2に示す。
【表1−2】

【0022】
(3)酵母エキスの影響
実施例1、実施例3の調味料を添加した各サンプルについて官能評価を行い、選んだパネラーの人数を表1−3に示す。
【表1−3】

【0023】
評価例2 ミルクプリン
生クリーム10g、植物油脂10g、脱脂粉乳3g、砂糖10g、増粘多糖類0.5gに水を加えて100mlにした。加温して溶かした。得られたミルクプリン組成液を5個の容器に分注し、各々に実施例1〜3、比較例1〜2で得られた粉末調味料のいずれか1つを0.1重量%添加して混ぜ合わせた。この5個のミルクプリン組成液を容器のまま冷蔵庫で冷やし、ミルクプリンのサンプルを得た。
これらのミルクプリンについて、15人のパネラーの試食により、コク、ミルク感、甘味について官能評価を行った。パネラーは、決められた2または3個のサンプルを比較し、そのうち最もコクが強いもの、最もミルク感が強いもの、最も甘味が強いものをそれぞれ選び、選んだパネラーの人数を示した。
【0024】
(1)加熱の有無
実施例1、比較例1、比較例2の調味料を添加した各サンプルについて官能評価を行い、選んだパネラーの人数を表2−1に示す。
【表2−1】

【0025】
(2)デキストリンのDE値の影響
実施例1、実施例2の調味料を添加した各サンプルについて官能評価を行い、選んだパネラーの人数を表2−2に示す。
【表2−2】

【0026】
(3)酵母エキスの影響
実施例1、実施例3の調味料を添加した各サンプルについて官能評価を行い、選んだパネラーの人数を表2−3に示す。
【表2−3】

【0027】
評価例に示されたように、本発明の調味料は、乳製飲食品に添加した時に当該飲食品にコクや濃厚なミルク感を付与することができる。本発明の調味料は、酵母エキスとデキストリンを水に溶解後、加熱、乾燥したものであるが、デキストリンそのもの、デキストリンに酵母エキスをブレンドしただけのもの、水に溶解後加熱処理を行わなかったものは、いずれも本発明と同等の効果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上説明してきたとおり、本発明によると、乳製飲食品のうち特に乳脂肪の少ないものに対して添加するだけで、牛乳様のコク、濃厚なミルク感を付与することができる。そのため、通常の食品のほか、乳脂肪分やカロリーを制限しなければならない病人食などにも応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に、酵母エキス10〜50重量部、デキストリン50〜90重量部の割合で添加し溶解したものを、100〜130℃で10〜60秒間加熱した後、乾燥して得られた調味料。
【請求項2】
前記デキストリンのDE値が20〜40のものであることを特徴とする請求項1に記載の調味料。
【請求項3】
前記酵母エキスが、5’−グアニル酸塩を5’−グアニル酸ナトリウム換算で4重量%以上、5’−イノシン酸塩を5’−イノシン酸ナトリウム換算で4重量%以上含有量し、かつ含有する全アミノ酸に占めるペプチドの割合が90重量%以上の酵母エキスであることを特徴とする請求項1または2に記載の調味料。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項に記載の調味料を、乳成分を含む飲食品に対し0.01〜5.0重量%添加することを特徴とする、該飲食品のミルク感の増強、後味のコクを付与する方法。

【公開番号】特開2011−4673(P2011−4673A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152154(P2009−152154)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】