説明

飲食品用添加剤、並びにこれを含有する飲食品用添加剤組成物および飲食品

【課題】飲食品が有する本来の風味バランスを保ちつつ、各種天然素材そのものを想起させるような豊かな香りを付与することができ、かつ天然素材特有の風味を増強させることができる飲食品用添加剤、並びにこれを含有する飲食品用添加剤組成物および飲食品を提供することである。
【解決手段】一般式(I)で表される4−メチル−3−アルケン酸か、該アルケン酸と一般式(II)で表される4−メチル−2−アルケン酸との混合物からなる飲食品用添加剤、並びにこれを含有する飲食品用添加剤組成物および飲食品である。
【化8】


[各式中、R1〜R3は、明細書に記載の通りである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−メチル−3−アルケン酸か、または4−メチル−3−アルケン酸とその類縁体である4−メチル−2−アルケン酸との混合物からなる飲食品用添加剤、並びにこれを含有する飲食品用添加剤組成物および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品開発では、一般消費者の天然志向の高まりに伴い、如何に天然そのままの風味をイメージさせることができるかが、課題の一つとなっており、これまでに数多くの研究がなされ、多種多様の飲食品用添加剤(以下、「添加剤」と言うことがある。)が提案されている。天然感の強化を目的とする場合の最も一般的な手法は、天然から得られた添加剤を添加することである。このため従来から、より高品質な天然の添加剤を得るため、様々な手法が提案されている。
【0003】
例えばビール風味の改善方法として、凍結した生のホップからなる添加剤を、そのまま麦汁に添加することにより、フローラルで新鮮な生ホップの香味を付与できる方法がある(例えば、特許文献1参照)。
しかし、天然の添加剤は天然物由来であるため、価格面、品質面、供給面等に潜在的な問題を抱えている。
【0004】
これらの問題を解決するため、天然感を強化することができる合成の添加剤についても、従来から種々検討されている。例えば柑橘風味の飲食品の場合には、柑橘等から見出されたシス−4,5−エポキシ−2E−デセナール(例えば、特許文献2参照)や、柑橘からは見出されていないがコーヒーから見出されたカフェオフラン(例えば、特許文献3参照)等を用いることによって柑橘風味の改善が図られている。
しかし、特許文献2,3に記載されているような従来の添加剤では、必ずしも十分な効果が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−081113号公報
【特許文献2】特開2005−082771号公報
【特許文献3】特開2008−194015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、飲食品が有する本来の風味バランスを保ちつつ、各種天然素材そのものを想起させるような豊かな香りを付与することができ、かつ天然素材特有の風味を増強させることができる飲食品用添加剤、並びにこれを含有する飲食品用添加剤組成物および飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)下記一般式(I)で表される4−メチル−3−アルケン酸からなる飲食品用添加剤。
【化1】

[式中、R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、メチル基またはエチル基を示す。但し、R1およびR2が、いずれもエチル基であるものを除く。]
(2)下記一般式(I)で表される4−メチル−3−アルケン酸と、下記一般式(II)で表される4−メチル−2−アルケン酸との混合物からなる飲食品用添加剤。
【化2】

[各式中、R1〜R3は、それぞれ同一または異なる基であって、メチル基またはエチル基を示す。但し、R1およびR2が、いずれもエチル基であるものを除く。]
(3)前記(1)記載の飲食品用添加剤における4−メチル−3−アルケン酸を、10-3〜105ppmの割合で含有する飲食品用添加剤組成物。
(4)前記(2)記載の飲食品用添加剤における混合物を、10-3〜105ppmの割合で含有する飲食品用添加剤組成物。
(5)前記(3)または(4)記載の飲食品用添加剤組成物が任意の割合で添加された飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各種飲食品に対して、当該飲食品が有する本来の風味バランスを保ちつつ、各種天然素材そのものを想起させるような豊かな香りを付与することができ、かつ天然素材特有の風味を増強させることができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<飲食品用添加剤>
本発明の飲食品用添加剤は、前記一般式(I)で表される4−メチル−3−アルケン酸か、または該4−メチル−3−アルケン酸とその類縁体である前記一般式(II)で表される4−メチル−2−アルケン酸との混合物からなる。
【0010】
一般式(I),(II)中、R1〜R3は、それぞれ同一または異なる基であって、メチル基またはエチル基を示す。但し、R1およびR2が、いずれもエチル基であるものを除く。したがって、一般式(I),(II)で表される具体的な化合物としては、以下に示すものが挙げられる。
【0011】
〔一般式(I)〕
1およびR2がメチル基:4−メチル−3−ペンテン酸
1がエチル基・R2がメチル基:(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸
1がメチル基・R2がエチル基:(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸
【0012】
〔一般式(II)〕
3がメチル基:(E)−4−メチル−2−ペンテン酸
3がエチル基:(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸
【0013】
具体的に説明すると、一般式(I)中、R1およびR2がいずれもメチル基である4−メチル−3−ペンテン酸は、ホップ精油中に存在する香気物質であり、1978年にR.Tressl等により同定された化合物であり、例えば「J.Agric.Food Chem.1978,26,1426.」等に記載されている。該化合物の香気は、0.1〜100重量%でヒトの汗のにおい・スウィート香・枯草様グリーン香を示す。
【0014】
4−メチル−3−ペンテン酸は、例えば以下に示す反応工程式(A)を経て得ることができる。
[反応行程式(A)]
【化3】

【0015】
反応行程式(A)に示すように、イソブタナール(a)とマロン酸(b)とをクネーフェナーゲル縮合させると、4−メチル−3−ペンテン酸(Ia)を得ることができる。該縮合反応は、イソブタナール(a),マロン酸(b)を、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)等の触媒とともに、トリエチルアミン等の溶液中で、100℃程度の温度をかけて攪拌することにより行うことができる。
【0016】
反応行程式(A)により4−メチル−3−ペンテン酸(Ia)を得る方法のより詳細な説明は、K.Fujiwaraが「日本化学会誌 1961,82,627.」等で記載しているが、本発明にかかる4−メチル−3−ペンテン酸(Ia)の合成方法は、これに限定されるものではない。
【0017】
一方、反応行程式(A)を経ると、4−メチル−3−ペンテン酸(Ia)は、通常、一般式(II)中、R3がメチル基である(E)−4−メチル−2−ペンテン酸(IIa)との混合物として得られる。4−メチル−3−ペンテン酸(Ia)と、(E)−4−メチル−2−ペンテン酸(IIa)との割合は、重量比で、通常、2:1〜1:2である。
【0018】
副生成物として得られる(E)−4−メチル−2−ペンテン酸(IIa)は、W.Mick等が「Lebensm.Wiss.Technol.1984,17,104.」で記載しているように、紅茶中に存在する香気物質である。香気は、酸臭・スウィート香を示す。
【0019】
一般式(I)中、R1がエチル基であり、R2がメチル基である(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸は、「香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会講演要旨集2009,4.」に記載されているように、本発明者等が柚子果皮油中に存在する新規で特徴的な香気物質であることを見出し、さらに天然より初めて同定した化合物である。該化合物の香気は、0.0001〜100重量%でヒトの汗のにおい・スウィート香を示す。
【0020】
(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸を得る方法としては、例えばR.P.Linstead等が「J.Chem.Soc.1930,2064.」で記載している方法、M.Kawashima等が「Bull.Chem.Soc.Jpn.1988,61,3255.」で記載している方法、H.Alper等が「Organometallics 1990,9,284.」で記載している方法等が挙げられる。
【0021】
J.M.Ready等が「J.Am.Chem.Soc.2006,128,15050.」で記載している鉄(III)触媒ホモアリルアルコール合成法を利用し、続くJones酸化を行う以下に示す反応工程式(B)を経ると、(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸をそれぞれ立体選択的に合成することができる。
【0022】
[反応行程式(B)]
【化4】

【0023】
反応行程式(B)に示すように、まず、鉄(III)アセチルアセトナート(Fe(acac)3)等の触媒とともに、3−ペンチン−1−オール(c),3−ヘキシン−1−オール(e)を、それぞれトルエン等の溶媒に加える。
【0024】
ついで、該溶媒にグリニャール試薬を添加して室温で攪拌し、(E)−4−メチル−3−ヘキセン−1−オール(d),(Z)−4−メチル−3−ヘキセン−1−オール(f)をそれぞれ得る。なお、グリニャール試薬は、3−ペンチン−1−オール(c)に対してはエチルマグネシウムブロミド等が好ましく、3−ヘキシン−1−オール(e)に対してはメチルマグネシウムブロミド等が好ましい。
【0025】
得られた(E)−4−メチル−3−ヘキセン−1−オール(d),(Z)−4−メチル−3−ヘキセン−1−オール(f)を、それぞれアセトン等の溶媒に溶解し、Jones試薬を加えて室温で攪拌する。その後、水酸化カリウム等のアルカリ化合物にて処理して、精製工程等を経ると、(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ic)を得ることができる。なお、本発明にかかる(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Ic)の合成方法は、反応行程式(B)に限定されるものではない。
【0026】
また、以下に示す反応工程式(C)を経ることによっても、(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Ic)を合成することができる。
【0027】
[反応行程式(C)]
【化5】

【0028】
反応行程式(C)に示すように、2−メチルブタナール(g)とマロン酸(b)とをクネーフェナーゲル縮合させると、(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Ic)を得ることができる。該縮合反応は、2−メチルブタナール(g),マロン酸(b)を、TMEDA等の触媒とともに、トリエチルアミン等の溶液中で、100℃程度の温度をかけて攪拌することにより行うことができる。なお、本発明にかかる(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Ic)の合成方法は、反応行程式(C)に限定されるものではない。
【0029】
反応行程式(C)を経ると、(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Ic)は、通常、一般式(II)中、R3がエチル基である(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸(IIb)との混合物として得られる。(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸(Ib),(Ic)と、(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸(IIb)との割合は、重量比で、通常、2:1〜1:2である。
【0030】
副生成物として得られる(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸(IIb)は、R.Tressl等が「J.Agric.Food Chem.1978,26,1426.」で記載しているように、ホップ精油中に存在する香気物質である。香気は、酸臭・スウィート香を示す。
【0031】
なお、4−メチル−3−アルケン酸と4−メチル−2−アルケン酸との混合比は、特に限定されるものではなく、任意の割合で両者を混合することができる。例えば反応行程式(A),(C)のクネーフェナーゲル縮合法により得られる重量比が2:1〜1:2比の混合物をそのまま使用してもよい。但し、4−メチル−2−アルケン酸のみ、およびそれらの混合物のみを使用した場合、すなわち4−メチル−3−アルケン酸を含有しない場合には、本発明の効果を奏することはできない。
【0032】
(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸の香りの閾値を測定すると、4.5ng/L(in air)である。この値は、(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸に比べて10倍ほど低く、4−メチル−3−ペンテン酸に比べて1000倍ほど低い。匂い嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC)にて確認すると、4−メチル−2−アルケン酸の閾値は、4−メチル−3−アルケン酸に比べて非常に高い値を示す。
【0033】
<飲食品用添加剤組成物・飲食品>
本発明の飲食品用添加剤組成物は、前記した4−メチル−3−アルケン酸か、または4−メチル−3−アルケン酸と4−メチル−2−アルケン酸との混合物を、10-3〜105ppmの割合で含有する。該飲食品用添加剤組成物を、各種飲食品に任意の割合で添加すると、飲食品の本来の風味バランスを保ちつつ、各種天然素材そのものを想起させるような豊かな香りが付与され、天然素材特有の風味が良好に増強された飲食品を提供することができる。飲食品用添加剤組成物の各種飲食品への添加割合は、添加する飲食品に応じて任意の割合で添加すればよく、特に限定されないが、通常、飲食品中の4−メチル−3−アルケン酸または前記混合物の割合が10-3〜105ppbとなるように添加するのが好ましい。
【0034】
一方、4−メチル−3−アルケン酸または前記混合物の割合があまり少ないと、これらを添加することにより得られる効果が十分でないおそれがある。また、前記割合があまり多いと、不快臭が生じて風味を損なうおそれがある。
【0035】
なお、4−メチル−3−アルケン酸および前記混合物以外の飲食品用添加剤組成物を構成する他の組成としては、特に限定されるものではなく、本発明の効果を妨げない限りにおいて、飲食品用添加剤組成物に一般的に添加される各種の公知のものを配合することができる。
【0036】
次に、本発明の飲食品用添加剤組成物を、柑橘風味の飲食品やビール風味の飲食品に添加した場合を例に挙げて説明する。本発明の飲食品用添加剤組成物を、無果汁・果汁含有の柑橘風味の飲食品に任意の割合で添加すると、本来の風味バランスを保ちつつ、搾りたてを想起させるような新鮮で豊かな香りを付与することができ、天然の果肉・果汁の甘味・酸味がほどよく増長されるとともに、各々の柑橘特有の風味が良好に増強された、よりナチュラルな柑橘風味の飲食品に改善することができる。
【0037】
柑橘とは、ミカン科ミカン亜科に属する植物のことを意味し、例えばライム、レモン、ブンタン、ハッサク、グレープフルーツ、ネーブル、ナツミカン、イヨダイダイ、柚子、カボス、スダチ、ウンシュウミカン、ポンカン、キシュウミカン、キンカン、カラタチ等が挙げられる。
【0038】
柑橘風味の飲食品としては、例えば果汁飲料、乳飲料、炭酸飲料、果実酒のような飲料類;アイスクリーム、シャーベットのような冷菓類;ゼリー類、ジャム類のようなデザート類;チューインガム類;ヨーグルト類;和洋菓子類、焼菓子類等が挙げられる。
【0039】
また、本発明の飲食品用添加剤組成物をビール風味の飲食品に任意の割合で添加すると、本来の風味バランスを保ちつつ、摘み取ったばかりのホップのフレッシュで、シャープで、グリーンな香りを付与することができ、かつホップ本来の苦味が良好に増強され、全体的にナチュラルなホップ風味およびキレと奥ゆきのあるビール風味に改善することができる。
【0040】
なお、柑橘風味の飲食品やビール風味の飲食品を例に挙げて説明したが、本発明の添加剤、飲食品用添加剤組成物および飲食品は、例示したこれらに限定されるものではなく、各種天然素材そのものを想起させるような豊かな香りと、天然素材特有の風味の増強とを必要とするものに対して好適に用いることができる。具体例としては、コーヒー風味の飲食品、茶風味の飲食品、フルーツ風味の飲食品、乳製品、調味料等が挙げられる。
【0041】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明で「部」は重量部を意味する。
【0042】
(合成例1)
前記した反応行程式(A)に基づいて、4−メチル−3−ペンテン酸を合成した。まず、イソブタナールを17.6g、マロン酸を63.6g、TMEDAを1.42g、トリエチルアミンを36.4gの割合でそれぞれ500mLのフラスコ内に添加し、窒素雰囲気下、100℃で攪拌した。
【0043】
ついで、該溶液に20重量%硫酸200mLを加えた後、ヘキサン100mLで抽出する工程を3回行った。ヘキサン層を飽和食塩水にて洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これを減圧蒸留し、4−メチル−3−ペンテン酸を、(E)−4−メチル−2−ペンテン酸との混合物として1.02g得た。
【0044】
該混合物における4−メチル−3−ペンテン酸と(E)−4−メチル−2−ペンテン酸との割合をGCで測定した結果、重量比で1:1であった。また、該混合物の沸点は、100〜102℃(bath temp.)/2mmHgであった。
Retention index(InertCap Wax):4−メチル−3−ペンテン酸 1951;4−メチル−2−ペンテン酸 1910.
【0045】
(合成例2)
前記した反応行程式(C)に基づいて、(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸を合成した。まず、2−メチルブタナールを17.4g、マロン酸を42.2g、TMEDAを2.5g、トリエチルアミンを30.4gの割合でそれぞれ500mLのフラスコ内に添加し、窒素雰囲気下、100℃で攪拌した。
【0046】
ついで、該溶液に20重量%硫酸200mLを加えた後、ヘキサン100mLで抽出する工程を3回行った。ヘキサン層を飽和食塩水にて洗浄し、硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これを減圧蒸留し、(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸を、(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物として1.31g得た。
【0047】
該混合物における(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と、(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との割合をGCで測定した結果、重量比で2:1であった。また、該混合物の沸点は、110〜115℃(bath temp.)/2mmHgであった。
Retention index(InertCap Wax):(E)2052;(Z)2047;4−メチル−2−ヘキセン酸 2027.
【0048】
(合成例3)
前記した反応行程式(B)に基づいて、(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸を立体選択的に合成した。まず、Fe(acac)3を0.73g、3−ペンチン−1−オールを0.87g、トルエンを50mLの割合でそれぞれ100mLの三口フラスコ内に添加し、窒素置換後、−78℃まで冷却した。
【0049】
ついで、該溶液にエチルマグネシウムブロミド(1.0Mテトラヒドロフラン溶液)50mLを滴下した後、室温(23℃)で15時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液50mLにてクエンチして、析出した固体をセライト吸引濾過した。tert−ブチルメチルエーテル50mLで抽出する工程を3回行った。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮し、粗生成物の(E)−4−メチル−3−ヘキセン−1−オールを1.69g得た。
【0050】
この粗生成物をアセトン100mLに溶解し、Jones試薬6.0mLを加え、空気下、室温(23℃)で3時間攪拌した。その後、イソプロパノールにてクエンチして、残渣をセライト吸引濾過した。濾液を減圧濃縮し、得られた濃縮物をメタノール100mLに溶解し、水酸化カリウム20gを加え、4時間還流した。
【0051】
メタノールを留去後、イオン交換水を加え、tert−ブチルメチルエーテル50mLで抽出する工程を3回行い、不けん化物を除去した。水層を酸性にした後、tert−ブチルメチルエーテル50mLで抽出する工程を3回行い、飽和食塩水にて洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これを分取GCにて精製し、(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸を0.28g得た。
【0052】
得られた(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸のスペクトルデータを以下に示す。
1H NMR:「Bull.Chem.Soc.Jpn.1988,61,3255.」に記載の通りであった。
13C NMR(125MHz,CDCl3,δppm):178.7,141.6,113.6,33.4,32.2,16.3,12.4.
GC−MS(EI,m/z):128,110,83,82,73,69,67,60,55,41.
FT−IR(neat,νmaxcm-1):2967,1714,1414,1299,1224,1155,934,840.
【実施例1】
【0053】
<オレンジ風味の飲食品用添加剤組成物の調製>
合成例1で得られた混合物から単離した4−メチル−3−ペンテン酸を用いて、以下に示す配合でオレンジ風味の飲食品用添加剤組成物を調製した。
オレンジコールドプレスオイル 2.0部
エタノール 97.0部
4−メチル−3−ペンテン酸の0.1重量%エタノール溶液 1.0部
合計 100.0部
【0054】
<オレンジ風味の飲料の調製>
上記で得たオレンジ風味の飲食品用添加剤組成物を用いて、以下に示す配合でオレンジ風味の飲料を調製した。
オレンジ濃縮果汁 200.0部
イオン交換水 800.0部
オレンジ風味の飲食品用添加剤組成物 1.0部
合計 1001.0部
【実施例2】
【0055】
<グレープフルーツ風味の飲食品用添加剤組成物の調製>
合成例1で得られた4−メチル−3−ペンテン酸と(E)−4−メチル−2−ペンテン酸との混合物を用いて、以下に示す配合でグレープフルーツ風味の飲食品用添加剤組成物を調製した。
グレープフルーツコールドプレスオイル 2.0部
エタノール 97.0部
4−メチル−3−ペンテン酸と
(E)−4−メチル−2−ペンテン酸との混合物
(重量比1:1)の0.1重量%エタノール溶液 1.0部
合計 100.0部
【0056】
<グレープフルーツ風味の飲料の調製>
上記で得たグレープフルーツ風味の飲食品用添加剤組成物を用いて、以下に示す配合でグレープフルーツ風味の飲料を調製した。
グレープフルーツ濃縮果汁 200.0部
イオン交換水 800.0部
グレープフルーツ風味の飲食品用添加剤組成物 1.0部
合計 1001.0部
【実施例3】
【0057】
<レモン風味の飲食品用添加剤組成物の調製>
合成例3で得られた(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸を用いて、以下に示す配合でレモン風味の飲食品用添加剤組成物を調製した。
レモンコールドプレスオイル 2.0部
エタノール 97.0部
(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸の
0.01重量%エタノール溶液 1.0部
合計 100.0部
【0058】
<レモン風味の飲料の調製>
上記で得たレモン風味の飲食品用添加剤組成物を用いて、以下に示す配合でレモン風味の飲料を調製した。
レモン濃縮果汁 200.0部
イオン交換水 800.0部
レモン風味の飲食品用添加剤組成物 1.0部
合計 1001.0部
【実施例4】
【0059】
<柚子風味の飲食品用添加剤組成物の調製>
合成例2で得られた(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と、(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物を用いて、以下に示す配合で柚子風味の飲食品用添加剤組成物を調製した。
柚子オイル 2.0部
柚子アクセント香料 12.0部
オレンジオイル 14.0部
タンゼリンオイル 24.0部
中鎖脂肪酸エステル 47.0部
(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と
(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物
(重量比2:1)の0.01重量%エタノール溶液 1.0部
合計 100.0部
【0060】
<柚子風味の飲料の調製>
上記で得た柚子風味の飲食品用添加剤組成物を用いて、以下に示す配合で柚子風味の飲料を調製した。
糖酸液(Brix.7.5,酸度0.17) 1000.0部
柚子風味の飲食品用添加剤組成物 1.0部
合計 1001.0部
【0061】
[比較例1]
4−メチル−3−ペンテン酸の0.1重量%エタノール溶液1.0部に代えて、エタノール1.0部を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてオレンジ風味の飲食品用添加剤組成物を調製し、該オレンジ風味の飲食品用添加剤組成物を用いてオレンジ風味の飲料を調製した。
【0062】
[比較例2]
4−メチル−3−ペンテン酸と(E)−4−メチル−2−ペンテン酸との混合物(重量比1:1)の0.1重量%エタノール溶液1.0部に代えて、エタノール1.0部を用いた以外は、前記実施例2と同様にしてグレープフルーツ風味の飲食品用添加剤組成物を調製し、該グレープフルーツ風味の飲食品用添加剤組成物を用いてグレープフルーツ風味の飲料を調製した。
【0063】
[比較例3]
(E)−4−メチル−3−ヘキセン酸の0.01重量%エタノール溶液1.0部に代えて、エタノール1.0部を用いた以外は、前記実施例3と同様にしてレモン風味の飲食品用添加剤組成物を調製し、該レモン風味の飲食品用添加剤組成物を用いてレモン風味の飲料を調製した。
【0064】
[比較例4]
(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物(重量比2:1)の0.01重量%エタノール溶液1.0部に代えて、エタノール1.0部を用いた以外は、前記実施例4と同様にして柚子風味の飲食品用添加剤組成物を調製し、該柚子風味の飲食品用添加剤組成物を用いて柚子風味の飲料を調製した。
【0065】
<評価>
上記で得られた実施例1〜4および比較例1〜4にかかる各柑橘風味飲料(オレンジ・グレープフルーツ・レモン・柚子)について、フレッシュ感、果肉・果汁感、天然の甘味・酸味、および全体的なナチュラル感を評価した。評価方法を以下に示すとともに、結果を表1に併せて示す。
【0066】
(評価方法)
専門パネラーによる官能試験を行った。具体的には、専門パネラー10名により、各評価項目について1〜5点の点数を付け、その平均値を算出した。点数の高い方が、効果が優れていることを示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から明らかなように、実施例1〜4は、比較例1〜4よりも、本来の風味がバランスを保ちつつ良好に強化され、搾りたてを想起させるような新鮮で豊かな香りを付与することができ、天然の果肉・果汁感を良好に付与することができ、天然の甘味・酸味感をほどよく増長することができ、よりナチュラル感を与えることができているのがわかる。
【実施例5】
【0069】
<ビール風味の飲食品用添加剤組成物の調製>
合成例2で得られた(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と、(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物を用いて、以下に示す配合でビール風味の飲食品用添加剤組成物を調製した。
ホップエッセンス香料 50.0部
エタノール 30.0部
イオン交換水 19.0部
(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と
(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物
(重量比2:1)の0.01重量%エタノール溶液 1.0部
合計 100.0部
【0070】
<ビール風味の飲料の調製>
上記で得たビール風味の飲食品用添加剤組成物を用いて、以下に示す配合でビール風味の飲料を調製した。
市販のビール風味飲料 1000.0部
ビール風味の飲食品用添加剤組成物 0.1部
合計 1000.1部
【0071】
[比較例5]
(E)−および(Z)−4−メチル−3−ヘキセン酸と(E)−4−メチル−2−ヘキセン酸との混合物(重量比2:1)の0.01重量%エタノール溶液1.0部に代えて、エタノール1.0部を用いた以外は、前記実施例5と同様にしてビール風味の飲食品用添加剤組成物を調製し、該ビール風味の飲食品用添加剤組成物を用いてビール風味の飲料を調製した。
【0072】
<評価>
上記で得られた実施例5および比較例5にかかる各ビール風味の飲料について、評価項目をホップの香り(フレッシュ・シャープ・グリーン)、ホップの苦味、全体的なナチュラル感、および全体的なビール風味にした以外は、前記実施例1〜4と同様にして、専門パネラー10名による官能試験を行った。その結果を、表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2から明らかなように、実施例5は比較例5よりも、本来の風味のバランスを保ちつつ、摘み取ったばかりのホップのフレッシュで、シャープで、グリーンな香りが付与され、ホップ本来の苦味が良好に増強され、全体的にナチュラルなホップ風味およびキレと奥ゆきのあるビール風味に改善できているのがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される4−メチル−3−アルケン酸からなる飲食品用添加剤。
【化6】

[式中、R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、メチル基またはエチル基を示す。但し、R1およびR2が、いずれもエチル基であるものを除く。]
【請求項2】
下記一般式(I)で表される4−メチル−3−アルケン酸と、下記一般式(II)で表される4−メチル−2−アルケン酸との混合物からなる飲食品用添加剤。
【化7】

[各式中、R1〜R3は、それぞれ同一または異なる基であって、メチル基またはエチル基を示す。但し、R1およびR2が、いずれもエチル基であるものを除く。]
【請求項3】
請求項1記載の飲食品用添加剤における4−メチル−3−アルケン酸を、10-3〜105ppmの割合で含有する飲食品用添加剤組成物。
【請求項4】
請求項2記載の飲食品用添加剤における混合物を、10-3〜105ppmの割合で含有する飲食品用添加剤組成物。
【請求項5】
請求項3または4記載の飲食品用添加剤組成物が任意の割合で添加された飲食品。

【公開番号】特開2011−229424(P2011−229424A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100892(P2010−100892)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 垣内喜代三、第53回 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 講演要旨集、頒布日 平成21年11月2日、発行日 平成21年11月7日
【出願人】(591016839)長岡香料株式会社 (20)
【Fターム(参考)】