説明

飲食用組成物及び薬用組成物

【課題】光毒性接触皮膚炎等の光による皮膚疾患の発症や、薬物の副作用を増大させる虞のないイチジクを原料とする飲食用組成物及び薬用組成物を提供すること。
【解決手段】フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含まないイチジク品種を原料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチジクを原料とする飲食用組成物及び薬用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イチジクは、アラビア南部を原産地とするクワ科の植物であり、単に飲食用だけでなく、古くから薬用植物としても利用されている(非特許文献1参照)。また近年の研究では、イチジクは、血糖値の降下作用、降血圧作用、抗がん作用、及び免疫力を高める作用等を有することも明らかとなっている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】レイ・タナヒル(Reay Tannahill)著、栗山 節子訳、「美食のギャラリー(The Fine Art of Food)」、東京、八坂書房、2008年11月25日、p12−18
【非特許文献2】梁 晨千鶴著、「東方栄養新書」、京都、メディカルユーコン、2005年、p70−71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
飲食用や薬用としても有用なイチジクではあるが、成分としてフロクマリン類を含んでいる。このフロクマリン類はそれを摂取あるいは皮膚に付着することによって、紅斑、色素沈着、びらんの症状を呈する光毒性接触皮膚炎を発症したり、あるいは薬物の副作用が増大して健康被害を招く場合がある。これは、フロクマリン類が、光増感剤として作用する、あるいはある種の薬物代謝酵素の働きを阻害することが原因であると考えられている。実際に、イチジク葉を揉み出した水で行水を行って、上記症状を伴う光毒性接触皮膚炎を発症した例が報告されている(谷 守、「化学物質による皮膚障害 36 植物による光毒性接触皮膚炎」、医薬ジャーナル38巻、2002年、p2398−2405)。
【0005】
従って本発明の目的は、光毒性接触皮膚炎等の光による皮膚疾患の発症や、薬物の副作用を増大させる虞のない、イチジクを原料とする飲食用組成物及び薬用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の飲食用組成物及び薬用組成物に係る第1特徴構成は、フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含まないイチジク品種を原料とする点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本発明の飲食用組成物及び薬用組成物は、フロクマリン類と、加水分解されてフロクマリン類が生成される可能性のあるフロクマリン関連配糖体とを含有しないイチジク品種を用いて構成される。このため、本発明の飲食用組成物及び薬用組成物を摂取したとしても、光毒性接触皮膚炎等の光による皮膚疾患の発症や、薬物の副作用を増大させる等の健康被害をもたらす虞がない。
【0008】
本発明の飲食用組成物及び薬用組成物に係る第2特徴構成は、前記イチジク品種が、グリース・ド・タラスコン(Grise de Tarascon)又はビオレ・ドーフィン(Violette Dauphine)である点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
後述する実施例に示されるように、グリース・ド・タラスコン、及びビオレ・ドーフィンの2品種は、少なくともフロクマリン類のプソラレン及びベルガプテン、並びにフロクマリン関連配糖体のイソプソラル酸グルコシド(以下、IPGと称する)及びイソプソラル酸グルコシドにメトキシル基が一つ付加された化合物(以下、mIPGと称する)を含まないことが本発明者らの鋭意研究によって確認されている。
尚、IPG及びmIPGのそれぞれが加水分解されることによって、プソラレン及びベルガプテンが生成されると考えられている。
即ち、グリース・ド・タラスコン、及びビオレ・ドーフィンの2品種においては、プソラレン及びベルガプテンが含まれず、さらにIPG及びmIPGを含まないためプソラレン及びベルガプテンが生成される虞もない。
従って、本発明の飲食用組成物及び薬用組成物は、特にプソラレンやベルガプテン等が関与するとされる光毒性接触皮膚炎等の光による皮膚疾患を発症させる虞がなく、また薬物の代謝・吸収への影響も避けられるため、安心して摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プレコス・ロンデ・ド・ボルドー種の水抽出液のHPLCクロマトグラムである。
【図2】プレコス・ロンデ・ド・ホ゛ルドー種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のHPLCクロマトグラムである。
【図3】桝井ドーフィン種の水抽出液のHPLCクロマトグラムである。
【図4】蓬莱柿種の水抽出液のHPLCクロマトグラムである
【図5】グリース・ド・タラスコン種の水抽出液のHPLCクロマトグラムである。
【図6】ビオレ・ドーフィン種の水抽出液のHPLCクロマトグラムである。
【図7】桝井ドーフィン種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおける液体クロマトグラムである。
【図8】蓬莱柿種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおける液体クロマトグラムである。
【図9】グリース・ド・タラスコン種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおける液体クロマトグラムである。
【図10】ビオレ・ドーフィン種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおける液体クロマトグラムである。
【図11】桝井ドーフィン種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおけるIPGを含むピーク(溶出時間29.913分)のマススペクトルである。
【図12】グリース・ド・タラスコン種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおける溶出時間29.808分のマススペクトルである。
【図13】ビオレ・ドーフィン種の0.1%塩酸添加メタノール抽出液のLC−MSにおける溶出時間30.173分のマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中において使用される用語について説明する。
(イチジク)
本発明に適用されるイチジク(Ficus carica L.)とは、アラビア南部を原産地とするクワ科の植物である。
【0012】
本発明に適用可能なイチジクの品種としては、フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含有しないイチジク品種であれば特に限定されるものではないが、例えば、「グリース・ド・タラスコン(Grise de Tarascon)」又は「ビオレ・ドーフィン(Violette Dauphine)」等が挙げられる。
【0013】
尚、本発明における「フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含有しないイチジク品種」とは、文字通りこれらの化合物を全く含まない品種だけでなく、これらの化合物をほとんど含まない品種も含まれるものとする。
【0014】
フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を全く含まない品種とは、その果実、葉、茎、根等について所定の溶媒(水、もしくは水とアセトンの混合液、もしくはメタノール(0.1%程度の塩酸を添加する場合もある))を用いて抽出して分析操作を行っても、これらの化合物が検出されなかった品種を意味する。
【0015】
フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体をほとんど含まない品種とは、乾物1g当たりのフロクマリン類の重量(mg)が0.1mg以下であって、フロクマリン関連配糖体の重量(mg)が0.1mg以下である品種を意味する。
【0016】
(フロクマリン類)
フロクマリン(furocoumarine)類とは、フラン環が縮合したクマリン誘導体の総称である。フロクマリン類は、セリ科、ミカン科、マメ科、クワ科、キク科、オトギリソウ科等の植物に多く含まれる。フロクマリン類に属する化合物としては、例えば、プソラレン(psoralen)、ベルガプテン(bergapten)、キサントトキシン(xanthotoxin)、イソピンピネリン(isopimpinellin)、ベルガモチン(bergamottin)、ジヒドロキシベルガモチン(dihydroxybergamottin)等が挙げられる。
【0017】
フロクマリン類は、抗菌作用や、植物を食べる昆虫の消化を妨げる作用を有しており、植物の防御機構を担う物質の一つと考えられているが、後述するように、フロクマリン類を摂取又は接触したヒトにおいていくつかの健康被害をもたらす場合がある。
【0018】
例えば、プソラレンが皮膚に付着した状態で日光(紫外線)を浴びると、日焼けの度合いが強くなったり、シミが生じたり、さらには光毒性接触皮膚炎を発症させる場合がある(谷 守著、「化学物質による皮膚障害 36 植物による光毒性接触皮膚炎」、医薬ジャーナル、2002年、38、p2398−2405)。これは、フロクマリン類は、自らが光を吸収して得たエネルギーを他の物質に渡すことで、反応や発酵のプロセスを促進させる、いわゆる光増感作用を有するためであると考えられている。
【0019】
また、ベルガモチンやジヒドロキシベルガモチンと共にある種の薬物を摂取したとき、その薬物の副作用を増大させてしまう場合がある。これは、ベルガモチンやジヒドロキシベルガモチンが、小腸上皮細胞に存在する薬物代謝酵素(CYP3A4)の機能を阻害するためであると考えられている。CYP3A4には、ある種の薬物をある程度代謝して不活性化することによって循環血液中に移行する薬物量を少なくする働きがある。そのため、ベルガモチンやジヒドロキシベルガモチンによってCYP3A4の機能が阻害されると、CYP3A4による薬物の不活性化が妨げられて、循環血液中に移行する薬物量が多くなり、結果として薬物が効き過ぎて副作用を増大させてしまうこととなる。
【0020】
尚、フロクマリン類を経口摂取した場合の許容量については、必ずしも全てのフロクマリン類について明確な知見が得られてはいないが、ベルガプテン及びキサントトキシンのヒトに対する許容量を調べた研究によると、一度に15mg以上摂取して紫外線を浴びると光毒症を発症する虞があり、10mg以下であれば発症する可能性は低いとの報告がある(Schlatter,J.,Zimmerli,B.,Dick,R,Panizzon,R.and Schlatter,Ch.、「Dietary Intake and Risk Assessment of Phototoxic Furocoumarins in Humans」、Food Chem.Toxicology、1991、29(8)、p523−530)。
【0021】
(フロクマリン関連配糖体)
本発明におけるフロクマリン関連配糖体とは、加水分解を受けることでフロクマリン類を生じる物質を意味するものであり、例えば、イソプソラル酸グルコシド(以下、IPGと称する)、及びイソプソラル酸グルコシドにメトキシル基が一つ付加された以下の〔化1〕に示された化合物(以下、mIPGと称する)等が挙げられる(笠島直樹、古武孝仁、塩田澄子、金田幸、「日本生薬学会 第55回年会 長崎2008 講演要旨集 (薬用植物資源の研究 クワ科植物イチジク(Ficus carica)葉部の成分(第1報))」、日本生薬学会、平成20年9月19日・20日、p238)。
【0022】
【化1】

【0023】
尚、IPGは漢方薬素材「補骨脂」の原料になるマメ科植物のオランダヒユ類(Psoralea corylifolia L.)の種子にも含まれており、加水分解されるとプソラレンを生じる(Qiao,C.−F.,Han,Q.−B.,Mo,S.−F.,Song,J.−Z.,Xu,L.−J.,Chen,S.−L.,Yang,D.−J.,Kong,L.−D.,Kung,H.−F.andXu,H.−X.、「Psoralenoside and Isopsoralenoside, Two New Benzofuran Glycosides from Psoralea corylifolia」、Chem.Pharm.Bull、2006、54(5)、p714―716)。また、mIPGが加水分解されると、ベルガプテンを生じると推定される。
【0024】
〔実施形態〕
本発明は、フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含まないイチジク品種(例えば、グリース・ド・タラスコン又はビオレ・ドーフィン等)の果実、葉、茎、根等、あるいはこれらの抽出物を原料とする飲食用組成物及び薬用組成物に関するものである。
【0025】
(飲食用組成物)
本発明に係る飲食用組成物としては、例えば、茶葉が挙げられる。茶葉は、摘み取った上記イチジク品種の葉に(1)蒸気に通して短時間で加熱して蒸す蒸し工程、(2)茶の葉の表面の水分を取り除きながら冷やす冷却工程、(3)粗柔機に入れ、熱風で揉みながら乾かす粗柔工程、(4)葉に力を加えて、水分の均一をはかりながら揉む揉捻工程、(5)葉に熱と力とを加えて形を整えながら乾かす精揉工程、(6)葉を薄く広げて、熱風を当てて乾燥させる乾燥工程、(7)荒茶をふるいで分けるか切断して形を整える選別工程、(8)葉をさらに乾燥させて独自の香りや味を引き出す乾燥工程、(9)仕上がった葉を計量して茶箱や袋に詰め込む包装工程等からなる公知の製茶方法によって製造することができる。
他の飲食用組成物としては、例えば、お茶飲料、青汁、料理用食材、果実酒等が挙げられ、これらの飲食用組成物についても上記イチジク品種を原料として公知の製造方法で製造することができる。
【0026】
(薬用組成物)
本発明に係る薬用組成物としては、例えば、生薬及びその抽出物が挙げられる。生薬は、上記イチジク品種の果実や葉等を乾燥させて、小片、小塊に切断または破砕、もしくは粉末に粉砕するなどして、公知の製造方法によって製造することができる。
【0027】
生薬の抽出物とは、生薬に適当な浸出剤を加えて浸出した液、または浸出液を濃縮した液をいい、具体的には「エキス」及び「チンキ」等を挙げることができる。浸出剤としては、例えば、水、エタノール、あるいは水とエタノールとの混合液等を挙げることができる。なお、抽出物の製造方法は公知の方法(例えば、日本薬局方記載の方法)を用いて良い。
【0028】
また、「エキス」を乾燥したものも上記抽出物に含まれ、これを通例「乾燥エキス」という。乾燥エキスの製造方法は公知の方法を用いて良い。一般に、生薬は基原が同一であれば、いずれの形態であっても同様の効果を得ることができる。
【0029】
本発明に係る薬用組成物は、経口または非経口的に投与することができるが、経口的に投与することが好ましい。経口的に投与するための製剤(経口投与製剤)の剤形としては、エキス剤、エリキシル剤、シロップ剤、チンキ剤、リモナーデ剤等の液剤とカプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤等の固形のものとを挙げることができる。本発明に係る薬用組成物を含む製剤は、公知の製剤技術により種々の剤形に製剤化することができ、製剤中には適当な製剤添加物を加えることができる。製剤添加物の具体例としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、懸濁化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味剤等を挙げることができる。製剤添加物は、製剤の投与量において人体等の生体にとって無害である必要があり、また有効成分の効果を妨げない必要がある。
【0030】
例えば、賦形剤としては、乳糖、コーンスターチ、結晶セルロース等が挙げられる。結合剤としては、アラビアゴム末、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。崩壊剤としては、コーンスターチ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスポピドン等が挙げられる。懸濁化剤としては、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられる。抗酸化剤としては、アスコルビン酸、トコフェロール等が挙げられる。矯味剤としては、白糖、ハチミツ、アスパルテーム、ステビア、グリチルリチン酸ニカリウム等が挙げられる。
【0031】
〔その他の実施形態〕
上記飲食用組成物及び薬用組成物の他に、フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含まないイチジク品種を原料として製造可能な組成物としては、例えば化粧用組成物、入浴剤用組成物、又は繊維を染色する染色用組成物等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
〔抽出溶媒の検討〕
イチジクの葉からフロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体の抽出するための抽出溶媒について検討した。
(実験方法)
1.葉の採取
(1)「プレコス・ロンデ・ド・ボルドー」種のイチジク樹より葉を採取した。
(2)採取した葉をおよそ2センチ角に刻み、直ちに冷凍保存した。
【0033】
2−1.第1抽出方法
(1)冷凍状態の葉に対して9倍量(重量比)の水を加え、ミキサーで破砕した。
(2)懸濁液をガーゼで濾過し、次に遠心(500g×5分間)して上清を得た。
(3)適宜希釈し、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターで濾過して分析用試料を得た。
【0034】
2−2.第2抽出方法
(1)凍結乾燥した葉を粉砕し、その0.2gを三角フラスコに入れ、30mLの抽出溶媒を加えた。抽出溶媒は水1重量部に対して有機溶媒類(メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン)3重量部を混合したものを用いた。
(2)室温で3時間、毎分120回転の円運動で振とうしながら抽出した。
(3)毎分12000回転で10分間遠心し、上清を回収した。
(4)残渣に抽出溶媒を10mL加えて撹拌し、再び毎分12000回転で10分間遠心し、上清を回収した。
(5)上記4の操作をもう一度繰り返した。
(6)回収した上清を合わせて50mLに定容した。
(7)適宜水で希釈し、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターで濾過して分析用試料を得た。
【0035】
2−3.第3抽出方法
上記第2抽出方法と同様の方法で行った。ただし、抽出溶媒には、水1重量部に対してメタノール1重量部を混合したもの、水1重量部に対してメタノール3重量部を混合したもの、メタノール及び0.1%の塩酸を添加したメタノールを用いた。
【0036】
3.分析方法
(1)上記第1〜3抽出方法で得られたそれぞれの分析用試料10μL(マイクロリットル)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置に注入して検出・定量した。
(2)HPLCの分析条件は以下の通りとした。
(a)カラム:Phenomenex社のAQUA C18、粒子径5μm、内径4.6mm×長さ250mm
(b)移動相A:2%酢酸
(c)移動相B:0.5%酢酸とアセトニトリルを1:1の割合で混合したもの
(d)移動相の流速:毎分1mL
(e)移動相グラジエント:分析時間に応じて、移動相Bの比率を以下の通りに変化させた。分析開始時:10%、20分後:24%、40分後:30%、60分後:55%、75分後:100%、83分後まで:100%、85分後:10%、90分後(分析終了)まで:10%。
(f)カラム温度:30℃
(g)成分の検出:吸光度検出器により波長250nmの吸光度を測定した。
(h)各成分の溶出時間:IPG:29〜30分付近、mIPG:31分付近、プソラレン:69〜70分付近、ベルガプテン:75分付近のピークとして検出される。
【0037】
(実験結果)
第1抽出方法で得られたイチジク葉の水抽出液のHPLCクロマトグラムを図1に示すと共に、プソラレン、ベルガプテン、IPG、mIPGの各成分のピーク面積を以下の表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図1及び表1に示すように、抽出溶媒を水とした場合では、プソラレンやベルガプテンは抽出されているが、IPGやmIPGがほとんど抽出されていない事が分かる。水抽出液にIPGやmIPGがほとんど含まれていなかった原因としては、(a)当該成分の抽出効率が極めて低い、あるいは(b)酵素が活性を保っていてそれにより分解された、事などが考えられる。
【0040】
第2抽出方法で得られた4つの分析用試料、即ち、水1重量部とメタノール3重量部との混合液によるイチジク葉の抽出液(水+メタノール)、水1重量部とエタノール3重量部との混合液によるイチジク葉の抽出液(水+エタノール)、水1重量部とプロパノール3重量部との混合液によるイチジク葉の抽出液(水+プロパノール)、及び水1重量部とアセトン3重量部との混合液によるイチジク葉の抽出液(水+アセトン)におけるプソラレン、ベルガプテン、IPG、mIPGの各成分のピーク面積を以下の表2に示す。表2に示すように、いずれの抽出溶媒でもIPG、mIPGはほとんど抽出されなかった。
【0041】
【表2】

【0042】
第3抽出方法で得られた4つの分析用試料、即ち、水1重量部とメタノール1重量部との混合液によるイチジク葉の抽出液(水1重量部+メタノール1重量部)、水1重量部とメタノール3重量部との混合液によるイチジク葉の抽出液(水1重量部+メタノール3重量部)、メタノールによるイチジク葉の抽出液(メタノール)、0.1%塩酸添加メタノールによるイチジク葉の抽出液(0.1%塩酸添加メタノール)におけるプソラレン、ベルガプテン、IPG、mIPGの各成分のピーク面積を以下の表3に示す。尚、0.1%塩酸添加メタノール抽出液に関する分析用試料のクロマトグラムを図2に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示すように、水を含んだ溶媒では、メタノール比率が高いほどプソラレンとベルガプテンの抽出は良好となったが、IPGとmIPGはほとんど抽出されなかった。メタノール100%ではこの関係が逆転し、IPGとmIPGは非常によく抽出されたが、プソラレンとベルガプテンの抽出は激減した。メタノール100%に微量の塩酸を添加すると、IPGとmIPGの抽出は少し向上した。
【0045】
以上より、抽出溶媒を水及び0.1%塩酸添加メタノールとして、種々のイチジク品種について抽出試験を行うこととした。
【0046】
〔水によるイチジク葉の抽出・分析試験〕
40品種のイチジク(「桝井ドーフィン」、「蓬莱柿」、「ヌアール・ド・カロン」、「ホワイト・イスキア」、「ネグローネ」、「ブランスウィック」、「ブルジャソット・グリス」、「テマリイチジク」、「ポルトガロ」、「ビオレ・ソリエス」、「ブラウン・ターキー」、「シュガー」、「アーテナ」、「セレスト」、「ホワイト・ゼノア」、「ポー・デュール」、「カリフォルニア・ブラック」、「フィグ・ド・マルセイユ」、「カドタ」、「ネグロ・ラーゴ」、「プレコス・ロンデ・ド・ボルドー」、「グリース・セント・ジャン」、「グリーズ・ビール」、「アイーダ」、「ミッション」、「グリスト・ジーン」、「グット・ドール」、「ベローネ」、「早生ドーフィン」、「ロンデ・ド・ボルドー」、「ダルマティー」、「アーチペル」、「リサ」、「ショート・ブリッジ」、「デザート・クイーン」、「サンピエトロ」、「サルタン」、「パスティエ」、「グリース・ド・タラスコン」、「ビオレ・ドーフィン」)のそれぞれの葉に含まれる成分を水で抽出して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。
【0047】
(実験方法)
(1)上記各品種のイチジク樹より新梢中央付近の葉を採取して冷凍保存した。
(2)冷凍状態の葉に対して9倍量(重量比)の水を加え、ミキサーで破砕した。
(3)懸濁液をガーゼで濾過し、次に遠心(500g×5分間)して得られた上澄みを、ポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターで濾過して分析用試料(40試料)を得た。
(4)各分析用試料をHPLC装置で分析した。分析条件を以下に示す。
(a)カラム:Phenomenex社のAQUA C18、粒子径5μm、内径4.6mm×長さ250mm
(b)移動相A:2%酢酸
(c)移動相B:0.5%酢酸とアセトニトリルを1:1の割合で混合したもの
(d)移動相の流速:毎分1mL
(e)移動相グラジエント:分析時間に応じて、移動相Bの比率を以下の通りに変化させた。分析開始時:10%、20分後:24%、40分後:30%、60分後:55%、75分後:100%、83分後まで:100%、85分後:10%、90分後(分析終了)まで:10%。
(f)カラム温度:30℃
(g)成分の検出:吸光度検出器により波長250nmの吸光度を測定した。
(h)各成分の溶出時間:それぞれIPG:29〜30分付近、mIPG:31分付近、プソラレン:69〜70分付近、ベルガプテン:75分付近のピークとして検出される。
【0048】
(実験結果)
水ではフロクマリン関連配糖体である、IPGおよびmIPGはほとんど抽出されなかった。
【0049】
また、40品種中、「グリース・ド・タラスコン」及び「ビオレ・ドーフィン」の2品種を除く38品種が、プソラレンおよびベルガプテンの両方を含んでいた。尚、HPLCクロマトグラムについては、日本国内で果実の収穫や茶葉等の製造のために経済栽培されている桝井ドーフィン(図3)及び蓬莱柿(図4)のクロマトグラムと、フロクマリン類(プソラレンおよびベルガプテン)を含まなかったグリース・ド・タラスコン(図5)及びビオレ・ドーフィン(図6)のクロマトグラムについてのみ示しており、残りの品種のクロマトグラムについては省略した。
【0050】
〔0.1%塩酸添加メタノールによるイチジク葉の抽出・分析試験〕
上記40品種のイチジクのそれぞれの葉に含まれる成分を0.1%塩酸添加メタノールで抽出して、液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)によって分析した。
【0051】
(実験方法)
(1)上記各品種のイチジク樹より新梢中央付近の葉を採取して冷凍保存した。
(2)冷凍状態の葉を破砕して、25倍量(重量比)の溶媒(0.1%の塩酸を添加したメタノール)を加えた。
(3)時々撹拌しながら、室温で4時間置いて成分を抽出した。
(4)懸濁液を濾紙で濾過し、次にポアサイズ0.45μmのメンブランフィルターで濾過して分析用試料(40試料)を得た。
(5)分析用試料をLC−MS装置で分析した。分析条件を以下に示す。
(a)カラム:Phenomenex社のAQUA C18、粒子径5μm、内径4.6mm×長さ250mm
(b)移動相A:2%酢酸
(c)移動相B:0.5%酢酸とアセトニトリルを1:1の割合で混合したもの
(d)移動相の流速:毎分1mL
(e)移動相グラジエント:分析時間に応じて、移動相Bの比率を以下の通りに変化させた。分析開始時:10%、20分後:24%、40分後:30%、60分後:55%、75分後:100%、83分後まで:100%、85分後:10%、90分後(分析終了)まで:10%。
(f)カラム温度:30℃
(g)液体クロマトグラフ:吸光度検出器により波長250nmの吸光度を測定した。
(h)マススペクトル:質量分析計により以下の測定条件で成分イオンのm/z値を測定した。条件1:イオン化法:ESI(エレクトロスプレー法)、測定質量範囲:50〜1000m/z、フラグメンター電圧:150V、キャピラリー電圧:3500V、ネブライザーガス:N2(60psi)、乾燥ガス:N2(12L/min、350℃)、測定イオン:負イオン。条件2:イオン化法:APCI(大気圧化学イオン化法)、測定質量範囲:50〜1000m/z、フラグメンター電圧:100V、キャピラリー電圧:3000V、コロナ電流:4A、ネブライザーガス:N2(60psi)、乾燥ガス:N2(4L/min,350℃)、気化温度:350℃、測定イオン:正イオン。
(i)ピーク成分の同定:プソラレン、ベルガプテンは保持時間が標準物質のデータと一致することで同定した。
(j)各成分の溶出時間:それぞれIPG:29〜30分付近、mIPG:31分付近、プソラレン:69〜70分付近、ベルガプテン:75分付近のピークとして検出される。
【0052】
(実験結果)
40品種中、「グリース・ド・タラスコン」及び「ビオレ・ドーフィン」の2品種を除く38品種が、IPGおよびmIPGの両方を含んでいた。尚、液体クロマトグラムについては、日本国内で茶葉等の製造のために経済栽培されている桝井ドーフィン(図7)及び蓬莱柿(図8)のクロマトグラムと、フロクマリン関連配糖体(IPG及びmIPG)を含まなかったグリース・ド・タラスコン(図9)及びビオレ・ドーフィン(図10)のクロマトグラムについてのみ示しており、残りの品種のクロマトグラムについては省略した。
【0053】
図9及び図10に示すように、「グリース・ド・タラスコン」及び「ビオレ・ドーフィン」のそれぞれの液体クロマトグラムにおいて、29分付近(29.808分)及び30分付近(30.173分)にIPGと思われるごく小さなピークが検出されたが、mIPGは検出されなかった。
【0054】
質量分析計によって「グリース・ド・タラスコン」及び「ビオレ・ドーフィン」のそれぞれの上記極小ピークに含まれるイオンのm/zを調べたところ、図12及び図13に示すように、IPGが存在することを示す365m/zのイオン(図11参照)は明確に検出されなかった。従って、これらの極小ピークはIPG以外の夾雑物によるものと考えられる。
【0055】
以上より、「グリース・ド・タラスコン」と「ビオレ・ドーフィン」の2品種には、プソラレン、ベルガプテン、IPGおよびmIPGは含まれていないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の飲食用組成物及び薬用組成物は、光による皮膚疾患の発症や、薬物の副作用を増大させる等の健康被害をもたらす虞のない、お茶飲料、青汁、料理用食材、果実酒、生薬等として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含まないイチジク品種を原料とする飲食用組成物。
【請求項2】
前記イチジク品種が、グリース・ド・タラスコン(Grise de Tarascon)又はビオレ・ドーフィン(Violette Dauphine)である請求項1に記載の飲食用組成物。
【請求項3】
フロクマリン類及びフロクマリン関連配糖体を含まないイチジク品種を原料とする薬用組成物。
【請求項4】
前記イチジク品種が、グリース・ド・タラスコン(Grise de Tarascon)又はビオレ・ドーフィン(Violette Dauphine)である請求項3に記載の薬用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−67180(P2011−67180A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223187(P2009−223187)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会 主催者名 社団法人日本農芸化学会 開催日 平成21年3月28日
【出願人】(507152970)公益財団法人東洋食品研究所 (14)
【Fターム(参考)】