説明

飼料中の25−ヒドロキシコレカルシフェロールの測定方法

飼料中の25−ヒドロキシコレカルシフェロールの定量方法を記載する。本方法は、25−ヒドロキシコレカルシフェロールと異なる質量かつその化合物に類似した極性を有する規定量の内部標準(たとえば、26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロール)を飼料の水性分散液に添加する工程と、水性分散液をtert−ブチルメチルエーテルで抽出する工程と、HPLCにより抽出物をさらに処理する工程と、明細書に記載されているような質量分析の工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、動物用飼料中の25−ヒドロキシコレカルシフェロール(25−ヒドロキシビタミンD)の定量方法に関する。25−ヒドロキシコレカルシフェロールは、家畜やペットなどの動物の健康状態を改善するために、動物用飼料への添加剤として使用され、ヒ・デー(Hy−D)TM(スイス国バーゼルのロシュ・ビタミン・アーゲー(ROCHE VITAMINS AG,Basel,Switzerland))として入手可能である。その生理学的効力および狭い治療濃度域を考えると、化合物の投与量はきわめて重要であるので、飼料中の化合物の量および飼料中のその均一分布を監視するために、信頼性の高い分析手段が必要とされる。血漿中の25−ヒドロキシコレカルシフェロールの種々の定量方法が報告されている。これらは、イムノアッセイに基づくか(WO99/67211を参照されたい)、または内部標準として誘導体もしくは同位体を用いるHPLC/質量分析に基づく(生物学薬学誌(Biological & Pharmaceutical Bulletin)(2001年)、第24巻(第7号)、738−743頁を参照されたい)。しかしながら、これらの公知の方法は、飼料サンプルの分析に利用した場合、十分とは言えない。
【0002】
以前の方法のいずれを用いても、固体の化学物質および生体物質が多量に存在することが原因で、飼料サンプル中の25−ヒドロキシコレカルシフェロールを分析するのは困難である。これに対して、血漿または血清は、主に水からなる。2つのタイプの方法が利用可能である。HPLCおよびUV検出を用いる物理化学的方法ならびにサンプル精製用HPLCおよび放射性標識化免疫試薬を用いる免疫化学的方法については、ブルース・ダブリュー・ホリス(Bruce.W.Hollis)、国際石灰化組織誌(Calcif.Tissue Int.)(1996年)第58巻:4−5頁を参照されたい。他の方法は、同様に労力のかかるものであり、定量のために放射性物質を使用する分析工程を含む。この方法は、内部標準としてのH−25−ヒドロキシコレカルシフェロールの添加、メタノールによる抽出、逆相セップ・パック(SEP−PAK)カートリッジによるサンプル精製、順相セップ・パック(SEP−PAK)カートリッジによるさらなる精製、順相HPLCによるさらなる精製、および最終的な本質的分析用逆相HPLCからなる。全回収率は、H−25−ヒドロキシコレカルシフェロールのシンチレーション計数により決定される。定量化は、264nmにおいて外部検量およびUV検出により行われる。最終的な定量化がUVにより行われるので、サンプル精製手順は、あまりにも労力がかかりすぎる。そのように抽出物の精製が複雑であるため、放射性標識化25−ヒドロキシコレカルシフェロールを用いて回収率の決定を行うことが必要となる。両方法とも操作が面倒であり、性能特性や再現性に不十分な点が多い。
【0003】
本発明は、25−ヒドロキシコレカルシフェロールを定量するための多工程ではあるが単純明快である新規な手順を提供する。この手順を動物用飼料サンプルに適用した場合、満足すべき結果が得られる。
【0004】
より特定的には、本発明は、
a)飼料サンプルを水中に分散して、25−ヒドロキシコレカルシフェロールと異なる質量を有しかつ25−ヒドロキシコレカルシフェロールと類似しているが異なる極性を有する規定量の内部標準化合物をサンプルに添加する工程と;
b)水性分散液をtert−ブチルメチルエーテルで抽出する工程と;
c)エーテル抽出物をセミ分取HPLCにかける工程と;
d)25−ヒドロキシコレカルシフェロールおよび内部標準化合物を含有する画分を捕集する工程と;
e)d)で捕集された画分またはそのアリコートを質量分析と組み合わされたHPLCにかける工程と;
f)25−ヒドロキシコレカルシフェロールのMSピーク面積および添加された内部標準化合物のMSピーク面積を決定する工程と;
g)測定されたMSピーク面積を計算処理にかけて25−ヒドロキシコレカルシフェロールの量を算出する工程と;
を含む、動物用飼料中の25−ヒドロキシコレカルシフェロールの定量方法に関する。
【0005】
工程a)で使用される内部標準化合物は、たとえば、25−ヒドロキシコレカルシフェロールの誘導体、25−ヒドロキシコレカルシフェロールの異性体、または同位体標識化25−ヒドロキシコレカルシフェロールであり、例としては、26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロールなどのジュウテリウム標識化同位体(テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Lett.)、第32巻、第24号、2813−2816頁(1991年));または25−ヒドロキシエルゴカルシフェロールまたは1α−ヒドロキシコレカルシフェロールが挙げられる。好ましい標準化合物は、26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロールである。標準化合物は、好適には、飼料サンプルを水中に分散または溶解させる前にメタノール溶液として添加される。サンプルに添加される標準化合物の量は、決定的に重要というわけでない。好適には、標準化合物は、25−ヒドロキシコレカルシフェロールを基準にして約0.05m〜ほぼ等モルの濃度を提供する量で添加される。次に、工程b)において、好ましくは超音波処理を併用して、飼料サンプルの水性分散液または水溶液を約1〜10倍量のtert−ブチルメチルエーテルで抽出する。工程c)で用いられるセミ分取HPLCは、好適には酸素を排除して、工程b)で得られた抽出物から有機溶媒を蒸発させ、脂肪族C〜C炭化水素(たとえばイソオクタン)などの無極性溶媒またはそのような溶媒と低級アルカノール(たとえばイソプロパノール)および/もしくはエステル(たとえばエチルアセテート)などの他の極性溶媒との混合物を用いてシリカゲルにかけることにより、達成される。セミ分取HPLCに好ましい系は、シリカゲルおよび約1:10:89(体積基準)のイソプロパノール:エチルアセテート:イソオクタン混合物である。工程e)で用いられる分析用HPLCは、好適には、水または低級アルカノールなどの極性溶媒を用いて変性シリカゲルなどの非極性固定相のカラムで行われる。本明細書中で使用される「変性シリカゲル」という用語は、たとえば、C18炭化水素部分でエーテル化されたシリカゲル(たとえば、英国ランコーンのサーモ・ハイパーシル・キーストーン(Thermo Hypersil−Keystone,Runcorn,UK)により供給されるアクアシルC18(Aquasil C18))などの逆相シリカゲルを意味する。
【0006】
質量分析測定に基づいて工程g)で求められるサンプル中の25−ヒドロキシコレカルシフェロールの量は、以下に示される式により算出される:
【数1】


RF=応答係数;RRF=相対応答係数;ISD=内部標準溶液;HD=25−ヒドロキシコレカルシフェロール;c=濃度[ng/ml]。
【0007】
相対応答係数(RRF)は、メタノール:水(70:30)の溶液中に25−ヒドロキシコレカルシフェロールおよび26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロールの両方を約5ng/mlで含んでなる溶液を用いて決定される。
【0008】
以下の実施例により、本発明についてさらに説明する。
【実施例】
【0009】
A.抽出:10gの飼料サンプル(28.6%のダイズ、3%のフィッシュミール、2%のダイズ油、57.3%のトウモロコシ、2%のトウモロコシデンプン、2 5のリグノスルホネート、3.1%のコメ、2%のミネラルミックスからなる混合物を含む)をエルレンマイヤーフラスコ中に秤量した。約500ngの26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロール(50mlのメタノール中に2.5mgの26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロールを含んでなる溶液0.01ml)および60mlの水をそれに添加し、スラリーを50℃の超音波処理浴中で10分間処理した。次に、40mlのtert−ブチルメチルエーテルを添加し、混合物を激しく5分間振盪し、再び5分間超音波処理し、そして遠心分離した。10mlの有機上澄みを分離し、酸素を排除してエバポレートした。
【0010】
B.セミ分取HPLC:残渣を2mlの移動相(イソプロパノール:エチルアセテート:イソオクタン(1:10:89))に溶解させ、遠心し、透明上澄みの100μlアリコートをハイパーシルSi60(Hypersil Si 60)、3μm、120Å、150×4.6mm(シャンドン(Shandon))のセミ分取HPLCカラムに注入した。流量は、1.0ml/分であった。14〜16分の画分を捕集し(開始前に混合標準溶液を注入することにより画分分離をチェックした)、窒素ストリーム中、50℃でエバポレートした。超音波浴を用いて残渣を0.7mlのメタノールに溶解させた。次に、0.3mlの水を添加し、質量分析計と組み合わされた分析用HPLCカラムに溶液を注入した。
【0011】
C.分析用HPLC:特定質量検出器と組み合わされたクロマトグラフィーシステムを利用して、分析用HPLCを行った。特定質量検出器の前方にあるクロマトグラフィーシステムは、測定対象の物質が濃縮されるトラッピングカラムと分離に供される固有の分析カラムとからなっていた。
【0012】
装置を図4に模式的に示す。図4中、「TC」はトラッピングカラムを意味し、「AC」は分析カラムを意味し、「MSD」は特定質量検出器を意味する。「A」および「B」は、異なる動作モードにおけるクロマトグラフィーシステムの移動相の受け部を記号で表したものである。
【0013】
トラッピングカラム(TC)では、固定相は、アクアシルC18(Aquasil C18)、3μm、2.0×10mmであった。分析カラム(AC)では、固定相は、アクアシルC18(Aquasil C18)、3μm、3.0×150mmであった。移動相は、水(0.05%のHCOOHを含有する)およびメタノール/水(0.05%のHCOOHを含有する)グラジエントであった。システムの動作パラメーターは、以下のとおりであった:
【0014】
【表1】

【0015】
以下の表1に示されるスキームに従ってクロマトグラフィーを行った:
【0016】
【表2】

【0017】
特定質量検出器(MSD)のパラメーターは、以下のとおりであった:
【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
上記の装置および動作モードを用いて、標準溶液、ブランク飼料サンプル(25−ヒドロキシコレカルシフェロールは存在せず)、および典型的飼料サンプルを分析した。次のように標準溶液を調製した:
【0021】
1. 25−ヒドロキシコレカルシフェロール
2.5mgの25−ヒドロキシビタミンDを50mlのメタノールに溶解させた。この溶液の2mlをメタノールで200mlに希釈して500ng/mlを含有する溶液を得た。
【0022】
2. d−25−ヒドロキシコレカルシフェロール(内部標準)
2.5mgのd−25−ヒドロキシコレカルシフェロールを50mlのメタノールに溶解させた。この溶液の2mlをメタノールで200mlに希釈して500ng/mlを含有する溶液を得た。
【0023】
3. 25−ヒドロキシコレカルシフェロールの溶液(1.)およびd−25−ヒドロキシコレカルシフェロールの溶液(2.)の各1mlをメタノール:水(70:30)で100mlに希釈して1mlあたり5ngのヒドロキシル化コレカルシフェロールを含有する溶液を得た。
【0024】
上記のパラグラフA.に記載した手順と同様にしてブランク飼料サンプルを分析した。
【0025】
標準溶液、ブランク飼料サンプル、および典型的飼料サンプルの抽出イオンクロマトグラムを図1〜3に示す。先に与えられた式により25−ヒドロキシコレカルシフェロールの量を算出した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例に係る標準溶液の抽出イオンクロマトグラムである。
【図2】本発明の実施例に係るブランク飼料サンプルの抽出イオンクロマトグラムである。
【図3】本発明の実施例に係る典型的飼料サンプルの抽出イオンクロマトグラムである。
【図4】本発明の実施例に係る分析用HPLCの装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)飼料サンプルを水中に分散して、25−ヒドロキシコレカルシフェロールと異なる質量を有しかつ25−ヒドロキシコレカルシフェロールと類似しているが異なる極性を有する規定量の内部標準化合物を該サンプルに添加する工程と;
b)この水性分散液をtert−ブチルメチルエーテルで抽出する工程と;
c)このエーテル抽出物をセミ分取HPLCにかける工程と;
d)25−ヒドロキシコレカルシフェロールおよび該内部標準化合物を含有する画分を捕集する工程と;
e)d)で捕集された画分またはそのアリコートを質量分析と組み合わされたHPLCにかける工程と;
f)25−ヒドロキシコレカルシフェロールのMSピーク面積および添加された該内部標準化合物のMSピーク面積を決定する工程と;
g)測定された該MSピーク面積を計算処理にかけて25−ヒドロキシコレカルシフェロールの量を算出する工程と;
を含む、動物用飼料中の25−ヒドロキシ−コレカルシフェロールの定量方法。
【請求項2】
前記標準化合物が、26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロール、25−ヒドロキシ−エルゴカルシフェロール、または1α−ヒドロキシ−コレカルシフェロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標準化合物が26,27−ヘキサジュウテロ−25−ヒドロキシコレカルシフェロールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記セミ分取HPLCが、固定相としてシリカゲルかつ移動相としてイソプロパノール:エチルアセテート:イソオクタン混合物を用いて行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記移動相が、約1:10:89の比(体積基準)のイソプロパノール:エチルアセテート:イソオクタンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記固定相が、ハイパーシルSi60(Hypersil Si 60)、3μmである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記分析用HPLCが、測定対象の物質が濃縮されるトラッピングカラムと分離に供される固有の分析カラムとを含むクロマトグラフィーシステムで行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分析用HPLCの固定相が、アクアシルC18(Aquasil C18)、3μmなどの変性シリカゲルである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
0.05%(vol/vol)のギ酸を含有する水と0.05%(vol/vol)のギ酸を含有するメタノールとのグラジエントが、移動相として使用される、請求項7または8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−514152(P2007−514152A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543420(P2006−543420)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013427
【国際公開番号】WO2005/059565
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】