説明

飽和ポリエステル樹脂

【課題】本発明は、飽和ポリエステル樹脂の原料として、テルペン骨格を有する特殊なジメチロール化合物を必須成分とすることにより、従来の飽和ポリエステル樹脂を改良し、より耐薬品性や耐熱性に優れた飽和ポリエステル樹脂を提供する事を目的とする。
【解決手段】α−ピネン、β−ピネン、カレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、d−リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物を使用したテルペン骨格を有する特殊なジメチロール化合物を必須成分とする飽和ポリエステル樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性、耐熱性等に優れた飽和ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、飽和ポリエステル樹脂としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ポリ1,4−シクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリアリレート(ビスフェノールAとフタル酸類の重縮合物)、ポリ−p−オキシベンゾイル、およびそれらの共重合物などがある。

【0003】
しかしながら、上記のような一般的な飽和ポリエステル樹脂は、耐薬品性、耐熱性に優れていないのが現状である(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭60−32813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の飽和ポリエステル樹脂を改良し、より耐薬品性、耐熱性に優れた飽和ポリエステル樹脂を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】

本発明は上記課題を解決するため、次のような飽和ポリエステル樹脂を提案した。すなわち、テルペン骨格を有するジメチロール化合物を必須成分とする飽和ポリエステル樹脂である。
【0006】
ここで、テルペン骨格を有するジメチロール化合物は、具体的には、式(1)で表される化合物などである。
【0007】
【化2】

……式(1)
【発明の効果】
【0008】
本発明の飽和ポリエステル樹脂は、モノマー成分として、単にテルペン骨格を有するジメチロール化合物を使用するか、あるいは他のアルコール化合物とブレンドし反応するだけで、より耐薬品性や耐熱性に優れた飽和ポリエステル樹脂を工業的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いられるテルペン骨格を有するジメチロール化合物や他の二価アルコール化合物等のアルコール化合物、二塩基酸等について説明する。

【0010】
本発明のテルペン骨格を有するジメチロール化合物は、式(1)で表される化合物などでであるが、具体的な化合物として、式(2)で表されるジメチロール化合物も挙げられる。しかしながら、これら式(1)、式(2)の化合物に限定されるものではない。
【0011】
【化3】


……式(2)
【0012】
また、式(1)、式(2)で表されるジメチロール化合物には、シス型とトランス型の幾何異性体が存在するが、本発明のジメチロール化合物は、シス型、トランス型にとらわれない。ただし、本発明のジメチロール化合物をポリマー原料に使用する場合は、トランス型が好ましく用いられる。
【0013】
本発明のジメチロール化合物は、次に示すような方法で製造することが出来るが、これに限定されるものではない。
すなわち、(a)テルペン化合物と、(b)不飽和ジカルボン酸、その酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルから選ばれた少なくとも1種の化合物を反応させ、つづいて、還元反応を行うことにより本発明のジメチロール化合物が得られる。
【0014】
この(a)テルペン化合物は、特に制限はないが、通常、α−ピネン、β−ピネン、カレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、d−リモネン、ジペンテン、ターピノーレン、ミルセン、アロオオシメン、α−フェランドレン、β−フェランドレン、パラメンタジエン類、ピロネン、カンフェンなどを用いることができる。好ましくはd−リモネン、ジペンテン、α−フェランドレン、β−フェランドレン、α−テルピネンなどが用いられる。テルペン化合物は、単独または2種以上を併用して使用してもよい。
【0015】
また、(b)不飽和ジカルボン酸、その酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルは、特に制限はないが、通常、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸ジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸ジアルキルエステルなどを用いることができる。好ましくは不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルが用いられる。
これら不飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルは、単独または2種以上を併用して使用してもよい。
また、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルのアルキル成分としては、特に制限はなく、例えば、ジメチル、ジエチル、ジプロピル、ジブチルなどが挙げられる。
【0016】
上記テルペン化合物と不飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルから選ばれた少なくとも1種の化合物の反応としては、特に限定されないが、通常、環化付加反応が用いられる。好ましくはディールス−アルダー反応と呼ばれる環化付加反応が用いられる。このようにして得られる化合物は、通常、二重結合を有する環化付加反応物である。
【0017】
この環化付加反応の反応方式は特に限定されないが、バッチ反応でも連続反応でも反応できる。
【0018】
この環化付加反応の反応温度は、通常、0〜250℃、好ましくは30〜200℃、さらに好ましくは50〜180℃に加熱することで反応が行なわれる。反応温度が0℃未満だと反応速度が極端に遅く、また250℃を超えると、重合などの副反応が顕著になり好ましくない。
【0019】
この環化付加反応は、通常、無触媒で行われるが、触媒を用いて行ってもよい。反応触媒としては特に限定されないが、好ましくは通常、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、活性白土などの酸触媒が用いられる。
【0020】
このようにして得られた二重結合を有する環化付加反応物に、続いて還元反応を行うと、目的のジメチロール化合物が得られる。還元反応の方法は特に限定されないが、通常、以下の2通りの方法が挙げられる。
すなわち、第1の方法は、まず触媒の存在下で水素による環化付加反応物の二重結合の水素添加反応を行った後、還元剤にて不飽和ジカルボン酸、その酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルを還元してジメチロール化合物を得る方法である。
【0021】
この水素添加反応で使用される触媒としては、特に限定されるものではなく、通常、水素添加反応用の金属触媒が用いられる。例えば、ニッケル系、銅系、パラジウム系、白金系などの触媒が挙げられる。また、水素添加反応の温度は、0〜300℃が好ましく、さらに好ましくは25〜100℃である。
【0022】
また、この還元反応で使用される還元剤は、特に限定されるものではないが、例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化硼素ナトリウム、ナトリウム水素化ビス(2−エトキシメトキシ)アルミニウムなどの還元剤が挙げられる。
【0023】
この還元反応の反応温度は、通常、0〜120℃、好ましくは30〜100℃で反応が行われる。
【0024】
また、第2の還元反応の方法は、触媒を用い水素による接触水素化還元反応により、環化付加反応物の二重結合および不飽和ジカルボン酸、その酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルを還元してジメチロール化合物を得る方法である。
【0025】
その際使用される触媒は、特に限定されるものではなく、通常使用される接触還元触媒が使用できる。例えば、銅−クロム系触媒、銅−鉄−アルミニウム系触媒、パラジウム系、白金系、ルテニウム系などの金属系触媒などが挙げられる。また、温度は、0〜500℃が好ましく、さらに好ましくは100〜300℃である。
また、前記水素化触媒で二重結合を水素添加したのちに、銅−クロム系触媒、銅−鉄−アルミニウム系触媒などの還元触媒で不飽和ジカルボン酸、その酸無水物、不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステルを還元することもできる。
【0026】
このようにして生成したジメチロール化合物は、精製することにより高純度の製品として得られる。その精製方法は特に限定されないが、例えば、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0027】
以上の本発明のジメチロール化合物は、赤外線吸収スペクトルにより、O−H伸縮に起因する3300cm−1、C−H伸縮に起因する3000〜2800cm−1、C−H変角に起因する1500〜1350cm−1、C−O伸縮に起因する1030cm−1のピークにより確認することができる。
また、1H−NMRチャートにより、ビシクロ環および側鎖に起因する0.77〜1.76ppmのピーク、水酸基に隣接するメチレン基に起因する3.22〜3.89ppmのピーク、水酸基に起因する3.98ppmのピークにより確認することができる。
【0028】
さらに、13C−NMRおよびDEPTチャートにより、ビシクロ環および側鎖に起因する16.8〜50.1ppmのピーク、水酸基に隣接するメチレン基に起因する63.1および64.3ppmのピークにより確認することができる。
【0029】
本発明のテルペン骨格を有するジメチロール化合物は、他のアルコール化合物とブレンドして使用してもよい。ブレンドされる他のアルコール化合物としては、グリコール類、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。さらにグリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールジオキシエチルエーテルなどが挙げられる。
【0030】
本発明で使用される二塩基酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0031】
本発明のテルペン骨格を有するジメチロール化合物の飽和ポリエステル樹脂の反応は、次のような、公知の反応である。
ただし、他の二価アルコール化合物などのアルコール化合物は、本発明のテルペン骨格を有するジメチロール化合物と共に使用してもよい。
【0032】
第一の反応として、上記のジカルボン酸およびジメチロール成分を150〜250℃でエステル化反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合するものである。
【0033】

別の第二の反応として、上記ジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とジメチロール成分を用いて150〜250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合するものである。
【0034】
また、本発明の飽和ポリエステル樹脂は、その他、カルボン酸ジクロライドを用いる溶液重合法や界面重合法で製造することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により説明する。ただし本発明は実施例により限定されるものではない。
実施例1
テルペン骨格を有するジメチロール化合物の製造:
冷却管、温度計、撹拌棒を備えた500ml三つ口フラスコに、α−テルピネン71g(0.5モル)およびフマル酸58g(0.5モル)を仕込み、撹拌しながら昇温して、150〜160℃で12時間反応した。反応後、アセトンから再結晶することにより、フマル化α−テルピネン79g(α−テルピネン基準で収率60%、純度96%)を得た。
【0036】
続いて、電磁撹拌装置を備えた内容500mlのオートクレーブに、上記で得られたフマル化テルピネン71g(0.27モル)、2−プロパノール140g、および粉末状の5%パラジウムカーボン触媒0.7gを仕込んだ。次いで、これを密閉し、雰囲気を窒素ガスで置換した後、水素ガス15kg/cm2の圧力をかけながら導入した。そして、撹拌を開始すると、内温が27℃から32℃へ上昇した。吸収された水素を補うことで圧力を15〜20kg/cm2に保ちながら4時間反応させた。その後、得られた懸濁液をブフナーロートで吸引ろ過を行い、触媒をろ別した。その後、ろ液を減圧濃縮することにより、水素化フマル化α−テルピネン69g(収率95%、純度95%)を得た。
【0037】
次に、冷却管、温度計、撹拌棒、滴下ロートを備えた2l四つ口フラスコに、窒素気流下、脱水テトラヒドロフランを500ml入れ、水素化リチウムアルミニウム26.1g(0.687モル)を加えた。混合液を、65℃で30分間環流させた後、加熱をやめ、ここに上記のようにして得られた水添フマル化α−テルピネン60g(0.224モル)をテトラヒドロフラン300mlに溶解した溶液を3時間かけて滴下した。混合液を65℃で12時間環流させた後、0℃付近に冷却し、水を26ml、4規定水酸化ナトリウム水溶液を26ml、水80mlを順次加えた。灰色の部分がなくなるまで撹拌し、酢酸エチルを加え、油層と水層に分離した。油層を減圧蒸留にて溶媒を除去し、粗生成物53gを得た。これをカラムクロマトグラフィーで精製することにより、式(1)で表されるジメチロール化合物の白色結晶20g(収率40%、純度99%)を得た。
【0038】
上記ジメチロール化合物252g(1モル)、フタル酸352g(2モル)、エチレングリコール62g(1モル)を密閉したステンレス製の反応釜に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら、230℃に上げて約2時間反応させた。縮合水は放出口からガスと共に除去した。次いで、このエステル化物を1Torr以下にし270〜300℃で加熱し、重縮合反応を進行させ、飽和ポリエステル樹脂を試作した。
【0039】
得られた飽和ポリエステル樹脂から、厚さ3mm以下、重さ30gの試験片を作成し、下記の耐薬品・耐熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
耐薬品・耐熱性の評価
・耐アルカリ試験:試験片を、10%水酸化ナトリウム水溶液の中に入れ、2時間煮沸し、重量の変化を測定した。
・煮沸試験:試験片を、沸騰水の中に100時間入れ、重量の変化を測定した。
【0040】
比較例1
フタル酸352g(2モル)、エチレングリコール124g(2モル)を使用して、実施例1と同様の方法で飽和ポリエステル樹脂を製造し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の飽和ポリエステル樹脂は、モノマー成分として、単にテルペン骨格を有するジメチロール化合物をブレンドし反応するだけで、より耐薬品性や耐熱性に優れた飽和ポリエステル樹脂を工業的に製造することが可能となり、浄化槽、タンクなど各種分野に展開可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルペン骨格を有するジメチロール化合物を必須成分とする飽和ポリエステル樹脂。
【請求項2】
テルペン骨格を有するジメチロール化合物が、式(1)である請求項1記載の飽和ポリエステル樹脂。
【化1】

……式(1)

【公開番号】特開2006−199881(P2006−199881A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15124(P2005−15124)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】