説明

飽和蒸気加熱機

【課題】 電気ヒータの過熱を防止しつつ、そのために余分に必要な貯留水の水量を低減し、電気ヒータの電力使用量を低減する。
【解決手段】 処理槽2内には、被加熱物3が収容されると共に、貯水部7に水が貯留される。貯水部7には、電気ヒータ8の発熱部50が差し込まれて設けられる。貯水部7内には、電気ヒータ8と接触しない位置に、水量低減材66が設けられる。水量低減材66は、水よりも容積比熱が小さい材料から形成され、貯水部7内の貯留水に沈められて設けられる。貯水部7内に予め貯留しておいた水を電気ヒータ8により加熱して、これにより生ずる蒸気で処理槽2内の被加熱物3の加熱が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理槽内に収容した被加熱物を蒸気で加熱するための蒸気加熱機に関するものである。特に、処理槽内に予め貯留しておいた水を加熱して、これにより生ずる蒸気で処理槽内の被加熱物を加熱調理または滅菌処理する貯水型の飽和蒸気加熱機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
出願人は、先に、処理槽内に予め貯留しておいた水を電気ヒータにより加熱して、これにより生ずる蒸気で処理槽内の被加熱物の加熱を図る飽和蒸気加熱機の改良について提案し、既に特許出願を済ませている(特願2006−349570など)。このような貯水型の飽和蒸気加熱機の場合、電気ヒータの過熱を防止するには、電気ヒータへの通電時に、貯水部内において電気ヒータの上部まで常に水に浸かっていなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電気ヒータを常に貯水部内の水に埋没させるとすると、その分だけ水が余分に必要となる。すなわち、貯水部内の電気ヒータの最上部よりも下方の水は、蒸発させる訳にはいかず、その分の水は余分といえる。このことは、単に水の使用量を増加させるだけでなく、その分の水を加熱する必要性から、電気の使用量も増加させることになる。また、余分な水を加熱する関係上、蒸気を発生させるまでに時間を要してしまう。これに対応するために、電気ヒータのヒータ容量を大きくするのでは、コストの増大を招いてしまう。
【0004】
この発明が解決しようとする課題は、処理槽内への給水量を低減することにある。特に、電気ヒータの過熱を防止しつつ、そのために余分に必要な貯留水の水量を低減し、電気ヒータの電力使用量を低減することを課題とする。また、これにより、電気ヒータのヒータ容量を低減しつつ、短時間で貯留水を蒸気化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、貯水部を有すると共に被加熱物が収容される処理槽と、前記貯水部内に貯留される水を加熱する電気ヒータと、前記貯水部内に一部または全部を収容され、前記貯水部内に貯留される水量を低減する水量低減材とを備え、前記貯水部内に予め貯留しておいた水を前記電気ヒータにより加熱して、これにより生ずる蒸気で前記処理槽内の前記被加熱物の加熱を図ることを特徴とする飽和蒸気加熱機である。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、水量低減材により貯水部内に貯留される水量を低減することができる。また、これにより、電気ヒータの電力使用量も低減することができる。しかも、水量の低減は、処理槽内に水量低減材を設けることで行うので、処理槽の形状を特殊に加工することなく、簡易に達成することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記水量低減材は、水よりも容積比熱が小さい材料から形成され、前記貯水部内の前記電気ヒータに接触しないと共に、前記貯水部内の前記電気ヒータの最上部よりも下方の貯水量を低減する大きさおよび配置で、一部または全部が前記貯水部内に貯留される水に沈められることを特徴とする請求項1に記載の飽和蒸気加熱機である。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、水量低減材は、水よりも容積比熱が小さい材料から形成され、貯水部内の電気ヒータに接触しないよう設けられる。しかも、水量低減材は、貯水部内の電気ヒータの最上部よりも下方の貯水量を低減するように設けられる。これにより、電気ヒータの過熱を防止しつつ、水および電気の使用量を低減することができる。また、これにより、電気ヒータのヒータ容量を低減しつつ、短時間で貯留水を蒸気化することもできる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記処理槽は、一端面へ開口する略円筒状でその軸線を水平に配置される処理槽本体と、この処理槽本体の開口部を開閉する扉とを備え、前記処理槽本体は、前記開口部の下部領域が閉塞されて、内部空間の下部が前記貯水部とされ、前記電気ヒータは、前記処理槽本体の軸線と平行に、前記処理槽本体の他端面から前記貯水部内に差し込まれて設けられ、前記水量低減材は、細長く形成されており、前記電気ヒータと並ぶように、前記貯水部に対し着脱可能に設けられることを特徴とする請求項2に記載の飽和蒸気加熱機である。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、簡易な構成で、耐圧性に優れた飽和蒸気加熱機を構成することができる。また、水量低減材は、細長く形成されると共に、電気ヒータと並んで設けられるので、貯水部内の電気ヒータの最上部よりも下方の貯水量を効果的に低減することができる。さらに、水量低減材は、貯水部に対し着脱可能であるから、処理槽内の洗浄を容易に行うことができる。
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記被加熱物またはこれを収容する容器は、台座に載せられて前記処理槽内に収容され、前記台座は、その脚部が前記貯水部の底部に支持されて、座板が前記貯水部内に貯留される水よりも上方に保持され、前記台座の脚部が前記水量低減材を兼ねることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飽和蒸気加熱機である。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、被加熱物またはこれを収容する容器は、台座に載せられて処理槽内に収容されるが、その台座の脚部が水量低減材として機能することになる。従って、簡易な構成で、貯水部内の水量を低減して、水および電気の使用量を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の飽和蒸気加熱機によれば、水量低減材により貯水部内に貯留される水量を低減することができる。また、貯水部内の電気ヒータの最上部よりも下方の貯水量を低減するように水量低減材を設けることで、電気ヒータの過熱を防止しつつ、水および電気の使用量を低減することができる。これにより、電気ヒータのヒータ容量を低減しつつ、短時間で貯留水を蒸気化することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。
本発明の飽和蒸気加熱機は、処理槽内に予め貯留しておいた水を加熱して、これにより生ずる蒸気(飽和蒸気)で処理槽内の被加熱物の加熱を図る装置である。処理槽内の圧力を調整することで、処理槽内の飽和蒸気温度を調整して、被加熱物の加熱温度を変更することができる。
【0015】
被加熱物は、特に問わないが、たとえば食材または食品などの被調理物とされる。この場合、飽和蒸気加熱機は、飽和蒸気調理機ということができる。あるいは、被加熱物は、手術用メスなどの被滅菌物とされる。この場合、飽和蒸気加熱機は、蒸気滅菌器ということができる。
【0016】
飽和蒸気加熱機は、被加熱物が収容される処理槽と、この処理槽内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段と、減圧された処理槽内へ外気を導入する復圧手段と、処理槽内に貯留された水を加熱する電気ヒータとを備える。さらに、飽和蒸気加熱機は、処理槽内の蒸気を外部へ排出する排蒸手段を所望により備える。
【0017】
処理槽は、被加熱物を収容可能な中空構造に形成されている。具体的には、処理槽は、一側面へ開口して中空部を有する処理槽本体と、この処理槽本体の開口部を開閉する扉とから構成される。処理槽本体は、たとえば略円筒状とされ、その軸線を水平に配置されると共に、一端面へのみ開口して形成される。一方、扉は、たとえば略円板状とされ、処理槽本体の開口部を開閉可能に設けられる。扉が閉められた状態では、処理槽本体と扉との隙間はパッキンにより封止される。但し、処理槽の構成はこれに限らず、上方へのみ開口する有底円筒状の処理槽本体と、その開口部を開閉する扉とから構成するなどしてもよい。
【0018】
処理槽本体内は、被加熱物が収容される第一領域と、この第一領域と連通する第二領域とに上下に区画され、下方の第二領域に貯水部が設けられる。たとえば、横向き略円筒状でその一端面を開口させる処理槽本体の場合、その開口部の下部領域が閉塞されて、内部空間の下部が貯水部とされる。
【0019】
このような構成の処理槽には、減圧手段および復圧手段が接続されると共に、処理槽内の圧力を検出する圧力センサと、被加熱物の温度(品温)を検出する品温センサとが設けられる。また、処理槽内の貯水部には、貯留水を加熱するための電気ヒータと、貯留水の温度(水温)を検出する水温センサとが設けられる。
【0020】
ところで、貯水部への給水は、処理槽に接続した給水手段により行われる。但し、扉を開けた処理槽本体の開口部から、貯水部への給水作業を行ってもよい。一方、貯水部からの排水は、貯水部の底部に接続した排水手段により行われる。
【0021】
減圧手段は、処理槽内の気体を外部へ吸引排出する手段である。減圧手段は、真空ポンプ、またはそれに代えてもしくはそれに加えて、蒸気エゼクタまたは水エゼクタを備える。減圧手段は、排気路を介して、処理槽に接続される。排気路の中途には真空弁が設けられ、この真空弁は開度調整可能なものが好ましい。
【0022】
減圧手段は、さらに熱交換器を備えるのが望ましい。熱交換器は、減圧手段として真空ポンプを備える場合には、真空ポンプより上流側に設けられ、減圧手段として蒸気エゼクタを備える場合には、蒸気エゼクタより下流側に設けられる。熱交換器は、排気路内の蒸気を、冷却し凝縮させるものである。この冷却および凝縮作用をなすために、熱交換器には水が供給され、排気路の冷却が図られる。排気路内の蒸気を予め熱交換器で凝縮させておくことで、その後の真空ポンプの負荷を軽減して、減圧能力を高めることができる。
【0023】
復圧手段は、減圧された処理槽内へ外気を導入して、処理槽内を復圧する手段である。復圧手段は、給気路を介して、処理槽に接続される。給気路の中途には真空解除弁が設けられ、この真空解除弁を開くことで、処理槽内を大気圧まで復圧することができる。処理槽内への外気の導入は、衛生面を考慮して、フィルタを介して行うのが望ましい。
【0024】
電気ヒータは、貯水部に貯留された水を加熱するために設けられ、たとえばシーズヒータまたはフランジヒータなどから構成される。処理槽本体が、横向き略円筒状で一端面へ開口する構成の場合、電気ヒータは、処理槽本体の軸線と平行に、処理槽本体の他端面から貯水部内に差し込まれて設けられるのがよい。
【0025】
処理槽本体の貯水部内には、一または複数の水量低減材が設けられる。水量低減材は、少なくとも一部を貯水部内に収容されることで、貯水部内に貯留される水量を低減する。この際、貯水部内の電気ヒータの最上部よりも下方の貯水量を低減する大きさおよび配置で、一部または全部が貯水部内に貯留される水に沈められて設けるのが好ましい。これにより、電気ヒータの過熱を防止しつつ、水および電気の使用量を低減することができる。
【0026】
水量低減材は、水よりも容積比熱が小さい材料から形成されれば、その材質を特に問わない。従って、各種の金属や合成樹脂などから形成することができる。また、水量低減材は、中実構造ではなく、中空構造に形成されてもよい。但し、水量低減材を中空構造とする場合、貯留水の水量を有効に低減できるように、中空部は密閉された構成とするのがよい。
【0027】
水量低減材は、貯水部内の電気ヒータに接触しないように設けられる。たとえば、横向き略円筒状の処理槽本体の場合、その軸線と平行に電気ヒータを設けると共に、細長く形成した水量低減材を、電気ヒータと並ぶように設けるのがよい。また、水量低減材は、処理槽本体に対し着脱可能に設けるのがよい。これにより、水量低減材を取り外すことで、処理槽内の洗浄を容易に行うことができる。また、大きさの異なる水量低減材と取替え可能としてもよく、その場合には、貯水部の水位検出手段の構成および制御を変えることなく、貯水量を容易に変更することができる。
【0028】
ところで、処理槽内に被加熱物を収容するための台座の脚部が、水量低減材を兼ねてもよい。この場合、被加熱物またはこれを収容する容器は、台座に載せられて処理槽内に収容される。そして、台座は、その脚部が貯水部の底部に支持されて、座板が貯水部内に貯留される水よりも上方に保持され、その座板に被加熱物が載せられる。
【実施例1】
【0029】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の飽和蒸気加熱機の実施例1を示す概略斜視図であり、扉を開いた状態を示している。また、図2と図3は、本実施例の飽和蒸気加熱機の正面視概略構成図と側面視概略構成図であり、それぞれ一部を断面にして示している。本実施例の飽和蒸気加熱機1は、処理槽2内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により食材または食品を加熱する貯水型の飽和蒸気調理機である。
【0030】
本実施例の飽和蒸気加熱機1は、被加熱物3が収容される中空構造の処理槽2と、この処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段4と、減圧下の処理槽2内へ外気を導入する復圧手段5と、処理槽2内から蒸気を排出する排蒸手段6と、処理槽2内の貯水部7に貯留された水を加熱する電気ヒータ8と、貯水部7に水を供給する給水手段9と、貯水部7から水を排出する排水手段10と、処理槽2内の圧力を検出する圧力センサ11と、処理槽2内に収容された被加熱物3の温度を検出する品温センサ12と、貯水部7に貯留された水の温度を検出する水温センサ13と、貯水部7内の水位を検出する水位センサ14,15と、これら各センサ11,12,13,14,15の検出信号や経過時間などに基づき前記各手段4,5,6,8,9,10を制御する制御手段16とを備える。ここで、被加熱物3は、本実施例では食材または食品である。また、以下において、被加熱物3の温度を「品温」、貯水部7に貯留された水を「貯留水」、この貯留水の温度を「水温」ということがある。
【0031】
図1に示すように、本実施例の飽和蒸気加熱機1は、パネル17で覆われてボックス状とされ、架台18の上に設置される。架台18は、飽和蒸気加熱機1の四隅を支える支柱19,19,…を備え、各支柱19の下端部にはアジャスト脚20が設けられる。各アジャスト脚20は、床面に設置される逆椀状の受座21と、この受座21から上方へ延出すると共に受座21に対し回転自在なネジ棒22と、このネジ棒22に進退可能にねじ込まれるロックナット23とを備える。このようなアジャスト脚20は、そのネジ棒22の上部が、支柱19の下端部に進退可能にねじ込まれて設けられる。従って、支柱19の下端部にロックナット23を締め付けることで、支柱19から下方へのネジ棒22の突出量を固定できる一方、そのロックナット23を緩めて支柱19に対しネジ棒22を回転させて前記突出量を調整できる。
【0032】
架台18の左右両端部において、前後の支柱19,19の下端部同士は、第一接続材24にて架け渡される。そして、架台18の前後方向中途部において、左右の第一接続材24,24同士は、第二接続材25にて架け渡される。第二接続材25は、左右方向へ沿って配置され、左右両端部にキャスタ26,26が設けられる。各キャスタ26は、旋回不能で、その車軸を左右方向へ沿って配置される。
【0033】
飽和蒸気加熱機1は、通常、キャスタ26の車輪を浮かした状態で、四隅のアジャスト脚20にて設置される。そして、メンテナンスなどのために、飽和蒸気加熱機1を前後へ移動させたい場合には、手前側二箇所に設置されたアジャスト脚20,20を縮めればよい。これにより、手前側左右のアジャスト脚20,20に代えてまたはこれに加えて、それよりやや後方のキャスタ26,26の車輪が接地されることになる。従って、このキャスタ26,26を用いて、飽和蒸気加熱機1を前後へ容易に移動させることができる。飽和蒸気加熱機1の重心は、キャスタ26の設置位置かそれよりも前方に配置されるので、前方左右のアジャスト脚20,20を縮めると、後方左右のアジャスト脚20,20が僅かに浮き上がるので、前方を起こしながらキャスタ26,26を用いた移動を容易に行うことができる。
【0034】
架台18の上に設置されたボックス状の飽和蒸気加熱機1は、手前側へ開口して処理槽2が設けられ、その扉27は左右に開閉可能とされる。また、ボックス状の飽和蒸気加熱機1は、手前側の右上部に操作パネル28が設けられる。
【0035】
処理槽2は、金属製であり、手前側へ開口して中空部を有する処理槽本体29と、この処理槽本体29の開口部を開閉する扉27とを備える。処理槽本体29は、円筒状に形成され、その軸線を前後方向へ沿って水平に配置される。扉27は、処理槽本体29の開口部よりも大径の円板状に形成される。
【0036】
飽和蒸気加熱機1の前面には、処理槽本体29の開口部の上下と対応した高さ位置に、左右方向へ沿ってドアレール30,30が設けられる。上下のドアレール30,30は、互いに平行で水平に配置される。各ドアレール30は、図3に示すように、扉27を案内するために、断面略コ字形状のレール溝31を形成する。上下のレール溝31,31は、上下方向内側へ開口して、上下に対向して配置される。
【0037】
各ドアレール30は、処理槽本体29の上下から右側へ延出して設けられる。処理槽本体29には、開口部側の外周面に、径方向外側へ延出して略正方形状のフランジ32が設けられる。そして、このフランジ32の上下両端辺部が、上下のレール溝31,31内に収容されて、処理槽本体29にドアレール30,30の左端部が固定される。
【0038】
扉27は、フランジ32と対応する大きさの円板状とされ、前面には円環状のハンドル33が固定されている。このような構成の扉27は、上下が各レール溝31に保持され、ドアレール30に沿って転がして左右に移動させることができる。この際、ハンドル33を持って作業することができる。但し、円板状の扉27を左右に移動させる際には、必ずしもレール溝31内を転がるだけでなく、多少の滑りがあってもよい。
【0039】
本実施例では、扉27を回転させることによって、処理槽本体29の開口部を全閉または全開することができる。全閉位置では、扉27が処理槽本体29のフランジ32と重ね合わされるように配置され、処理槽本体29の開口部が扉27で覆われる。一方、全開位置では、扉27が処理槽本体29の右側に配置され、処理槽本体29の開口部が完全に露出される。全閉および全開の各位置において、扉27の位置決めを図るために、下側のレール溝31内に位置決めガイド(図示省略)を設けておくのがよい。
【0040】
処理槽本体29のフランジ32の前面には、処理槽本体29の開口部を取り囲むように連続的にパッキン34が設けられる。このパッキン34は、後方へ開口した略コ字形状断面に形成されており、処理槽本体29の開口部を取り巻くように形成されたパッキン溝35内に収容されている。パッキン溝35は、パッキンエア路36を介して、エアコンプレッサ37または真空ポンプ38に択一的に接続される。この真空ポンプ38は、減圧手段4のものと共用される。
【0041】
エアコンプレッサ37と真空ポンプ38との内、いずれをパッキン溝35と接続するかは、パッキンエア路36の中途に設けたパッキンエア弁39により切り替えられる。具体的には、パッキンエア弁39は、電動三方弁から構成され、パッキン溝35、エアコンプレッサ37および真空ポンプ38に接続され、パッキン溝35とエアコンプレッサ37とを連通させるか、パッキン溝35と真空ポンプ38とを連通させる。パッキンエア弁39と真空ポンプ38との間には、逆止弁40が設けられる。
【0042】
処理槽本体29の開口部を扉27で封止するには、扉27をフランジ32と重ねるように全閉位置に配置した状態で、エアコンプレッサ37からの圧縮空気を利用して、パッキン溝35を加圧すればよい。これにより、パッキン34は、扉27側へ押し出され、扉27の後面に円環状に密着する。この際、扉27は、その上下両端部において、ドアレール30の前片にパッキン34にて押し付けられる。この状態では、摩擦により扉27を無理に開くことはできない。扉27は常時、レール溝31内に保持されるので、扉27が飛ぶなどの事故は確実に防止される。
【0043】
逆に、処理槽本体29と扉27との密着を解除するには、パッキンエア弁39を操作して、パッキン溝35に真空ポンプ38を接続すればよい。これにより、真空ポンプ38の吸引力を利用して、パッキン34をパッキン溝35内に戻して収容することができる。そして、扉27をドアレール30に沿って、右へ転がして開けることができる。
【0044】
横向き円筒状の処理槽本体29内の中空部は、上下方向中央部からやや下方位置に、板状の隔壁41が水平に設けられて、上下に仕切られる。この隔壁41は、たとえば薄いステンレス板から構成され、処理槽本体29に対し着脱可能に保持される。これにより、処理槽本体29内には、隔壁41より上部に第一領域42が形成され、隔壁41より下部に第二領域43が形成される。
【0045】
隔壁41は、略矩形板状に形成されており、その前後方向寸法は、処理槽本体29の前後方向内寸よりも若干短い。隔壁41は、処理槽本体29の上下方向中央部よりやや下方位置に、水平に保持される。そのため、その左右方向寸法は、処理槽本体29の中空部の内径よりもやや短い。第一領域42と第二領域43とは、隔壁41に形成した連通穴44,44,…を介して、互いに連通される。本実施例では、隔壁41の左右両端部に、複数の連通穴44,44,…が形成されている。
【0046】
第一領域42は、被加熱物3の収容部とされ、第二領域43は、貯水部7とされる。そのために、処理槽本体29の開口部は、第二領域43と対応する下部が、略半円形状の垂直な前壁45にて閉塞される。第一領域42への被加熱物3の収容は、処理槽本体29の隔壁41に載せて行えばよい。本実施例では、隔壁41の左右方向中央部に、棚枠46が載せられ、この棚枠46に、被加熱物3を収容したホテルパン47が保持される。
【0047】
本実施例の棚枠46は、ステンレス製であり、枠材が略直方体状に組み立てられて構成される。すなわち、棚枠46は、棒材などを組み合わせて構成され、前後、左右および上下に開口した略直方体状とされる。そして、左右両側面部には、それぞれ前後方向へ延出して、略L字形状材48,48が上下に複数設けられる。図示例では、左右に二本ずつ、左右で対応した位置に、それぞれ略L字形状材48が設けられる。各L字形状材48は、棚枠46の左右でそれぞれ前後に離隔して配置された縦材49,49に垂直片が固定され、この垂直片の上端部に左右方向内側へ延出して水平片が配置されて設けられる。
【0048】
ホテルパン47は、周知のとおり、上方へのみ開口した略矩形状のステンレス製容器であり、上端部には外周に沿ってツバ部が形成されている。従って、ホテルパン47は、対向する二辺のツバ部が、左右の略L字形状材48の水平片に載せられて、棚枠46に水平に保持される。本実施例では、上下に二つのホテルパン47,47が収容可能とされている。棚枠46に対するホテルパン47の出し入れは、棚枠46の前方から行うことができる。本実施例の場合、処理槽2から棚枠46を取り外し可能であるから、被加熱物3の大きさや量に応じて、柔軟に対応することができる。
【0049】
処理槽2内の第一領域42には、減圧手段4と復圧手段5と排蒸手段6とが接続されると共に、圧力センサ11と品温センサ12とが設けられる。圧力センサ11は、処理槽2内の圧力を検出する。また、品温センサ12は、被加熱物3に差し込まれて、被加熱物3の温度を検出する。本実施例では、前述したように、被加熱物3はホテルパン47に入れられるから、品温センサ12はホテルパン47に差し込まれて使用される。
【0050】
一方、処理槽2内の第二領域43すなわち貯水部7には、給水手段9と排水手段10とが接続されると共に、水温センサ13と水位センサ14,15とが設けられる。水温センサ13は、貯水部7内に貯留された水の温度を検出する。また、水位センサは、高水位センサ14と低水位センサ15とから構成される。高水位センサ14は、貯水部7への給水時に、所定水位まで給水されたか否かを検出する。低水位センサ15は、貯水部7内の電気ヒータ8の発熱部50よりも水位が下がっていないかを監視する。飽和蒸気加熱機1の運転時、電気ヒータ8の発熱部50が水面から露出すると、電気ヒータ8が過熱するおそれがあるので、発熱部50の最上部よりも若干上方位置にて、低水位センサ15で水位の有無を監視する。本実施例では、2本の水位センサ14,15で貯水部7内の水位を検出しているが、これに限られるものではなく、1本の水位センサ14で水位を検出することも可能とされる。具体的には、高水位センサ14を設けて貯水部7への給水時に所定水位まで給水されたか否かを検出し、電気ヒータ8の発熱部50表面に温度センサ(図示省略)を取り付けて電気ヒータ8が過熱していないかを監視する。
【0051】
減圧手段4は、処理槽2内の空気や蒸気を外部へ吸引排出する手段である。具体的には、処理槽本体29の上部には排気路51が接続され、この排気路51には、処理槽2の側から順に、真空弁52、熱交換器53、逆止弁54および水封式真空ポンプ38が設けられる。本実施例の真空弁52は、電動弁から構成され、開度調整可能とされる。
【0052】
飽和蒸気加熱機1は、給水設備(図示省略)に接続されて使用されるが、その給水設備からの水は、封水熱交弁55を介して分岐した後、それぞれ定流量弁(図示省略)を介して、真空ポンプ38と熱交換器53とに供給される。封水熱交弁55は、電磁弁から構成され、真空ポンプ38の作動時に開かれる。真空ポンプ38からの排水は、排気セパレータ56にて気水分離された後、排気および排水される。一方、封水熱交弁55を介して熱交換器53へ供給される水は、排気路51を冷却する。すなわち、排気路51の中途に設けた熱交換器53に冷却用水が供給され、間接的な熱交換により、排気路51内の蒸気を冷却し凝縮させる。
【0053】
復圧手段5は、減圧下の処理槽2内へ外気を導入して復圧する手段である。具体的には、処理槽本体29の上部には給気路57が接続され、この給気路57は、除菌フィルタ58を介して外気と連通可能とされる。この給気路57の中途には、除菌フィルタ58の側から順に、真空解除弁59と逆止弁60とが設けられる。本実施例の真空解除弁59は、電動弁から構成される。真空解除弁59の開放により、処理槽2内は大気圧に開放可能とされる。
【0054】
排蒸手段6は、大気圧よりも高圧下の処理槽2内から蒸気を外部へ排出する手段である。具体的には、処理槽本体29の上部には排蒸路61が接続され、この排蒸路61には、処理槽2の側から順に、排蒸弁62と逆止弁63とが設けられる。本実施例の排蒸弁62は、電動弁から構成される。排蒸弁62の開放により、処理槽2内の蒸気は外部へ排出可能とされる。
【0055】
ところで、本実施例の飽和蒸気加熱機1では、排気路51、給気路57および排蒸路61は、処理槽2側の端部が共通路64とされる。すなわち、処理槽本体29の上部に接続された共通路64が三つに分岐されて、それぞれ排気路51、給気路57および排蒸路61とされる。但し、排気路51、給気路57および排蒸路61は、それぞれ個別に処理槽本体29に接続してもよい。
【0056】
電気ヒータ8は、処理槽2内の貯水部7に貯留される水を加熱する手段である。電気ヒータ8は、その種類を特に問わないが、たとえばシーズヒータまたはフランジヒータなどから構成される。本実施例の電気ヒータ8は、前後方向へ細長く形成されており、処理槽本体29の後壁65から前方へ発熱部50を差し込まれて設けられる。これにより、電気ヒータ8は、貯水部7の左右方向中央部の底部に、前後方向へ沿って設けられる。
【0057】
この際、電気ヒータ8の発熱部50は、処理槽本体29の底部にできるだけ近接させるのが好ましいが、処理槽本体29と接触させるのは好ましくない。しかも、「小型ボイラー及び小型圧力容器構造規格」に適合させる場合、処理槽本体29の後壁65の溶接位置との関係で、電気ヒータ8の取付位置を下方へ下げるにも限界がある。一方、電気ヒータ8の発熱部50は、その過熱を防止するために、貯水部7内において常に水中に埋没される必要がある。従って、発熱部50の最上部よりも下方の水は、蒸発させる訳にはいかず、電気ヒータ8を保護するために使用される。よって、この水が多いと、水および電気の使用量が増すと共に、蒸気を発生させるまでに時間を要することになる。そこで、この無駄を軽減するために、貯水部7内には、発熱部50の左右に水量低減材66,66がそれぞれ設けられる。
【0058】
本実施例の水量低減材66は、前後方向に細長い中空の丸棒状とされ、その中空部は前後両端部において閉塞されている。従って、水量低減材66の中空部内に水が浸入することは防止される。水量低減材66は、本実施例ではステンレスにより形成されるが、水よりも容積比熱が小さければ、その他の材料により形成してもよい。また、場合により、中空構造ではなく中実構造に形成してもよい。
【0059】
水量低減材66は、貯水部7内の水に自重で沈められて使用される。その際、貯水部7内の電気ヒータ8の左右において、電気ヒータ8と平行に前後に細長く設けられる。しかも、電気ヒータ8に接触しないように設けられる。具体的には、貯水部7の底部の左右には、斜め上方へ突出して支持ピン67,67が設けられている(図2)。支持ピン67は、貯水部7の左右において、それぞれ前後に離隔して少なくとも二本ずつ設けられる(図3)。そして、この前後の支持ピン67,67に保持されるように、電気ヒータ8の左右にそれぞれ水量低減材66が設けられる。
【0060】
本実施例の場合、貯水部7への水量低減材66の設置状態において、水量低減材66の周側面上部は、電気ヒータ8の発熱部50の最上部と同等位置に配置される。また、本実施例の場合、水量低減材66は、処理槽本体29の開口部から、貯水部7に対し着脱可能である。従って、処理槽本体29から水量低減材66を取り外すことで、処理槽本体29の洗浄を容易に行うことができる。
【0061】
給水手段9は、貯水部7への給水を行う手段である。具体的には、図3に示すように、処理槽本体29の後壁65には給水路68が接続され、この給水路68には、前記給水設備からの水が、給水弁69と逆止弁70とを介して供給可能とされる。このように、給水設備からの水は、封水熱交弁55を介して真空ポンプ38と熱交換器53とへ供給されると共に、給水弁69を介して処理槽2内の貯水部7へ供給される。本実施例の給水弁69は、電磁弁から構成され、貯水部7への給水の有無を切り替える。貯水部7への給水は、給水弁69を開くことにより行われ、高水位センサ14が水位を検出すると、給水弁69は閉じられる。給水路68を介した貯水部7への給水は、飽和蒸気加熱機1の運転開始時に、処理槽2内が大気圧下にある状態でなされる。
【0062】
給水路68には、給水弁69と逆止弁70との間において、給水逃がし路71が分岐して設けられる。この給水逃がし路71は、給水逃がし弁72および逆止弁73を介して、排水口(図示省略)へ開口される。この排水口には、熱交換器53からの排水も逆止弁78を介して排水されるなどする。
【0063】
本実施例の給水逃がし弁72は、電磁弁から構成される。給水弁69と給水逃がし弁72とは、開閉状態が逆となるように制御される。すなわち、貯水部7への給水を行う場合には、給水逃がし弁72を閉じて給水弁69を開ければよく、また給水を行わない場合には、給水弁69を閉じて給水逃がし弁72を開けておくことになる。これにより、逆止弁70が万一故障した場合にも、処理槽2内からの高温流体は、給水逃がし路71へ流され、給水設備への到達を防止することができる。たとえば、給水路68および給水逃がし路71は、金属製配管とされる一方、給水設備においては塩化ビニル樹脂などの樹脂製配管が使用され得るが、そのような樹脂製配管への高温流体の逆流を防止して、給水設備の保護を図ることができる。
【0064】
ところで、本実施例では、給水路68の先端部は、貯水部7よりも上方に離隔して、処理槽本体29に接続されている。すなわち、図3に示すように、給水路68は、処理槽本体29の後壁65に接続されるが、その際、前壁45の上端縁よりも上方位置に接続される。これにより、貯水部7には、上方から水が注ぎ込まれることになる。そして、貯水部7への給水が、パッキン34を引き込んだ状態(処理槽本体29と扉27とに隙間をあけた状態)でなされる場合には、給水路68の出口よりも水位が高まることはないので、処理槽2内から給水路68を介した水の逆流は確実に防止される。また、前述したように、飽和蒸気加熱機1の運転時には、万一、逆止弁70が故障しても、処理槽2内から給水路68を介した蒸気の逆流は、給水逃がし路71により給水設備までの到達が防止される。
【0065】
排水手段10は、貯水部7の水を外部へ排出する手段である。具体的には、貯水部7の底部には排水路74が接続され、この排水路74には、処理槽2の側から排水弁75および逆止弁76が設けられる。本実施例の排水弁75は、電動弁から構成される。排水弁75の開放により、貯水部7内の水は外部へ排水可能とされる。
【0066】
減圧手段4、復圧手段5、排蒸手段6、電気ヒータ8、給水手段9および排水手段10などは、制御手段16により制御される。この制御手段16は、それが把握する経過時間の他、圧力センサ11、品温センサ12、水温センサ13および水位センサ14,15からの検出信号などに基づいて、前記各構成を制御する制御器77である。具体的には、真空弁52、真空ポンプ38、封水熱交弁55、真空解除弁59、排蒸弁62、電気ヒータ8、給水弁69、給水逃がし弁72、排水弁75の他、パッキンエア弁39や操作パネル28、圧力センサ11、品温センサ12、水温センサ13、高水位センサ14および低水位センサ15などは、制御器77に接続されている。そして、制御器77は、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽2内の被加熱物3の加熱を行う。
【0067】
図4は、本実施例の飽和蒸気加熱機1の典型的な運転工程を示すフローチャートである。本実施例の飽和蒸気加熱機は、給水工程S1、空気排除工程S2、一または複数段階の加熱工程(S3,S4)、復圧工程S5の他、所望により粗熱取り工程S6を実行した後、終了工程S7を順次に実行する。以下、各工程について具体的に説明する。
【0068】
[準備]
飽和蒸気加熱機1は、初期状態では、封水熱交弁55、排蒸弁62および給水弁69は閉じられ、真空弁52、真空解除弁59、給水逃がし弁72および排水弁75は開けられている。また、パッキンエア弁39は、パッキン溝35を真空ポンプ38の側と連通させ、パッキン34はパッキン溝35へ引き込まれた状態とされている。さらに、真空ポンプ38および電気ヒータ8は作動を停止している。この状態で、処理槽2の扉27を開けて、処理槽2内に被加熱物3を収容する。本実施例では、上述したように、被加熱物3が入れられたホテルパン47を、棚枠46を介して処理槽2の第一領域42に収容する。その後、扉27を転がして全閉位置に配置しておき、操作パネル28を操作して運転開始を指示する。
【0069】
[給水工程]
運転開始に伴い、飽和蒸気加熱機1は、まず、貯水部7への給水工程S1を実行する。具体的には、制御器77は、貯水部7へ給水する前に、パッキンエア弁39を操作して、エアコンプレッサ37からの圧縮空気をパッキン溝35へ供給する。これにより、パッキン溝35からパッキン34を押し出して、処理槽本体29と扉27との隙間を封止する。その後に、制御器77は、給水逃がし弁72および排水弁75を閉じた状態で給水弁69を開いて、貯水部7への給水を開始する。所定水位まで給水されると、制御器77は高水位センサ14によりそれを検知して、給水弁69を閉じる。この際、これ以後の工程で、処理槽2内から蒸気が給水路68を万一逆流した場合にも、その逆流が給水設備まで達することを防止するために、給水逃がし弁72が開かれる。
【0070】
[空気排除工程]
空気排除工程S2では、真空解除弁59を閉じた状態で、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の空気を外部へ吸引排出して、処理槽2内の減圧が図られる。具体的には、制御器77は、真空弁52および封水熱交弁55を開いて、真空ポンプ38を作動させると共に、熱交換器53に対し冷却水を給排水する。どの圧力まで処理槽2内を減圧するかは、初期減圧設定値(設定圧力)として一応は予め設定されてはいるものの、品温センサ12による品温、水温センサ13による水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、運転ごとに決定される。さらに、空気排除工程S2では、所望により電気ヒータ8に通電して、貯留水の蒸発が促される。このようにして、貯留水の水温が所定の維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行する。このような空気排除工程S2の詳細は、特願2006−349570に開示される。
【0071】
[加熱工程]
加熱工程は、加熱目標温度にて所定時間だけ保持する工程である。そのために、その加熱目標温度まで処理槽内圧力を移行させる移行工程S3と、その後に、その加熱目標温度を維持する温度維持工程S4とに分けて実行される。そして、加熱工程は、必要に応じて、移行工程S3と温度維持工程S4とのセットを繰り返すことで、複数段階で行われる。典型的には、三段階で加熱工程を実行することができる。
【0072】
各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ11の検出圧力に基づき、減圧手段4および/または電気ヒータ8および/または排蒸弁62を制御して実行される。具体的には、制御器77は、減圧手段4を作動させた状態で真空弁52の開閉または開度を調整するか、および/または、電気ヒータ8への通電の有無もしくは供給電力量を制御するか、および/または、排蒸弁62の開閉または開度を調整することにより、処理槽2内の圧力を調整する。その際、処理槽2内を大気圧以上としてもよいし、大気圧以下にしてもよい。
【0073】
本実施例の飽和蒸気加熱機1によれば、飽和蒸気により加熱を図るので、減圧低温域から高圧高温域まで素早く均一な加熱を行うことができる。たとえば、60〜130℃の範囲での加熱調理が可能とされる。また、飽和蒸気下における加熱のため、沸騰による煮崩れや吹きこぼれも防止することができる。さらに、処理槽内圧力ひいては蒸気温度を複数段階に変更して加熱することで、これまで難しかった多彩な煮物や蒸し物料理を自動で行うことができる。以上のようにして、所望の加熱工程が終了すると、次工程へ移行する。
【0074】
[復圧工程]
復圧工程S5は、加熱工程終了時の圧力から大気圧まで、処理槽2内を復圧する工程である。復圧工程開始時に処理槽2内が大気圧以上であれば、制御器77は、排蒸弁62を開けて、処理槽2内からの排蒸を図ると共に、処理槽2内を大気圧まで復圧する。一方、復圧工程開始時に処理槽2内が大気圧未満であれば、制御器77は、真空解除弁59を開けて,処理槽2内へ外気を導入して、処理槽2内を大気圧まで復圧する。そして、制御器77は、排蒸弁62または真空解除弁59を閉じて、復圧工程S5を終了する。
【0075】
[粗熱取り工程]
復圧工程後には、所望により、処理槽2内の被加熱物3の冷却を図る粗熱取り工程S6を行ってもよい。この粗熱取り工程S6は、再び密閉した処理槽2内の気体を減圧手段4により外部へ吸引排出して、被加熱物3の真空冷却を図る工程である。但し、場合により、真空冷却に代えて送風冷却を図ってもよい。この送風冷却は、真空解除弁59を開いた状態で、減圧手段4を作動させて行われる。
【0076】
[終了工程]
終了工程S7では、まずパッキンエア弁39を操作して、パッキン溝35と真空ポンプ38の側とを連通させる。その状態で、封水熱交弁55を開くと共に真空ポンプ38を作動させて、パッキン34をパッキン溝35へ引き込んで、処理槽2内の密閉を解除する。さらに、排水弁75を開けて、処理槽2内からの排水がなされる。
【0077】
このようにして、一連の処理が完了すると、扉27を開けて、処理槽2内の被加熱物3を取り出すことができる。本実施例の飽和蒸気加熱機1の場合、リボイラが不要である。しかも、ボイラのように、缶水の濃縮を考慮する必要がないので、軟水器も不要とできる。さらに、ボイラを用いないので、給蒸路やその中途の比例制御弁も不要である。
【0078】
また、水量低減材66により、一バッチ当りの給水量および電力使用量を低減することができる。さらに、電気ヒータ8のヒータ容量を増加させることなく、蒸気発生までの時間を短縮することができる。しかも、前記一連の処理が完了して排水した後も、水量低減材66が蓄熱していることで、次回の運転時において、蒸気発生までの時間を短縮することもできる。
【実施例2】
【0079】
図5と図6は、本発明の飽和蒸気加熱機1の実施例2を示す正面視概略縦断面図と側面視概略縦断面図であり、それぞれ処理槽2内の構造のみを示している。本実施例2の飽和蒸気加熱機1も、基本的には前記実施例1と同様の構成である。そこで、以下においては、両者の異なる点を中心に説明し、共通する点については説明を省略する。また、対応する箇所には同一の符号を付して説明する。
【0080】
本実施例2の飽和蒸気加熱機1は、水量低減材66の構成と、被加熱物3の保持方法とにおいて、前記実施例1と異なる。すなわち、前記実施例1では、処理槽2内に設けた隔壁41に棚枠46を保持して、その棚枠46にホテルパン47を保持したが、本実施例2では、隔壁41の代わりに台座79が保持される。
【0081】
本実施例の台座79は、略矩形板状の座板80と、その下面の左右両部において、前後方向へ沿って設けられる脚部81,81とから構成される。各脚部81は、中空の略直方体状とされている。このような台座79は、その脚部81,81が貯水部7の底部に支持されて、座板80が貯留水の水面よりも上方に保持される。そして、座板80の上に、直接にホテルパン47が保持される。但し、これに代えてまたはこれに加えて、前記実施例1と同様に、座板80に棚枠46を保持して、その棚枠46にホテルパン47を保持してもよい。
【0082】
貯水部7の底部への脚部81の設置を安定して行うために、左右の脚部81の左右方向外側の端部82は、図5に示すように、面取りしておくのが好ましい。さらに、図6に示すように、処理槽本体29の前壁45の上端部に、座板80の前端部83を引っ掛ける構成とすれば、貯水部7への台座79の設置を一層安定させることができる。
【0083】
座板80には適宜の突部84を設けることで、座板80上にホテルパン47を浮かして保持するのがよい。但し、突部84は、座板80の側ではなく、そこに載せられる容器(ホテルパン47など)の側に設けてもよい。また、座板80には、適宜の連通穴85,85,…を形成しておくのが好ましい。
【0084】
台座79は、左右の脚部81,81で電気ヒータ8の発熱部50を跨ぐように配置され、各脚部81の下部は貯水部7内に収容される。従って、各脚部81が水量低減材66を兼ねることになる。また、台座79の座板80は、前記実施例1の隔壁41と同様の機能を果たすことになる。その他の構成は、前記実施例1と同様のため、説明を省略する。
【実施例3】
【0085】
図7は、本発明の飽和蒸気加熱機1の実施例3を示す正面視概略構成図であり、一部を断面にして示している。本実施例3の飽和蒸気加熱機1も、基本的には前記実施例1と同様の構成である。そこで、以下においては、両者の異なる点を中心に説明し、共通する点については説明を省略する。また、対応する箇所には同一の符号を付して説明する。ところで、図7においては、図1における逆止弁63,76は省略して示している。
【0086】
前記実施例1では、処理槽2からの排蒸路61や排水路74は、飽和蒸気加熱機1の設置現場にある排蒸口や排水口へ開口される構成としたが、本実施例3では、飽和蒸気加熱機1自体が消蒸装置(消蒸バッファ)86を備え、この消蒸装置86を介して、処理槽2からの蒸気や水は排水口へ排出される。
【0087】
消蒸装置86の構成は、特に問わないが、図示例の場合、消蒸容器87内に水が溜められ、その水を介して排蒸または排水されることで、飽和蒸気加熱機1の設置現場における湯気の発生を軽減する構成である。消蒸容器87には、給水設備からの水が消蒸弁88を介して、供給可能とされている。本実施例の消蒸弁88は、電磁弁から構成され、排蒸弁62または排水弁75を開く際に同時に開かれる。これにより、処理槽2内からの排蒸または排水を図る際に、消蒸装置86にて湯気の発生を抑えることができる。
【0088】
本実施例3の構成によれば、消蒸装置86を内蔵することで、飽和蒸気加熱機1からその設置現場の屋外までの別途の配管が不要となる。また、飽和蒸気加熱機1の設置現場において、消蒸装置を別途用意する必要もない。
【実施例4】
【0089】
図8は、本発明の飽和蒸気加熱機1の実施例4を示す正面視概略構成図であり、一部を断面にすると共に、一部を省略して示している。本実施例4の飽和蒸気加熱機1も、基本的には前記実施例1と同様の構成である。そこで、以下においては、両者の異なる点を中心に説明し、共通する点については説明を省略する。また、対応する箇所には同一の符号を付して説明する。
【0090】
図8では、主として、給水路68と給水逃がし路71の構成を示しているが、他の構成は、図2の実施例1と同様である。本実施例4では、前記実施例1における給水弁69と給水逃がし弁72とを共通化している。すなわち、給水路68と給水逃がし路71との接続部には、給水制御弁89が設けられる。給水設備と給水逃がし路71との内、いずれを処理槽2への給水路68と接続するかは、給水制御弁89により切り替えられる。具体的には、給水制御弁89は、電動三方弁または三方電磁弁から構成され、処理槽2への給水路68、給水設備および給水逃がし路71に接続され、処理槽2への給水路68と給水設備とを連通させるか、処理槽2への給水路68と給水逃がし路71とを連通させる。
【0091】
本発明の飽和蒸気加熱機1は、前記各実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。たとえば、前記各実施例では、被調理物を加熱調理する飽和蒸気調理機に適用した例を示したが、被滅菌物を滅菌する蒸気滅菌器に適用することもできる。その場合も、構成および制御は、前記各実施例と同様である。
【0092】
前記各実施例では、品温センサ12は、被加熱物3に差し込んで温度検知する構成であったが、このようにして品温を検知できない場合には、非接触タイプの他、品温として適宜の推定値また設定値を用いることができる。
【0093】
前記各実施例では、上下のドアレール30,30に保持された扉27を転がして開閉する構成としたが、場合により、扉27はドアレール30に沿ってスライド可能な構成でもよい。その場合、扉27は、円板状ではなく矩形板状に形成してもよい。また、場合により、扉27は、処理槽本体29の側端部にヒンジで吊り下げて、開き戸形式としてもよい。
【0094】
前記各実施例では、貯水部7への給水量は、高水位センサ14により検知する構成としたが、場合により、給水弁69を一定時間だけ開くことで、所定水量を貯水部7へ給水してもよい。また、給水手段9は、場合により省略して、運転開始前に、処理槽本体29の開口部から給水作業を行ってもよい。その場合、貯水部7に設けた水位線、または貯水部7からオーバーフローするまで給水するのがよい。また、この場合、高水位センサ14は不要である。
【0095】
前記各実施例では、処理槽2内に設けた隔壁41または台座79に、直接または棚枠46を介して、被加熱物3を収容したホテルパン47を保持する構成としたが、隔壁41または台座79には、被加熱物3を容器に入れずに直接に載せてもよい。また、被加熱物3を容器に入れて処理槽2内に収容する場合でも、その容器はホテルパン47に限らず適宜のものを使用することができる。さらに、処理槽本体29内の内周面に棚板(図示省略)または棚枠(図示省略)を固定しておき、この棚板または棚枠に対し被加熱物3を出し入れしてもよい。
【0096】
前記各実施例では、真空ポンプ38への給水と、熱交換器53への給水とは、封水熱交弁55により同時に制御される構成としたが、個別に制御するようにしてもよい。その場合、給水設備からの水は、封水弁を介して真空ポンプ38へ供給される一方、熱交弁を介して熱交換器53へ供給される。そして、封水弁と熱交弁とは、制御器77により個別に開閉制御される。
【0097】
前記各実施例において、大きさの異なる水量低減材66を用意しておき、そのいずれを貯水部7に取り付けるかにより、貯水量を変更可能としてもよい。この場合、高水位センサ14の構成および制御を変えることなく、貯水量を容易に変更することができる。
【0098】
前記各実施例において、水量低減材66の大きさや配置は、適宜に変更可能である。たとえば、前記実施例1において、水量低減材66の断面は、正面視で略円形としたが、略矩形や略扇形などとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の飽和蒸気加熱機の実施例1を示す概略斜視図であり、扉を開いた状態を示している。
【図2】図1の飽和蒸気加熱機の正面視概略構成図であり、一部を断面にして示している。
【図3】図1の飽和蒸気加熱機の側面視概略構成図であり、一部を断面にして示している。
【図4】図1の飽和蒸気加熱機の運転工程の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の飽和蒸気加熱機の実施例2を示す正面視概略縦断面図であり、一部を省略して示している。
【図6】図5の飽和蒸気加熱機の側面視概略縦断面図であり、一部を省略して示している。
【図7】本発明の飽和蒸気加熱機の実施例3を示す正面視概略構成図であり、一部を断面にして示している。
【図8】本発明の飽和蒸気加熱機の実施例4を示す正面視概略構成図であり、一部を断面にすると共に、処理槽への給水系統のみを示している。
【符号の説明】
【0100】
1 飽和蒸気加熱機
2 処理槽
3 被加熱物
7 貯水部
8 電気ヒータ
27 扉
29 処理槽本体
45 前壁
47 ホテルパン(容器)
50 発熱部
65 後壁
66 水量低減材
79 台座
80 座板
81 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水部を有すると共に被加熱物が収容される処理槽と、
前記貯水部内に貯留される水を加熱する電気ヒータと、
前記貯水部内に一部または全部を収容され、前記貯水部内に貯留される水量を低減する水量低減材とを備え、
前記貯水部内に予め貯留しておいた水を前記電気ヒータにより加熱して、これにより生ずる蒸気で前記処理槽内の前記被加熱物の加熱を図る
ことを特徴とする飽和蒸気加熱機。
【請求項2】
前記水量低減材は、水よりも容積比熱が小さい材料から形成され、前記貯水部内の前記電気ヒータに接触しないと共に、前記貯水部内の前記電気ヒータの最上部よりも下方の貯水量を低減する大きさおよび配置で、一部または全部が前記貯水部内に貯留される水に沈められる
ことを特徴とする請求項1に記載の飽和蒸気加熱機。
【請求項3】
前記処理槽は、一端面へ開口する略円筒状でその軸線を水平に配置される処理槽本体と、この処理槽本体の開口部を開閉する扉とを備え、
前記処理槽本体は、前記開口部の下部領域が閉塞されて、内部空間の下部が前記貯水部とされ、
前記電気ヒータは、前記処理槽本体の軸線と平行に、前記処理槽本体の他端面から前記貯水部内に差し込まれて設けられ、
前記水量低減材は、細長く形成されており、前記電気ヒータと並ぶように、前記貯水部に対し着脱可能に設けられる
ことを特徴とする請求項2に記載の飽和蒸気加熱機。
【請求項4】
前記被加熱物またはこれを収容する容器は、台座に載せられて前記処理槽内に収容され、
前記台座は、その脚部が前記貯水部の底部に支持されて、座板が前記貯水部内に貯留される水よりも上方に保持され、
前記台座の脚部が前記水量低減材を兼ねる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の飽和蒸気加熱機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−58152(P2009−58152A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224452(P2007−224452)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】