説明

飽和蒸気圧の測定方法

【課題】簡便かつ正確に、測定対象物質の飽和蒸気圧を測定する方法を提供する。
【解決手段】ステップ1〜4を含む測定対象物質jの温度T℃における飽和蒸気圧PTjの測定方法。
ステップ1:基準物質i及びjをガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムからそれぞれの重量及びピーク面積の関係を表す換算係数fを求めるステップ。
ステップ2:気液平衡状態のiの気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムからピーク面積Aとiの飽和蒸気圧Pとの比を求めるステップ。
ステップ3:T℃における気液平衡状態のjの気相部をステップ2と同一体積でガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムからピーク面積ATjを求めるステップ。
ステップ4:換算係数f、AとPとの比、ATj、iの分子量Mwi、及びjの分子量MwjからPTjを求めるステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフィを用いる飽和蒸気圧の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飽和蒸気圧は、例えば、蒸留操作により分離・精製する際などに必要な気液平衡関係を求める際の重要な物性であり、その定義は、測定対象物質の液相と該物質の蒸気とが一定温度において平衡状態にあるとき、得られる該物質の一定の蒸気圧力である。
飽和蒸気圧はその定義から、測定対象物質の液相と平衡になった気相部における該物質の量を測定すればよいが、平衡状態において、気相部における物質の定量は困難となる場合が多い。そこで、飽和蒸気圧が既知である物質(以下、基準物質という場合がある)と測定対象物質との混合物をガスクロマトグラフ装置(GC)で測定し、基準物質の温度T℃における飽和蒸気圧PTi、基準物質のGCにおける保持時間θ、測定対象物質のGCにおける保持時間θとした場合、測定対象物質の飽和蒸気圧PTjは、
Tj=PTi×θ/θ (ア)
として求めることが非特許文献1に記載されている。
上記の方法では、非特許文献1も言及しているように、GCのカラム液相における基準物質の活量係数γと、測定対象物質の活量係数γとが等しいとの前提があり、測定対象物質の活量係数と等しい活量係数の基準物質を選定することは容易ではない。
【0003】
【非特許文献1】J.Agri.Food Chem.,14,123(1966) 式(4)、式(5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、平衡状態の気相部における測定対象物質を定量することなく、GCのカラム液相における測定対象物質の活量係数が不明であったり、GCのカラム液相における基準物質と測定対象物質の活量係数が等しくなくとも、簡便かつ正確に、測定対象物質の飽和蒸気圧を測定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記ステップ1〜4を含むことを特徴とする測定対象物質jの温度T℃における飽和蒸気圧PTjを測定する方法である。
(ステップ1)
基準物質iと測定対象物質jとをガスクロマトグラフ装置によりクロマトグラムを求め、基準物質i及び測定対象物質jについてそれぞれの重量及びピーク面積の関係を表す換算係数fを求めるステップ。
【0006】
(ステップ2)
基準物質iを密閉容器に入れ、任意の温度における気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、該容器の気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムにおけるピーク面積Aを求め、ピーク面積Aと基準物質iの飽和蒸気圧Pとの比を求めるステップ。
【0007】
(ステップ3)
測定対象物質jを密閉容器に入れ、温度T℃において気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、ステップ2と同一体積の該容器の気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムにおけるピーク面積ATjを求めるステップ。
【0008】
(ステップ4)
ステップ2で求めたAのピーク面積と飽和蒸気圧Pとの比、ステップ3で求めたATjのピーク面積及びステップ1で求めた換算係数f、基準物質iの分子量Mwi、及び測定対象物質jの分子量Mwjから測定対象物質jの飽和蒸気圧PTjを求めるステップ。
【0009】
尚、上記の測定方法における各ステップを飽和蒸気圧測定プログラムによりコンピュータに実行させることができる。また、前記飽和蒸気圧測定プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶させることにより、任意のコンピュータ上で前記飽和蒸気圧測定プログラムを実行させることができる。
【0010】
ステップ1及び4は、下記方法が簡便であることから好ましい。
(ステップ1)
重量wipの基準物質iと重量wjpの測定対象物質jとを含む混合液をn個(nおよびpは自然数であり、nは1以上、pはn以下である。)調製し、n個の混合液それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aipと測定対象物質jのピーク面積Ajpを1〜nのpについて測定し、式(1−2)を用いて換算係数fを求めるステップ。

【0011】
(ステップ4)
飽和蒸気圧PTjを式(4)用いて求める。
Tj=(P/A)×ATj×Mwi/(f×Mwj) (4)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、GCのカラム液相における測定対象物質の活量係数が不明であっても、あるいは、GCのカラム液相における基準物質と測定対象物質の活量係数が等しくなくとも、簡便かつ正確に、測定対象物質の飽和蒸気圧を測定することができる。また、基準物質及び測定対象物質の組合せに係わらず、測定対象物質の飽和蒸気圧を簡便かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられるガスクロマトグラフ装置は、窒素、ヘリウム、アルゴンなどのキャリーガスをカラムで分離して測定対象物質j及び基準物質iを検出器で検出することができ、これら物質をピーク面積として算出できるデータ装置を具備している。
具体的には、GC−2010、GC−14B、GC−17A((株)島津製作所製)、GC−4000、GC−353、GC−390(ジーエルサイエンス(株)製)などの市販のガスクロマトグラフ装置などが挙げられる。
【0014】
ガスクロマトグラフ装置に用いられるカラムとしては、ステップ1において測定対象物質j及び基準物質iの混合液を測定する場合においては、それぞれのピークが分離可能であれば、充填カラムでもキャピラリーカラムでもよいが、高分離能を有するキャピラリーカラムが推奨される。
ガスクロマトグラフ装置に用いられる測定対象物質j及び基準物質iが検出可能であれば、熱伝導度型検出器(TCD)、水素炎イオン化検出器(FID)などを用いればよく、測定対象物質(j)及び基準物質(i)の種類やガスクロマトグラフィーの条件などによっては、電子捕獲型検出器(ECD)、炎光光度検出器(FPD)、フレームサーミオニック検出器(FTD)、光イオン化検出器(PID)、ヘリウムイオン化検出器(HeID)、アルゴンイオン化検出器(AID)、遠紫外吸収検出器(FUV)などを用いてもよい。
【0015】
後述するステップ2及び3に用いるガスクロマトグラフ装置としては、測定対象物質j及び基準物質iを気液平衡状態として気相として導入することが可能で、しかも一定量をガスクロマトグラフ装置に導入することのできるヘッドスペース試料導入装置を具備することが好ましい。
ここで、ヘッドスペース試料導入装置とは、液体試料を密閉容器に封入し、恒温槽で一定時間保温することで平衡状態に到達させ、気相部をガスクロマトグラフ装置に一定量、導入することのできる装置である。
【0016】
本発明に用いられる基準物質としては、測定温度であるT℃で蒸気圧を有する固体又は液体であって、飽和蒸気圧が既知の物質が用いられる。具体的には改訂3版化学便覧基礎編II(丸善株式会社)に記載されている物質が挙げられる。
基準物質としては、分子量や化学式などが測定対象物質と類似の物質が望ましい。また、基準物質は、通常、高純度であり、好ましくは、蒸留によって精製された物質である。
後述する換算係数fを求める際に、基準物質と測定対象物質とを混合物として同時に測定する場合には、得られるクロマトグラフにおける基準物質と測定対象物質のピークが重なることなく分離されている方が測定対象物質の飽和蒸気圧をさらに正確に測定できる傾向があることから好ましい。
本発明は基準物質iとして複数用いてもよいが、通常、1種類、用いられる。
【0017】
測定対象物質は、通常、測定温度であるT℃で蒸気圧を有する固体又は液体である。測定対象物質が固体である場合は、後述するステップ1において、ガスクロマトグラフ装置において測定対象物質を液体として導入する必要があることから、溶剤に溶解して用いればよい。取扱いの容易さの観点からガスクロマトグラフ装置に導入する際に液体であることが好ましい。また、測定対象物質は高純度であることが望ましく、更に蒸留によって精製された物質が望ましい。
基準物質及び/又は測定対象物質をガスクロマトグラフ装置に均一に溶解して導入する際に用いる溶剤としては、沸点が高く分析時間が長くなるなどのガスクロマトグラフィの分析に支障が生じることがなく、基準物質及び測定対象物質と反応することがなく、しかも、クロマトグラフィにおいて基準物質及び測定対象物質のピークと重ならない溶剤である。
【0018】
飽和蒸気圧の測定可能な温度としては、測定対象物質が蒸気圧を有し、かつ、ガスクロマトグラフ装置が測定可能な−10〜700℃程度であり、好ましくは、20〜400℃程度である。
【0019】
本発明のステップ1は、基準物質iと測定対象物質jとをガスクロマトグラフ装置によりクロマトグラムを求め、基準物質i及び測定対象物質jについてそれぞれの重量及びピーク面積の関係を表す換算係数fを求めるステップである。
具体的には、重量wipの基準物質iと重量wjpの測定対象物質jとを含む混合液をn個(nおよびpは自然数であり、nは1以上、pはn以下である。)調製し、n個の混合液それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aipと測定対象物質jのピーク面積Ajpを1〜nのpについて測定し、次に、wipとAipの比に対するwjpとAjpの比の二つの比を示す換算係数fを求めるステップ(I);同様にしてwipとwjpの比に対するAipとAjpの比の二つの比を示す換算係数fを求めるステップ(II)などの方法が挙げられる。
【0020】
ステップ(I)としては、例えば、上記の値を1次回帰式(1−1)に代入して、換算係数fを求めればよい。

【0021】
また、ステップ(I)の換算係数fを求める方法として、二つの比の平均を求める方法、即ち、式(1-2)を用いる方法などが挙げられる。

【0022】
ステップ(II)としては、例えば、上記の値を1次回帰式(1−3)に代入して、換算係数fを求めればよい。

【0023】
n個の混合液は、同じガスクロマトグラフ装置にそれぞれ別々に導入される。導入される際に基準物質iと測定対象物質jとの比が決定されているので、ガスクロマトグラフ装置に導入される混合液の量は、ピーク面積Aip及びAjpが測定可能な限り、特に限定されない。
ステップ1の混合液はn個調製される。nは数が多いほど正確性が向上するが、測定操作の煩雑さの関係からnは1〜8程度である。
【0024】
本発明の全てのステップにおいて、カラム長、カラムの種類、カラム温度、キャリアガスの種類、キャリアガス流量、スプリット比、検出器の種類、検出器温度、気化室温度、パージガス流量などのガスクロマトグラフ装置の条件及び積分条件などのデータ解析条件はいずれも略一致させる。
【0025】
ステップ1のガスクロマトグラフ装置には混合液を全量カラムに導入してもよいし、スプリットなどにより一部を導入してもよいが、一部導入する場合は、混合液におけるwipとwjpとの重量比が等しい状態で導入しなければならない。
【0026】
ステップ1において、1つの基準物質に対して、複数の測定対象物質を測定してもよい。この場合、ステップ1において、基準物質と複数の測定対象物質とを同じ混合液としてピーク面積を求めるステップ1を行ってもよい。但し、測定対象物質同士のピークが重なる場合は、正確なピーク面積を算出するために、基準物質に対して別々の混合物を調製してステップ1を実施しなければならない。
【0027】
換算係数fを算出する異なるステップ1の実施態様としては、重量wisの基準物質iを含む液体a個(aおよびsは自然数であり、aは1以上、sはa以下である。)と重量wjtの測定対象物質jを含む液体b個(bおよびtは自然数であり、bは1以上、tはb以下である。)とを調製し、それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aisを1〜aのsについて測定し、同様に測定対象物質jのピーク面積Ajtを1〜bのtについて測定し、次に、それぞれの重量及びピーク面積の関係を表す換算係数fを求める方法なども挙げられる。具体的には、式(1−4)を用いて換算係数fを求める方法などが挙げられる。

ここで、上記のa回及びb回実施されるクロマトグラフィは、ガスクロマトグラフ装置の条件及びデータ解析条件はいずれも略一致させる。
【0028】
a及びbはいずれも1回以上であるが、数が多いほど正確性が向上する傾向がある。通常は操作の容易さから、a及びbは1〜8回程度である。
【0029】
式(1-1)〜(1-3)を用いる場合、ステップ1のガスクロマトグラフ装置に導入される基準物質iと測定対象物質jの量は、ガスクロマトグラフ装置に導入される重量比(例えば、wip/wjp)が明らかであればよく、絶対量を求めなくてもよい。
式(1-4)を用いる場合は、基準物質iの量wis及び測定対象物質jの量wjtを正確にガスクロマトグラフ装置に導入する必要があることから、式(1-1)〜(1-3)を用いる方法が簡便であることから好ましい。
【0030】
ステップ2は、基準物質iを密閉容器に入れ、任意の温度における気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、該容器の気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムにおけるピーク高さAを求め、ピーク高さAと基準物質iの飽和蒸気圧Pとの比を求めるステップである。
【0031】
ピーク面積Aと基準物質iの飽和蒸気圧Pとの比は、同一または異なる温度におけるピーク面積と基準物質iの飽和蒸気圧との値から1次回帰あるいは平均によって求めることができる。
具体的には、基準物質iが含有される密閉容器を作成し、温度q℃における気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、ガスクロマトグラフ装置に気相部を導入し、得られたクロマトグラムからピーク面積Aiqを求め、これを異なる温度についてm回、同様に実施し、基準物質iの飽和蒸気圧Piqのデータとともに式(2)を用いて計算する方法などが挙げられる。但し、ステップ2において、ガスクロマトグラフ装置に導入される気相部の量は、1〜m回目のいずれも同一体積である。
異なる温度にて測定する回数であるmは、数が多いほど正確性が向上するが、操作性の観点から、通常、3〜8回程度である。

【0032】
ステップ2において、ガスクロマトグラフ装置に基準物質iを導入する操作は、ヒーターにより保温可能なシリンジを用いてもよいが、好ましくは、ヘッドスペース試料導入装置によって実施される。ヘッドスペース試料導入装置によってガスクロマトグラフ装置に導入される一定体積が、再現性よく実施することができる。
【0033】
ステップ2において、密閉容器を気液平衡状態に達せしめる恒温槽の設定温度及び試料の導入方法以外の条件について、具体的には、ガスクロマトグラフ装置の条件、データ解析条件、及びガスクロマトグラフ装置に導入される量はいずれもステップ1と略一致させる。またステップ2の中でも、ガスクロマトグラフ装置に導入される量はヘッドスペース試料導入装置によって同一体積に正確に調整する。
【0034】
ステップ3は、測定対象物質jを密閉容器に入れ、温度T℃において気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、ステップ2と同一体積の該容器の気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムにおけるピーク高さATjを求めるステップである。
具体的には、まず、測定対象物質jを含有する密閉容器をk個作成する。好ましくは、いずれに密閉容器もステップ2の密閉容器と同一体積の容器を用いる。次いで、密閉容器のr番目の容器を温度T℃における気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、ガスクロマトグラフ装置にr番目の容器の気相部をを導入する。この際、ガスクロマトグラフ装置に導入される気相部の体積は、ステップ2と正確にに同一体積である。最後に、得られたクロマトグラムからピーク面積ATjrを求め、これを1番目からk番目まで同様に実施し、ピーク面積ATjrの平均を求めればよい。
【0035】
具体的には、式(3)を用いて計算すればよい。

異なる回数であるkは数が多いほど正確性が向上するが、ヘッドスペース試料導入装置によってガスクロマトグラフ装置への測定対象物質の導入量が正確であることから、kは1でも十分正確である。
【0036】
ステップ3においては、密閉容器を気液平衡状態に達せしめる恒温槽の設定温度及び試料の導入方法以外の条件について、具体的には、ガスクロマトグラフ装置の条件、データ解析条件、及びガスクロマトグラフ装置に導入される量はいずれもステップ1及び2と略一致させる。またステップ3の中でも、ガスクロマトグラフ装置に導入される量はヘッドスペース試料導入装置によって正確に一致させる。
【0037】
本発明は、1つの基準物質に対して、複数の測定対象物質を測定してもよい。この場合、ステップ3において、複数の物質を密閉容器に入れると、気相部はそれぞれの物質の分圧を示すことになる。従って、ステップ3において、基準物質及び測定対象物質は、いずれも、それぞれ異なる密閉容器に入れ、それぞれ別々にピーク面積を求めなければならない。
【0038】
ステップ4は、ステップ2で求めたAのピーク面積と飽和蒸気圧Pとの比、ステップ3で求めたATjのピーク面積及びステップ1で求めた換算係数f、基準物質iの分子量Mwi、及び測定対象物質jの分子量Mwjから測定対象物質jの飽和蒸気圧PTjを求めるステップである。
具体的には、式(4)を用いて求めればよい。
Tj=(P/A)×ATj×Mwi/(f×Mwj) (4)
【0039】
具体的な実施態様の1つである実施例について、ステップの流れ図を図1に示した。
【0040】
また、図1に示される各処理は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにコンピュータ上でソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、コンピュータは、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、図1および図2に示される各処理を実現するソフトウェアである制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記コンピュータに供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0041】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0042】
また、上記コンピュータを通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された搬送波あるいはデータ信号列の形態でも実現され得る。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。部および%は、特に断りがない限り、重量基準を意味する。
<ガスクロマトグラフ装置の測定条件>
ガスクロマトグラフ装置:島津製作所製 GC-2010(FID)
カラム:DB-1,30m,0.25mmID,膜圧1μm,90℃一定
温度:Injection=250℃, Detector=250℃
キャリアガス:He, カラム流量=2.0ml/分,
カラム圧力:163kPa
スプリット比:50
【0044】
<データ解析条件>
データ解析ソフトウェア:島津製作所製 GC-SOLUTION
解析条件は装置の初期条件をそのまま実施した。
【0045】
<ステップ1におけるガスクロマトグラフ装置への混合物導入条件>
希釈条件:アセトンで10倍に希釈した。
ガスクロマトグラフ装置への注入量:1μl
【0046】
<ステップ2及び3のガスクロマトグラフ装置への導入条件>
ヘッドスペースサンプラー:Perkin Elmer社製Turbe Matrix
密閉容器への導入時加圧圧力:300 kPa
密閉容器の保温時間:30分
ガスクロマトグラフへの注入時間:0.02分
【0047】
(実施例1)
<ステップ1>
基準物質であるモノクロロベンゼン(MCB)0.6896重量部と測定対象物質(液体)であるp−シメン(PCY)0.6958重量部それぞれを1つの密閉容器に仕込み、アセトン10mlにより希釈した。マイクロシリンジにより液相部を採取し、ガスクロマトグラフィに注入した。ガスクロマトグラフィにおいて得られる電気信号に基づいて、データ処理装置によりピーク面積を求める計測が行われ、MCBのピーク面積13911407、PCYのピーク面積19589293を得た。これらの数値にn=1とともに式(1)に代入することにより換算係数f=1.396を得た。
【0048】
<ステップ2>
基準物質であるMCB約10mlを密閉容器に仕込み、温度40℃に調整された恒温槽で約30分間保温することにより、平衡状態まで到達させた。平衡状態到達後、ヘッドスペースサンプラーにて気相部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィに注入し、ピーク面積4870469を得た。改訂3版化学便覧基礎編II(丸善株式会社、以下、文献値)によれば、MCBの40℃における飽和蒸気圧は3.47kPaである。
同様な測定を温度60℃、80℃、100℃においても行なった。これらの値を式(2)に代入し、P/A=7.13×10−7の値を求めた。結果を表1にまとめた。
【0049】
【表1】

【0050】
<ステップ3及びステップ4>
測定対象物質であるPCY約10mlを密閉容器に仕込み、温度40℃に調整された恒温槽で約30分間保温することにより、平衡状態まで到達させた。平衡状態到達後、ヘッドスペースサンプラーにて気相部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィに注入し、ピーク面積944096を得た。今回はk=1なのでこのピーク面積をそのままATjとした。
ステップ1で求めた換算係数f、ステップ2で求めたピーク面積Aと飽和蒸気圧Pとの比、ステップ3で求めたピーク面積ATj、並びに、MCB及びPCYの分子量を式(4)に代入することにより、温度40℃におけるPCYの飽和蒸気圧0.41kPaを得た(文献値:0.52kPa)。
同様に、温度70℃、100℃、130℃、160℃、190℃においても測定を行い、結果を表2にまとめた。尚、PCYの飽和蒸気圧(文献値)についても併せて示した。
【0051】
【表2】

【0052】
下式で定義される平均誤差を求めたところ、実施例の平均誤差は0.21であった。

【0053】
(実施例2)
<ステップ1>
基準物質のn−ドデカン0.7561重量部と測定対象物質(固体)であるナフタレン0.7491重量部を用いて、実施例1と同様に実施した。n−ドデカンのピーク面積8214809、ナフタレンのピーク面積8627805、換算係数f=1.060を得た。
【0054】
<ステップ2>
基準物質であるn−ドデカン約1.0重量部を密閉容器に仕込み、温度50℃に調整された恒温槽で約60分間保温することにより、平衡状態まで到達させた。平衡状態到達後、ヘッドスペースサンプラーにて気相部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィに注入し、ピーク面積225353を得た。改訂3版化学便覧基礎編II(丸善株式会社、以下、文献値)によれば、n−ドデカンの50℃における飽和蒸気圧は0.12kPaである。同様な測定を温度60、70、80℃においても行った。これらの値を式(2)に代入し、PTi/ATi=5.17×10−7の値を求めた。結果を表3にまとめた。
【0055】
【表3】

【0056】
<ステップ3及びステップ4>
測定対象物質(固体)であるナフタレン約1.0重量部を密閉容器に仕込み、温度50℃に調整された恒温槽で約60分間保温することにより、平衡状態まで到達させた。平衡状態到達後、ヘッドスペースサンプラーにて気相部をサンプリングして、ガスクロマトグラフィに注入し、ピーク面積159457を得た。このピーク面積をATjとした。
ステップ1で求めた換算係数f、ステップ2で求めたピーク面積ATiと飽和蒸気圧PTiとの比、ステップ3で求めたピーク面積ATj、並びに、n−ドデカン及びナフタレンの分子量を式(4)に代入することにより、温度50℃におけるナフタレンの飽和蒸気圧0.11kPaを得た(文献値:0.11kPa)。
同様な測定を温度60℃、70℃、80℃においても行い、結果を表4にまとめた。尚、ナフタレンの飽和蒸気圧(文献値)についても併せて示した。
表4から実施例2の平均誤差は0.059であった。
【0057】
【表4】

【0058】
(比較例1)
基準物質であるMCBと測定対象物質(液体)であるPCYをそれぞれ適量、密閉容器に仕込み、適量のアセトンにより希釈した。マイクロシリンジにより液相部を採取し、ガスクロマトグラフィに注入した。カラム温度は、ガスクロマトグラフィの空気恒温槽の温度を調整することで、70℃に保持された。MCBの保持時間が10.074分、PCYの保持時間が34.689minとなった。一方、70℃におけるMCBの文献値の飽和蒸気圧は前記のとおりであるから、これらの数値を式(ア)に代入することにより飽和蒸気圧3.81kPaを得た。
同様に、恒温槽の温度を110℃、150℃、190℃、230℃として飽和蒸気圧を求めた。結果を表5にまとめた。
【0059】
【表5】

【0060】
表5に示した測定値は非特許文献1に基づいて得られた飽和蒸気圧の値であるが、これらの平均誤差を求めたところ、0.99であり、実施例1によって得られた飽和蒸気圧の値(0.21)の方が誤差が少ない。
【0061】
(比較例2)
基準物質であるn−ドデカンと測定対象物質(固体)であるナフタレンをそれぞれ適量、密閉容器に仕込み、適量のアセトンにより希釈した。マイクロシリンジにより液相部を採取し、ガスクロマトグラフィに注入した。カラム温度は、ガスクロマトグラフィの空気恒温槽の温度を調整することで、50℃に保持された。ドデカンの保持時間が117.5分、ナフタレンの保持時間が67.0分となった。一方、50℃におけるn−ドデカンの文献値の飽和蒸気圧は前記のとおりであるから、これらの数値を式(ア)に代入することにより飽和蒸気圧0.21kPaを得た。
同様に、恒温槽の温度を60℃、70℃、80℃として飽和蒸気圧を求めた。結果を表6にまとめた。
【0062】
【表6】

【0063】
表6に示した測定値は非特許文献1に基づいて得られた飽和蒸気圧の値であるが、これらの平均誤差を求めたところ、0.464であり、実施例2の方法によって得られた飽和蒸気圧の値(0.059)の方が誤差が少ない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によって得られる測定対象物質の飽和蒸気圧を測定することにより、蒸留装置、精留装置などの設計や、蒸留、精留の操作条件の決定に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態である飽和蒸気圧測定方法の処理を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ステップ1〜4を含むことを特徴とする測定対象物質jの温度T℃における飽和蒸気圧PTjを測定する方法。
(ステップ1)
基準物質iと測定対象物質jとをガスクロマトグラフ装置によりクロマトグラムを求め、基準物質i及び測定対象物質jについてそれぞれの重量及びピーク面積の関係を表す換算係数fを求めるステップ。
(ステップ2)
基準物質iを密閉容器に入れ、任意の温度における気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、該容器の気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムにおけるピーク面積Aを求め、ピーク面積Aと基準物質iの飽和蒸気圧Pとの比を求めるステップ。
(ステップ3)
測定対象物質jを密閉容器に入れ、温度T℃において気液平衡状態とした後、ステップ1におけるガスクロマトグラフィー測定条件と略同一の測定条件にて、ステップ2と同一体積の該容器の気相部をガスクロマトグラフ装置に導入し、得られたクロマトグラムにおけるピーク面積ATjを求めるステップ。
(ステップ4)
ステップ2で求めたAのピーク面積と飽和蒸気圧Pとの比、ステップ3で求めたATjのピーク面積及びステップ1で求めた換算係数f、基準物質iの分子量Mwi、及び測定対象物質jの分子量Mwjから測定対象物質jの飽和蒸気圧PTjを求めるステップ。
【請求項2】
ステップ1が以下である請求項1に記載の測定方法。
(ステップ1)
重量wipの基準物質iと重量wjpの測定対象物質jとを含む混合液をn個(nおよびpは自然数であり、nは1以上、pはn以下である。)調製し、n個の混合液それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aipと測定対象物質jのピーク面積Ajpを1〜nのpについて測定し、次に、wipとAipの比に対するwjpとAjpの比の二つの比を示す換算係数fを求めるステップ。
【請求項3】
換算係数fが、1次回帰式(1−1)で表される請求項2に記載の測定方法。

【請求項4】
ステップ1が以下である請求項1に記載の測定方法。
(ステップ1)
重量wipの基準物質iと重量wjpの測定対象物質jとを含む混合液をn個(nおよびpは自然数であり、nは1以上、pはn以下である。)調製し、n個の混合液それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aipと測定対象物質jのピーク面積Ajpを1〜nのpについて測定し、次に、wipとwjpの比に対するAipとAjpの比の二つの比を示す換算係数fを求めるステップ。
【請求項5】
換算係数fが、1次回帰式(1−3)で表される請求項4に記載の測定方法。

【請求項6】
ステップ1が以下である請求項1に記載の測定方法。
(ステップ1)
重量wipの基準物質iと重量wjpの測定対象物質jとを含む混合液をn個(nおよびpは自然数であり、nは1以上、pはn以下である。)調製し、n個の混合液それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aipと測定対象物質jのピーク面積Ajpを1〜nのpについて測定し、式(1−2)を用いて換算係数fを求めるステップ。

【請求項7】
ステップ1が以下で実施される請求項1に記載の測定方法。
(ステップ1)
重量wisの基準物質iを含む液体a個(aおよびsは自然数であり、aは1以上、sはa以下である。)と重量wjtの測定対象物質jを含む液体b個(bおよびtは自然数であり、bは1以上、tはb以下である。)とを調製し、それぞれをガスクロマトグラフ装置により、略同一のガスクロマトグラフィー測定条件にて測定し、得られたクロマトグラムにおける基準物質iのピーク面積Aisを1〜aのsについて測定し、同様に測定対象物質jのピーク面積Ajtを1〜bのtについて測定し、式(1−4)を用いて換算係数fを求めるステップ。

【請求項8】
ステップ4の飽和蒸気圧PTjを式(4)で求める請求項1〜7のいずれかに記載の測定方法。
Tj=(P/A)×ATj×Mwi/(f×Mwj) (4)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の測定方法における各ステップをコンピュータに実行させるための飽和蒸気圧測定プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−284561(P2006−284561A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49949(P2006−49949)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】