説明

餅様または団子様の具材を含有するレトルト食品の製造方法

【課題】高温で加圧殺菌を行なうレトルト処理後に汁またはスープ類中に長期間保持しても、煮崩れ等がなく保形性がよく、食感も滑らかで歯応えのある餅様または団子様の具材を含有するお汁粉やぜんざい等のレトルト食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】原料として、小麦グルテン25〜35質量部(乾物換算)、リン酸架橋澱粉45〜65質量部および小麦粉0〜20質量部を用いて得られた小片状または粒状の生地を、そのままもしくは乾燥して、汁またはスープ類と一緒に密封包装し、ついでレトルト処理することにより、レトルト食品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、餅様または団子様の具材を含有するレトルト食品の製造方法に関し、より詳しくは、煮崩れ等がなく保形性がよく、食感も滑らかで歯応えのある餅様または団子様の具材を含有する、お汁粉やぜんざい等のレトルト食品の製造方法に関する。また、本発明は、該製造方法に用いられるレトルト食品用穀粉組成物に関する。
なお、本発明において、レトルト処理とは、気密性を有する容器に食品を入れて密封したものを、その容器ごと高温で加圧殺菌することを意味する。このため、レトルト食品には、レトルトパウチ食品だけでなく、缶詰や瓶詰めも包含される。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品は温めなおすだけで食すことができる手軽さから、様々な食品に適用されている。しかしながら、お汁粉やぜんざいに代表される、餅または団子を汁またはスープ類に加えた食品において、通常の方法で製造された餅または団子を用いレトルト処理を行うと、レトルト処理時およびその後の保存時に餅または団子が水分を吸ってしまい、それによって、煮崩れて保形性がなくなってしまったり、滑らかで歯応えのある食感が失われるなどして、商品価値が著しく低下してしまうという問題があった。
【0003】
このような問題を解決すべく、従来より様々な検討がなされている。例えば、特許文献1〜5には、ガム類、LMペクチン、アルギン酸類、こんにゃく粉等の増粘多糖類を添加した餅や団子をレトルト食品に用いることが提案されている。また、特許文献6には、餅または団子の表皮部を乾燥させることが提案されており、特許文献7には、糯米粉を主体とする特定の組成物を加水加熱条件下でα化度を制御しながら造粒し乾燥させることが提案されている。しかしながら、レトルト処理後に汁またはスープ類中に長期間保持した餅または団子の保形性や食感をより一層改善することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−197457号公報
【特許文献2】特開平9−28299号公報
【特許文献3】特開昭60−241863号公報
【特許文献4】特開平10−215801号公報
【特許文献5】特開平9−149769号公報
【特許文献6】特開平11−290009号公報
【特許文献7】特開2009−131231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、高温で加圧殺菌を行なうレトルト処理後に汁またはスープ類中に長期間保持しても、煮崩れ等がなく保形性がよく、食感も滑らかで歯応えのある餅様または団子様の具材を含有するお汁粉やぜんざい等のレトルト食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、原料として、小麦グルテン25〜35質量部(乾物換算)、リン酸架橋澱粉45〜65質量部および小麦粉0〜20質量部を用い、これらに加水し混練して得られた小片状または粒状の生地を、そのままもしくは乾燥して、汁またはスープ類と一緒に密封包装し、ついでレトルト処理することを特徴とするレトルト食品の製造方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
また、本発明は、小麦グルテン25〜35質量部(乾物換算)、リン酸架橋澱粉45〜65質量部および小麦粉0〜20質量部を含み、上記レトルト食品の製造方法に用いる、レトルト食品用穀粉組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温で加圧殺菌を行なうレトルト処理後に汁またはスープ類中に長期間保持しても、煮崩れ等がなく保形性がよく、食感も滑らかで歯応えのある餅様または団子様の具材を含有する、お汁粉やぜんざい等のレトルト食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のレトルト食品の製造方法が対象とする食品は、小片状または粒状の生地を具材として汁またはスープ類に加えた食品であり、代表的なものとして、お汁粉、ぜんざいが挙げられる他、雑煮、すいとん、みつ豆等も挙げられる。本発明においては、これらの食品に用いる生地として、従来用いられている餅または団子に代えて、特定の原料を用いて製造した小片状または粒状の生地を用いる。
【0009】
本発明のレトルト食品の製造方法に用いる小片状または粒状の生地について、以下に説明する。
上記の小片状または粒状の生地に用いる原料としては、小麦グルテン、リン酸架橋澱粉および必要に応じて小麦粉を用い、さらに必要に応じてその他の穀粉類を用いることができる。
【0010】
小麦グルテンについては25〜35質量部(乾物換算)配合使用する。ここで用いる小麦グルテンとしては、ウェットグルテン、グルテン粉末のいずれも用いることができる。小麦グルテンの量が乾物換算で25質量部未満であると生地のつながりが悪くなり、レトルト処理やその後の汁またはスープ類が共存した状況下での長期保存の過程で生地の食感が脆くなり、また、乾物換算で35質量部を超えると製造時の作業性が低下し、硬い食感となり、生地の滑らかさも低下する。なお、ウェットグルテンを用いる場合には、乾物換算してその配合量を決定するとともに、含有水分量を後述する生地調製時の加水量から差し引く等、実際に添加する水の量を調節する必要がある。
【0011】
次に、リン酸架橋澱粉については45〜65質量部、好ましくは50〜65質量部配合使用する。リン酸架橋澱粉としては、特に限定されないが、リン酸架橋馬鈴薯澱粉、リン酸架橋タピオカ澱粉が好ましく、特にリン酸架橋馬鈴薯澱粉単独か、リン酸架橋馬鈴薯澱粉とリン酸架橋タピオカ澱粉の組み合わせが好ましい。すなわち、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜65質量部およびリン酸架橋タピオカ澱粉0〜30質量部であるのが好ましく、リン酸架橋馬鈴薯澱粉とリン酸架橋タピオカ澱粉を組み合わせる場合には、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜55質量部およびリン酸架橋タピオカ澱粉10〜30質量部を配合するのがより好ましい。リン酸架橋澱粉の量が45質量部未満であると硬い食感となり、滑らかさも低下し、65質量部を超えると脆く軟らかい食感となってしまう。
なお、リン酸架橋澱粉としては、さらに化工処理を施したリン酸架橋澱粉、具体的にはエステル化リン酸架橋澱粉、例えばアセチル化リン酸架橋澱粉、エーテル化リン酸架橋澱粉、例えばヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉などを使用することもできる。また、リン酸架橋澱粉としては、リン酸架橋馬鈴薯澱粉およびリン酸架橋タピオカ澱粉のほかに、リン酸架橋小麦澱粉、リン酸架橋コーンスターチなどを使用することもできる。
【0012】
さらに、小麦粉については0〜20質量部配合使用する。小麦粉は必ずしも配合する必要はないが、配合使用する場合には10〜20質量部が好ましい。小麦粉としては特に限定されないが、中力粉、強力粉が好ましい。小麦粉の量が20質量部を超えるとレトルト処理やその後の保存期間中に茹でどけや生地表面の崩れが生じ、汁またはスープ類も濁ってしまうため好ましくない。
【0013】
上記の小片状または粒状の生地に用いる原料として、小麦グルテンおよびリン酸架橋澱粉、必要に応じて用いられる小麦粉を、それぞれ個別に用いてもよいが、これらの原料を含む組成物、すなわち、小麦グルテン25〜35質量部(乾物換算)、リン酸架橋澱粉45〜65質量部および小麦粉0〜20質量部を含むレトルト食品用穀粉組成物をあらかじめ調製して用いてもよい。
【0014】
さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の穀粉類として、小麦粉以外の穀粉類、例えば大麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、大豆粉などや、リン酸架橋澱粉以外の澱粉類を配合してもよい。当該澱粉類としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などの澱粉およびこれらにα化、エーテル化、エステル化、酸化処理などの処理を施した化工澱粉などが挙げられる。これらのその他の穀粉類を配合使用する場合の配合量は、小片状または粒状の生地に用いる原料中で10質量部未満であることが好ましい。
【0015】
またさらに、副資材として、食塩;卵白粉、全卵粉などの卵粉;キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸およびその塩、寒天、ゼラチン、ペクチンなどの増粘剤;油脂類;エチルアルコールなどを配合することもできる。本発明の効果を損ねないようにする観点から、これらの副資材の配合量は、小片状または粒状の生地に用いる原料100質量部に対し2質量部以下の範囲が好ましい。
【0016】
本発明においては、小片状または粒状の生地のpHが6.5〜7.5、好ましくは6.7〜7.1の範囲になるように、pH調整剤を上記原料に添加することが好ましい。pHを6.5〜7.5とすることにより、生地の保形性、滑らかさおよび歯応えをいずれも、一層良好にすることができる。
pH調整剤としては、通常食品に使用され、アルカリ性を呈するpH調整剤、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、焼成カルシウム、卵殻カルシウム、ポリリン酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を使用することができる。また、pH調整剤としては、市販のかん粉やかんすいを使用することもできる。
【0017】
本発明のレトルト食品の製造方法では、まず、上述の原料またはこれを含有する組成物に、必要に応じて副資材を加え、さらに、好ましくは生地のpHが6.5〜7.5の範囲になるようにpH調整剤を添加し、加水した後に混練して生地を得る。加水量は、原料100質量部に対して、好ましくは30〜50質量部、さらに好ましくは35〜45質量部の範囲である。加水量が30質量部未満であると生地が硬く作業性が低下することがあり、50質量部を超えると生地がべたつき、また弱くなる可能性がある。混練(ミキシング)は、常法に従って行えばよいが、混練(ミキシング)時間は、通常は5〜20分間程度である。
【0018】
このように得られた生地から、小片状または粒状の生地を成形する。成形は常法に従って行えばよく、例えば、包丁、ギロチンカッター、押出機等を用いて行うことができる。小片状または粒状の生地の形状に特に制限はなく、例えば直方体、球状、俵状、等に成形することができる。小片状または粒状の生地の大きさ(最大部位の長さ)は、10〜30mmの範囲が好ましい。
【0019】
本発明のレトルト食品の製造方法では、成形された上記小片状または粒状の生地を、そのまま用いてもよいが、乾燥してから用いた方が、生地の保形性、滑らかさおよび歯応えをいずれも一層良好にすることができるので好ましい。乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等が挙げられる。乾燥は、温度30〜40℃、相対湿度70〜80%、時間3〜10時間で行うことが好ましく、また、該生地の乾燥後の水分含量が10〜15質量%程度になるように行うことが好ましい。
【0020】
本発明のレトルト食品の製造方法においては、そのままもしくは乾燥した上記小片状または粒状の生地を、それ単独でまたは他の具材と一緒に容器に入れ、さらに汁またはスープ類を加えて密封した後、常法に従ってレトルト処理を行い、目的のレトルト食品を得る。レトルト処理の条件は、例えば120〜135℃の温度で20〜30分間である。また、容器としては、通常、レトルトパウチに用いられる容器であれば特に制限されず、さらに缶詰や瓶詰め用の容器でもよい。
このレトルト処理により、上記小片状または粒状の生地はα化し、餅様または団子様の具材となる。
なお、上記汁またはスープ類は、目的とする食品の種類によって適宜選択すればよく、組成等に特に制限はない。また、上記小片状または粒状の生地および上記汁またはスープ類の量も、特に制限はない。
【0021】
本発明の方法により製造されたレトルト食品は、レトルト処理後に汁またはスープ類とともに長時間保持されても、餅様または団子様の具材の食感が低下しないばかりでなく、具材表面の崩れや茹でどけがなく、つゆが濁ることもないレトルト耐性を有し、レトルト食品として長期間保存することができる。
【実施例】
【0022】
本発明を具体的に説明するために実施例および比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0023】
〔実施例1〜7および比較例1〜6〕
小麦グルテン(グルテン粉末)、リン酸架橋馬鈴薯澱粉、リン酸架橋タピオカ澱粉および小麦粉を表1に示す配合割合で含有する組成物をそれぞれ調製した。この組成物100質量部に対し、pH調整剤(表1参照;但し実施例2および4では使用せず)を加え、さらに水40質量部を加え、−700mmHgにて10分間ミキシングして、生地をそれぞれ得た。得られた各生地のpH値を表1に示す。得られた各生地から小片状の生地を成形した(直方体形状、最大部位の長さ:25mm)。
そのまま(実施例3、4)もしくは乾燥した(実施例1、2、5〜7、比較例1〜8)小片状の生地5gおよび汁180gをレトルト包材で密封包装した後、125℃にて20分間、常法によるレトルト処理を行い、レトルト食品をそれぞれ得た。
【0024】
なお、小片状の生地の乾燥は、温度35℃、相対湿度75%で6時間行なった。また、汁としては、市販のレトルトパウチ入りぜんざい汁を使用した。
【0025】
得られた各レトルト食品を常温にて30日間保存した後、開封した各レトルト食品を温めてなおしてパネラー10名に喫食させ、α化した小片状の生地(餅様または団子様の具材)の保形性、滑らかさおよび歯応えを表2に示す評価基準に従って評価した。それらの評価結果(パネラー10名の平均点)を表1に示す。
【0026】
〔比較例7〕
餅米粉85質量部およびエーテル化タピオカ澱粉15質量部に、水65質量部を加え、−700mmHgにて10分間ミキシングして生地を得た後、実施例1と同様にして、得られた生地から小片状の生地を成形した。この小片状の生地を、温度35℃、相対湿度75%で6時間乾燥させた。
汁と共にレトルト包材に入れる生地として乾燥した上記小片状の生地を用いた以外は実施例1と同様にして、レトルト食品を得て、その評価を行った。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として、小麦グルテン25〜35質量部(乾物換算)、リン酸架橋澱粉45〜65質量部および小麦粉0〜20質量部を用い、これらに加水し混練して得られた小片状または粒状の生地を、そのままもしくは乾燥して、汁またはスープ類と一緒に密封包装し、ついでレトルト処理することを特徴とするレトルト食品の製造方法。
【請求項2】
上記生地のpHが6.5〜7.5の範囲になるように上記原料にpH調整剤を添加する、請求項1記載のレトルト食品の製造方法。
【請求項3】
上記リン酸架橋澱粉として、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜65質量部およびリン酸架橋タピオカ澱粉0〜30質量部を用いる、請求項1または2記載のレトルト食品の製造方法。
【請求項4】
小麦グルテン25〜35質量部(乾物換算)、リン酸架橋澱粉45〜65質量部および小麦粉0〜20質量部を含み、請求項1記載のレトルト食品の製造方法に用いる、レトルト食品用穀粉組成物。
【請求項5】
さらにpH調整剤を含み、請求項2記載のレトルト食品の製造方法に用いる、請求項4記載のレトルト食品用穀粉組成物。
【請求項6】
上記リン酸架橋澱粉として、リン酸架橋馬鈴薯澱粉35〜65質量部およびリン酸架橋タピオカ澱粉0〜30質量部を含み、請求項3記載のレトルト食品の製造方法に用いる、請求項4または5記載のレトルト食品用穀粉組成物。

【公開番号】特開2012−196190(P2012−196190A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63942(P2011−63942)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】