説明

養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物

【課題】環境にも優しく安全性に優れ、しかも経口投与可能であり、かつ安価な養殖魚のウイルス感染症の予防・治療剤や予防・治療方法を提供すること。
【解決手段】アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解して調製した3〜9個の構成単糖からなるオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)の混合物を、配合飼料に5重量%添加・混合し、マハタ稚魚等の養殖魚に給餌し、ウイルス性神経壊死症(VNN)等のウイルス感染症に対して生存率を高める。粘度20〜60Pa・sの超低粘度アルギン酸を、アルギン酸高分子内のグルロン酸とマンヌロン酸の両方を認識しうる酵素アルギン酸リアーゼを用いると、アルギン酸オリゴマーを効率よく得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物やそれらを含む養殖魚用餌に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖漁業の現場では、種苗生産から商品価値を有する成魚までの育成過程において、ウイルスや細菌による感染症が大きな問題となっている。しかしながら、食品の安全性との観点から抗生物質やその他の化学物質の使用は現在多くの制約があり、禁止されている場合もある。また、安全性が確認されたとしても、養殖魚への医薬品の投与は、対象となる個体の数が多くの場合数万の単位であり、大変高価なものとなる。従って、環境にも優しく安全性に優れた代替技術の開発が求められている。一般に、感染症対策の主要な戦略は有効なワクチンの開発であり、さまざまなウイルス或いは細菌に対するワクチン開発が多くの研究機関で進められている(例えば、特許文献1〜3参照)。一部のワクチンについては、その効果の有効性が認められたものもあるが、養殖産業全体においては、有効なワクチン開発は未だ過渡期の状況であり、養殖現場において早急に対策が求められているさまざまな感染症に対する対応は不十分であるのが現状である。さらに、有効なワクチンが開発されたとしても、多数の魚へのワクチンの注射による投与は、大変な労力と時間がかかる等の困難が予想される。
【0003】
他方、褐藻の細胞壁及び細胞間に充填物質として広く存在する多糖質であるアルギン酸について、オリゴ糖での利用が考えられており、その利用のために、アルギン酸の分解方法や分解に用いる微生物や酵素等の多くの報告がなされている。例えば、アルギン酸の分解方法としては、微生物の産生するアルギン酸分解酵素(アルギン酸リアーゼ)を用いて、アルギン酸を分解する方法について報告されており(例えば、非特許文献1参照)、該アルギン酸リアーゼを産生する微生物として、アルテロモナスsp.H4(例えば、非特許文献2参照)が、シュウドモナスsp.OS−ALG−9(例えば、非特許文献3参照)が、フラボバクテリウムsp.(例えば、非特許文献4参照)、バチルス・サーキュランス(例えば、非特許文献5参照)、クレブシラ・アロジーナス(例えば、非特許文献6参照)等がそれぞれ報告されている。最近、本発明者らによって、アルテロモナスsp.菌株No.272からのアルギン酸リアーゼの分離精製方法についても報告されている(例えば、非特許文献7参照)。
【0004】
また、近年、アルギン酸オリゴマーの取得に関して、アルギン酸の分解方法や分解に用いる微生物や酵素等の多くの開示がなされている。例えば、アルギン酸分解酵素を生産するシュウドモナス属に属する微生物をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献4参照)、アルギン酸分解酵素を生産するアルテロモナス属に属する微生物をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献5参照)、アルギン酸分解能を有するフラボバクテリウム属菌、エンテロバクター属菌をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献6参照)、アルギン酸分解能を有するフラボバクテリウム属の細菌をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、非特許文献8参照、特許文献7参照)が開示されている。
【0005】
また、アルテロモナス属に属する微生物が産生する多糖類分解酵素(アルギン酸リアーゼ)をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献8,9参照)、フラボバクテリウム・SP.OTC−6の産生するアルギン酸リアーゼを用いて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献10,11参照)、アルギン酸分解酵素を生産するバチルス属に属する微生物をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献12参照)、アルテロモナス属に属する微生物が生産したアルギン酸分解酵素をアルギン酸に作用させて、アルギン酸を分解する方法(例えば、特許文献13参照)が開示されている。
【0006】
そしてまた、酸を用いてアルギン酸を分解する方法として、例えば、リン酸を用いてアルギン酸を分解し、アルギン酸が持つ機能を保持したまま溶解性等を良くする方法が(例えば、特許文献14参照)、有機塩基によって中和し溶解させたアルギン酸溶液を、酸加水分解に付し、その後ポリグルロン酸の沈殿を酸性下選択的に沈殿させて、重合度が20未満の低重合度で、かつマンヌロン酸混入物を含まないポリグルロン酸を製造する方法が(例えば、特許文献15参照)開示されている。
【0007】
これらのアルギン酸オリゴマーの利用については、アルギン酸分解物を調製する目的自体が、アルギン酸を使用する場合の物性の改善、例えば粘度の低減や可溶化に向けられており、その多くがアルギン酸としての利用の域を出ないものが殆どである。本発明者らは、海藻から抽出されたアルギン酸を、アルギン酸リアーゼで酵素分解或いは酸で加水分解し、分離、調製した構成単糖が3〜9個の重合度を持つオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)が、ヒト末血白血球に作用し、腫瘍壊死因子(TNF)の産生を誘導し、特に、マクロファージに作用し、TNFの産生放出を誘導するなどの高い免疫機構賦活作用を有することを、研究室レベルにおいて、in vivo及びin vitroで明らかにしている(例えば、特許文献16参照)が、一般に、免疫賦活剤で、ウイルス感染症に対する際立った効果が認められた例は極めて少なく、アルギン酸オリゴマーの混合物が養殖魚マハタのウイルス性神経壊死症(VNN)に対する予防・治療に有効であることは知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2006−312646号公報
【特許文献2】特開平9−285291号公報
【特許文献3】特開平5−139994号公報
【特許文献4】特開昭59−143597号公報
【特許文献5】特開昭63−214192号公報
【特許文献6】特開平3−94675号公報
【特許文献7】特開平5−15387号公報
【特許文献8】特開平5−304974号公報
【特許文献9】特開平6−237783号公報
【特許文献10】特開平6−197760号公報
【特許文献11】特開2001−161358号公報
【特許文献12】特開平9−9962号公報
【特許文献13】特開2000−342278号公報
【特許文献14】特開平11−80204号公報
【特許文献15】特開2000−34302号公報
【特許文献16】特開2005−145885号公報
【非特許文献1】日本水産学雑誌、55(4), 709-713, 1989
【非特許文献2】日本水産学雑誌、58(3), 521-527, 1992
【非特許文献3】J. Ferment. & Bioeng., 72(2), 74-78, 1991
【非特許文献4】J. Ferment. & Bioeng., 72(2), 152-157, 1991
【非特許文献5】Appl. Environ. Microbiol., 47(4), 704-709, 1984
【非特許文献6】Arch.Microbiol., 152, 302-308, 1989
【非特許文献7】Biosci. Biotechnol. Biochem., 65, 133-142, 2001
【非特許文献8】「日本農芸化学会誌65巻臨時増刊号」社団法人日本農芸化学会発行、1991.2.15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
長崎県をはじめ全国的にも養殖産業の活性化対策の一貫として、新たなブランド魚の開発にさまざまな取り組みが試みられている。中でも高級魚として知られているマハタの育成技術の開発にはこれまでに数年が費やされており、育成技術自体はほぼ完成した状況にあるといわれている。このように受精卵から沖だしまでの飼育過程に関わる諸問題はほぼ解決のめどが立っている一方、沖だし後にしばしばみられる、海域に蔓延するウイルス病(VNN)による大量斃死の問題に対しては、ワクチン開発も完成に至っていないのが現状である。本発明の課題は、環境にも優しく安全性に優れ、しかも経口投与可能であり、かつ安価な養殖魚のウイルス感染症の予防・治療剤や予防・治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解して調製した3〜9個の構成単糖からなるオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)の混合物を魚配合飼料に添加した養殖魚用餌で飼育したマハタ稚魚の沖だし後のウイルス抵抗性試験を実施した。例えば、超低粘度特殊グレードアルギン酸(ULV−L3;20〜50Pa・s)を、アルギン酸リアーゼ(海洋細菌由来)を用いて酵素処理し、得られるアルギン酸オリゴマー混合物を重量比で5%添加した養殖魚用餌を調製し、マハタ稚魚に一定期間投与し、その成長及び沖だし後のウイルス感染症に対する抵抗性について調べた。屋内での飼育から沖だしに移行する時期(夏季)に長崎県沿岸域では毎年ウイルス性神経壊死症(VNN)が蔓延し、養殖魚の大量斃死を引き起こす原因となっており、通常の餌による飼育後のマハタ稚魚では沖だし後、その半数以上が斃死し、症状からVNNが原因と推定された。一方、アルギン酸オリゴマー添加飼料で飼育した群では80%近くが生残し、コントロール群とは際立った相違を認めた上で、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解して調製した3〜9個の構成単糖からなるオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)の混合物を含有することを特徴とする養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物や、(2)アルギン酸オリゴマーの混合物が、粘度20〜60Pa・sの超低粘度アルギン酸の酵素分解物であることを特徴とする上記(1)記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物や、(3)アルギン酸オリゴマーの混合物が、アルギン酸高分子内のグルロン酸とマンヌロン酸の両方を認識しうる酵素アルギン酸リアーゼを用いて得られることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物や、(4)アルギン酸オリゴマーの混合物が、塩酸を用いた酸加水分解物であることを特徴とする上記(1)記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物に関する。
【0012】
また本発明は、(5)養殖魚がマハタであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物や、(6)ウイルス感染症がウイルス性神経壊死症(VNN)であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物や、(7)上記(1)〜(6)のいずれか記載の組成物を、養殖魚のウイルス感染症の予防・治療に使用する方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、(8)上記(1)〜(6)のいずれか記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物を含有することを特徴とする養殖魚用飼料や、(9)上記(8)記載の養殖魚用飼料を、養殖魚に給餌することを特徴とする養殖魚のウイルス感染症の予防・治療方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、環境にも優しく安全性に優れ、しかも経口投与可能であり、かつ安価な養殖魚のウイルス感染症の予防・治療剤や予防・治療方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物としては、アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解して調製した3〜9個の構成単糖からなるオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)の混合物を含有するものであれば特に制限されず、上記アルギン酸オリゴマーの調製に用いられるアルギン酸としては、コンブ、ワカメ、ヒジキ等の褐藻類の海藻から抽出されたアルギン酸や、既に調製された市販のアルギン酸(アルギン酸ナトリウム)を用いることができるが、酵素分解に供するアルギン酸(アルギン酸ナトリウム)としては、低粘度のアルギン酸(アルギン酸ナトリウム)、中でも粘度20〜60Pa・sの超低粘度アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)を好適に例示することができる。超低粘度アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)を用いると、10%水溶液での酵素処理が可能となり、アルギン酸オリゴマーの大量調製が可能となる。
【0016】
アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解してアルギン酸オリゴマーを調製するには、前述の特許文献4〜16に記載の方法を用いることができ、アルギン酸の酵素分解に用いられるアルギン酸リアーゼとしては、アルギン酸高分子内のグルロン酸とマンヌロン酸の両方を認識しうる酵素が、ポリグルロン酸やポリマンヌロン酸を分解することにより、不飽和結合のウロン酸を非還元末端とするオリゴマーを効率よく生成しうることから好ましい。また、酸でアルギン酸を加水分解する場合には、塩酸、リン酸のような鉱酸等を用いることができるが、塩酸等を特に好ましい酸として挙げることができる。
【0017】
アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解して、アルギン酸オリゴマーを調製するに際して、予めアルギン酸よりポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸を分離・精製しておくこともできる。アルギン酸よりポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸を分離・精製するには、Haugらの方法(不均一酸性加水分解法)に準じて行うことができる(Acta Chem. Scand., 20, 183-190, 1966; Acta Chem. Scand., 21, 691-704, 1967)。例えば、アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)を、0.3M塩酸塩溶液に懸濁し、100℃で加熱した後、固形物を遠心分離又は濾過によって酸性溶液から分離し、得られた固形物(沈殿物)及び懸濁液をそれぞれ希水酸化ナトリウム溶液で中和して可溶化した後、エタノールを加えて、ポリグルロン酸及びポリマンヌロン酸をそれぞれ沈殿させることができる。
【0018】
アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)の酵素分解物又は酸加水分解物を、必要に応じて、ゲル濾過や各種クロマトグラフィー等、公知の分離手段を用い、3〜9個の構成単糖からなるオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)の混合物を得ることができる。アルギン酸オリゴマーは水溶液の形態や、スプレイドライ等により乾燥して粉末や顆粒の形態としても使用することができる。そして、スプレイドライによりアルギン酸オリゴマーのウイルス感染防除活性が低下しないことが確認されている。
【0019】
本発明のウイルス感染症の予防・治療組成物は、養殖魚のウイルス感染症の予防・治療に使用することができ、アルギン酸オリゴマーの他に、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、抗生物質、抗菌剤などを添加することができる。上記ウイルス感染症としては、ウイルス性神経壊死症(VNN)、イリドウイルス感染症、ヘルペスウイルス感染症、ホワイトスポット症、ラナウイルス感染症、ラブドウイルス感染症、ウイルス性旋回病、 ウイルス性腹水症等を挙げることができ、また、養殖対象魚としては、マハタ、マダイ、ブリ、カンパチ、シマアジ、ヒラマサ、サバ、イシダイ、イシガキダイ、チダイ、スズキ、キジハタ、クエなどのスズキ目魚類及び、コイ、サケ、マス、トラフグ、ヒラメ、カレイ、クルマエビを挙げることができるが、本発明のウイルス感染症の予防・治療組成物は、特にマハタのウイルス性神経壊死症(VNN)に対して有用である。
【0020】
本発明の養殖魚用飼料としては、通常養殖魚に用いられている飼料、例えば、魚粉、甲殻類ミール、小麦粉、澱粉、ビタミン、ミネラル等の粉末原料に、油脂や水、蒸気を加えて成型機でペレット状に成型後乾燥した固形乾燥配合飼料や、イワシ、サバ、イカナゴ等の鮮魚、冷凍魚をミンチにした生餌飼料や、これに粉末飼料を混合し成型したモイストペレット等に、本発明のウイルス感染症の予防・治療組成物を配合、好ましくは1〜10%、より好ましくは3〜7%配合した飼料であれば特に制限されず、固形乾燥配合飼料にアルギン酸オリゴマーを添加した飼料を調製する場合、配合飼料にアルギン酸オリゴマー水溶液を吸収させた後、再び乾燥させて固形飼料として給餌しうることもできるが、大量に調製する場合は、アルギン酸オリゴマーをスプレイドライにより粉末として固形配合飼料調製時に他の成分と混合することもできる。かかる本発明の養殖魚用飼料を、養殖魚に給餌することにより、養殖魚のウイルス感染症を予防・治療することができる。
【0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
(アルギン酸オリゴマー混合物の調製)
アルギン酸オリゴマーの調製には、アルギン酸高分子内のグルロン酸とマンヌロン酸の両方を認識しうる酵素であるナガセケムテック社製のアルギン酸リアーゼ(海洋細菌由来)を用いた。この酵素を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で10mg/mLに調整したものを酵素液とした。この酵素液を、キミカ社製の超低粘度特殊グレードアルギン酸(ULV−L3;20〜50Pa・s)の10重量%水溶液に加え、37℃で反応させた後、水を溶出液としたゲルろ過カラムを用いて脱塩操作を行い、アルギン酸オリゴマー混合物水溶液を得た。このアルギン酸オリゴマー混合物水溶液を、固形乾燥配合飼料(林兼産業株式会社製「ラブ・ラァバNo.6,No.7,No.8」)に重量比で5%添加・吸収させた後、再び乾燥させた。
【実施例2】
【0023】
(アルギン酸オリゴマーの調製)
1.ポリグルロン酸とポリマンヌロン酸の調製
市販のアルギン酸ナトリウムよりHaugらの方法(Acta. Chem. Scand., 20, 183-190, 1966)に若干の改良を加えてポリグルロン酸、ポリマンヌロン酸を調製した。すなわち、アルギン酸(アルギン酸ナトリウム:ナカライテスク製)20gを2Lの0.3M HCl溶液に懸濁し、1.5時間100℃に加熱して部分加水分解を行った。沈殿を採取して、0.3MHClで洗浄した後、250mlの水に懸濁し、希NaOHでpH7に中和して水に溶解した後、凍結乾燥して粉末を得た。該粉末5gを1Lの0.1M NaCl中に溶解し、1Lの酸性水溶液(300mlの0.1M HCl+700mlの水)を加えpH2.85に調整し、沈殿したポリグルロン酸と懸濁したポリマンヌロン酸とを分離した。沈殿したポリグルロン酸をpH2〜3のHClで洗浄し、300mlの水に懸濁させ、NaOHでpH7に調整し溶解した。エタノール(ポリグルロン酸/エタノール=1/2 v/v)を加えて、ポリグルロン酸を沈殿させ、沈殿したポリグルロン酸をエタノールで洗浄(2回)した後、沈殿を水に溶解し、凍結乾燥によって、精製されたポリグルロン酸の粉末を得た。一方、懸濁したポリマンヌロン酸は、NaOHでpH7に調整し、エタノール(ポリマンヌロン酸/エタノール=1/2 v/v)を添加して、ポリマンヌロン酸を沈殿させる。沈殿をエタノールで洗浄(2回)した後、水に溶解し、凍結乾燥によって、精製されたポリマンヌロン酸の粉末を得た。
【0024】
2.酵素消化オリゴマーの調製
不飽和オリゴマーの調製には、酵素アルギネートリアーゼ(SIGMA社製)を用いた。この酵素を10mMリン酸緩衝液でpH7.0で10mg/mlにした。0.2%のポリグルロン酸、ポリマンヌロン酸を含む50mMリン酸緩衝液pH7.0、2.0mlを37℃で10分間予めインキュベートしておき、この基質溶液に酵素溶液を0.2ml添加して、2分間反応を行った。5gのポリグルロン酸、ポリマンヌロン酸を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)、50mlに融解し、酵素0.01ml(10mg/ml、比活性7.24units/mg)を1時間半毎に5回加え、37℃で反応させた。このオリゴマー溶液をメンブランろ過し、予め50mMのリン酸緩衝液(pH6.5)で緩衝化したBio−Gel P−6カラム(8.8×95cm)に各サンプルを供した。流速は1.3ml/minであった。各重合度のピークをプールし、濃縮した。重合度の決定は、ブルーデキストラン2,000とガラクツロン酸を用いてWhitakerの方法に従って行った。この操作で得られた各オリゴマーは多量のリン酸塩を含むため、水を溶出液としたゲルろ過カラムを用いて脱塩操作を行った。蒸留水で緩衝化した Bio−Gel P−2 カラム(2.5×95cm)にリン酸塩を含む試料をかけ、流速0.26ml/minで水で溶出した。リン酸塩の定量はモリブデンブルー法にて行った。リン酸塩を含まない部分のみをプールし、凍結乾燥にて乾燥標品として各オリゴマーを得た。
【0025】
3.酸加水分解オリゴマーの調製
酸加水分解オリゴマーの調製法は、両オリゴマーとも塩酸加水分解で行った。1%ポリグルロン酸、ポリマンヌロン酸溶液(0.1N HClにてpH4.0に調製)200mlをオートクレーブにて121℃でそれぞれ、80、40分間加水分解した。冷却後、0.1N NaOHで中和し、凍結乾燥で50mlに濃縮した。濃縮サンプルを予め50mMのリン酸緩衝液(pH7.5)で緩衝化したBio−Gel P−6カラム(8.8×95cm)に各サンプル50mlを供した。流速1.3ml/mlであった。各重合度のピークをプールし、濃縮した。重合度の決定、脱塩操作、リン酸塩の定量は上記1.と同様の方法で行った。リン酸塩を含まない部分のみをプールし、凍結乾燥にて乾燥標品として各オリゴマーを得た。
【実施例3】
【0026】
(ウイルス感染防除試験)
長崎県総合水産試験場で5月に採卵し、生産した日齢85のマハタ種苗2,074尾を8月8日に屋内コンクリート製20t円形水槽2面に1,037尾ずつ分容し、試験区と対照区とした。飼育水には、紫外線殺菌海水を用いた。また、試験開始時の種苗平均サイズは全長61mm、体重4.4gであった。試験区には実施例1で調製したアルギン酸オリゴマー混合物配合飼料を給餌し、対照区にはアルギン酸オリゴマー混合物を添加していない配合飼料を給餌した。給餌は、手撒き及び自動給餌器を用いて、飽食量行った。屋内水槽で15日間飼育した後の8月23日、当水産試験場前の3m×3m×2.5mイケスに各区1,010尾ずつ移送して沖だしを行った。イケスに収容後(沖だし後)も引き続いて飽食給餌した。
【0027】
試験区及び対照区における全長と体重の経時変化(8月8日〜10月19日)を図1に示す。図1に示すように、アルギン酸オリゴマー混合物配合飼料を給餌した試験区と、アルギン酸オリゴマー混合物を添加していない配合飼料を給餌した対照区において、全長と体重の経時変化、すなわち魚体の成長の推移には両区に差は認められなかった。
【0028】
沖だし後数日してウイルス性神経壊死症(VNN)による発病が確認された。沖だし後の試験区及び対照区におけるも生存率を図2に示す。図2からわかるように、通常の餌で並行して飼育した対照区では60%が斃死した。これに対して、アルギン酸オリゴマー混合物配合飼料を給餌した試験区では約80%が生残し、対照区の約2倍の生残率を示した。
【0029】
これらの結果は、アルギン酸オリゴマー混合物を重量比で5%添加した養殖魚用配合飼料はマハタ稚魚の成長に対して、何らマイナス効果を示さず、栄養学的にも問題無いことを示すと共に、アルギン酸オリゴマーがマハタウイルス性神経壊死症に極めて有効に作用したことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のアルギン酸オリゴマー混合物配合飼料を給餌した試験区と、アルギン酸オリゴマー混合物を添加していない配合飼料を給餌した対照区におけるマハタの全長と体重の経時変化を示す図である。
【図2】本発明のアルギン酸オリゴマー混合物配合飼料を給餌した試験区と、アルギン酸オリゴマー混合物を添加していない配合飼料を給餌した対照区におけるマハタの生存率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸を酵素分解又は酸加水分解して調製した3〜9個の構成単糖からなるオリゴマー(アルギン酸オリゴマー)の混合物を含有することを特徴とする養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物。
【請求項2】
アルギン酸オリゴマーの混合物が、粘度20〜60Pa・sの超低粘度アルギン酸の酵素分解物であることを特徴とする請求項1記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物。
【請求項3】
アルギン酸オリゴマーの混合物が、アルギン酸高分子内のグルロン酸とマンヌロン酸の両方を認識しうる酵素アルギン酸リアーゼを用いて得られることを特徴とする請求項1又は2記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物。
【請求項4】
アルギン酸オリゴマーの混合物が、塩酸を用いた酸加水分解物であることを特徴とする請求項1記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物。
【請求項5】
養殖魚がマハタであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物。
【請求項6】
ウイルス感染症がウイルス性神経壊死症(VNN)であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の組成物を、養殖魚のウイルス感染症の予防・治療に使用する方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか記載の養殖魚のウイルス感染症の予防・治療組成物を含有することを特徴とする養殖魚用飼料。
【請求項9】
請求項8記載の養殖魚用飼料を、養殖魚に給餌することを特徴とする養殖魚のウイルス感染症の予防・治療方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−285431(P2008−285431A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130466(P2007−130466)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】