説明

養液栽培システムおよびこれを用いた養液栽培方法、並びに養液栽培用ポット

【課題】安定的に果菜又は果実の糖度を高めることができ、さらに根の温度を最適範囲内に制御することにより、年間を通しての収量も増加させることが可能になる養液栽培システムを提供する。
【解決手段】養液が流れる栽培ベッド1と、この栽培ベッド内に配置されるとともに栽培すべき株の苗が植設された複数の栽培ポット2と、栽培ベッドに養液を供給する養液の循環供給システムとを備え、栽培ポット2は、底部に形成された開口部3が、養液を通し、かつ株の根を通さないシート状部材4によって塞がれており、養液の循環供給システムは、養液が蓄えられた循環タンク7と、循環タンク内の養液を栽培ベッド内へ常時栽培ポットの下部が浸る流量で供給可能なポンプ9と、循環タンク内の養液を予め設定された温度範囲内に保持する温度調節手段19、20と、循環タンク内の養液の濃度を変化させる濃度調整手段12a、12b、17、18とを有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖度を高めることが好ましい各種の果菜又は果実を栽培するための養液栽培システムおよびこれを用いた養液栽培方法、並びに養液栽培に適した栽培用ポットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、梨、リンゴ等の果実や、メロン、トマト、イチゴ等の果菜にあっては、その糖度のより高いものが消費者に好まれる傾向にある。このような果菜又は果実を栽培するにあたって、その糖度を高める方法の一つとして、栽培中の所定の段階で、株に対する水の供給を絞ることによって水ストレスを与える方法が広く知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、容器状の栽培用鉢と、この内側に張られ、毛細管現象により水を全体に拡散させる性質を有する給液シートと、栽培用鉢の下方に設置された栽培液槽と、栽培用鉢の底部において給液シートと連なると共に、栽培液槽内の栽培液に浸漬され、毛細管現象により水を吸い上げる性質を有する給液帯と、給液シートの内側に充填され、トマトを植生した栽培床とを有するトマト栽培装置が提案されている。
【0004】
この装置は、給水帯及び給水シートの毛細管現象により、栽培液槽からトマトの栽培床が栽培液を消費した量だけ自動的に栽培液の供給が行われ、トマトに適度な水分ストレスを与えながら栽培しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−127177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、水分ストレスを与えつつ栽培する上記方法にあっては、水分供給量を絞った際に根圏における液相分が減少して気相が増加するため、栽培用鉢が空気中に設置されるため、根域温度が外気(施設栽培の場合は施設内温度)の影響を直接的に受け、特に、夏季等の外気温が高い季節には、根の温度が高くなり過ぎるとともに、逆に冬季等の外気温が低い季節には、上記根の温度が低くなりすぎて、いずれの季節も栽培することができず、この結果年間を通しての収量を高めることが難しいという問題点がある。
【0007】
また特に、上記トマト栽培装置においては、給水帯及び給水シートの毛細管現象によって、栽培液槽からトマトの栽培床に栽培液を供給するようにしているために、当該栽培液中に含まれるカルシウムイオン等が給水帯等に付着して結晶化し、これにより毛細管現象による水の移動速度が変化して給水量に制限が加わったり、さらに栽培液が上記給水帯を上昇する過程で、その水分が蒸発することにより、栽培液の物性が変化したりするおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、安定的に果菜又は果実の糖度を高めることができ、さらに根の温度を最適範囲内に制御することにより、年間を通しての収量も増加させることが可能になる養液栽培システムおよびこれを用いた養液栽培方法、並びに養液栽培に適した栽培用ポットを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上述した水ストレスを与えることによって果菜又は果実の糖度を高める栽培方法によっては、年間の総収量を増加させることが困難であるとの認識のもと、根域制限をおこなうために必要な強度及び耐久性を有する栽培用ポットを開発し、水耕栽培の一種である薄膜水耕(Nutrient Film Technique)による根の温度制御とを組み合わせることにより、上記課題を解決し得るとの知見を得るに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)一端部から他端部に向けて養液が流れる栽培ベッドと、この栽培ベッド内に配置されるとともに栽培すべき株の苗が植設された複数の栽培ポットと、上記栽培ベッドに上記養液を供給する養液の循環供給システムとを備えてなり、
上記栽培ポットは、底部に開口部が形成され、当該開口部が、上記養液を通し、かつ上記株の根を通さないシート状部材によって塞がれているとともに、
上記養液の循環供給システムは、当該養液が蓄えられた循環タンクと、この循環タンク内の上記養液を上記栽培ベッドの上記一端部へ送る供給ラインと、この供給ラインに介装されて上記養液を上記栽培ベッド内へ常時上記栽培ポットの下部が浸る流量で供給可能なポンプと、上記栽培ベッドの上記他端部から上記養液を上記循環タンクに戻す戻りラインと、上記養液を予め設定された温度範囲内に保持する温度調節手段と、上記循環タンク内の上記養液の濃度を変化させる濃度調整手段とを有してなることを特徴とする養液栽培システム、
(2)上記温度調整手段は、上記循環タンク内の温度を検出する温度センサと、上記循環タンク内の上記養液と熱交換する熱交換器と、この熱交換器に熱媒体を供給する温度調節ラインと、この温度調節ラインに介装されて上記温度センサからの検出信号により上記熱媒体の上記熱交換器への供給量を制御する制御弁とを備えてなることを特徴とする(1)に記載の養液栽培システム、
(3)上記温度調節ラインには、切換弁を介して、冷却媒体を供給する冷却ラインと、加温媒体を供給する加熱ラインが接続されていることを特徴とする(2)に記載の養液栽培システム、
(4)上記濃度調整手段は、互いに濃度の異なる上記養液を貯留する複数の養液タンクと、各々の養液タンク内の上記養液を上記循環タンクへ送る移送ラインと、各移送ラインに介装された開閉弁とを備えてなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1に記載の養液栽培システム、
(5)上記栽培ベッド上に、上部開口を塞ぐとともに上記栽培ポットが挿入可能な孔部が穿設された天板が載置され、上記栽培ポットは、孔部に挿入されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1に記載の養液栽培システム、
(6)(1)〜(5)のいずれか1に記載の養液栽培システムを用いた養液栽培方法であって、
上記栽培ベッドに、上記株の苗を植設した複数の栽培ポットを配置し、上記循環供給システムの上記循環タンクに蓄えられている上記養液を、上記温度調節手段によって予め設定された温度範囲内に保持しつつ、上記ポンプによって、上記栽培ベッド内へ常時上記栽培ポットの下部が浸る流量で循環供給することにより、当該養液を上記栽培ポットの開口部から上記株の根圏に供給するとともに、上記濃度調整手段によって、上記循環タンク内の上記養液の濃度を、上記株の生育段階の前半よりも後半が高くなるように調整することを特徴とするトマトの栽培方法、
(7)底部に開口部を有し、当該開口部が塞がれるようにシート状部材が一体化された構造を有することを特徴とする養液栽培用ポット、
(8)シート状部材が、経糸織密度が80〜120(本/インチ)、且つ緯糸織密度が70〜120(本/インチ)である織物である(7)に記載の養液栽培用ポット、
(9)シート状部材が、タフタ織物である(7)又は(8)に記載の養液栽培用ポット、(10)シート状部材が、熱可塑性繊維からなるタフタ織物である(9)に記載の養液栽培用ポット、
(11)シート状部材が、熱可塑性の繊維からなるフィラメント糸のタフタ織物である(10)に記載の養液栽培用ポット、
(12)シート状部材が固定補強部材を用いてポットに一体化された(7)〜(11)のいずれか1に記載の養液栽培用ポット、
(13)シート状部材が、熱溶着によりポットと一体化された(7)〜(12)のいずれか1に記載の養液栽培用ポット、
に関る。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜5のいずれかに記載の養液栽培システムおよびこれを用いた請求項6に記載の養液栽培方法によれば、株の苗を植設した複数の栽培ポットを配置した栽培ベッドに、循環タンク内の養液を循環供給することにより、当該養液を栽培ポットの開口部から株の根圏に供給するとともに、循環タンク内の養液の濃度を、上記濃度調整手段によって栽培過程のある段階から高めて、株の吸収濃度よりも若干高い濃度とすることにより、生育される果菜又は果実の肥大を過度に阻害することなく糖度を安定的に高めることができる。
前記(1)に記載の養液栽培システムにおいて、上記栽培ベッドは樋状であり、一端部から他端部に向けて養液が流れる。該複数の栽培ポットは栽培ベッド内に、その延在方向に向けて配置し、かつ栽培すべき株の苗が該複数の栽培ポットに植設された。
【0012】
加えて、本発明においては、上記株の苗を、養液が流れる栽培ベッドに直接定植せずに、栽培ポットに植設した上で上記栽培ベッドに配置しているために、当該栽培ポットによって上記株の根量を抑えて地上部生育を抑制することができる。これにより、株を根域制限というストレス下において、果菜又は果実の糖度を一段と高めることができる。
【0013】
しかも、上記養液の温度を、温度調節手段によって予め設定された当該株の生育に好適な温度範囲内に保持しつつ、かつ上記ポンプによって、上記養液を栽培ベッド内へ常時栽培ポットの下部が浸る流量で循環供給しているために、年間を通して、上記株の根圏の液相を生育に好適な温度範囲に制御しておくことができる。このため、四季の影響を低減し、年間の収量も確実に増加させることができる。
【0014】
なお、上記養液の温度を制御する温度調節手段については、最終的に栽培ベッドに供給される上記養液の温度が所定の温度範囲内に保持される限りにおいて、様々な形態を採用することができるが、請求項2に記載の発明のように、循環タンク内の養液の温度を制御して上記温度範囲を保持するようにすれば、複数の栽培ベッドに1つの循環タンクから養液を供給する場合に、個々の供給ラインや栽培ベッド等に熱交換器を設ける場合と比較して、設備の複雑化を招来することなく、操業や保守が容易になるとともに経済性にも優れる。
【0015】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、上記温度調節ラインに、切換弁を介して、冷却媒体を供給する冷却ラインと、加温媒体を供給する加熱ラインを接続しているために、栽培すべき株の最適な温度範囲よりも気温が高い夏季には、上記冷却ラインからの冷却媒体によって、また上記温度範囲よりも気温が低い冬季には、上記加熱ラインからの加熱媒体によって、上記養液を所望の温度範囲に調節することができ、1年を通して当該株の栽培を行うことができ、よって果菜又は果実の年間収量を確保することができる。
【0016】
また、養液の濃度調整手段についても、例えば栽培過程のある段階から循環タンク内へ供給する液肥の量を増加させることによって対応することも可能であるが、請求項4に記載の発明のように、予め互いに濃度の異なる上記養液を貯留する複数の養液タンクを配置して、養液の濃度を高める段階で開閉弁によって濃度の低い養液タンクから、濃度の高い養液タンクに切り換えることによって対応すれば、濃度調整を一層容易かつ安定的に行うことができて好適である。
【0017】
さらに、請求項5に記載の発明によれば、天板によって栽培ベッド上の上部開口を塞ぎ、かつ当該天板に形成した孔部に栽培ポットを挿入しているために、当該天板による断熱効果によって、栽培ベッド内の養液の温度を安定化させることができる。
【0018】
請求項7〜13に記載の発明によれば、根域制限をおこなうために必要な強度及び耐久性を有する養液栽培用ポットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に関る養液栽培システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の栽培ベッドの横断面図である。
【図3】本発明に関る固定補強部材を使用した養液栽培ポットの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1および図2は、本発明に係る養液栽培システムを、トマトの養液栽培システムに提供した一実施形態を示すもので、図中符号1が、養液wが供給される栽培ベッドである。
この栽培ベッド1は、発泡成形によって長さ寸法が約20mの水が漏れない四方に壁がある形状(例えば、樋状)に形成されるとともに、その内壁面に防水シートが敷設されたもので、その底面の中央部には、溝部1aが長手方向の全長にわたって形成されている。そして、この栽培ベッド1上に、複数(例えば10〜15鉢)の栽培ポット2が載置されている。
【0021】
本発明の養液栽培用ポット2は、ポリエチレンなどの合成樹脂によって有底筒状に形成されたものであり、その底部には、例えば、円形、楕円形、四角形等の形状の開口部3が形成されている。栽培用ポットの大きさは適宜決定されるが、通常、直径約6〜15cm×高さ約6〜15cm程度である。
本発明の栽培用ポット2は、開口部が塞がれるようにシート状部材4が一体化された構造を有する。シート状部材は、栽培ベッドに供給される養液を通し、かつ、養液栽培用ポット内に植設された株の根を通さない網目によって形成されている。本発明の栽培用ポットは、このような構造を有することにより、強度及び耐久性に優れ、更に、栽培中に多少傾いてもポット内に水が侵入することがないため取扱性に優れている。
本発明においては、シート状部材をポットの内側底面に固定してもよく、また、シート状部材をポットの外側底面に固定してもよい。
【0022】
本発明の栽培用ポットに用いるシート状部材としては、養液を通し、かつ、栽培する株の根を通さない網目を有するものであれば種々の部材を使用することができるが、本発明においては、経糸織密度が80〜120(本/インチ)、且つ緯糸織密度が70〜120(本/インチ)である織物を使用することが好ましい。このような織物は、長期間養液内で使用しても強度的に優れている。このような織物として、熱可塑性繊維からなるタフタ織物であるのが好ましく、熱可塑性の繊維からなるフィラメント糸のタフタ織物であることが更に好ましい。本発明においては、タフタ織りポリエステルからなるシートが好適に使用される。
【0023】
シート状部材をポットに一体化させる手段としては、接着剤による接着、熱溶着などが使用できるが、熱溶着により一体化すると、長期間ポットを養液中に浸してもシート状部材がポットから容易に剥がれることがなく、接着強度及び耐久性が維持されるので好ましい。
また、本発明においては、接着、熱溶着などの手段によりシート状部材をポットに一体化させるときに、固定補強部材を用いることもでき、この場合、シート状部材は固定補強部材とともにポットに一体化される。例えば、シート状部材とポットが一体化した部分(固定部(接着部、溶着部など))の上に部分的に1乃至複数の固定補強部材を設けることができ、また、該固定部の全体に亘って固定補強部材を設けることもできる。本発明では、好ましくは、シート状部材は開口部の周辺の一部又は全体で固定補強部材を用いてポットに固定されている。固定補強部材を設けることにより、シート状部材と栽培用ポットの固定部に養液が浸透しにくくなるため、接着強度を長期間維持することが可能となる。また、シート状部材が栽培用ポットと熱溶着しにくい場合には、シート状部材の網目を通して固定補強部材をポットと熱溶着することにより良好な溶着強度を得ることができる。これにより、完全な根域制限効果に加えて、ポットを繰り返して使用することが可能になる。
また、良好な溶着強度を維持するには、溶着するための樹脂溶着部(樹脂溜まりで実際に溶かす部分)の数をできるだけ多くするのが好ましく、そのためにはリングの太さをできるだけ大きくするのが好ましい。溶着強度が30kg/cm程度あるのが特に好ましい。
固定補強部材の材質としては、接着剤で接着する場合は、栽培用ポットの材質と同じであっても異なっていてもよい。また、固定補強部材を用いて熱溶着する場合は、固定補強部材はポットと同じ材質又は栽培用ポットの材質と融点が近い材質であることが好ましい。
【0024】
図3に示すように、シート状部材とポットの固定部を開口部周辺の全体又は一部で固定補強部材33により挟み込むようにして固定することもできる。このような態様の一例としては、ポットの開口部周辺に溝を設けておき、溝部においてシート状部材を固定補強部材で挟み込むことによりシート状部材を固定することができる。
接着剤で固定する場合は、シート状部材とポットの間、及びシート状部材と固定補強部材の間に接着剤を塗布して固定する。熱溶着で固定する場合は、例えば、シート状部材を開口部を塞ぐようにポット上に置き、固定補強部材を熱で溶着させて、溶着した部位をシート状部材に押し当てることにより、シート状部材の網目を通して固定補強部材をポットと熱溶着させることができる。
【0025】
本発明においては、シート状部材として経糸織密度が80〜120(本/インチ)、且つ緯糸織密度が70〜120(本/インチ)である織物を使用し、開口部周辺の全体においてシート状部材を固定補強部材33により挟み込んで、シート状部材及び固定補強部材を栽培用ポットと熱溶着することによりシート状部材がポットと一体化された構造を有する栽培用ポットが特に好ましい。経糸織密度及び緯糸織密度が上記の範囲にあると、網目から株の根を通しにくく、かつ、高い溶着強度を得ることができ好ましい。
【0026】
図2は、本発明に係る養液栽培用ポットを、トマトの養液栽培に提供した一実施形態を示すもので、図中符号1が、養液wが供給される栽培ベッドである。そして、養液栽培用ポット2内には、培地、微粒綿ロックウール等の養液の吸収および保持機能を有する植物支持体5によって、各栽培用ポット2に対して1本のトマトの苗が植設されている。
ここで、栽培ベッド1上には、上部開口を塞ぐ発泡スチロールからなる天板6が長手方向のほぼ全長にわたって載置されている。
この栽培ベッド1は、発泡成形によって長さ寸法が約20mの水が漏れない四方に壁がある形状(例えば、樋状)に形成されるとともに、その内壁面に防水シートが敷設されたもので、その底面の中央部には、溝部1aが長手方向の全長にわたって形成されている。そして、この栽培ベッド1上に、複数(例えば10〜15鉢)の栽培用ポット2が載置されている。
【0027】
天板6には、長手方向に所定の間隔をおいて複数の孔部6aが穿設されており、各々の栽培用ポット2は、各々の孔部6aに挿入されることにより、栽培ベッド1の長手方向に位置決めされている。また、栽培用ポット2は、底部の開口部3を溝部1a上に位置させ、当該溝部1aを跨ぐようにして栽培ベッド1の底面上に載置されている。
【0028】
以上のようにして複数の栽培ポット2が配置された複数の栽培ベッド1が、並列的に配置されており、各々の栽培ベッド1は、一端部1bから他端部1cに向けて漸次下方へと約1/200程度の傾斜で設置されている。そして、各々の栽培ベッド1に養液wを循環供給するための養液の循環供給システムが設けられている。
【0029】
この循環供給システムは、養液wが蓄えられた循環タンク7と、この循環タンク7内の養液を栽培ベッドの一端部1bへ送る供給ライン8と、この供給ライン8に介装されて養液を栽培ベッド1内へ送るポンプ9と、栽培ベッド1の他端部1cから排出された養液を循環タンク7に戻す戻りライン10を備えている。ここで、ポンプ9は、常時、栽培ベッド1内において所定の深さを保持することにより栽培ポット1の下部が浸る流量で養液を供給可能な吐出容量を備えている。
【0030】
また、供給ライン8の先端部は、各々の栽培ベッド1に対応して枝配管されており、各枝配管に開閉弁11が介装されている。他方、栽培ベッド1から排出された養液は、各栽培ベッド1の他端部1cに設けられたトレイ1dおよび排水管1eを介して戻りライン10へと接続されている。
【0031】
さらに、この循環供給システムには、循環タンク7へ濃度の異なる養液を供給可能な濃度調整手段が設けられている。
この濃度調整手段は、互いに濃度の異なる養液を貯留する2つの養液タンク12a、12bと、各々の養液タンク12a、12b内の養液をポンプ13a、13bによって循環タンク7へ送る移送ライン14a、14bと、これら移送ライン14a、14bに介装された三方切換弁(開閉弁)15とから概略構成されたものであり、三方切換弁15によって切り換えられた移送ライン14a、14bの一方からの養液が循環タンク7へと供給されるようになっている。
【0032】
さらに、養液タンク12a、12bには、水を供給する給水ライン16と、液肥を供給する注液ライン17とが導入されており、内部には養液の濃度を電気伝導度(EC値)として検出するECセンサ18が設置されている。そして、各々のECセンサ18からの検出信号に基づいて、養液タンク12a、12b内の養液濃度が所定の範囲内となるように、注液ライン17から液肥が供給されるようになっている。また、養液タンク12a、12bの天井部に設けられたフロート式のレベル検知器により、給水ライン16から水が補給されるようになっている。
【0033】
ここで、上記ECセンサおよび注液ライン17の制御においては、養液タンク12bの養液濃度が、養液タンク12aの養液濃度よりも高くなるように設定されている。ちなみに、本実施形態においては、養液タンク12aのEC値が2.0dS/m、養液タンク12bのEC値が2.5dS/mとなるように設定されている。
【0034】
他方、この循環供給システムにおいては、循環タンク7内の養液の温度を、年間を通して予め設定された範囲内(本実施例においては、20℃〜22℃)に保持するための温度調節手段が設けられている。
この温度調整手段は、循環タンク7内の温度を検出する温度センサ19と、循環タンク7内に配置されて養液wと熱交換する熱交換器20と、この熱交換器20に熱媒体を供給する熱媒体供給ライン(温度調節ライン)21と、この熱媒体供給ライン21に介装されて温度センサ19からの検出信号により上記熱媒体の熱交換器20への供給量を制御する制御弁22とから概略構成されたものである。
【0035】
さらに、この温度調整手段においては、チラー23によって冷却された冷水を蓄える冷水タンク24と、温水(加温媒体)を発生させる温湯ボイラ25が設けられている。そして、冷水タンク24からの冷水(冷却媒体)を送る冷却ライン26と、温湯ボイラ25からの温水を送る加熱ライン27とが、三方切換弁28を介して選択可能に熱媒体供給ライン21に接続されている。また、熱交換器20からの熱媒体の戻りライン29にも、同様の三方切換弁30が介装されており、当該三方切換弁30の2つの出口側に、各々冷水タンク24または温水ボイラ25への戻りライン31、32が接続されている。
【0036】
次に、以上の構成からなる養液栽培システムを用いた本発明に係る養液栽培方法の一実施形態について説明する。
先ず、各々の栽培ベッド1に、トマトの苗を植設した複数の栽培ポット2を配置して、循環供給システムの循環タンク7に蓄えられている養液を、温度調節手段によって予め設定された20℃〜22℃の範囲内に保持しつつ、ポンプ9によって、栽培ベッド1の一端部1b側から内部へ供給する。この際に、使用していない栽培ベッド1については、養液が無駄に供給されないように、当該栽培ベッド1への供給ライン8の枝配管に介装された開閉弁11を閉じておく。
【0037】
なお、上記温度調節手段による温度調節は、例えば夏季のような、外気温度が22℃を超える時には、温度センサ19からの制御信号に基づいて、チラー23によって冷却されて冷水タンク24に蓄えられている冷水を、冷却ライン26から熱交換器20に送って、循環タンク7内の養液を上記温度範囲に調節する。
【0038】
これに対して、例えば冬季のような、外気温度が20℃を下まわる時には、三方切換弁28を切り換えて、温湯ボイラ25からの温水を加熱ライン27から熱交換器20に送って、同様に循環タンク7内の養液を上記温度範囲に調節する。
【0039】
このようにして、温度調整された養液を栽培ベッド1へ供給するに際しては、ポンプ9の吐出量を調整して、常時栽培ベッド1の底面から10〜20mm程度の水深を保持することにより、栽培ポット2の下部が浸るような流量で供給する。なお、栽培初期においては、養液タンク12aにおいて調整したEC2dS/mの濃度の養液を循環タンク7へと供給および補給する。
【0040】
すると、供給ライン8から栽培ベッド1内へ供給された養液wは、各々の栽培ポット2の開口部3からシート4を通して内部へ流入し、これにより栽培ポット2の下部には、根圏に養液の液相が形成される。そして、当該養液から株tの根によって養分が吸収されるとともに、常時栽培ベッド1内に供給される養液によって、常に栽培ポット2内の養分が補給されてゆく。
【0041】
次いで、上記トマトの栽培過程において、株の吸収濃度が高まるある段階(開花してからの日数や積算温度によって決定する。)に至った際に、株の吸収濃度よりも若干高い濃度の養液を供給するべく、循環タンク7への養液を、三方切換弁15を切り換えて、EC値が2.5の養液タンク12bから供給する。
【0042】
以上の構成からなる養液栽培システムおよびこれを用いたトマトの養液栽培方法によれば、トマトの苗を植設した複数の栽培ポット2を配置した栽培ベッド1に、循環タンク7内の養液を循環供給して栽培ポット3の開口部3から株tの根圏に供給するとともに、循環タンク7内の養液の濃度を、栽培過程のある段階から高めて、株の吸収濃度よりも若干高い濃度とすることにより、生育されるトマトの糖度を安定的に高めることができる。
【0043】
加えて、トマトの苗を、栽培ポット2に植設した上で、栽培ベッド1に配置しているために、栽培ポット2によってトマトの根量を抑えて地上部生育を抑制することができ、これによっても根域制限というストレス下におくことにより、トマトの糖度を一段と高めることができる。
【0044】
しかも、養液の温度を、温度調節手段によって予め設定されたトマトの生育に好適な20℃〜22℃の範囲内に保持しつつ、かつポンプ9によって、養液を栽培ベッド1内へ常時栽培ポット2の下部が浸る流量で循環供給しているために、年間を通して、トマトの根圏の液相を生育に好適な温度範囲に制御しておくことができ、よって年間の収量も確実に増加させることができる。
【実施例】
【0045】
本発明が利用している薄膜水耕(NFT)においては、一般的に栽培ベッド1内に直接株の根を定植させて、養液を流すものであることから、このような薄膜水耕を行った場合と、本願発明のように栽培ベッド1に複数の栽培ポット2を配置して、当該栽培ベッド1へ養液を供給するとともに、栽培ベッド1内の養液を開口部3から栽培ポット2内へと供給することにより、株に根域制限ストレスを与えた場合とにおいて、生育されたトマトにどの程度の糖度の相違があるかを検証するための実験を行った。
【0046】
先ず、比較例として、図1および図2に示したものと同様の栽培ベッド1に、直接トマトの苗を定植して、当該栽培ベッド1へ養液を供給することにより、根量を抑制することなくマット状に生育させつつ、トマトを栽培した。
【0047】
また、本発明の実施例として、栽培ベッド1に、トマトの苗を定植した栽培ポット2(開口部10.5cm、高さ9cmで底面部にタフタ織ポリエステルのシート4を熱溶着して開口部3を覆い、培地、微粒綿ロックウールを充填した)を12.5cmの間隔で設置して栽培ベッド1へ養液を供給してトマトを栽培した。
【0048】
なお、上記比較例および実施例ともに、閉鎖型苗生産装置で23日間育成した約4葉期のトマトの苗を定植した。
そして、実施例、比較例ともに、栽培ベッド1の一端部1b側からEC2dS/mの養液を毎分5リットル程度の流量で流し、すべてのトマト株に養液を連続的に供給した。この際に、供給する養液の温度を約20℃となるように調整した。
【0049】
これにより、いずれの場合も、トマトの栽培は慣行に従い、収穫を定植後約90日から始めた。
そして、上記比較例で栽培したトマトの収量は、1株あたり約900gで、糖度は6.5であった。これに対して、上記実施例で栽培したトマトの収量は、栽培ポット2による根量抑制によって地上部の生育が押さえられた結果、1株あたり約700gと減少したが、糖度は平均8.5と著しく高く、根域制限ストレスを与えることによる糖度アップの効果が実証された。
【符号の説明】
【0050】
1 栽培ベッド
1a 溝部
2 養液栽培用ポット
3 開口部
4 シート状部材
5 植物支持体
6 天板
6a 孔部
7 循環タンク
8 供給ライン
9 ポンプ
10 戻りライン
12a、12b 養液タンク
14a、14b 移送ライン
15 三方切換弁(開閉弁)
17 注液ライン
18 ECセンサ
19 温度センサ
20 熱交換器
21 熱媒体供給ライン
22 制御弁
24 冷水タンク
25 温湯ボイラ
26 冷却ライン
27 加熱ライン
33 固定補強部材
t 株
w 養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部から他端部に向けて養液が流れる栽培ベッドと、この栽培ベッド内に配置されるとともに栽培すべき株の苗が植設された複数の栽培ポットと、上記栽培ベッドに上記養液を供給する養液の循環供給システムとを備えてなり、
上記栽培ポットは、底部に開口部が形成され、当該開口部が、上記養液を通し、かつ上記株の根を通さないシート状部材によって塞がれているとともに、
上記養液の循環供給システムは、当該養液が蓄えられた循環タンクと、この循環タンク内の上記養液を上記栽培ベッドの上記一端部へ送る供給ラインと、この供給ラインに介装されて上記養液を上記栽培ベッド内へ常時上記栽培ポットの下部が浸る流量で供給可能なポンプと、上記栽培ベッドの上記他端部から上記養液を上記循環タンクに戻す戻りラインと、上記養液を予め設定された温度範囲内に保持する温度調節手段と、上記循環タンク内の上記養液の濃度を変化させる濃度調整手段とを有してなることを特徴とする養液栽培システム。
【請求項2】
上記温度調整手段は、上記循環タンク内の温度を検出する温度センサと、上記循環タンク内の上記養液と熱交換する熱交換器と、この熱交換器に熱媒体を供給する温度調節ラインと、この温度調節ラインに介装されて上記温度センサからの検出信号により上記熱媒体の上記熱交換器への供給量を制御する制御弁とを備えてなることを特徴とする請求項1に記載の養液栽培システム。
【請求項3】
上記温度調節ラインには、切換弁を介して、冷却媒体を供給する冷却ラインと、加温媒体を供給する加熱ラインが接続されていることを特徴とする請求項2に記載の養液栽培システム。
【請求項4】
上記濃度調整手段は、互いに濃度の異なる上記養液を貯留する複数の養液タンクと、各々の養液タンク内の上記養液を上記循環タンクへ送る移送ラインと、各移送ラインに介装された開閉弁とを備えてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の養液栽培システム。
【請求項5】
上記栽培ベッド上に、上部開口を塞ぐとともに上記栽培ポットが挿入可能な孔部が穿設された天板が載置され、上記栽培ポットは、孔部に挿入されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の養液栽培システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の養液栽培システムを用いた養液栽培方法であって、
上記栽培ベッドに、上記株の苗を植設した複数の栽培ポットを配置し、上記循環供給システムの上記循環タンクに蓄えられている上記養液を、上記温度調節手段によって予め設定された温度範囲内に保持しつつ、上記ポンプによって、上記栽培ベッド内へ常時上記栽培ポットの下部が浸る流量で循環供給することにより、当該養液を上記栽培ポットの開口部から上記株の根圏に供給するとともに、上記濃度調整手段によって、上記循環タンク内の上記養液の濃度を、上記株の生育段階の前半よりも後半が高くなるように調整することを特徴とするトマトの栽培方法。
【請求項7】
底部に開口部を有し、当該開口部が塞がれるようにシート状部材が一体化された構造を有することを特徴とする養液栽培用ポット。
【請求項8】
シート状部材が、経糸織密度が80〜120(本/インチ)、且つ緯糸織密度が70〜120(本/インチ)である織物である請求項7に記載の養液栽培用ポット。
【請求項9】
シート状部材が、タフタ織物である請求項7又は8に記載の養液栽培用ポット。
【請求項10】
シート状部材が、熱可塑性繊維からなるタフタ織物である請求項9に記載の養液栽培用ポット。
【請求項11】
シート状部材が、熱可塑性の繊維からなるフィラメント糸のタフタ織物である請求項10に記載の養液栽培用ポット。
【請求項12】
シート状部材が固定補強部材を用いてポットに一体化された請求項7乃至11のいずれか1項に記載の養液栽培用ポット。
【請求項13】
シート状部材が、熱溶着によりポットと一体化された請求項7乃至12のいずれか1項に記載の養液栽培用ポット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−34472(P2013−34472A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−84642(P2012−84642)
【出願日】平成24年4月3日(2012.4.3)
【出願人】(504137956)三菱樹脂アグリドリーム株式会社 (59)
【Fターム(参考)】