説明

養液栽培排水の処理方法及び装置

【課題】排水が間欠的でもフィルタに目詰まりが生じにくい養液栽培排水の処理方法及び装置の提供。
【解決手段】養液栽培施設1の排水路10に植物片の捕捉可能なフィルタ14付き濾過器11を設け、濾過器11又はその上流排水路10に導入弁WA付きガス導入路40を接続し、排水路10の排水休止時にガス導入路40から不活性ガスを導入して濾過器11内の水及び酸素を押し出す。好ましくは、排水路10の排水休止時にガス導入路40から圧縮空気Aを導入して濾過器11内の水を押し出したのち不活性ガスGを導入して濾過器11内の酸素を押し出す。更に好ましくは、フィルタ14付き濾過器11の上流排水路10にそのフィルタ14より孔の粗いプレフィルタ54付き濾過器51を設け、導入弁WA付きガス導入路40をプレフィルタ54付き濾過器51又はその上流排水路10に接続し、排水路10の排水休止時に両濾過器11、51内の水及び酸素を押し出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養液栽培排水の処理方法及び装置に関し、とくに植物を養液栽培する植物工場、温室、実験室等(以下、これらを纏めて養液栽培施設ということがある)からの排水中に含まれる植物片を処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な植物を屋外耕地に代えて内部環境が制御された閉鎖的又は半閉鎖的空間(例えば室内空間)で養液栽培する技術が開発され、実用化が進められている。養液栽培(hydroponics,nutriculture)とは土壌を用いずに無機塩類の水溶液(培養液)として養分を与える栽培法であり、流動法(NFT、DFT)や静置法(浮根法、毛管法、筒栽培法)等の水耕栽培方式、噴霧耕方式、礫耕・砂耕・ロックウール耕等の固形培地耕方式を含む(非特許文献1参照)。植物を室内空間で養液栽培することにより、屋外耕地の砂漠化防止、水資源の有効利用、植物収量・品質の均一化等といった様々な効果が期待されている。
【0003】
図4は従来の養液栽培施設1の一例を示す(特許文献1参照)。図示例の養液栽培施設1は4つの閉鎖的又は半閉鎖的な栽培室3A、3B、3C、3Dを有し、各栽培室3にそれぞれ養液栽培装置4A、4B、4C、4Dと空調装置5A、5B、5C、5Dと照明装置(図示せず)とが設けられている。また、各栽培室3はそれぞれ独立した給水タンク6A、6B、6C、6Dを有し、例えば敷地内の井戸7から軟水器8a及び純水装置8bを介して各給水タンク6に井水を導き、各栽培室3で栽培する植物の種類に応じた栄養を各給水タンク6で調整・添加して各栽培室3の養液栽培装置4へ給液している。各栽培室3の養液栽培装置4及び空調装置5で発生した排水Dは、排水路10を介して排水貯留槽20に纏めて集めたのち、一般排水として排水枡・下水道・農業排水路等へ放流する。
【0004】
図4の養液栽培施設1は、遺伝子組換え植物が栽培されることを想定し、植物の成体・種子等の植物片や胞子・花粉等の植物細胞(以下、これらを纏めて植物片ということがある)が環境に対して影響を与えないように、植物片の施設外への漏出を防止する排水装置を設けている。すなわち、各栽培室3の養液栽培装置4の排水路10に排水滅菌容器9を接続し、排水Dに対して遺伝子組換え植物の不活化に必要なバッチ式高圧滅菌処理(例えば滅菌温度(121℃)に滅菌時間(例えば15分間)保持する加熱滅菌処理)を施して排水D中の植物片を不活化処理し、不活化処理後の排水Dを一般排水として放流している。ただし、図示例のように排水Dを高温滅菌処理する方法は、養液栽培施設1の規模(排水量)が大きくなると大容量の高温滅菌容器9が必要になって処理コストが嵩む問題点がある。
【0005】
図3は、養液栽培施設1の排水装置の他の一例を示す(特許文献2参照)。図示例の排水装置は、排水路10上に設置するフィルタ14付き濾過器11と、その濾過器11に接続する蒸気弁VB付き蒸気導入路16とを備えている。図示例の濾過器11は、取水弁VA付き取水口12と植物片が捕捉可能な内部フィルタ14(例えばメンブランフィルタ)と排水弁VC付き排水口13とを有し、その取水弁VAとフィルタ14との間に蒸気弁VBを介して蒸気導入路16の一端を接続している。排水処理時は、濾過器11の取水弁VAを開放して蒸気弁VBを閉鎖し、取水口12から排水Dを濾過器11内に流入させ、排水D中の植物片をフィルタ14で捕捉しつつ捕捉後の排水Dを排水口13へ送り出す。例えばフィルタ14に圧損が生じたときに、濾過器11の取水弁VAを閉鎖して蒸気弁VBを開放し、蒸気導入路16を介して蒸気発生装置15から濾過器11内に高圧蒸気Sを導入して濾過器11内を植物片の不活化温度に所定時間(例えば121℃に15分間)保持し、フィルタ14に捕捉した植物片を不活化処理したうえで除去する。例えばフィルタ14を濾過器11に交換可能な態様で取り付け、不活化処理後の植物片をフィルタ14ごと交換する。
【0006】
図3の排水装置によれば、排水Dを昇温する必要がなく高圧蒸気Sの導入により濾過器11内を不活化温度にすれば足りるので、植物片の漏出防止(封じ込め)に要するエネルギーを削減できる。また、図示例のように濾過器11の上流側排水路10に排水貯留槽20を設け、その貯水槽20の複数の排出路21にそれぞれ濾過器11及び蒸気導入路16を接続し、何れかの濾過器11の取水弁VAの閉鎖時に他の濾過器11の取水弁VAを開放することにより排水Dを(バッチ処理ではなく)連続処理することも可能である。排水14を少しずつ連続処理することで濾過器11及びフィルタ14のサイズを小さく抑え、高圧蒸気Sの使用量を削減することで排水処理に要するエネルギーを更に削減することが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−161114号公報
【特許文献2】特開2010−166830号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】伊東正他「蔬菜園芸学」有限会社川島書店、1994年5月20日第4刷発行、pp.226−230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図3のようなフィルタ14付き濾過器11を実際に養液栽培施設1の排水路10に適用したところ、フィルタ14に捕捉された植物片が不活化処理前に腐敗してカビ、生物膜その他の微生物の繁殖源となりうることが経験された。養液栽培施設1からの排水は間欠的であることがあり、前回排水時にフィルタ14に捕捉された植物片が次回排水時まで放置されると徐々に腐敗し、増殖した微生物がフィルタ14に目詰まりを生じさせてフィルタ14の機能を損ない、排水処理をしていないにも拘らずフィルタ14を交換しなければならなくなる。例えば植物片を捕捉するつど(例えば排水時毎に)不活化すれば腐敗を防止できるが、高圧蒸気Sを頻繁に導入しなければならず不活化に要するエネルギーが大きくなり、フィルタ14を用いた排水処理の経済性が損なわれてしまう。図3のようなフィルタ14付き濾過器11を用いて経済的な排水処理を実現するためには、排水が間欠的であってもフィルタ14上の微生物の繁殖(植物片の腐敗)を抑え、フィルタ14の目詰まりを防止して頻繁な交換を必要としない排水処理技術を開発する必要がある。
【0010】
そこで本発明の目的は、排水が間欠的であってもフィルタに目詰まりが生じにくい養液栽培排水の処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1の実施例を参照するに、本発明による養液栽培排水の処理方法は、養液栽培施設1の排水路10に植物片の捕捉可能なフィルタ14付き濾過器11を設け、濾過器11又はその上流排水路10に導入弁WA付きガス導入路40を接続し、排水路10の排水休止時にガス導入路40から不活性ガスを導入して濾過器11内の水及び酸素を押し出してなるものである。
【0012】
また図1のブロック図を参照するに、本発明による養液栽培排水の処理装置は、養液栽培施設1の排水路10に設置する植物片の捕捉可能なフィルタ14付き濾過器11、濾過器11又はその上流排水路10に接続する導入弁WA付きガス導入路40、ガス導入路40の他端に接続する不活性ガス供給装置41、及び導入弁WAの開閉を制御する制御装置30を備え、排水路10の排水休止時にガス導入路40から不活性ガスGを導入して濾過器11内の水及び酸素を押し出してなるものである。
【0013】
好ましくは、図示例のように、ガス導入路40の他端に切替弁WBを介して圧縮空気供給装置43を接続し、制御装置30により切替弁WBの切り替えを制御し、排水路10の排水休止時にガス導入路40から圧縮空気Aを導入して濾過器11内の水を押し出したのち不活性ガスGを導入して濾過器11内の酸素を押し出す。また、濾過器11又はその上流排水路10に蒸気弁VBを介して蒸気導入路16を接続し、制御装置30により蒸気弁VBの開閉を制御し、フィルタ14の更新時に蒸気Sを導入して濾過器11内を植物片の不活化温度に所定時間保持することができる。
【0014】
更に好ましくは、図2に示すように、フィルタ14付き濾過器11の上流排水路10にそのフィルタ14より孔の粗いプレフィルタ54付き濾過器51を設け、導入弁WA付きガス導入路40をプレフィルタ54付き濾過器51又はその上流排水路10に接続し、排水路10の排水休止時に両濾過器11、51内の水及び酸素を押し出す。
【発明の効果】
【0015】
本発明による養液栽培排水の処理方法及び装置は、養液栽培施設1の排水路10にフィルタ14付き濾過器11を設けると共に、その濾過器11に導入弁WA付きガス導入路40を接続し、排水路10の排水休止時にガス導入路40から不活性ガスを導入して濾過器11内の水及び酸素を押し出すので、次の効果を奏する。
【0016】
(イ)排水休止時に濾過器11内の酸素を押し出して不活性ガスGで置換することにより、濾過器11内で好気性微生物の繁殖を抑えてフィルタ14に捕捉された植物片の腐敗を防ぎ、好気性微生物の増殖によるフィルタ14の目詰まりを防止できる。
(ロ)また、排水休止時に濾過器11内の水を押し出すことにより、濾過器11内で嫌気性微生物の繁殖を抑え、嫌気性ガスの発生を避けると共に嫌気性微生物の増殖によるフィルタ14の目詰まりを防止できる。
(ハ)更に、排水休止時に濾過器11内の水を押し出すことにより、冬季において濾過器11及びその周囲の配管内部の水分が凍結・膨張して排水装置を閉塞させる事故、排水装置を破裂させる故障等を避けることができる。
(ニ)不活性ガスGのみを用いて濾過器11内の水及び酸素を押し出すことも可能であるが、排水休止時に先ず圧縮空気Aを導入して濾過器11内の水を押し出したのち不活性ガスGを導入して濾過器11内の酸素を押し出すことにより、水及び酸素の押し出しに必要なランニングコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【図1】は、本発明による養液栽培排水の処理装置の一実施例の説明図である。
【図2】は、本発明による養液栽培排水の処理装置の他の実施例の説明図である。
【図3】は、従来の養液栽培の排水処理装置の一例の説明図である。
【図4】は、従来の養液栽培の排水処理装置の他の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の排水処理装置を遺伝子組換え植物の養液栽培施設1の排水路10に適用した実施例を示す。図示例の養液栽培施設1は、図4と同様の閉鎖的又は半閉鎖的な栽培室3を有し、その栽培室3に養液栽培装置4及び空調装置5を設けて遺伝子組換え植物Pを栽培し、その養液栽培装置4及び空調装置5からの排水Dを排水路10へ排出する。本発明の排水処理装置は、そのような遺伝子組換え植物の養液栽培施設1の排水路10に設置して排水D中の植物片を捕捉すると共に、捕捉した植物片を不活化するために利用できる。ただし、本発明の適用対象は遺伝子組換え植物の養液栽培施設1に限定されず、養液栽培施設1の排水D中の植物片を捕捉する場合に広く適用可能である。例えば、一般的に養液栽培施設1では栄養添加された排水Dを再利用することで栄養剤の消費及び排水処理の負荷を低減しており、そのような一般の養液栽培施設1の排水Dから植物片等を除去して再利用する場合にも本発明の排水処理装置を利用できる。
【0019】
図示例の排水路10は、養液栽培施設1からの排水Dを一時的に貯える排水貯留槽(原水タンク)20と、養液栽培施設1から貯留槽20に排水Dを送る流入路23と、貯留槽20に貯えた排水Dを施設外へ排出する排出路21とを有する。養液栽培施設1からの排水Dは、上述したように繰り返し再利用されるので必ずしも常時排出されるわけではなく、栽培装置4の殺菌・消毒時又は水の入れ替え時等に数週間〜数ヶ月間に1回程度の頻度で集中的に排出されることもある。排水貯留槽20のように集中的に排出される排水のバッファーを設け、貯留槽20の下流側の排水路10(排出路21)に本発明の排水処理装置を設置し、貯留槽20の排水Dをポンプ22で少しずつ送り出して間欠的な変動をある程度緩和することにより、本発明の排水処理装置の小型化を図ることができる。ただし、本発明の排水処理装置は貯留槽20を有する排水路10への適用に限定されるわけでなく、貯留槽20のない排水路10に適用することも可能である。
【0020】
本発明の排水処理装置は、排水路10(図示例では排水貯留槽20の下流側の排出路21)に設置する濾過器11と、その濾過器11又はその上流排水路10に接続する導入弁WA付きガス導入路40とを有する。図示例の濾過器11は取水弁VA付き取水口12と内部フィルタ14と排水口13とを有し、その濾過器11の取水弁VAとフィルタ14との間にガス導入路40の一端を接続し、ガス導入路40の他端を導入弁WA経由で不活性ガス供給装置41に接続している。図示例の濾過器11の取水口12は排水路10の排水Dを取り入れて内部フィルタ14の一次側へ導く内蔵管路又は外付け管路であり、排水口13は内部フィルタ14の二次側の排水Dを排水路10へ送り出す内蔵管路又は外付け管路である。
【0021】
排水路10に排水Dを流す排水処理時(例えば図1のポンプ22の稼動時)は、濾過器11の取水弁VAを開放すると共にガス導入路40の導入弁WAを閉鎖し、排水Dを取水口12から濾過器11内に流入させ、排水D中の植物片をフィルタ14で捕捉しながら排水Dを排水口13へ送り出す。フィルタ14の材質及び孔径は排水Dの性状及びその中に混入した植物片の種類に応じて適宜選択可能であるが、例えば遺伝子組換え植物Pの植物片を捕捉する場合は、胞子・花粉等の植物細胞より小径(例えば孔径5〜10μm程度)の微細孔を有するメンブレンフィルタ又は液濾過フィルタとすることができる。濾過器11から放出された排水Dは、例えば図示例のようにモニタリング槽34に一旦蓄えて植物片の有無を検査したのち、放流弁VIを介して一般の排水枡等へ放流する。植物片が検出された時は、開閉弁VJ付き排水返送路35を介してモニタリング槽34から排水貯留槽20又は養液栽培施設1へ排水Dを戻して排水処理をやり直すことができる。
【0022】
他方、排水路10に排水Dを流さない排水休止時(例えば図1のポンプ22の停止時)に、取水弁VAを閉鎖すると共にガス導入路40の導入弁WAを開放し、不活性ガス供給装置41から不活性ガス供給路42及びガス導入路40を介して濾過器11内に不活性ガスG(例えば窒素ガス、アルゴンガス等)を導入することにより、濾過器11内に残った水及び酸素を濾過器11の外へ押し出す。濾過器11から水分と酸素をパージすることにより、濾過器11内のフィルタ14に捕捉された植物片を乾燥させて腐敗を防止する。
【0023】
排水休止時に、不活性ガスGに代えて空気(圧縮空気)を導入して濾過器11内の水を押し出すことも考えられるが、濾過器11内に酸素が残ると好気性微生物が繁殖して含水状態の植物片を腐敗させ、更に植物片上で好気性微生物が増殖してフィルタ14に目詰まりを生じさせる。濾過器11内で好気性微生物の増殖を抑えるためには不活性ガスGを用いることが望ましい。また、排水休止時に濾過器11内に水分を残したまま不活性ガスGを導入すると、養分を含む排水中で嫌気性微生物が繁殖し、嫌気性発酵により嫌気性ガス(メタンガス等)を発生する可能性がある。嫌気性ガスが発生すると周囲配管の内圧を上昇させて故障の原因となり、更に嫌気性微生物がフィルタ14に目詰まりを生じる原因となりうる。濾過器11内で嫌気性微生物の増殖を抑えるためには、濾過器11内の酸素だけでなく水分を押し出すことが必要である。
【0024】
好ましくは、図1に示すようにガス導入路40の他端に導入弁WAを介して不活性ガス供給装置41を接続すると共に切替弁WBを介して圧縮空気供給装置43を接続し、排水休止時に先ず導入弁WAを閉鎖して切替弁WBを開放し、圧縮空気供給路44及びガス導入路40を介して濾過器11内に圧縮空気Aを導入して水を押し出す。そののち切替弁WBを閉鎖して導入弁WAを開放し、不活性ガス供給路42及びガス導入路40を介して濾過器11内に不活性ガスGを導入して酸素を押し出す。不活性ガスGのみで濾過器11内の水及び酸素を押し出すことも可能であるが、圧縮空気A及び不活性ガスGの両者を用いて濾過器11内の水及び酸素を順次に押し出すことにより、不活性ガスGの消費量を小さく抑えて水及び酸素の押し出しに必要なランニングコストを低く抑えることができる。
【0025】
不活性ガスG(及び圧縮空気A)の導入時に濾過器11から押し出される水及び酸素は、排水Dと同様に排水口13を介して排出することも可能であるが、図示例のように濾過器11の排水口13に排水弁VCを設けると共に濾過器11に排出弁VD付き押出路32を接続し、不活性ガスG(及び圧縮空気A)の導入時に排水弁VCを閉鎖して排出弁VDを開放することにより排水Dと別経路の押出路32経由で押し出すことができる。押出路32経由で排出される水は、フィルタ14の透過前の排水を含んでおり植物片が含まれているので、排水貯留槽20又は養液栽培施設1へ戻して排水処理をやり直すことが望ましい。
【0026】
また、濾過器11の取水弁VA、排水弁VC、排出弁VD、及びガス導入路40の導入弁WA、切替弁WBは、それぞれ手動操作で開閉することもできるが、図示例のように制御装置30に接続して開閉制御することができる。例えば制御装置30により1日の処理終了後(又は数時間に1回毎、数日に1回毎、ポンプ22の稼動時毎であってもよい)に取水弁VA、排水弁VC、排出弁VD、導入弁WA、及び切替弁WBの開閉を自動的に制御して濾過器11内の水及び酸素を排出する。或いは、制御装置30によりポンプ22の稼働状況(排水休止時であるか否か)を検知し、ポンプ22の稼動状況に応じて濾過器11内の水及び酸素を排出することも可能である。不活性ガスG(及び圧縮空気A)を導入するタイミングは、排水休止時であれば任意に設定可能である。
【0027】
なお、図1の実施例においても、図3の場合と同様に濾過器11のフィルタ14に捕捉された遺伝子組換え植物の植物片を不活化するため、濾過器11又はその上流排水路10に蒸気弁VBを介して蒸気導入路16の一端を接続し、その導入路16の他端を蒸気発生器15と接続することにより、導入弁VBの開放時に蒸気発生器15から濾過器11内に高圧蒸気Sを導入することができる。また、フィルタ14の差圧(濾過器11の一次側と二次側との間の圧損)を検知する差圧検知器18を設け、例えば所定設定値(例えば0.18MPa)以上のフィルタ14の圧損検知に応じて制御装置30により取水弁VA、蒸気弁VBの開閉を制御して濾過器11内に高圧蒸気Sを導入し、濾過器11内を植物片の不活化温度に所定時間(例えば121℃に15分間)保持したうえでフィルタ14を更新することができる。ただし、上述したように本発明の排水処理装置は遺伝子組換え植物以外を栽培する養液栽培施設1にも適用可能であり、図示例の蒸気弁VB、蒸気導入路16、差圧検知器18及びは本発明に必須のものではない。
【0028】
本発明は、排水休止時に濾過器11内を不活性ガスで置換するので、濾過器11内のフィルタ14に捕捉された植物片の腐敗を防ぎ、好気性微生物及び嫌気性微生物の増殖によるフィルタ14の目詰まりを防止することができる。また、排水休止時に濾過器11内の水を排出することで、冬季等に濾過器11及びその周囲で水分が凍結・膨張する閉塞・破裂事故を避けることができる。更に、不活性ガスGだけでなく圧縮空気Aを併用して濾過器11内を不活性ガスで置換することにより、フィルタ14の目詰まり防止に必要なランニングコストを低く抑え、フィルタ14付き濾過器11を用いた経済的な排水処理を実現できる。
【0029】
こうして本発明の目的である「排水が間欠的であってもフィルタに目詰まりが生じにくい養液栽培排水の処理方法及び装置」の提供を達成できる。
【0030】
更に好ましくは、図1の実施例に示すように、排水貯留槽20の上流側の流入路23にスクリーン28付きストレーナ25を設け、排水D中の大径の植物片をストレーナ25で予め粗取りする。例えば複数の植物を栽培する養液栽培施設1では、排水D中に様々な大きさの植物片が混入しうる。上流側のスクリーン28付きストレーナ25で大径の植物片を粗取りすることにより、下流側に設置する本発明の濾過器11のフィルタ14の目詰まりを生じにくくし、フィルタ14の更新頻度を低減して排水処理コストを削減することができる。スクリーン28として例えば40メッシュ程度の比較的大きいメッシュサイズの金網等を使用できるが、スクリーン28のメッシュサイズも粗取り対象の植物片の大きさに応じて適宜に選択できる。メッシュサイズの大きいスクリーン28はたとえ微生物が繁殖しても目詰まりするおそれが少ないため、図示例ではストレーナ25にガス導入路を接続しておらず、排水休止時にもストレーナ25内の水および酸素をパージすることになく保持している。ただし、必要に応じて上述した濾過器11と同様のガス導入路をストレーナ25に接続し、排水休止時に不活性ガスG(及び圧縮空気A)を導入してストレーナ25内の水及び酸素をパージしてスクリーン28上での微生物の増殖を防止することも可能である。
【0031】
図1に示すストレーナ25は、流入弁VE付き流入口26と植物片の捕捉可能な内部スクリーン28と流出口27とを有し、更に流入弁VEとスクリーン28との間に接続された導入弁VF付き蒸気導入路17を有している。排水処理時は流入弁VEを開放して排水D中の比較的大きな植物片を捕捉しながら貯留槽20へ排水Dを送り出し、スクリーン28の更新時に流入弁VEを閉鎖すると共に導入弁VFを開放し、ストレーナ25内に高圧蒸気Sを導入して捕捉した植物片を不活化することができる。必要に応じてスクリーン28の差圧(ストレーナ25の一次側と二次側との間の圧損)を検知する差圧検知器19を設け、スクリーン28の圧損検知に応じて制御装置30により流入弁VE、導入弁VFの開閉を制御することも可能である。ただし、スクリーン28付きストレーナ25及びその蒸気導入路17は本発明に必須のものではない。なお、図示例のトレーナ25の流出口27に設けた排水弁VG、及びストレーナ25に接続した排出弁VH付き押出路33は、濾過器11の場合と同様に不活性ガスG(及び圧縮空気A)の導入時にストレーナ25内の水及び酸素を排水Dと別経路で排出するためのものである。
【0032】
また、図1の実施例では、排水貯留槽20の下流側の排水路10(排出路21)にもストレーナ24を設けている。例えば排水D中の養分などが排水貯留槽20に堆積し、その沈殿した汚泥が下流側の排水路10(排出路21)に流出して下流側の濾過器11のフィルタ14に目詰まりを生じさせる可能性がある。貯留槽20と濾過器11との間にストレーナ24を設置することで、濾過器11のフィルタ14の更新頻度を更に低減することが期待できる。
【0033】
なお、図1の実施例においても、図3の場合と同様に排水貯水槽20の下流側に複数の排出路21を設け、その複数の排出路21にそれぞれフィルタ14付き濾過器11と導入弁WA付きガス導入路40とを接続し、濾過器11を切替えながら排水Dを連続的に処理することができる。例えば定期的に濾過器11を切替えながら排水Dを連続的に処理することにより、各排出路21に設置する濾過器11及びフィルタ14のサイズを小さく抑え、フィルタ14付き濾過器11を用いた本発明の排水処理の経済性を更に高めることができる。
【実施例1】
【0034】
図2は、排水路10の排水貯留槽20とフィルタ14付き濾過器11との間に、そのフィルタ14より孔の粗いプレフィルタ54付きプレ濾過器51を設け、導入弁WA付きガス導入路40を濾過器51又はその上流排水路10に接続した実施例を示す。上述したように貯留槽20の上流側のスクリーン28で比較的大径の植物片を粗取りすることにより下流側の濾過器11のフィルタ14の急速な目詰まりを避けることができるが、例えば植物細胞より小径の微細孔を有するフィルタ14の目詰まりを低減するためには、その孔径より大きな植物片等をできる限り上流側で除去しておくことが望ましい。全ての植物片を微細メッシュのスクリーン28で除去することも可能であるが、逆にスクリーン28の目詰まりが生じやすくなり、スクリーン28の更新頻度が増大してしまう。図2に示すように、濾過器11の上流側にプレ濾過器51を設け、スクリーン28より粗いがフィルタ14より細かい植物片をプレフィルタ54で捕捉・除去することにより、フィルタ14やスクリーン28の目詰まり頻度を低減すると共にシステム全体としての経済性を高めることができる。
【0035】
図示例のプレ濾過器51は、取水弁VA付き取水口52と内部プレフィルタ54と排水口53とを有し、その取水弁VAとプレフィルタ54との間に導入弁WA付きガス導入路40を接続している。プレフィルタ54の一例は、上述した濾過器11のフィルタ14よりも大きく且つストレーナ25のスクリーン28よりも小さい細孔を有するメンブレンフィルタ又は液濾過フィルタであるが、その種類及び孔径は植物片の種類、排水Dの性状等に応じて適宜に選択可能である。例えばポンプ22を稼動する排水処理時に、プレ濾過器51の取水弁VAを開放して排水Dをプレ濾過器51に取り入れ、排水D中の比較的大きな植物片をプレフィルタ54で捕捉したうえで排水口53から排水Dを下流の中間路58へ送り出す。中間路58に排水された排水Dは取入口12を介して濾過器11に取り込まれ、プレフィルタ54の通過後に残存する微細な植物片が濾過器11のフィルタ14で更に捕捉・除去される。
【0036】
例えばポンプ22を停止する排水休止時に、プレ濾過器51の取水弁VAを閉鎖すると共にガス導入路40の導入弁WAを開放し、不活性ガス供給装置41から不活性ガス供給路42及びガス導入路40を介してプレ濾過器51、中間路58、及び濾過器11の内部に不活性ガスGを導入し、プレ濾過器51、中間路58、濾過器11に残った水及び酸素を外へ押し出す。プレ濾過器51及び濾過器11の両者から水分と酸素をパージすることにより、プレフィルタ54及びフィルタ14に捕捉された植物片の腐敗を防止すると共に微生物の増殖を抑制する。図2の実施例においても、上述した図1の場合と同様に、ガス導入路40の他端に切替弁WBを介して圧縮空気供給装置43を接続し、排水休止時に先ずプレ濾過器51及び濾過器11内に圧縮空気Aを導入して水を押し出したのち、プレ濾過器51及び濾過器11内に不活性ガスGを導入して酸素を押し出すことにより、水及び酸素の押し出しに必要なランニングコストを低く抑えることができる。
【0037】
また、上述した図1の濾過器11と同様に、プレ濾過器51の排水口53に排水弁VOを設けると共にプレ濾過器51に排出弁VP付き押出路57を接続し、不活性ガスG及び圧縮空気Aの導入時に排水弁VOを閉鎖して排出弁VPを開放することにより、プレ濾過器51内に残った水及び酸素を押出路57経由で排出することができる。プレ濾過器51の取水弁VA、排水弁VO、排出弁VP、及び濾過器11の排水弁VC、排出弁VDは、何れも制御装置30に接続して総合に連動させながら開閉を制御することができる。更に、図2の実施例においても、プレ濾過器51のプレフィルタ54に捕捉された遺伝子組換え植物の植物片を不活化するため、プレ濾過器51に蒸気弁VNを介して蒸気導入路56の一端を接続し、その導入路56の他端を蒸気発生器15と接続することにより、導入弁VNの開放時に蒸気発生器15からプレ濾過器51内に高圧蒸気Sを導入して植物片を不活化することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…養液栽培施設 3…栽培室
4…養液栽培装置 5…空調装置
6…給水タンク 7…井戸
8a…軟水器 8b…純水装置
8c…給水路 9…排水滅菌容器
10…排水路 11…濾過器
12…取水口 13…排水口
14…フィルタ 15…蒸気発生装置
16…蒸気導入路 17…蒸気導入路
18…差圧検知器 19…差圧検知器
20…排水貯留槽 21…排出路
22…ポンプ 23…流入路
24…ストレーナ 25…ストレーナ
26…流入口 27…流出口
28…スクリーン 30…制御装置
32…押出路 33…押出路
34…モニタリング槽 35…排水返送路
36…ポンプ 37…植物片検出センサ
38…養液濃度センサ 39…制御装置
40…ガス導入路 41…不活性ガス供給装置
42…不活性ガス供給路 42…圧縮ガス供給装置
43…圧縮ガス供給路
51…プレ濾過器 52…取水口
53…排水口 54…プレフィルタ
55…差圧検知器 56…蒸気導入路
57…押出路 58…中間路
A…圧縮ガス D…排水
G…不活性ガス P…植物片
S…高圧蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液栽培施設の排水路に植物片の捕捉可能なフィルタ付き濾過器を設け、前記濾過器又はその上流排水路に導入弁付きガス導入路を接続し、前記排水路の排水休止時にガス導入路から不活性ガスを導入して濾過器内の水及び酸素を押し出してなる養液栽培排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1の処理方法において、前記排水休止時にガス導入路から圧縮空気を導入して濾過器内の水を押し出したのち不活性ガスを導入して濾過器内の酸素を押し出してなる養液栽培排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2の処理方法において、前記フィルタ付き濾過器の上流排水路にそのフィルタより孔の粗いプレフィルタ付き濾過器を設け、前記導入弁付きガス導入路をプレフィルタ付き濾過器又はその上流排水路に接続し、前記排水休止時に両濾過器内の水及び酸素を押し出してなる養液栽培排水の処理方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの処理方法において、前記濾過器又はその上流排水路に蒸気弁を介して蒸気導入路を接続し、前記フィルタの更新時に蒸気を導入して濾過器内を植物片の不活化温度に所定時間保持してなる養液栽培排水の処理方法。
【請求項5】
養液栽培施設の排水路に設置する植物片の捕捉可能なフィルタ付き濾過器、前記濾過器又はその上流排水路に接続する導入弁付きガス導入路、前記導入路の他端に接続する不活性ガス供給装置、及び前記導入弁の開閉を制御する制御装置を備え、前記排水路の排水休止時にガス導入路から不活性ガスを導入して濾過器内の水及び酸素を押し出してなる養液栽培排水の処理装置。
【請求項6】
請求項5の処理装置において、前記導入路の他端に切替弁を介して圧縮空気供給装置を接続し、前記制御装置により切替弁の切り替えを制御し、前記排水休止時にガス導入路から圧縮空気を導入して濾過器内の水を押し出したのち不活性ガスを導入して濾過器内の酸素を押し出してなる養液栽培排水の処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6の処理装置において、前記フィルタ付き濾過器の上流排水路にそのフィルタより孔の粗いプレフィルタ付き濾過器を設け、前記導入弁付きガス導入路をプレフィルタ付き濾過器又はその上流排水路に接続し、前記排水休止時に両濾過器内の水及び酸素を押し出してなる養液栽培排水の処理装置。
【請求項8】
請求項5から7の何れかの処理装置において、前記濾過器又はその上流排水路に蒸気弁を介して蒸気導入路を接続し、前記制御装置により蒸気弁の開閉を制御し、前記フィルタの更新時に蒸気を導入して濾過器内を植物片の不活化温度に所定時間保持してなる養液栽培排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−39047(P2013−39047A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176291(P2011−176291)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】