説明

養魚用飼料、魚類の飼育方法及びこれにより生産される魚類

【課題】魚体(魚肉)内へ効率良くゴマリグナン物質を蓄積させ、通常魚体内には存在しないゴマリグナン物質を含有する付加価値の高い魚類を養殖する養魚用飼料を提供する。
【解決手段】ゴマリグナン物質を含み、ビタミンE類が強化されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類養殖等に使用する養魚用飼料、魚類の飼育方法およびこれにより生産される魚類に関する。詳しくは、通常魚体内には存在しないゴマリグナン物質を含有する付加価値の高い魚類を養殖する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴマの成分は、古来より健康を増進する食品として知られている。例えばゴマに含まれているゴマリグナン物質は、生体内トコフェロールの増強作用、アルコール解毒作用、血圧上昇抑制作用、抗酸化作用、血清コレステロール濃度低下作用、及び生体の老化防止など、人体に有効な効果が報告されている。特に近年は、ゴマリグナン物質の一種であるセサミンが脚光を浴びている。ゴマは、通常そのまま加工して食されるか、搾油してゴマ油として食用に供されている。さらに近年は、ゴマから抽出したセサミンを含むサプリメント等の健康食品も市販されている。
【0003】
一方、ゴマ等の香辛料を配合した養魚用飼料が下記特許文献1〜3に提案されている。これらは、香辛料成分によって赤身魚の魚肉や白身魚の血合い部分の鮮度低下を抑制するものである。例えば特許文献1では、ゴマの実を0.02%添加した飼料をブリに給与している(段落0024、0035〜0041)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−299431号公報
【特許文献2】特開平10−229830号公報
【特許文献3】特開2003−299445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、従来はゴマリグナン物質を摂取しようとした場合、ゴマそのものを食するか、ゴマ油やサプリメントを摂取するしかなかった。しかし、ゴマそのもの若しくはゴマ油を摂取する場合は調理を必要とする。したがって、ゴマリグナン物質を摂取するために、わざわざゴマ等を調理するのは煩雑である。一方、サプリメントの摂取は継続性が問題となり、嗜好的に用いられる傾向がある。そこで、日常的に食す食品、例えば魚類にゴマリグナン物質が含まれていれば、魚類を食すだけで副次的にゴマリグナン物質も摂取できるので安易である。しかし、例えばビタミンE類も人体に有用であることから、ビタミンE類強化食品は市販されているが、ゴマリグナン物質を含む魚類は存在しない。
【0006】
一方、ゴマ等の香辛料を含む養魚用飼料は上記特許文献1〜3に開示されている。特許文献1では、飼料にゴマを添加することでブリ肉の鮮度低下を抑制できている。これは、ゴマリグナン物質による影響が予測される。しかし、魚肉内にゴマリグナン物質が蓄積されているか否かは不明である。仮に蓄積されているとしても、ゴマの添加率が0.02%程度では人体への有効摂取量には程遠い。特許文献2,3では、養魚用飼料にゴマを添加してもよいことが記載されているのみであって、実際にゴマを使用したデータは記載されておらず、その効果は不明である。
【0007】
ゴマリグナン物質の魚体内含有量を増加させるには、単純には養魚用飼料へゴマを大量に配合することが考えられる。しかし、ゴマを大量に配合すれば、その他の飼料原料由来の栄養価が低下するので好ましくない。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、魚体(魚肉)内へ効率良くゴマリグナン物質を蓄積させ、通常魚体内には存在しないゴマリグナン物質を含有する付加価値の高い魚類を養殖する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明書は、養魚用飼料について鋭意検討の結果、ゴマリグナン物質はビタミンE類との相乗効果によって効率良く魚体内へ蓄積されることを知見し、以下の(1)〜(5)の発明を完成するに至った。
【0010】
(1)ゴマリグナン物質を含み、ビタミンE類が強化されていることを特徴とする養魚用飼料。
(2)ゴマリグナン物質含有物が0.3重量%以上配合された、(1)に記載の養魚用飼料。
(3)ビタミンE類強化前の飼料に対して、ビタミンE類が30ppm以上強化されている、(1)または(2)に記載の養魚用飼料。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の養魚用飼料を給与することを特徴とする、魚類の飼育方法。
(5)(4)に記載の魚類の飼育方法によって生産される魚類。
(6)ゴマリグナン物質およびビタミンE類の体内含有量が強化された、魚類またはその加工品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の養魚用飼料はゴマリグナン物質を含む。したがって、これを摂取した魚類の体内には、通常では存在しないゴマリグナン物質が蓄積される。これにより、わざわざゴマ等を調理せずとも、当該魚類を食すことで安易にゴマリグナン物質を人体へ摂取できる。ゴマリグナン物質による人体への影響は上述の通りである。
【0012】
そのうえで本発明の養魚用飼料では、ゴマリグナン物質を含むと同時に、ビタミンE類が強化されている。これにより、ゴマリグナン物質を単に配合する場合よりも、ビタミンE類との相乗効果によって魚体内含有量が増加する。したがって、同等のゴマリグナン物質の魚体内含有量を確保するとしても、ゴマリグナン物質の配合量を低減できる。これは、その他の飼料原料由来の栄養価への悪影響を低減できるメリットがある。なお、本発明で言う「強化」とは、増量を意味する。
【0013】
ビタミンE類の含有量を強化する手段としては、ビタミンE類を多く含む飼料原料の配合量を多くすることもできるし、ビタミンE類添加物を添加することもできる。ビタミンE類添加物を添加する方が、ゴマリグナン物質配合量とのバランスを調整し易い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の養魚用飼料は、ゴマリグナン物質を含み、ビタミンE類が強化されている。ゴマリグナン物質とは、ゴマ由来の成分である。
【0015】
ゴマには微量成分としてリグナンが比較的多く含まれている。ゴマ中のリグナン物質としては、セサミン、エピセサミン、ジアセサミン、セサモリン、セサンゴリン、セサモリノール、セサミノール、ピノレジノール、およびシンプレオキシドアグリコンが挙げられる。主要なものはセサミン(C20H18O6、分子量354、融点122.5〜124℃)、セサモリン(C20H18O7、分子量370、融点93.8℃)である。ビタミンE類としては、α−トコフェロール(C29H50O2、分子量430.7、融点2.5〜3.5℃)、dl−α−トコフェリルアセテート(C31H52O3、分子量472.8)、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、およびσ−トコフェロールが挙げられる。これらは単独で含ませても良いし、二種以上を混合して含ませてもよい。
【0016】
本発明にいうゴマとは、ゴマ科ゴマ属ゴマ(学名:Sesamum indicum L.、和名:ゴマ、英名:sesame)に属するものであり、黒ゴマ、白ゴマ、金ゴマなどが存在する。これらのゴマはいずれを使用しても良く、また、単独、あるいは混合して用いても良い。
【0017】
養魚用飼料にゴマリグナン物質を含ませるためには、代表的には養魚用飼料にゴマリグナン物質含有物であるゴマを添加する。ゴマは、未加工のものを用いても良いし、加工されたものを用いても良い。ゴマの形態に関しては、ゴマの成分が飼料中に溶出し易く、ゴマリグナン物質が魚類に効率的に移行できるように、適当に粉砕加工されたものを用いるのが好ましい。また、ゴマリグナン物質含有物として、ゴマから搾油されたゴマ油を添加しても良いし、搾油後のゴマ油粕を添加しても良い。さらにゴマから抽出したゴマリグナン物質そのものを添加してもよい。
【0018】
本発明にいうゴマリグナン物質そのものとは、ゴマ(未加工あるいは加工されたもの、加工残渣のいずれでもよい)から、ゴマリグナン物質を抽出した抽出物、あるいは当該抽出物を精製した抽出精製物のことを指している。
【0019】
本発明にいう魚類とは、ブリ、マダイ、カンパチ、マグロ、フグ、シマアジ、スズキ、ヒラメ、アジ、サバ、ハタ類、サーモンなどの海産養殖魚類、また、ニジマス、コイ、ウナギ、アユ、アマゴ、イワナなどの淡水養殖魚類のことを指している。勿論、これに限らず、ゴマリグナン物質を含む飼料または餌料を給与することが可能な養殖魚類であれば、本発明にいう魚類に含まれる。
【0020】
ゴマリグナン物質の飼料配合量は特に限定されないが、配合量が多ければ多いほど、魚体内含有量も増加する。養魚用飼料にゴマリグナン物質含有物を配合する場合の配合量は、飼料中に少なくとも0.3重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.8重量%以上とする。0.3重量%未満では、魚体中へ的確にゴマリグナン物質が蓄積されないからである。ゴマリグナン物質含有物の配合量は、魚類の種類、成長段階、年齢、体重、環境条件、体調、飼料の原材料の種類、投与する時期、季節などの諸条件に応じて適宜調整することができる。なお、ゴマリグナン物質含有物配合量の上限は特に限定されない。しかし、配合量が多すぎると、ベース飼料本来の栄養価が希釈されるおそれがある。したがって、ベース飼料への悪影響も考慮すると、ゴマの配合量は10重量%以下程度を目安とすることが好ましい。
【0021】
ビタミンE類は、最終的に飼料中に100〜10000ppm程度配合されるよう強化することが好ましい。ビタミンEの含有率が100ppm未満では、ゴマリグナン物質との相乗効果を得難く、効率良くゴマリグナン物質を魚体内へ蓄積できなくなる。一方、ビタミンE類の含有率が10000ppmを超えても悪影響は少ないが、ゴマリグナン物質との相乗効果が飽和するので、ビタミンE類過多となってコスト増につながる。ビタミンEの強化の程度としては、強化前の飼料(通常の飼料)に対して少なくとも30ppm以上、好ましくは50ppm以上、より好ましくは80ppm以上強化する。ビタミンE強化前の飼料に対して少なくとも30ppm以上ビタミンEが強化されていれば、当該ビタミンEとの相乗効果を的確に得られ、ゴマリグナン物質の含有量が向上する。
【0022】
ビタミンE類は、ビタミンE類を比較的多く含む公知の飼料原料の配合量を相対的に増量することで、強化できる。ビタミンE類を多く含む飼料原料としては、ひまわり油、大豆油などの油脂類、大豆、ひまわりの種などの種実類、煎茶、抹茶などの茶類、キャビア、イクラなどの魚卵類、および小麦胚芽、サナギ粕などが挙げられる。これらの一種もしくは二種以上の配合量を相対的に増量してビタミンE類を強化すればよい。または、ビタミンE類そのものを添加剤として添加することで、養魚用飼料のビタミン類を強化することもできる。
【0023】
ゴマリグナン物質およびビタミンE類の投与期間は特に限定されるものではないが、好ましくは、成長期を通じて魚類の飼料に配合して投与する恒常的な連続投与がよい。これにより、魚体内のゴマリグナン物質の効率的な蓄積が期待できる。
【0024】
養魚用飼料の原材料としては、従来から一般的に使用されている公知の原材料を特に制限なく使用できる。例えば、魚粉、カゼイン、イカミール、オキアミミールなどの動物質原料、大豆油粕、コーングルテンミール、小麦粉、脱脂糠、澱粉などの植物質原料、魚油、タラ肝油、イカ肝油などの動物性油脂、大豆油、菜種脂、パーム油、コーン油などの植物油、アルファ化澱粉、CMC(カルボキシメチルセルロース)、アルギン酸ナトリウム、グアガムなどの粘結剤、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、抗酸化剤などを挙げることができる。また、モイストペレットなどの生餌の原料としては、例えば、マイワシ、カタクチイワシ、サバ、サンマ、ニシン、ホッケ、タラ、イカナゴ、オキアミ、イサザアミなどを挙げることができる。養殖用飼料の原材料としては、これらの全部もしくは一部を用いてもよいし、これら以外の原材料を用いることもできる。
【0025】
本発明においては、上記に説明した飼料原料とともにゴマリグナン物質を含み、且つビタミンE類を強化した養魚用飼料を給与することを特徴とする魚類の飼育方法(養殖方法)と、これにより生産される魚類またはその加工品も提案できる。本発明の飼育方法によれば、ゴマリグナン物質が魚体内へ効率良く蓄積されることによって、付加価値の高い魚類を生産することができる。すなわち、ビタミンE類が強化された養魚用飼料へゴマリグナン物質を配合することで、両者の相乗効果により効率的にゴマリグナン物質およびビタミンE類を含有する魚類を育成(生産)することができる。
【0026】
〔実施例1〕ハマチによる飼育試験
(試験飼料および設定条件)
魚粉、魚油、澱粉、小麦粉、ビタミンミックス、ミネラルミックスおよびゴマ、ビタミンE類からなる飼料原料を表1に示す割合にて配合し、粉砕後、ペレットマシンにて成形することにより、本実験例(ハマチによる飼育試験)の試験飼料とした。ゴマの配合割合を0重量%(対照区1)、1.0重量%(試験区1)、2.0重量%(試験区2)、2.0重量%+ビタミンE添加物100ppm(試験区3)とし、計4区を設定した。各試験飼料は、澱粉、小麦粉、魚油の配合量を調整することで、一般成分値(栄養価)がほぼ同等となるように調節した。なお、成分値のビタミンEを除く表1中の数値は、重量%である。
【0027】
【表1】

【0028】
(試験方法)
2000L楕円型水槽4面に平均魚体重400gのハマチ当歳魚をそれぞれ12尾ずつ収容し、試験飼料を用いて水温24℃で4ヶ月間の飼育を行い、そのときの飼料効率、増重率、日間給餌率を評価した。その結果を表2に示す。
【0029】
なお、飼料効率、増重率、日間給餌率は、次のようにして求めた。
飼料効率(%)=総増重量(g)/総給餌量(g)×100
増重率(%)=総増重量(g)/開始時総魚体重(g)×100
日間給餌率(%)=
総給餌量(g)/{総給餌日数(日)×(開始時総魚体重(g)+終了時総魚体重(g))}×200
【0030】
【表2】

【0031】
表2の結果から、本発明のゴマリグナン物質を含有する試験区1,2およびゴマリグナン物質かつビタミンE類を強化した試験区3では、各試験区において、飼料効率、増重率、日間給餌率で対照区1に比して同等の結果が得られた。この結果より、ゴマリグナン物質を含有する飼料およびゴマリグナン物質かつビタミンE類を強化した試験飼料を給与しても、ハマチは良好に成長することが判明した。
【0032】
飼育試験後、各試験区の筋肉中(可食部中)のゴマリグナン物質の一種であるセサミン含量、およびビタミンEの一種であるα−トコフェロールの含量を測定した。その測定結果を表3に示す。なお、セサミンおよびビタミンE(α−トコフェロール)の含量は、試料の熱ベンゼン抽出画分を精製・濃縮し、蛍光検出器付高速液体クロマトグラフ(HEWLETT PACKARD社製 1090 SERIESII)で分析を行った。
【表3】

【0033】
表3の結果から、対照区(ゴマ0重量%配合)ではセサミンが検出されなかったのに対して、ゴマを配合した全ての試験区にてセサミンが検出された。さらにゴマの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のセサミン含量が増加した。さらに、ビタミンE類を強化した試験区3では、ゴマ配合量が同じ試験区2に比して、筋肉中のセサミン含量が増加した。ビタミンE類に関しては、ゴマの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のビタミンE含量が増加した。また、肝臓では、筋肉中よりもさらに高濃度のセサミンおよびビタミンE類が検出された。
【0034】
以上の結果より、ゴマリグナン物質を飼料に配合することにより魚体内にゴマリグナン物質が蓄積することが判明した。飼料中のゴマリグナン物質の含量が増加するにしたがって、魚体内のゴマリグナン物質の蓄積量が増加し、さらにビタミンE類と併用することによる相乗効果により、ゴマリグナン物質およびビタミンE類が効率的に蓄積することが判明した。
【0035】
〔実施例2〕マダイによる飼育試験
(試験飼料および設定条件)
魚粉、魚油、澱粉、小麦粉、ビタミンミックス、ミネラルミックスおよびゴマ、ビタミンE類からなる飼料原料を、表4に示す割合にて配合し、粉砕後、ペレットマシンにて成形することにより、本実験例(マダイによる飼育試験)の試験飼料とした。ゴマの配合割合を0重量%(対照区2)、1.0重量%(試験区4)、2.0重量%(試験区5)、2.0%+ビタミンE100ppm(試験区6)とし、計4区を設定した。各試験飼料は、澱粉、小麦粉の配合量を調整することで、一般成分値(栄養価)がほぼ同等となるように調節した。なお、成分値のビタミンEを除く表4中の数値は、重量%である。
【0036】
【表4】

【0037】
(試験方法)
1000L円形水槽4面に平均魚体重930gのマダイ2歳魚をそれぞれ10尾ずつ収容し、試験飼料を用いて水温24℃で3ヶ月間の飼育を行い、実施例1と同様にして飼料効率、増重率、日間給餌率を評価した。その結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
表5の結果から、ゴマリグナン物質を含有する試験区4,5およびゴマリグナン物質+タミンE類を強化した試験区6では、各試験区において、飼料効率、増重率、日間給餌率で対照区2に比して同等の結果が得られた。これは、実施例1と同じ傾向である。
【0040】
飼育試験後、各試験区の筋肉中(可食部中)のゴマリグナン物質の一種であるセサミン含量およびビタミンE含量を、実施例1と同様にして測定した。その測定結果を表6に示す。
【表6】

【0041】
表6の結果から、対照区2ではセサミンが検出されなかったのに対して、ゴマを配合した全ての試験区にてセサミンが検出された。さらにゴマの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のセサミン含量が増加した。さらに、ビタミンE類を強化した試験区6では、ゴマの配合量が同じ試験区5に比して筋肉中のセサミン含量が増加した。ビタミンE類に関しては、ゴマの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のビタミンE含量が増加した。また、肝臓では、筋肉中よりもさらに高濃度のセサミンおよびビタミンE類が検出された。当該結果も、実施例1と同様の傾向である。
【0042】
〔実施例3〕ウナギによる飼育試験
(試験飼料および設定条件)
魚粉、澱粉、小麦粉、ビタミンミックス、ミネラルミックスおよびゴマからなる飼料原料を表7に示す割合にて配合し、粉砕することにより、本実験例(ウナギによる飼育試験)の試験飼料とした。ゴマの配合割合を0重量%(対照区3)、1.0重量%(試験区7)、2.0重量%(試験区8)とし、計3区を設定した。各試験飼料は、澱粉、小麦粉、魚油の配合量を調整することで、一般成分値(栄養価)がほぼ同等となるように調整した。なお、成分値のビタミンEを除く表7の数値は、重量%である。
【0043】
【表7】

【0044】
(試験方法)
2000L楕円型水槽3面に平均魚体重195gのウナギをそれぞれ50尾ずつ収容し、試験飼料を用いて水温28℃で3ヶ月間の飼育を行い、実施例1と同様にして飼料効率、増重率、日間給餌率を評価した。なお、給餌前に試験飼料には魚油を、対照区3にて6%、試験区7にて5.5%、試験区8にて5%を外割り添加した。また、飼育試験後、各試験区の筋肉(生肉)中のゴマリグナン物質の一種であるセサミン含量およびビタミンE含量も、実施例1と同様にして測定した。さらに、ウナギは蒲焼や白焼き等のように加熱して食することが主なため、白焼き後の含量も同様にして測定した。これらの結果を表8に示す。
【0045】
【表8】

【0046】
表8の結果から、本発明のゴマリグナン物質を含有する試験区7、8では、各試験区において、飼料効率、増重率、日間給餌率で対照区3に比して同等の結果が得られた。この結果より、ゴマリグナン物質を含有する飼料を給与しても、ウナギは良好に成長することが判明した。
【0047】
また、対照区3(ゴマ0重量%配合)では、セサミンが検出されなかったのに対して、ゴマを配合した全ての試験区にてセサミンが検出された。さらにゴマの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のセサミン含量が増加すると同時に、ビタミンE含量も増加した。加熱処理後のセサミンおよびビタミンEが生肉状態より高濃度で検出されているが、これは、加熱処理により筋肉中の水分が減少することにより、濃縮されたものと考えられる。
【0048】
〔実施例4〕ニジマスによる飼育試験1
(試験飼料および設定条件)
魚粉、魚油、澱粉、小麦粉、ビタミンミックス、ミネラルミックスおよびゴマ、ビタミンE類からなる飼料原料を表9に示す割合にて配合し、粉砕後、ペレットマシンにて成形することにより、本実験例(ニジマスによる試験飼育1)の試験飼料とした。ゴマの配合割合を0重量%(対照区4)、0.1重量%(試験区9)、0.5重量%(試験区10)、1.0重量%(試験区11)、2.0重量%(試験区12)、5.0重量%(試験区13)とし、計6区を設定した。各試験飼料は、小麦粉、魚油の配合量を調整することで、一般成分値(栄養価)がほぼ同等となるように調整した。なお、成分値のビタミンEを除く表9中の数値は、重量%である。
【0049】
【表9】

【0050】
(試験方法)
500L円型水槽6面に平均魚体重102gのニジマスをそれぞれ10尾ずつ収容し、試験飼料を用いて水温16℃で2ヶ月間の飼育を行い、実施例1と同様にして飼料効率、増重率、日間給餌率を評価した。また、飼育試験後、各試験区の筋肉(可食部)中のゴマリグナン物質の一種であるセサミン含量およびビタミンE含量も、実施例1と同様にして測定した。これらの結果を表10に示す。
【0051】
【表10】

【0052】
表10の結果から、本発明のゴマリグナン物質を含有する試験区9〜13では、各試験区において、飼料効率、増重率、日間給餌率で対照区4に比して同等の結果が得られた。この結果より、ゴマリグナン物質を含有する試験飼料を給与しても、ニジマスは良好に成長することが判明した。
【0053】
また、対照区4(ゴマ0重量%配合)および試験区9(ゴマ0.1重量%配合)では、セサミンが検出されなかった。これに対して、ゴマを配合した試験区10〜13では、セサミンが検出され、さらにゴマの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のセサミン含量が増加した。ビタミンE類に関しては、ゴマの配合量が増加するに従って、若干のバラつきはあるものの筋肉中のビタミンE含量が増加する傾向が観察された。これにより、ゴマを添加する場合は、飼料中にゴマを0.1重量%以上含有することが好ましいことがわかった。
【0054】
〔実施例5〕ニジマスによる飼育試験1
魚粉、魚油、澱粉、小麦粉、ビタミンミックス、ミネラルミックスおよびゴマ、ビタミンE類からなる飼料原料を表11に示す割合にて配合し、粉砕後、ペレットマシンにて成形することにより、本実験例(ニジマスによる飼育試験2)の試験飼料とした。ゴマの配合割合は、全ての試験区にて2.0重量%にし、ビタミンE単体の配合割合を0ppm(対照区5)、50ppm(試験区14)、100ppm(試験区15)、400ppm(試験区16)とし、計4区を設定した。各試験飼料は、小麦粉の配合量を調整することで、一般成分値(栄養価)がほぼ同等となるように調整した。なお、成分値のビタミンEを除く表11中の数値は、重量%である。
【0055】
【表11】

【0056】
(試験方法)
500L円型水槽4面に平均魚体重102gのニジマスをそれぞれ10尾ずつ収容し、試験飼料を用いて水温16℃で2ヶ月間の飼育を行い、実施例1と同様にして飼料効率、増重率、日間給餌率を評価した。また、飼育試験後、各試験区の筋肉(可食部)中のゴマリグナン物質の一種であるセサミン含量およびビタミンE含量も、実施例1と同様にして測定した。これらの結果を表12に示す。
【0057】
【表12】

【0058】
表12の結果から、本発明のゴマリグナン物質を含有し、かつビタミンEを強化した試験区14〜16では、各試験区において、飼料効率、増重率、日間給餌率で対照区5に比して同等の結果が得られた。この結果より、ゴマリグナン物質を含有し、かつビタミンEを強化した飼料を給与してもニジマスは良好に成長することが判明した。
【0059】
また、セサミンに関しては、対照区5および各試験区の全ての区にて検出された。しかも、ビタミンEを積極的に添加(強化)した試験区14〜16では、ビタミンEを強化していない対照区5に対して、セサミンの含有量が向上していた。さらに、ビタミンEの配合量が増加するにしたがって、筋肉中のセサミン含量が増加する傾向も観察された。ビタミンE類に関しては、ビタミンEの配合量と比例して、筋肉中のビタミンE含量が増加した。なお、ビタミンE剤単体を添加していない対照区5にもビタミンEが含有されているのは、飼料中に元々含まれていたビタミンEである。
【0060】
以上の結果より、魚類の種類に関係なく、ゴマリグナン物質を飼料に配合することにより魚体内中にゴマリグナン物質が蓄積し、ビタミンE類との相乗効果により、ゴマリグナン物質およびビタミンE類が効率的に蓄積することが判明した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴマリグナン物質を含み、ビタミンE類が強化されていることを特徴とする養魚用飼料。
【請求項2】
ゴマリグナン物質含有物が0.3重量%以上配合された、請求項1に記載の養魚用飼料。
【請求項3】
ビタミンE類強化前の飼料に対して、ビタミンE類が30ppm以上強化されている、請求項1または請求項2に記載の養魚用飼料。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の養魚用飼料を給与することを特徴とする、魚類の飼育方法。
【請求項5】
請求項4に記載の魚類の飼育方法によって生産された魚類。
【請求項6】
ゴマリグナン物質およびビタミンE類の体内含有量が強化された、魚類またはその加工品。