説明

養鶏舎内の飼育環境改善構造

【課題】養鶏場内の雛の飼育期間を通し鶏舎内の環境を改善することであり、特に冬期飼育における二酸化炭素濃度上昇の防止、換気の際の急激な温度低下の防止、飼育期間通しての結露防止の方法を提供することにある。
【解決手段】 雛を飼育する鶏舎内において、繊維により構成される布帛が設置されていることを特徴とする養鶏舎内の飼育環境改善構造。布帛は、不織布または織布であることが好ましい。布帛は、鶏舎内換気の入気口付近または排気口付近に布帛が設置されていることが好ましい。また、鶏舎内換気の入気口または排気口をほぼ覆うように布帛が設置されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鶏雛を鶏舎においてブロイラーに飼養するための鶏舎内環境を改善する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鶏舎では、一般にコンクリート床の上に敷きわら、おが屑等を敷き、その上に雛を入れて飼育しており、雛に対して好ましい環境にするためには、温度、湿度、酸素(あるいは二酸化炭素)、鶏糞の処理についての管理が重要である。
【0003】
温度管理の方法としては、雛の頭上や床から暖房を行っているが、特に雛が育成の初期段階である場合は、温度管理がより重要となるため、鶏舎内で飼育範囲を区切ることにより保温範囲をできる限り狭くして保温性を管理しやすくし、かつ仕切りには通気性のないものを使用して保温性を高くさせた工夫を行っている。
湿度については、飼育期間通して70%RH程度必要であるとしているが、季節の変わり目等の自然現象によって、鶏舎内の温度低下等が生じることが原因で結露が発生した場合、その結露水を飲んだ雛が病気になるという問題がある。
【0004】
また、鶏舎内の酸素濃度をほぼ一定に保つために換気を要している。特に、育成初期段階の雛は、換気が不足して二酸化炭素濃度が上昇すると、活動が悪くなり、成長が阻害されることにもなる。このようなことがないように、通常、鶏舎には、吸気口から外気を吸入し、他端から鶏舎内の空気を排気するように、吸気口と排気口のいずれかまたは両方を設けて、換気扇を設置し換気を行っている。しかしながら、この方法では、吸気口の近傍と排気口の近傍で大きく温度差が生じるという問題がある。すなわち、吸気口の近傍では、吸入した空気により低温になる傾向にあり、特に冬期ではより冷たい空気が急激に進入してくるため、吸気口付近での温度低下激しく、雛が育成初期段階にある場合は温度が低くなると餌を食べなくなり体力がつかず成長してから病気を発症し死亡するケースがある。この問題を解消する方法として、鶏舎内の数箇所で温度を検出し、検出された温度に基づいて吸気扇の運転を制御する装置を設けることにより、鶏舎内の温度管理を行うことが特許文献1に提案されている。
【特許文献1】特開平6−197654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、鶏舎内の環境を容易に改善する手段を提供することにあり、より具体的には、換気の際の急激な温度低下を防止する手段の提供、結露を防止する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、雛を飼育する鶏舎内において、繊維により構成される布帛が設置されていることを特徴とする養鶏舎内の飼育環境改善構造を要旨とするものである。
【0007】
本発明では、養鶏舎内にて、所定の場所に繊維により構成される布帛を設置することにより、鶏舎内の環境を良好とする。
【0008】
繊維で構成された布帛は、適度な通気性を有しているため、設置によって空気が遮断されることなく、布帛を通じて空気が適度に行き来することができる。そして、空気が布帛を通る際、侵入してくる温度の異なる空気の速度を、布帛が有する通気性により緩和させることができるため、布帛の設置によって急激な温度変化を抑えることができる。また、繊維で構成されていることから、布帛表面には繊維による微細な凹凸や布帛の組織による凹凸を有するため、例えば、表面平滑なフィルムや樹脂シートと比較して、その表面積が大きく、また、布帛内に空隙を有することから、布帛内にて空気層を保持することもでき、布帛の設置により、急激な温度変化が抑えられる。また、表面積が大きいことと空隙を有することにより、鶏舎内外で気温差が生じても、布帛表面に結露が発生することを抑えることができる。用いる布帛としては、織物、編物、不織布が挙げられる。なかでも、表面積が大きく、空隙が大きいことから、不織布を好ましく用いることができる。なお、本発明の目的を達成できる範囲内において、布帛には、艶消し剤、顔料、防炎剤、消臭剤、光安定剤、熱安定剤、抗菌剤、酸化防止剤等の各種添加剤が添加されたものであってもよい。
【0009】
鶏舎内における布帛の設置場所としては、具体的には、(1)温度が変化し易い場所、(2)温度変化をできる限り少なくしたい場所、の2点を挙げる。
【0010】
(1)温度が変化し易い場所としては、鶏舎内換気のために設けられる入気口付近や排気口付近である。鶏舎内換気のために設けられている入気口と排気口は直接鶏舎外と繋がっているものであり、特に冬期では、鶏舎内外での温度差の影響もあって、入気口から冷えた外気(空気)が速い速度で鶏舎内に入り込み、入ってきた空気は壁面や床面を通って、雛に到達して雛の成育障害に繋がる恐れがある。入気口付近に布帛を設置し、入気口から入り込む外気は、まずは布帛を通してから鶏舎内全体に行き渡るようにする。すなわち、布帛の設置によって冷えた外気が一旦留まり、その後、布帛を通した外気が、徐々に鶏舎内全体にいきわたって鶏舎内の空気と混じることとなるため、急激な温度変化を抑えることができる。一方、排気口では、換気により、鶏舎内の空気を外に排気するのであるが、排気口に設置した換気扇を作動させると、鶏舎内の空気が一気に排出され、それに応じて入気口から一気に外気が入り込むこととなる。これにより鶏舎内では空気が早い速度で対流することになる。この鶏舎内での対流を緩和させるために、排気口付近に布帛を設置することにより、排気速度が緩和され、これに伴い入気口からの外気の入り込みを緩和させることができる。
【0011】
上記した効果を奏するためには、入気口あるいは排気口に布帛を設置するにあたっては、入気口あるいは排気口をほぼ覆うように布帛を設置するとよい。また、布帛の通気度は、200〜1000cc/cm/秒が好ましく、より好ましくは300〜800cc/cm/秒である。通気度が低すぎると、布帛が空気を通し難くなり空気が滞留しすぎてしまい、逆に、通気度が高すぎると布帛を設置する効果が十分に奏されない。
【0012】
また、(2)温度変化をできる限り少なくしたい場所は、雛の育成時期あるいは育成状態に応じて区画された場所が挙げられ、その区画するための仕切り箇所に布帛を設置する。すなわち、布帛を設置することにより布帛が仕切りとしての役割を果たし、布帛による仕切りによって、鶏舎内の一部の場所を部分的に区画することができる。温度変化をできる限り少なくしたい場所に設置する布帛は、仕切った内外での通気を抑えることが必要であることから、仕切部に使用する布帛の通気度は2〜20cc/cm/秒が好ましい。通気度が20cc/cm/秒以下とすることにより、仕切外で温度変化があろうとも、仕切内においてはその影響を受け難くなり、温度変化が生じにくくなるので、デリケートな時期の雛であっても健やかに成育させることができる。また、通気度を2cc/cm/秒以上とすることにより、適度な通気を保持して適度に除湿が可能となるため、結露等が発生しにくい。この理由から、(2)温度変化をできる限り少なくしたい場所に設置する布帛の通気度は5〜15cc/cm/秒がより好ましい。
【0013】
また、この仕切りとなる布帛の遮光率は70%以上が好ましい。雛は、その性質から、仕切の先が見えると不安になり、これが育成障害の原因となる場合がある。よって、仕切の向こうが見えないようにするために遮光率が70%以上の布帛を用いることが好ましく、より好ましい遮光率は90%以上である。布帛の色は、明度が低い黒色系のものが良く、ギラツキ等の反射の無いものが良い。また、遮光率や通気度を調整するために、布帛を2層、3層と重ねて設置することもよい。重ねて設置することは、外気温が特に低い場合に特に好ましい。
【0014】
布帛の設置により仕切った区画内に暖房手段を設けてよい。この場合、仕切った区画の上部に暖房手段を設置するとよい。仕切区画の上部に暖房手段を設置することで、仕切区画に侵入する空気の温度を上げるだけでなく、仕切区画内での結露を防ぐ効果もある。
【0015】
仕切りとなる布帛は、雛が突いた場合でも繊維が抜けにくいものがよく、連続繊維によって構成される布帛が好ましく、特に連続繊維によって構成される不織布または織物が好ましい。
【0016】
本発明の実施態様について図面を用いて説明する。図1は、鶏舎を天井側より見た概略平面図である。図1では、鶏舎中央部に、四方を布帛(4)による囲いを設けて仕切りとし、その仕切内は飼育区画として、雛の飼育場所となる。鶏舎の4面の壁面には、それぞれ壁面に平行して布帛(5)を設置している。布帛の大きさは、ほぼそれぞれの壁面と同等の大きさとして、いわゆる暖簾のように天井近くから下部に向かって垂らして設置すればよく、垂らされた布帛は床面に触れさせて、床面との間に隙間を作らない長さとするとよい。図1の上部および下部の壁面に平行するように、一定の間隔を設けて、それぞれ3枚の布帛(5)を設置している。また、図1の左手の壁面には1枚の布帛を設置し、右手の壁面には2枚の布帛が一定の間隔を設けて2枚の布帛(5)を設置している。また、図2は、図1のA−A’線の概略断面図である。なお、図2では、壁面に入気口(1)と排気口(2)および入気口と排気口を覆うように布帛(5)が設置していることを図示し、また、仕切り区域上部に暖房手段(3)を図示しているが、図1では、これらの図示を省略している。図2においては、入気口(1)を覆うように布帛(5)を設置している。また、排気口(2)をほぼ覆うように布帛(5)を設置している。排気口(2)を覆うように設置した布帛は、完全に排気口を覆うことなく、上部(天井側)は塞がずに空けている。入気口から入った外気は、布帛(5)の内側で一旦留まり、布帛(5)を通じて、鶏舎内に入り、また、壁面に平行して設置した2枚の布帛(5)を通じて、徐々に鶏舎内全体に行き渡ることとなる。また、排気口(2)の換気扇が作動すると、鶏舎内の空気は、排気口(2)が設置された壁面と平行して設置した布帛(5)を通した空気が、排気口(2)をほぼ覆っている布帛(5)を通して鶏舎外に排出される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の養鶏舎内の飼育環境改善構造によると、特に冬期の雛の飼育において、鶏舎内での部分的な温度の変化や急激な温度の変化が生じにくく、また、鶏舎内外気温の低下に伴う結露を防止でき、二酸化酸素濃度の上昇を防止することができ、良好な環境で飼育できるため、鶏が出荷されるまでに死亡してしまう数(事故死率)を軽減できる。また、雛を良好に育成される環境を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る鶏舎の概略平面図である。
【図2】図1のA−A’線の概略断面図である。
【実施例】
【0019】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、実施例における各特性値は、以下のようにして求めたものである。
(1)通気度:JIS L 1096の8.27.1A法のフラジール形法に準じ測定した。すなわち、15cm×15cmの大きさに試験片を採取し、N=5の平均値を通気度(cc/cm/秒)とした。
(2)遮光率(%):JIS L 1906の5.10に準じ、光源の照度を2000 lxとして、N=5の平均値を遮光率(%)とした。
【0020】
実施例
図1に示す鶏舎において、育成初期の雛に、飼育区域を設け、区域の仕切りとなる布帛(4)として、通気度10cc/cm/秒で遮光率96%の黒色の連続繊維によって構成される平織物を用い、飼育区域周り(壁面に平行した箇所)及び入気口、排気口を覆って設置する布帛(5)として、通気度470cc/cm/秒のスパンボンド不織布を設置し、飼育を行った。そして、暖房を使用し温度を24℃以上にて管理した。その結果、雛周りの二酸化炭素濃度は、雛の成育に影響を及ぼす2500ppmを超えること無く、湿度に関しては、平均して50%RHと低めではあったが、きれいな水を撒くことで衛生的に管理でき、結露については発生防止できた。
【0021】
比較例
実施例1において、布帛(4)および布帛(5)に替えて、いずれもポリエチレン製の厚さ0.05mmの黒色フィルムを設置した。その結果、雛周辺の二酸化炭素濃度は3000ppmに達し、二酸化炭素過剰状態であった。湿度は平均して70%RHではあったものの、フィルム表面に結露水多く発生し、衛生的に好ましくない状況であった。
【符号の説明】
【0022】
1入気口
2排気口(換気扇)
3飼育区域の暖房手段
4飼育区域の仕切となる布帛
5空気の入れ換えを緩やかにする布帛
6鶏舎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雛を飼育する鶏舎内において、繊維により構成される布帛が設置されていることを特徴とする養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項2】
布帛が、不織布または織布であることを特徴とする請求項1記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項3】
鶏舎内換気の入気口付近または排気口付近に布帛が設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項4】
鶏舎内換気の入気口または排気口をほぼ覆うように布帛が設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項5】
布帛の通気度が200〜1000cc/cm/秒であることを特徴とする請求項3または4記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項6】
雛の育成時期あるいは育成状態に応じて区画するための仕切り箇所に、布帛が設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項7】
布帛の設置により仕切された区画内に暖房手段が設けられていることを特徴とする請求項6記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項8】
布帛の遮光率が70%以上であることを特徴とする請求項6記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。
【請求項9】
布帛の通気度が2〜20cc/cm/秒であることを特徴とする請求項6または8記載の養鶏舎内の飼育環境改善構造。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−85567(P2012−85567A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233956(P2010−233956)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】