説明

香の供給装置と供給制御方法

【構成】
香センサの信号を用いて、コントローラにより香の放出装置を制御する。香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮め、前記減衰率が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増す。
【効果】
部屋の広狭、換気の強弱等によらず、適切な量の香を放出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は香の供給に関し、特に部屋の広狭、換気の強弱等によらず、適切な量の香を放出することに関する。
【背景技術】
【0002】
香を液体あるいは気体として室内に放出することが知られている。例えば特許文献1(特開2008−188189)では、香料を気化させて空気とブレンドし、空気砲を発射することにより香を放出する。特許文献2(WO2009/37873)では、運転者に注意を喚起するように、自動車の車内に香を放出する。香の供給では、香の濃度が時間的に変化し、嗅覚に刺激を与えるようにすることが求められる。このため特許文献1,2では間欠的に香を放出するようにしている。適切な濃度で香を放出するためには、部屋の広狭と換気の程度のデータが必要があるが、このデータを得ることは難しい。そこで特許文献3(特許2777977)では、室内に複数の香センサを配置し、香センサの信号を上限レベルと下限レベルと比較し、半数以上のセンサの信号が下限レベル以下で香の供給を開始し、半数以上のセンサの信号が上限レベル以上で香の供給を停止することを開示している。しかしこの方法では、室内に複数の香センサを配置して、香の供給装置と通信できるようにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−188189
【特許文献2】WO2009/37873
【特許文献3】特許2777977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、部屋の広狭、換気の強弱等によらず、適切な量の香を放出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、香センサと香の放出装置とを備えて、間欠的に香を室内に放出する香の供給装置において、
香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮め、前記減衰率が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増すように、香の放出装置へ制御データを出力する、コントローラを備えていることを特徴とする。
【0006】
またこの発明は、香センサと香の放出装置とを備えて、間欠的に香を室内に放出する方法において、
香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮め、前記減衰率が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増すように、コントローラにより香の放出装置を制御することを特徴とする。
【0007】
香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きいことは、部屋が広い、あるいは換気が充分に行われている等により、香の濃度が速やかに低下することを意味する。これは結局、放出された香の刺激が弱いことを意味する。また香の放出後の香センサの信号の減衰率が小さいことは、部屋が狭いあるいは換気が僅かしか行われていない等により、放出された香がいつまでも残ることを意味する。そこで香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮め、前記減衰率が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増すと、部屋の広狭及び換気の程度によらず、適切な量の香を放出できる。
【0008】
好ましくは、前記コントローラは、香の放出前の香センサの信号と香の放出後の信号との変化が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増し、前記変化が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮めるように、前記制御データを補正する。
【0009】
香センサは香の吸着を利用しているものが多いため、出力は香濃度に比例しない。また香センサは目標の香のみを選択的に検出するのではなく、様々な雑臭も検出する。香の放出の前後で香センサの信号の変化が小さいことは、既知量の香を放出しても、香の放出前から存在する臭いのために、香センサの信号の変化が目立たないことを意味する。そして香の放出前から存在する臭いの内で、前回放出した香は、放出後のセンサ信号の減衰率を測定することにより、制御に織り込み済みである。これ以外の臭いとしてバックグラウンドの臭いが有り、それは調理臭、食品臭、体臭等であり、その多くは不快臭である。そこで不快臭を打ち消し、あるいは不快臭に弱められずに放出した香が感じられるように、香の放出量を増す、もしくは放出間隔を縮める必要がある。一方、香の放出の前後で、香センサの信号の変化が大きいことは、バックグラウンドの臭いが少ないことを意味し、少量の香を放出すると充分な刺激を与えられることを意味する。そこで前記コントローラは、香の放出前の香センサの信号と香の放出後の信号との変化が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増し、前記変化が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮めるように、前記制御データを補正する。このようにすると、雑多な臭いを打ち消すことができる。

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の香の供給装置のブロック図
【図2】実施例のコントローラのブロック図
【図3】香の供給前後での香センサの信号波形を模式的に示す図
【図4】実施例の制御アルゴリズムを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0012】
図1〜図4に、実施例を示す。図において、2は香センサで、例えば加熱された金属酸化物半導体に香が吸着すると抵抗値が変化することを用いた金属酸化物半導体センサである。しかし香センサ2として、水晶振動子に香を吸着する高分子膜を付着させた水晶振動子センサ,香の吸着により高分子膜の性質が変化することを利用した高分子膜センサなどでもよい。4はコントローラで、香センサ2の信号に基づき香の放出装置6を制御する。放出装置6は、例えば液体の香料を気化させて空気とブレンドし、空気砲として間欠的に発射するが、香料をミスト状にして間欠的に発射しても良い。そしてコントローラ4は、放出装置6から1回当たりに放出する香の量Qを制御し、あるいはQを制御する代わりに、香を放出する間隔を制御する。
【0013】
図2はコントローラ4の機能ブロックを示し、コントローラ4はマイクロコンピュータなどにより実現される。S0記憶部10は香の放出前の香センサ2の信号信号S0を記憶し、S1記憶部11は香の放出後の香センサ2の信号のピーク値S1を記憶する。ピーク値S1を記憶する代わりに、例えば香の放出後のセンサ信号のピーク付近に対応する、固定の時間のセンサ信号を記憶してもよい。S1/S0算出部12は信号S1と信号S0の比を記憶するが、信号S1と信号S0の差を記憶してもよい。τ算出部13は、香放出後のセンサ信号のピークの減衰率の逆数となるピーク幅τを算出する。ピーク幅τは例えばセンサ信号が、S0+k(S1−S0)(kは0.2以上0.8以下の定数、好ましくは0.4以上0.6以下の定数)へと低下するまでの時間をピーク幅τとして算出する。このようにすることに代えて、ピーク値S1とピークから所定時間後のセンサ信号との比あるいは差、ピークを経過した後の2つの時点でのセンサ信号の比もしくは差などを用いてもよい。さらにセンサ信号S0,S1を記憶するのは、S1/S0とピーク幅τとを算出するためで、これらの算出が終われば、センサ信号S0,S1は記憶部10,11から消去しても良い。
【0014】
放出量決定部14は、例えばピーク幅τを主な因子とし、センサ信号の比S1/S0を補助的な因子とするように、即ちピーク幅τの寄与の方がセンサ信号の比S1/S0の寄与よりも大きくなるように、次回に放出する香の量Qを決定する。マップ15に、S1/S0の値とピーク幅τの値とに対する放出量Qが記載され、補正率テーブル16には前回の放出量Q0に基づく、次回の放出力Qへの補正率が記憶されている。そして例えばマップ15から読み出した放出量に、テーブル16から読み出した補正率を乗算して、次回の放出量Qを放出装置6へ指示する。なお放出量を制御する代わりに、次回に香を放出するまでの間隔を制御しても良く、その場合、放出量を増すことは間隔を縮めることと同じで、放出量を減らすことは間隔を延ばすことと同じである。放出量と次回の放出までの間隔の双方を制御しても良い。タイマ18は香の放出間隔を制御するための時計で、ピーク幅τを測定するための時計でもある。
【0015】
図3に、香の放出の前後でのセンサ信号の変化を模式的に示す。香の放出前のセンサ信号をS0とし、実施例では放出直前の値とするが、それよりも前の値でも良い。また香放出後のセンサ信号のピーク値をS1とするが、ピーク値に代えて、ピーク内にあると推定される固定の時間後のセンサ信号を用いてもよい。
【0016】
図3では、香の供給装置が置かれた部屋が広くあるいは換気が充分で、かつ雑臭が少ない場合(実線)と、雑臭が少ないが、部屋が狭いもしくは換気が不充分な場合(破線)と、雑臭があり部屋が広くもしくは換気が充分な場合(一点鎖線)、及び雑臭があり部屋が狭くもしくは換気が不充分な場合(二点鎖線)、の4種類の波形を示す。部屋が広いことと換気が充分であることはいずれもセンサ信号のピーク幅を狭め、部屋が狭いことと換気が不充分なことはいずれもセンサ信号のピーク幅を広くする。また雑臭があるとは、体臭,調理臭,食品臭などの種々の臭があることを意味する。
【0017】
部屋が広い場合あるいは換気が充分な場合、センサ信号はピーク値から速やかに減衰して、元の値S0付近へと復帰する。この場合の特徴はピークの幅が狭いことで、ピーク幅の広狭はピーク幅の測定、もしくはピーク経過後のセンサ信号の減衰率の測定で評価できる。部屋が狭いこともしくは換気が不充分なことは、放出された香がいつまでもセンサ2の付近に止まるため、センサ幅が広くなることに現れる。そこで香の放出後のピーク幅を測定すると、部屋の換気が充分もしくは部屋が広いため、目標の刺激を人に与えるにはより多量の香を放出する必要がある、あるいは部屋が狭くもしくは換気が不充分なため、より少量の香を放出すればよいことが分かる。
【0018】
部屋に雑臭が有る場合と雑臭が無い場合では、同じだけの香を放出しても、香の放出後のセンサ信号の増加の程度が異なる。一般に、雑臭が多いほどS1/S0の値が小さくなり、雑臭が少ないほど、S1/S0の値が大きくなる。そこでS1/S0の値を測定すると、雑臭の程度が分かる。
【0019】
部屋が広くもしくは換気が充分で雑臭が多い場合、香の放出量Qを増す必要がある。冷やが狭くあるいは換気が不充分で、かつ雑臭が少ない場合、香の放出量Qを減らすことが好ましい。またS1/S0を測定した際の香の放出量が多い場合、S1/S0は大きくなる傾向がある。香の放出間隔を変える場合、前回の放出からの間隔が長い場合、S1/S0の値が大きくなる傾向がある。そこで香の放出量もしくは放出の間隔を補正因子として、放出量を補正する。
【0020】
図4に実施例のアルゴリズムを示す。ステップ1で香の放出前のセンサ信号S0を記憶し、S0は前回の香の放出の影響が弱まった後の値であれば、任意の時点でサンプリングしてもよい。香の放出時期が到着するまで待ち(ステップ2)、前回の香の放出時に定めた放出量Qだけ香を放出する(ステップ3)。次いで香の放出に伴うセンサ信号のピーク値S1を記憶し(ステップ4)、センサ信号はS0+k(S1−S0)まで低下するまでの時間からピーク幅τを計測する(ステップ5)。そしてS1/S0の値とピーク幅τとに応じて次回の放出量Qを決定する(ステップ6)。ここで前回の放出量Q0が多く、S1/S0の値が小さくなる条件では、次回の放出量Qを減らすように補正する(ステップ7)。なお放出量に代えて放出間隔を制御する場合、S1/S0もしくはピーク幅τが大きい場合に、放出の間隔を増し、S1/S0が小さいあるいはピーク幅τが小さい場合に、放出の間隔を縮める。また前回の放出量による補正に代えて、前回の放出からの間隔が所定値以下の場合、次回の放出までの間隔を長くするように補正する。これは前回に放出した香のために、S1/S0の値が小さくなっている可能性があるためである。

【符号の説明】
【0021】
2 香センサ
4 コントローラ
6 放出装置
10 S0記憶部
11 S1記憶部
12 S1/S0算出部
13 τ算出部
14 放出量決定部
15 マップ
16 補正率テーブル
18 タイマ

S0 香放出前のセンサ信号
S1 香放出後のセンサ信号のピーク値
τ ピーク幅
Q 香の放出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香センサと香の放出装置とを備えて、間欠的に香を室内に放出する装置において、
香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮め、前記減衰率が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増すように、香の放出装置へ制御データを出力する、コントローラを備えていることを特徴とする、香の供給装置。
【請求項2】
前記コントローラは、香の放出前の香センサの信号と香の放出後の信号との変化が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増し、前記変化が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮めるように、前記制御データを補正することを特徴とする、請求項1の香の供給装置。
【請求項3】
香センサと香の放出装置とを備えて、間欠的に香を室内に放出する方法において、
香の放出後の香センサの信号の減衰率が大きい場合には、1回当たりの香の放出量を増すかあるいは香の放出間隔を縮め、前記減衰率が小さい場合には、1回当たりの香の放出量を減らすかあるいは香の放出間隔を増すように、コントローラにより香の放出装置を制御することを特徴とする、香の供給制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−217504(P2012−217504A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83486(P2011−83486)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)