説明

香味付与物の製造方法、香味付与物の製造装置、並びに香味付与飲料及び食品

【課題】香料や有機溶媒などの添加物を使用することなく、天然食品素材の香味を安全かつ安価に付与することができる香味付与物の製造方法、香味付与物の製造装置、並びに香味付与飲料及び食品の提供。
【解決手段】天然食品素材を加熱して揮発させた香味を対象物に付与する香味付与物の製造方法である。天然食品素材が、嗜好性植物、鰹節、昆布、及び果実から選ばれる1種以上である態様、対象物が、液状飲料及び液状食品のいずれかである態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味付与物の製造方法、香味付与物の製造装置、並びに香味付与飲料及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の香気組成物の製造方法としては、水蒸気蒸留法、超臨界抽出法、液化炭素ガス抽出法、溶媒等を用いた抽出法などがあり、これらは高価な設備を必要とし、力価に対して製造コストが高く、本来の香気が得られていないという問題がある。また、アルコールなどの有機溶媒に溶け込ませたものが多く、天然物から香気成分を取り出すための溶媒として、エタノール、グリセリン、プロピレングリコールなどの使用が認められているものの、これらの溶媒で抽出された香気組成物では、使用量が規定されるという問題があり、溶媒がプロピレングリコールの場合、安全性が不十分であるという問題がある。
【0003】
魚介類エキスなどの独特の臭いを有するエキスに対し、スモークウッドなどの燻材に由来するスモーク臭をバランスよく付与する方法が開示されている(特許文献1参照)。これにより、臭いをマスキングし、香味バランスを向上させることができる。しかしながら、臭いのマスキングのみならず、独特の臭いを有しないものにも香り付けするニーズがあるが、これまでは香料が主に用いられていた。
【0004】
したがって、香料や有機溶媒などの添加物を使用することなく、天然食品素材の香味を安全かつ安価に付与することができる香味付与物の製造方法、香味付与物の製造装置、並びに香味付与飲料及び食品については、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−107769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、香料や有機溶媒などの添加物を使用することなく、天然食品素材の香味を安全かつ安価に付与することができる香味付与物の製造方法、香味付与物の製造装置、並びに香味付与飲料及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 天然食品素材を加熱して揮発させた香味を対象物に付与することを特徴とする香味付与物の製造方法である。
<2> 天然食品素材が、嗜好性植物、鰹節、昆布、及び果実から選ばれる1種以上である前記<1>に記載の香味付与物の製造方法である。
<3> 嗜好性植物が、コーヒー、カカオ、香辛料、麦、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ホップ、及びゴマから選ばれる1種以上である前記<2>に記載の香味付与物の製造方法である。
<4> 果実が、柑橘類である前記<2>に記載の香味付与物の製造方法である。
<5> 対象物が、液状飲料及び液状食品のいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の香味付与物の製造方法である。
<6> 液状飲料及び液状食品のいずれかが、コーヒー、紅茶、麦茶、ゴマペースト、ガーリックエキス、オニオンエキス、カツオエキス、酵母エキス、ウスターソース、液糖、液体デキストリン、みりん、酢、及び醤油から選ばれる1種以上である前記<5>に記載の香味付与物の製造方法である。
<7> 対象物が、固形食品である前記<1>から<4>のいずれかに記載の香味付与物の製造方法である。
<8> 天然食品素材を加熱して香味を揮発させる香味発生手段と、
前記香味を対象物に付与する香味付与手段と、
前記香味を前記香味発生手段から前記香味付与手段に通気する通気手段とを有することを特徴とする香味付与物の製造装置である。
<9> 天然食品素材が、嗜好性植物、鰹節、昆布、及び果実から選ばれる1種以上である前記<8>に記載の香味付与物の製造装置である。
<10> 嗜好性植物が、コーヒー、カカオ、香辛料、麦、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ホップ、及びゴマから選ばれる1種以上である前記<9>に記載の香味付与物の製造装置である。
<11> 果実が、柑橘類である前記<9>に記載の香味付与物の製造装置である。
<12> 対象物が、液状飲料及び液状食品のいずれかである前記<8>から<11>のいずれかに記載の香味付与物の製造装置である。
<13> 液状飲料及び液状食品のいずれかが、コーヒー、紅茶、麦茶、ゴマペースト、ガーリックエキス、オニオンエキス、カツオエキス、酵母エキス、ウスターソース、液糖、液体デキストリン、みりん、酢、及び醤油から選ばれる1種以上である前記<12>に記載の香味付与物の製造装置である。
<14> 対象物が、固形食品である前記<8>から<11>のいずれかに記載の香味付与物の製造装置である。
<15> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の香味付与物の製造方法により製造されたことを特徴とする香味付与物である。
<16> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の香味付与物の製造方法により製造されたことを特徴とする香味付与飲料及び食品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、香料や有機溶媒などの添加物を使用することなく、天然食品素材の香味を安全かつ安価に付与することができる香味付与物の製造方法、香味付与物の製造装置、並びに香味付与飲料及び食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明に係る香味付与物の製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(香味付与物の製造方法及び香味付与物の製造装置)
本発明の香味付与物の製造方法は、天然食品素材を加熱して揮発させた香味を対象物に付与する工程を含んでなり、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
本発明の香味付与物の製造装置は、天然食品素材を加熱して香味を揮発させる香味発生手段と、前記香味を対象物に付与する香味付与手段と、前記香味を前記香味発生手段から前記香味付与手段に通気する通気手段とを有してなり、更に必要に応じて、その他の部材を有する。前記本発明の香味付与物の製造方法は、本発明の香味付与物の製造装置により好適に行うことができる。
【0011】
−天然食品素材−
前記天然食品素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、嗜好性植物、鰹節、昆布、果実、これらの抽出残渣乃至製造残渣などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記嗜好性植物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の嗜好性植物を選択することができ、例えば、コーヒー、カカオ、香辛料、麦、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ホップ、ゴマなどが挙げられる。ここで、「嗜好性植物」とは、味や風味等の味覚や臭覚、摂取時の心身の高揚感などを楽しむために飲食される植物を意味する。
前記香辛料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の香辛料を選択することができ、例えば、ブラックペッパー、レッドペッパー等のペッパー;オニオン、ガーリック、オレガノ、カルダモン、クミン、山椒、シソ、シナモン、ショウガ、タイム、唐辛子、ナツメグ、ニラ、ネギ、ミント、ローリエ、ワサビ、カレー粉、ウコン、ハーブなどが挙げられる。
前記果実としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ゆず、ライム等の柑橘類などが挙げられる。また、前記果実としては、果実全体であってもよく、果実を構成する果皮、果肉、果汁、種子などの部位であってもよい。これらの中でも、前記柑橘類の果皮が好ましい。また、前記果実としては、生鮮果実であってもよく、乾燥した果実(ドライフルーツ)であってもよく、凍結した果実であってもよく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0012】
−対象物−
前記天然食品素材を加熱して揮発させた香味を付与する対象物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液状飲料乃至液状食品、固形食品などが挙げられる。加えて、飲料及び食品以外の物品にも香味を付与することができる。これらの中でも、液状飲料乃至液状食品が、香味付与効率が高い点で好ましい。また、前記対象物が固形の場合、ホールであってもよく、クラッシュタイプであってもよく、粉末状であってもよく、目的に応じて適宜選択することができるが、粉末状であることが、香味付与効率が高い点で好ましい。
前記液状飲料乃至液状食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コーヒー、紅茶、麦茶、ゴマペースト、ガーリックエキス、オニオンエキス、カツオエキス、酵母エキス、ウスターソース、液糖、液体デキストリン、みりん、酢、醤油などが挙げられる。
前記固形食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピーナッツ、アーモンド、クルミ、カシューナッツ等のナッツ類;米(無洗米、精製米、玄米等)、小麦、大麦、そば粉等の穀物類;クッキー、せんべい等の製菓類などが挙げられる。
前記飲料及び食品以外の物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、芳香剤などに用いられる担体が好ましい。そのような担体としては、例えば、セルロースビーズ、セルローススポンジ、紙等のセルロース多孔質体;親水性織布、親水性不織布等の親水性繊維;ケイ酸カルシウム、アルミナ、シリカゲル、ゼオライト等の親水性多孔質素材などが挙げられる。
また、独特の臭いがある対象物のマスキングに限らず、無臭乃至独特の臭いを有しない対象物に対し、前記天然食品素材に由来する香味を付与できる。そのような無臭乃至独特の臭いを有しない対象物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セルロースビーズ、液体デキストリン、水、糖液、ポリデキストロースなどが挙げられる。
【0013】
本発明の香味付与物の製造装置としては、例えば、図1に示す香味付与物の製造装置が挙げられる。図1に示す香味付与物の製造装置は、香味発生手段としてのスモーク発生装置1と、香味付与手段としての香味付与タンク2と、通気手段としての真空ポンプ3とを有し、更に、加熱用ジャケット4、攪拌手段5、エアスパージャー6、空気取り入れ口7、送気パイプ8、脱気パイプ9を有する。
【0014】
前記香味発生手段としては、前記天然食品素材を加熱して香味を揮発させるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の手段を選択することができ、例えば、スモーク発生装置などが挙げられる。
前記天然食品素材を加熱する温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100℃〜2,000℃が好ましく、150℃〜1,000℃がより好ましい。
【0015】
香味付与物の製造方法を行うに際し、まず、前記対象物を密閉された前記香味付与手段に入れる。
前記香味付与手段としては、前記香味を前記対象物に付与するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の手段を選択することができ、例えば、香味付与タンク、スモークハウスなどが挙げられる。
前記対象物の前記香味付与手段の容量に対する投入量としては、前記香味が前記対象物に付与可能であり、且つ前記通気手段中に飛沫同伴しないよう設定する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記対象物が液状の場合、その固形分濃度としては、前記香味が前記対象物に付与可能であれば特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、必要に応じて加熱して前記対象物の粘度を低下させることにより、前記香味の接触を容易にしてもよい。
前記香味を発生させる前に、前記対象物を予め所定の温度に加熱することが好ましい。前記加熱温度としては、前記対象物の種類などによって異なり、一概に規定することができないが、0℃〜100℃が好ましく、10℃〜80℃がより好ましい。
【0016】
次いで、前記香味発生手段により、前記天然食品素材を加熱して前記天然食品素材に由来する香味を含む揮発物を発生させ、前記通気手段により、前記香味を含む揮発物を前記香味発生手段から前記香味付与手段に通気する。そして、前記香味付与手段において、前記揮発物を前記対象物に付与し、香味付与物を製造する。
前記通気手段としては、前記香味を前記香味発生手段から前記香味付与手段に通気するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の手段を選択することができ、例えば、真空ポンプ、送風機などが挙げられる。
前記香味付与手段には、図1に示すように、必要に応じて、加熱用ジャケット4、攪拌手段5、エアスパージャー6などを付属させることができ、加熱によって対象物の粘度を低下させたり、対象物に効率的に香味を付与させたりすることができる。
【0017】
前記天然食品素材の使用量としては、香味を対象物に付与できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、対象物100質量部に対し、1質量部〜200質量部が好ましく、1質量部〜100質量部がより好ましい。
前記香味を前記対象物に付与する時間としては、前記香味を前記対象物に付与できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
(香味付与物、香味付与飲料及び食品)
本発明の香味付与物は、上述した本発明の香味付与物の製造方法により製造された香味付与物である。また、本発明の香味付与物は、上述した本発明の香味付与物の製造装置を用いて香味が付与された香味付与物である。
前記対象物としては、前記液状飲料乃至液状食品が好ましく、また、前記固形食品が好ましい。
また、前記対象物としては、飲料及び食品以外の物品であることが好ましい。
本発明の香味付与飲料及び食品は、上述した本発明の香味付与物の製造方法により製造された香味付与飲料及び食品である。また、本発明の香味付与飲料及び食品は、上述した本発明の香味付与物の製造装置を用いて香味が付与された香味付与飲料及び食品である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0020】
(実施例1)
コーヒーエキス(Brix15%)300kgを30℃に加温し、図1に示す香味付与装置の香味付与タンクに投入し、市販の焙煎したコーヒー豆45kgを用いて、スモーク発生装置により1,000℃で加熱して揮発物を発生させた。続いて、真空ポンプにより吸引を行いながら、発生した揮発物を10分間、香味付与タンクに導入した。
その結果、焙煎コーヒー由来のバランスの良い、より自然な焙煎香とコーヒー独特な味が付与された実施例1のコーヒーエキスを得た。
【0021】
(実施例2)
酵母エキスペースト(Brix60%、アサヒフードアンドヘルスケア株式会社製)300kgを60℃に加温して粘度を低下させ、図1に示す香味付与装置の香味付与タンクに投入し、市販のホールのブラックペッパー90kgを用いて、スモーク発生装置により1,000℃で加熱して揮発物を発生させた。続いて、真空ポンプにより吸引を行いながら、発生した揮発物を20分間、香味付与タンクに導入した。
その結果、ブラックペッパー由来の刺激臭のある強い香りと味が付与された実施例2の酵母エキスペーストを得た。
【0022】
(実施例3)
市販のコーヒー豆粉砕物40gに対して水1,000gで、家庭用ドリップメーカーを使用して得たコーヒー飲料に、実施例1のコーヒーエキスを0.1容量%添加したところ、コーヒーの自然な風味が強化された実施例3のコーヒー飲料を得た。
【0023】
(比較例1)
実施例3において、実施例1のコーヒーエキスを0.1容量%添加する代わりに、コーヒー香料(フレーバー:コーヒーフレーバー142−485、内外香料株式会社製)を添加した以外は、実施例3と同様にして比較例1のコーヒー飲料を得た。
【0024】
<コーヒーの官能評価試験>
実施例3及び比較例1のコーヒー飲料について、10名のパネラーによって、官能評価を行い、家庭用ドリップメーカーで得たコーヒー飲料に比べて非常に悪い(−2)、やや悪い(−1)、同等(±0)、やや良い(+1)、非常に良い(+2)の評点をつけた結果を表1に示した。その結果、比較例1に比べて実施例3のコーヒー飲料が非常に優れていることが明らかとなった。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例4)
市販ウスターソースに、実施例2の酵母エキスを0.2容量%添加したところ、ブラックペッパー由来のトップ香と、後に引く風味を強く持った実施例4のウスターソースを得た。
【0027】
(比較例2)
実施例4において、実施例2の酵母エキスを0.2容量%添加する代わりに、市販ブラックペッパー香料(フレーバー:ブラックペッパーエッセンス、日東香料株式会社製)を添加した以外は、実施例4と同様にして比較例2のウスターソースを得た。
【0028】
<ウスターソースの官能評価試験>
実施例4及び比較例2のウスターソースについて、10名のパネラーによって、官能評価を行い、市販のウスターソースに比べて非常に悪い(−2)、やや悪い(−1)、同等(±0)、やや良い(+1)、非常に良い(+2)の評点をつけた結果を表2に示した。その結果、比較例2に比べて実施例4のウスターソースが非常に優れていることが明らかとなった。
【0029】
【表2】

【0030】
(実施例5)
市販のピーナッツ100kgを網に入れ、図1に示す香味付与装置の香気付与タンク内に吊り下げ、市販のカカオ豆10kgを用いて、スモーク発生装置により500℃で加熱して揮発物を発生させた。続いて、真空ポンプにより吸引を行ないながら、発生した揮発物を30分間、香味付与タンクに導入した。その結果、焙煎した良好なカカオ豆風味が付与された実施例5のピーナッツを得た。
【0031】
(比較例3)
市販のピーナッツ1,000gに、カカオ香料(フレーバー:カカオエッセンスS−051、日東香料株式会社製)を0.1質量%まぶしたカカオ風味のする比較例3のピーナッツを得た。
【0032】
<ピーナッツの官能評価>
実施例5及び比較例3のピーナッツについて、10名のパネラーによって官能評価を行い、比較例3に対してカカオ風味が非常に悪い(−2)、やや悪い(−1)、同等(±0)、やや良い(+1)、非常に良い(+2)の評点をつけた結果を表3に示した。その結果、比較例3に比べて実施例5のピーナッツが非常に優れていることが明らかとなった。
【0033】
【表3】

【0034】
(実施例6)
多孔性セルロースビーズ(ビスコパール、レンゴー株式会社製)10kgを網に入れ、図1に示す香味付与装置の香気付与タンク内に吊り下げ、乾燥させたゆず皮10kgを用いて、スモーク発生装置により250℃で加熱して揮発物を発生させた。続いて、真空ポンプにより吸引を行ないながら、発生した揮発物を20分間、香味付与タンクに導入した。その結果、独特なゆずの柑橘風味が付与された実施例6の多孔性セルロースビーズを得た。
【0035】
(実施例7)
無臭の液体デキストリン(HL−PDX、松谷化学工業株式会社)300kgを50℃に加温し、図1に示す香味付与装置の香気付与タンクに投入し、ガーリックパウダー(ガーリックパウダーG−5、株式会社カネカサンスパイス製)10kgを用いて、スモーク発生装置により400℃で加熱して揮発物を発生させた。続いて、真空ポンプにより吸引を行ないながら、発生した揮発物を1時間、香味付与タンクに導入した。その結果、ロースト感のあるガーリック風味が付与された実施例7の液体デキストリンを得た。
【0036】
(実施例8)
表4に示した醤油ラーメンスープに、実施例7の液体デキストリンを0.1容量%添加したところ、良好なローストガーリック風味を呈する実施例8のラーメンスープを得た。
【0037】
【表4】

【0038】
(比較例4)
実施例8において、実施例7の液体デキストリンを0.1容量%添加する代わりに、ガーリック香料(フレーバー:ガーリックエッセンスS−1、日東香料株式会社製)を添加した以外は、実施例8と同様にして、比較例4のラーメンスープを得た。
【0039】
<ラーメンスープの官能評価1>
実施例8及び比較例4のラーメンスープについて、10名のパネラーによって官能評価を行い、表4に示した醤油ラーメンスープに比べて非常に悪い(−2)、やや悪い(−1)、同等(±0)、やや良い(+1)、非常に良い(+2)の評点をつけた結果を表5に示した。その結果、比較例4で用いたフレーバーに比べて実施例8で用いた実施例7の液体デキストリンが、非常に優れていることが明らかとなった。
【0040】
【表5】

【0041】
<ラーメンスープの官能評価2>
実施例8及び比較例4のラーメンスープを、「加熱前」と「85℃、3時間加熱後」とで、加熱に対するガーリック風味の変化について、10名のパネラーによって官能評価を行い、加熱前のラーメンスープに比べて非常に悪い(−2)、やや悪い(−1)、同等(±0)の評点をつけた結果を表6に示した。その結果、比較例4で用いたフレーバーに比べて実施例8で用いた実施例7の液体デキストリンが、加熱に対して優れていることが明らかとなった。
【0042】
【表6】

【0043】
(実施例9)
市販の無洗米10kgを網に入れ、図1に示す香味付与装置の香気付与タンク内に吊り下げ、乾燥させたオレンジの皮10kgを用いて、スモーク発生装置により250℃で加熱して揮発物を発生させた。続いて、真空ポンプにより吸引を行ないながら、発生した揮発物を20分間、香味付与タンクに導入した。その結果、独特なオレンジの風味が付与された実施例9の無洗米を得た。
【0044】
(実施例10)
実施例9の無洗米を市販炊飯器(炊飯ジャー:炊き立てミニ、タイガー魔法瓶株式会社製)にて炊き上げたところ、独特なオレンジの風味が付与された実施例10のご飯を得た。
【0045】
(比較例5)
無洗米に対して、オレンジ香料(フレーバー:オレンジエッセンスS−5、日東香料株式会社製)を0.1質量%添加して実施例10と同様に炊き上げ、比較例5のご飯を得た。
【0046】
<ご飯の官能評価>
実施例10及び比較例5のご飯について、10名のパネラーによって官能評価を行い、比較例5に比べて実施例10が非常に悪い(−2)、やや悪い(−1)、同等(±0)、やや良い(+1)、非常に良い(+2)の評点をつけた結果を表7に示した。その結果、比較例5に比べて実施例10のご飯は、嗜好性として好ましいことが明らかとなった。
【0047】
【表7】

【符号の説明】
【0048】
1 スモーク発生装置
2 香味付与タンク
3 真空ポンプ
4 加熱用ジャケット
5 攪拌手段
6 エアスパージャー
7 空気取り入れ口
8 送気パイプ
9 脱気パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然食品素材を加熱して揮発させた香味を対象物に付与することを特徴とする香味付与物の製造方法。
【請求項2】
天然食品素材が、嗜好性植物、鰹節、昆布、及び果実から選ばれる1種以上である請求項1に記載の香味付与物の製造方法。
【請求項3】
嗜好性植物が、コーヒー、カカオ、香辛料、麦、緑茶、紅茶、ウーロン茶、ホップ、及びゴマから選ばれる1種以上である請求項2に記載の香味付与物の製造方法。
【請求項4】
果実が、柑橘類である請求項2に記載の香味付与物の製造方法。
【請求項5】
対象物が、液状飲料及び液状食品のいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の香味付与物の製造方法。
【請求項6】
液状飲料及び液状食品のいずれかが、コーヒー、紅茶、緑茶、麦茶、ゴマペースト、ガーリックエキス、オニオンエキス、カツオエキス、酵母エキス、ウスターソース、液糖、液体デキストリン、みりん、酢、及び醤油から選ばれる1種以上である請求項5に記載の香味付与物の製造方法。
【請求項7】
対象物が、固形食品である請求項1から4のいずれかに記載の香味付与物の製造方法。
【請求項8】
天然食品素材を加熱して香味を揮発させる香味発生手段と、
前記香味を対象物に付与する香味付与手段と、
前記香味を前記香味発生手段から前記香味付与手段に通気する通気手段とを有することを特徴とする香味付与物の製造装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の香味付与物の製造方法により製造されたことを特徴とする香味付与飲料及び食品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−31434(P2013−31434A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−144006(P2012−144006)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【出願人】(397009004)アサヒフードアンドヘルスケア株式会社 (14)
【出願人】(594189028)伊藤テクニカルフーズ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】