説明

香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料

【課題】乳或いは乳入り容器詰飲料の、製造時の加熱殺菌、長期保存、加温保管、流通販売等における過酷な条件による香味の劣化に対して、該香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料として用いる乳を、加温処理、エアレーション処理、或いは攪拌処理により劣化物質を発生する工程、及び発生した劣化物質を脱気或いはガス吹き込みにより除去する工程、により予め劣化物質を発生させ、除去して用いることにより、香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料を製造する。本発明において、発生した劣化物質を脱気により除去する工程は、減圧脱気法、減圧加熱脱気法、又は加熱脱気法により行なうことができる。また、ガス吹き込みにより除去する工程は、窒素ガスのような不活性ガスの吹き込み法、又は蒸気吹き込み法により行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳或いは乳入り容器詰飲料の、製造時の加熱殺菌、長期保存、加温保管、流通販売等における過酷な条件による香味の劣化に対して、該香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳或いは乳入り容器詰飲料は、栄養及び嗜好性の高い健康飲料として、容器詰飲料の重要な部分を占めている。乳或いは乳入り容器詰飲料は、製造時の加熱殺菌、長期保存、加温保管、流通販売における過酷な条件により香味の劣化を来たし、したがって、製造時から飲用時まで、乳成分として安定した香味を維持するために、様々な配慮がなされており、そのために製造時の条件や、保管、流通・販売時の温度や、保存期間等に様々な制約を課している。
【0003】
これらの乳或いは乳入り容器詰飲料の香味の劣化に対して、その香味劣化の抑制を行なう方法が提案されている。すなわち、香味劣化を抑制し、高品質の牛乳類や果汁を提供するためには、可能な限り酸素や温度による劣化を防止することが肝要とされている。したがって、例えば、特開2009−17864号公報には、飲料の加熱工程前に脱気により溶存酸素濃度を低下させる装置が開示されている。また、特開2006−204148号公報には、飲食品に添加する乳成分を予め改質する方法が開示されている。この改質方法とは、乳成分を含む液体を不活性ガス雰囲気下で蒸気処理することにより液体中の揮発性成分を低減するというものである。
【0004】
しかしながら、容器詰乳入り飲料の製造においては、上記のような処理により、劣化の少ない乳類を用いても、好ましい香味を維持することは困難であった。その理由は、容器詰飲料には製造時の加熱殺菌、保存、ホットベンダーでの加温販売などの過酷な条件が課されるからである。
【0005】
そこで、容器詰飲料においては、問題である加熱(殺菌、加温販売)・保存による香味劣化を低減する目的で、牛乳以外(粉乳、各種の調整された乳成分/油脂成分、植物油脂、など)の成分をその代替として使用したり、劣化物質の生成を抑制する物質の添加が行われる。例えば、特開平9−37713号公報では短鎖脂肪酸の含量を一定割合以下とした脂肪分と無脂乳固形分を含有させる方法が開示されている。しかし、かかる方法では、乳原料として添加されるのが調整された乳成分や植物由来成分などであることから、製造された容器詰飲料の香味は、牛乳を使用した容器詰飲料のそれとは異なる。また、使用原料として“牛乳”と表示できない問題もあり、該方法のものは必ずしも市場に受け入れられているとは言えない状況であった。
【0006】
したがって、乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料として乳自体を使用し、加熱殺菌、長期保存、加温保管/販売(製造・流通・販売における過酷な履歴)の有無、それらの条件/程度の強弱/大小にかかわらず、製造時から飲用時まで乳成分として安定した香味を維持することが可能な原料乳を製造する方法、及びそのような原料乳を使用した容器詰飲料の製造方法を提供することは、製造や流通販売における制約の解除と、香味豊かな乳或いは乳入り容器詰飲料を提供するために、切望されているところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−37713号公報
【特許文献2】特開2006−204148号公報
【特許文献3】特開2009−17864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、乳或いは乳入り容器詰飲料の、製造時の加熱殺菌、長期保存、加温保管、流通販売等における過酷な条件による香味の劣化に対して、該香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料、及びその製造方法を提供することにある。すなわち、乳入り容器詰飲料の原料として乳自体を用い、製造・流通・販売時の加熱(殺菌、加温販売)、保存(長期保管/流通)の履歴の強弱/大小による香味劣化が無く、安定して良好な香味を維持することのできる容器詰飲料用の原料乳と、該原料乳を用いることにより、香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料、及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討する中で、乳或いは乳入り容器詰飲料の原料として用いる乳を、予め、加温処理、エアレーション処理、或いは攪拌処理により劣化物質を発生する処理を行い、そして、該発生した劣化物質を脱気或いはガス吹き込みにより除去する処理を行うことにより、製造や、流通・販売時の加熱(殺菌、加温販売)、保存(長期保管/流通)の過酷な履歴に対して、香味劣化を引き起こす物質を予め除去することが可能であることを見い出し、該原料乳を乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に用いることにより、香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料を製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料として用いる乳を、加温処理、エアレーション処理、或いは攪拌処理により劣化物質を発生する工程、及び発生した劣化物質を脱気或いはガス吹き込みにより除去する工程、により予め劣化物質を発生させ、除去して用いることを特徴とする香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法からなる。本発明において、加温処理により劣化物質を発生する工程は、原料乳を温度70〜90℃、加温時間5〜30分で加温処理することにより行うことができる。
【0011】
また、本発明において、エアレーション処理により劣化物質を発生する工程を、原料乳に5〜20℃の温度で、酸素又は空気を、乳10L当たり0.06〜100L/minの割合で吹き込むエアレーション処理により行うことができる。更に、本発明において、攪拌処理により劣化物質を発生する工程を、原料乳を回転数5〜17000rpmで攪拌処理することにより行うことができる。
【0012】
本発明において、発生した劣化物質を脱気により除去する工程は、減圧脱気法、減圧加熱脱気法、又は加熱脱気法により行なうことができる。該減圧脱気法又は減圧加熱脱気法により、発生した劣化物質を除去する工程は、圧力−0.02〜−0.085Mpa、温度5〜90℃の条件で行なうことができる。また、発生した劣化物質をガス吹き込みにより除去する工程は、不活性ガス吹き込み法又は蒸気吹き込み法により行なうことができる。かかる不活性ガス吹き込み法に用いる不活性ガスとしては、窒素ガスを挙げることができる。
【0013】
本発明は、本発明の容器詰飲料の製造法により製造された香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料を包含する。かかる乳入り容器詰飲料としては、容器詰の乳入り紅茶飲料、乳入りコーヒー飲料、乳入りスープ、乳入り果汁飲料、乳入りココア飲料、ミルクセーキ飲料、及び乳酸飲料を挙げることができる。本発明は、特に、加温販売に供される乳或いは乳入り容器詰飲料を包含する。
【0014】
すなわち、具体的には本発明は、(1)乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料として用いる乳に、劣化物質を発生する工程、及び発生した劣化物質を除去する工程、により予め劣化物質を発生させ、除去して用いることを特徴とする香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法や、(2)劣化物質を発生する工程を、原料乳を温度70〜90℃、加温時間5〜30分で加温処理することにより行うことを特徴とする上記(1)記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法や、(3)劣化物質を発生する工程を、原料乳を回転数5〜17000rpmで攪拌処理することにより行うことを特徴とする上記(1)記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法や、(4)発生した劣化物質を除去する工程を、減圧脱気法、減圧加熱脱気法、又は加熱脱気法により行なうことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法からなる。
【0015】
また、本発明は、(5)減圧脱気法又は減圧加熱脱気法により、発生した劣化物質を除去する工程を、圧力−0.02〜−0.085Mpa、温度5〜90℃の条件で行なうことを特徴とする上記(4)記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法や、(6)上記(1)〜(5)のいずれか記載の容器詰飲料の製造法により製造された香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料や、(7)乳入り容器詰飲料が、容器詰の乳入り紅茶飲料、乳入りコーヒー飲料、乳入りスープ、乳入り果汁飲料、乳入りココア飲料、ミルクセーキ飲料、又は乳酸飲料であることを特徴とする上記(6)記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料や、(8)乳或いは乳入り容器詰飲料が、加温販売に供されるものであることを特徴とする上記(6)又は(7)記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、乳或いは乳入り容器詰飲料の、製造時の加熱殺菌、長期保存、加温保管、流通販売等における過酷な条件に対して、香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料、及びその製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料として用いる乳を、加温処理、エアレーション処理、或いは攪拌処理により劣化物質を発生する工程、及び発生した劣化物質を脱気或いはガス吹き込みにより除去する工程、により予め劣化物質を発生・除去して用いることにより香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料を製造することからなる。
【0018】
本発明において用いられる乳は特に限定されないが、牛乳等の畜乳を用いることができる。また、本発明において、原料として用いる乳は、乳中に存在する蛋白質・脂質・乳固形分などの成分量、及び乳の利用に際して通常行なわれる均質化方法・殺菌方法などの処理方法は、通常、乳の利用に際して用いられるものが用いられ、特に限定されない。
【0019】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料乳を処理して劣化物質を発生する工程は、加温処理、エアレーション処理、或いは攪拌処理により劣化物質を発生する工程、或いは、乳に酸素を溶存させる工程、及び一定温度に保つ工程によって行なわれるが、それらの処理の順序は限定されないし、同時に行ってもよい。しかし、乳に酸素を溶存させる工程は、液温が低い方が多くの酸素を溶解し劣化を促進させること、また、原料乳処理中の微生物による腐敗を避けるなどの観点から、一定温度に保つ工程の前(乳等省令で定められた保存温度が保たれているうちに)に行うことが望ましい。
【0020】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、劣化物質の発生のために、酸素を溶存させる工程とは、乳に、酸素或いは酸素を含む空気を強制的に送り込み、乳中の溶存酸素濃度を上昇させる工程である。具体的な方法は任意であるが、酸素や空気を直接にバブリングするなどのエアレーション処理や、乳を開放系で攪拌する方法、加圧により溶解させる方法などを挙げることができる。この工程は、温度が高い方が乳の劣化が促進され好ましいが、温度が高くなると乳への酸素あるいは酸素含有空気の溶存性が下がるため、兼合いを考慮することが必要であり、一定温度に保つ工程と同時でない場合には、例えば、5〜20℃で行うことができる。エアレーション処理において、酸素又は酸素含有空気は大量に送気することが好ましいが、送気設備の問題から、乳10Lあたり0.0 3〜100L/min、好ましくは0.03 〜10L/minである。攪拌における回転数は多い方が好ましいが、設備の問題から、5〜17000rpm、好ましくは12000〜17000rpmである。
【0021】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、劣化物質の発生のために、乳を一定温度に保つ工程における保持温度は特に限定されないが、好ましくは70℃以上、より好ましくは80〜90℃、更に好ましくは90℃である。この工程は乳劣化の促進が目的であるから、より高い温度が好ましいが、高すぎると開放系の場合は蒸発による濃縮などの問題があり、低すぎると劣化の進行が遅いなどの問題がある。
【0022】
乳を一定温度に保つ工程における保持時間は特に限定されないが、好ましくは5〜30分、より好ましくは10〜30分である。長すぎると開放系の場合は蒸発による濃縮が起こり、劣化物質の発生量が多くなりすぎることによりその後の除去工程で除去しきれないという問題があり、短すぎると劣化物質の発生量が少ないなどの問題がある。
【0023】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造方法の処理において、発生した劣化物質は、脱気或いはガス吹き込みにより除去する。該劣化物質を除去する工程とは、乳中に生成した劣化物質を除去する工程である。方法は限定されないが、劣化物質由来の香味が閾値以下に低減される必要があり、既に工場などで設備実績の多いなどの観点から減圧加熱脱気法が好ましい。減圧加熱脱気法の他にも、減圧脱気法、加熱脱気法、窒素等不活性ガス吹込み法、蒸気吹き込み法などを挙げることができる。
【0024】
劣化物質を除去する工程として減圧加熱脱気法を用いた場合、温度が高く圧力が低い方が多くの劣化物質を除去できるので好ましいが、乳の突沸や濃縮の起こらない程度の温度と圧力条件を設定することが必要である。たとえば、−0.085Mpaのとき好ましくは5〜50℃、より好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは20〜30℃である。−0.020Mpaのとき好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜80℃、更に好ましくは60〜70℃である。
【0025】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造方法の処理において、劣化物質を発生させる工程と劣化物質を除去する工程は、同時に実施してもよいが、効率等の観点から、劣化物質を発生させる工程の後に劣化物質除去工程を実施することが好ましい。劣化物質除去工程で除去される劣化物質は明らかでないが、官能評価では乳酸敗臭と表現される。
【0026】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造方法において、本発明の方法により処理された原料乳は、製造後すぐに、或いは、保存後に容器詰飲料の原料として用いることができる。本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料の製造方法において、製造された原料乳を用いて製造される容器詰飲料は特に限定されないが、代表的なものとして乳入り紅茶飲料、乳入りコーヒー飲料、乳入りスープ、乳入り果汁飲料、乳入りココア飲料、ミルクセーキ飲料、及び乳酸飲料などを挙げることができる。
【0027】
本発明の乳或いは乳入り容器詰飲料において、原料乳の劣化の程度は官能評価などにより十分評価することができる。したがって、原料乳を用いて製造された容器詰飲料の香味もまた官能評価などにより評価することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
<試験1;原料乳の製造>
[方法]:
牛乳10Lを15000rpmで1分間攪拌し、143℃に昇温した後に一定温度で一定時間保持した。保持後の牛乳は減圧脱気処理を行った。
【0030】
[結果]
本発明の実施例における原料乳の製造試験において、温度保持条件、減圧脱気条件、官能評価結果は表1(温度保持条件、脱気条件、官能評価結果(試験1、試験2)) のとおりである。また、牛乳の組成は表2のとおりである。結果を以下に示す。
【0031】
(1)90℃で20分の保持を行った実施例4−1では強い劣化臭が感じられたが、同じ条件で保持しても攪拌を行わなかった実施例6−1では劣化臭は若干感じられる程度であった。
【0032】
(2)90℃保持を行った実施例1−1から6−1において劣化臭が感じられたが、保持を行わない比較例1−1では感じられなかった。90℃保持を行った場合の劣化臭の強さは保持時間に依存した(実施例2−1<3−1<4−1<5−1)。
【0033】
(3)脱気後サンプル(実施例1−2から6−2)の劣化臭は、脱気前サンプル(実施例1−1から6−1)の劣化臭より弱く、劣化臭が脱気により除去されたことがわかる。脱気の条件は、圧力−0.085Mpaにおいて、5〜20℃で劣化臭除去が可能であり、劣化臭の残存は20℃の方が5℃より少なかった。80〜90℃にすると乳が突沸して一部失われたため不適切であった。一方、試験2実施例7−1、7−2から、圧力−0.02Mpaにおいて、80℃で劣化臭が除去されることが確認された。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【実施例2】
【0036】
<試験2;容器詰飲料の製造>
[方法]:
15000rpmで5分間攪拌した牛乳を143℃に昇温した後に90℃で5分間保持し、−0.02Mpa、80℃の条件で減圧脱気を行い処理牛乳とした。次に、処理牛乳(表1実施例7−1、7−2)、あるいは上記処理を行わない非処理牛乳(表1比較例4)を原料として容器詰紅茶飲料を製造した。該容器詰紅茶飲料の殺菌はF=40のレトルト殺菌であった。これを5℃(実施例8、比較例5)、35℃(実施例9、比較例6)、60℃(実施例10、比較例7)の3温度区で6週間保存後、香気を評価した。評価は官能評価により行った。なお、牛乳の組成は試験1と同様であり表2のとおりである。容器詰紅茶飲料の組成は表3のとおりである。
【0037】
【表3】

【0038】
[結果]:
処理牛乳の脱気前(実施例7−1)と脱気後の香気(実施例7−2)を官能評価したところ、脱気前の評価は△でありそれほど強い劣化臭は発生していなかったが、後者ではその劣化臭がほとんど感じられないほどに低下しており評価は×であった。非処理牛乳(比較例4)の香気はフレッシュ感があり劣化臭は全く感じられなかった。製造した容器詰紅茶飲料の官能評価結果は表4(容器詰紅茶飲料の官能評価結果)のとおりである。
【0039】
【表4】

【0040】
非処理牛乳を原料とした容器詰紅茶飲料では、酸敗様の劣化臭が生じ、保存温度と保存時間に依存してその度合いが強くなった。一方、処理牛乳を用いた容器詰紅茶飲料は60℃というホットベンダーに相当する温度においても、6週間飲用可能な香味が維持できることが確認された(実施例10)。処理牛乳を用いた飲料(実施例8、9、10)は、非処理牛乳を用いた飲料(比較例5、6、7)と比較して、35℃、60℃における4週、6週時点の酸敗様の劣化臭が明らかに弱く、保存による劣化臭の増加速度は遅い傾向であった。
【0041】
このことから、非処理牛乳では容器詰飲料製造時に必須である高温殺菌により酸敗様の劣化臭が発生し、その後の保存により劣化臭が強くなるが、処理牛乳では、攪拌後一定温度に保持して発生した劣化物質が予め除去されたことにより、高温殺菌やその後の保存で発生するはずの劣化臭が減少したことが示された。なお、文中および表中の記号は、◎;大変強い 、○;強い 、△;弱い、 ×;ほとんどなし、を示す。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、乳或いは乳入り容器詰飲料の、製造時の加熱殺菌、長期保存、加温保管、流通販売等における過酷な条件に対して、香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料、及びその製造方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳或いは乳入り容器詰飲料の製造に際して、原料として用いる乳に、劣化物質を発生する工程、及び発生した劣化物質を除去する工程、により予め劣化物質を発生させ、除去して用いることを特徴とする香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法。
【請求項2】
劣化物質を発生する工程を、原料乳を温度70〜90℃、加温時間5〜30分で加温処理することにより行うことを特徴とする請求項1記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法。
【請求項3】
劣化物質を発生する工程を、原料乳を回転数5〜17000rpmで攪拌処理することにより行うことを特徴とする請求項1記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法。
【請求項4】
発生した劣化物質を除去する工程を、減圧脱気法、減圧加熱脱気法、又は加熱脱気法により行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法。
【請求項5】
減圧脱気法又は減圧加熱脱気法により、発生した劣化物質を除去する工程を、圧力−0.02〜−0.085Mpa、温度5〜90℃の条件で行なうことを特徴とする請求項4記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料の製造法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の容器詰飲料の製造法により製造された香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料。
【請求項7】
乳入り容器詰飲料が、容器詰の乳入り紅茶飲料、乳入りコーヒー飲料、乳入りスープ、乳入り果汁飲料、乳入りココア飲料、ミルクセーキ飲料、又は乳酸飲料であることを特徴とする請求項6記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料。
【請求項8】
乳或いは乳入り容器詰飲料が、加温販売に供されるものであることを特徴とする請求項6又は7記載の香味劣化の抑制された乳或いは乳入り容器詰飲料。


【公開番号】特開2011−142836(P2011−142836A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4794(P2010−4794)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】