説明

香料および芳香の分野において有用な化合物を同定または評価する方法

本発明は、香料および芳香(風味剤の揮発性部分)の分野において有用な化合物を同定または評価する方法に関する。本発明の方法は、口腔および特に鼻腔を含むヒト気道における酵素代謝の発生を考慮する。この方法は:a)試験化合物の飽和したヘッドスペースを提供し;b)前記ヘッドスペースを、ヒトの被験者により吸入し;c)ヒトの被験者により吐き出された息を排気し;d)吐き出された息を:i)捕集した試料のGC−MS;ii)大気圧化学イオン化イオン供給源を備えた、四重極MS;および陽子移動反応MSまたはこれらの組み合わせから選択された検出方法により分析する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明は、香料および芳香(風味剤の揮発性部分)の分野において有用な化合物を同定または評価する方法に関する。本発明の方法は、口腔および特に鼻腔を含むヒト気道における酵素代謝の発生を考慮する。
【背景技術】
【0002】
鼻腔に到達し、特定の効果、例えば嗅覚刺激を知覚するための必要条件であるレセプターへの結合を奏する化合物は、これらの環境を絶えず変化しており、種々の物理化学的特異性は、これらの存続期間の各々の局面において有利および不利である。先ず、化合物は、例えば、特定の蒸気圧が揮発性であるために必要である香料油の一部として基剤中にある。臭気の放出のタイプ(ヘッドスペースにおける直接の移動、または例えばエアゾールとしての分散)に依存して、種々の特性は、香水混合物の構成成分に有利である。高い蒸気圧がしばしば所望される一方、当該化合物は、神経細胞を覆っている鼻粘膜流体中に容易に溶解できなければならない。最後に、当該化合物はレセプタータンパク質に結合し、これを活性化する必要がある。基剤からレセプターへの移動のほとんどについて、臭気化合物は不変のままであると見られている。しかし、状況は一層複雑であると見られる。代謝は臭気化合物を不活性にして、これらを一層水溶性にし、鼻上皮からの除去を容易にすると推測されている。
【0003】
さらに、数種の香料成分について、臭気の知覚の直接の原因となる化合物(臭気物質)は、香料成分自体ではないと、推測されている。代わりに、香料成分は、単に、代謝産物として嗅覚知覚をもたらす嗅覚レセプターを活性化する実際の臭気物質を形成する、非臭気物質前駆体であり得る。前述の臭気物質代謝産物は、ヒト気道において、特にヒトの鼻の上皮において酵素的に生成し得る。
【0004】
酵素の基質であるこのような前駆体の代謝は、流体状粘液における、もしくは腔の内側を覆う細胞におけるレセプター結合の前に起こり得るかまたは、これは、レセプターの活性化の後に起こり得る。これは、この物理化学的特性(例えば、粘膜流体への可溶性)およびレセプターの活性化を含む、臭気物質の知覚に影響するこれらの種々の能力を変化させ得る。代謝産物(1種または2種以上)は、レセプター、他の酵素および/または臭気物質結合タンパク質との相互作用に有利な化学的および/または物理的特性を有し得る。基質は、臭気化合物または非臭気化合物であってもよい。後者の場合には、基質の1種または2種以上の代謝産物は、臭気物質であり得、および/または前述の特性を有し得る。
【0005】
代謝は、レセプターリガンドを不活性化または活性化することができる。関連する化合物は、アゴニスト、アンタゴニスト、酵素基質、酵素阻害剤、およびレセプターまたは酵素のアロステリックレギュレーターであってもよい。代謝産物は、例えば、レセプター結合について、追加のレセプターおよび酵素と競合し、これと相互作用し、および/またはレセプターおよび酵素の活性および感受性を調節することができる。代謝酵素の基質から発生した代謝産物は、これらがレセプターおよび酵素と相互作用するのを可能にする特性を有し得、これらの代謝産物は、実際に、知覚された質並びに風味剤および香料成分の影響の主な原因であり得、および/またはレセプター相互作用および特にレセプター活性化についてこれらの基質と競合し得る。
【0006】
しかし、ヒト気道、特に嗅覚粘膜における臭気化合物を伴う代謝は、in vivoで示されていない。
本発明は、既知の分析的な方法を用いて、香料および芳香の分野において有用な化合物を同定、分析または評価する方法を提供する。
【0007】
香料および芳香の分野において有用な化合物は、香料および芳香性化合物自体、しかしまたこれらの知覚のモジュレーターであってもよい。モジュレーターは、臭気化合物の嗅覚的知覚に影響する化合物である。モジュレーターは、強度(全体的なエンハンサーまたはマスキング剤)、質(嗅覚的ノートの変化、特定のノートの増強またはマスキング)、知覚の持続時間/長期存続、またはこれらの組み合わせの変化をもたらし得る。モジュレーターは、特定の臭気物質もしくは臭気物質の混合物の全体的な知覚、または特定の嗅覚の質/ノートを増強し得る。モジュレーターは、気道における代謝反応を変調させ、これに影響し、これを調節することにより、これらの効果に到達し得る。
【0008】
モジュレーターは、例えば酵素に直接影響を与えることにより、代謝を増強または抑制することができる。酵素に影響する代わりに、モジュレーターは、1または2以上のレセプターに影響(活性化または遮断)して、増強もしくは遮断/マスキング効果に到達するか、または知覚の質および嗅覚ノート(olfactive note)に影響し得る。モジュレーターは、臭気物質の効果の「寿命」または継続時間を、この通常の代謝を妨げるかまたは抑制し、これによりこの強度または長期存続を増強することにより延長し得る。代謝されてこの代謝産物を生成する基質が、この臭気物質代謝産物よりも臭気性ではない(または臭気性が低い)場合には、同様の増強効果は、酵素活性の速度に正に影響する化合物により生じる。モジュレーターは、ヒト気道において起こる代謝を抑制し、および/または単一の臭気物質の嗅覚の質を変化し得る。
【発明の開示】
【0009】
概要
本発明の第1の観点において、本発明は、化合物または少なくとも1つのこの代謝産物のいずれかが臭気物質または臭気物質の前駆体または臭気物質を知覚するモジュレーターである、化合物を同定または評価する方法であって、
a)試験化合物で飽和したヘッドスペースを提供すること、
b)前記飽和したヘッドスペースのヒトの被験者による吸入、
c)ヒトの被験者により吐き出された息を排気すること、
d)吐き出された息を、リアルタイムで、メタボ(Metabo)−GM、メタボスペース(Metabospace)および陽子移動反応質量分析(PTR−MS)から選択された検出方法により分析すること
を含む、前記方法に関する。
飽和したヘッドスペースを、以下の例に記載するようにして提供してもよい。
【0010】
詳細な説明
1つの特定の態様において、化合物を、鼻を通して吸入し、吐き出す。他の態様において、化合物を、鼻を通して吸入し、口を通して吐き出す。他の特定の態様において、化合物を、口を通して吸入し、鼻を通して吐き出す。尚他の態様において、化合物を、口を通して吸入し、吐き出す。
【0011】
他の特定の態様において、メタボスペースまたはPRT−MSを用いる。驚異的なことに、本出願人は、揮発性物質の代謝産物は、これらの方法を用いて即座に検出されることを見出した。これは、予測され得なかった。さらに、いくつかの場合において、以下の例に示すように、上記の吸入/吐き出しプロトコルを行いその結果を分析することにより、生体内変換酵素のヒト気道内の位置を決定することも可能である。
【0012】
なお、他の特定の態様において、メタボ−GM、メタボスペースおよび陽子移動反応質量分析(PTR−MS)による分析に加えて、オルファクトメーター分析を行ってもよい。
【0013】
本発明の方法により、酵素により代謝される化合物(基質)から得られる代謝産物を同定することができる。前記代謝産物は、臭気化合物自体であってもよい。同様に、基質は臭気物質自体であってもよい香料成分であってもよいか、またはこれらは、これらの代謝産物による代謝の後のみに臭気知覚を提供する、無臭の、もしくは弱い臭気を有する前駆体であってもよい。前駆体および代謝産物は、異なる臭気ノートを有してもよい。ある化学構造に相当する実際の臭気ノートは、情報の発見のために重要である。代謝を考慮しない方法の結果、正確な情報の発見を妨げる不正確な構造−機能/臭気ノートの関係がもたらされ得る。本発明の方法は、これらが、情報の発見を、臭気が生じる前駆体化合物よりむしろ、レセプターを活性化し、嗅覚的感覚を誘発する正確な構造に基づくのを可能にするため、効率的な情報の発見を提供する。これを例示するために、化合物「A」(香料成分)は、香水業者により記載される特定の嗅覚ノートを有する。Aは、鼻中で化合物「B」(臭気物質)に代謝され、Bは、香水業者により記載されるように嗅覚的感覚を知覚するのに必要な1つまたはいくつかの嗅覚レセプターを活性化することにより、一般的に化合物Aと関連する特定のノートの原因となる。
【0014】
モジュレーターを、本発明の方法により検出されたように、代謝反応に対するこの効果により、即ち嗅覚的知覚の量、強度または質を変化させる(例えば増強するかまたは抑制する)ことにより、同定してもよい。モジュレーターを、臭気化合物の量の変化により、同定してもよく、これは、以下に記載する分析および検出方法により基質の減少または代謝産物の生成により測定されるように、代謝の速度に対するモジュレーターの影響により生じてもよい。さらに、モジュレーターは、単一の臭気の強度または嗅覚の質を変化させてもよく、これはオルファクトメーターを用いて同定または特徴づけしてもよい。これをさらに例示するために、前駆体化合物をヒト鼻中で部分的に代謝し、代謝産物化合物を生成し、両方の化合物は鼻中に同時に存在していてもよい。両方の化合物は、異なる臭気ノートを有していてもよく、これは、ある単一の香料または芳香性化合物に帰する広範囲の嗅覚的な記載を説明し得る。本発明は、特定の臭気ノートについての情報の発見を一層容易にし、所定の化合物およびこの潜在的な代謝産物の両方の臭気ノートを比較することを可能にする。他の設定において、試験化合物およびこの代謝産物を、代謝を調節する化合物の存在および欠如で比較することができる。
【0015】
以下に記載する検出および分析方法を、以下のように代謝の抑制因子(例えば代謝酵素の阻害剤または競合性の基質)を同定することに用いることができる。スタンダードな基質を選択し、試験化合物を、前述の方法で検出された代謝産物(1つまたは2つ以上)の生成に影響するかまたはこれを変化させるこれらの能力について、分析する。抑制因子を、抑制因子を含まない対照と比較しての、吸入された基質からの代謝産物(1つまたは2つ以上)の生成の減少により同定する。抑制因子は、阻害剤または競合性の基質であってもよい。阻害剤という用語は、酵素活性の負のアロステリックレギュレーターとして作用する化合物を含むことを意味する。阻害剤および競合性の基質を、競合性の基質の代謝により生成した追加の代謝産物の生成から生じる信号の存在または欠如により、互いに区別することができる。
【0016】
本発明はまた、in vitro分析、特にヒト気道からの代謝酵素を用いたin vitroアッセイから得られるデータをin vivoで確認する評価方法として用いることができる。
【0017】
検出および分析方法
検出および分析方法は、メタボ−GM、メタボスペースおよび陽子移動反応質量分析(PTR−MS)を含む。該方法の1つまたは2つ以上を、組み合わせてもよい。特に、PTR−MSを、メタボスペースに加えて用いることができる。
メタボ−GM、メタボスペースおよびPTR−MSの1つまたは2つ以上に加えて、オルファクトメーター分析を行って、モジュレーターの効果をさらに特徴づけてもよい。
【0018】
メタボスペース
「メタボスペース」技術により、関連する化合物から開始してのin vivoで生じた代謝産物(吐き出された揮発性物質)のリアルタイムでの検出および分析が可能になる。先ず、被験対象は揮発性化合物の飽和したヘッドスペースを吸入する。飽和したヘッドスペースを、以下の例に記載するように、提供してもよい。息を、ガラス漏斗中に直接吐き出し、これは、Grab, W.およびGfeller, H.、ACS Symposium Series 763 - Flavor Release (Roberts, D.D.およびTaylor, A.J.編)、American Chemical Society, Washington, DC (2002)中に記載されているように、質量スペクトルが、揮発性物質の迅速な動的変化の測定を可能にする改良された接合部分を有する周囲圧力化学イオン化(APCI)イオン供給源を備えた四重極質量分析計により記録される、分析デバイスへの接合部分として作用する。手順を、例えば以下の例にさらに記載されているように行ってもよい。
【0019】
質量スペクトルの走査は、擬分子イオンおよび分子の断片のイオンの全範囲を検出する。候補の代謝産物が、例えばin vitroデータからすでに知られている場合には、擬分子イオンに相当する質量クロマトグラムを、基質についてのクロマトグラムと共に直接視覚化することができる。アセトンはヒトの息中に常に存在し、呼吸パターンを示すために用いることができる。鼻腔または口腔のいずれかから吐き出された揮発性物質の質量スペクトル走査を狭い時間の範囲で、例えば1秒あたり2回記録して、息の組成の変化を、時間および呼吸サイクルの関数として追跡する。通常、一連の走査を行って、基質および/または代謝産物に関連するかもしれない他のイオンを検出し、これは、当業者に十分知られているように、例えば、基質および/または代謝産物の断片から由来し得る。
【0020】
種々の質量スペクトル走査を、当該分野において十分知られているように行う。本発明において、多数の質量スペクトル走査を、質量分析計により記録する(例えば1秒あたり2回の走査)。全イオンクロマトグラム(TIC)により、信号の全体が得られる。個別の信号、例えばm/z 59におけるアセトンについての擬分子イオン[M+H]を選び出し、いわゆる「質量クロマトグラム」で長時間にわたり分析してもよい。代謝産物は、走査における追加の信号として出現し、特定の信号が、それぞれの質量クロマトグラムにおいて長時間にわたり続く。最初の吸入/吐き出しサイクルの間に、周囲空気(ブランク、バックグラウンド)の吸入に続いて、吐き出し中に存在する試験化合物または代謝産物に由来しないイオンに対する走査を分析する。未知の信号をいかにして同定するかは、当該分野において十分知られている。
【0021】
試験化合物の性質および起こり得る可能性のある代謝反応に依存して、特定のイオンがこのような代謝が起こった場合に発生すると予測される。可能性の範囲を縮小するために、試験化合物(酵素基質)および代謝産物を生じる潜在的な生体内変換反応に基づく仮説を用いる。例えば、CYP酵素の群に属する酸化酵素との試験化合物の反応から生じた代謝産物は、水酸化またはエポキシド化反応を含む代謝を受け得るかもしれなく、このような代謝産物についての特定の信号は、一般的に基質+16のm/z数において見出すかもしれない。CYP酵素により触媒される他の反応には、試験化合物の脱メチル化、例えばN−メチルまたはO−メチル(メトキシ)基の脱メチル化が含まれ、特定の信号は、一般的に、基質−14のm/zにおいて見出すかもしれない。
【0022】
反応の組み合わせ、例えば複数の水酸化反応、水酸化と脱メチル化との組み合わせなどが起こり得る。当業者には、代謝産物(1つまたは2つ以上)を同定するために、これらをいかにして分析するかは、明らかである。明らかな同定が、予測された誘導体および分析的なデータベース中に含まれる質量スペクトルデータに対する比較に基づいて可能ではない場合は、一連の提案された化合物を化学的に合成して、代謝産物(1つまたは2つ以上)の仮説的な構造を確認することができる。好ましくは、代謝産物の生成を、代替のin vivoの方法、例えばPTR−MSまたはMETABO−GMにより確認する。METABO−GMの場合には吐き出された物質が樹脂上に吸収されるため、化合物を脱着し単一の構成成分を調製的GCにより単離することが可能であり、その後精製した化合物を、核磁気共鳴(H−NMRおよび13C−NMR)により分析して、これらの化学的構造を解明することができる。
【0023】
本発明において、揮発性化合物は吐き出すために被験対象に提供され、吐き出された息(ヒト気道中に存在する潜在的な代謝の後)を1秒あたり2回記録する質量スペクトル走査を行うことにより分析する。この速度において、息の組成の変化を時間および呼吸サイクルの関数として追跡することが可能である。
【0024】
陽子移動反応質量分析(PTR−MS)
PTR−MSは、口腔から鼻への芳香放出および鼻後方の輸送の分析のために一般的に用いられる(例えば、Aliら(2003)、In vivo analysis of aroma release while eating food: a novel set-up for monitoring on-line nosespace air.1st International Conference on Proton Transfer Reaction Mass Spectrometry and Its Applications, 第2版(A. Hansel, T. Maerk編)、161〜164頁)。
本発明の状況において、PTR−MSにより、リアルタイムでの化合物の検出が可能になるのみならず、さらに個別の化合物の測定された計数率を直接用いて、絶対的なヘッドスペース濃度を決定することができる。PTR−MSを、前述のメタボスペースについて記載したように行ってもよい。
【0025】
PTR−MSは、揮発性有機化合物の検出装置であり、該デバイスの異なるバージョンが入手可能である(IONICON Analytik GmbH, Innsbruck, Austria)。該デバイスは、主に、3つの部分、即ち水蒸気をプラズマ放電によりHイオンに変換するイオン供給源;空気中の微量の構成成分への陽子移動反応が起こるドリフト管;および質量選択されたイオンの感受性の検出を提供するイオン検出器からなる。
【0026】
メタボスペースで用いられるAPCIと同様に、陽子移動の結果、下流の四重極質量分析計で分析される擬分子イオン[M+H]の生成がもたらされる。技術、特異性および特徴は、Lindingerら(1998)、Int. J. Mass Spectrometry and Ion Processes 173:191. On-line analysis of volatile organic compounds at pptv levels by means of Proton-Transfer-Reaction Mass Spectrometry (PTR-MS) Medical applications, food control and environmental research;および該参考文献中に詳細に記載されている。
【0027】
メタボ−GM
吐き出された化合物を、樹脂上に捕集し、続いて結合した物質を脱着させ、質量分析に連結したガスクロマトグラフィー(GC−MS)で分析する。
被験対象は既知の化合物で飽和したヘッドスペースを吸入し、吐き出された空気を少なくとも1つの鼻孔に直接接続したガラス管中に含まれる適切な吸着剤樹脂上に捕集する。
【0028】
好適な樹脂は、2,6−ジフェニレンオキシドに基づく多孔質ポリマー樹脂である、Tenax(登録商標)TA (Scientific Instrument Services Inc., US)、およびTenax(登録商標)TAと30%グラファイトとの複合材料であるTenax(登録商標)GR (Scientific Instrument Services Inc., US)である。前記の特定の樹脂の代わりに空気からの揮発性物質を捕集することができるすべての樹脂を用いてもよく、これを当業者が試験化合物で容易に試験してもよい。
【0029】
適切な外径、例えば約16mmの直径を有するガラス管を用いる。前記の管に、樹脂(例えば分析すべき吐き出された空気の容積に依存して、0.2〜2g、好ましくは0.5g)およびシラン処理したガラスウール(Supelco, U.S.)を充填する。該ウールを樹脂の両方の側において用いて、管の中央部の樹脂を保持する(ガラス管は所要の外径を規定する、下記のThermoextractorにおいてアダプターに適合する必要がある)。
被験対象の鼻孔の1つを遮断する。開放されている鼻孔を通して、被験対象は試験化合物を吸入し、樹脂を含む管を通して吐き出す。あるいはまた、両方の鼻孔を、管に接続するかまたは、管を、真空に接続し、樹脂上に吸着されるべき吐き出された空気を、ガラス漏斗を通して導く。
【0030】
訓練された被験対象は、通常、極めて定常的な容積を吸入し/吐き出すことができる。定常的な容積を確実にするために、種々の大きさのプラスチック袋を、ガラス管の出口に容易に接続して、吐き出された空気の容積を制御することができる。随意に、流量計を設置して、容積に加えて吐き出しの速度を制御する(容積制御に適する袋は、例えばRestek Corp., USから入手できる)。
【0031】
最初の段階において、試験化合物を、容器、例えば容積が0.25〜2リットル、好ましくは0.5〜1リットルのガラス容器中に配置する。
第2の段階において、飽和したヘッドスペースをゆっくりと吸入し、吐き出された空気を、上記のように捕集する。この段階を、通常、数回繰り返して、吸着樹脂上の揮発性物質および代謝産物の濃度を増大させる。最適な繰り返し速度を、蒸気圧および代謝の程度に依存して、各々の試験化合物に対して調整する必要がある。
【0032】
第3の段階において、Thermoextractor(例えば、GERSTEL, Germanyから)を用いて、樹脂上に捕集された化合物を一層小さい直径(例えば約6mm、これは、Thermoextractorアダプターに適合し、自動試料採取装置負荷についての基準を満たす)を有する分析管に移送する。分析管を、その後の分析において、自動試料採取装置中に負荷させることができる。また、この段階により、その後の分析に干渉し得る試料からの水が除去される。
第4の段階において、分析管を自動試料採取装置(例えば、Thermodesorption Autosampler TDS-A, GERSTEL, Germany)中に配置し、コンピューター制御分析順序を開始する。
【0033】
分析は、3つの段階を包含する。
先ず、試料をGC注入ライナー中に樹脂結合化合物(例えば、Thermodesorption system TDS, GERSTEL, Germany)の熱的脱着により寒冷集中させ(cryo-focused)、その後の加熱および分離カラムへの移送のために、Cryo-Trap(例えば、液体窒素で冷却したCooled Injection System CIS, GERSTEL, Germany)中で濃縮する。
次に、試料中に含まれる化合物をGC(例えば、DB-Wax column, Macherey-Nagel, Germanyを備えた、Hewlett Packard Model 5890)により分離し、質量分析(例えば、Hewlett Packard Model 5972)により分析する。GCカラムを、当該分野で十分知られているように、関連する化合物の観点での、所要の分離特性により選択する。
最後に、検出された化合物のMSパターンをデータベースと比較し、化合物の化学構造を決定する。
【0034】
あるいはまた、生体内変換酵素の酵素活性のモジュレーターとしてすでに知られている化合物(例えば抑制因子)、または上記に記載した本発明の方法によりこのように示されている化合物を、関連する試験化合物の吸入と同時に、またはこの前に吸入する。試験化合物およびこの代謝産物がメタボ−GMにより検出されるため、この方法により代謝の程度およびin vivoでの生体内変換酵素のモジュレーターの影響を決定することが可能になる。
【0035】
上記の方法のいずれかにより同定されたモジュレーター、抑制因子、エンハンサーを、単一の香料化合物および混合物の知覚に対するこれらの影響について、下記のカスケードオルファクトメーターを用いて試験することができる。
【0036】
オルファクトメーター分析
飽和した蒸気相の希釈による特定の臭気物質の濃度を、オルファクトメーターを用いることにより達成することができる。1つまたは2つのオルファクトメーターを用いてもよい。
【0037】
オルファクトメーター、特にEP0883049に記載のオルファクトメータータイプを、香料および芳香化合物の知覚のモジュレーターとしての試験化合物を同定することに用いてもよい。これを、強度(しきい値)および質の変化を評価するために用いることができる。特に、臭気物質代謝またはレセプターアンタゴニストのモジュレーターを評価する場合に、これを、嗅覚の知覚に対するモジュレーターの影響を決定するために、用いる。
被験対象は、所定の試験化合物をオルファクトメーターのにおい知覚口(例えばガラス漏斗)から特定の濃度でにおいを知覚し、臭気の強度および質を評定する。関連する化合物の飽和したヘッドスペースの種々の希釈を用いる(希釈は、空気、好ましくは乾燥した空気としてもよい)。湿潤した空気もまた用いてもよいが、しばしば、これは、嗅覚知覚のために否定的なようである。あるいはまた、混合チャンバにより、第2の化合物(例えばモジュレーターを同定するための)を、におい知覚口に到達する希釈したヘッドスペースに加えることが可能になる。
【0038】
カスケードオルファクトメーターは、1つより多いオルファクトメーターを同時に用いる。1つは、参照を提供し、一方第2のものは、異なる濃度で、または第2の試験化合物と組み合わせて第1のものに対する該効果を分析するように試験化合物を提供する。参照は、例えば特定の臭気物質のスタンダード、固定された濃度で用いる試験化合物、特定の臭気物質の混合物、または臭気物質とモジュレーターとの特定の混合物であってもよい。第2の試験化合物は、マスキング、遮断または増強効果について分析する潜在的なモジュレーターまたは化合物であってもよい。
【0039】
オルファクトメーター分析は、上記の検出および分析方法を行った後に、並びに基質および代謝産物の感覚の質および/または量(強度;嗅覚しきい値)が異なる場合に、本発明の方法において特に興味深い。オルファクトメーター分析を、以下のように行う:分析中に、試験化合物(例えば所定の基質および潜在的なモジュレーター)の濃度を変化させる。同一の生体内変換酵素の数種の基質が既知の場合は、これらをすべて確認のために以下に記載するように試験してもよい。モジュレーターにより生じた感覚的効果を認証することができるように、試験化合物(基質もしくはそれぞれの代謝産物(1つもしくは2つ以上)または両方)は臭気化合物でなければならない。試験化合物に対する濃度および範囲を、実験を多数の被験対象で行う前に評価する。被験対象に、一連のランダムに変えた試料をにおい知覚口を通してにおい知覚し、提示された試料の強度および/または質のいずれかを評定するように依頼する。これを、コンピューター制御プロトコルにより、有効に行うことができる。また、被験対象にこれらを第2のにおい知覚口を通して提供される「スタンダード」と比較し、差異を示すように依頼することができる。
【0040】
異なる感覚的評価プロトコルを、試験化合物、スタンダード臭気、臭気混合物などの記載された量(強度)および/または質および/または効果に対して用いることができる。当業者に十分知られているプロトコルは、標識化マグニチュード尺度(labeled magnitude scale)(LMS)プロトコルであり、ここで被験対象に、感覚分析の分野において十分知られているように、これらの評定を示すように依頼する。LMSは、Greenら(1996)、Chemical Senses 21:323-334で記載されているように、この口語的標識の準対数的な(quasi-logarithmic)スケーリングにより特徴づけられる、知覚的強度の意味尺度である。尺度の長さ全体の百分率としての、LMSに対する口語的標識の位置は、以下の通りである:ほとんど検出不能、1.4;弱、6.1;中程度、17.2;強、53.2;考えられる最強、100。
【0041】
最小可知差異(JND)プロトコルもまた、感覚的分析の分野において用いられ、本発明において記載されるように、感覚的精神物理学で熟練した者により効果を評価するために容易に適合可能である。被験対象に、試験化合物を含む提示された刺激を、研究において前に提示された刺激と、または第2のオルファクトメーターで同時に提示された刺激(参照)と比較するように依頼する。カスケードオルファクトメーター設定は、2つのオルファクトメーターを同時に用い、1つは参照を提供する場合が好ましい。JNDプロトコルにおける全体の手順はコンピューター制御されており、被験対象に参照へ提示された刺激の当該対象の評定を示すように依頼する。相対的強度に関する可能な回答を、尺度に対する参照点として示し(例えば、「等しい」、「比較的弱い」、「はるかに比較的弱い」、「比較的強い」、「はるかに比較的強い」)、被験対象は提示された刺激(例えば試験化合物、混合物、モジュレーターを含む試験化合物など)の強度に関する回答を、コンピュータースクリーン上に視覚化された尺度に従って、マウスクリックでマークする。
【0042】
モジュレーター化合物(例えば、代謝の抑制因子および特に代謝酵素の阻害剤)を、臭気物質の強度および/または質に対するこれらの用量に依存する効果により同定する。これらの臭気物質は、例えば、前記の生体内変換酵素の基質であってもよい。オルファクトメーター分析により同定されたこれらの効果により特徴づけて、モジュレーターは、例えば、特定の試験化合物もしくは試験化合物の組成物の知覚、または試験化合物の特定の嗅覚的の質をマスキングするマスキング剤であってもよい。オルファクトメーター分析により同定されるモジュレーターは、試験化合物または代謝産物自体であってもよい。さらに、オルファクトメーター分析の間に同定されるモジュレーターは、試験化合物の知覚に、1つまたはいくつかのレベルにおいて、例えば代謝のレベル(酵素活性のモジュレーター)、嗅覚レセプターのレベル(モジュレーターは、アゴニスト、またはアンタゴニスト=ブロッカー、またはアロステリックレギュレーターである)、および/または信号伝達カスケードのレベル(信号伝達カスケードの成分の活性のモジュレーター、例えばCNGチャネル)において影響し得る。
【0043】
例えば、被験対象に異なる濃度(飽和したヘッドスペースの希釈)の第2の試験化合物と共に無秩序に提示する場合に、臭気を有する揮発性試験化合物の強度を評定するように依頼する。好ましくは、第2の試験化合物を無臭の化合物、または高い臭気しきい値の化合物から選択する。従って、この無臭の/弱い臭気を有する第2の試験化合物を、例えば臭気を有する試験化合物の知覚された強度に対するこの影響により、モジュレーターとして同定することができる。
他の例において、前記の第2の試験化合物を、他の揮発性の臭気を有する試験化合物の質を変化させるこの能力により、モジュレーターとして同定することができる。
【0044】
試験化合物の同定された効果(例えば変調活性)を、情報構造を確定して、臭気物質の分野のために有用な誘導体を設計、探索および同定に用いることができる。
例えば生体内変換酵素の基質である臭気物質の選択は、評価手順の成功のために臨界的に重要であり得、物理化学的特性、例えば蒸気圧、嗅覚的知覚しきい値、logP(clogP)についての知識は必須であり、適切な測定を行うのに必要な技術は当業者には明らかである。
【0045】
情報
本発明の方法により化合物を同定した後に、同定した試験化合物(これは、例えば、代謝酵素の基質または代謝産物またはモジュレーターであってもよい)を、情報として用いることができ、誘導体を合成して、関連する特定の所望の量の有用な化合物を見出すことができる。誘導体を再び、上に記載したように、本発明の方法における試験化合物として用いる。手順を、関連する特定の所望の嗅覚ノートを有する化合物または、他の臭気化合物と組み合わせての特定の有利な効果が確認されるまで、繰り返してもよい。関連する化合物は、臭気化合物自体であってもよいか、またはこれらは、嗅覚の知覚に対して効果を有していてもよい。化合物は代謝産物または臭気物質のこれらの前駆体であってもよく、化合物は臭気物質の性能を改善するか、または臭気化合物の不所望な嗅覚ノートの知覚を抑制もしくはマスキングすることができる。嗅覚知覚に対する効果を有するこれらの後者のすべては、臭気自体を有していても有していなくてもよい。
【0046】

例1:
メタボスペースを用いる一般的な手順
メタボスペースを、以下に記載するように行う。
純粋な試験化合物Aの飽和したヘッドスペースを調製する。液体化合物について、5つの吸取紙の細長い一片を試験化合物中に浸漬し、これらを、ガラス栓で閉鎖したガラスフラスコ(容積250ml)中に配置し、室温で20分間放置して平衡にすることにより、これを達成する。固体化合物を、好ましくは大きい表面積を有する形態で、ガラスフラスコに単に加えることができる。
試験化合物が純粋であり、汚染物を含まないことを確実にするために、供給源に依存して、試験化合物を、例えばフラッシュクロマトグラフィーによりさらに精製しなければならない場合があるかもしれない。
【0047】
個別の被験対象の息中に存在するバックグラウンド信号を記録するために、被験対象は周囲の空気を吸入し、APCI−MSのイオン化チャンバ中への接合部分として作用するガラス漏斗中に吐き出す。この吸入/吐き出しを、鼻を漏斗から離脱させずに、約30回継続する。
その後、被験対象は試験化合物Aを含む調製した飽和したヘッドスペースを鼻を通して吸入し、デバイスにおけるガラス漏斗中に直接、鼻を通して吐き出す。鼻を漏斗から離脱させずに、吸入/吐き出しを、30回継続する。
【0048】
5分間の中断の後、個人は漏斗中に再び30回吐き出して、開始時において記録したバックグラウンドと比較してのバックグラウンドの吐き出しの変化を示す。
これを15分後に再び繰り返し、この時点において、バックグラウンド(基質および代謝産物から得られた信号を欠如する)は通常、試験化合物への曝露の前に記録した最初のバックグラウンドと同一であるか、または極めて類似している。
【0049】
呼吸パターンおよび関連する化合物、例えば基質および代謝産物の、存在を追跡するために、特定の質量クロマトグラムを分析する。
試験化合物Aの代謝産物を、これがヒトの鼻中で生成するに従ってリアルタイムで同定するために、以下の擬分子イオンの相対的な存在度を分析する:ヒトからの吐き出された空気中に常に存在するアセトン(m/z 59における[M+H])、試験化合物(適切に選択された[M+H])、この代謝産物(1種または2種以上)(適切に選択された[M+H]);および記録された質量スペクトル(1秒あたり2回の走査)の合計イオンクロマトグラム(TIC)。
【0050】
例2:
試験化合物 2−メトキシアセトフェノン
試験化合物として2−メトキシアセトフェノンを用いて例1に記載したように手順を行い、以下の変更を加えた:
汚染物として2−ヒドロキシアセトフェノンを含まない試料を用いて開始するために、市販の品質(Fluka, Buchs, Switzerland)をフラッシュクロマトグラフィーによりさらに精製した。
例1に記載した分析により、m/z 151において検出された2−メトキシアセトフェノンの吸入に続いて、m/z 137において、2−ヒドロキシアセトフェノンに相当する化合物が検出されることが示された。
【0051】
例3:
試験化合物 2−メトキシアセトフェノン、異なる吸入/吐き出しプロトコル
試験化合物として2−メトキシアセトフェノンを用いて、例2に記載したように手順を行い、以下の変更を加えた:
吸入/吐き出しプロトコルを、以下のようにして調整した。室内空気(対照)または2−メトキシアセトフェノンの飽和したヘッドスペースを、鼻または口のいずれかを通して吸入し、鼻または口のいずれかを通して吐き出した。4種の可能な変法の2種を、試験化合物および対照=室内空気の両方について、分析した。第1の変法において、吸入および吐き出しは共に口を通して行った。第2の変法において、吸入は口を通して行われ、吐き出しは鼻を通して行った。
【0052】
対照に関して、これらの吸入/吐き出しプロトコルのいずれも、2−ヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)の存在を示す質量フラグメントを出現させなかった。
試験化合物に対して、呼吸プロトコル間に明確な差異があった。
第1の変法で、代謝産物に相当する信号は検出されなかった。
【0053】
第2の変法で、信号(m/z 137)の存在により、2−ヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)の生成が示された。
これにより、2−メトキシアセトフェノンの気道での代謝が、主に鼻孔中の酵素活性の結果行われることが示された。
【0054】
例4:
吐き出された息中の2−ヒドロキシアセトフェノンの放出の、吐き出された2−メトキシアセトフェノンとの比較;信号強度、遅延放出の分析
例2に記載したように手順を行った。基質2−メトキシアセトフェノンおよび2−ヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)に特異的な質量クロマトグラム信号の強度並びに、時間(吸入/吐き出しサイクル)の関数としてのこれらの減少を分析した。
【0055】
2−メトキシアセトフェノン(m/z 151)に特異的な信号の強度は、約30回の吸入/吐き出しサイクル内で比較的迅速に低下し、一方代謝産物である2−ヒドロキシアセトフェノン(m/z 137)に特異的な信号は、30回の吸入/吐き出しの記録の後にも尚最大強度付近であった。
検出された遅延効果は、水性粘液中で生成した代謝産物の一層高い水溶解性のためであり、代謝産物が吐き出される延長された時間をもたらし得る。
【0056】
例5:
試験化合物ケタノン(メチルラズベリーケトン)
ケタノン(メチルラズベリーケトン)を試験化合物として、例2に記載したように手順を行った。
信号の分析により、m/z 179において検出されるケタノンの吸入に続いて、4−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン−2−オン(ラズベリーケトン)(代謝産物)に相当する化合物がm/z 165において検出されることが示された。これは、気道中に存在する酵素による試験化合物のメトキシ基の脱メチル化のためであると考えられる。
【0057】
4−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン−2−オン(ラズベリーケトン)は、ラズベリー芳香についての痕跡(signature)化合物であり、極めて低い嗅覚しきい値を有する。ケタノンは強度が顕著に一層低いが、いくつかのラズベリー特性を有すると記載されている(Winter (1961) Helv. Chim. Acta 44:2110)。
【0058】
この例を、例4に記載されたように繰り返し、信号強度を分析した。親水性が一層高い代謝産物の遅延された放出が、基質に関して観察された。
本発明者らは、ケタノンの記載されたラズベリー観点は、ケタノンのためではなく、ラズベリー芳香中の低いしきい値の痕跡成分であるこの代謝産物の少量の知覚から誘導されると、考える。あるいはまた、基質はすでに、弱いラズベリー芳香(一層高い嗅覚しきい値)を有していてもよい。
【0059】
例6A:
2−メトキシアセトフェノンを代謝する酵素の抑制因子
手順を、例2に記載したように行い、以下の変更を加えた:
揮発性の抑制因子化合物(鼻代謝酵素CYP2A13の阻害剤)を、試験化合物2−メトキシアセトフェノンの吸入の直前に吸入した。
被験対象は、3回の試行を連続して行った:(1)試験化合物のみ;(2)抑制因子、続いて試験化合物;(3)試験化合物のみ。試行の前および間に、ブランク対照を記録した(室内空気の吸入および30回の吸入/吐き出しサイクルの記録)。
【0060】
試行1および3において、分析により、m/z 137において強力な信号が示され、これは、顕著な量のヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)に相当する。
試行(2)において、m/z 137信号(代謝産物)は、比較において主要ではなく、これは、顕著に比較的少量の代謝産物が、抑制因子の存在下で生成することを示した。
【0061】
例6B:
ケタノンを代謝する酵素の抑制因子
手順を、例6Aに記載したように行うが、試験化合物として、ケタノンを用い、ケタノンおよびこの代謝産物4−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン−2−オン(ラズベリーケトン)を、例5に記載したように検出した。
結果は、例6Aと同様である。抑制因子を用いた試行により、代謝産物4−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン−2−オン(ラズベリーケトン)についての顕著に低下した信号強度が示された。
【0062】
例7:
メタボ−GM、一般的手順
吐き出された化合物を、樹脂上に捕集し、続いて結合した物質を脱着し、質量分析と連結させたガスクロマトグラフィー(GC−MS)により分析した。
被験対象は、既知の化合物の飽和したヘッドスペースを吸入し、吐き出された空気を、吸着剤Tenax(登録商標)TA樹脂上に捕集した。
【0063】
16mmの直径を有するガラス管を用いた。前述の管に、約0.5gの樹脂およびシランで処理したガラスウール(Supelco, U.S.)を充填した。前述のウールを、樹脂の両方の側において用いて、管の中央部における樹脂を保持した。被験対象は、試験化合物を吸入し、樹脂を含む管を通してゆっくりと吐き出した。これは、一方の鼻孔を遮断し、開放されている鼻孔に接続された管を通して、一方的に吐き出すことにより、容易に達成された。訓練された被験対象は、極めて定常的な容積を吸入し/吐き出すことができる。第1の段階で、試験化合物を約0.75リットルの容器中に配置した。
【0064】
第2の段階で、飽和したヘッドスペースを、ゆっくりと吸入し、吐き出された空気を、樹脂を用いて捕集した。この段階を、例えば約30回繰り返して、吸着樹脂上の揮発性物質および代謝産物の濃度を増大させることができる。最適な繰り返し速度を、蒸気圧および代謝の程度に依存して、各々の試験化合物について調整する必要がある。
【0065】
第3の段階で、Thermoextractor(GERSTEL, Germanyから)を用いて、樹脂上に捕集された化合物を、一層小さい直径(約6mmがThermoextractorアダプターに適合し、自動試料採取装置負荷についての基準を満たす)を有する分析管に移送した。分析管を、その後の分析で、自動試料採取装置中に負荷させた。また、この段階により、その後の分析に干渉し得る試料からの水が除去された。第4の段階で、分析管を自動試料採取装置(Thermodesorption Autosampler TDS-A, GERSTEL, Germany)中に配置し、コンピューター制御分析順序を開始した。
【0066】
前述の分析は、3つの段階を包含する。先ず、試料をGC注入ライナー中に樹脂結合化合物(Thermodesorption system TDS, GERSTEL, Germany)の熱的脱着により寒冷集中させ、その後の加熱および分離カラムへの移送のためにCryo-Trap(液体窒素で冷却したCooled Injection System CIS, GERSTEL, Germany)中で濃縮した。
次に、試料中に含まれる化合物を、GC(DB-Waxカラムを備えた、Hewlett Packard Model 5890, Macherey-Nagel, Germany)により分離し、質量分析(Hewlett Packard Model 5972)により分析した。最後に、検出された化合物のMSパターンをデータベースと比較して、化合物の化学構造を決定した。
【0067】
例8:
メタボ−GM、2−メトキシアセトフェノン
2−メトキシアセトフェノンを試験化合物として、例7に記載したように手順を行った。
対照として、試験化合物のヘッドスペースを樹脂上に直接吸引すした。2−メトキシアセトフェノンのみが、見出された。
被験対象の吐き出した息中で、さらに2−ヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)が、GC−MSを用いて検出された。
【0068】
例9:
メタボ−GM、2−メトキシアセトフェノン
例7および8に記載したように手順を行い、以下の修正を加えた。
被験対象は、異なって吸入し、吐き出した。
第1の変法で、吸入および吐き出しを共に口を通して行い、吐き出された空気をガラス管中に直接ゆっくりと吹き込んだ。第2の変法において、口を通して吸入を行い、鼻を通して吐き出した。
【0069】
第1の変法で、微小な量の2−ヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)が見出されたが、ほとんど検出不能な少量のみであった。第2の変法(鼻を通しての吐き出し)において、顕著に一層多量の代謝産物が、検出された。
これは、2−メトキシアセトフェノンの気道での代謝が、主に鼻孔中の酵素活性の結果起こることを示す。
【0070】
例10:
メタボ−GM、2−メトキシアセトフェノンの代謝の抑制因子
試験化合物の吸入の前に吸入される揮発性抑制因子を用いて、例6Aに記載したように手順を行った。試験化合物および代謝産物の検出を、例7に記載したように行った。
試験化合物は、2−メトキシアセトフェノンであった。
【0071】
抑制因子の存在下で、この欠如で検出される量と比較して少量のみの2−ヒドロキシアセトフェノン(代謝産物)が、検出された。
これにより、抑制因子は気道、さらに特に鼻孔に到達する試験化合物から生じる代謝産物の生成に影響することが、確認された。
【0072】
例11A:
メタボ−GM、酢酸スチルアリル、鼻を通しての吸入/吐き出し
例7に記載したように手順を行った。
試験化合物は、エステルである酢酸スチルアリルである。エステルを、加水分解酵素により、この代謝産物に潜在的に加水分解することができる。酢酸スチルアリルについて、代謝産物のスチルアリルアルコールおよび酢酸が予測される。このタイプの反応は、カルボキシルエステラーゼの群の酵素により触媒される。
【0073】
顕著な量のスチルアリルアルコールおよび酢酸(代謝産物)が吐き出された空気の試料で検出された。
これは、カルボキシルエステラーゼ活性が、酢酸スチルアリルを酢酸およびスチルアリルアルコールに代謝した気道中に存在することを示す。
【0074】
例11B:
メタボ−GM、酢酸スチルアリル、口を通しての吸入/吐き出し
例11Aに記載したように手順を行い、以下の修正を加えた:試験化合物のヘッドスペースを、実験9に記載したように、口を通して吸入し、吐き出す。
【0075】
吸入および吐き出しを口を通して行う例11Aと比較して、少量のスチルアリルアルコール(代謝産物)が検出された(実験を比較するために、比較したのは、代謝産物対基質の比率であった)。しかし、代謝産物の量は尚、GC−MSにより容易に検出可能であるために十分であり、これは、カルボキシルエステラーゼ活性が、気道中に広範囲に分布し鼻孔に限定されないことを示した。
【0076】
例12A:
メタボ−GM、酢酸フェネチルおよび代謝の抑制因子(カルボキシルエステラーゼの阻害剤)
例7および10に記載したように手順を行い、以下の修正を加えた:
抑制因子として、カルボキシルエステラーゼについての阻害剤を用いた。試験化合物として、酢酸フェネチルを用いたが、これはカルボキシルエステラーゼについての基質である。
【0077】
吐き出した息中で、フェネチルアルコールが検出された(代謝産物)。抑制因子を最初に吸入し、続いて試験化合物を吸入する場合には、検出された代謝産物の比率は、抑制因子を用いない分析と比較して、顕著に一層低かった(約50%に低下する)。
【0078】
例12B:
メタボ−GM、酢酸スチルアリルおよび代謝の抑制因子(カルボキシルエステラーゼの阻害剤)
手順を、カルボキシルエステラーゼについての阻害剤を抑制因子として、例12Aに記載したように行い、以下の修正を加えた:
試験化合物として、カルボキシルエステラーゼについての基質である酢酸スチルアリルを用いた。
【0079】
吐き出した息中で、スチルアリルアルコールが、検出された(代謝産物)。抑制因子を最初に吸入し、続いて試験化合物を吸入する場合には、検出された代謝産物の比率は、抑制因子を用いない分析と比較して、顕著に一層低かった。従って、抑制因子の存在下で、試験化合物(酵素基質)の低下した速度の減少があった。
【0080】
例13:
カスケードオルファクトメーター、モジュレーター(阻害剤)の同定
モジュレーターを、オルファクトメーターを用いて同定した。参照の試験化合物として、臭気物質エステルを用いた。第2の試験化合物(潜在的なモジュレーター、モジュレーター試験化合物)を、これらの臭気物質試験化合物と組み合わせて、試験した。臭気物質参照試験化合物を、モジュレーター濃度を変化させて、一定の濃度に維持した。
【0081】
参照の試験化合物は、臭気物質の酢酸スチルアリルであり、これは、この代謝産物であるスチルアリルアルコールよりも低いしきい値を有する。代謝が行われる場合には、嗅覚系を刺激する酢酸スチルアリルの量は減少した。例12Bで、酢酸スチルアリル(基質)の減少の低下した速度の所見を伴うが付加的な代謝産物を含まない、モジュレーター試験化合物の存在下での増強した強度の被験対象による所見は、阻害剤であるモジュレーターの存在を示した。(即ち、代謝は、阻害剤の存在下で低下し、基質は、代謝されないか、またはゆっくりと代謝されるに過ぎない)。その結果、代謝産物は、低下した速度で生成した。
【0082】
臭気試験化合物の標準濃度(標準的なヘッドスペースの適切な希釈)を、参照として1つのオルファクトメーター(カスケード1)中に提供し、一方第2のオルファクトメーター(カスケード2)において、臭気物質試験化合物を、種々の濃度のモジュレーター(飽和したヘッドスペースの適切な希釈)を補足した標準的な濃度において提供した。
【0083】
まず、臭気物質である酢酸スチルアリルについてのしきい値を、各々の被験対象について決定した。標準的な濃度を、これが各々の被験対象によって判定して、弱いないし中程度の強度であるように知覚されるように選択した。
モジュレーター試験化合物の濃度を、被験対象の嗅覚しきい値よりも低く選択した。
【0084】
試料を、飽和チャンバ中のヘッドスペースとして提供した。前述のチャンバからの流れをキャリヤーガス供給に加え、におい知覚口と接続したチャンバ中で混合し、ここで被験対象は刺激を検出した。前述の流れ(キャリヤーへの添加の前の試料のヘッドスペース)を決定し、被験対象が前述の流れを中程度の強度として評定するように調整した。これは、カスケード1において用いられる参照である。酢酸スチルアリルについて、20ml/分の臭気物質の流れを用いた。
【0085】
カスケード2で、臭気物質を参照と同一の流れ(20ml/分)で提供し、加えられたモジュレーター試験化合物の流れを6つの希釈段階で1〜900ml/分の間で変化させた。臭気物質試験化合物のキャリヤーガスとの希釈を調整して、臭気物質試験化合物の一定の最終濃度を提供し、同時にモジュレーター試験化合物をこの最終濃度で変化させた。
【0086】
潜在的なモジュレーターの存在下で、被験対象は、臭気物質の強度が増大することを記録した。
負の対照(溶媒、この場合においてはフタル酸ジエチル)を、潜在的なモジュレーター化合物と同一の流れにおいて用いた。被験対象は、潜在的なモジュレーターを有しない試行と比較した場合に、強度における差異を全く記録しなかった。
【0087】
例14:
カスケードオルファクトメーター、増強化合物の同定
試験化合物として臭気物質である酢酸スチルアリルを用いて、例13に記載したように分析を行い、以下の修正を加えた:臭気物質濃度を変化させ、一方モジュレーター濃度を一定に維持した。
モジュレーターの酢酸スチルアリルの嗅覚しきい値に対する影響を、以下のようにして決定した。
カスケード1において、被験対象の嗅覚しきい値よりもわずかに高い酢酸スチルアリルの参照濃度を、用いた(20ml/分)。
【0088】
カスケード2において、酢酸スチルアリルは、一定の濃度の潜在的なモジュレーター(5ml/分)と組み合わせて存在した。酢酸スチルアリルの濃度を、臭気物質(5〜80ml/分の流れ)の飽和したヘッドスペースを希釈することにより、変化させた。
被験対象は、カスケード1(参照の酢酸スチルアリル)を、カスケード2(モジュレーター+種々の濃度の酢酸スチルアリル)と比較した。各々の対(2と比較したカスケード1)について、被験対象に、強度が等しいか、一層高いか、はるかに一層高いか、一層低いかまたははるかに一層低いかを、JNDプロトコル(即ち、これらは、「最小可知差異」を示す)を用いて示すように依頼した。
【0089】
カスケード1および2での酢酸スチルアリルの最終濃度が同一である(20ml/分)比較について、被験対象は酢酸スチルアリル試料の臭気強度を、カスケード2におけるモジュレーター化合物の存在下で、カスケード1での参照濃度よりも強いと同定した。
負の対照(フタル酸ジエチル)について、被験対象は、強度においていかなる差異をも記録しなかった。
【0090】
あるいはまた、用量応答曲線を、1つのオルファクトメーター(カスケード2)を用いて、被験対象の検出された嗅覚しきい値よりも高い、および低い試料を提供することにより記録した。これを、予め記録された化合物の既知のしきい値と比較した。
被験対象は、モジュレーターと混ぜ合わせた酢酸スチルアリルについての嗅覚しきい値を、酢酸スチルアリル単独についての決定された嗅覚しきい値よりも低いと同定した。
用いたモジュレーター試験化合物は、カルボキシルエステラーゼの阻害剤であり、エステル加水分解の速度を低下させる。従って、嗅覚系を刺激するのに有用なエステルの量は増大した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物またはこの代謝産物の少なくとも1種のいずれかが、臭気物質または臭気物質の前駆体または臭気物質の知覚のモジュレーターである、試験化合物を同定または評価する方法であって、
a)試験化合物で飽和した、随意に希釈されたヘッドスペースを提供すること、
b)前記ヘッドスペースのヒトの被験者による吸入、
c)ヒトの被験者により吐き出された息を排気すること、
d)吐き出された息を、メタボ−GM、メタボスペースおよび陽子移動反応質量分析(PTR−MS)またはこれらの組み合わせから選択された検出方法により分析すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
試験化合物を、鼻を通して吸入し、吐き出す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試験化合物を、鼻を通して吸入し、口を通して吐き出す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試験化合物を、口を通して吸入し、鼻を通して吐き出す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
試験化合物を、口を通して吸入し、吐き出す、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
メタボ−GM、メタボスペースもしくは陽子移動反応質量分析(PTR−MS)またはこれらの組み合わせによる分析に加えて、オルファクトメーター分析を行う、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2008−506958(P2008−506958A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521767(P2007−521767)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000412
【国際公開番号】WO2006/007752
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】