説明

香料組成物

【課題】 天然感のあるイグサ香を賦与することができる香料組成物、及び該組成物によりイグサ香が賦与された畳、住宅用建材、家庭用製品または化粧品を提供する。
【解決手段】
(Z)-3-ヘキセノールと、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とするイグサ様香料組成物。
(a):下記一般式(1)で表される化合物
R1−(S)n−R2 (1)
〔式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数〕
(b):脂肪族不飽和アルデヒド
(c):(a)成分を除く含硫黄化合物
(d):含窒素化合物
(e):シス−ジャスモン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イグサ様香料として使用可能な香料組成物に関する。詳しくは、特定の香気成分を含有することにより、さわやかで心地良く天然感のあるイグサ様の香気を賦与することができる香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本家屋に広く用いられ、日本文化を象徴する居住空間を構成している畳は、さわやかで心地良いイグサ香を有し、その独特の香りは日々の生活に潤いを与え、日本人の生活になくてはならないものである。しかしながら、畳のイグサ香は経時的に弱まるため、長期間さわやかで心地良いイグサ香を維持することは困難である。また、天然のイグサを使用しない合成高分子物質からなる畳表の需要も次第に増加しているものの、当然のことながら、これらの合成品ではさわやかで心地良いイグサ香は得られない。そのため、より自然で天然感のあるイグサ香を持つ香料の開発が強く要求されている。
【0003】
これらの要求に対して、天然のイグサから水蒸気蒸留や溶剤抽出した精油や芳香を有する抽出物を香料として利用する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、いずれの方法も天然のイグサを原料とし、多くの工程を経て製造されるため、安価かつ大量に供給することが難しいだけでなく、イグサの香気成分の一部しか採取できないため、天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ香の要望に十分に対応できるものではなかった。
【0004】
また、乾燥いぐさの揮発成分や乾燥および生こひげの水蒸気揮発性油の成分など、イグサ香気に関する分析も行われている(非特許文献1及び2)。これらの文献では、イグサ香に寄与する成分の幾つかは明らかにされているものの、実際にイグサ香の再現には至っておらず、天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ香の要望に応えられてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−157863号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】渋谷三郎、他2名、「乾燥いぐさの揮発性成分」、第28回香料、テルペン精油化学に関する討論会予稿集、1984年、p.221-223
【非特許文献2】亀岡弘、他1名、「乾燥および生こひげの水蒸気揮発性油の成分」、日本農芸化学会誌、1978年、第52巻、第8号、p.323-327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、天然感のあるイグサ香を賦与することができる香料組成物、及びかかる香料組成物を配合することによりイグサ香が賦与された畳、住宅用建材、家庭用製品または化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、良質な天然イグサの香気成分について詳細に検討したところ、 (Z)-3-ヘキセノールと、特定の含硫黄化合物、特定の脂肪族不飽和アルデヒド、特定の含窒素化合物又はシス−ジャスモンとを併用し、所望により、更に3-ハイドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、4-ハイドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、クマリン、ヘキサナール、ヘキサノール、フェニル酢酸、β-ヨノン、メチルサリシレート、バニリン、オイゲノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オン、2-フェニルエチルアルコール、(E)-2-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールからなる群より選択された少なくとも1種の成分を組み合わせることにより、天然感のあるイグサ香を賦与することができる香料組成物の提供が可能になるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)(Z)-3-ヘキセノールと、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とするイグサ様香料組成物。
(a):一般式(1)で表される化合物
R1−(S)n−R2 (1)
〔式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数〕
(b):脂肪族不飽和アルデヒド
(c):(a)成分を除く含硫黄化合物
(d):含窒素化合物
(e):シス−ジャスモン
(2)(a)成分が、ジメチルスルフィド及びジメチルトリスルフィドからなる群より選ばれた少なくとも1種である(1)のイグサ様香料組成物。
(3)(b)成分が、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、(E,E,E)-2,4,6-ノナトリエナール及び(E,E,Z)-2,4,6-ノナトリエナールからなる群より選ばれた少なくとも1種である(1)または(2)のイグサ様香料組成物。
(4)(c)成分が、メチオナール及び3-メルカプト-1-ヘキサノールからなる群より選ばれた少なくとも1種である(1)〜(3)のイグサ様香料組成物。
(5)(d)成分が、アントラニル酸メチル、2,6-ジメチル-3-エチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン及び2-アセチル-1-ピロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種である(1)〜(4)のイグサ様香料組成物。
(6)更に、3-ハイドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、4-ハイドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、クマリン、ヘキサナール、ヘキサノール及びフェニル酢酸からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする(1)〜(5)の何れか1項のイグサ様香料組成物。
(7)更に、β-ヨノン、メチルサリシレート、バニリン、オイゲノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オン、2-フェニルエチルアルコール、(E)-2-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする(1)〜(6)の何れか1項のイグサ様香料組成物
(8)(1)〜(7)の何れか1項のイグサ様香料組成物が添加されてなることを特徴とするイグサ様香気を有する畳、住宅用建材、家庭用製品または化粧品。
なお、本発明において、「イグサ様」とは、イグサだけに限定されるものではなく、畳、青畳、ござなどのイグサを使った製品を包含する意味を有するものであり、本発明のイグサ様香料組成物には、イグサの匂いを有する香料組成物だけでなく、畳、青畳、ござなどのイグサ製品の匂いを有する香料組成物も包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、天然感のあるイグサ香を賦与することができる香料組成物の提供が可能となり、更に本発明の香料組成物を畳、住宅用建材、家庭用製品、化粧品などに配合することにより、天然感が感じられる製品を消費者に提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のイグサ様香料組成物は、 (Z)-3-ヘキセノールと、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分からなる群より選ばれた少なくとも1種とを必須成分として含有する。
(Z)-3-ヘキセノールは、青葉アルコールとも呼ばれ、野菜など植物の青臭い香気を有する化合物であり、融点−61〜−62℃、沸点156℃の無色の液体である。本発明によれば、(Z)-3-ヘキセノールに、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分からなる群より選ばれた少なくとも1種を組み合わせることにより、イグサ様香料組成物が得られる。該(a)〜(e)成分は、所望のイグサ様香気を得るに十分な量だけ(Z)-3-ヘキセノールに配合すればよい。
【0012】
(a)成分は、一般式R1−(S)n−R2〔式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数〕で表される化合物であり、具体的には、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、メチルプロピルジスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド、ジプロピルジスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、ジアリルスルフィド、ジアリルジスルフィド、ジブチルスルフィド等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種と(Z)-3-ヘキセノールとの組合せにより磯の香り、緑茶の香りに繋がる濃い緑色をイメージできるグリーン感、天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができるが、特にジメチルスルフィド、ジメチルトリスルフィドを単独又は併用して用いることでリアル感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0013】
(Z)-3-ヘキセノールと(a)成分の質量比は、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、好ましくは0.0000001〜0.01質量部、より好ましくは0.00001〜0.001質量部であり、(a)成分の量が(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して0.01質量部を超えるとイグサが有する特有の青葉様香気を失い、また、0.0000001質量部未満では(a)成分特有の磯の香り、緑茶の香りに繋がる濃い緑色をイメージできるグリーン感、ロースト感、スパイシー感、ハーバル感が付与されず天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得られない。
【0014】
(b)成分は、脂肪族不飽和アルデヒドであり、具体的には、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、(E,E,E)-2,4,6-ノナトリエナール、(E,E,Z)-2,4,6-ノナトリエナール等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種と(Z)-3-ヘキセノールとの組合せによりみずみずしいキュウリ様のグリーン感、濃厚なグリーン感、僅かなフローラル感、Fatty感ならびに独特の甘さが付与された天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0015】
(Z)-3-ヘキセノールと(b)成分の質量比は、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.2質量部、より好ましくは0.0005〜0.05質量部であり、(b)成分の量が(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して0.2質量部を超えるとFatty感や刺激的なグリーン感、甘さが強くなり、更にキュウリ様の香気が目立つことでイグサ様の香気が得られず、また、0.0001質量部未満ではイグサが有する適度なグリーンでみずみずしい香気を得ることができず、香りとしてのボリューム感にも欠ける。
【0016】
(b)成分は、(a)成分を含有する(Z)-3-ヘキセノールと組み合わせることにより、更に天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0017】
(c)成分は、上記(a)成分を除く含硫黄化合物であり、具体的にはメチオナールなどの含硫黄アルデヒド、3-メルカプト-1-ヘキサノールなどの含硫黄アルコールが挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種と(Z)-3-ヘキセノールとの組合せにより(a)成分では得られない磯の香り、緑茶の香りに繋がる濃い緑色をイメージできる天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0018】
(Z)-3-ヘキセノールと(c)成分の質量比は、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、好ましくは0.000001〜0.01質量部、より好ましくは0.00001〜0.005質量部であり、(c)成分の量が(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して0.01質量部を超えるとイグサが有する特有の青葉様香気を失い、また、0.000001質量部未満では(c)成分特有の磯の香り、緑茶の香りに繋がる濃い緑色をイメージできるグリーン感が付与されず天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得られない。
【0019】
(c)成分は、(a)成分及び/または(b)成分を含有する(Z)-3-ヘキセノールと組み合わせることにより、更に天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0020】
(d)成分は、含窒素化合物であり、具体的にはアントラニル酸メチルなどのアントラニル酸エステル類、2,6-ジメチル-3-エチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジンなどのアルキル基置換ピラジン類、2-アセチル-1-ピロリン等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種と(Z)-3-ヘキセノールとの組合せによりイグサが有する特有な甘さと枯草様の乾燥した葉の香気が付与された天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0021】
(Z)-3-ヘキセノールと(d)成分の質量比は、(d)成分がアントラニル酸メチルの場合は、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、好ましくは0.005〜0.5質量部、より好ましくは0.01〜0.3質量部であり、当該成分の量が(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して0.5質量部を超えるとフルーティ感が強くなってイグサ様香気を失い、また、0.005質量部未満では当該成分特有の甘さが得られず、天然感、爽快感のあるイグサ様香気を得ることができない。
【0022】
また、(d)成分が2,6-ジメチル-3-エチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン、2-アセチル-1-ピロリンである場合は、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、好ましくは0.0000001〜0.01質量部、より好ましくは0.000001〜0.0001質量部であり、当該成分の量が(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して0.01質量部を超えるとロースト感、ナッティ感、枯草感が強くなりイグサが有する特有の青葉様香気を失い、また、0.0000001質量部未満ではグリーン感、ロースト・スパイシー感が付与されず天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得られない。
【0023】
(d)成分は、(a)成分及び/または(b)成分及び/または(c)成分を含有する(Z)-3-ヘキセノールと組み合わせることにより、更に天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0024】
(e)成分は、シス−ジャスモンであり、グリーン感、フローラル感の厚みを増した天然感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0025】
(Z)-3-ヘキセノールと(e)成分の質量比は、好ましくは0.001〜0.5質量部、より好ましくは0.01〜0.3質量部であり、当該成分の量が(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して0.5質量部を超えるとイグサが有する特有な香気を損ない、また、0.001質量部未満では当該成分特有のグリーン感、フローラル感が得られず、天然感、爽快感のあるイグサ様香気を得ることができない。
【0026】
(e)成分は、(a)成分及び/または(b)成分及び/または(c)成分及び/または(d)成分を含有する(Z)-3-ヘキセノールと組み合わせることにより、更に天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0027】
本発明によれば、(Z)-3-ヘキセノールと、上記(a)〜(e)成分からなる群より選ばれた少なくとも1種とからなる香料組成物に、更に、3-ハイドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、4-ハイドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、クマリン、ヘキサナール、ヘキサノール及びフェニル酢酸からなる群より選ばれた少なくとも1種、及び/又は、β-ヨノン、メチルサリシレート、バニリン、オイゲノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オン、2-フェニルエチルアルコール、(E)-2-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を配合することにより、より天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ様香気を得ることができる。
【0028】
3-ハイドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、4-ハイドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、クマリン、ヘキサナール、ヘキサノール及びフェニル酢酸から成る群より選ばれた少なくとも1種の成分は、イグサ様香気の甘さ、グリーン感、フレッシュ感を補い、香りの全体のバランスをとるために使用される。
【0029】
β-ヨノン、メチルサリシレート、バニリン、オイゲノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オン、2-フェニルエチルアルコール、(E)-2-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールから成る群より選ばれた少なくとも1種の成分は、イグサ様香気のウッディー感、フローラル感、グリーン感、フレッシュ感、甘さを補い香り全体のボリューム感を得るために使用される。
【0030】
3-ハイドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、4-ハイドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、クマリン、ヘキサナール、ヘキサノール、フェニル酢酸、β-ヨノン、メチルサリシレート、バニリン、オイゲノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オン、2-フェニルエチルアルコール、(E)-2-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセナール、(Z)-3-ヘキセナールの配合量には特に制限はなく、イグサ様香気のボリューム感、天然感、爽快感または新鮮感を付与するに十分な量だけ配合すればよく、畳、住宅用建材、家庭用製品又は化粧品などの用途に適合した香気を調製するために十分な量だけ配合すればよい。なお、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールは、(Z)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールと、(E)-4,5-エポキシ-(E)-2-デセナールの二つの異性体が存在するが、本発明においてはいずれも好適に使用することができる。これら異性体はそれぞれ単独でも、或いは混合物として使用しても差し支えない。
【0031】
本発明の香料組成物には、更にイグサ様香気にシャープなグリーン感、厚みのあるグリーン感、フローラル感、サワー感等の香気を付与してボリューム感をアップさせる目的、イグサ様香気を損なわず本発明の使用対象、使用目的に香気を合わる目的等で、その他の香料素材として広く知られている成分、具体的には鎖状炭化水素、環状テルペン炭化水素、その他の炭化水素、脂肪族アルコール、テルペン系アルコール、芳香族アルコール、その他のアルコール、フェノール誘導体、アルデヒド類、アセタール類、ケトン類、ケタール類、エーテル類、オキサイド類、合成ムスク類、酸類、ラクトン類、エステル類に該当する種々の香料素材を任意に配合することができる。
【0032】
本発明の香料組成物には、必要に応じて、ジエチルフタレート、トリエチルシトレート等のエステル類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、1,3-ブチレングリコール等のグリコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール等のアルコールエーテル類、エタノール等のアルコールなどの溶剤を含有させることができる。その量は、本発明の香料組成物の使用対象、使用目的等に応じて適宜決定することができる。
【0033】
本発明の香料組成物には、更に界面活性剤、紫外線吸収剤、防腐剤、殺菌剤、消臭剤、染料、顔料、パール剤、キレート剤、水溶性高分子、ゲル化剤、ビタミン類、アミノ酸類、オリーブ油、ホホバ油等の油溶性成分、シリコーン類、エキス剤、チンキ剤等を、本発明の香料組成物の使用対象、使用目的等に応じて適宜配合することができる。
【0034】
本発明の香料組成物は、単独で畳、住宅用建材、家庭用製品、化粧品などの消費財製品に配合して使用することができるが、これらの消費財製品に配合される従来の香料組成物に対してイグサ様香料組成物として配合することもできる。ここで、従来の香料組成物としては、例えば、用途や目的に応じて従来から使用されている種々の香料素材や調合香料(例えば、シトラス系香料、フローラル系香料、マリン系香料、グリーン系香料、フルーツ系香料等)を含有するものが挙げられる。
【0035】
本発明の香料組成物を添加可能な製品としては、天然畳、人工畳、畳床、畳表のような畳類;壁紙、床材、接着剤、コーティング樹脂、木材、ボード類のような住宅用建材類;衣類用洗剤、衣類用柔軟剤、衣類用仕上げ剤、各種洗浄剤(繊維用、皮革用、硬質表面用、住居用、家庭用、トイレ用、お風呂用など)、芳香消臭剤、香りつきトイレットペーパー、ワックス剤のような家庭用製品;フレグランス製品(香水、オードパルファム、ボディーコロンなど)、スキンケア化粧料(化粧水、乳液、クリーム、口紅、ファンデーション、洗顔料、石鹸、ボディーシャンプー、ボディーケア製品、入浴剤、制汗デオドラント剤など)、ヘアケア化粧料(シャンプー、リンス、コンディショナー、ヘアートリートメント、ヘアトニック、育毛剤、ヘアカラーリング剤、ヘアスタイリング剤、パーマネント剤など)が挙げられる。
【実施例】
【0036】
次に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、処方等の数値は特に規定をしない限り質量部を示す。
【0037】
(実施例1)
(Z)-3-ヘキセノールと(a)成分を用いて、本発明のイグサ様香料組成物を作成した。
【0038】
(Z)-3-ヘキセノールと(a)成分を、表1に示すように、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、0.01、0.0001、0.00001、0.0000001質量部の組成比で配合し、それぞれの組成物について、調香師を含む5名の評価者により官能で評価した。(a)成分として表2に示す各種化合物を用いた場合の結果を表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2)
(Z)-3-ヘキセノールと(b)成分を用いて、本発明のイグサ様香料組成物を作成した。
【0042】
(Z)-3-ヘキセノールと(b)成分を、表3に示すように、 (Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、0.2、0.05、0.0005、0.0001質量部の組成比で配合し、それぞれの組成物について、調香師を含む5名の評価者により官能で評価した。(b)成分として表4に示す各種化合物を用いた場合の結果を表4に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
(実施例3)
(Z)-3-ヘキセノールと(c)成分を用いて、本発明のイグサ様香料組成物を作成した。
【0046】
(Z)-3-ヘキセノールと(c)成分を、表5に示すように、 (Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、0.01、0.005、0.00001、0.000001質量部の組成比で配合し、それぞれの組成物について、調香師を含む5名の評価者により官能で評価した。(c)成分として表6に示す各種化合物を用いた場合の結果を表6に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
(実施例4)
(Z)-3-ヘキセノールと(d)成分を用いて、本発明のイグサ様香料組成物を作成した。
【0050】
(Z)-3-ヘキセノールと(d)成分であるアントラニル酸メチルを、表7に示すように、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、0.5、0.3、0.01、0.005質量部の組成比で配合して、その組成物について、調香師を含む5名の評価者により官能で評価した。その結果を表7に示す。
【0051】
【表7】

【0052】
(実施例5)
(Z)-3-ヘキセノールと(d)成分である2,6-ジメチル-3-エチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン又は2-アセチル-1-ピロリンを、表8に示すように、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、0.01、0.0001、0.000001、0.0000001質量部の組成比で配合して、それぞれの組成物について、調香師を含む5名の評価者により官能で評価した。その結果を表8に示す。
【0053】
【表8】

【0054】
(実施例6)
(Z)-3-ヘキセノールと(e)成分であるシス−ジャスモンを、表9に示すように、(Z)-3-ヘキセノール1質量部に対して、0.5、0.3、0.01、0.001質量部の組成比で配合して、その組成物について、調香師を含む5名の評価者により官能で評価した。その結果を表9に示す。
【0055】
【表9】

【0056】
(実施例7)
イグサ様香料組成物処方検討
(Z)-3-ヘキセノールと、(a)〜 (e)成分の1種以上とを併用して、本発明のイグサ様香料組成物を作成した。それぞれ作成したイグサ様香料組成物の配合組成を表10〜12に示す。
【0057】
【表10】

【0058】
【表11】

【0059】
【表12】

【0060】
(イグサ様香料組成物の評価)
表10〜表12で得られたイグサ様香料組成物の官能評価を行った。評価は、調香師、エバリュエーターを含む7名により、以下の方法に従って進めた。
【0061】
官能評価
(1)表10〜表12で得られたイグサ様香料組成物の0.1%エタノール溶液を作成し、その溶液を匂い紙に0.1g滴下する。
(2)縦100cm×横100cm×高さ200cmの専用評価ボックス内に設置した、縦20cm×横30cm×高さ80cmのステンレス製棚に匂い紙を置き、10分間放置する。
(3)専用評価窓から空間の香りを嗅ぎ、香りの質感を評価する。
【0062】
(評価結果)
評価結果を表13に示す。
【0063】
【表13】

【0064】
(実施例8)
イグサ様香料組成物処方検討
実施例7で作成したイグサ様香料組成物を用いて、更に本発明のイグサ様香料組成物を作成した。それぞれ作成したイグサ様香料組成物の配合組成を表14〜15に示す。
【0065】
【表14】

【0066】
【表15】

【0067】
(イグサ様香料組成物の評価)
表14〜表15で得られたイグサ様香料組成物の官能評価を行った。評価は、調香師、エバリュエーターを含む7名により、以下の方法に従って進めた。
【0068】
官能評価
(1)表14〜表15で得られたイグサ様香料組成物の1%エタノール溶液を作成し、その溶液を匂い紙に0.1g滴下する。
(2)縦100cm×横100cm×高さ200cmの専用評価ボックス内に設置した、縦20cm×横30cm×高さ80cmのステンレス製棚に匂い紙を置き、10分間放置する。
(3)専用評価窓から空間の香りを嗅ぎ、香りの質感を評価する。
【0069】
(評価結果)
評価結果を表16に示す。
【0070】
【表16】

【0071】
(実施例9)
イグサ様香料組成物を配合した製剤の検討
実施例8で得られた本発明のイグサ様香料組成物を用いて、シャンプー、消臭剤、芳香剤、イグサ香を着香した人工畳を作成した。
【0072】
シャンプー組成物
下記処方のシャンプー用香料組成物ならびにシャンプー組成物を常法に従い作成した。シャンプー用香料組成物ならびにシャンプー組成物の配合組成を表17、18に示す。
【0073】
【表17】

【0074】
【表18】

【0075】
消臭剤組成物
下記処方のスプレー式消臭剤組成物を常法に従い作成した。消臭剤組成物の配合組成を表19に示す。
【0076】
【表19】

【0077】
芳香剤組成物
下記処方の芳香剤組成物をそれぞれの常法に従い作成した。芳香剤組成物の配合組成を表20、21に示す。
【0078】
【表20】

【0079】
【表21】

【0080】
イグサ香を着香した人工畳
人工畳に着香するイグサ様香料組成物を表22、23に示す組成で調製し、更にこれら組成物を塗布した着香人工畳を作成した。
【0081】
【表22】

【0082】
【表23】

【0083】
香料βの調製方法
クレイトンG1654とIPソルベント1620を混合、加熱溶解し、ゾル状となった時点でイグサ様香料組成物を添加、均一混合して自然冷却しゾル状製剤とした。香料αならびに香料γは常法に従い調製した。
【0084】
人工畳の作成
紙製の畳表を市販インシュレーションボードの周囲に巻きつけたものを人工畳とした。
【0085】
人工畳への着香
紙製の畳表を巻きつける前の市販インシュレーションボードにイグサ様香料組成物香料γを1m2あたり1gとなるよう全体に均一に噴霧し、その周囲を紙製の畳表で巻きつけた。
【0086】
評価
実施例9にて調製したシャンプー組成物、消臭剤組成物、芳香剤組成物、着香人工畳の評価を表24に示す方法で行った。
【0087】
【表24】

【0088】
(評価結果)
評価結果を表25に示す。
【0089】
【表25】

【0090】
(比較例1)
イグサ抽出物の作成
熊本県産いぐさを3〜5cmに切断したもの100gをヘキサン1kgに3日浸漬した後、溶液を濾紙(アドバンテック社製 5C濾紙)濾過して濾液を得た。次に、ヘキサンをロータリーエバポレーターで液量が仕込み量の1/50〜1/100になるまで濃縮し、イグサ抽出物を得た。
【0091】
(比較例2)
イグサ様香料組成物の作成
以下の処方に従いイグサ様香料組成物を作成した。それぞれ作成したイグサ様香料組成物の配合組成を表26に示す。
【0092】
【表26】

【0093】
(イグサ様香料組成物の評価)
比較例1ならびに比較例2で得られたイグサ様香料組成物の官能評価を行った。評価は、調香師、エバリュエーターを含む7名により、以下の方法に従って進めた。
【0094】
官能評価
(1)比較例1で得られたイグサ抽出物は原液のまま、比較例2で得られたイグサ様香料組成物は1%エタノール溶液に調製し、それぞれを匂い紙に0.1g滴下する。
(2)縦100cm×横100cm×高さ200cmの専用評価ボックス内に設置した、縦20cm×横30cm×高さ80cmのステンレス製棚に匂い紙を置き、10分間放置する。
(3)専用評価窓から空間の香りを嗅ぎ、香りの質感を評価する。
【0095】
(評価結果)
評価結果を表27に示す。
【0096】
【表27】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、天然感、爽快感、新鮮感のあるイグサ香を有する香料組成物、ならびにかかる香料組成物を配合したイグサ香の畳、住宅用建材、家庭用製品または化粧品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Z)-3-ヘキセノールと、下記(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分及び(e)成分からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とするイグサ様香料組成物。
(a):下記一般式(1)で表される化合物
R1−(S)n−R2 (1)
〔式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基またはアリル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数〕
(b):脂肪族不飽和アルデヒド
(c):(a)成分を除く含硫黄化合物
(d):含窒素化合物
(e):シス−ジャスモン
【請求項2】
(a)成分が、ジメチルスルフィド及びジメチルトリスルフィドからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のイグサ様香料組成物。
【請求項3】
(b)成分が、(E,E)-2,4-ノナジエナール、(E,Z)-2,6-ノナジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-デカジエナール、(E,E,E)-2,4,6-ノナトリエナール及び(E,E,Z)-2,4,6-ノナトリエナールからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1または2記載のイグサ様香料組成物。
【請求項4】
(c)成分が、メチオナール及び3-メルカプト-1-ヘキサノールからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3記載のイグサ様香料組成物。
【請求項5】
(d)成分が、アントラニル酸メチル、2,6-ジメチル-3-エチルピラジン、2,3-ジエチル-5-メチルピラジン及び2-アセチル-1-ピロリンからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4記載のイグサ様香料組成物。
【請求項6】
更に、3-ハイドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノン、4-ハイドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、4,5-エポキシ-(E)-2-デセナール、クマリン、ヘキサナール、ヘキサノール及びフェニル酢酸からなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のイグサ様香料組成物。
【請求項7】
更に、β-ヨノン、メチルサリシレート、バニリン、オイゲノール、(Z)-1,5-オクタジエン-3-オン、2-フェニルエチルアルコール、(E)-2-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセナール及び(Z)-3-ヘキセナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のイグサ様香料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のイグサ様香料組成物が添加されてなることを特徴とするイグサ様香気を有する畳、住宅用建材、家庭用製品または化粧品。

【公開番号】特開2011−68836(P2011−68836A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223203(P2009−223203)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】