説明

香辛料の製造方法

【課題】良好な風味を有する香辛料を、効率よく製造できるようにした香辛料の製造方法を提供する。
【解決手段】鷹の爪と、山椒の実とを、それぞれまるごと含む原料に、食用油を添加して、焦げ付かないように炒り、チョッパーにかけて細断する。前記炒り工程を、鷹の爪の水分が飛んでパリパリした状態になるまで行うことが好ましく、前記食用油の温度が130〜150℃で、65〜85分間行うことがより好ましい。また、前記チョッパーとして、プレートの孔径が3〜15mmのものを用いることが好ましい。更に、前記チョッパーにかけて細断した後、ガスバリア性のある容器に充填し、真空脱気又は窒素置換して密封包装することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唐辛子の一種である鷹の爪と、山椒の実とを原料とした香辛料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
唐辛子や山椒は、香辛料の原料として広く用いられている。例えば、一味唐辛子(いちみとうがらし)は、乾燥させた唐辛子の実をすりつぶして粉末にすることにより、製造されている。また、七味唐辛子は、上記一味唐辛子をベースにして、他の香辛料を混ぜて作られる。上記他の香辛料としては、例えば芥子(けし、ケシの実)、陳皮(ちんぴ、ミカンの皮)、胡麻(ごま)、山椒(さんしょう)、麻の実(おのみ、あさのみ)、紫蘇(しそ)、海苔(のり)、青海苔(あおのり)、生姜(しょうが)、菜種(なたね)などが用いられている。
【0003】
一方、下記特許文献1には、低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気のいずれか又はこれらの組み合わせにて処理してなる香辛料が開示されている。また、従来の香辛料の前処理やミックス品の処理として、ホウロウや鍋を使用し直火にて、香辛料を焦がさない様に丹念に長時間炒めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−61015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
唐辛子などの香辛料の原料に油脂を添加して加熱処理すると、香辛料に香ばしいロースト臭が付くと共に、油脂により味が良好になるという効果が得られる。しかしながら、香辛料に油脂を添加したものは、粒度の揃った適度な大きさに効率よく粉砕することが難しいという問題があった。また、粉砕を細かくしすぎると、風味が飛散して、香辛料特有の風味が乏しくなるという問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、良好な風味を有する香辛料を、効率よく製造できるようにした香辛料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の香辛料の製造方法は、鷹の爪と、山椒の実とを、それぞれまるごと含む原料に、食用油を添加して、焦げ付かないように炒り、チョッパーにかけて細断することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、鷹の爪と、山椒の実とを、粉砕することなく、それぞれまるごと含む原料を用いることにより、加熱処理中に風味が飛散することを防止できる。また、食用油を添加して、焦げ付かないように炒ることにより、ロースト臭を付与して香りを高めると共に、油脂により味を良好にすることができる。更に、チョッパーにかけて細断することにより、油脂が添加された香辛料であっても、効率よく、かつ粒度の揃った適度な大きさに細断することができる。その結果、香辛料本来の辛味や香りが良好に保持され、味に深み、こくみが付与された香辛料を、生産性よく製造することができる。
【0009】
本発明においては、前記炒り工程を、鷹の爪の水分が飛んでパリパリした状態になるまで行うことが好ましい。これによれば、香ばしいロースト臭を付与できると共に、水分を低減して保存性の良好な香辛料を提供できる。
【0010】
また、前記炒り工程における加熱は、前記食用油の温度が130〜150℃で、65〜85分間行うことが好ましい。これによれば、原料の焦げ付きを防止しつつ水分を飛ばして、良好な風味を有する香辛料を得ることができる。
【0011】
また、前記チョッパーのプレートの孔径が7〜11mmのものを用いることが好ましい。これによれば、適度な大きさに細断された香辛料が得られ、風味の飛散を防止できると共に、使いやすい香辛料が得られる。
【0012】
更に、前記チョッパーにかけて細断した後、ガスバリア性のある容器に充填し、真空脱気又は窒素置換して密封包装することが好ましい。これによれば、油脂の酸化を防止して、長期保存に適した香辛料を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鷹の爪と、山椒の実とを、粉砕することなく、それぞれまるごと含む原料を用いることにより、加熱処理中に風味が飛散することを防止でき、また、食用油を添加して、焦げ付かないように炒ることにより、ロースト臭を付与して香りを高めると共に、油脂により味を良好にすることができ、更に、チョッパーにかけて細断することにより、油脂が添加された香辛料であっても、効率よく、かつ粒度の揃った適度な大きさに細断することができる。その結果、香辛料本来の辛味や香りが良好に保持され、味に深み、こくみが付与された香辛料を、生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法により得られた香辛料の粒状状態を示す拡大写真である。
【図2】本発明の製造方法により得られた香辛料を真空パックした製品を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、香辛料の原料としては、鷹の爪と、山椒の実とを、粉砕することなく、それぞれまるごと(ホールで)含むものが用いられる。
【0016】
ここで、鷹の爪は、トウガラシ(Capsium annuum)の一品種であり、実は小さく、先がとがってやや曲がった紡錘形をなし、長さはおよそ3センチメートルである。この形が鷹の鉤爪を連想させることからこの名が付されている。熟すと鮮やかな赤色になる。本発明では、鷹の爪を、細断や破砕しない、まるごと含むものを用いる。
【0017】
また、山椒は、ミカン科サンショウ属の落葉低木であり、その実の皮の乾燥粉末(粉山椒)は、香味料としてうなぎの蒲焼の臭味消し、味噌汁の香付け、七味唐辛子の材料として用いられている。本発明では、山椒の実をまるごと含むものを用いる。特に、青山椒と呼ばれるサンショウの若い実が好ましく用いられる。更に、四川料理等に使用されている花椒(かしょう、ホアジャオ)と呼ばれるカホクザンショウ(Zanthoxylum bungeanum、英名 Szechuan pepper)の果実が好ましく用いられる。
【0018】
そして、鷹の爪と、山椒の実とを、粉砕することなく、それぞれまるごと含む原料を用いることにより、加熱処理中に風味が飛散することを防止できる。
【0019】
本発明の香辛料の原料としては、上記の他に、一般的に香辛料植物として使用されている各種の原料を併用することができる。例えば、七味唐辛子に用いられる芥子(けし、ケシの実)、陳皮(ちんぴ、ミカンの皮)、胡麻(ごま)、麻の実(おのみ、あさのみ)、紫蘇(しそ)、海苔(のり)、青海苔(あおのり)、生姜(しょうが)、菜種(なたね)などを併用してもよい。また、セージ、タイム、マジョラム、オレガノ、バジル、ミント、シソ、バルム、セイボリー、ローズマリー、シソなどのシソ科植物、鷹の爪以外の唐辛子、パプリカなどのナス科植物、黒胡椒、白胡椒などのコショウ科植物、ベイリーフ、サッサフラス、シンナモン、ローリエ、カッシャなどのクスノキ科植物、スターアニスなどのモクレン科植物、ワサビ、西洋ワサビ、ミズガラシ、マスタードなどのアブラナ科植物、トンカ豆、フェネグリーフなどのマメ科植物、陳皮、花椒、山椒、レモンなどのミカン科植物、オールスパイス、クローブなどのフトモモ科植物、セリ、アンゲリカ、チャービル、パセリ、セロリ、アニス、フェンネル、ボウフウ、コリアンダーシード、クミン、ディル、キャラウェー、ミツバなどのセリ科植物、ガーリック、ラッキョー、オニオン、ネギ、ワケギなどのユリ科植物、サフランなどのアヤメ科植物、カランガ、カルダモン、ジンジャー、ガシュツ、ターメリックなどのショウガ科植物、ポピーなどのケシ科植物、クチナシなどのアカネ科植物、バニラなどのラン科植物、アーモンドなどのバラ科植物、ジュニバーなどのヒノキ科植物、ウィンターグリーンなどのツツジ科植物、ゴマ,セザムなどのゴマ科植物、ナツメグ、メースなどのニクズク科植物、タラゴンなどのキク科植物などを用いてもよい。
【0020】
本発明で用いる香辛料の原料において、鷹の爪と山椒の実との配合割合は、原料自体の質量割合で、鷹の爪100に対して、山椒の実15〜25とすることが好ましく、18〜22とすることがより好ましい。また、他の香辛料の原料は、同じく原料自体の質量割合で、鷹の爪100に対して、他の原料15〜25とすることが好ましい。
【0021】
本発明において、食用油としては、特に限定されないが、例えば大豆油、ナタネ油、ゴマ油、コーン油、綿実油などの植物性油脂が好ましく用いられる。食用油の添加量は、質量割合で、香辛料の原料全体100に対して、20〜30とすることが好ましく、23〜27とすることがより好ましい。
【0022】
上記香辛料の原料と、上記食用油とを、鍋、フライパン、大型加熱釜等に入れ、ガスコンロ、電磁誘導等の加熱手段により、加熱しながら攪拌し、焦げ付かないように炒る。この炒り工程は、食用油の温度が、好ましくは130〜150℃、より好ましくは130〜140℃となる加熱温度で、好ましくは65〜85分間、より好ましくは70〜80分間行う。こうして炒ることにより、鷹の爪の水分が飛んでパリパリした状態になる。鷹の爪の9割程度がパリパリの状態(簡単に割れる程度の状態)になったとき、加熱をやめて素早く取出し、自然放冷する。自然放冷中に、香辛料の原料中の水分が抜けて更に乾燥がなされる。なお、炒り工程が終了した後、炒られた香辛料を加熱源からからすばやく取り出さないと、予熱で唐辛子が変色しやすくなるので注意が必要である。こうして、食用油を添加して、焦げ付かないように炒ることにより、ロースト臭を付与して香りを高めると共に、油脂により味を良好にすることができる。
【0023】
こうして、食用油で炒った原料を、チョッパー(肉ひき機、ミンチマシーン)にかけて細断する。本発明においてチョッパーとは、一般に肉ひき機と呼ばれているもので、典型的には、ホッパが設けられたシリンダ内にスクリューロータを有し、シリンダの先端部に所定径の多数の孔が開いたプレートが配置され、このプレートと隣接して、プレートと摺り合うように回転するカッターが配置された構造をなしている。なお、プレートは、複数枚のものが所定間隔で配置されていてもよく、その場合には、各プレートの間にカッターがそれぞれ配置される。また、カッターは、プレートの内側に配置されてよく、外側に配置されてもよい。そして、ホッパからシリンダ内に原料を投入し、スクリューロータを回すと、原料が混練されつつプレート方向に移送され、プレートの孔から押出される。そして、プレートの外側に配置されたカッターが回転して、プレートの孔から押出された原料をカッティングし、所定粒度の細断物が形成される。
【0024】
本発明において、チョッパーのプレートの孔の大きさ(直径)は、3〜15mmが好ましく、5〜12mmがより好ましく、7〜11mmが最も好ましい。プレートの孔の大きさを3〜15mmに設定することにより、炒られた香辛料を細かすぎず、粗すぎず、適度な粒径に細断することができ、使いやすさを損なうことなく、香辛料の絡みや香りや味を良好に保持させることができる。プレートの孔径が小さいと、得られる香辛料の粒度が細かくなり、風味が飛散しやすくなる。また、プレートの孔径が大きいと、得られる香辛料の粒度が大きくなり、料理等に均一に添加しにくくなる。
【0025】
チョッパーにかけて細断することにより、油脂が添加された香辛料であっても、効率よく、かつ粒度の揃った適度な大きさに細断することができる。その結果、香辛料本来の辛味や香りが良好に保持され、味に深み、こくみが付与された香辛料を、生産性よく製造することができる。なお、香辛料をチョッパーに複数回通して細断してもよい。
【0026】
こうして得られた本発明の香辛料は、ガスバリア性のある容器に充填し、真空脱気又は窒素置換して密封包装することが好ましい。ガスバリア性のある容器としては、例えばナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂フィルムや、金属ラミネートフィルムなどからなる袋状容器や、瓶、缶などの容器が挙げられる。真空脱気又は窒素置換して密封包装することにより、油脂の酸化を防止すると共に、絡みや香りや味を長期に亘って良好に維持することができる。
【実施例】
【0027】
ハイブリッドIHケトル(300kg)(商品名「電磁スチームケトル KRS+M−32610DSL」、梶原工業株式会社製)に、大豆白絞油5kgと、鷹の爪(ホール)16.6kgとを投入し、油脂の温度が130℃程度になるようにIHにより加温して、10分間程度加熱攪拌した。次いで、中国四川省産の青山椒3.3kgを投入し、上記と同様な温度で、更に60分間程度加熱攪拌した。その結果、鷹の爪の9割程度がパリパリ(容易に割れる状態)の状態になった。次いで、炒られた香辛料をハイブリッドIHケトルからすばやく取出し、自然放冷した。
【0028】
次いで、炒られた香辛料を、プレートの孔径が9.6mmのチョッパー(ミンチマシーン)に投入し、チョッパーによる細断を行った。こうして得られた香辛料の粒状状態を示す写真を図1に示す。このように、香辛料が適度な粒度に均一に細断され、料理等に添加しやすい大きさとなっていた。
【0029】
更に、この香辛料をナイロンフィルムからなる包装袋に真空パックして、長期保存が可能な製品とした。この製品の写真を図2に示す。
【0030】
<試験例>
上記実施例で得た本発明による香辛料と、市販の下記2つの香辛料(比較例1,2)とを用いて、チキンスープ及び焼鳥(もも肉)にそれぞれ添加し、香りと味について、男性2名、女性3名の合計5名のパネラーによる官能評価を行った。官能評価は、5…非常によい、4…やや良い、3…普通、2…やや劣る、1…良くない、という基準で行い、各パネラーの平均点で評価した。
【0031】
比較例1…四川省産の唐辛子を原料として作られた市販の一味唐辛子。
【0032】
比較例2…醤油、味噌、食用ナタネ油、唐辛子、山椒、ごま、胡椒、八角、砂糖を含有する市販の香辣醤。
【0033】
チキンスープに添加したときの香りの試験結果を下記表1に、味の試験結果を下記表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
焼鳥(もも肉)に添加したときの香りの試験結果を下記表3に、味の試験結果を下記表4に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
上記試験結果に示されるように、実施例の香辛料は、比較例1,2の市販の香辛料に比べて、非常に香りが高く、風味が良好であることがわかる。
【0040】
すなわち、本発明で得られた香辛料は、料理の持ち味を生かしながら、辛味と香りをつけ、料理の味に深み・こくみを付与できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鷹の爪と、山椒の実とを、それぞれまるごと含む原料に、食用油を添加して、焦げ付かないように炒り、チョッパーにかけて細断することを特徴とする香辛料の製造方法。
【請求項2】
前記炒り工程を、鷹の爪の水分が飛んでパリパリした状態になるまで行う請求項1記載の香辛料の製造方法。
【請求項3】
前記炒り工程を、前記食用油の温度が130〜150℃で、65〜85分間行う請求項1又は2記載の香辛料の製造方法。
【請求項4】
前記チョッパーとして、プレートの孔径が3〜15mmのものを用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の香辛料の製造方法。
【請求項5】
前記チョッパーにかけて細断した後、ガスバリア性のある容器に充填し、真空脱気又は窒素置換して密封包装する請求項1〜4のいずれか1項に記載の香辛料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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