説明

駆動システム

【課題】クランク軸および入力軸に生じる捩れ量を安定させることができ、品質を高めることができる駆動システムを提供することを課題とする。
【解決手段】複数のシリンダ11およびクランク軸12が設けられたエンジン10と、入力軸21の回転力を伝達する変速装置20とを備えた駆動システム1であって、変速装置20は、偏心部21dが設けられた入力軸21と、出力軸22と、出力軸22に取り付けられたワンウェイクラッチ23と、偏心部21dおよびワンウェイクラッチ23に連結された揺動部材24とを備え、揺動部材24の先端部が出力軸21回りの正逆方向に往復動する。また、接続部30側で燃焼行程が行われているときに、接続部30側の反対側のワンウェイクラッチ23がエンゲージ状態となり、接続部30側で燃焼行程が行われているときに、接続部30側のワンウェイクラッチ23がエンゲージ状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、エンジンのクランク軸の回転力を出力軸に伝達する変速装置と、を備えた駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランク軸の回転力を出力軸に伝達する変速装置としては、クランク軸に接続された入力軸と、出力軸に外嵌されたワンウェイクラッチと、基端部が入力軸の偏心部に外嵌され、先端部がワンウェイクラッチに連結された揺動部材と、を備えているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような変速装置では、入力軸の回転に伴って、揺動部材の基端部が入力軸の中心軸線回りに回転することで、揺動部材が揺動して、揺動部材の先端部が出力軸回りの正方向および逆方向に往復動する。そして、ワンウェイクラッチが出力軸にエンゲージ状態となることで、クランク軸の回転力が出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の変速装置では、燃焼行程にあるピストンと、出力軸に回転力を伝達している揺動部材との間で、クランク軸および入力軸に捩れが生じる。クランク軸および入力軸に生じる捩れ量は、燃焼行程にあるピストンと、回転力の伝達状態にある揺動部材との間の距離に応じて変化する。
【0006】
そして、複数のシリンダが設けられたエンジンと、複数の揺動部材が設けられた変速装置とが接続された駆動システムにおいて、燃焼行程にあるピストンと、回転力を伝達している揺動部材との距離が順次に変化すると、クランク軸および入力軸に生じる捩れ量が安定しないため、出力軸のトルクや回転数が変動するとともに、異音が発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、前記した問題を解決し、クランク軸および入力軸に生じる捩れ量を安定させることができ、品質を高めることができる駆動システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、複数のシリンダおよびクランク軸が設けられたエンジンと、入力軸の回転力を出力軸に伝達する変速装置と、を備え、前記クランク軸と前記入力軸とが接続部で接続されている駆動システムである。前記変速装置は、複数の偏心部が設けられた前記入力軸と、前記出力軸と、前記出力軸に取り付けられ、前記入力軸からの回転力を前記出力軸に伝達する複数のワンウェイクラッチと、基端部が前記偏心部に対して偏心して連結され、先端部が前記ワンウェイクラッチに連結された複数の揺動部材と、前記入力軸と前記揺動部材の基端部との偏心量を変化させる回転半径可変機構と、を備えている。そして、前記入力軸の回転に伴って、前記揺動部材の基端部が前記入力軸の中心軸線回りに回転することで、前記揺動部材が揺動して、前記揺動部材の先端部が前記出力軸回りの正方向および逆方向に往復動するように構成されている。さらに、前記各偏心部は、端から順に前記各ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となるように、前記入力軸の中心軸線回りにずらして配置されており、前記接続部側に区分された前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側の反対側に区分された前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となり、前記接続部側の反対側に区分された前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側に区分された前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となるように設定されている。
【0009】
この構成では、クランク軸と入力軸との接続部に近いピストンが燃焼行程にあるときには、接続部から遠いワンウェイクラッチが出力軸にエンゲージ状態となる。また、接続部から遠いピストンが燃焼行程にあるときには、接続部に近いワンウェイクラッチが出力軸にエンゲージ状態となる。このように、燃焼行程にあるピストンと、回転力を伝達している揺動部材との距離が大きく変化しないように、各ピストンの行程と、各ワンウェイクラッチが出力軸にエンゲージ状態となるタイミングとが対応している。
したがって、燃焼行程にあるピストンと、回転力を伝達している揺動部材との距離のばらつきを低減することができ、クランク軸および入力軸に生じる捩れ量を安定させることができる。
【0010】
なお、本発明では、複数のシリンダを接続部側(接続部に近い側)と接続部側の反対側(接続部から遠い側)とに区分するとともに、複数のワンウェイクラッチを接続部側(接続部に近い側)と接続部側の反対側(接続部から遠い側)とに区分している。各区分に属するシリンダおよびワンウェイクラッチの数は限定されるものではなく、例えば、四つのシリンダが設けられている場合には、接続部側に二つのシリンダが区分され、接続部側の反対側に二つのシリンダが区分される。また、シリンダまたはワンウェイクラッチの数が奇数である場合などは、各区分に属するシリンダまたはワンウェイクラッチの数が異なっていてもよい。
【0011】
また、接続部側に複数のシリンダまたはワンウェイクラッチが区分され、接続部側の反対側に複数のシリンダまたはワンウェイクラッチが区分されている場合には、前記変速装置は、前記接続部側に区分された少なくとも一つの前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側の反対側に区分された少なくとも一つの前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となり、前記接続部側の反対側に区分された少なくとも一つの前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側に区分された少なくとも一つの前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となるように設定されている。
このように、各区分に属するシリンダの全てが同時に燃焼行程である必要はなく、各区分に属するシリンダのうち、少なくとも一つのシリンダが燃焼行程であればよい。また、各区分に属するワンウェイクラッチの全てが同時に出力軸にエンゲージ状態である必要はなく、各区分に属するワンウェイクラッチのうち、少なくとも一つのワンウェイクラッチが出力軸にエンゲージ状態であればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の駆動システムでは、クランク軸および入力軸に生じる捩れ量を安定させることができるため、出力軸のトルクや回転数を安定させるとともに、異音の発生を防ぐことができ、品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の駆動システムを示した構成図である。
【図2】本実施形態の変速装置を示した断面図である。
【図3】本実施形態の揺動部材およびワンウェイクラッチを示した側面図である。
【図4】本実施形態の入力軸を軸方向から見た図である。
【図5】(a)〜(d)は本実施形態の揺動部材の揺動運動を示した側面図である。
【図6】入力軸の回転速度と外リングの回転速度との関係を示したグラフである。
【図7】(a)〜(c)は本実施形態の変速装置における変速比の変更を示した側面図である。
【図8】本実施形態の駆動システムにおけるシリンダの行程と外リングの回転方向との関係を示したグラフである。
【図9】他の実施形態の駆動システムを示した図で、二つのシリンダおよび揺動部材が設けられた駆動システムの構成図である。
【図10】他の実施形態の駆動システムを示した図で、二つのシリンダおよび六つの揺動部材が設けられた駆動システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の駆動システムは、ガソリンエンジンと電動モータとを駆動源とするハイブリッド車両(移動体)に搭載されるものである。なお、車両の種類は限定されるものではなく、ガソリンエンジンのみを駆動源とする車両でもよい。また、自動四輪車に限定されるものではなく、自動二輪車、自動三輪車でもよい。
【0015】
駆動システム1は、図1に示すように、四つのシリンダ11およびクランク軸12が設けられたエンジン10と、入力軸21の回転力を出力軸22に伝達する変速装置20と、を備えている。クランク軸12と入力軸21とは接続部30で接続されている。
接続部30は、クランク軸12と入力軸21との境界部位(連結部位)であり、本実施形態ではシリンダブロック14とミッションケース26との間に配置されている。
【0016】
エンジン10は、シリンダ11内でガソリンと空気の混合ガスを燃焼させたときの膨張力によって、ピストン13をシリンダ11内で往復動させ、ピストン13の往復運動をクランク軸12の回転運動に変換する直列四気筒型のレシプロエンジンである。
エンジン10では、混合ガスをシリンダ11内に吸気する吸気行程、ピストン13の上昇により混合ガスをシリンダ11内で圧縮する圧縮行程、プラグ(図示せず)に通電して混合ガスを燃焼させる燃焼行程、シリンダ11内の燃焼ガスを排気する排気行程、が各シリンダ11内で繰り返される。エンジン10においてプラグの通電や混合ガスの供給などの各種制御は、車両に搭載された図示しないECU(Electronic Control Unit)によって制御されている。
【0017】
変速装置20は、入力軸21と、出力軸22と、出力軸22に外嵌された六つのワンウェイクラッチ23と、入力軸21に外嵌されるとともに、ワンウェイクラッチ23に連結された六つの揺動部材24と、入力軸21と揺動部材24との偏心量を変化させる回転半径可変機構25(図2参照)と、を備えている。
【0018】
変速装置20は、入力軸21の回転力を出力軸22に伝達するとともに、出力軸22の回転速度を無段階に変速するものである。出力軸22は、ディファレンシャル装置40を介して二つの駆動輪50に連結されており、出力軸22に連動して駆動輪50が回転する。変速装置20では、出力軸22の回転が駆動輪50に伝達された場合に車両が前進するように構成されている。
【0019】
入力軸21は、図2に示すように、円形断面の部材であり、その一端部21aは、ミッションケース26の一方の側壁下部(図2の左側の側壁下部)にベアリング26aを介して回転自在に支持され、他端部21bは、ミッションケース26の他方の側壁下部(図2の右側の側壁下部)にベアリング26bを介して回転自在に支持されている。
入力軸21の他端部21bはクランク軸12の端部に接続されている。入力軸21とクランク軸12との接続部30の構成は限定されるものではなく、各種の接続構造によって入力軸21とクランク軸12とを連結することができる。入力軸21とクランク軸12は中心軸線O1上に配置されており、入力軸21とクランク軸12は中心軸線O1回りに一体に回転する。
【0020】
入力軸21の中心部には、後記するピニオン25aが回転自在に挿入される円形断面の中空部21cが軸方向に形成されている(図4参照)。
【0021】
入力軸21には、中心軸線O1に対して偏心した六つの偏心部21d(図4参照)が軸方向に間隔を空けて形成されている。
偏心部21dは、図3に示すように、入力軸21の中心軸線O1に対して偏心した偏心位置O5回りに円弧状の外周面が形成され、その外周面の両端部の間に中空部21cが開口した三日月状の側断面となっている。
各偏心部21dは、図4に示すように、入力軸21の中心軸線O1回りに等間隔に角度をずらして配置されている。本実施形態では、六つの偏心部21dが60度ごとに角度をずらして配置されている。
【0022】
出力軸22は、図2に示すように、入力軸21に平行して配置された円筒状の部材である。出力軸22の一端部22aは、ミッションケース26の一方の側壁上部(図2の左側の側壁上部)にベアリング26cを介して回転自在に支持され、他端部22bは、ミッションケース26の他方の側壁上部(図2の右側の側壁上部)にベアリング26dを介して回転自在に支持されている。
【0023】
ワンウェイクラッチ23は、出力軸22に外嵌された円筒状の部品であり(図3参照)、入力軸21に形成された六つの偏心部21dに対応させて、六つのワンウェイクラッチ23が出力軸22の軸方向に間隔を空けて配置されている。
【0024】
ワンウェイクラッチ23は、図3に示すように、出力軸22に外嵌された内リング23aと、内リング23aに外嵌された外リング23bと、内リング23aの外周面に形成された四つの溝部23c(切り欠き部)に収容されたローラ23dおよびコイルばね23eと、を備えている。
【0025】
内リング23aの内周面は、出力軸22の外周面に固定されている。また、内リング23aの外周面には、内リング23aの接線方向に底面が形成され、出力軸22回りの正方向に向けて開口した四つの溝部23cが等間隔(中心軸線O2回りに90度間隔)に形成されている。
外リング23bは、内リング23aに対して、出力軸22回りの正方向および逆方向に回転自在に外嵌されている。また、外リング23bの外周面には、後記する揺動部材24の先端部24bが連結される連結部23fが突設されている。
内リング23aの溝部23c内には、ローラ23dが移動自在に収容されており、ローラ23dはコイルばね23eによって正方向に向けて押し出されている。
【0026】
この構成では、外リング23bの正方向への回転速度が、内リング23aの正方向への回転速度よりも大きいと、外リング23bの内周面が各ローラ23dを介して内リング23aを正方向に押し出すことになる。これにより、外リング23bと内リング23aとは正方向に係合したエンゲージ状態(ロック状態)となり、外リング23bに連動して内リング23aが正方向に回転する(図6参照)。
【0027】
このように、ワンウェイクラッチ23では、外リング23bの正方向への回転速度が、内リング23a(出力軸22)の正方向への回転速度よりも大きい場合に、外リング23bと内リング23aとがエンゲージ状態となり、外リング23bの回転力が内リング23aを介して出力軸22に伝達される。
【0028】
なお、外リング23bの正方向への回転速度が、内リング23a(出力軸22)の正方向への回転速度よりも小さい場合には、各ローラ23dは外リング23bの内周面よりも先行して回転するため、外リング23bと内リング23aとは係合しない。
しかしながら、図6に示すように、外リング23bの回転速度が、内リング23a(出力軸22)の回転速度よりも大きくなり、外リング23bと内リング23aとが係合した後に、外リング23bの回転速度が、内リング23aの回転速度よりも小さくなった場合には、コイルばね23e(図3参照)の弾性力によって、ローラ23dが外リング23bと内リング23aとの間に押し込まれた状態が保たれるため、外リング23bの回転力が出力軸22に伝達されている状態が所定の間は継続される。
【0029】
また、図3に示すように、外リング23bに逆方向の回転力が付与され、内リング23aに対して外リング23bが逆方向に回転した場合には、外リング23bの内周面に押された各ローラ23dは、コイルばね23eの押圧力に抗して逆方向に移動するため、外リング23bと内リング23aとは係合することなく(非ロック状態)、外リング23bは内リング23aに対して逆方向に回転する。
【0030】
揺動部材24は、図3に示すように、円筒状の基端部24aは偏心部21dに外嵌され、円筒状の先端部24bはワンウェイクラッチ23の連結部23fに連結された板状の部材であり、基端部24aよりも先端部24bが小さく形成されている。
揺動部材24の基端部24aには、ベアリング24dおよびディスク24cが内挿されている。基端部24aは、ベアリング24dおよびディスク24cを介して、偏心部21dに対して回転自在に外嵌されている。
【0031】
ディスク24cは、偏心部21dに対して偏心して外嵌された円板状の部材である。ディスク24cの中心位置O3に対して偏心した位置に円形の偏心穴24eが開口しており、この偏心穴24eに偏心部21dが内挿されている。
偏心穴24eの内周面には、後記するピニオン25aの外歯面25cが噛み合う内歯面24fが形成されている。
【0032】
ディスク24cには、揺動部材24の基端部24aが外嵌されている。また、ディスク24cの外周面と、揺動部材24の基端部24aの内周面との間には、環状のベアリング24dが介設されている。これにより、揺動部材24の基端部24aは、偏心部21dに対して偏心して外嵌され、ディスク24cに対して回転自在となっている。
この構成では、図5に示すように、偏心部21d(入力軸21)が回転すると、揺動部材24の基端部24aの中心位置O3が、入力軸21の中心軸線O1回りに回転するようにして、揺動部材24の基端部24aが入力軸21の中心軸線O1回りに回転する。
【0033】
揺動部材24の先端部24bは、図3に示すように、入力軸21および出力軸22に平行な連結ピン24gによって、外リング23bの連結部23fに連結されている。これにより、揺動部材24は、連結部23fに対して連結ピン24gの中心軸線O4回りに揺動自在となっている。
【0034】
変速装置20では、図5に示すように、入力軸21の回転に伴って、揺動部材24の基端部24aが入力軸21の中心軸線O1回りに回転すると、揺動部材24が揺動して、揺動部材24の先端部24bは、内リング23aに対して、外リング23bとともに、出力軸22回りの正方向および逆方向に往復動する。
【0035】
そして、外リング23bの正方向への回転速度が、内リング23aの正方向への回転速度よりも大きい場合には、外リング23bが内リング23aにエンゲージ状態となり、内リング23aが回転することで、入力軸21の回転力が出力軸22に伝達される(図6参照)。
【0036】
本実施形態の変速装置20では、図4に示すように、六つの偏心部21dが入力軸21の中心軸線O1回りに60度ごとに角度をずらして配置されている。このようにすることで、図2に示す六つの揺動部材24の揺動の位相がずれており、六つのワンウェイクラッチ23の外リング23bの回転運動の位相がずれている。
そして、図6に示すように、六つの外リング23bの回転速度が端から順に内リング23aの回転速度よりも大きくなり、各ワンウェイクラッチ23が端から順に出力軸22にエンゲージ状態となる。これにより、出力軸22に連続して回転力が伝達される。
【0037】
回転半径可変機構25は、図7に示すように、ディスク24cと偏心部21dとを相対回転させることで、入力軸21と揺動部材24の基端部24aとの偏心量を変化させるものである。
回転半径可変機構25は、図3に示すように、入力軸21の中空部21cに挿通されたピニオン25aと、ピニオン25aを回転させるモータ25bと、を備えている。
【0038】
ピニオン25aは、外周面に外歯面25cが形成されたギアであり、入力軸21の中心軸線O1上に配置されている。ピニオン25aの外歯面25cの一部は中空部21cの開口部から外部に突出しており、ディスク24cの内歯面24fに噛み合っている。
図2に示すように、ピニオン25aの一端部(図2の左端部)は、ミッションケース26の一方の側壁(図2の右側の側壁)に形成された穴部を通じて外部に突出している。
【0039】
モータ25bは、ミッションケース26の一方の側壁の外面に取り付けられている。モータ25bは、ピニオン25aを回転させるものであり、モータ25bの回転軸(出力軸)は、減速機構25dを介してピニオン25aに連結されている。
モータ25bは、図示しないECUによって回転軸の回転が制御されている。ECUでは、クランク軸12の回転速度を検出するセンサから検出結果に基づいて、ピニオン25aが入力軸21(クランク軸12)に対して、同一または異なる回転速度で同じ方向に回転するように、モータ25bの回転速度を制御している。
【0040】
回転半径可変機構25では、図3に示すように、ピニオン25aの回転速度を、入力軸21の回転速度と同一に設定した場合には、偏心部21dとディスク24cとが同期して回転し、入力軸21の中心軸線O1と揺動部材24の基端部24aの中心位置O3との距離r1(偏心量)が一定に保たれる。
【0041】
入力軸21の中心軸線O1と、揺動部材24の基端部24aの中心位置O3との距離r1は、入力軸21を回転させたときに、中心軸線O1回りに回転する基端部24aの回転半径である。したがって、図7(a)に示すように、距離r1が最大の場合には、揺動部材24の基端部24aの回転半径が最大となるため、揺動部材24の揺動速度、すなわち、外リング23bの回転速度が最大となる。これにより、入力軸21の回転速度に対する出力軸22の回転速度の比(変速比)が最小となる。
【0042】
また、図7(a)の状態からピニオン25aの回転速度を、入力軸21の回転速度と異なるように設定し、偏心部21dとディスク24cとを相対回転させると、図7(b)に示すように、揺動部材24の基端部24aの回転半径(距離r1)が小さくなる。これにより、揺動部材24の揺動速度が小さくなり、外リング23bの回転速度が小さくなるため、入力軸21の回転速度に対する出力軸22の回転速度の比(変速比)が大きくなる。
この状態で、ピニオン25aの回転速度を、入力軸21(クランク軸12)の回転速度と同一に設定すると、距離r1を維持したまま偏心部21dとディスク24cとが同期して回転する。
【0043】
さらに、図7(b)の状態からピニオン25aの回転速度を、入力軸21の回転速度と異なるように設定し、偏心部21dとディスク24cとを相対回転させ、図7(c)に示すように、入力軸21の中心軸線O1と、揺動部材24の基端部24aの中心位置O3とを一致させた場合には、入力軸21を回転させたときの揺動部材24の基端部24aの回転半径が0(距離r1=0)となる。
この状態で、ピニオン25aの回転速度を、入力軸21(クランク軸12)の回転速度と同一に設定し、偏心部21dとディスク24cとを同期して回転させると、入力軸21(偏心部21d)およびディスク24cは揺動部材24の基端部24a内で空転し、揺動部材24は揺動しない。したがって、入力軸21の回転力は出力軸22に伝達されず、入力軸21の回転速度に対する出力軸22の回転速度の比(変速比)は無限大となる。
【0044】
次に、図1に示す本実施形態の駆動システム1において、燃焼行程にあるピストン13と、出力軸22にエンゲージ状態にあるワンウェイクラッチ23との関係について説明する。
本実施形態の駆動システム1では、A〜Dに配置された四つのシリンダ11を、接続部30側(接続部30に近い側)のA,Bに配置された二つのシリンダ11と、接続部30側の反対側(接続部30から遠い側)のC,Dに配置された二つのシリンダ11とに区分している。
また、1〜6に配置された六つのワンウェイクラッチ23を、接続部30側(接続部30に近い側)の4〜6に配置された三つのワンウェイクラッチ23と、接続部30側の反対側(接続部30から遠い側)の1〜3に配置された三つのワンウェイクラッチ23とに区分している。
【0045】
駆動システム1では、図1および図8に示すように、接続部30側に区分されたAまたはBのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側の反対側に区分された1〜3の各ワンウェイクラッチ23が1から3の順に出力軸22にエンゲージ状態となり、接続部30側の反対側に区分されたCまたはDのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側に区分された4〜6の各ワンウェイクラッチ23が4から5の順に出力軸22にエンゲージ状態となるように設定されている。
本実施形態の駆動システム1では、前記したように各ワンウェイクラッチ23が端から順に出力軸22にエンゲージ状態となるように、各偏心部21dの径方向外側への向き(各偏心部21dの円周方向の配置)を調整して、入力軸21がミッションケース26に組み込まれている。
【0046】
この構成では、接続部30側に区分されたAまたはBのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側の反対側に区分された1〜3のワンウェイクラッチ23の少なくとも一つが、出力軸22にエンゲージ状態となり、出力軸22に回転力が伝達される。また、接続部30側の反対側に区分されたCまたはDのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側に区分された4〜6のワンウェイクラッチ23の少なくとも一つが、出力軸22にエンゲージ状態となり、出力軸22に回転力が伝達される。
【0047】
以上のような駆動システム1では、図1に示すように、接続部30に近いピストン13が燃焼行程にあるときには、接続部30から遠いワンウェイクラッチ23が出力軸22にエンゲージ状態となる。また、接続部30から遠いピストン13が燃焼行程にあるときには、接続部30に近いワンウェイクラッチ23が出力軸22にエンゲージ状態となる。
【0048】
このように、駆動システム1では、燃焼行程にあるピストン13と、回転力の伝達状態にある揺動部材24との距離が大きく変化しないように、各ピストン13の行程と、各ワンウェイクラッチ23が出力軸22にエンゲージ状態となるタイミングとが対応している(図8参照)。
したがって、燃焼行程にあるピストン13と、回転力を伝達状態の揺動部材24との距離のばらつきを低減することができ、クランク軸12および入力軸21に生じる捩れ量を安定させることができるため、出力軸22のトルクや回転数を安定させるとともに、異音の発生を防ぐことができ、品質を高めることができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
本実施形態の駆動システム1では、図1に示すように、エンジン10に四つのシリンダ11が設けられ、変速装置20に六つのワンウェイクラッチ23が設けられているが、シリンダ11およびワンウェイクラッチ23の数は限定されるものではない。
【0050】
例えば、図9に示す駆動システム1Aでは、エンジン10に二つのシリンダ11が設けられ、変速装置20に二つのワンウェイクラッチ23が設けられている。
この構成では、接続部30側に区分されたAのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側の反対側に区分された1のワンウェイクラッチ23が出力軸22にエンゲージ状態となり、接続部30側の反対側に区分されたBのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側に区分された2のワンウェイクラッチ23が出力軸22にエンゲージ状態となるように設定されている。
【0051】
また、図10に示す駆動システム1Bでは、エンジン10に二つのシリンダ11が設けられ、変速装置20に六つのワンウェイクラッチ23が設けられている。
この構成では、接続部30側に区分されたAのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側の反対側に区分された1〜3のワンウェイクラッチ23の少なくとも一つが、出力軸22にエンゲージ状態となり、接続部30側の反対側に区分されたBのシリンダ11で燃焼行程が行われているときに、接続部30側に区分された4〜5のワンウェイクラッチ23の少なくとも一つが、出力軸22にエンゲージ状態となるように設定されている。
【0052】
また、シリンダ11または揺動部材24の数が奇数である場合などは、各区分に属するシリンダ11またはワンウェイクラッチ23の数が異なっていてもよい。
【0053】
また、本実施形態のエンジン10は、図1に示すように、四つのシリンダ11が直列に配置されているが、エンジンは直列型に限定されるものではない。V型や水平対向型など、複数のシリンダ11がクランク軸12の軸方向に配置されているのであれば、エンジン10の構成は限定されるものではない。
【0054】
また、本実施形態の回転半径可変機構25は、図7に示すように、偏心部21dとディスク24cとを相対回転させることで、入力軸21の中心軸線O1と揺動部材24の基端部24aの中心位置O3との距離r1(偏心量)を変化させているが、その構成は限定されるものではない。
例えば、偏心部をディスクに対して入力軸の径方向にスライド自在に設け、アクチュエータによって、偏心部を入力軸の径方向に移動させることで、入力軸の中心軸線と揺動部材の基端部の中心位置との距離(偏心量)を変化させることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1 駆動システム
10 エンジン
11 シリンダ
12 クランク軸
13 ピストン
14 シリンダブロック
20 変速装置
21 入力軸
21c 中空部
21d 偏心部
22 出力軸
23 ワンウェイクラッチ
23a 内リング
23b 外リング
23c 溝部
23d ローラ
23f 連結部
24 揺動部材
24c ディスク
24e 偏心穴
24f 内歯面
25 回転半径可変機構
25a ピニオン
25b モータ
25c 外歯面
26 ミッションケース
30 接続部
40 ディファレンシャル装置
50 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダおよびクランク軸が設けられたエンジンと、
入力軸の回転力を出力軸に伝達する変速装置と、を備え、
前記クランク軸と前記入力軸とが接続部で接続されている駆動システムであって、
前記変速装置は、
複数の偏心部が設けられた前記入力軸と、
前記出力軸と、
前記出力軸に取り付けられ、前記入力軸からの回転力を前記出力軸に伝達する複数のワンウェイクラッチと、
基端部が前記偏心部に対して偏心して連結され、先端部が前記ワンウェイクラッチに連結された複数の揺動部材と、
前記入力軸と前記揺動部材の基端部との偏心量を変化させる回転半径可変機構と、を備え、
前記入力軸の回転に伴って、前記揺動部材の基端部が前記入力軸の中心軸線回りに回転することで、前記揺動部材が揺動して、前記揺動部材の先端部が前記出力軸回りの正方向および逆方向に往復動するように構成され、
前記各偏心部は、端から順に前記各ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となるように、前記入力軸の中心軸線回りにずらして配置されており、
前記接続部側に区分された前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側の反対側に区分された前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となり、
前記接続部側の反対側に区分された前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側に区分された前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となるように設定されていることを特徴とする駆動システム。
【請求項2】
前記変速装置は、
前記接続部側に区分された少なくとも一つの前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側の反対側に区分された少なくとも一つの前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となり、
前記接続部側の反対側に区分された少なくとも一つの前記シリンダで燃焼行程が行われているときに、前記接続部側に区分された少なくとも一つの前記ワンウェイクラッチが前記出力軸にエンゲージ状態となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−60968(P2013−60968A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198056(P2011−198056)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】