説明

駆動制御装置

【課題】駆動制御装置において、慣性走行中により適切に減速することを可能とする。
【解決手段】駆動制御装置(100)は、車両(1)の動力源(10)で発生した回転動力を車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、回転動力を駆動輪に伝達せず車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方からいずれか他方へ切り替え可能な切り替え手段(23等)と、駆動輪の駆動軸の回転速度と動力源の回転速度との比である変速比を変更可能な変速手段(20)と、非伝達状態において駆動軸の回転速度を低下させる場合、切り替え手段によって非伝達状態から伝達状態へ切り替えさせた後、変速比を変更するように変速手段を制御する制御手段(43)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両の駆動制御装置に関し、特に、車両が慣性走行している際の駆動制御を行う駆動制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動制御装置として、例えば特許文献1等には、慣性走行の最中に急激な減速操作が行われる場合、慣性走行を中止してエンジンブレーキを掛ける装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−268120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1等によれば、エンジンブレーキを掛けるだけでは、慣性走行を中止しクラッチを係合した場合、減速の際の加速度が大きくなってしまい、ひいては、車両の運転者は、エンジンブレーキに伴う走行ショックに起因した運転上の違和感を大きく体感していまい、ドライバビリティが低下してしまうという技術的な問題点が生じる。
【0005】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、慣性走行中により適切に減速することが可能な駆動制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両の駆動制御装置は、車両の動力源で発生した回転動力を前記車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、前記回転動力を前記駆動輪に伝達せず前記車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方からいずれか他方へ切り替え可能な切り替え手段と、前記駆動輪の駆動軸の回転速度と前記動力源の回転速度との比である変速比を変更可能な変速手段と、前記非伝達状態において前記駆動軸の回転速度を低下させる場合、前記切り替え手段によって前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えさせた後、前記変速比を変更するように変速手段を制御する制御手段とを備える。
【0007】
本発明に係る車両の駆動制御装置によれば、例えばクラッチ等を備えて構成可能な切り替え手段によって、車両の動力源で発生した回転動力を車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、回転動力を駆動輪に伝達せず車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方からいずれか他方へ切り替えられる。
【0008】
本発明に係る伝達状態とは、典型的には、車両の動力源としてのエンジンで発生した回転動力が、例えばクラッチが係合されることにより、車両の駆動輪に伝達している状態を意味する。本発明に係る非伝達状態とは、典型的には、エンジンで発生した回転動力が、例えばクラッチの係合が解放されることにより、車両の駆動輪に伝達されず、車両が慣性走行している状態を意味する。
【0009】
例えば自動変速機等を備えて構成可能な変速手段によって、駆動輪の駆動軸の回転速度と動力源の回転速度との比である変速比が変更される。
【0010】
特に、本発明によれば、非伝達状態において駆動軸の回転速度を低下させる場合、例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成可能な制御手段の制御下で、切り替え手段が非伝達状態から伝達状態へ切り替えた後、変速手段によって、変速比が変更される。
【0011】
これにより、非伝達状態の下で車両が慣性走行している最中に車両が減速する際の加速度(以下、適宜「減速加速度」と称す)を小さくさせつつ、車両の走行速度を減速させることが可能である。尚、この減速加速度は、車両が加速する際の加速度を正とした場合、負の値で示される。これにより、車両の運転者は、車両の慣性走行の最中に減速する際に、変速比の変更に伴う走行ショックに起因した運転上の違和感を体感する度合いを低減することが可能であり、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0012】
本発明に係る車両の駆動制御装置の一態様は、前記車両の走行状態が走行速度の低下が必要な減速必要状態であるか否かを判定する第1判定手段を更に備え、前記制御手段は、前記減速必要状態であると判定される場合、前記伝達状態を維持するように又は前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えるように前記切り替え手段を制御する。
【0013】
この態様によれば、例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成可能な第1判定手段によって、車両の走行状態が走行速度の低下が必要な減速必要状態であるか否かが判定される。ここで、減速必要状態であると判定される場合、制御手段の制御下で、切り替え手段によって、伝達状態が維持されるように又は非伝達状態から伝達状態へ切り替えられる。
【0014】
典型的には、非伝達状態の下で慣性走行をしている自車両と自車両の前を走行する車両との距離が小さくなった場合、或いは、道路の信号機の灯色の赤への変化に伴って車両が停止する場合、制御手段の制御下で、切り替え手段によって、伝達状態が維持される又は非伝達状態から伝達状態へ切り替えられる。
【0015】
これにより、減速必要状態であると判定される場合、伝達状態における、例えばエンジンブレーキや機械的な負荷等に起因した制動力によって、車両の走行速度を迅速に減速することが可能であり、慣性走行において、燃費の向上と安全性の向上との両立を実現可能である。
【0016】
本発明に係る車両の駆動制御装置の他の態様は、前記車両が、走行速度の低下が必要な所定道路を走行しているか否かを判定する第2判定手段を更に備え、前記制御手段は、前記車両が前記所定道路を走行していると判定される場合、前記伝達状態を維持するように又は前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えるように前記切り替え手段を制御する。
【0017】
この態様によれば、例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成可能な第2判定手段によって、車両が走行速度の低下が必要な所定道路を走行していると判定される。ここで、車両が所定道路を走行していると判定される場合、制御手段の制御下で、切り替え手段によって、伝達状態が維持される又は非伝達状態から伝達状態へ切り替えられる。
【0018】
これにより、車両が所定道路を走行していると判定される場合、伝達状態における、例えばエンジンブレーキや機械的な負荷等の制動力に起因して、車両の走行速度を迅速に減速することが可能であり、慣性走行において、燃費の向上と安全性の向上との両立を実現可能である。
【0019】
本発明に係る車両の駆動制御装置の他の態様は、前記車両が登坂道路を走行するか否かを判定する登坂判定手段を更に備え、前記制御手段は、前記登坂道路を走行すると判定される場合、前記伝達状態を維持するように又は前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えるように前記切り替え手段を制御する。
【0020】
この態様によれば、例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成可能な登坂判定手段によって、車両が登坂道路を走行するか否かが判定される。ここに、本発明に係る登坂道路とは、例えば登り坂等の登り勾配を有する道路を意味する。ここで、車両が登坂道路を走行すると判定される場合、制御手段の制御下で、切り替え手段によって、伝達状態が維持される又は非伝達状態から伝達状態へ切り替えられる。
【0021】
これにより、車両が登坂道路を走行すると判定される場合、伝達状態において、変速手段による変速比の変更、即ち、変速を適切且つ迅速に実行することが可能であり、登坂道路でのビジーシフトの発生を効果的に低減させることが可能である。ここに、本発明に係るビジーシフトとは、車両の運転者によるアクセルの踏み込みや踏み戻しに起因して、変速手段によるダウンシフト変速やアップシフト変速が繰り返し行われる変速の状態を意味する。これにより、慣性走行において、燃費の向上と登坂道路での適切且つ迅速な変速との両立を実現可能である。
【0022】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る駆動制御装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係る駆動制御装置における動作の流れを示したフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る駆動制御装置100の変速制御において用いられる変速マップの一例及び他の例を示すグラフ(図3(a)及び図3(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0025】
(実施形態)
(基本構成)
本発明に係る駆動制御装置の本実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
【0026】
先ず、本実施形態に係る駆動制御装置が搭載される車両の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る駆動制御装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。尚、図1では、説明の便宜上、本実施形態に直接関係のある部材のみ図示しており、他の部材については図示を省略している。
【0027】
図1において、車両1は、エンジン10、自動変速機20、エンジンECU(Electronic Control Unit)41、トランスミッションECU42、慣性走行制御用ECU43、バッテリーECU44、通信機45、前方検知装置46、ナビゲーション装置47を備えて構成されている。
【0028】
エンジン10は、該エンジン10の始動時に、該エンジン10をクランキングするためのスタータモータ11と、エンジン10のクランクシャフトの回転に連動して回転するオルタネータ12と、を有している。
【0029】
自動変速機20は、無段変速機21、前後進クラッチ22、エンジン切り離しクラッチ23、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ24、機械式オイルポンプ25(以降、適宜“メカポンプ”と称する)、電動式オイルポンプ26、オルタネータ27及び伝達軸28を有している。尚、この自動変速機20によって、本発明に係る変速手段の一例が構成されている。
【0030】
無段変速機21の入力軸は、伝達軸28を介して、前後進クラッチ22に連結されている。他方、無段変速機2の出力軸は、デファレンシャル31及びドライブシャフト32を介して駆動輪33a及び33bに連結されている。前後進クラッチ22は、その締結状態により、無段変速機21の入力軸の回転方向を制御する。
【0031】
エンジン切り離しクラッチ23は、図1に示すように、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間に配置され、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達を切断可能に構成されている。尚、このエンジン切り離しクラッチ23によって、本発明に係る切り替え手段の一例が構成されている。
【0032】
トルクコンバータ24は、ロックアップクラッチ、ポンプインペラ、タービンライナ及びステータを備えて構成されている。ロックアップクラッチは、トルクコンバータカバー(以降、適宜「トルコンカバー」と称す)及びロックアップピストンにより構成されている。
【0033】
トルクコンバータ24の入力軸は、トルコンカバーを介してポンプインペラに接続されている。他方、トルクコンバータ24の出力軸は、ロックアップピストン及びタービンライナに接続されている。ステータは、ワンウェイクラッチを有し、トルク増幅機能を有する。ロックアップクラッチの係合及び解放は、トルクコンバータ24に供給されるオイルの油圧により制御される。尚、トルクコンバータ24の出力軸の回転数は、タービン回転数と一致する。特に、本実施形態において、「ポンプインペラ」及び「トルコンカバー」を、それらの機能に着目して「入力側回転体」と総称する。加えて、本実施形態において、「ロックアップピストン」及び「タービンインペラ」を、それらの機能に着目して「出力側回転体」と総称する。
【0034】
特に、ロックアップクラッチの係合及び解放は、メカポンプ25又は電動式オイルポンプ26によってトルクコンバータ24に供給されるオイルの油圧(具体的には、解放側油室及び係合側油室の各々に供給されるオイルの油圧)により制御される。
【0035】
メカポンプ25は、トルクコンバータ24の入力側回転体の回転により油圧を発生させる。より具体的には、メカポンプ25は、連結部材を介して、トルクコンバータ24のポンプインペラに接続され、トロコイド型の外歯を有するインナロータと、該外歯と係合する内歯を有するアウタロータとを備えるトロコイド式のオイルポンプである。トルクコンバータ24のポンプインペラの回転に伴ってインナロータが回転駆動されると、内歯と外歯とが係合しているので、アウタロータも回転し、両ロータの回転に起因して油圧が発生される。
【0036】
電動式オイルポンプ26は、トランスミッションECU42から出力される信号に応じて、油圧を発生させる。オルタネータ27は、無段変速機21の入力軸の回転と連動して回転する。
【0037】
尚、自動変速機20は、無段変速機21に代えて、例えば、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)等を有していてもよい。
【0038】
エンジンECU41は、エンジン10の駆動状態を制御する。トランスミッションECU42は、自動変速機20を制御する。慣性走行制御用ECU43は、車両1の慣性走行を許可するか否か判定すると共に、エンジンECU41及びトランスミッションECU42に対して、車両1の慣性走行を許可するか否かを示す信号を送信する。ここに、本実施形態に係る慣性走行とは、車両1がエンジン10の駆動力とは独立して、車両1の重量と車両1が有する運動エネルギーに起因した慣性力によって走行する状態を意味する。典型的には、慣性走行とは、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断されている非伝達状態における車両1の走行状態を意味する。
【0039】
バッテリーECU44は、バッテリー(図示せず)の状態(例えば、充電率、温度等)を監視すると共に、監視結果を示す信号を慣性走行制御用ECU43に送信する。
【0040】
通信機45は、典型的には、自車両と、自車両を除く他の車両との間での通信を行うための通信機であり、車車間通信用のアンテナを介して他の車両と通信を行う。通信機45は、或いは、典型的には、路車間通信機であり、自車両が走行する道路に設置された路側インフラと通信を行うための通信機であり、路車間通信用のアンテナを介して路側インフラと通信を行う。より具体的には、通信機45は、路側インフラと通信を行う。通信機45は、交差点に設置された信号機の信号サイクル情報や、交差点付近に存在する他車両の存在状況を示す存在状況情報を、路側インフラ装置から受信する。尚、信号サイクル情報には、信号機の現在の灯色や、現在の灯色が変化するまでの時間(例えば、現在の灯色が青色である場合には、灯色が赤色或いは黄色になるまでの時間)などが含まれる。
【0041】
通信機45は、より典型的には、例えばGPS信号や地図情報や道路交通情報に関する各種の情報を受信すると共に、例えば自車両の位置情報等の各種の車両情報を情報管理サーバへ送信してよい。車両情報は、より典型的には、運転者の運転操作タイミング、運転操作量、運転操作の方向、車両の速度若しくは加減速度に関する定量的及び定性的なデータ群を意味してよい。
【0042】
より詳細には、通信機45は、GPS信号を受信するために、複数のGPS衛星から、測位用データを含む下り回線データを搬送する電波を受信する。測位用データは、緯度及び経度情報等から車両の絶対的な位置を検出するために用いられる。更に詳細には、通信機45は、例えば、FMチューナやビーコンレシーバ、携帯電話や専用の通信カードなどにより構成されてよく、通信用インタフェースを介して、VICS(Vehicle Information Communication System)センタ等の交通環境情報サーバから配信される渋滞や交通情報などの、所謂、道路交通情報や、その他の情報を、例えば電波等の通信網を介して受信してよい。更に詳細には、通信機45は、地図情報の全部又は地図情報のうち更新された一部に関する情報を受信してよい。
【0043】
尚、自車両と他の車両との距離を推定するための位置情報を受信する通信機45、及び受信された位置情報によって、自車両と他の車両との距離を推定する慣性走行制御用ECU43によって、本発明に係る第1判定手段の一例が構成されている。
【0044】
また、自車両の位置及び車両の走行速度の低下が必要な所定道路に関する位置情報を受信する通信機45、及び受信された位置情報によって、自車両と所定道路との位置を推定する慣性走行制御用ECU43は、本発明に係る第2判定手段の一例を構成している。尚、所定道路は、典型的には、下り坂道路、信号機を備えた交差点、横断歩道、急カーブの道路、又は踏切等の車両の走行速度の低下が必要な道路を意味する。
【0045】
また、自車両の位置と、登坂道路との位置情報を受信する通信機45、及び受信された位置情報によって、自車両と登坂道路との位置を推定する慣性走行制御用ECU43は、本発明に係る登坂判定手段の一例を構成している。
【0046】
前方検知装置46は、例えば車載用のカメラや車載用のレーダー等の、車両の前方に位置する他の車両や障害物を検知する装置である。尚、車両の前方に位置する他の車両や障害物を検知する前方検知装置46によって、本発明に係る第1判定手段の他の例が構成されている。
【0047】
ナビゲーション装置47は、典型的にはカーナビゲーション等の装置であり、受信されたGPS信号や記憶された地図情報に基づいて、自車両の位置を地図上で運転者に提示可能な装置である。尚、ナビゲーション装置47によって、本発明に係る第2判定手段の一例又は登坂判定手段の一例が構成されている。
【0048】
駆動制御装置100は、エンジン10、自動変速機20、エンジン切り離しクラッチ23、トランスミッションECU42、慣性走行制御用ECU43、通信機45、前方カメラレーダー46、及びナビゲーション装置47を備えて構成されている。
【0049】
トランスミッションECU42は、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジン切り離しクラッチ23によりエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断された状態で車両1が走行する慣性走行へ移行する際に、トルクコンバータ24のロックアップピストン及びトルコンカバー(即ち、ロックアップクラッチ)が係合された状態で、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達を切断するようにエンジン切り離しクラッチ23を制御する。尚、上述したトランスミッションECU42及び慣性走行制御用ECU43によって、本発明に係る制御手段の一例が構成されている。
【0050】
特に、本実施形態によれば、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断されている非伝達状態である慣性走行中において走行速度を低下させる場合、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジン切り離しクラッチ23は切断状態から係合状態へ切り替えられ、非伝達状態からエンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態へ切り替えられる。そして、非伝達状態から伝達状態へ切り替えられた後、無段変速機21によって、変速比が変更される。
【0051】
これにより、上述した非伝達状態の下で車両が慣性走行している最中に車両1が減速する際の加速度を小さくさせつつ、車両の走行速度を減速させることが可能である。これにより、車両の運転者は、車両の慣性走行の最中に減速する際に、変速比の変更に伴う走行ショックに起因した運転上の違和感を体感する度合いを低減することが可能であり、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0052】
(駆動制御装置の動作原理)
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る駆動制御装置100の動作原理について説明する。ここに、図2は、本実施形態に係る駆動制御装置100における動作の流れを示したフローチャートである。尚、図2に示された駆動制御装置100における動作は、一定の周期で又は不定周期で、或いは連続して実行される。
【0053】
図3は、本実施形態に係る駆動制御装置100の変速制御において用いられる変速マップの一例及び他の例を示すグラフ(図3(a)及び図3(b))である。尚、図3(a)及び図3(b)中の横軸は、車両1の走行速度を示し、縦軸は、自動変速機20のアクセル開度を示す。また、図3(a)及び図3(b)中の実線L12、L23、L34は、第1速から第2速への変速、第2速から第3速への変速、第3速から第4速への変速線を夫々示す。図3(a)及び図3(b)中の点線L43、L32、L21は、第4速から第3速への変速、第3速から第2速への変速、第2速から第1速への変速線を夫々示す。特に、図3(a)中の太い実線L23’は、コーストダウンシフトによる変速点制御における第2速から第3速への変速線を夫々示す。図3(a)中の太い点線のL32’は、コーストダウンシフトによる変速点制御における第3速から第2速への変速線を示す。
【0054】
(非伝達状態の慣性走行から伝達状態の走行への切り替え制御処理)
図2に示されるように、先ず、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行中の車両1の減速が、例えば数十μ秒〜数秒等の所定時間以内に必要であるか否かが判定される(ステップS101)。典型的には、慣性走行制御用ECU43の制御下で、例えば車載用のカメラや車載用のレーダー等の前方検知装置46が、他の車両や障害物を車両の前方の所定範囲において検知し、車両1の現在の走行速度では衝突する危険性が高まったか否かが判定される。或いは、典型的には、慣性走行制御用ECU43の制御下で、通信機45が受信した車両1の位置情報に基づいて、例えば、下り坂道路、信号機を備えた交差点、横断歩道、急カーブの道路、又は踏切等の車両の走行速度の低下が必要な所定道路を車両1が例えば数十μ秒〜数秒等の所定時間以内に走行するか否かが判定される。
【0055】
このステップS101の判定の結果、慣性走行中の車両1の減速が必要であると判定される(ステップS101:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンであるか否かが判定される(ステップS102)。即ち、慣性走行制御用ECU43の制御下で、例えば高速道路の走行から渋滞している国道の走行への変化等のように車両1の走行道路の状況が変わったことにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達が切断されている非伝達状態における慣性走行の状態から、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力が伝達されている伝達状態における通常の走行状態へ復帰させるか否かが判定される。
【0056】
上述したステップS102の判定の結果、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンであると判定されない場合、即ち、慣性走行許可フラグがオンでないオフであると判定される場合、言い換えると、非伝達状態における慣性走行の状態から、伝達状態における通常の走行状態へ復帰させるべきと判定される場合(ステップS102:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42からの信号に基づいて、エンジン切り離しクラッチ23の締結が完了したか否かが判定される(ステップS103)。ここで、エンジン切り離しクラッチ23の締結が完了した判定される場合(ステップS103:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42は、変速点制御による、アクセル開度を全閉にさせた状態でのダウンシフト、所謂、コーストダウンシフトが要求されたか否かを判定する(ステップ104)。ここに、本実施形態に係る変速点制御とは、現時点での車両1の走行速度及び現時点での自動変速機20のアクセル開度で決まる変速線と異なる変速線を用いて変速を行うことを意味する。尚、変速点制御によるコーストダウンシフトは、図3(a)の太線の点線L32’及び実線L23’に示されるように、変速点である点P1の位置を変化させることなく、変速線を変化させることによりダウンシフトを行うことを意味する。他方、図3(b)中の一点鎖線の矢印は、現時点での点P1から、現時点での車両1の走行速度と同じ走行速度及び現時点でのアクセル開度より大きなアクセル開度によって示される点P3へ変化させた、3速ギヤ段から2速ギヤ段へ変速する変速点制御、所謂、パワーオンダウンシフトを示す。尚、本実施形態に係る変速点制御によるダウンシフトは、3速ギヤ段から2速ギヤ段への変速に代えて、3速ギヤ段から1速ギヤ段へ変速する等の1つ以上のギヤ段を跨いでダウンシフトしてよい。
【0057】
上述したステップ104の判定の結果、ダウンシフト要求があると判定される場合(ステップS104:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42は、変速点制御によるアクセル全閉のダウンシフトを許可する(ステップS105)。
【0058】
他方、上述したステップS101の判定の結果、慣性走行している車両1において、減速が必要であると判定されない場合、言い換えると、慣性走行している車両1において、減速が必要ないと判定される場合(ステップS101:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42によって、車両1が、ビジーシフトの発生する登坂道路を、例えば数十μ秒〜数秒等の所定時間内に走行するか否かが判定される(ステップS107)。ここに、本実施形態に係るビジーシフトとは、車両の運転者によるアクセルの踏み込みや踏み戻しに起因して、無段変速機21によるダウンシフトやアップシフトが繰り返し行われる変速の状態を意味する。
【0059】
上述したステップS107の判定の結果、車両1がビジーシフトの発生する登坂道路を所定時間内に走行すると判定される場合(ステップS107:Yes)、上述したステップS102乃至上述したステップS201以降における各処理が実行され、慣性走行が禁止される。
【0060】
以上のように、慣性走行中の車両1において減速が必要である場合、エンジン切り離しクラッチ23の締結が完了した後で、アクセル全閉のダウンシフトを許可し実行する。これにより、上述した非伝達状態の下で車両が慣性走行している最中に車両1が減速する際の加速度を小さくさせつつ、車両の走行速度を減速させることが可能である。これにより、車両の運転者は、車両の慣性走行の最中に減速する際に、変速比の変更に伴う走行ショックに起因した運転上の違和感を体感する度合いを低減することが可能であり、ひいては、ドライバビリティを向上させることが可能である。
【0061】
仮に、慣性走行中の車両1において減速が必要である場合、上述した非伝達状態における慣性走行から伝達状態における通常走行へ切り替えるタイミングと、ダウンシフトするタイミングを考慮しない場合、ダウンシフトの後、非伝達状態から伝達状態へ切り替えられる可能性があり、減速加速度が大きくなってしまい、ひいては、車両の運転者は、ダウンシフトに伴う走行ショックに起因した運転上の違和感を大きく体感していまい、ドライバビリティが低下してしまうという技術的な問題点が生じる。
【0062】
(電動式オイルポンプの停止)
再び、図2に示されるように、上述したステップS105に続いて、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42は、前後進クラッチ22によりエンジン10を切り離す場合のみ、変速終了後、電動式オイルポンプ26を停止するように、停止指示を示す信号を出力してよい(ステップS106)。これにより、電動式オイルポンプ26の停止に制限を掛けることができるので、自動変速機20等へ供給された作動油の油圧が低下することを効果的に防止することができる。
【0063】
(エンジン切り離しクラッチの締結の実施)
再び、図2に示されるように、上述したステップS102の判定の結果、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンであると判定される場合(ステップS102:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオフにされる(ステップS201)。これにより、非伝達状態における慣性走行の状態から、伝達状態における通常の走行状態へ復帰させることができる。
【0064】
次に、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、アイドリングが実施中であるか否かが判定される(ステップS202)。ここで、アイドリングが実施中であると判定されない場合(ステップS202:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、エンジン10は停止中であるか否かが判定される(ステップS203)。ここで、エンジン10が停止中であると判定された場合(ステップS203:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、エンジン10が始動される(ステップS204)。
【0065】
続いて、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42によって、エンジン切り離しクラッチ23の締結が実施される(ステップS205)。典型的には、このエンジン切り離しクラッチ23の締結が実施される場合、エンジンの回転速度に応じたクラッチ係合圧の制御が実施されることが好ましい。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸とを適切且つ確実に伝達可能に係合することができる。
【0066】
以上のように、慣性走行中の車両1の減速が必要である場合、或いは、車両1がビジーシフトの発生する登坂道路を所定時間内に走行する場合、慣性走行許可フラグをオフにし、非伝達状態における慣性走行の状態から、伝達状態における通常の走行状態へ復帰させるためにエンジン切り離しクラッチ23の締結を、ダウンシフトの実行以前に実施する。
【0067】
(慣性走行における制御処理)
再び、上述した図2中のステップS107の判定の結果、車両1がビジーシフトの発生する登坂道路を所定時間内に走行すると判定されない場合(ステップS107:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、エンジンECU41によって、アイドリングが実施中であるか否かが判定される(ステップS301)。ここで、アイドリングが実施中であると判定される場合(ステップS301:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンにされる(ステップS302)。
【0068】
次に、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42によって、エンジン切り離しクラッチ23の解放が実施される(ステップS303)。これにより、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間で動力が伝達されない。
【0069】
典型的には、エンジン切り離しクラッチ23の解放が実施される際に、エンジンに燃料が供給されないフューエルカット状態である場合、エンジン10が停止してしまうので、電動式オイルポンプ26を始動することが好ましい。これにより、エンジンの停止に関わらず作動油を自動変速機20に供給することが可能である。
【0070】
他方、エンジン10に燃料が供給されないフューエルカット状態でない場合、エンジン切り離しクラッチ23の解放の後にエンジン10を停止してよい。典型的には、前後進クラッチ22によって、エンジン10と自動変速機20とを切り離す場合は、作動油の油圧が無くなってしまうので、電動式オイルポンプ26を起動することが好ましい。これにより、前後進クラッチ22による非伝達状態に関わらず作動油を自動変速機20に供給することが可能である。
【0071】
特に、本願発明者の研究によれば、自動変速機20を備える車両1では、エンジン10がアイドリングを実施している状態(即ち、車両1の運転者がアクセルを離したアクセルオフの状態)で車両1が慣性走行している場合、次の第1の制御処理及び第2の制御処理を行うことが好ましいことが判明している。即ち、この場合、第1の制御処理として、慣性走行の最中に、エンジン10側を車輪側から切り離すことによって機械的な負荷(即ち、フリクション)を低減する。このことに加えて、第2の制御処理として、車両1の運転者がアクセルを再度、踏み込んだアクセルオンの状態となった場合にエンジン10側と車輪側とを繋ぐことが好ましい。これにより、燃費の向上が図られることが判明している。
【0072】
(非伝達状態の慣性走行から伝達状態の走行への切り替え制御処理:続き)
再び、上述した図2中のステップS301の判定の結果、アイドリングが実施中であると判定されない場合(ステップS301:No)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンであるか否かが判定される(ステップS304)。ここで、慣性走行許可フラグがオンであると判定される場合(ステップS304:Yes)、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオフにされる(ステップS305)。
【0073】
続いて、上述したステップS203乃至ステップS205が実施される。
【0074】
他方、上述したステップS203の判定の結果、エンジン10が停止中であると判定されない場合、言い換えると、エンジン10が停止中でない、即ち駆動状態であると判定される場合、(ステップS203:No)、エンジン10を始動するステップS204は省略される。
【0075】
他方、上述したステップS304の判定の結果、慣性走行制御用ECU43の制御下で、慣性走行許可フラグがオンであると判定されない場合、即ち、慣性走行許可フラグがオンでない、即ち、オフであると判定される場合、典型的には、非伝達状態における慣性走行の状態から、伝達状態における通常の走行状態へ復帰させるべきと判定される場合(ステップS304:No)、上述したように、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42からの信号に基づいて、エンジン切り離しクラッチ23の締結が完了したか否かが判定される(ステップS103)。
【0076】
尚、上述した本実施形態に係る慣性走行中は、エンジン10が停止されてよい。他方、自動変速機20等への油圧の供給は、電動式オイルポンプ26よりもメカポンプ25のほうが効率がよい。しかしながら慣性走行中はエンジン10が停止しているので、メカポンプ25により自動変速機20等へ油圧を供給することができず、燃費が低下するおそれがある。そこで、本実施形態では、更に、慣性走行制御用ECU43の制御下で、トランスミッションECU42により、慣性走行へ移行する際に、出力側回転体が入力側回転体に係合された状態で、エンジン10とトルクコンバータ24の入力軸との間の動力の伝達を切断するようにエンジン切り離しクラッチ23が制御されてよい。
【0077】
これにより、車両1が慣性走行へ移行した場合、トルクコンバータ24のトルコンカバーが、駆動輪33a及び33bの回転に起因して回転駆動されるトルクコンバータ24のロックアップピストンに伴って回転することとなり、もって、メカポンプ25により油圧を発生させることができる。この結果、車両1が慣性走行中であっても、メカポンプ25により油圧を供給することができ、燃費効率を向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、エンジン切り離しクラッチ23によって、エンジン10の動力を駆動軸に伝達されなくさせたが、本発明はこの限りでなく、エンジン切り離しクラッチ23に代えて、前後進クラッチ22によって、エンジン10の動力を駆動軸に伝達させなくさせてよい。
【0079】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う駆動制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば自動車等の車両の駆動制御装置に利用可能であり、特に、車両が慣性走行している際の駆動制御を行う駆動制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…車両
10…エンジン
20…自動変速機
21…無段変速機
22…前後進クラッチ
23…エンジン切り離しクラッチ
24…ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ
25…メカポンプ
26…電動式オイルポンプ
41…エンジンECU
42…トランスミッションECU
43…慣性走行制御用ECU
44…バッテリーECU
45…通信機
46…前方カメラレーダー
47…ナビゲーション装置
100…駆動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源で発生した回転動力を前記車両の駆動輪に伝達する伝達状態、及び、前記回転動力を前記駆動輪に伝達せず前記車両に慣性走行させる非伝達状態のうちいずれか一方からいずれか他方へ切り替え可能な切り替え手段と、
前記駆動輪の駆動軸の回転速度と前記動力源の回転速度との比である変速比を変更可能な変速手段と、
前記非伝達状態において前記駆動軸の回転速度を低下させる場合、前記切り替え手段によって前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えさせた後、前記変速比を変更するように変速手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記車両の走行状態が走行速度の低下が必要な減速必要状態であるか否かを判定する第1判定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記減速必要状態であると判定される場合、前記伝達状態を維持するように又は前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えるように前記切り替え手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記車両が、走行速度の低下が必要な所定道路を走行しているか否かを判定する第2判定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記車両が前記所定道路を走行していると判定される場合、前記伝達状態を維持するように又は前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えるように前記切り替え手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項4】
前記車両が登坂道路を走行するか否かを判定する登坂判定手段を更に備え、
前記制御手段は、前記登坂道路を走行すると判定される場合、前記伝達状態を維持するように又は前記非伝達状態から前記伝達状態へ切り替えるように前記切り替え手段を制御することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−237004(P2011−237004A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110584(P2010−110584)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】