説明

駆動装置および自動車

【課題】昇圧コンバータとインバータとが接続された駆動電圧系の電圧変動が大きくなるのを抑制する。
【解決手段】インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータの回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)外のときには通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivに設定し(S130〜S150)、インバータの制御方式が正弦波制御方式でモータの回転数Nmが共振回転数領域内のときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定し(S130,S140,S160)、設定した昇圧ゲインKpv,Kivを用いて駆動電圧系電力ラインの電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ラインの電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置および自動車に関し、詳しくは、モータと、モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有しバッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧してインバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、交流モータと、交流モータを駆動するインバータと、直流電源と、リアクトルを有し直流電源との間で電圧変換動作を行なう昇降圧コンバータとを備え、システム電圧(インバータへの入力電圧)が電圧指令値に一致するよう昇降圧コンバータを制御するものにおいて、交流モータに要求される駆動力に応じて電圧指令値を生成し、交流モータのパワー変動周波数と直流電源や昇降圧コンバータを含む電源装置の共振周波数との関係とに基づいて、システム電圧が入力電圧制限値を超えないように、交流モータのパワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる補正を行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、こうした制御により、システム電圧が入力電圧制限値を超えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−268626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の駆動装置では、直流電源や昇降圧コンバータを含む電源装置に共振を生じさせる共振状態のときに、インバータの入力電圧が過電圧になるのを抑制することはできるものの、システム電圧の応答性によってはシステム電圧の変動がある程度大きくなってしまうことがある。
【0005】
本発明の駆動装置および自動車は、昇圧コンバータとインバータとが接続された駆動電圧系の電圧変動が大きくなるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置および自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の第1の駆動装置は、
モータと、前記モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、前記モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御すると共に前記駆動電圧系の目標電圧と該駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定して前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記インバータの制御方式が正弦波制御方式で前記モータの回転数が前記昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振回転数領域内のときには、前記インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときおよび前記モータの回転数が前記共振回転数領域外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定する手段である、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の第1の駆動装置では、インバータの制御方式が正弦波制御方式でモータの回転数が昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振回転数領域内のときには、インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときおよびモータの回転数が共振回転数領域外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて駆動電圧系の電圧指令を設定する。これにより、駆動電圧系の電圧変動が大きくなるのを抑制することができる。もとより、インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータの回転数が共振回転数領域外のときには、駆動電圧系の電圧の応答性(目標電圧の変化に対する応答性)を比較的高くすることができる。
【0009】
本発明の第2の駆動装置は、
モータと、前記モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、前記モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御すると共に前記駆動電圧系の目標電圧と該駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定して前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記駆動電圧系に許容される許容上限電圧が該許容上限電圧の標準値である標準許容上限電圧に対して制限されていて前記駆動電圧系の電圧が前記昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振電圧範囲内のときには、前記許容上限電圧が前記標準許容上限電圧に対して制限されていないときおよび前記駆動電圧系の電圧が前記共振電圧範囲外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定する手段である、
ことを要旨とする。
【0010】
この本発明の第2の駆動装置では、駆動電圧系に許容される許容上限電圧が許容上限電圧の標準値である標準許容上限電圧に対して制限されていて駆動電圧系の電圧が昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振電圧範囲内のときには、許容上限電圧が標準許容上限電圧に対して制限されていないときおよび駆動電圧系の電圧が共振電圧範囲外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて駆動電圧系の電圧指令を設定する。これにより、駆動電圧系の電圧変動が大きくなるのを抑制することができる。もとより、許容上限電圧が標準許容上限電圧に対して制限されていないときや、駆動電圧系の電圧が共振電圧領域外のときには、駆動電圧系の電圧の応答性(目標電圧の変化に対する応答性)を比較的高くすることができる。
【0011】
本発明の第1または第2の駆動装置において、前記制御手段は、前記駆動電圧系の電圧変動が許容範囲を超えると想定されるときには、前記駆動電圧系の電圧変動が前記許容範囲を超えると想定されないときに比して前記モータからの出力が制限されるよう前記インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、駆動電圧系の電圧変動が大きくなるのをより抑制することができる。
【0012】
本発明の自動車は、上述のいずれかの態様の駆動装置、即ち、基本的には、モータと、前記モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、前記モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御すると共に前記駆動電圧系の目標電圧と該駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定して前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、前記制御手段は、前記インバータの制御方式が正弦波制御方式で前記モータの回転数が前記昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振回転数領域内のときには、前記インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときおよび前記モータの回転数が前記共振回転数領域外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定する手段である、駆動装置、または、モータと、前記モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、前記モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御すると共に前記駆動電圧系の目標電圧と該駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定して前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、前記制御手段は、前記駆動電圧系に許容される許容上限電圧が該許容上限電圧の標準値である標準許容上限電圧に対して制限されていて前記駆動電圧系の電圧が前記昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振電圧範囲内のときには、前記許容上限電圧が前記標準許容上限電圧に対して制限されていないときおよび前記駆動電圧系の電圧が前記共振電圧範囲外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定する手段である、駆動装置を搭載し、前記モータからの動力を用いて走行することを要旨とする。
【0013】
この本発明の自動車では、上述のいずれかの態様の駆動装置を搭載するから、本発明の駆動装置が奏する効果、例えば、駆動電圧系の電圧変動が大きくなるのを抑制することができる効果などと同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータ34を制御する場合のモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとインバータ34の制御方式(正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式)とのおおよその関係の一例を示す説明図である。
【図4】第1実施例の電子制御ユニット50により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】第2実施例の電子制御ユニット50により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の最大パワーPmと昇圧コンバータ40の減衰率ζの逆数との関係の一例を示す説明図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の第1実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。第1実施例の電気自動車20は、図1に示すように、駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節すると共に駆動電圧系電力ライン42と電池電圧系電力ライン44との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。
【0017】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ34は、図2に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されている。
【0018】
昇圧コンバータ40は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトル41とからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン42の正極母線,駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線に接続されており、トランジスタT31,T32同士の接続点と電池電圧系電力ライン44の正極母線とにはリアクトル41が接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフすることにより、電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給したり、駆動電圧系電力ライン42の電力を降圧して電池電圧系電力ライン44に供給したりすることができる。電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。
【0019】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、モータ32の三相コイルのV相,W相に流れる相電流を検出する電流センサ33U,33Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ37aからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ37bからの充放電電流Ib,バッテリ36に取り付けられた温度センサ37cからの電池温度Tb,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VH,コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,昇圧コンバータ30のトランジスタT31,T32同士の接続点とリアクトル41との間に取り付けられた電流センサ41aからのリアクトル電流IL(電池電圧系電力ライン44側からトランジスタT31,T32同士の接続点側に流れるときを正とする),イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速V,大気圧センサ69からの大気圧Pout,外気温センサ70からの外気温Toutなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32のロータの電気角θeや回転角速度ωm,回転数Nmを演算したり、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ36から放電可能な電力量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0020】
こうして構成された第1実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセル開度Accと車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutをモータ32の回転数Nmで除してモータ32から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを設定し、要求トルクTr*をトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータ32から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。また、モータ32のトルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとに応じて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとに基づいて駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが電圧指令VH*となるよう昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御する。
【0021】
インバータ34は、第1実施例では、電子制御ユニット50により、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで制御するものとした。ここで、正弦波制御方式は、基本的には、モータ32の電圧指令と三角波(搬送波)電圧との比較によってトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節するパルス幅変調(PWM)制御方式のうち、三角波電圧の振幅以下の振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる擬似的三相交流電圧をモータ32に供給する制御方式である。また、過変調制御方式は、基本的には、パルス幅変調制御方式のうち、三角波電圧の振幅より大きな振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる過変調電圧方式をモータ32に供給する制御方式である。さらに、矩形波制御方式は、矩形波電圧をモータ32に供給する制御方式である。なお、正弦波制御方式では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに対する正弦波状の電圧指令の振幅の割合としての変調率(電圧利用率)Rmが値0〜値Rref1(約0.61)の範囲となり、過変調制御方式では、変調率Rmが値Rref1(約0.61)〜値Rref2(約0.78)の範囲となり、矩形波制御方式では、変調率Rmが値Rref2(約0.78)で一定となる。
【0022】
図3は、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータ34を制御する場合のモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとインバータ34の制御方式(正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式)とのおおよその関係の一例を示す説明図である。インバータ34の制御方式は、一般に、図3に示すように、モータ32のトルク指令Tm*の大きさや回転数Nmが小さい側から順に、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式とする。これは、モータ32やインバータ34の特性として、矩形波制御方式,過変調制御方式,正弦波制御方式の順で、モータ32の出力応答性や制御性がよくなり出力が小さくなりインバータ34のスイッチング損失などが大きくなるという特性を踏まえて、低回転数低トルクの領域では、正弦波制御方式でインバータ34を制御することによってモータ32の出力応答性や制御性を良くし、高回転数高トルク領域では、矩形波制御方式でインバータ34を制御することによって大きな出力を可能とすると共にインバータ34のスイッチング損失などを低減するためである。以下、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式でのインバータ34の制御について順に説明する。
【0023】
正弦波制御方式では、電子制御ユニット50は、まず、モータ32の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和を値0としてモータ32の電気角θeを用いて相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)すると共に、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。ここで、d軸はモータ32のロータに埋め込まれた永久磁石によって形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対してモータ32の正回転方向にπ/2だけ電気角θeが進角した方向である。また、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*は、第1実施例では、モータ32のトルク指令Tm*とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係、具体的には、トルク指令Tm*に対応するトルクをモータ32から出力させるための電流指令大きさIr(電流指令Id*の二乗と電流指令Iq*の二乗との和の平方根)が最小値近傍となるよう定めたトルク指令Tm*と電流指令Id*,Iq*との関係(以下、この関係を示すラインを電流指令ラインという)に、モータ32のトルク指令Tm*を適用して設定するものとした。
【0024】
続いて、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*とを用いて次式(1),(2)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算する。ここで、式(1),(2)は、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との差が打ち消されるようにするための電流フィードバック制御における関係式であり、式(1),(2)中、「Kp1」,「Kp2」は比例項のゲインであり、「Ki1」,「Ki2」は積分項のゲインである。
【0025】
Vd*=Kp1・(Id*-Id)+Ki1・Σ(Id*-Id) (1)
Vq*=Kp2・(Iq*-Iq)+Ki2・Σ(Iq*-Iq) (2)
【0026】
こうしてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算すると、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータ32の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングするためのPWM信号に変換し、変換したPWM信号をインバータ34に出力することによってインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。ここで、PWM信号の変換に用いられる正弦波状の電圧指令の振幅としては、電圧指令大きさVr(電圧指令Vd*の二乗と電圧流指令Vq*の二乗との和の平方根)が用いられる。
【0027】
正弦波制御方式でインバータ34を制御しているときには、d軸の電圧指令Vd*の二乗とq軸の電圧流指令Vq*の二乗との和の平方根を電圧指令大きさVrとして計算し、計算した電圧指令大きさVrを駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して変調率(電圧利用率)Rmを計算し、計算した変調率Rmが所定値Rref1(約0.61)より大きくなったときに、インバータ34の制御方式を正弦波制御方式から過変調制御方式に切り替える。ここで、所定値Rref1は、PWM信号を生成する際の三角波(搬送波)電圧の振幅を駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除したものに相当する。
【0028】
過変調制御方式では、電子制御ユニット50は、まず、モータ32の電気角θeを用いて相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)し、座標変換によって得られたd軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算する。続いて、正弦波制御方式と同様に、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する。そして、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoと電流指令Id*,Iq*とモータ32の回転角速度ωmとを用いて次式(3),(4)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算する。ここで、式(3),(4)は、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoと電流指令Id*,Iq*との差が打ち消されるようにするための電流フィードバック制御における関係式であり、式(3),(4)中、「Ld」,「Lq」はそれぞれd軸,q軸のインダクタンスであり、「φ」は誘起電圧係数であり、「Kp3」,「Kp4」は比例項のゲインであり、「Ki3」,「Ki4」は積分項のゲインである。
【0029】
Vd*=-ωm・Lq・Iq*+Kp3・(Iq*-Iqmo)+Ki3・Σ(Iq*-Iqmo) (3)
Vq*=-ωm・Ld・Id*+ωm・φ+Kp4・(Id*-Idmo)+Ki4・Σ(Id*-Idmo) (4)
【0030】
こうしてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算すると、計算したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算し、計算したd軸のなまし後電圧指令Vdmo*の二乗とq軸のなまし後電圧流指令Vqmo*の二乗との和の平方根を電圧指令大きさVrとして計算すると共に、d軸のなまし後電圧指令Vdmo*とq軸のなまし後電圧流指令Vqmo*とを用いて、d軸の電圧指令Vd*,q軸の電圧指令Vq*を成分とするベクトルのq軸の方向に対する角度としての電圧指令角度θvrを計算する。そして、電圧指令大きさVrにリニア補正処理を施してリニア補正後電圧指令Vrmoを設定する。過変調制御方式では、PWM信号を生成する際に正弦波状の電圧指令の振幅(電圧指令大きさVr)が三角波電圧の振幅より大きいため、モータ32に印加される電圧が略正弦波状にならない。リニア補正処理は、そのことを踏まえて、モータ32に印加される電圧が値(VH・Rref1〜VH・Rref2)の範囲で電圧指令大きさVrの増加に応じて略線形に増加するようにするために電圧指令大きさVrを補正する処理である。このリニア補正処理は、第1実施例では、電圧指令大きさVrに相当する大きさの電圧がモータ32に印加されるよう定めた電圧指令大きさVrとリニア補正後電圧指令大きさVrmoとの関係に、電圧指令大きさVrを適用して設定するものとした。
【0031】
こうしてd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vrmoを計算すると、計算したリニア補正後電圧指令大きさVrmoと電圧指令角度θvrとを用いてd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*を計算し、モータ32の電気角θeを用いてd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*をモータ32の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングするためのPWM信号に変換し、変換したPWM信号をインバータ34に出力することによってインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。ここで、過変調制御方式では、PWM信号の変換に用いられる正弦波状の電圧指令の振幅として、リニア補正後電圧指令大きさVrmoが用いられる。
【0032】
過変調制御方式では、上述したように、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算すると共に、計算したなまし後電流Idmo,Iqmoを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算し、計算したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算してインバータ34の制御に用いることにより、高調波成分をより適正に減衰させてインバータ34を制御することができる。なお、上述の正弦波制御方式では、過変調制御方式に比して制御性や出力応答性が高いことを踏まえて、d軸,q軸の電流Id,Iqやd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*に対してなまし処理を施さずにインバータ34の制御に用いるものとした。
【0033】
過変調制御方式でインバータ34を制御しているときには、電圧指令大きさVr(リニア補正処理を行なう前の値)を駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して変調率Rmを計算し、計算した変調率Rmが上述の値Rref1(約0.61)から所定値αを減じた値(Rref1−α)以下になったときにインバータ34の制御方式を過変調制御方式から正弦波制御方式に切り替え、変調率Rmが上述の所定値Rref2(約0.78)以上になったときにインバータ34の制御方式を過変調制御方式から矩形波制御方式に切り替える。ここで、所定値αは、正弦波制御方式と過変調制御方式との切替が頻繁に生じないようにヒステリシスを持たせるためのものである。また、所定値Rref2は、過変調制御方式でインバータ34を制御するときの最大変調率に相当する。
【0034】
矩形波制御方式では、電子制御ユニット50は、まず、モータ32の電気角θeを用いて相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)し、座標変換によって得られたd軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算し、計算したd軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoに基づいて、モータ32から出力されていると推定される推定トルクTmestを設定する。ここで、推定トルクTmestは、第1実施例では、予め実験や解析などによって定めたd軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoと推定トルクTmestとの関係に、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoを適用して設定するものとした。
【0035】
こうして推定トルクTmestを設定すると、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*とを用いて次式(5)により電圧位相指令θp*を計算し、計算した電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号をインバータ34のトランジスタT11〜T16に出力することによってトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。ここで、電圧位相指令θp*は、正弦波制御方式や過変調制御方式における電圧指令角度θvrに相当する位相指令である。また、式(5)は、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*との差が打ち消されるようにするためのトルクフィードバック制御における関係式であり、式(5)中、「Kp5」は比例項のゲインであり、「Ki5」は積分項のゲインである。
【0036】
θp*=Kp5・(Tm*-Tmest)+Ki5・Σ(Tm*-Tmest) (5)
【0037】
矩形波制御方式でインバータ34を制御しているときには、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoがインバータ34の制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える切替ラインに至ったときに、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える。これは、矩形波制御方式では、電圧位相指令θp*の調整によってインバータ34を制御するため、変調率Rmが一定であり、変調率Rmでは過変調制御に切り替えるか否かを判定できない、という理由に基づく。なお、矩形波制御によってインバータ34を制御しているときには、弱め界磁のために、d軸の電流Idが電流指令ラインよりも−d軸の方向に大きな値となることが多い。したがって、第1実施例では、過変調変調制御方式と矩形波制御方式との頻繁な切替を抑制するために、電流指令ラインよりもd軸の電流Idの大きさが小さくなるよう切替ラインを定めるものとした。
【0038】
以上、インバータ34の制御方式について説明した。次に、こうして構成された第1実施例の電気自動車20の動作、特に、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節する際の動作について説明する。図4は、第1実施例の電子制御ユニット50により実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0039】
昇圧制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nm,インバータ34の制御方式,電圧センサ46aからの駆動電圧系電力ライン42の電圧VH,大気圧センサ69から大気圧Pout,外気温センサ70からの外気温Toutなど制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。
【0040】
こうしてデータを入力すると、入力した大気圧Poutと外気温Toutとに基づいて駆動電圧系電力ライン42に許容される許容上限電圧VHlimを設定する(ステップS110)。ここで、許容上限電圧VHlimは、大気圧Poutが標準圧力Pset(例えば1気圧)で外気温Toutが標準温度Tset(例えば25℃)のときの値(以下、標準許容上限電圧VHlimsetという)を基準として、大気圧Poutが標準圧力Psetより低い圧力P1(例えば、0.8気圧や0.85気圧,0.9気圧など)以上で且つ外気温Toutが標準温度Tsetより低い温度T1(例えば、50℃や10℃,15℃など)以上のときには標準許容上限電圧VHlimsetを設定し、大気圧Poutが圧力P1より低いときや外気温Toutが温度T1より低いときには大気圧Poutが低いほど標準許容上限電圧VHlimsetに比して低くなる傾向で且つ外気温Toutが低いほど標準許容上限電圧VHlimsetに比して低くなる傾向に設定するものとした。これは、大気圧Poutや外気温Toutが低いほど昇圧コンバータ40の素子などの耐圧が低下する、という理由に基づく。
【0041】
続いて、モータ32のトルク指令Tm*および回転数Nmと駆動電圧系電力ライン42の許容上限電圧VHlimとに基づいて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定する(ステップS120)。ここで、駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagは、モータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとからなる目標駆動点でモータ32を駆動できる駆動用電圧VHtmpと、駆動電圧系電力ライン42の許容上限電圧VHlimとのうち小さい方を設定するものとした。この駆動用電圧VHtmpは、第1実施例では、モータ32の回転数Nmが昇圧コンバータ40とコンデンサ46とコンデンサ48とからなる回路に共振を生じさせる共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2)内のときには正弦波制御方式や過変調制御方式でインバータ34を制御することになるよう設定するものとした。これは、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2)内のときに矩形波制御方式でインバータ34を制御すると駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの変動が過剰に大きくなりやすいと考えられる、という理由に基づく。ここで、回転数N1や回転数N2は、リアクトル41のインダクタンスLやコンデンサ46,48の容量Ch,Clなどに応じて定めることができる。回転数N1は、例えば、900rpmや1000rpm,1100rpmなどを用いることができ、回転数N2は、例えば、1900rpmや2000rpm,2100rpmなどを用いることができる。なお、この回転数N1や回転数N2は、固定値を用いるものに限定されるものではなく、例えば、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと電池電圧系電力ライン44の電圧VLとの関係(電池電圧系電力ライン44の電圧VLを駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除した値が大きいほど小さくなる関係)を用いて設定するものとしてもよい。
【0042】
そして、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式であるか否かを判定すると共に(ステップS130)、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)内か否かを判定する(ステップS140)。
【0043】
ステップS130でインバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、ステップS140でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)外のときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*の設定に用いる昇圧ゲインKpv,Kivに通常時の値Kpv1,Kiv1を設定し(ステップS150)、設定した昇圧ゲインKpv,Kivと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとを用いて次式(6)により駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS170)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なって(ステップS180)、本ルーチンを終了する。ここで、通常時の値Kpv1,Kiv1としては、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性(目標電圧VHtagの変化に対する追従性)を高くするために、比較的大きな値を用いるものとした。
【0044】
VH*=Kpv・(VHtag-VH)+Kiv・∫(VHtag-VH)dt (6)
【0045】
ステップS130,S140で、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)内のときには、昇圧ゲインKpv,Kivに通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を設定し(ステップS160)、設定した昇圧ゲインKpv,Kivと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとを用いて上述の式(6)により駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS170)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なって(ステップS180)、本ルーチンを終了する。
【0046】
ここで、インバータ34の制御方式やモータ32の回転数Nmに応じて昇圧ゲインKpv,Kivを設定する理由について説明する。まず、実験や解析などによって、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの変動は、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)内のときに共振回転数領域外のときに比して大きくなりやすく、モータ32の出力が大きいほど大きくなりやすく、正弦波制御方式でインバータ34を制御するとき(モータ32の出力応答性が高いとき)に過変調制御方式でインバータ34を制御するときに比して大きくなりやすく、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性(目標電圧VHtagの変化に対する追従性)が高いほど大きくなりやすい,ということが分かった。また、第1実施例では、上述したように、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2)内のときには正弦波制御方式や過変調制御方式でインバータ34を制御することになるよう駆動用電圧VHtagを設定するものとした。したがって、実施例では、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、通常時の値(比較的大きな値)Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御するものとした。これにより、前者では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性を高くすることができ、後者では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの変動が大きくなるのを抑制することができる。なお、昇圧コンバータ40のリアクトルLに流れるリアクトル電流ILの符号が反転するときには、駆動電圧系電力ライン42にサージ電圧が作用するが、そのサージ電圧の大きさは、実験や解析などによって、モータ32の制御性が低いときに大きくなりやすく且つモータ32の出力の傾きが大きいほど大きくなりやすいことが分かった。このため、インバータ34の制御方式が矩形波制御方式でモータ32のトルクが急変してリアクトル電流ILの符号が反転したときに大きくなりやすいと考えられる。これに対して、第1実施例では、上述したように、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御することにより、リアクトル電流ILの符号の反転時に大きなサージ電圧が駆動電圧系電力ライン42に作用するのを抑制することができ、そのサージ電圧に起因する駆動電圧系電力ライン42の電圧変動を抑制することができる。
【0047】
以上説明した第1実施例の電気自動車20によれば、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、通常時の値(比較的大きな値)Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御するから、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの変動が大きくなるのを抑制することができる。もとより、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性を高くすることができる。
【実施例2】
【0048】
次に、本発明の第2実施例としての電気自動車20Bについて説明する。第2実施例の電気自動車20Bは、図1を用いて説明した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するために、第2実施例の電気自動車20Bのハード構成についての詳細な説明は省略する。
【0049】
第2実施例の電気自動車20Bでは、電子制御ユニット50は、図4の昇圧制御ルーチンに代えて、図5の昇圧制御ルーチンを実行する。このルーチンは、図4の昇圧制御ルーチンと同様に、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0050】
図5の昇圧制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、図4の昇圧制御ルーチンと同様に、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nm,インバータ34の制御方式,駆動電圧系電力ライン42の電圧VH,大気圧Pout,外気温Toutなど制御に必要なデータを入力し(ステップS200)、入力した大気圧Poutと外気温Toutとに基づいて駆動電圧系電力ライン42に許容される許容上限電圧VHlimを設定し(ステップS210)、モータ32のトルク指令Tm*とおよび回転数Nmと駆動電圧系電力ライン42の許容上限電圧VHlimとに基づいて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定する(ステップS220)。
【0051】
続いて、駆動電圧系電力ライン42の標準許容上限電圧VHlimsetから許容上限電圧VHlimを減じることによって、許容上限電圧VHlimの標準許容上限電圧VHlimsetに対する制限量としての電圧制限量αを計算し(ステップS225)、計算した電圧制限量αを閾値αrefと比較する(ステップS230)。ここで、閾値αrefは、駆動電圧系電力ライン42の許容上限電圧VHlimが標準許容上限電圧VHlimsetに対して制限されているか否かを判定するために用いられるものであり、例えば、値0を用いるものとしたり、許容上限電圧VHlimが標準許容上限電圧VHlimsetに対してほとんど制限されていないと見なすことができる範囲の上限値(値0より若干大きな値)を用いたりすることができる。
【0052】
電圧制限量αが閾値αref以下のときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*の設定に用いる昇圧ゲインKpv,Kivに通常時の値Kpv1,Kiv1を設定し(ステップS250)、設定した昇圧ゲインKpv,Kivと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとを用いて上述の式(6)により駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS270)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なって(ステップS280)、本ルーチンを終了する。こうした制御により、電圧制限量αが閾値αref以下のとき(例えば値0のとき)には、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性を高くすることができる。
【0053】
ステップS230で電圧制限量αが閾値αrefより大きいときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが、昇圧コンバータ40とコンデンサ46とコンデンサ48とからなる回路に共振を生じさせる共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)内か否かを判定する(ステップS240)。ここで、電圧VH1は、例えば、370Vや380V,390Vなどを用いることができ、電圧VH2は、例えば、420Vや430V,440Vなどを用いることができる。
【0054】
駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)外のときには、昇圧ゲインKpv,Kivに通常時の値Kpv1,Kiv1を設定し(ステップS250)、設定した昇圧ゲインKpv,Kivと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとを用いて上述の式(6)により駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS270)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なって(ステップS280)、本ルーチンを終了する。
【0055】
ステップS240で駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)内のときには、昇圧ゲインKpv,Kivに通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を設定し(ステップS260)、設定した昇圧ゲインKpv,Kivと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとを用いて上述の式(6)により駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定し(ステップS270)、設定した電圧指令VH*を用いて昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なって(ステップS280)、本ルーチンを終了する。
【0056】
ここで、電圧制限量αが閾値αrefより大きいときに、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに応じて昇圧ゲインKpv,Kivを設定する理由について説明する。図6は、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の最大パワーPmと昇圧コンバータ40の減衰率ζの逆数との関係の一例を示す説明図である。モータ32の最大パワーPmは、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHがそれぞれの値のときに、モータ32から出力され得る最大パワー具体的にはモータ32の回転数Nmが上述の共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)内のときにモータ32から出力され得る最大パワーである。また、昇圧コンバータ40の減衰率ζは、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動(サージ電圧などによる変動)の減衰しやすさを意味するものであり、バッテリ36の抵抗Rbや駆動電圧系電力ライン42の電圧VH,電池電圧系電力ライン44の電圧VL,昇圧コンバータ40のリアクトル41のインダクタンスL,コンデンサ46,48の容量Ch,Clなどに応じて求めることができる。実験や解析などによって、図示するように、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが所定電圧VH3近傍のときにモータ32の最大パワーPmが極大となり、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが高いほど昇圧コンバータ40の減衰率ζの逆数(減衰しにくさ)が小さくなることが分かった。また、実験や解析などによって、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動は、モータ32の最大パワーPmが大きいほど大きくなりやすく且つ昇圧コンバータ40の減衰率ζの逆数が大きいほど大きくなりやすく、そして、モータ32の最大パワーPmの方が昇圧コンバータ40の減衰率ζの逆数に比して駆動電圧系電力ライン42の電圧変動に与える影響が大きいことが分かった。したがって、実施例では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが所定電圧VH3を含む共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)外のときには、通常時の値(比較的大きな値)Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御するものとした。これにより、前者では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性を高くすることができ、後者では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの変動が大きくなるのを抑制することができる。なお、第2実施例では、電圧制限量αが閾値αref以下のとき、即ち、大気圧Pout,外気温Toutがそれぞれ標準圧力Pset,標準温度Tset近傍のときには、駆動電圧系電力ライン42の許容上限電圧VHlimが標準許容上限電圧VHlimset近傍で比較的高いことから、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性を高くするために、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いるものとした。
【0057】
以上説明した第2実施例の電気自動車20Bによれば、許容上限電圧VHlimの標準許容上限電圧VHlimsetに対する制限量としての電圧制限量αが閾値αref以下のときや、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)外のときには、通常時の値(比較的大きな値)Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、電圧制限量αが閾値αrefより大きく駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御するから、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの変動が大きくなるのを抑制することができる。もとより、電圧制限量αが閾値αref以下のときや、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域外のときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの応答性を高くすることができる。
【0058】
第1実施例の電気自動車20では、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときやモータ32の回転数Nmが共振回転数領域(回転数N1〜回転数N2の領域)外のときには通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivに設定し、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定するものとし、第2実施例の電気自動車20Bでは、電圧制限量αが閾値αref以下のときや駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)外のときには通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivに設定し、電圧制限量αが閾値αrefより大きく駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内のときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定するものとしたが、これらを組み合わせて用いるものとしてもよい。具体的には、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内である第1条件も電圧制限量αが閾値αrefより大きく駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内である第2条件も共に成立していないときには通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivに設定し、第1条件と第2条件とのうち少なくとも一方が成立しているときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定するものとしてもよいし、第1条件と第2条件とのうち少なくとも一方が成立していないときには通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivに設定し、第1条件と第2条件とが共に成立しているときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定するものとしてもよい。
【0059】
第1実施例の電気自動車20では、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定するものとし、第2実施例の電気自動車20Bでは、電圧制限量αが閾値αrefより大きく駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内のときには通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivに設定するものとしたが、これらの一方または両方に加えて、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動が許容範囲を超えると想定されるときには、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動が許容範囲を超えないと想定されるときに比してモータ32からの出力が制限されるよう具体的にはモータ32から上述のトルク指令Tm*より小さなトルクが出力されるようインバータ34を制御するものとしてもよい。例えば、上述の第1の条件と第2の条件とが共に成立しているときに、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動が許容範囲を超えると想定して、モータ32からの出力が制限されるようインバータ34を制御するものとしてもよい。上述したように、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動はモータ32の出力が大きいほど大きくなりやすいことから、こうした制御により、駆動電圧系電力ライン42の電圧変動が大きくなるのをより抑制することができる。
【0060】
第1実施例や第2実施例では、本発明を、駆動輪26a,26bに接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32を備える電気自動車20,20Bに適用するものしたが、例えば、図7の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、遊星歯車機構126を介して駆動軸22に接続されたエンジン122およびモータ124と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車120に適用するものとしてもよい。また、図8の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン122のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪26a,26bに連結された駆動軸22に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン122からの動力の一部を駆動軸22に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。さらに、図9の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動軸22に変速機330を介してモータ32を取り付けると共に、モータ32の回転軸にクラッチ329を介してエンジン122を接続する構成とし、エンジン122からの動力をモータ32の回転軸と変速機330とを介して駆動軸22に出力すると共にモータ32からの動力を変速機330を介して駆動軸22に出力するハイブリッド自動車320に適用するものとしてもよい。本発明をこれらのハイブリッド自動車120,220,320に適用した場合、第1実施例や第2実施例の電気自動車20,20Bと同様の処理を実行することにより、第1実施例や第2実施例と同様の効果を奏することができる。
【0061】
また、ハイブリッド自動車120では、通常、モータ124とモータ32とが異なる駆動状態(回転数,トルク)で駆動され、ハイブリッド自動車220では、通常、対ロータ電動機230とモータ32とが異なる駆動状態で駆動されることから、2つのモータの駆動状態に応じて昇圧コンバータ40のリアクトル41に流れる電流ILの符号が反転することがある。昇圧コンバータ40のリアクトル電流ILの符号の反転に応じて駆動電圧系電力ライン42に作用するサージ電圧は、上述したように、特に、インバータ34の制御方式が矩形波制御方式でモータ32のトルクが急変してリアクトル電流ILの符号が反転したときに大きくなりやすいと考えられる。これに対して、第1実施例の電気自動車20と同様に、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御することにより、リアクトル電流ILの符号の反転時に大きなサージ電圧が駆動電圧系電力ライン42に作用するのを抑制することができ、そのサージ電圧に起因する駆動電圧系電力ライン42の電圧変動を抑制することができる。
【0062】
実施例では、本発明を自動車に適用するものとしたが、自動車以外の車両(例えば、列車など)の形態としてもよいし、駆動装置の形態としてもよい。
【0063】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。第1実施例および第2実施例とこれらに対応する本発明の第1および第2の駆動装置との関係として、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、コンデンサ48が「電池電圧系コンデンサ」に相当し、コンデンサ46が「駆動電圧系コンデンサ」に相当する。
【0064】
第1実施例と本発明の第1の駆動装置との関係では、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御する、図4の昇圧制御ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0065】
第2実施例と本発明の第2の駆動装置との関係では、許容上限電圧VHlimの標準許容上限電圧VHlimsetに対する制限量としての電圧制限量αが閾値αref以下のときや、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)外のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、電圧制限量αが閾値αrefより大きく駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御する、図5の昇圧制御ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0066】
ここで、「モータ」としては、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える同期発電電動機(いわゆる埋込磁石型同期発電電動機)として構成されたモータ32に限定されるものではなく、永久磁石が表面に取り付けられたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える同期発電電動機(いわゆる表面磁石型同期発電電動機)など、如何なるタイプのモータであっても構わない。「インバータ」としては、インバータ34に限定されるものではなく、モータを駆動するものであれば如何なるタイプのインバータであっても構わない。「バッテリ」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、如何なるタイプのバッテリであっても構わない。「昇圧コンバータ」としては、昇圧コンバータ40に限定されるものではなく、リアクトルを有しバッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧してインバータが接続された駆動電圧系に供給可能なものであれば如何なるものとしても構わない。「電池電圧系コンデンサ」としては、コンデンサ48に限定されるものではなく、電池電圧系の電圧を平滑するものであれば如何なるものとしても構わない。「駆動電圧系コンデンサ」としては、コンデンサ46に限定されるものではなく、駆動電圧系の電圧を平滑するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0067】
本発明の第1の駆動装置における「制御手段」としては、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でないときや、モータ32の回転数Nmが共振回転数領域外のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、インバータ34の制御方式が正弦波制御方式でモータ32の回転数Nmが共振回転数領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御するものに限定されるものではなく、モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータを制御すると共に駆動電圧系の目標電圧と駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて駆動電圧系の電圧指令を設定して昇圧コンバータを制御し、インバータの制御方式が正弦波制御方式でモータの回転数が昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振回転数領域内のときには、インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときおよびモータの回転数が共振回転数領域外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて駆動電圧系の電圧指令を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0068】
本発明の第2の駆動装置における「制御手段」としては、許容上限電圧VHlimの標準許容上限電圧VHlimsetに対する制限量としての電圧制限量αが閾値αref以下のときや、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域(電圧VH1〜電圧VH2の領域)外のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御し、電圧制限量αが閾値αrefより大きく駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが共振電圧領域内のときには、通常時の値Kpv1,Kiv1より小さな値Kpv2,Kiv2を昇圧ゲインKpv,Kivとして用いて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと目標電圧VHtagとの差が打ち消されるよう駆動電圧系電力ライン42の電圧指令VH*を設定して昇圧コンバータ40を制御するものに限定されるものではなく、モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータを制御すると共に駆動電圧系の目標電圧と駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて駆動電圧系の電圧指令を設定して昇圧コンバータを制御し、駆動電圧系に許容される許容上限電圧が許容上限電圧の標準値である標準許容上限電圧に対して制限されていて駆動電圧系の電圧が昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振電圧範囲内のときには、許容上限電圧が標準許容上限電圧に対して制限されていないときおよび駆動電圧系の電圧が共振電圧範囲外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて駆動電圧系の電圧指令を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0069】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0070】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、駆動装置や自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
20 電気自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、33U,33V 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、37a 電圧センサ、37b 電流センサ、37c 温度センサ、40 昇圧コンバータ、42 駆動電圧系電力ライン、44 電池電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、120,220,320 ハイブリッド自動車、122 エンジン、124 モータ、126 遊星歯車機構、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330 変速機、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、前記モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御すると共に前記駆動電圧系の目標電圧と該駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定して前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記インバータの制御方式が正弦波制御方式で前記モータの回転数が前記昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振回転数領域内のときには、前記インバータの制御方式が正弦波制御方式でないときおよび前記モータの回転数が前記共振回転数領域外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定する手段である、
駆動装置。
【請求項2】
モータと、前記モータを駆動するインバータと、バッテリと、リアクトルを有し前記バッテリが接続された電池電圧系の電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給可能な昇圧コンバータと、前記電池電圧系の電圧を平滑する電池電圧系コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する駆動電圧系コンデンサと、前記モータからトルクが出力されるよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御すると共に前記駆動電圧系の目標電圧と該駆動電圧系の電圧との差が打ち消されるよう昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定して前記昇圧コンバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記制御手段は、前記駆動電圧系に許容される許容上限電圧が該許容上限電圧の標準値である標準許容上限電圧に対して制限されていて前記駆動電圧系の電圧が前記昇圧コンバータを含む回路に共振を生じさせる共振電圧範囲内のときには、前記許容上限電圧が前記標準許容上限電圧に対して制限されていないときおよび前記駆動電圧系の電圧が前記共振電圧範囲外のときに比して小さな昇圧ゲインを用いて前記駆動電圧系の電圧指令を設定する手段である、
駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の駆動装置であって、
前記制御手段は、前記駆動電圧系の電圧変動が許容範囲を超えると想定されるときには、前記駆動電圧系の電圧変動が前記許容範囲を超えると想定されないときに比して前記モータからの出力が制限されるよう前記インバータを制御する手段である、
駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つの請求項に記載の駆動装置を搭載し、前記モータからの動力を用いて走行する自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−106387(P2013−106387A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246938(P2011−246938)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】