説明

駆動装置

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は物体の駆動装置に関し、特に精密機器や映像機器等に内蔵されている移動物体を駆動するための駆動装置に関するものである。
[従来の技術]
精密機器や映像機器の一例としてたとえばビデオカメラ等の撮影装置を例にとり、該装置に内蔵されているレンズ駆動装置を従来例として説明する。
第5図はビデオカメラ等に内蔵されている従来のズームレンズ機構の分解斜視図である。同図において、1はレンズを保持している鏡筒であり、鏡筒1の外周面には水平方向に突出した支持板部1hと腕1eとが形成されている。支持板部1hの前方側と後方側の側縁にはレンズ光軸と平行な孔1b及び1dが貫設されている突部1a及び1cが形成され、該孔1b及び1dに不図示の支持部材に固定されているガイドバー2が相対摺動可能に挿入されている。また、突部1aの近傍の支持板部1hの下面には鉛直方向に延在する従動ピン1gが突設されており、該ピン1gは後述するカム板4のカム溝内に相対摺動可能に挿入されるようになっている。
鏡筒1の腕1eの先端には横向きのU形溝1fが形成されており、該溝1fには不図示の支持部材に固定されているガイドバー3が相対摺動可能に挿通されている。従って、鏡筒1はガイドバー2及び3に支持されてレンズ光軸と平行に移動可能となっている。
鏡筒1の下方に配置された水平なカム板4には、ガイドバー2及び3に対して直角な方向に延在する案内溝4aと、該溝4aに対して斜行するカム溝4bと、が形成されている。案内溝4aには不図示の静止部材上に突設された2本のガイドピン5及び6が該溝4aに対して相対摺動可能に挿入されており、カム板4は不図示の静止部材上に該溝4aと平行に移動可能に支持されている。
カム板4の後縁にはラック歯4cが形成され、このラック歯4cにはギヤ5が噛み合っている。ギヤ5は段車形ギヤ6の小径部と噛み合わされ、ギア6の大径部はモータ8の軸8aに固定されたピニオン7と噛み合わされている。
カム板4の下面には絶縁板11を介して摺動接片9が固定されており、摺動接片9の2本の腕9a及び9bのそれぞれの先端に形成された湾曲部9d及び9eは固定検出板10の上に形成された導体部10aと抵抗体10bとに各々接触している。
固定検出板10は絶縁材製基板10cの上に導体部10aと抵抗体10bとを形成したものであり、導体部10aはリード線を介して電源に接続され、抵抗体10bに接続された2本のリード線10d及び10eは出力端子を介して後述のマイクロコンピュータの入力端子に接続されている。前記の如き摺動接片9と固定検出板10とによって構成された位置検出装置においては、摺動接片9の腕9bの湾曲部9eが低抗体10bのどの部分に接しているかによって出力が変化する。すなわち、リード線10fを介して導体部10aに印加された電圧は抵抗体10bに該湾曲部9eが接触する位置に応じて分圧され、分圧された出力をリード線10b及び10eに現れる。
次に、前記の如き構造を有した従来のズームレンズ機構の動作について説明する。
不図示の制御装置によりモータ8が回転されると、ピニオン7、ギヤ6、ギヤ5が回転され、ギヤ5と噛み合うラック歯4cによりカム板4はガイドバー2及び3に対して直角方向にガイドピン5及び6で案内されつつ動かされる。このため、摺動接片9の2本の腕9a及び9bもそれぞれ導体部10aと抵抗体10bの上を摺動する。一方、カム板4が案内溝4aと平行に動かされるとカム溝4bにより従動ピン1gはカム溝4b内を摺動し、その結果、鏡筒1には従動ピン1gを介してレンズ光軸と平行な方向にカム溝4bから力が加えられるため、レンズ鏡筒1はガイドバー2及び3に案内されつつレンズ光軸と平行に動かされる。そして、レンズ鏡筒1の刻々の移動位置が摺動接片9と固定検出板10とから成る位置検出装置により電気的に検出され、その検出結果が当初の設定値と等しくなった時に不図示の制御装置によりモータ8が停止され、その結果、鏡筒1内のレンズが所望の位置に自動的に位置決めされる。
[発明が解決しようとする課題]
上述した従来の駆動機構は、モーター、ギヤ群、カム機構、等の多くの部品を要するため体積及び重量共に大きく、従って該駆動機構を備えた映像機器等の小型化及び軽量化が困難であり、また、製造コストの大巾な低減も不可能であった。その上、ギヤを使用しているのでギヤのバックラッシュのため、レンズの高精度の位置決め及び移動量制御も困難であった。
それ故、本発明の目的は、上述した従来の駆動駆動よりも小型且つ軽量で、しかも、高精度の位置決め及び移動量制御が可能であるとともに製造コストも安価となる新規な駆動装置を提供することである。
[課題を解決するための手段]
本発明では前述の課題を解決するために、モータの代りに駆動力発生源として圧電素子を使用し、該圧電素子の伸びの速度と縮みの速度とを異らせるように圧電素子に電圧を印加する手段を設けることにより、従来装置よりも高精度の位置決めを行うことができるとともに従来装置よりも小型化及び軽量化することが可能となる。
[作用]
圧電素子の伸びの速度と縮みの速度とを異らせる電圧印加手段によって圧電素子を周期的に変形させ、物体を間けつ的に微小送りする。
[実 施 例]
以下に第1図乃至第4図を参照して本発明の実施例について説明する。
第1図乃至第2図は本発明を適用して構成されたレンズ駆動装置の第1実施例を示した図である。第1図において第5図と同じ符号で表示されている部材は第5図に示した部材と同じものであり、1は鏡筒、3は鏡筒1を支持するとともに光軸方向に案内するガイドバー、である。鏡筒1の左側の突部1aの孔1bと突部1cの孔1dには鏡筒1を支持するとともに鏡筒1を軸方向移動させる鏡筒支持部材兼駆動棒17が挿入されており、該駆動棒17(以下には駆動棒と略記する)は駆動棒支持部材13に形成された第1及び第2の直立部13a及び13cの孔13b及び13dに軸方向移動可能に挿入されている。また駆動棒17は該支持部材の第2の直立部13cよりも更に後方に突出しており、該駆動棒の後端は該支持部材13の第3の直立部13eに後端を固着された圧電素子12の前端に固定されている。
鏡筒1の突部1a及び1cの下面には鉛直なネジ孔が形成され、それぞれのネジ孔の位置と一致するバカ孔14a及び14bを両端に有した長方形の板バネ14がビス15及び16によって突部1a及び1cの下面に駆動棒17と平行に取付けられている。板バネ14の中央には上向きに突出した屈曲部14cが形成され、この屈曲部14cは突部1aと1cとの中間位置において駆動棒17の下面に圧接されている。このため突部1aの孔1b及び突部1cの孔1dのそれぞれの中で駆動棒17が上の方へ片寄せされ、孔1b及び1dのそれぞれの上側の内周面に駆動棒17の上側の外周面が板バネ14の弾発力により圧接されている。従って、孔1b及び1dと駆動棒17との摩擦力及び屈曲部14cと駆動棒17の摩擦力以下の軸方向力が駆動棒17に加えられた時には鏡筒1と駆動棒17とは一体となって動くが、該摩擦力以上の軸方向力が駆動棒17に加わった時には駆動棒17のみが軸方向に移動可能となる。なお、w1及びw2は圧電素子12に給電するためのリード線である。
次に駆動棒17と鏡筒1を摩擦係合する板バネ14の作用について説明する。
摩擦力を安定して発生させ、板バネ14による弾性力が鏡筒1の変位方向に作用しないようにするために板バネ14の弾性力は駆動棒17に略垂直に加わるようになされている。更に圧電素子12の伸縮により、板バネ14が圧電素子12の伸縮方向に弾性変形すると駆動棒17と鏡筒1との摩擦力が変化し、更に鏡筒1の変位方向に弾性力が作用し、鏡筒1の変位が不安定になる。これを防ぐため、板バネ14は圧電素子12の伸縮方向と平行な平面部を有し、この方向には大きな剛性を有するようになされている。
鏡筒1の腕1eの下面には鏡筒1の軸線と平行な一対の腕9a及び9bを有したコ字形の摺動接片9が配置され、該摺動接片9は連結部9cにおいて絶縁板11に接着され、絶縁板11は腕1eの下面に接着されている。
鏡筒1の移動経路の下方には、不図示の静止部材上に取付けられた固定検出板10が配置されている。この固定検出板10は絶縁材製の基板10cの上に摺動接片の腕9aの先端部に摺接する導体部10aと、摺動接片9の腕9bの先端部に摺接する抵抗体10bとが形成されたものであり、導体部10aは一端はリード線10fを介して電源に接続され、抵抗体10bの両端に接続されたリード線10d及び10eは不図示の出力端子に接続されている。該出力端子には摺動接片9bが抵抗体10bのどこに接触しているかを表わす電圧値が出力されるようになっており、該出力端子は後述のマイクロコンピュータの入力ポートに接続されている。
第2図は第1図に示した駆動装置の制御系を示した概略図である。第2図において、18は圧電素子12に対して駆動電圧を印加する駆動回路、19は前述の摺動接片9と固定検出板10とによって構成された鏡筒位置検出器、20は該検出器19の出力を取込んで駆動回路18を制御するマイクロコンピュータ、30は合焦を判別する合焦判別手段である。
第6図は、上記した制御系の動作を説明するフローチャートである。
ステップ(S)−1おいて、合焦か否かを合焦判別手段30にて調べる。仮に非合焦であると、S−2により、どちらの方向にレンズをどれだけの量移動すれば合焦となるかも検出する。
S−2において、前ピンと判断すると、S−3に進み、後ピンと判断するとS−4に進む。
S−3は、前ピンの際の合焦方向である第1の方向へレンズを駆動してS−5へ進み、S−4は後ピンの際の合焦方向である第2の方向ヘレンズを駆動してS−6へ進む。
S−5、S−6は、S−2において求められた合焦位置までの移動量をレンズが移動したか否かをマイコン17にて検出し、合焦するまでレンズを移動させ、終了する。
この駆動方式では、駆動パルスと移動量との関係は振動、姿勢差等により一致しない場合があり、移動状態を実際に鏡筒位置検出器19にて検出し、フィードバック(閉ループ)して駆動させることは非常に有効である。
第3図は駆動回路18によって圧電素子12に印加される電圧波形を示したものであり、第3図(A)は第1図において鏡筒1を右方向へ動かす時に圧電素子12に印加される電圧波形を、第3図(B)は第1図において鏡筒1を左方向へ動かす時に圧電素子12に印加される電圧波形を、それぞれ示している。
第3図(A)の如き駆動パルスが圧電素子12に印加されると、該パルスが電圧Aから電圧Cへ変化する垂直な立上り部において圧電素子12は急激に伸びる。この時、駆動棒17も圧電素子12の伸びの量と同じ量だけ第1図において左方向に移動する。この場合、鏡筒1の慣性やガイドバー3と鏡筒1のU形溝1fとの摩擦などの総和が駆動棒17に圧電素子12から与えられる駆動力よりも大きいので鏡筒1は動かない。
駆動パルスの電圧がCからAへとゆっくり変化するパルス立下り部Dでは圧電素子12はゆっくり縮み、鏡筒1と駆動棒2との摩擦力や板バネ14と駆動棒2との摩擦力により鏡筒1は第1図において右方向へ移動する。そして、圧電素子12の縮みが終了した時点では第1図において駆動棒17の右方向への動きは停止するが、鏡筒1の運動エネルギーにより鏡筒1は第1図において右方向へ動き続け、鏡筒1と駆動棒17との摩擦及び板バネ14と駆動棒17との摩擦等によって上記の運動エネルギーが消費された時に鏡筒1は停止する。
以上の運動が各パルス毎に繰り返されることによって鏡筒1は第1図において右方向へ駆動される。この鏡筒1の移動位置は摺動接片9と固定検出板10とから成る位置検出器19で時時刻々に検出されて該検出器19の出力がマイクロコンピュータ20(以下にはマイコンと略記する)にフィードバックされ、マイコン20は該検出器19からの入力信号が所定の設定値と等しくなった時に駆動回路18に圧電素子12の駆動を停止させる。
鏡筒1を第1図において左方向へ移動させる時にはマイコン20は第3図(B)の如き駆動パルスを圧電素子12に印加させるように駆動回路18を制御する。この場合、圧電素子12に印加される駆動パルスは図示のように前縁の立上り部がゆるやかで、後縁の立下り部が垂直であるため、圧電素子12及び鏡筒1の動作は前述の場合とは逆になる。すなわち、圧電素子12に印加される電圧が電圧Aから電圧Cへゆるやかに変化してゆくパルス立上り部では圧電素子12はゆっくりと伸び、従って、鏡筒1の孔1b及び1dと駆動棒17との摩擦、及び板バネ14の屈曲部14cと駆動棒17との摩擦により鏡筒1は駆動棒17と一体となって第1図において左方向へ動き、圧電素子12の伸びが終了した時点(電圧Cになった時点)で駆動棒17の動きは停止するが、鏡筒1は慣性により動き続け、鏡筒1と駆動棒17とガイドバー3との摩擦や板バネ14と駆動棒17との摩擦などの消費エネルギーの総和が鏡筒1などの運動エネルギーに等しくなった時に(鏡筒1などの運動エネルギーが前記の摩擦によって消費された時に)鏡筒1が停止する。
そして、電圧がCからAへ急激に変化するパルス立下り部では圧電素子12は急速に縮み、その結果、駆動棒17は第1図において右方向へ動く。この場合、鏡筒1と駆動棒17との摩擦、及び駆動棒17と板バネ14との摩擦により鏡筒1には右方向へ駆動される力が駆動棒17から加わるが、鏡筒1の質量による慣性や鏡筒1とガイドバー3との摩擦のため鏡筒1は静止した状態を保つ。従って、第3図(B)の如きパルスが圧電素子12に印加されると、鏡筒1は1パルス毎に上記の如き作用により第1図で左方向へ動かされてゆく。
第4図は本発明の第2実施例を示したものであり、本実施例は本発明をスティルビデオカメラの磁気ヘッド駆動装置に適用したものである。
第4図において第1図と同じ符号で表示されている部材は第1実施例で説明した部材であり、これらの同一部材についての説明は必要がないかぎり省略する。なお、第4図に示す実施例においても制御系の構成は第1実施例と同じであり、本実施例における制御系の構成は第2図R>図に示した構成となっているので制御系に関する説明も省略する。また、圧電素子12に印加される駆動パルスも第3図に示した駆動パルスと同じであり、動作も第1実施例における動作と同じである。
第4図において、21は磁気ヘッド22が固定されているヘッド担持体である。ヘッド担持体21の左側の側縁には前記駆動棒17を挿通させるための孔21c及び21dが貫設されている突部21a及び21bが突設されており、また、ヘッド担持体21の右側の側縁にはガイドバー3を挿通させるためのU形溝21fが形成された腕21eが設けられている。
突部21a及び21bのそれぞれの下面にはビス15及び16をねじ込むためのねじ孔が形成されており、屈曲部14cを中央部に有した板バネ14の両端のバカ孔14a及び14bにビス15及び16を挿通して該ビスを該ねじ孔にねじ込むことにより板バネ14が突部21a及び21bの下面に固定されている。板バネ14の屈曲部14cは突部21aと突部21bとの間で駆動棒17の下面に圧接されて駆動棒17を上方へ押し上げており、駆動棒17は孔21c及び21d内でそれぞれの孔の上側の内周面に圧接されている。
腕21eの下面には絶縁板を介して摺動接片9が取付けられており、この摺動接片9はヘッド担持体21の移動径路の下方に配置された固定検出板とともにヘッド担持体21の時々刻々の位置を検出するための位置検出器19(第2図2図参照)を構成している。
12は圧電素子、13は駆動棒支持部材であり、これらは第1実施例で説明したものと同じである。また、ヘッド担持体21は動作及び制御系の動作も第1実施例と同じである。
なお、前記実施例では被動部材たる鏡筒1やヘッド担持体21の時々刻々の位置をポテンショメータ式の位置検出器で検出しているが、非接触式の検出器で検出するように構成してもよいことは当然である。
[発明の効果]
以上に説明したように、本発明の駆動装置は駆動源として圧電素子を用いているのでモータや減速機構やカム及び送りねじ等が不要となり、従って、従来の駆動装置にくらべて非常に小型化且つ軽量化することができるばかりでなく従来装置よりも高精度の位置決め制御が可能となり、しかも加工コストや組立コストも大巾に低減することが可能となるため、本発明によれば従来の駆動装置に内在する問題点を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明を適用して構成された本発明の第1実施例としての鏡筒駆動装置を示す分解斜視図、第2図は本発明による駆動装置の制御系の概略図、第3図(A)(B)は圧電素子に印加される駆動パルスの波形を示した図、第4図は本発明の第2実施例としての磁気ヘッド駆動装置の分解斜視図、第5図は従来の駆動装置の一例としてのズームレンズ駆動装置の分解斜視図、第6図は第2図に示す制御系の動作を説明するフローチャートである。
1……鏡筒、9……摺動接片
10……固定検出板、11……絶縁板
12……圧電素子、13……駆動棒支持部材
14……板バネ、17……駆動棒兼支持部材
21……ヘッド担持体、22……磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】被駆動物体もしくは該被駆動物体に連結されている部材に摩擦係合されるとともに静止部材に移動可能に支持されている駆動部材と、該駆動部材に一端を固定されるとともに他端を動かぬように該静止部材等に固定された圧電素子と、該圧電素子に伸びの速度と縮みの速度とを異らせるように電圧を印加する圧電素子駆動手段と、を有することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】請求項1において、圧電素子の伸縮方向に沿って延びる平面部に押圧用のバネ作用部を設けた弾性部材を被駆動部材に配置し、該弾性部材のバネ作用部を駆動部材に当接することにより、該被駆動部材と該駆動部材とを該弾性部材の弾性により摩擦係合することを特徴とする駆動装置。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第6図】
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【特許番号】第2633066号
【登録日】平成9年(1997)4月25日
【発行日】平成9年(1997)7月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−175544
【出願日】平成2年(1990)7月3日
【公開番号】特開平4−69070
【公開日】平成4年(1992)3月4日
【出願人】(999999999)キヤノン株式会社