説明

駆動軸

【課題】封止部材をスプラインスリーブへ簡単に固定できるようにすることで生産コストが抑えられた駆動軸を提供する。
【解決手段】シャフトヨーク3と、シャフトヨーク3の外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブ4と、スプラインスリーブ4の一端部41を封止する封止部材5とを備えた駆動軸1である。上記一端部41の内周面に封止部材5が嵌合する嵌合溝8を設け、嵌合溝8よりも開口縁側に、封止部材5を嵌合溝8に嵌合させる際に封止部材5を漸次縮径させて嵌合溝8に導く嵌合ガイド10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車その他の車両に採用される駆動軸に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動軸には、例えば特許文献1に記載のように、両端部の十字軸継手と、このうち一方の十字軸継手に接合されたシャフトヨークと、このシャフトヨークの外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブ(筒状体)と、このスプラインスリーブの一端部を封止する封止部材とを備えたものがあり、当該封止部材によりスプラインスリーブ内からのグリースの流出や、スプラインスリーブ内へのダストの侵入が防止されている。また、駆動軸の伸縮によりスプラインスリーブの内圧が増減した際に、封止部材が脱落するおそれがあるため、これを防止するためにスプラインスリーブ(筒状体)の一端部にフランジ部を形成し、これに当該封止部材を係合させて固定している。
【特許文献1】特開2004−360776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の駆動軸では、一端部に形成したフランジ部はスプラインスリーブとこれに突き合わせるチューブとを接合する際の摩擦溶接等で形成されるため、封止部材を固定するためには当該摩擦溶接等が不可欠となり、そのため生産工程における手間を要しコストが高くつくという問題がある。
本発明はこのような従来の問題点に鑑み、封止部材をスプラインスリーブへ簡単に固定でき、生産コストを抑えることができる駆動軸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち本発明は、両端部に設けられた十字軸継手と、このうち一方の十字軸継手に接合されたシャフトヨークと、前記シャフトヨークの外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブと、前記スプラインスリーブの一端部を封止する封止部材とを備えた駆動軸において、前記スプラインスリーブの一端部の内周面に円環状の嵌合溝が形成され、この嵌合溝に前記封止部材の外周部が嵌合されていると共に、前記嵌合溝よりも開口縁側に、前記封止部材を当該開口縁から前記嵌合溝に嵌合させる際に前記封止部材を漸次縮径させて前記嵌合溝に導く嵌合ガイドが設けられていることを特徴とする。
【0005】
上記本発明の駆動軸によれば、スプラインスリーブの一端部の内周面に、封止部材が嵌合する円環状の嵌合溝が形成されており、この嵌合溝よりも開口縁側に設けられた嵌合ガイドにより、封止部材を嵌合溝に嵌合させる際に当該封止部材が漸次縮径されて嵌合溝に導かれる。従って、封止部材をスプラインスリーブの開口縁から嵌合溝に向かって押し込んでいくだけで、当該封止部材を固定することができる。これにより、封止部材の固定が非常に簡単となり、生産コストを抑えることができる。
【0006】
上記本発明において、前記封止部材が、前記スプラインスリーブの内圧を受けることにより前記外周部を径方向外方へ広げる膨出部を有していることが好ましい。
この場合、駆動軸が軸方向に縮んでスプラインスリーブに内圧がかかった際に、封止部材の外周部が径方向外方へ広がるので、当該外周部と嵌合溝との密着度合いが増し、封止部材のシール性を向上することができると共に、封止部材が嵌合溝から脱落するのを確実に防止することができる。
【0007】
また、本発明は、両端部に設けられた十字軸継手と、このうち一方の十字軸継手に接合されたシャフトヨークと、前記シャフトヨークの外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブと、前記スプラインスリーブの一端部を封止する封止部材とを備えた駆動軸において、前記スプラインスリーブの一端部の内周面に円環状の嵌合溝が形成され、この嵌合溝に前記封止部材の外周部が嵌合されていると共に、前記封止部材の外周部に、当該封止部材を前記スプラインスリーブの開口縁から前記嵌合溝に嵌合させる際に当該封止部材を漸次縮径させて前記嵌合溝に導く外周ガイドが設けられていることを特徴とする。
【0008】
上記本発明の駆動軸によれば、スプラインスリーブの一端部の内周面に、封止部材が嵌合する円環状の嵌合溝が形成されており、封止部材の外周部に設けられた外周ガイドにより、封止部材を嵌合溝に嵌合させる際に当該封止部材が漸次縮径されて嵌合溝に導かれる。従って、封止部材をスプラインスリーブの開口縁から嵌合溝に向かって押し込んでいくだけで、当該封止部材を固定することができる。これにより、封止部材の固定が非常に簡単となり、生産コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の駆動軸によれば、封止部材をスプラインスリーブの開口縁から押し込んでいくだけで、当該封止部材を固定することができるので、封止部材の固定が非常に簡単となり、生産コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明に係る駆動軸1の一実施形態を示す側面図(一部断面を含む)である。この駆動軸1は、両端部に配置された十字軸継手2と、このうち一方の十字軸継手2に接合されたシャフトヨーク3と、シャフトヨーク3の外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブ4と、スプラインスリーブ4の一端部41に設けられた金属製の封止部材5と、スプラインスリーブ4及び他方の十字軸継手2に両端部が接合されたスリーブヨーク6とを備えている。
【0011】
十字軸継手2は、十字軸22とヨーク21を備えており、シャフトヨーク3はその一端部がヨーク21に溶接されている。このシャフトヨーク3は筒状体からなり、駆動軸1の軸方向に延びている。また、シャフトヨーク3の外周面及び、スプラインスリーブ4の内周面には、それぞれスプライン歯7が形成されており、これにより回転トルク伝達しつつ駆動軸1が軸方向に伸縮自在となっている。また、スプライン歯7には、スプラインスリーブ4がスムーズにスライドできるように潤滑剤としてのグリースが塗布されている。
【0012】
図1及び図2に示すように、スプラインスリーブ4の一端部41は、軸方向外方に向かうに従って径方向外方に広がっており、スプラインスリーブ4の一端部41の開口縁には内向きの鍔部9が形成されている。この鍔部9と傾斜面41aで断面三角形状の嵌合溝8が形成されている。そして、この嵌合溝8に封止部材5の外周部5aが嵌合されて当該封止部材5が固定されている。
また、嵌合溝8よりも開口縁側(図2において右側)である鍔部9の内周には、封止部材5を当該開口縁から嵌合溝8に嵌合させる際に封止部材5を漸次縮径させて嵌合溝8に導く嵌合ガイド10が設けられている。嵌合ガイド10は、スプラインスリーブ4の一方の端面から嵌合溝8に渡って軸方向内方に向かうに従って径方向内方に傾斜している。
【0013】
上記封止部材5は、円板状に形成されており、その外周部5aは平坦な環状に形成され、当該外周部5aの内方に、軸方向内奥側へ向かって膨らむ膨出部5bを有している。この膨出部5bは、球面状のものであり、スプラインスリーブ4が軸方向に延びた状態から縮むことにより、シャフトヨーク3の内部の圧力(内圧)が上昇した際に、外周部5aが径方向外方へ広がるようになっている。
また、封止部材5の外径は、嵌合ガイド10の最小内径よりも大きくなっており、封止部材5の外周部5aの外側面が、鍔部9の内側面9bに当接している。それと共に、封止部材5の外周部5aの内側の角縁a1が、嵌合溝8を構成するスプラインスリーブ4の内周傾斜面41aに当たっている。これにより、封止部材5がスプラインスリーブ4から外側へ抜けず、かつ、軸方向内奥側へ動かないようになっている。
【0014】
このように、封止部材5の外周部5aが嵌合溝8に当接状態となっていることから、スプライン歯7に塗布されたグリースの流出や、スプラインスリーブ4外からシャフトヨーク3内へのダストの侵入が防止されている。また、封止部材5が内圧を受けると、外周部5aが径方向外方へ広がるので、外周部5aの角縁a1は嵌合溝8の傾斜面41aに押し当てられ、封止部材5によるシール性を向上することができると共に、封止部材5が嵌合溝8から脱落するのを確実に防止することができる。
【0015】
以上の構成であれば、スプラインスリーブ4に封止部材5を固定する際に、封止部材5の外周部5aを嵌合ガイド10へ軸方向から押し当てて当該封止部材5を押圧するだけで、封止部材5を漸次縮径させながら嵌合溝8の方向へ押し込んでいくことができ、外周部5aが嵌合ガイド10の先縁を乗り越えた時点で、当該外周部5aを嵌合溝8に弾発的に係合させて、封止部材5を固定することができる。
このように、封止部材5をスプラインスリーブ4の開口縁から嵌合溝8に向かって押し込んでいくだけで、当該封止部材5を固定することができるので、封止部材5の固定が非常に簡単となり、生産コストを抑えることができる。
【0016】
図3は、封止部材21の変形例を示している。この封止部材21は、外周側に平面部をもたず全体が湾曲面となるように構成されており、同図に示すように、封止部材21の端面21tが鍔部19の内側面19bに当接されかつ先端縁a1が嵌合溝8の隅に突き当てられている。また、嵌合ガイド20がスプラインスリーブ4の軸方向内奥側に向かうに従って径方向内方へ傾斜すると共に、その傾斜面の外縁の径(最大径)は封止部材21の外径よりも大きくなっている。以上の構成により、封止部材21を嵌合ガイド20へ軸方向から押し当てていくだけで当該封止部材21をスプラインスリーブ4に簡単に固定することができる。
【0017】
図4は、本発明の第二実施形態を示している。本実施形態が上記実施形態と異なる点は、スプラインスリーブ4に嵌合ガイドは設けられておらず、封止部材30の外周部30aに嵌合ガイド35が設けられている点である。なお、上記実施形態と共通する点は、同符号を付してその説明を省略する。上記嵌合ガイド35は、封止部材30をスプラインスリーブ4に押し込む方向に向かうにしたがって径方向内方へ傾斜する傾斜面となっている。これにより、封止部材30をスプラインスリーブ4の開口縁から嵌合溝8に嵌合させる際に当該封止部材30を嵌合ガイド35によって漸次縮径させて嵌合溝8に導くことができ、上記実施形態と同様、当該封止部材30をスプラインスリーブ4に簡単に固定することができる。
本発明は上記実施形態に限定するものではなく、係合溝や鍔部、拡径部の形状や、駆動軸の形態は適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】駆動軸の一実施形態を示す側面図(一部断面を含む)である。
【図2】図1の要部断面図である。
【図3】封止部材の変形例を示す要部断面図である。
【図4】第二実施形態を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 駆動軸
2 十字軸継手
3 シャフトヨーク
4 スプラインスリーブ
4a 一端部
5、21、30 封止部材
5a,30a 外周部
5b、30b 膨出部
6 スリーブヨーク
8 嵌合溝
10、20 嵌合ガイド
35 嵌合ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部に設けられた十字軸継手と、このうち一方の十字軸継手に接合されたシャフトヨークと、前記シャフトヨークの外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブと、前記スプラインスリーブの一端部を封止する封止部材とを備えた駆動軸において、前記スプラインスリーブの一端部の内周面に円環状の嵌合溝が形成され、この嵌合溝に前記封止部材の外周部が嵌合されていると共に、前記嵌合溝よりも開口縁側に、前記封止部材を当該開口縁から前記嵌合溝に嵌合させる際に前記封止部材を漸次縮径させて前記嵌合溝に導く嵌合ガイドが設けられていることを特徴とする駆動軸。
【請求項2】
前記封止部材が、前記スプラインスリーブの内圧を受けることにより前記外周部を径方向外方へ広げる膨出部を有している請求項1に記載の駆動軸。
【請求項3】
両端部に設けられた十字軸継手と、このうち一方の十字軸継手に接合されたシャフトヨークと、前記シャフトヨークの外周部に摺動自在にスプライン嵌合されたスプラインスリーブと、前記スプラインスリーブの一端部を封止する封止部材とを備えた駆動軸において、前記スプラインスリーブの一端部の内周面に円環状の嵌合溝が形成され、この嵌合溝に前記封止部材の外周部が嵌合されていると共に、前記封止部材の外周部に、当該封止部材を前記スプラインスリーブの開口縁から前記嵌合溝に嵌合させる際に当該封止部材を漸次縮径させて前記嵌合溝に導く外周ガイドが設けられていることを特徴とする駆動軸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−100877(P2007−100877A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292812(P2005−292812)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】