説明

騒音抑制装置及び自動販売機

【課題】 自動販売機100を壁面に近接配置した場合に、背面パネル3の通気口3Hから外部に漏洩する騒音を抑制することができる騒音抑制装置110を提供する。
【解決手段】 筐体1内に騒音源を収容し、前面パネル2及び背面パネル3に通気口2H,3Hがそれぞれ形成された自動販売機100において、騒音源よりも前方に配置されたマイクロホン10及び前方用スピーカ11と、騒音源よりも後方に配置された後方用スピーカ12と、マイクロホン10の出力信号に基づいて、前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12を駆動し、2つの通気口2H,3Hから漏出する騒音をそれぞれ抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音抑制装置及び自動販売機に係り、さらに詳しくは、騒音源を収容し、背面を壁面に対向させた筐体の前面及び背面に設けられた各開口部から漏出する騒音を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音源で生成された騒音をマイクロホンで検出し、当該騒音とは逆位相の音をスピーカから出力することによって、上記騒音を低減させるアクティブ消音の技術が従来から知られている。アクティブ消音とは、マイクロホンが検出した騒音について、周波数成分ごとにゲイン及び位相を調整し、スピーカの駆動信号を生成する方法であり、スピーカから騒音を打ち消すための制御音を出力させることができる。
【0003】
最近では、内部の騒音源から発生した騒音が外部に漏洩するのを低減させたアクティブ消音機能付きの自動販売機が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。通常、自動販売機には、熱交換器を冷却するための冷却ファンが筐体内に設置されており、商品選択スイッチなどが設けられた前面パネルには、空気を吸入するための通気口が形成されている。この通気口から筐体内に吸入された空気は、冷却ファンによって後方へ送出され、筐体背面の通気口から外部へ排出される。
【0004】
この様な自動販売機の場合、冷却ファンで発生した騒音が通気口を介して外部に漏洩してしまうという問題があった。そこで、従来のアクティブ消音機能付きの自動販売機は、前面パネルに前方用マイクロホン及び前方用スピーカを設置し、前方用マイクロホンからの入力信号に基づいて前方用スピーカを駆動することによって、筐体前面の通気口から外部に漏洩する騒音を低減させていた。また、筐体の背面側にも、後方用マイクロホン及び後方用スピーカを設置し、後方用マイクロホンからの入力信号に基づいて後方用スピーカを駆動することによって、筐体背面の通気口から外部に漏洩する騒音を低減させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−210342号公報
【特許文献2】特開2008−210343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般的に自動販売機は、通路の邪魔にならないように、筐体の背面側を建屋などの壁面に近接させて設置されることが多い。この場合、自動販売機の筐体背面側に設置された後方用マイクロホンには、騒音源からの直接音の他に、壁面で反射して筐体背面の通気口から侵入した騒音の反射音も入力されることになる。
【0007】
この反射音の強度及び位相は、壁面の表面状態や、筐体背面と壁面との距離などに応じて異なる。このため、後方用マイクロホンで集音した音から直接音を特定することが難しく、直接音を十分に打ち消すことができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、騒音源を収容し、筐体の前面及び背面にそれぞれ開口部が設けられた機器、特に、背面を壁面に近接させて設置することが想定される機器において、筐体背面の開口部から外部に漏出する騒音を効果的に抑制することができる騒音抑制装置及び自動販売機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の本発明による騒音抑制装置は、騒音源を収容し、背面を壁面に対向させた筐体の前面及び背面に設けられた各開口部から漏出する騒音を抑制する騒音抑制装置であって、上記騒音源よりも前方に配置された前方用スピーカ及びマイクロホンと、上記騒音源よりも後方に配置された後方用スピーカと、上記マイクロホンの出力信号に基づいて、上記前方用スピーカ及び後方用スピーカを駆動し、2つの上記開口部から漏出する騒音をそれぞれ抑制する制御ユニットとを備えて構成される。
【0010】
この様な構成によれば、騒音源よりも前方に配置されたマイクロホンの出力信号に基づいて、騒音源よりも後方に配置された後方用スピーカを駆動し、筐体背面の開口部から漏出する騒音を抑制することができる。このため、騒音抑制装置を搭載した機器を壁面近傍に設置するために当該機器の筐体背面を壁面に対向させた場合であっても、壁面からの反射音の影響を受けることなく、騒音を効果的に抑制することができる。
【0011】
第2の本発明による騒音抑制装置は、上記構成に加え、上記制御ユニットが、上記前方用スピーカ及び後方用スピーカから出力される音の位相差を調整する位相差調整手段を備えて構成される。一般に、同一の騒音源から逆方向に伝搬する騒音の位相差は一定であり、また、騒音源から前方用スピーカ及び後方用スピーカまでの距離差も一定となっている。このため、前方用スピーカ及び後方用スピーカから出力される音の位相差を調整することによって、前方用スピーカによる消音が効果的に行われている場合には、後方用スピーカによる消音も効果的に行うことができる。
【0012】
第3の本発明による騒音抑制装置は、上記構成に加え、上記騒音源が、回転運動を行う回転可動部を有し、上記前方用スピーカ及び後方用スピーカが、互いに略逆位相の音を出力するように構成される。冷却ファンなどのように回転運動を行う回転可動部を有する騒音源の場合、騒音源から逆方向に伝搬する騒音は逆位相となる。このため、騒音源から前方用スピーカ及び後方用スピーカまでの距離差が騒音の波長に比べて十分に小さい場合、前方用スピーカ及び後方用スピーカから出力される音が略逆位相であれば、筐体背面の開口部から漏れ出る騒音も効果的に抑制することができる。
【0013】
第4の本発明による自動販売機は、上記騒音抑制装置を搭載したことを特徴としている。この様な構成によれば、騒音源よりも前方に配置されたマイクロホンの出力信号に基づいて、騒音源よりも後方に配置された後方用スピーカを駆動し、筐体背面の開口部から漏出する騒音を抑制することができる。このため、自動販売機を壁面近傍に設置するために自動販売機の筐体背面を壁面に対向させた場合であっても、壁面からの反射音の影響を受けることなく、騒音を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による騒音抑制装置及び自動販売機は、騒音源よりも前方に配置されたマイクロホンの出力信号に基づいて、前方用スピーカ及び後方用スピーカを駆動し、筐体の前面及び背面にそれぞれ設けられた開口部から漏出する騒音を抑制している。これにより、この騒音抑制装置を搭載した機器を壁面近傍に設置するために当該機器の筐体背面を壁面に対向させた場合であっても、壁面からの反射音の影響を受けることなく、騒音を効果的に抑制することができる。また、このようなアクティブ消音を簡単な構成によって実現しているため、騒音抑制装置を安価に提供することができる。
【0015】
また、本発明による自動販売機は、騒音源よりも前方に配置されたマイクロホンの出力信号に基づいて、前方用スピーカ及び後方用スピーカを駆動し、筐体の前面及び背面にそれぞれ設けられた開口部から漏出する騒音を抑制している。このため、この自動販売機を壁面近傍に設置するために筐体背面を壁面に対向させた場合であっても、壁面からの反射音の影響を受けることなく、騒音を効果的に抑制することができる。また、このようなアクティブ消音を簡単な構成によって実現しているため、自動販売機を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態による騒音抑制装置を搭載した機器の概略構成の一例を示した図であり、その様な機器の一例として自動販売機100が示されている。
【図2】図1の自動販売機100の前面パネル2を開いた状態を示した図である。
【図3】図1の自動販売機100の断面図であり、図1のA−A線による切断面が示されている。
【図4】図1の自動販売機100の断面図であり、図1のB−B線による切断面が示されている。
【図5】図1の自動販売機100における動作の一例を示した図であり、前方チャネルと後方チャネルとの間でクロススペクトルを解析した解析結果が示されている。
【図6】図1の自動販売機100に搭載した騒音抑制装置110の構成例を示したブロック図である。
【図7】自動販売機100の前方に配置された音の観測点P11〜P13、P21〜P23、P31〜P33が示された図である。
【図8】自動販売機100の後方から前方への騒音の回り込みについての実験結果を示した図である。
【図9】図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、前後のスピーカ間の位相差を異ならせて観測された観測結果が示されている。
【図10】図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、背面パネル3から壁面までの距離が10mmである場合が示されている。
【図11】図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、背面パネル3から壁面までの距離が50mmである場合が示されている。
【図12】図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、背面パネル3の後方に壁面が存在しない場合が示されている。
【図13】図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、前後方用スピーカの位相差が195°の場合の観測結果が示されている。
【図14】図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、前後のスピーカ間のゲイン差を異ならせて観測された消音効果の観測結果が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の形態による騒音抑制装置を搭載した機器の一例を示した外観図であり、騒音抑制装置を搭載した機器の一例として自動販売機100が示されている。図中の(a)には、自動販売機100を正面方向から見た様子が示され、(b)には、側面方向から見た様子が示されている。図2は、図1の自動販売機100の前面パネル2を開いた状態を示した図である。また、図3は、図1の自動販売機100の断面図であり、図1のA−A線による切断面が示されている。以下では、図1(b)及び図3における左側を前方、右側を後方として説明する。
【0018】
自動販売機100は、缶やペットボトルに封入された飲料を商品として販売する自動販売機であり、筐体1内に多数の商品が収容されている。筐体1は、互いに対向する前面パネル2及び背面パネル3を有する直方体形状からなる。筐体1は、その前面全体を開放する開口が形成されており、この開口を覆う前面パネル2が筐体1に対して開閉可能に取り付けられている。筐体1の底面には、脚部4が取り付けられている。
【0019】
前面パネル2の前面中央部には、商品を購入しようとする利用者が貨幣を投入する際に使用する貨幣投入部5が形成されている。この貨幣投入部5には、硬貨を投入するための硬貨投入口5Aと、紙幣を投入するための紙幣投入口5Bと、投入された貨幣の返却を指示するための返却レバー5Cと、投入された貨幣の合計金額を表示する投入金額表示部5Dが設けられている。
【0020】
前面パネル2の前面上部には、商品の見本が展示されたディスプレイ部7が形成されている。このディスプレイ部7には、展示されている各見本に対応付けられた複数の商品選択スイッチ7Aが設けられている。操作スイッチ7Aは、商品を選択するための操作手段であり、利用者は、貨幣を投入した後、いずれかの商品選択スイッチ7Aを操作することにより、その選択スイッチ7Aに対応する商品を購入することができる。購入が指示された商品は、筐体1内の下部に送り出され、前面パネル2の下部に形成された横長形状の商品取出口8から取り出すことができる。
【0021】
前面パネル2の背面中央部には、貨幣処理ユニット28が設けられている。貨幣処理ユニット28は、硬貨投入口5A及び紙幣投入口5Bから投入される貨幣を貯留するとともに、必要に応じて硬貨返却口6又は紙幣投入口5Bから貨幣を返却する処理を行っている。貨幣処理ユニット28の右側には、自動販売機100の動作を制御する制御ユニット13が設けられている。
【0022】
筐体1内には、その中央部から上部にわたる領域に商品を収容するための商品収容部21が形成されており、筐体1内の前方には、商品収容部21から商品取出口8側へ商品を排出するための商品排出口22が形成されている。
【0023】
筐体1内の下部には、商品収容部21内に収容されている商品を冷却する冷却器24と、冷却器24へ供給される冷媒を圧縮するコンプレッサー27と、圧縮された冷媒を液化させる熱交換器25と、熱交換器25を冷却するための冷却ファン26と、後方用スピーカ12とが配置されている。
【0024】
前面パネル2の底部には、横長形状の通気口2Hが形成され、背面パネル3の下部にも通気口3Hが形成されている。通気口2H及び通気口3Hは、筐体1の内外を連通させる開口部であり、通気口2Hを介して外部から吸入された空気は、通気口3Hを介して外部へ排出される。背面パネル3は、冷却ファン26やコンプレッサー27などの騒音源を挟んで前面パネル2と反対側に設置され、自動販売機100は、背面パネル3を壁面に対向させて配置されている。
【0025】
冷却ファン26は、前面パネル2に設けられた通気口2Hを介して吸入された空気を後方へ送出する軸流ファンであり、プロペラ状の羽根を電気モーターによって回転させることにより、気流を生じさせている。コンプレッサー27は、ロータリーピストン型の圧縮機であり、ロータリーピストンを電気モーターによって回転させることにより、冷媒圧縮を行っている。
【0026】
商品収容部21の下方には仕切板23が設けられており、その下側に、筐体1内を前後方向に貫通するダクト状空間が形成されている。熱交換器25、冷却ファン26及びコンプレッサー27は、このダクト状空間内に配置されている。
【0027】
前面パネル2の下部には、マイクロホン10及び前方用スピーカ11が配設されている。マイクロホン10は、冷却ファン26やコンプレッサー27などの騒音源で発生した音を電気信号に変換する入力装置である。前方用スピーカ11は、前面パネル2の通気口2Hから外部へ放出される騒音に対し逆位相となる制御音を出力する出力装置である。ここでは、マイクロホン10及び前方用スピーカ11が、前面パネル2の背面からダクト状空間内に向けて配置されているが、少なくとも騒音源よりも前方に配置されていればよい。例えば、前面パネル2の前面下部から外部に向けて配置されていてもよい。
【0028】
後方用スピーカ12は、冷却ファン26やコンプレッサー27などの騒音源よりも後方の筐体1内に設置され、背面パネル3の通気口3Hから外部へ放出される騒音に対し逆位相となる制御音を出力する出力装置である。ここでは、後方用スピーカ12が、ダクト状空間の周辺にダクト状空間に向けて配置されているが、少なくとも騒音源よりも後方に設置されていればよく、例えば、ダクト状空間内に配置されていてもよいし、背面パネル3に設置されていてもよい。
【0029】
次に、アクティブ消音機能について説明する。アクティブ消音機能は、マイクロホン10からの入力信号に基づいて前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12を駆動し、自動販売機100内の冷却ファン26やコンプレッサー27から発生した騒音を前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12から出力する制御音によって消音する機能である。
【0030】
図4は、図1の自動販売機100の断面図であり、図1のB−B線による切断面が示されている。背面パネル3は、冷却ファン26などの騒音源を挟んで前面パネル2と反対側に設置され、自動販売機100は、背面パネル3を壁面に対向させて配置される。
【0031】
冷却ファン26は、プロペラ状の羽根を回転させることによって気流を生じさせる送風機であり、前面パネル2に設けられた通気口2Hを介して吸入された空気を後方へ送出する。前方用スピーカ11は、冷却ファン26の前方に当該冷却ファン26に向けて配置され、後方用スピーカ12は、冷却ファン26に関して前面パネル2とは反対側に配置されている。後方用スピーカ12は、その音源中心が冷却ファン26の後方に位置するように位置決めされている。
【0032】
冷却ファン26から発生する騒音は、主として、羽根の回転数及び羽根の枚数に応じた周波数からなる騒音であり、この騒音が冷却ファン26の前方及び後方へ伝搬する。マイクロホン10には、冷却ファン26から前方に伝搬する音と、前方用スピーカ11から出力された音が入力される。冷却ファン26から前方へ伝搬する音に対し逆位相となる音を前方用スピーカ11に出力させることによって、冷却ファン26から前方へ伝搬する騒音を消音することができる。
【0033】
図5は、図1の自動販売機100における動作の一例を示した図であり、前方用マイクロホンによる検出信号と後方用マイクロホンによる検出信号との間でクロススペクトルを解析した解析結果が示されている。前方用マイクロホンは、冷却ファン26の前方に配置した観測用のマイクロホンであり、後方用マイクロホンは、冷却ファン26の後方に配置した観測用のマイクロホンである。
【0034】
図中の(a)には、前方用マイクロホンの検出信号のパワースペクトルが示され、(b)には、後方用マイクロホンの検出信号の前方用マイクロホンに対する位相差が示されている。
【0035】
前方用マイクロホンの検出信号のパワースペクトルは、周波数85Hz付近にパワーが最大のピーク点E1が存在している。後方用マイクロホンの検出信号の前方用マイクロホンに対する位相差は、前後の検出信号間のクロススペクトル解析によって算出される。ピーク点E1近傍における上記位相差は、安定しており、概ね−185°(deg)の定常状態E2となっている。
【0036】
つまり、冷却ファン26は、前後で逆位相の音を発生しており、前方用スピーカ11に対して最適制御した出力を位相反転させ、前方用スピーカ11及び冷却ファン26間の距離と後方用スピーカ12及び冷却ファン26間の距離との差分に応じた補正量を付加して後方用スピーカ12から出力すれば、冷却ファン26から後方に伝搬する騒音を効果的に消音することができる。
【0037】
図4の例では、筐体1の左右方向の長さD1=1000mm、前後方向の長さD2=640mm、マイクロホン10及び前方用スピーカ11間の距離D3=260mm、前方用スピーカ11及び冷却ファン26間の距離D4=200mm、後方用スピーカ12及び冷却ファン26間の距離D5=240mmとなっている。冷却ファン26の騒音が周波数=85Hz付近に強度のピークを有し、音速=340mであるとすれば、波長λ=4000mmとなる。このため、後方用スピーカ12の制御音は、前方用スピーカ11の制御音に対する位相差αが、次式(1)を満たすように位相差調整を行えば、後方用スピーカ12を用いて後方へ伝搬する騒音も消音することができる。
α=(D4−D5)/λ×360°−180°・・・(1)
【0038】
この例では、位相差α=(200−240)/4000×360°−180°=−183.6°であり、距離差(D4−D5)、消音対象とする音の波長λに応じて、逆位相(−180°)から若干ずれた値となっている。
【0039】
この様にして、前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12の位相差αは、騒音の波長λと、騒音源から各スピーカ11,12への距離差によって求めることができる。また、位相差αを計算で求めるのではなく、オペレータが手動調整しながら、消音効果の高い位相差αの値を求めてもよい。この様にして、適切な位相差αが得られれば、前方用スピーカ11によって効果的な消音が行われている場合に、後方用スピーカ12によっても効果的な消音が行われることになり、後方用スピーカ12の調整作業が容易となる。
【0040】
図6は、図1の自動販売機100に搭載された騒音抑制装置110の構成例を示したブロック図である。この騒音抑制装置110は、マイクロホン10、前方用スピーカ11、後方用スピーカ12、アンプ35及び制御ユニット13により構成される。制御ユニット13は、マイクロホン10の出力信号に基づいて前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12を駆動する制御装置であり、制御音生成部31、ゲイン調整部32,34及び位相調整部33により構成される。
【0041】
制御音生成部31は、マイクロホン10の出力信号に基づいて、前面パネル2の通気口2Hから外部に漏れ出る騒音を抑制するための制御音信号を生成し、ゲイン調整部32及び位相調整部33へ出力する動作を行っている。制御音信号は、マイクロホン10に入力される音を基準として、前方用スピーカ11から出力される音の位相及び強度を調整するための駆動信号である。位相及び強度の調整値は、前方用スピーカ11及び冷却ファン26間の距離と、マイクロホン10及び冷却ファン26間の距離との差分を考慮して、予め設定される。この制御音信号により、冷却ファン26から前方へ伝わる騒音に対し、逆位相の制御音を前方用スピーカ11に出力させることができる。
【0042】
ゲイン調整部32は、制御音生成部31からの制御音信号のゲイン調整を行い、マイクロホン10の出力に比べてゲインをΔG1だけ増加させて前方用スピーカ11へ出力する機能を有する。
【0043】
位相調整部33は、前方用スピーカ11から出力される音とは略逆位相の音を後方用スピーカ12に出力させるために、制御音生成部31からの制御音信号の位相を位相差αだけ移相させてゲイン調整部34へ出力する制御音の位相差調整手段である。具体的には、前方用スピーカ11から出力される音に対する位相差αが、上述した関係式(1)を満たすように位相調整が行われる。
【0044】
ゲイン調整部34は、位相調整部33からの制御音信号のゲイン調整を行い、マイクロホン10の出力に比べてゲインをΔG2だけ増加させて後方用スピーカ12へ出力する機能を有する。
【0045】
ゲイン調整部32及び34によるゲイン調整は、独立して行うことができ、前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12から出力される制御音による消音効果が最大となるように調整値ΔG1,ΔG2が予め設定される。なお、ゲイン調整部32及び前方用スピーカ11間と、ゲイン調整部34及び後方用スピーカ12間には、それぞれ増幅率一定のアンプ35が設けられている。
【0046】
図7〜図13は、図1の自動販売機100による消音効果を検証するための実験に関する図である。本発明者らは、図1の自動販売機100による消音効果を検証するために種々の実験を行った。これらの実験の内容及び結果について、図7〜図13を用いて、詳細に説明する。
【0047】
図7及び図8は、背面から漏洩した騒音の自動販売機100前方への回り込みについて検証する実験の説明図である。図7には、自動販売機100の前方に配置された9個の音の観測点P11〜P13、P21〜P23、P31〜P33が示されている。観測点P11〜P13は、自動販売機から正面方向に1m離れた観測点であり、自動販売機の設置面からの高さがそれぞれ1.5m、1.0m、0.5mの位置に配置されている。観測点P21〜P23は、正面方向と45°をなす斜め左方向(左45°)に1m離れた観測点、観測点P31〜P33は、正面方向と45°をなす斜め右方向(右45°)に1m離れた観測点であり、いずれも高さは観測点P11〜P13の場合と同様である。
【0048】
図8は、自動販売機100の後方から前方への騒音の回り込みについての実験結果を示した図である。図中の(a)には、前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12を用いて消音を行った場合の観測結果が示され、(b)には、前方用スピーカ11のみを用いて消音を行った場合の観測結果が示されている。これらの観測結果は、前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12のいずれも用いなかった場合に対する消音効果がdB単位で示されている。
【0049】
前方用スピーカ11のみを用いた場合には、前後のスピーカ11,12をともに用いた場合に比べて、消音効果が低下することは言うまでもない。しかしながら、この観測結果から、前方用スピーカ11だけでも、正面方向の低い位置ではある程度の消音効果が得られるが、正面方向の高い位置では消音効果が大きく低下することがわかる。また、斜め左方向や斜め右方向では、消音効果が更に大きく低下することがわかる。つまり、前方用スピーカ11のみを用いて、後方用スピーカ12を用いなければ、通気口3Hから漏出した騒音が自動販売機100の前方へ回り込むことにより、自動販売機100前方における騒音レベルを十分に抑制することはできない。
【0050】
従来の自動販売機の場合、背面パネル3の近傍に壁が存在すれば、騒音源よりも後方に設置されたマイクロホンには、騒音源からの直接音だけでなく、壁面で反射された反射音も入力される。このため、従来の自動販売機では、背面パネル3の通気口3Hから外部に漏洩する騒音を十分に消音できなかった。そこで、単純に、後方用スピーカ12を停止させ、前方用スピーカ11のみを稼動させることも考えられるが、上記実験結果から、前方用スピーカ11のみを用いた場合、自動販売機100前方において十分な消音効果を得ることができない。
【0051】
これに対し、本実施の形態による自動販売機100では、前面パネル2に設けられたマイクロホン10からの入力信号に基づいて前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12を駆動することにより、壁面に対向する通気口3Hから漏洩する騒音も効果的に抑制することができる。このため、従来の自動販売機において、後方用スピーカ12を停止させ、前方用スピーカ11のみを稼動させる場合に比べても、消音効果が高いことがわかる。
【0052】
図9は、図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、前後のスピーカ11,12間の位相差を180°を中心として両方向に変化させて観測された消音効果の観測結果が示されている。なお、図中の三角印は、斜め左方向の観測点P1における観測結果、丸印は、正面方向の観測点P2における観測結果、四角印は、斜め右方向の観測点P3における観測結果を示している。
【0053】
後方用スピーカ12から出力される音は、前方用スピーカ11から出力される音とは略逆位相であり、位相差は、180°を中心とし、前方用スピーカ11及び冷却ファン26間の距離D4と、後方用スピーカ12及び冷却ファン26間の距離D5との差分に応じて調整される。
【0054】
この実験結果から、図1の自動販売機では、前後のスピーカの位相差が175°以上200°以下である範囲C1において、いずれの観測点P1〜P3についても10dB以上の消音効果があり、消音効果が最大となることがわかる。
【0055】
図10〜図12は、図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、壁面までの距離を異ならせて観測された消音効果の観測結果が示されている。図10には、背面パネル3から壁面までの距離が10mmである場合が示されている。この場合、前後のスピーカ11,12の位相差が190°以上210°以下である範囲C2において、いずれの観測点P1〜P3についても10dB以上の消音効果がある。
【0056】
図11には、背面パネル3から壁面までの距離が50mmである場合が示されている。この場合には、前後方用スピーカの位相差が185°以上205°以下である範囲C3において、いずれの観測点P1〜P3についても10dB以上の消音効果がある。
【0057】
図12には、背面パネル3の後方に壁面が存在しない場合が示されている。この場合には、前後方用スピーカの位相差が175°以上205°以下である範囲C4において、いずれの観測点P1〜P3についても10dB以上の消音効果がある。
【0058】
図10〜図12の観測結果から、前後のスピーカ11,12の位相差が175°以上200°以下である範囲において、いずれの観測点P1〜P3についても5dB以上の消音効果があり、従来の装置において前方用スピーカ11のみを稼動させる場合よりも消音効果が高くなっている。特に、位相差が195°付近において、横方向の消音効果が高くなっている。
【0059】
図13は、図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、前後のスピーカの位相差が195°の場合の観測結果が示されている。図中の(a)には、背面パネル3から壁面までの距離が10mmである場合が示され、(b)には、背面パネル3の後方に壁面が存在しない場合が示されている。
【0060】
壁面までの距離が10mmである場合の高さ=1.5mにおける観測結果と、高さ=0.5mにおける観測結果とを除いて、いずれの場合にも10dB以上の消音効果があり、正面方向及び横方向のいずれについても高い消音効果が得られている。
【0061】
図14は、図1の自動販売機100における消音動作の一例を示した図であり、前後のスピーカ間のゲイン差を0を中心として異ならせて観測された消音効果の観測結果が示されている。この図には、自動販売機100の正面方向に対して斜め45°左方向の観測点をP1、正面方向の観測点をP2、斜め45°右方向の観測点をP3とし、前後のスピーカ間の位相差が180°で固定されている場合に、後方用スピーカ12のゲインを変化させて得られた観測結果が示されている。
【0062】
前後のスピーカのゲイン差が0付近では、いずれの観測点P1〜P3においても10dB以上の消音効果があり、消音効果が最大となっている。
【0063】
本実施の形態によれば、前面パネル2に設けられたマイクロホン10の出力信号に基づいて前方用スピーカ11及び後方用スピーカ12を駆動し、冷却ファン26などの騒音源から伝わる騒音をこれらのスピーカから出力される音によって消音するので、自動販売機100を建屋の壁面に近接させて配置した際に、背面パネル3の通気口3Hから侵入する騒音の反射音の影響を受けることなく、騒音を低減させることができる。
【0064】
なお、本実施の形態では、騒音源としての冷却ファンやコンプレッサーを内蔵する自動販売機の例について説明したが、本発明は、この様な場合には限定されない。すなわち、騒音源を内蔵する種々の装置、例えば、冷蔵庫やパーソナルコンピュータなどに適用することもできる。また、本発明は、冷却ファンやコンプレッサーのような回転運動を行う騒音源を内蔵する機器に好適であるが、騒音源は、冷却ファンやコンプレッサーには限定されず、回転運動を行うものにも限定されない。
【0065】
また、本実施の形態では、前方と後方とで逆位相の騒音を抑制する場合の例について説明したが、本発明は、この様な場合には限定されず、前方と後方とで逆位相とならない騒音を抑制する装置にも適用することができる。例えば、騒音源の前方と後方とで同位相の騒音を発生する騒音源が筐体内に収容される場合、距離差(D4−D5)に比例する位相の調整値を設定することにより、前後の通気口から外部に漏れ出る騒音を抑制することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 自動販売機
110 騒音抑制装置
1 筐体
2 前面パネル
2H 通気口
3 背面パネル
3H 通気口
4 脚部
5 貨幣投入部
6 硬貨返却口
7 ディスプレイ部
8 商品取出口
10 マイクロホン
11 前方用スピーカ
12 後方用スピーカ
13 制御ユニット
21 商品収容部
22 商品排出口
23 仕切板
24 冷却器
25 熱交換器
26 冷却ファン
27 コンプレッサー
28 貨幣処理ユニット
31 制御音生成部
32 ゲイン調整部
33 位相調整部
34 ゲイン調整部
35 アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音源を収容し、背面を壁面に対向させた筐体の前面及び背面に設けられた各開口部から漏出する騒音を抑制する騒音抑制装置であって、
上記騒音源よりも前方に配置された前方用スピーカ及びマイクロホンと、
上記騒音源よりも後方に配置された後方用スピーカと、
上記マイクロホンの出力信号に基づいて、上記前方用スピーカ及び後方用スピーカを駆動し、2つの上記開口部から漏出する騒音をそれぞれ抑制する制御ユニットとを備えたことを特徴とする騒音抑制装置。
【請求項2】
上記制御ユニットは、上記前方用スピーカ及び後方用スピーカから出力される音の位相差を調整する位相差調整手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の騒音抑制装置。
【請求項3】
上記騒音源は、回転運動を行う回転可動部を有し、
上記前方用スピーカ及び後方用スピーカが、互いに略逆位相の音を出力することを特徴とする請求項1に記載の騒音抑制装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の騒音抑制装置を搭載したことを特徴とする自動販売機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−218430(P2010−218430A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66722(P2009−66722)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】