騒音環境評価システム
【目的】 騒音環境の変化をシミュレーションでき、視覚的な資料を作成することができる騒音環境評価システムを提供する。
【構成】 複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムであって、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段1〜3、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段4、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベル求めて合成する騒音レベル解析手段5〜7を備える。これにより、建造物の配置と騒音源を入力することによって、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、計画条件の変更等による騒音環境の変化をシミュレーションすることができ、環境変化に伴った騒音環境の予測も行うことができる。
【構成】 複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムであって、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段1〜3、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段4、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベル求めて合成する騒音レベル解析手段5〜7を備える。これにより、建造物の配置と騒音源を入力することによって、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、計画条件の変更等による騒音環境の変化をシミュレーションすることができ、環境変化に伴った騒音環境の予測も行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、都市部での人口の過密化により交通騒音、建設作業現場や工場からの騒音など、建築の音環境が悪化してきており、騒音環境の分析、対策の必要性が生じてきている。特に、建築計画を立案する際には、現状の騒音の程度や分布状態の把握、確認、計画建物ができることによる各位置での騒音環境の変化の予測が必要になる。
【0003】建物の建設計画に際して、上記のような音環境についての予測を行う場合、従来は、騒音計を使って各点の騒音レベルを測定して現状の騒音の程度や分布状態を把握した上で簡便な実験式などに基づいて騒音レベルを机上計算している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のように実験式などを用いて手計算により騒音の予測を行う従来の方法では、高層ビルが林立するようなモデルになると計算が複雑になり、短時間に多くの検討を行うことは困難である。
【0005】本発明は、上記の課題を解決するものであって、建物が計画されることによる騒音環境の変化をリアルタイムにシミュレートでき、系統的な検討が行えるとともに、一般の人に理解し易い、視覚的な資料を作成することができる騒音環境評価システムを提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】そのために本発明は、複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムであって、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベル求めて合成する騒音レベル解析手段を備えたことを特徴とするものである。
【0007】ここで、モデル化処理手段は、音源と観測点との間に障害物がある場合には大きさや形態、位置に応じた主要経路すなわち最短伝播経路の音線を設定し、障害物は1枚の単純塀と2枚の複合塀を基本として、全て障壁によりモデル化することを特徴とする。
【0008】また、騒音解析手段は、モデル化した複数の障壁のうち、最も有効な1枚の障壁における縦及び横方向の主要経路について、観測点でそれらの音圧レヘルを合成することと、騒音源が線音源又は面音源の場合には微小要素に分割してそれらの音圧レベルを合成すること、さらに、面音源で音響放射方向の真裏に観測点が位置する場合には計算を除外することを特徴とするものである。
【0009】
【作用】本発明の騒音環境評価システムでは、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段、各伝播経路による観測点の音圧レベル求めて合成する騒音解析手段を備えたので、建造物の配置と騒音源を入力することによって、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、計画条件の変更等による騒音環境の変化を自在にシミュレーションすることができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の騒音環境評価システムの1実施例を示す図、図2は検討画面の例を示す図、図3は入力メニュー画面の例を示す図、図4は音環境評価の全体の流れを説明するための図である。
【0011】図1において、1はキーボード、2はタブレット、3はマウス、4はモデル化処理部、5は音源分割処理部、6は騒音レベル解析部、7は出力処理部、8はディスプレイ、9はXYプロッタを示す。
【0012】キーボード1、タブレット2、マウス3は、図2に示すような騒音環境評価に必要な敷地や建物、騒音源、受音点等のデータを入力するための入力部を構成するものであり、ディスプレイ8、XYプロッタ9は、図3に示すような入力メニュー画面、さらにその各項目から展開される入力画面等を表示したり、騒音分布図等を印刷出力したりするための出力部を構成するものである。解析処理装置は、モデル化処理部4、音源分割処理部5、騒音レベル解析部6、出力処理部7を備え、モデル化処理部4は、入力された建物、騒音源、受音点等から音源から観測点までの音の伝播経路を音線でモデル化するものであり、音源分割処理部5は、線音源、面音源を点と見做すことができる微小要素に分割するものである。騒音レベル解析部6は、モデル化し分割した音源を基に騒音解析を行い、水平面騒音分布や垂直騒音分布、受音点騒音レベル等を求めるものであり、出力処理部7は、ディスプレイ8、XYプロッタ9に出力するためのデータ処理を行うものである。
【0013】上記システム構成の音環境評価の全体の流れは、図3に示す入力メニュー画面において、「敷地入力」や「計画建物入力」、「周辺建物入力」等の入力モードを選択することにより、解析に必要なそれぞれのデータが入力される。
【0014】まず、敷地入力を選択すると、タブレットから敷地境界線を反時計回りにフリーカーソルで入力する(ステップS1)。
【0015】続いて、計画建物入力、周辺建物入力を選択すると、順次、建物高さを地盤面からの建物全体の高さで入力し、タブレットから外形を反時計回りに入力する。また、高速道路等の防音壁及び塀や看板等の壁状の音響遮蔽物を入力するときは、防音壁入力を選択し、これから入力する防音壁の高さを入力してタブレットから防音壁をフリーカーソルで入力する(ステップS2〜ステップS4)。
【0016】次に、騒音源入力を選択する(ステップS5)。騒音源には、発生する音波の波長に比べて充分小さく、全方向に一様に音波を発生する点騒音源、一直線上に音響出力が等しい無数の点音源が連続して並んでいるような状態の線騒音源、一面上に音響出力が等しい無数の点音源が連続して分布しているような状態の面騒音源がある。そこで、設備機器等の大きさが非常に小さく、点と見做せる騒音源を入力するときは騒音源(点)入力を選択し、道路騒音、鉄道騒音等の線状の騒音源を入力するときは騒音源(線)入力を選択し、工場の外壁等の面状の騒音源を入力するときは騒音源(面)入力を選択する。そして、これから入力する点騒音源や線騒音源の高さ、面騒音源の上端・下端高さとそれぞれ例えば63Hz〜4kHzまでの1オクターブバンド毎の音圧レベル(dB)を入力してタブレットから点騒音源、線騒音源、面騒音源をフリーカーソルで入力する。
【0017】そして、騒音レベルの分布図を作成するときは、水平面騒音分布図作成、垂直面騒音分布図作成を選択し、受音点メッシュピッチ・計画面高さ・等音圧レベル点の最大最小値及びピッチ、出力図の縮尺・図面サイズ・図面タイプを入力し、タブレットより計算範囲の左下の点と右上の点を指示する(ステップS6〜S7)。
【0018】また、敷地境界線上等の任意の点の騒音レベルを計算するための受音点を入力するには、受音点入力を選択し、これから入力する受音点の高さを入力してタブレットから受音点をフリーカーソルで入力する(ステップS8)。
【0019】これらの入力により騒音解析を行って分布図や騒音レベル図を作成して出力する(ステップS9)。
【0020】次に、モデル化、音源の分割、解析について詳述する。図5は音線によるモデル化の例を説明するための図、図6は塀と建物による障害物の場合のモデル化の例を説明するための図、図7は騒音源が面音源の場合の有限障壁(図5(ハ))に対する騒音伝播モデルを説明するための図である。
【0021】音の伝播は、本来波動として捉えられるが、音の回折や干渉といった波動性を考慮した騒音の伝播予測を行うには膨大な計算時間が必要になる。そこで、騒音伝播予測計算は、音源から観測点までの音の伝播経路を何本かの線(音線)に置き換え、反射や回折の状況を幾何学的にモデル化する簡便な方法を用いる。特に、騒音伝播予測では、観測点での音圧レベルが把握できればよいので、伝播経路に複雑な反射面がない限り、こうした幾何学的なモデルに基づいた計算で短時間に実用上充分な近似を得ることができる。本発明では、このような幾何学的手法を応用して以下のように騒音伝播予測計算を行っている。
【0022】最も単純なモデルとして、図5(イ)に示すように音源(無指向性点音源を仮定)と観測点の間に、音の伝播を妨げるような障害物がない場合、音の伝播経路は、一本の音線でモデル化できる。この場合、音の逆2乗則に従い音圧は伝播距離の2乗に反比例する形で減衰するから、観測点での音圧レベルは単純な距離減衰式Lr=Lw+10 log10(Q/4πr2 )
で計算できる。ただし、Lr(dB)は音源からの距離r(m)の観測点の音圧レベル、Lw(dB)は音源のパワーレベル、Qは方向係数、r(m)は音源と観測点との距離である。
【0023】次に図5(ロ)に示すように音源と観測点との間に長い障害物11が存在する場合、音源からの受音点への最短経路を最も寄与率の高い伝播経路であると仮定して音線によるモデル化を行う。この場合、障害物による遮蔽効果によりその分音の減衰量は大きくなる。この減衰量の差をΔLとすると、この場合の観測点の音圧レベルは、Lr=Lw+10 log10(Q/4πr2 )−ΔLで計算される。本発明では、この場合のΔLの値を光の回折理論を用いた近似計算式を実験的に修正した減衰式に従い求めている。
【0024】さらに、図5(ハ)に示すように障害物12の幅が有限の場合、側端からの回折が無視できなくなることから、本発明では、通常、障害物12の両側及び上方の3方向各々の最短伝播経路■〜■について計算を行い、観測点でのエネルギー和(音圧レベルのデシベル合成)を求めている。
【0025】また、図6(イ)に示すように障害物が奥行きのある建物13や音源と観測点の間の障壁14などが複数存在する場合、これらの障害物13、14をすべて障壁モデル15に置き換えた上で、観測点への寄与率が最も高い障壁モデルについて伝播経路■〜■を設定している。
【0026】次に、各種音響伝播要素の取扱い方、計算結果の上限値、適用条件、計算除外の特例等について説明する。本発明で扱う基本的音響形状は、矩形面であって、面音源を点と見做すことができる微小面素に分割し、各面素の音響寄与を観測点で合成する。
【0027】面音源は、面の一方側に指定することも両側(無指向性)に指定することもでき、基本計算式で表すと、観測点騒音レベルLO は、
となる。ただし、LW は単位面積(1m2)当たりのパワーレベル(dB)、i,Jは分割された音源面素を示す変数、ψiJ(=Q/4πriJ2)は距離伝達率、Qは方向係数(音の放射方向により1、2、4、8の値をとる、音源が地上にある場合、通常2とする)、riJは音源面素中心と観測点の距離(m)、φiJは回折伝達率(障害物の有無による音圧レベル減衰率)、Su は音源面素面積(m2)、N12,N23は分割数(矩形音源をN12×N23個に分割する)、La は空気吸収減衰量(dB)である。
【0028】線音源は、無指向性で、微小要素に分割して伝播予測計算を行っている。音源と観測点との間の最短距離をrmin (m)、線音源の幅をWl (m)とすると、rmin ≧Wl 、rmin ≧0.4mの場合に適用され、基本計算式で表すと、
となる。ただし、Ll は単位長(1m)当たりのパワーレベル(dB)、iは分割された線音源要素を示す変数、ψi (=Q/4πri 2)は距離伝達率、Qは方向係数、ri は音源要素中心と観測点の距離(m)、φi は回折伝達率、lu は音源要素の長さ(m) 、N12は分割数である。
【0029】点音源は、線音源と同様に無指向性で、音源の大きさをWP とすると、rmin≧WP 、rmin ≧0.4mの場合に適用され、基本計算式で表すと、Lr =LP +10 log(ψ/φ)−Laとなる。ただし、LP は点音源のパワーレベル(dB)、ψ(Q/4πr)は距離伝達率、Qは方向係数、rは音源と観測点との距離(m)、φは回折伝達率である。
【0030】面音源及び線音源では、上記のように音源を点とみなせる微小要素に分割するが、分割数が多くなると、計算精度は向上するが計算時間が長くなる。そこで、本発明では、観測点と音源の位置関係、回折効果の有無等から最適分割数を設定し、計算時間の合理化を図ると共に、有限分割に伴う誤差を所定の値以内に抑えている。
【0031】図8は計算除外ゾーンを説明するための図、図9は塀によるモデルの説明のための図である。
【0032】ところで、面音源では、音響放射方向の指定が可能であるが、図8(イ)に示すように放射方向の真裏に観測点が位置する場合には計算を除外する。これは、通常このゾーンでは回折が2段以上生じ、この観測点に対しては他の音源面の寄与が支配的となるからである。特に、この観測ゾーンの計算値が必要な場合には、図8(ロ)に示すように音源面を無指向性とし、音源面に近接した音源面と同じ大きさの仮想障害物を設定すればよい。この場合には、障害物による1段回折として安全側の計算結果を与える。
【0033】回折効果としては、音源面自身による回折効果と障害物による回折効果を扱うことができる。前者は、音響放射方向が指定された面音源の場合で、音源面自身を自動的に障害物とみなして回折効果が算定される。後者は、入力された障害物に関するもので、地上に立った高さ一定の垂直面で、構成材の厚さはゼロ、透過損失は無限大として計算する。
【0034】障害物の形態には、図9に示すように単一の平板である「単純塀」と平板を2枚組み合わせた「複合塀」の2種類があり、計算対象となっている防音塀や障害建物の実情に応じて最適の形態を設定して入力する。
【0035】次に、騒音源の入力データについて説明する。図10は騒音計による実測データの例を示す図、図1111は距離減衰補正量を算出するためのテーブルの例を示す図、図12は入力データの例を示す図である。
【0036】本発明のシステムに入力する騒音源データ(パワーレベル)は、騒音計を用いた実測データを補正して求め、先に説明したように例えば63Hz〜4kHzまでの1オクターブバンド毎の音圧レベル(dB)で入力される。騒音計を用いた道路交通騒音の実測データの例を示したのが図10であり、道路から1mの距離で測定したものである。この実測データに対して、道路と測定点間の距離をもとにした距離減衰補正量(dB)が図11によって与えられので、距離1mから5(dB)の距離減衰補正量が求められる。したがって、騒音源の入力データとなるパワーレベルは、図12に示すように63Hz〜4kHzまでの1オクターブバンド毎の実測データに距離減衰補正量を加えて求められる。
【0037】次に、騒音レベル解析について例を説明する。図13は騒音レベル解析プログラムによる処理の流れを説明するための図、図14は観測点と音源放射方向との関係フラグ及び処理制御フラグを説明するための図、図15は音源の分割を説明するための図、図16は音源面素中心の算出の例を説明するための図、図17は音源面に対する回折距離差算出の例を説明するための図、図18は単純塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図、図19は複合塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【0038】まず、初期値として、AF;A特性補正値、ABSOR;空気吸収補正値、LEV FL(*);計算する音圧レベル番号に対するビット、をそれぞれセットする(ステップS11)。
【0039】音源面(線、点)係数として、CXD,CYD,CZD;音源の中心座標、EL12,EL23;音源長さ(縦、横)、PAD,PBD,PCD,PDD;音源面係数(面音源のみ)を算出する(ステップS12)。
【0040】点音源(ISF=1)か線音源(ISF=2)か面音源(ISF=3)かを調べ(ステップS13)、面音源の場合には、観測点から音源面に垂線(WPP2;垂線の足)を下ろす(ステップS14)。
【0041】垂線の足が音源面内かどうかをチェックし、含まれる場合にはIQ=0、含まれない場合にはIQ=1とする(ステップS15)。
【0042】観測点と音源放射方向の方向フラグをセットする(ステップS16)。観測点と音源放射方向との関係フラグIOSは、図14(イ)に示すように同方向のとき「1」、反対方向のとき「−1」、観測点が音源面上のとき「0」とし、また、処理制御フラグJOは、図14(ロ)に示すように同方向でかつ障害物なしのとき「1」、同方向でかつ障害物ありのとき「2」、反対方向でかつ面外のとき「3」とする。
【0043】音源の面分割を行う(ステップS17)。この分割では、各音源と観測点の位置関係から横方向分割数N12、縦方向分割数N23について最適面素分割数を求める。点音源は分割しないので、図15(イ)に示すようにN12、N23=1とし、線音源は図15(ロ)に示すように横方向のみ分割するので、
とする。EL12は線音源長さ(距離)、OCは観測点から線音源中点までの距離で、回折効果があるとき(JO=2)、N12=3とする。また、面音源は縦横とも分割するので、図15(ハ)に示すように観測点から音源面に下した垂線の足が面内にあるときは、
垂線の足が面外のときは、
とする。QDは音源と垂線の足の距離、OCは音源と面の中心との距離である。このように面音源、線音源は、それぞれ前頁の方程式により最適な数で面素という最小単位に分割し、解析計算を行う、そして、最後に各面素の計算値を合成し、各面音源、線音源の解析結果とする。
【0044】図16に示すように各音源面素中心を算出し(ステップS17)、さらに図17に示すように各音源面に対する回折距離差(回折距離DELS=直線BG+直線OG−直線OB)、障害物に対する回折距離差を算出する(ステップS18〜S19)。
【0045】障害物に対する回折距離差の算出では、回折効果の判定(MP=1:なし、9:あり)と回折ルートを求める。直線A,Bと直線C,Dが交叉するときCROSS(A,B,C,D)=1、交叉しないときCROSS(A,B,C,D)=0とすると、以下のようになる。
【0046】まず、V1z、を交叉点V1 の高さ、Hf を障害物の高さとすると、単純塀の場合には、図18(イ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=1のとき、V1z≦Hf であれば回折頂点をV1 ,F1 ,F2 とし、V1z>Hf であれば回折効果なし、図1818(ロ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=0のときも回折効果なしとする。複合塀の場合には、図19(イ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=1、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=0のとき、V1z>Hf であれば回折効果なし、V1z≦Hf であれば、距離BF2OとBF3 Oのうち距離が大きい方の頂点(F2 orF3 )とV1 、F1 が回折頂点となる。図19(ロ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=0、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=1のとき、V1z>Hf であれば回折効果なし、V1z≦Hf であれば、距離BF1 OとBF2 Oのうち距離が大きい方の頂点(F1 orF2 )とV2 、F3 が回折頂点となる。図19(ハ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=0、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=0のときは回折効果なしとなる。また、CROSS(O,B,F1 ,F2 )=1、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=1のとき、V1z>Hf でかつV2z>Hfであれば回折効果なし、V1z≦Hf でかつV2z>Hf であればV1 、F1 、F2、V1z>Hf でかつV2z≦Hf であればV2 、F2 、F3 、V1z≦Hf でかつV2z≦Hf であればF2 とV1 とV2 のいずれか、F1 とF3 のいずれか回折距離の大きい方をそれぞれ回折頂点とする。
【0047】距離伝達率PHAI6=1.0/(2×3.1416×R2)を求めセットする(ステップS20)。ここでR2は観測点(OX,OY,OZ)と音源(BX,BY,BZ)の距離である。
【0048】障害物に関する回折伝達率を求める(ステップS21)。ここでは、JO=2、3のとき(障害物あり)、回折距離差(DF1、2、3)と周波数(F)の関数として回折伝達率(PAIFD)を求め、最小のものをPAIFにセットする。
【0049】最小回折伝達率をセットする(ステップS22)。PAIを最小回折伝達率、PAIFを障害物に関する回折伝達率、PAISを音源面自身による回折伝達率(線音源の場合1とする)とすると、JO=1のときPAI=1をセットし、JO=2、3のときPAIFとPAISの中から最小のものをPAIにセットする。
【0050】PHAIを距離伝達率、PAIを回折伝達率として、
により面素単位で求められたPHAI、PAIを面素数分合成し、ECにセットする(ステップS23)。
【0051】SUは音源面積(点音源の場合には1m2 、線音源の場合には縦1m×横長さ、面音源の場合には縦×横)、4.34×ABSOR×OC=空気吸収減衰率、ABSORは単位長減衰率、OCは音源・観測点距離、TMFは伝達率(MAX:1.0)、V PWLはパワーレベルとし、観測点騒音レベルを各音源毎に合計する(ステップS24)。
【0052】各音源毎にA特性、B特性を計算し、騒音レベルと共にO NOIZにセットする(ステップS25)。
【0053】各音源毎に求められた観測点騒音レベルを合計しO NOIZにセットする(ステップS26)。
【0054】図20は本発明の騒音環境評価システムの活用例を説明するための図である。建物の設計作業を企画設計から基本設計、実施設計に区分した場合、まず、企画設計では、音響的要求水準等、環境基準推奨値をベースとした計画目標を設定し、建物用途や建物規模、敷地環境等に適した目標を設定する。そして、敷地規模、周辺環境、地域・地区、法規制の与条件から外部騒音レベルのシミュレーションとその評価を行い、騒音源の位置・大きさ、被害者の位置・程度、周辺環境の配置による騒音レベルの変化等をチェックする。
【0055】基本計画では、ボリューム、ゾーニング等を検討して外部騒音に対応した配置計画を行い評価する。また、その評価に対応した配置計画を行う。ここで、騒音の影響が大きい棟・小さい棟、発生音の大きい棟・小さい棟等のチェックを行う。さらに、スパン、コア位置、室レイアウト、開口位置、設備計画、外構計画を検討して、騒音レベルを読み取り、室レイアウト、壁・開口計画を行い、騒音の影響が大きい室・小さい室、発生音の大きい室・小さい室、壁、開口位置、大きさ、室配置等をチェックする。
【0056】例えば図20(ロ)に示すように周辺地域への検討として、周辺地域の環境を考慮した計画を行い、騒音源の配置検討として、設備機器や駐車場、エントランス等、騒音源の配置を検討する。そして、配置の検討として、単数棟或いは複数棟の配置計画の検討、外部空間の検討として、サンクンガーデンや人工地盤等、外部環境の検討、騒音遮蔽物の配置として、樹木や防音壁等の遮音効果の検討を行う。さらに、ボリューム検討として、建物のボリューム検討、建物ゾーニングの検討として、コアタイプや居室配置、住居階の位置等の検討、開口の位置検討として、外壁や窓の位置・大きさの検討を行う。
【0057】実施計画では、騒音源の検討として、外部機器やガラリ等の種類の検討を行い、外装の検討として、外壁や窓の仕上げ材料、厚さ、構法等を検討し、外装計画を行う等、構法、ディテール、仕上げ材料を検討して各部材の要求遮音性能を求めて材料・構法の選択を行い、材料の遮音性能をチェックする。
【0058】さらには、将来の予測として、周辺建物や計画道路等の環境変化に伴った騒音環境の予測にも活用することができる。
【0059】なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0060】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、建造物の配置と騒音源を入力すると、音線によりモデル化を行い任意の観測点の音圧レベルを求めるので、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、建設計画条件の変更等による騒音環境の変化をシミュレーションすることができる。したがって、計画段階での建物の配置や各部材の遮音性能評価等も高精度で行うことができ、将来の環境変化に伴った騒音環境の予測も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の騒音環境評価システムの1実施例を示す図である。
【図2】 検討画面の例を示す図である。
【図3】 入力メニュー画面の例を示す図である。
【図4】 音環境評価の全体の流れを説明するための図である。
【図5】 音線によるモデル化の例を説明するための図である。
【図6】 複合障害物の場合のモデル化の例を説明するための図である。
【図7】 騒音源が面音源の場合の騒音伝播モデルを説明するための図である。
【図8】 計算除外ゾーンを説明するための図である。
【図9】 塀によるモデルの説明のための図である。
【図10】 騒音計による実測データの例を示す図である。
【図11】 距離減衰補正量を算出するためのテーブルの例を示す図である。
【図12】 入力データの例を示す図である。
【図13】 騒音レベル解析プログラムによる処理の流れを説明するための図である。
【図14】 観測点と音源放射方向との関係フラグ及び処理制御フラグを説明するための図である。
【図15】 音源の分割を説明するための図である。
【図16】 音源面素中心の算出の例を説明するための図である。
【図17】 音源面に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【図18】 単純塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【図19】 複合塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【図20】 本発明の騒音環境評価システムの活用例を説明するための図である。
【符号の説明】
1…キーボード、2…タブレット、3…マウス、4…モデル化処理部、5…音源分割処理部、6…騒音レベル解析部、7…出力処理部、8…ディスプレイ、9…XYプロッタ
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、都市部での人口の過密化により交通騒音、建設作業現場や工場からの騒音など、建築の音環境が悪化してきており、騒音環境の分析、対策の必要性が生じてきている。特に、建築計画を立案する際には、現状の騒音の程度や分布状態の把握、確認、計画建物ができることによる各位置での騒音環境の変化の予測が必要になる。
【0003】建物の建設計画に際して、上記のような音環境についての予測を行う場合、従来は、騒音計を使って各点の騒音レベルを測定して現状の騒音の程度や分布状態を把握した上で簡便な実験式などに基づいて騒音レベルを机上計算している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のように実験式などを用いて手計算により騒音の予測を行う従来の方法では、高層ビルが林立するようなモデルになると計算が複雑になり、短時間に多くの検討を行うことは困難である。
【0005】本発明は、上記の課題を解決するものであって、建物が計画されることによる騒音環境の変化をリアルタイムにシミュレートでき、系統的な検討が行えるとともに、一般の人に理解し易い、視覚的な資料を作成することができる騒音環境評価システムを提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】そのために本発明は、複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムであって、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベル求めて合成する騒音レベル解析手段を備えたことを特徴とするものである。
【0007】ここで、モデル化処理手段は、音源と観測点との間に障害物がある場合には大きさや形態、位置に応じた主要経路すなわち最短伝播経路の音線を設定し、障害物は1枚の単純塀と2枚の複合塀を基本として、全て障壁によりモデル化することを特徴とする。
【0008】また、騒音解析手段は、モデル化した複数の障壁のうち、最も有効な1枚の障壁における縦及び横方向の主要経路について、観測点でそれらの音圧レヘルを合成することと、騒音源が線音源又は面音源の場合には微小要素に分割してそれらの音圧レベルを合成すること、さらに、面音源で音響放射方向の真裏に観測点が位置する場合には計算を除外することを特徴とするものである。
【0009】
【作用】本発明の騒音環境評価システムでは、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段、各伝播経路による観測点の音圧レベル求めて合成する騒音解析手段を備えたので、建造物の配置と騒音源を入力することによって、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、計画条件の変更等による騒音環境の変化を自在にシミュレーションすることができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の騒音環境評価システムの1実施例を示す図、図2は検討画面の例を示す図、図3は入力メニュー画面の例を示す図、図4は音環境評価の全体の流れを説明するための図である。
【0011】図1において、1はキーボード、2はタブレット、3はマウス、4はモデル化処理部、5は音源分割処理部、6は騒音レベル解析部、7は出力処理部、8はディスプレイ、9はXYプロッタを示す。
【0012】キーボード1、タブレット2、マウス3は、図2に示すような騒音環境評価に必要な敷地や建物、騒音源、受音点等のデータを入力するための入力部を構成するものであり、ディスプレイ8、XYプロッタ9は、図3に示すような入力メニュー画面、さらにその各項目から展開される入力画面等を表示したり、騒音分布図等を印刷出力したりするための出力部を構成するものである。解析処理装置は、モデル化処理部4、音源分割処理部5、騒音レベル解析部6、出力処理部7を備え、モデル化処理部4は、入力された建物、騒音源、受音点等から音源から観測点までの音の伝播経路を音線でモデル化するものであり、音源分割処理部5は、線音源、面音源を点と見做すことができる微小要素に分割するものである。騒音レベル解析部6は、モデル化し分割した音源を基に騒音解析を行い、水平面騒音分布や垂直騒音分布、受音点騒音レベル等を求めるものであり、出力処理部7は、ディスプレイ8、XYプロッタ9に出力するためのデータ処理を行うものである。
【0013】上記システム構成の音環境評価の全体の流れは、図3に示す入力メニュー画面において、「敷地入力」や「計画建物入力」、「周辺建物入力」等の入力モードを選択することにより、解析に必要なそれぞれのデータが入力される。
【0014】まず、敷地入力を選択すると、タブレットから敷地境界線を反時計回りにフリーカーソルで入力する(ステップS1)。
【0015】続いて、計画建物入力、周辺建物入力を選択すると、順次、建物高さを地盤面からの建物全体の高さで入力し、タブレットから外形を反時計回りに入力する。また、高速道路等の防音壁及び塀や看板等の壁状の音響遮蔽物を入力するときは、防音壁入力を選択し、これから入力する防音壁の高さを入力してタブレットから防音壁をフリーカーソルで入力する(ステップS2〜ステップS4)。
【0016】次に、騒音源入力を選択する(ステップS5)。騒音源には、発生する音波の波長に比べて充分小さく、全方向に一様に音波を発生する点騒音源、一直線上に音響出力が等しい無数の点音源が連続して並んでいるような状態の線騒音源、一面上に音響出力が等しい無数の点音源が連続して分布しているような状態の面騒音源がある。そこで、設備機器等の大きさが非常に小さく、点と見做せる騒音源を入力するときは騒音源(点)入力を選択し、道路騒音、鉄道騒音等の線状の騒音源を入力するときは騒音源(線)入力を選択し、工場の外壁等の面状の騒音源を入力するときは騒音源(面)入力を選択する。そして、これから入力する点騒音源や線騒音源の高さ、面騒音源の上端・下端高さとそれぞれ例えば63Hz〜4kHzまでの1オクターブバンド毎の音圧レベル(dB)を入力してタブレットから点騒音源、線騒音源、面騒音源をフリーカーソルで入力する。
【0017】そして、騒音レベルの分布図を作成するときは、水平面騒音分布図作成、垂直面騒音分布図作成を選択し、受音点メッシュピッチ・計画面高さ・等音圧レベル点の最大最小値及びピッチ、出力図の縮尺・図面サイズ・図面タイプを入力し、タブレットより計算範囲の左下の点と右上の点を指示する(ステップS6〜S7)。
【0018】また、敷地境界線上等の任意の点の騒音レベルを計算するための受音点を入力するには、受音点入力を選択し、これから入力する受音点の高さを入力してタブレットから受音点をフリーカーソルで入力する(ステップS8)。
【0019】これらの入力により騒音解析を行って分布図や騒音レベル図を作成して出力する(ステップS9)。
【0020】次に、モデル化、音源の分割、解析について詳述する。図5は音線によるモデル化の例を説明するための図、図6は塀と建物による障害物の場合のモデル化の例を説明するための図、図7は騒音源が面音源の場合の有限障壁(図5(ハ))に対する騒音伝播モデルを説明するための図である。
【0021】音の伝播は、本来波動として捉えられるが、音の回折や干渉といった波動性を考慮した騒音の伝播予測を行うには膨大な計算時間が必要になる。そこで、騒音伝播予測計算は、音源から観測点までの音の伝播経路を何本かの線(音線)に置き換え、反射や回折の状況を幾何学的にモデル化する簡便な方法を用いる。特に、騒音伝播予測では、観測点での音圧レベルが把握できればよいので、伝播経路に複雑な反射面がない限り、こうした幾何学的なモデルに基づいた計算で短時間に実用上充分な近似を得ることができる。本発明では、このような幾何学的手法を応用して以下のように騒音伝播予測計算を行っている。
【0022】最も単純なモデルとして、図5(イ)に示すように音源(無指向性点音源を仮定)と観測点の間に、音の伝播を妨げるような障害物がない場合、音の伝播経路は、一本の音線でモデル化できる。この場合、音の逆2乗則に従い音圧は伝播距離の2乗に反比例する形で減衰するから、観測点での音圧レベルは単純な距離減衰式Lr=Lw+10 log10(Q/4πr2 )
で計算できる。ただし、Lr(dB)は音源からの距離r(m)の観測点の音圧レベル、Lw(dB)は音源のパワーレベル、Qは方向係数、r(m)は音源と観測点との距離である。
【0023】次に図5(ロ)に示すように音源と観測点との間に長い障害物11が存在する場合、音源からの受音点への最短経路を最も寄与率の高い伝播経路であると仮定して音線によるモデル化を行う。この場合、障害物による遮蔽効果によりその分音の減衰量は大きくなる。この減衰量の差をΔLとすると、この場合の観測点の音圧レベルは、Lr=Lw+10 log10(Q/4πr2 )−ΔLで計算される。本発明では、この場合のΔLの値を光の回折理論を用いた近似計算式を実験的に修正した減衰式に従い求めている。
【0024】さらに、図5(ハ)に示すように障害物12の幅が有限の場合、側端からの回折が無視できなくなることから、本発明では、通常、障害物12の両側及び上方の3方向各々の最短伝播経路
【0025】また、図6(イ)に示すように障害物が奥行きのある建物13や音源と観測点の間の障壁14などが複数存在する場合、これらの障害物13、14をすべて障壁モデル15に置き換えた上で、観測点への寄与率が最も高い障壁モデルについて伝播経路
【0026】次に、各種音響伝播要素の取扱い方、計算結果の上限値、適用条件、計算除外の特例等について説明する。本発明で扱う基本的音響形状は、矩形面であって、面音源を点と見做すことができる微小面素に分割し、各面素の音響寄与を観測点で合成する。
【0027】面音源は、面の一方側に指定することも両側(無指向性)に指定することもでき、基本計算式で表すと、観測点騒音レベルLO は、
となる。ただし、LW は単位面積(1m2)当たりのパワーレベル(dB)、i,Jは分割された音源面素を示す変数、ψiJ(=Q/4πriJ2)は距離伝達率、Qは方向係数(音の放射方向により1、2、4、8の値をとる、音源が地上にある場合、通常2とする)、riJは音源面素中心と観測点の距離(m)、φiJは回折伝達率(障害物の有無による音圧レベル減衰率)、Su は音源面素面積(m2)、N12,N23は分割数(矩形音源をN12×N23個に分割する)、La は空気吸収減衰量(dB)である。
【0028】線音源は、無指向性で、微小要素に分割して伝播予測計算を行っている。音源と観測点との間の最短距離をrmin (m)、線音源の幅をWl (m)とすると、rmin ≧Wl 、rmin ≧0.4mの場合に適用され、基本計算式で表すと、
となる。ただし、Ll は単位長(1m)当たりのパワーレベル(dB)、iは分割された線音源要素を示す変数、ψi (=Q/4πri 2)は距離伝達率、Qは方向係数、ri は音源要素中心と観測点の距離(m)、φi は回折伝達率、lu は音源要素の長さ(m) 、N12は分割数である。
【0029】点音源は、線音源と同様に無指向性で、音源の大きさをWP とすると、rmin≧WP 、rmin ≧0.4mの場合に適用され、基本計算式で表すと、Lr =LP +10 log(ψ/φ)−Laとなる。ただし、LP は点音源のパワーレベル(dB)、ψ(Q/4πr)は距離伝達率、Qは方向係数、rは音源と観測点との距離(m)、φは回折伝達率である。
【0030】面音源及び線音源では、上記のように音源を点とみなせる微小要素に分割するが、分割数が多くなると、計算精度は向上するが計算時間が長くなる。そこで、本発明では、観測点と音源の位置関係、回折効果の有無等から最適分割数を設定し、計算時間の合理化を図ると共に、有限分割に伴う誤差を所定の値以内に抑えている。
【0031】図8は計算除外ゾーンを説明するための図、図9は塀によるモデルの説明のための図である。
【0032】ところで、面音源では、音響放射方向の指定が可能であるが、図8(イ)に示すように放射方向の真裏に観測点が位置する場合には計算を除外する。これは、通常このゾーンでは回折が2段以上生じ、この観測点に対しては他の音源面の寄与が支配的となるからである。特に、この観測ゾーンの計算値が必要な場合には、図8(ロ)に示すように音源面を無指向性とし、音源面に近接した音源面と同じ大きさの仮想障害物を設定すればよい。この場合には、障害物による1段回折として安全側の計算結果を与える。
【0033】回折効果としては、音源面自身による回折効果と障害物による回折効果を扱うことができる。前者は、音響放射方向が指定された面音源の場合で、音源面自身を自動的に障害物とみなして回折効果が算定される。後者は、入力された障害物に関するもので、地上に立った高さ一定の垂直面で、構成材の厚さはゼロ、透過損失は無限大として計算する。
【0034】障害物の形態には、図9に示すように単一の平板である「単純塀」と平板を2枚組み合わせた「複合塀」の2種類があり、計算対象となっている防音塀や障害建物の実情に応じて最適の形態を設定して入力する。
【0035】次に、騒音源の入力データについて説明する。図10は騒音計による実測データの例を示す図、図1111は距離減衰補正量を算出するためのテーブルの例を示す図、図12は入力データの例を示す図である。
【0036】本発明のシステムに入力する騒音源データ(パワーレベル)は、騒音計を用いた実測データを補正して求め、先に説明したように例えば63Hz〜4kHzまでの1オクターブバンド毎の音圧レベル(dB)で入力される。騒音計を用いた道路交通騒音の実測データの例を示したのが図10であり、道路から1mの距離で測定したものである。この実測データに対して、道路と測定点間の距離をもとにした距離減衰補正量(dB)が図11によって与えられので、距離1mから5(dB)の距離減衰補正量が求められる。したがって、騒音源の入力データとなるパワーレベルは、図12に示すように63Hz〜4kHzまでの1オクターブバンド毎の実測データに距離減衰補正量を加えて求められる。
【0037】次に、騒音レベル解析について例を説明する。図13は騒音レベル解析プログラムによる処理の流れを説明するための図、図14は観測点と音源放射方向との関係フラグ及び処理制御フラグを説明するための図、図15は音源の分割を説明するための図、図16は音源面素中心の算出の例を説明するための図、図17は音源面に対する回折距離差算出の例を説明するための図、図18は単純塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図、図19は複合塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【0038】まず、初期値として、AF;A特性補正値、ABSOR;空気吸収補正値、LEV FL(*);計算する音圧レベル番号に対するビット、をそれぞれセットする(ステップS11)。
【0039】音源面(線、点)係数として、CXD,CYD,CZD;音源の中心座標、EL12,EL23;音源長さ(縦、横)、PAD,PBD,PCD,PDD;音源面係数(面音源のみ)を算出する(ステップS12)。
【0040】点音源(ISF=1)か線音源(ISF=2)か面音源(ISF=3)かを調べ(ステップS13)、面音源の場合には、観測点から音源面に垂線(WPP2;垂線の足)を下ろす(ステップS14)。
【0041】垂線の足が音源面内かどうかをチェックし、含まれる場合にはIQ=0、含まれない場合にはIQ=1とする(ステップS15)。
【0042】観測点と音源放射方向の方向フラグをセットする(ステップS16)。観測点と音源放射方向との関係フラグIOSは、図14(イ)に示すように同方向のとき「1」、反対方向のとき「−1」、観測点が音源面上のとき「0」とし、また、処理制御フラグJOは、図14(ロ)に示すように同方向でかつ障害物なしのとき「1」、同方向でかつ障害物ありのとき「2」、反対方向でかつ面外のとき「3」とする。
【0043】音源の面分割を行う(ステップS17)。この分割では、各音源と観測点の位置関係から横方向分割数N12、縦方向分割数N23について最適面素分割数を求める。点音源は分割しないので、図15(イ)に示すようにN12、N23=1とし、線音源は図15(ロ)に示すように横方向のみ分割するので、
とする。EL12は線音源長さ(距離)、OCは観測点から線音源中点までの距離で、回折効果があるとき(JO=2)、N12=3とする。また、面音源は縦横とも分割するので、図15(ハ)に示すように観測点から音源面に下した垂線の足が面内にあるときは、
垂線の足が面外のときは、
とする。QDは音源と垂線の足の距離、OCは音源と面の中心との距離である。このように面音源、線音源は、それぞれ前頁の方程式により最適な数で面素という最小単位に分割し、解析計算を行う、そして、最後に各面素の計算値を合成し、各面音源、線音源の解析結果とする。
【0044】図16に示すように各音源面素中心を算出し(ステップS17)、さらに図17に示すように各音源面に対する回折距離差(回折距離DELS=直線BG+直線OG−直線OB)、障害物に対する回折距離差を算出する(ステップS18〜S19)。
【0045】障害物に対する回折距離差の算出では、回折効果の判定(MP=1:なし、9:あり)と回折ルートを求める。直線A,Bと直線C,Dが交叉するときCROSS(A,B,C,D)=1、交叉しないときCROSS(A,B,C,D)=0とすると、以下のようになる。
【0046】まず、V1z、を交叉点V1 の高さ、Hf を障害物の高さとすると、単純塀の場合には、図18(イ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=1のとき、V1z≦Hf であれば回折頂点をV1 ,F1 ,F2 とし、V1z>Hf であれば回折効果なし、図1818(ロ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=0のときも回折効果なしとする。複合塀の場合には、図19(イ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=1、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=0のとき、V1z>Hf であれば回折効果なし、V1z≦Hf であれば、距離BF2OとBF3 Oのうち距離が大きい方の頂点(F2 orF3 )とV1 、F1 が回折頂点となる。図19(ロ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=0、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=1のとき、V1z>Hf であれば回折効果なし、V1z≦Hf であれば、距離BF1 OとBF2 Oのうち距離が大きい方の頂点(F1 orF2 )とV2 、F3 が回折頂点となる。図19(ハ)に示すようにCROSS(O,B,F1 ,F2 )=0、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=0のときは回折効果なしとなる。また、CROSS(O,B,F1 ,F2 )=1、CROSS(O,B,F2 ,F3 )=1のとき、V1z>Hf でかつV2z>Hfであれば回折効果なし、V1z≦Hf でかつV2z>Hf であればV1 、F1 、F2、V1z>Hf でかつV2z≦Hf であればV2 、F2 、F3 、V1z≦Hf でかつV2z≦Hf であればF2 とV1 とV2 のいずれか、F1 とF3 のいずれか回折距離の大きい方をそれぞれ回折頂点とする。
【0047】距離伝達率PHAI6=1.0/(2×3.1416×R2)を求めセットする(ステップS20)。ここでR2は観測点(OX,OY,OZ)と音源(BX,BY,BZ)の距離である。
【0048】障害物に関する回折伝達率を求める(ステップS21)。ここでは、JO=2、3のとき(障害物あり)、回折距離差(DF1、2、3)と周波数(F)の関数として回折伝達率(PAIFD)を求め、最小のものをPAIFにセットする。
【0049】最小回折伝達率をセットする(ステップS22)。PAIを最小回折伝達率、PAIFを障害物に関する回折伝達率、PAISを音源面自身による回折伝達率(線音源の場合1とする)とすると、JO=1のときPAI=1をセットし、JO=2、3のときPAIFとPAISの中から最小のものをPAIにセットする。
【0050】PHAIを距離伝達率、PAIを回折伝達率として、
により面素単位で求められたPHAI、PAIを面素数分合成し、ECにセットする(ステップS23)。
【0051】SUは音源面積(点音源の場合には1m2 、線音源の場合には縦1m×横長さ、面音源の場合には縦×横)、4.34×ABSOR×OC=空気吸収減衰率、ABSORは単位長減衰率、OCは音源・観測点距離、TMFは伝達率(MAX:1.0)、V PWLはパワーレベルとし、観測点騒音レベルを各音源毎に合計する(ステップS24)。
【0052】各音源毎にA特性、B特性を計算し、騒音レベルと共にO NOIZにセットする(ステップS25)。
【0053】各音源毎に求められた観測点騒音レベルを合計しO NOIZにセットする(ステップS26)。
【0054】図20は本発明の騒音環境評価システムの活用例を説明するための図である。建物の設計作業を企画設計から基本設計、実施設計に区分した場合、まず、企画設計では、音響的要求水準等、環境基準推奨値をベースとした計画目標を設定し、建物用途や建物規模、敷地環境等に適した目標を設定する。そして、敷地規模、周辺環境、地域・地区、法規制の与条件から外部騒音レベルのシミュレーションとその評価を行い、騒音源の位置・大きさ、被害者の位置・程度、周辺環境の配置による騒音レベルの変化等をチェックする。
【0055】基本計画では、ボリューム、ゾーニング等を検討して外部騒音に対応した配置計画を行い評価する。また、その評価に対応した配置計画を行う。ここで、騒音の影響が大きい棟・小さい棟、発生音の大きい棟・小さい棟等のチェックを行う。さらに、スパン、コア位置、室レイアウト、開口位置、設備計画、外構計画を検討して、騒音レベルを読み取り、室レイアウト、壁・開口計画を行い、騒音の影響が大きい室・小さい室、発生音の大きい室・小さい室、壁、開口位置、大きさ、室配置等をチェックする。
【0056】例えば図20(ロ)に示すように周辺地域への検討として、周辺地域の環境を考慮した計画を行い、騒音源の配置検討として、設備機器や駐車場、エントランス等、騒音源の配置を検討する。そして、配置の検討として、単数棟或いは複数棟の配置計画の検討、外部空間の検討として、サンクンガーデンや人工地盤等、外部環境の検討、騒音遮蔽物の配置として、樹木や防音壁等の遮音効果の検討を行う。さらに、ボリューム検討として、建物のボリューム検討、建物ゾーニングの検討として、コアタイプや居室配置、住居階の位置等の検討、開口の位置検討として、外壁や窓の位置・大きさの検討を行う。
【0057】実施計画では、騒音源の検討として、外部機器やガラリ等の種類の検討を行い、外装の検討として、外壁や窓の仕上げ材料、厚さ、構法等を検討し、外装計画を行う等、構法、ディテール、仕上げ材料を検討して各部材の要求遮音性能を求めて材料・構法の選択を行い、材料の遮音性能をチェックする。
【0058】さらには、将来の予測として、周辺建物や計画道路等の環境変化に伴った騒音環境の予測にも活用することができる。
【0059】なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0060】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、建造物の配置と騒音源を入力すると、音線によりモデル化を行い任意の観測点の音圧レベルを求めるので、簡便に現状の騒音の程度や分布状態を評価することができ、建設計画条件の変更等による騒音環境の変化をシミュレーションすることができる。したがって、計画段階での建物の配置や各部材の遮音性能評価等も高精度で行うことができ、将来の環境変化に伴った騒音環境の予測も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の騒音環境評価システムの1実施例を示す図である。
【図2】 検討画面の例を示す図である。
【図3】 入力メニュー画面の例を示す図である。
【図4】 音環境評価の全体の流れを説明するための図である。
【図5】 音線によるモデル化の例を説明するための図である。
【図6】 複合障害物の場合のモデル化の例を説明するための図である。
【図7】 騒音源が面音源の場合の騒音伝播モデルを説明するための図である。
【図8】 計算除外ゾーンを説明するための図である。
【図9】 塀によるモデルの説明のための図である。
【図10】 騒音計による実測データの例を示す図である。
【図11】 距離減衰補正量を算出するためのテーブルの例を示す図である。
【図12】 入力データの例を示す図である。
【図13】 騒音レベル解析プログラムによる処理の流れを説明するための図である。
【図14】 観測点と音源放射方向との関係フラグ及び処理制御フラグを説明するための図である。
【図15】 音源の分割を説明するための図である。
【図16】 音源面素中心の算出の例を説明するための図である。
【図17】 音源面に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【図18】 単純塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【図19】 複合塀の障害物に対する回折距離差算出の例を説明するための図である。
【図20】 本発明の騒音環境評価システムの活用例を説明するための図である。
【符号の説明】
1…キーボード、2…タブレット、3…マウス、4…モデル化処理部、5…音源分割処理部、6…騒音レベル解析部、7…出力処理部、8…ディスプレイ、9…XYプロッタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムであって、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベルを求めて合成する騒音レベル解析手段を備えたことを特徴とする騒音環境評価システム。
【請求項2】 モデル化処理手段は、音源と観測点との間に障害物がある場合には大きさや形態、位置に応じた主要経路、すなわち最短伝播経路の音線を設定することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項3】 モデル化処理手段は、障害物を1枚の単純塀と2枚の複合塀を基本として、全て障壁によりモデル化することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項4】 騒音レベル解析手段は、モデル化した複数の障壁のうち、最も有効な1枚の障壁における縦及び横方向の主要経路について、観測点でそれらの音圧レベルを合成することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項5】 騒音レベル解析手段は、騒音源が線音源又は面音源の場合には微小要素に分割してそれらの音源からの音圧レベルを合成することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項6】 騒音レベル解析手段は、面音源で音響放射方向の真裏に観測点が位置する場合には計算を除外することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項1】 複数の騒音源による騒音の程度や分布状態を解析する騒音環境評価システムであって、建物や障壁等の建造物の配置と騒音源を入力する入力手段、入力された建造物の配置と騒音源から音の伝播経路を音線でモデル化するモデル化処理手段、距離減衰式を使って各伝播経路により観測点の音圧レベルを求めて合成する騒音レベル解析手段を備えたことを特徴とする騒音環境評価システム。
【請求項2】 モデル化処理手段は、音源と観測点との間に障害物がある場合には大きさや形態、位置に応じた主要経路、すなわち最短伝播経路の音線を設定することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項3】 モデル化処理手段は、障害物を1枚の単純塀と2枚の複合塀を基本として、全て障壁によりモデル化することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項4】 騒音レベル解析手段は、モデル化した複数の障壁のうち、最も有効な1枚の障壁における縦及び横方向の主要経路について、観測点でそれらの音圧レベルを合成することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項5】 騒音レベル解析手段は、騒音源が線音源又は面音源の場合には微小要素に分割してそれらの音源からの音圧レベルを合成することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【請求項6】 騒音レベル解析手段は、面音源で音響放射方向の真裏に観測点が位置する場合には計算を除外することを特徴とする請求項1記載の騒音環境評価システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図17】
【図4】
【図9】
【図5】
【図16】
【図6】
【図8】
【図11】
【図10】
【図12】
【図18】
【図19】
【図13】
【図14】
【図15】
【図20】
【図20】
【図2】
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【図20】
【図20】
【公開番号】特開平6−4512
【公開日】平成6年(1994)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−165900
【出願日】平成4年(1992)6月24日
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【公開日】平成6年(1994)1月14日
【国際特許分類】
【出願日】平成4年(1992)6月24日
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
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