説明

骨および軟組織欠損および障害の診断および処置のためのBMP−1プロコラーゲンC−プロテイナーゼ

【課題】組織欠損および障害を診断し、処置するためのBMP−1のイソ型を含む組成物および方法を提供する。
【解決手段】個体の慢性腎不全を診断するために個体からの血液試料を試験する方法であって:BMP−1イソ型であるBMP−1−3、およびBMP−1−5の試料中の存在を確定する。BMP−1イソ型を含む、個体の虚血性急性腎不全を治療するための医薬組成物。1種以上のBMP−1イソ型に特異的な1種以上の抗体分子を含む、個体の腎臓に対する虚血/再潅流傷害を処置するための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本出願は2006年7月21日に出願された、米国仮出願第60/832,325号に対する優先権を主張する。
技術分野
本発明は、組織欠損および障害の診断および再生の分野に属する。とりわけ、本発明は組織欠損および障害を診断し、処置するためのBMP−1のイソ型を含む組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
骨形態形成性タンパク質(BMP)は、骨から精製され、特徴を解析されている(Sampath and Reddi,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,78:7599(1981)骨‐誘導(骨形成性、骨誘導性)分子である。“骨形態形成性タンパク質”、“BMP”および“モルフォゲン(morphogen)”という用語は同義語で、タンパク質の形質転換成長因子‐β(TGF‐β)スーパーファミリーの特有のサブクラス(すなわち、BMPファミリー)のメンバーを表す(たとえば、Hoffmann et aI.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,57:294−308(2001);Reddi,J.Bone Joint Surg.,83−A(Supp.1):SI−S6(2001);米国特許第4,968,590号;第5,011,691号;第5,674,844号;第6,333,312号を参照されたい)。そのようなBMPはすべてシグナルペプチド、プロドメイン、およびカルボキシ‐末端(成熟)ドメインを有する。カルボキシ‐末端ドメインはBMPモノマーの成熟型であり、システインノットを形成する7つのシステインによって特徴付けられる高度に保存された領域を含む(たとえば、Griffith et aI.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:878−883(1996)を参照されたい)。BMPは本来タンパク質精製法を使用して、哺乳動物骨から単離された(たとえばUrist et aI.,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,173:194−199(1983);Urist et aI., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:371−375(1987);Sampath et a1.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:7109−7113(1987);米国特許第5,496,552号を参照されたい)。しかし、BMPは腎臓、肝臓、脳、筋肉、歯、および腸のような多様な他の哺乳動物組織および器官において検出されるか、または単離されている。多くのBMP(BMP−2、BMP−4、BMP−6、BMP−7、BMP−9、BMP−12、BMP−13を含む)はまた、骨形成の標準異所性アッセイにおいて証明されるように、軟骨および骨形成を刺激する(たとえば、Sampath and Reddi,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:6591−6595(1983)を参照されたい)。従って、そのような真正BMPはまた、たとえそれらが軟組織再生を同じ様に促進してよいとしても“骨形成性”と表される。
【0003】
通常BMP−1と表されるタンパク質は、骨形成性、組織再生タンパク質のBMPファミリーの真のメンバーではない。BMP−1は本来高度に精製されたBMPウシ骨抽出物から単離され、本来皮下(異所性)骨形成アッセイにおいてin vivoで軟骨形成を誘発することが報告された(Wozney et al.,Science,242:1528(1988))。しかし、BMP−1は他のBMPと顕著なアミノ酸配列相同性を共有せず、BMP−1は他のBMPに見いだされる特徴的なシグナルペプチド、プロドメイン、カルボキシ‐末端(成熟ドメイン)、またはシステインノットも提示しない。実際、BMP−1は細胞外マトリックス(ECM)内のコラーゲンの適切なアセンブリーに必須な酵素であるプロコラーゲンC−プロテイナーゼと同一であることが示された(Kessler et al.,Science,271:360−362(1996))。TGF−βファミリー内のBMP−1の誤った事態は、初めの骨形成のバイオアッセイにおける欠陥に起因し(Wozney et al.,前記)、そこではバイオアッセイで観察された軟骨は不溶な骨マトリックスを汚染している古い成長プレート軟骨であったと考えられ、それが新規に形成された組織であると誤って確定された(Reddi,Science,271:463(1996)を参照されたい)。本明細書で示されるように、真正骨形成性BMPとは異なり、BMP−1−1イソ型は標準異所性骨形成アッセイにおいて軟骨または骨形成を誘導しない。
【0004】
BMP−1遺伝子はショウジョウバエ遺伝子tolloid(TLD)に関連し、該遺伝子はTGF−β様モルフォゲンを活性化するdecapentaplegic(DPP)遺伝子の能力に基づいてDPP遺伝子によって制御されるパターニングに関与する。BMP−1タンパク質は現在、パターン形成のカスケード中の形態形成の重要な制御点であることが知られている(Ge and Greenspan,Birth Defect Res.,78:47−68(2006))。
【0005】
BMP−1は広範な種において見いだされるメタロプロテイナーゼの小さなサブグループの典型である。哺乳動物では、4種のBMP−1/TLD‐関連(またはBMP−1/TLD‐様)メタロプロテイナーゼがある。BMP−1をコードする遺伝子はまた、オルタナティブスプライシングされたmRNAによってコードされる第2の、より長いプロテイナーゼをコードする。本質的にTLDに同一のドメイン構造のために、このプロテイナーゼは哺乳動物Tolloid(mTLD)と命名された(Takahara et al.,J.Biol.Chem.,269:32572−32578(1994))。その上、哺乳動物Tolloid‐様1および2(mTLL1およびmTLL2)と命名された2種の遺伝的に別個の哺乳動物BMP−1/TLD‐関連プロテイナーゼがある。BMP−1/TLD‐様プロテイナーゼのプロドメインはサブチリシン(subtilisin)‐様プロタンパク質コンベルターゼ(SPC)によってタンパク質分解により除去され(Leighton and Kadter,J.Biol.Chem.,278:18478−18484(2003))、これらのプロテイナーゼの完全な活性を獲得しなければならない。BMP−1/TLD‐様プロテイナーゼのプロドメインの役割は、潜在型でBMP−1/TLD‐様プロテイナーゼを維持することにあるように見える(Marques et al.,Cell,91:417−426(1997);Sieron et al.,Biochem.,39:3231−3239(2000);Leighton and Kadler,前記)。
【0006】
BMP−1/TLD‐関連メタロプロテイナーゼは、細胞外マトリックス(ECM)の形成に関連したいくつかの細胞外タンパク質のタンパク質分解による成熟に関与する。これらには、種々のコラーゲン、低分子ロイシン‐リッチプロテオグリカン、SIBLINGタンパク質、および酵素リシルオキシダーゼ、ラミニン‐5、および基底膜プロテオグリカンパールカン由来の抗‐血管新生因子が挙げられる(Iozzo,Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.,6:646−656(2005);Greenspan,Top.Curr.Chem.,247:149−183(2005);Ge and Greenspan Birth Defect Res.,前記)。BMP−1はまた、細胞外マトリックスからBMPを遊離すること、またはBMP−4、BMP−11およびGDF−8のような潜在型TGF−βファミリーメンバーを活性化することに関連する(Wolfman et aI.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,100:15842−15846(2003);Ge et al,Mol.Cell.Biol.,25:5846−5858(2005))。
【0007】
BMP−1の第1に発見された形状はBMP−1−1と命名され、そしてスプライス変異体RNA転写物によってコードされる他のBMP−1イソ型は転写レベルで記載され、順番の添え字を付けて:BMP−1−2、BMP−1−3、BMP−1−4、BMP−1−5、BMP−1−6、およびBMP−1−7と命名されている(Li et aI.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:5127−5131(1996);Wozney et al.,Science,242:1528(1988);Janitz et al.,J.Mol.Med.,76:141(1998);Takahara et al J.Biol.Chem.,269:32572(1994);Hillman et al.,Genome Biol.,5:16(2004)。予期されるように、スプライス変異体RNA転写物によってコードされるBMP−1イソ型は、リーダーペプチド、プロ領域、およびプロテアーゼ(触媒)領域を含むいくつかのドメインを共有する。初めのBMP−1、すなわち、BMP−1−1だけが骨からの単離後にタンパク質レベルで以前に確証されている。BMP−1−2および他のBMP−1イソ型は、スプライス変異体転写物のヌクレオチド配列から推定されたが、タンパク質レベルでは記載されていない。
【0008】
文献におけるBMP−1−1の同一性の修正にもかかわらず、このタンパク質または他のBMP−1イソ型がいずれか治療的に妥当な役割を有するかどうかはまだ解明されないままである。
【発明の概要】
【0009】
発明の概要
本発明は、個体の血液中におけるBMP−1の循環に関連する発見に基づいた、診断および処置の新規な方法を提供する。個体の循環血における特有のイソ型の他と異なる出現は、現在特有の骨欠損または軟組織の障害に関連付けられている。従って、急性骨折、慢性腎不全、進行性骨化性線維形成異常、骨形成不全、急性膵炎、および肝硬変のような特有の障害の早期の診断の場合、現在簡単な血液試験を使用して血液試料中の1種以上のBMP−1イソ型の存在を検出することが可能である。その上、本明細書に開示された発見は、特有の骨欠損を患う個体における骨形成性骨形態形成タンパク質(BMP)の効果を高める新規な処置方法の開発を導いている(以下の実施例14を参照されたい)。
【0010】
本発明の一態様は、個体の血液中のBMP−1イソ型のプロファイルを確定すること、および該プロファイルを種々の欠損および障害に関連したBMP−1イソ型の標準血液プロファイルと比較することを含む、個体の骨または軟組織における欠損または障害を診断する方法を含む。健康な個体ならびに種々の骨および軟組織障害の処置を受けている個体のプールされた血液に基づいた、そのような標準血液プロファイルは表1(以下)に提示される。
【0011】
本発明の診断方法は、好都合には1種以上のBMP−1イソ型に結合することが可能なディテクター分子を使用して行われる。適切なそのようなディテクター分子には、抗体分子(ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにFabフラグメント、F(ab′)フラグメントなどのような抗体の結合フラグメント)およびアプタマー(すなわち、特有のタンパク質に特定の結合親和性を有する核酸分子)が挙げられる。
【0012】
従って、本発明の診断方法の特有の態様では、個体の血液イソ型プロファイルは、1種以上のディテクター分子を使用して1種以上のBMP−1イソ型の存在に関して個体の血液試料をアッセイするために作製される。循環するBMP−1イソ型、またはいずれかの循環するイソ型の完全な不在は、本明細書では特有の障害を示すことになることが証明される。血液試料からこれらの欠損または障害を検出する能力は、障害のずっと初期の経過中に陽性の診断が達成されうるため、好都合である。たとえば、急性膵炎は循環するBMP−1−7の存在から検出されてもよく、疾患のいっそう明白な症状が現れる前に診断されてもよい。同様に、容易には検出できない(または高価なX‐線なしには検出できない)ごくわずかのひびまたは亀裂のような急性骨折は、血液試験、およびBMP−1イソ型の完全な不在を観察することを使用して初めに推定されてもよい。特有の態様では、抗体分子または1種以上のBMP−1イソ型に特異的なアプタマーのようなディテクター分子をアッセイに使用して、血液試料中における1種以上のBMP−1イソ型の存在が検出され、そして本明細書ではある種のイソ型の存在(またはイソ型の完全な不在)がそのような存在(または不在)に関連した障害を示す。
【0013】
本発明の診断法にとって好ましいディテクター分子はモノクローナル抗体分子である。本明細書での使用に適切な抗‐BMP−1イソ型抗体分子は、イムノグロブリン、Fabフラグメント、F(ab′)分子、1本鎖抗体分子(scFv)、二重のscFv分子、単一ドメイン抗体分子(dAb)、Fd分子、ディアボディー分子、該抗体分子のいずれかを含む融合タンパク質、または1種以上の前述の分子の組み合わせであってもよい。
【0014】
本発明に従った特定の方法では、個体の血液試料中のBMP−1イソ型であるBMP−1−1、BMP−1−3、BMP−1−5、およびBMP−1−7の存在を確定するために試料を試験することを含む、個体の肝硬変を診断するための方法が提供され、ここで試料中の該BMP−1イソ型の不在は個体の肝硬変を示す。
【0015】
本発明の別の特定の態様は、個体由来の血液試料中のBMP−1イソ型であるBMP−1−1、BMP−1−3、BMP−1−5、およびBMP−1−7の存在を確定するために試料を試験することを含む、個体の急性骨折を診断するための方法であり、ここで試料中の該BMP−1イソ型の不在は個体の急性骨折を示す。
【0016】
本発明の付加的な態様は、個体の血液試料中のBMP−1イソ型であるBMP−1−7の存在を確定するために試料を試験することを含む、個体の急性膵炎を診断するための方法であり、ここで個体の循環血における該BMP−1イソ型の存在は個体の急性膵炎を示す。
【0017】
本発明の付加的な態様は、個体の血液試料中のBMP−1イソ型であるBMP−1−3およびMP−1−5の存在を確定するために試料を試験することを含む、個体の慢性腎不全を診断するための方法であり、ここで個体の循環血における両方の該BMP−1イソ型の存在は個体の慢性腎不全を示す。
【0018】
本明細書に開示された特有の好都合な方法は、個体の血液試料中のBMP−1イソ型BMP−1−3の存在を確定するために試料を試験することを含む、個体の進行性骨化性線維形成異常を診断するための方法であり、ここで健康な個体の該イソ型のレベルと比較した同じBMP−1イソ型のレベル上昇(たとえば少なくとも5倍)は個体の進行性骨化性線維形成異常を示す。
【0019】
本発明の別の特有の好都合な態様は、個体の血液試料中のBMP−1イソ型であるBMP−1−3の存在を確定するために試料を試験することを含む、個体の骨形成不全を診断するための方法であり、ここで健康な個体の該イソ型のレベルと比較した同じBMP−1イソ型のレベル上昇(たとえば少なくとも5倍)は個体における骨形成不全を示す。
【0020】
本発明の付加的な態様は、個体の骨または軟組織における欠損または障害に対して個体を処置する方法であって:
(a)以下:
(i)血液中のBMP−1イソ型のプロファイルを確定すること、および
(ii)プロファイルを種々の欠損または障害に関連したBMP−1イソ型の標準血液プロファイルと比較することを含むステップにより、個体の骨または軟組織における欠損または障害を診断すること、
(b)診断された欠損または障害に対して骨形成性BMPの処置効果を高めるために有効な量の少なくとも1種のBMP−1イソ型を個体に投与すること、または診断された欠損または障害の進行における1種以上のBMP−1イソ型の効果を阻害するために有効な量の、1種以上の該BMP−1イソ型に対して特異的な1種以上の抗体分子を個体に投与することを含む。
【0021】
前述の方法の診断ステップ(a)は、患者の血液BMP−1イソ型プロファイルを、たとえば、以下の表1に示された標準血液イソ型関連表と比較することによって実行されてもよい。前述の方法の治療ステップ(b)は治療薬の全身または局所投与により達成されてもよい。骨欠損の処置では、とりわけ欠損部分への局所投与が好ましい。たとえば、本明細書ではBMP−1イソ型BMP−1−1の局所投与は、in vivoの骨折モデルにおいて骨修復を促進することが示される。(たとえば、以下の実施例12および14を参照されたい。)BMP−1イソ型および/またはBMP−1−7のような真正、骨形成性BMPの局所投与が、好都合には骨欠損に対するそれらの薬剤の局所送達のためのキャリア/マトリックスとしての全血凝血物を使用させることになってもよい。全血‐由来凝血物デバイスは、物理的に安定な(自己‐サポート)ゲルの硬度を持つ治療薬を提供し、それが次に骨の再架橋が所望される骨端に、または骨断片間のギャップに容易に提供される。
【0022】
前述の診断方法の特有の態様では、検出ステップはそれぞれ配列番号:1、配列番号:2または4、配列番号:6、および配列番号:7で示されるアミノ酸配列を有する、BMP−1−1、BMP−1−3、BMP−1−5、およびBMP−1−7の1種以上を検出すること、または該アミノ酸配列のエピトープまたは検出可能なフラグメント(例えば、トリプシン消化されたフラグメント)を検出することを指向することになる。
【0023】
特有の態様では、本発明は:塩化カルシウムのようなカルシウムイオン(Ca++)を提供する物質;少なくとも1種のBMP−1イソ型および場合により少なくとも1種の骨形成性BMP;ならびに場合によりフィブリンおよびトロンビンを含む組成物を全血のアリコート中で一緒に混合することにより調製される、個体の骨欠損を処置するための骨形成性全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)を提供する。混合物は物理的に安定なゲルの硬度を有する凝血物が形成されるまでインキュベーションされ、その後凝血物は骨再架橋または修復が所望される部位にマトリックスとして容易に適用される。そのような物理的に安定なゲルは好ましくは均質で、凝集力があり、シリンジで吸収可能であり、注射可能であり、そして展性があるもの(malleable)である。凝血物の硬度は、治療的BMP(存在する場合)およびBMP−1イソ型を伴う混合物が、修復されることになる骨欠損に隣接した適所に留まっていることを確実にする。
【0024】
凝血物の成分の割合は変化してもよいが、カルシウムイオン物質の量は、カルシウムイオン濃度が先に述べた所望する特徴を有する凝血物ゲルを提供する量であるべきである。凝血物中のカルシウムイオンの好ましい濃度は1〜2.5mMの範囲に入ることになる。塩化カルシウムは好ましい外因性Ca++‐供給物質である。塩化カルシウムが本発明のWBCDにおいて使用される場合、濃度は好都合には5〜15mMの範囲にある。
【0025】
本発明に従った凝血物中のBMP−1イソ型の量は、好都合には1〜500μg/mL、好ましくは2〜200μg/mL、より好ましくは5〜20μg/mLの範囲にあるが、より少ないか、またはより多い量が使用されてもよく;BMP−1イソ型の存在が真正、骨形成性BMPの活性を局所的に触媒すること;たとえば骨欠損を修復することおよび骨折を再架橋することに役立つことは本明細書に開示される基本的な発見である。従って、(細胞外マトリックスから活性化されるか、または外因性に供給されるかのいずれかの、たとえば、全血‐由来凝血物デバイスの要素としての)BMPの骨形成活性を高めるために有効なBMP−1イソ型のいずれの量が使用されてもよい。同様に、1種以上のBMPが本発明に従った凝血物デバイスの要素として使用される場合、量は好都合には50〜500μg/mL、好ましくは100〜200μg/mLの範囲に入るように調整されてもよい。しかし、BMP−1イソ型要素の場合と同じように、より少ないか、またはより多い量が企図され、そして意図された骨欠損部位において骨形成を促進するために有効ないずれの量のBMPが使用されてもよい。あるいは、凝血物中で使用されるBMP−1イソ型またはBMPの量は、使用されることになる凝血物の量を考慮して、個体の全重量に基づきイソ型またはBMPの全用量を提供するように調整されてもよい。たとえば、2〜200μg/kg、好ましくは5〜20μg/kg、より好ましくは8〜12μg/kg患者体重を提供するBMP−1イソ型の量が使用されてもよく;そしてたとえば、1〜1000μg/kg、好ましくは2〜500μg/kg、より好ましくは50〜200μg/kg、最も好ましくは100μg/kg患者体重を提供するBMPの量が使用されてもよい。WBCDにおける使用のための成分の量を確定することにおいて、成分の量または容積が凝血物ゲルの所望する特徴に有害に影響を与えるほど多い(または少ない)はずがないことは理解されるであろう。
【0026】
従って、本発明の特定の態様では、個体において骨欠損を処置するための骨形成性全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)が以下:
(a)(i)全血、
(ii)2〜200μg/mLの少なくとも1種のBMP−1イソ型、
(iii)5〜15ミリモル/L塩化カルシウム、
(iv)場合により、5〜10mg/mLフィブリンおよび0.5〜5mg/mLトロンビンを含む混合物を一緒に混合すること;および
(b)物理的に安定なゲルが形成されるまでステップ(a)の混合物をインキュベーションすること;を含むステップにより調製される。
【0027】
所望する場合、ある量、好ましくは50〜500μg/mLの範囲のBMPが前述の態様の(a)の混合物に添加されて、本明細書に開示されたBMP−1イソ型およびBMPの組み合わせの相乗効果を活用してもよい。
【0028】
カルシウムイオンを提供するための多くの適切な物質が知られている。塩化カルシウムが好ましい。
本明細書に記載されるWBCDにおいて有用なフィブリン‐トロンビン混合物は、フィブリンとトロンビンをWBCDの他の成分と単に混合することにより作製されてもよい。あるいは、フィブリンとトロンビンは混合物として予め混合されているか、または購入され、その後混合物が他の成分に添加されてもよい。WBCDにおいて有用なフィブリン‐トロンビン混合物には、“フィブリンのり”または“フィブリンシーラント”として当該技術分野で公知のものが挙げられる。フィブリン‐トロンビン混合物、フィブリンのり、およびフィブリンシーラントの市販の調製物は容易に入手可能である。本明細書に記載されたWBCDを調製することに使用されるフィブリンとトロンビンは薬剤的に受容できる性質からなり、多くの個体において通常免疫反応を引き起こすことになる、際立った免疫原性の供給源ではない。
【0029】
外因性に提供されたフィブリン‐トロンビン混合物は、先に述べたようにカルシウムイオンによって凝血物ゲルに提供される1種以上の特性を高めてもよい。その上、フィブリン‐トロンビン混合物を使用してWBCDのBMP−1イソ型(および付加的なBMP)要素を捕らえることもできる。そのような活性成分のそのような捕捉はWBCDによる保持を高め、それによってWBCDおよびWBCDが適応されている局所欠損部位からの活性成分の移動速度を減少させる。好ましくは、本明細書に記載のWBCDに使用される外因性に提供されたフィブリン‐トロンビン混合物は、5mg/mLから10mg/mLまでの範囲でフィブリンを提供し、そして0.5mg/mLから5mg/mLの範囲でトロンビンを提供する。
【0030】
本発明に従った骨形成性WBCDを調製することにおいて、全血は最も好ましくは個体から採取された自家全血である。従って、WBCDは、使用直前に、手術室での骨修復手術における使用のために調製されること、およびWBCDを作製するために患者自身の全血を使用することが企図される。このことは、特有の患者への適用のためにドナー血液のタイピングおよびクロスマッチの必要性を回避する明白な利点を有する。それにもかかわらず、たとえば、患者が既に顕著な量の血液を失っている可能性がある、またはすでに輸血をうけている可能性がある場合のように、状況によってはクロスマッチした全血が使用されてもよいことが認識される。そのような状況では、WBCDにおけるクロスマッチした全血の使用は、クロスマッチした全血を使用するいずれの輸血にも伴う血清疾患と同じか、または類似のリスクがある。
【0031】
特有の態様では、本発明に従った骨形成性WBCDは初めにいずれかのフィブリン/トロンビン組成物、カルシウムイオン物質、およびBMP−1イソ型ならびに場合によりBMPを組み合わせて第1の混合物を形成し、その後第1の混合物に全血を添加して第2の混合物を形成し、そして物理的に安定な(自己‐支持)ゲルが形成されるまで第2の混合物をインキュベーションすることによって調製されてもよい。
【0032】
別の態様では、全血以外のWBCDの調製に必要なすべての要素は便利に、そして好都合にキットに集められてもよい。キットは、それが必要な時点において、手術室内で開封され、患者から得られた自家血を使用してWBCDを形成するために使用されてもよい。そのようなキットは、たとえば以下のような品目を含むことができる:
(a)1種以上の凍結乾燥したBMP−1イソ型を含むバイアル、
(b)凍結乾燥したBMP−1イソ型を溶解するためのバッファー、
(c)バッファー中の凍結乾燥したBMP−1イソ型を溶解するためのシリンジ、
(d)患者の血液を集めるための採血管(Vaccutainer)、
(e)1M塩化カルシウムの滅菌溶液、
(f)フィブリン‐トロンビン混合物、
(g)全血を溶解したBMP−1イソ型および他の成分と混合するための容器、
(h)開放骨修復手術中に骨末端に骨形成性凝血物を適用するために適したスパーテルまたはシリンジ(またはそれらの両方)、および
(i)骨欠損への適用に適した物理的に安定なゲルを形成するための、1種以上のBMP−1イソ型、塩化カルシウム、および場合によりフィブリンおよびトロンビンを含む混合物と混合した全血からなるWBCDの調製および使用のための説明書。
【0033】
本明細書に開示された発見は、BMP−1イソ型の発見された役割および循環血におけるそれらの存在に基づいた、骨欠損および軟組織障害の治療に対する新規な研究方法を提供する。
【0034】
特有の態様では、腎損傷の診断後個体にBMP−1イソ型を全身的に投与することを含む、個体の虚血性急性腎不全を処置する方法が提供される。(以下の実施例8を参照されたい)。関連する態様では、1種以上のBMP−1イソ型に特異的な1種以上の抗体分子を個体に全身的に投与することを含む、個体の慢性腎不全を処置する方法が提供される。(以下の実施例9を参照されたい)。この方法の特有の態様では、抗体分子はBMP−1イソ型に特異的な抗体分子、BMP−1−3イソ型に特異的な抗体分子、またはそのような抗体分子の組み合わせである。
【0035】
本発明の付加的な態様は、個体の虚血/再潅流損傷を阻害するために有効な量で1種以上のBMP−1イソ型に特異的な1種以上の抗体分子を個体に投与することを含む、個体における腎臓の虚血/再潅流障害を処置する方法を提供する。特有の態様では、1種以上のBMP−1イソ型を認識する1種以上の抗体分子は、虚血/再潅流事象の前に個体に全身的に投与される。とりわけ、BMP−1−1に結合する抗体分子、BMP−1−3に結合する抗体分子、またはそのような抗体分子の組み合わせが個体に投与されてもよい。
【0036】
本発明はまた、発生する凝血塊(clot)を溶解するために有効な量で、胸部または腹部手術前に個体にBMP−1イソ型を投与することを含む、手術中に発生する可能性がある凝血塊を溶解するために個体を前処理する方法を提供する。
【0037】
本発明の付加的な態様は、治療的有効量の、BMP−1イソ型に特異的な少なくとも1種の抗体分子を個体に投与することを含む、個体の急性膵炎を処置する方法を提供する。とりわけこの態様では、抗‐BMP−1−7抗体分子が使用されてもよい。
【0038】
本発明の付加的な態様は、膵炎を患う個体に、炎症過程の急性相後に膵臓再生を促進するために有効な量で、ある量のBMP−1イソ型を投与することを含む、個体の膵炎を処置する方法を提供する。とりわけ、この態様では、BMP−1−7イソ型が投与されてもよい。
【0039】
循環するBMP−1イソ型の我々の調査の過程において、我々はまた胎盤cDNAライブラリーから、以前に報告されていないBMP−1イソ型BMP−1−3の変異体をコードするポリヌクレオチドを単離した。このイソ型のコーディング配列は配列番号:5に示され;この変異体イソ型のアミノ酸配列は配列番号:4に示される。単離された胎盤のcDNAから発現されるBMP−1−3イソ型は、以前に報告されたBMP−1−3イソ型(配列番号:2)に比較して若干の付加的な特性を提示する。(以下の実施例5を参照されたい。)従って、本発明の付加的な側面は、配列番号:4のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供することである。そのようなポリヌクレオチドの1つは配列番号:5の配列を有する。
【0040】
最も広範な側面において、本発明は個体の骨または軟組織における欠損または障害を診断するために、該個体の循環血液における1種以上のBMP−1イソ型の存在を試験するin vitro診断法において特にBMP−1イソ型を結合するディテクター分子の使用に関する。好ましい態様では、そのようなディテクター分子は抗体分子またはアプタマーである。好都合なことに、そのようなディテクター分子は検出可能に標識される。
【0041】
本発明は、その治療的側面において、骨欠損の処置のための医薬品の大規模製造におけるBMP−1イソ型の使用を提供する。その上、本発明は本明細書に記載される軟組織傷害の処置のための医薬品の大規模製造においてBMP−1イソ型に結合する抗体分子の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】虚血性急性腎不全に供されたラットの血液中のクレアチニン濃度(mg/mL)対時間(日)のグラフを示す。斜線の棒は虚血事象後の示された時間における対照群のラット(虚血、無処置)の血液中のクレアチニンレベルを示す。点刻模様の棒は虚血前およびその5日後に、BMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体で全身的に処置されたラットの血液中のクレアチニンレベルを示す。アステリスクは抗体により処置された動物と無処置対照群の動物間のクレアチニンレベル間の有意な差(P<0.01)を表す。結果は、損傷前に投与された場合、BMP−1−1およびBMP−1−3の中和抗体の全身投与が虚血/再潅流急性腎不全のラットにおける腎臓機能の損失を妨げたことを示唆する。詳細は以下の実施例7を参照されたい。
【図2】先の図1および以下の実施例7に記載された虚血/再潅流急性腎不全に供されたラットの腎臓組織の組織学的切片を示す。パネル2Aは、抗体処置をしない(生理食塩水ベヒクル、pH7.2だけ)急性虚血/再潅流損傷にさらされた対照群ラットの腎臓組織の代表的な組織学的切片を示す。パネル2Aでは、腎臓組織の構造完全性の顕著な損失が明らかである。パネル2Bは急性虚血/再潅流前およびその5日後に、BMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体を全身投与された予防的治療群のラットの腎臓組織の代表的な組織学的切片を示す。パネル2Bの組織は、パネル2Aに表された無処置組織に比較した、腎臓構造の顕著な保存を表す。詳細は、以下の実施例7を参照されたい。
【図3】以下の実施例8に記載された虚血性急性腎不全損傷後のラットの生存率の時間経過(日)のグラフを示す。菱形(◆、“対照”)は虚血/再潅流損傷後に治療を受けなかった陰性対照群のラットの生存を示す。四角(■、“BMP−7”)は、腎臓における虚血/再潅流損傷の処置のための公知の治療薬であるBMP−7を与えられた陽性対照群のラットの生存を示す。三角(▲、“BMP−1”)は損傷後にBMP−1−1を与えられたラットの生存を示す。ばつ印(x、“BMP−1 Ab”)は損傷後にBMP−1−1に対する抗体を与えられたラットの生存を示す。結果は損傷後のBMP−1−1イソ型の投与が虚血/再潅流急性腎不全のラットの生存率を増したことを表す。詳細は実施例8を参照されたい。
【図4】BMP−1−1(骨4Aおよび4D)、BMP−7(骨4B、4C、および4E)、およびBMP−1−1に対する抗体(骨4F)により全身的に処置されたラットの8週間後の大腿骨骨折を示す。ラットへのBMP−7の全身投与に比較して、ラットへのBMP−1−1の全身投与により骨折の治癒が早められた。BMP−1−1中和抗体の全身投与は、骨折部位におけるBMP−1−1活性の阻害により骨折治癒を遅延させた。
【図5】図5Aおよび5Bは以下の実施例14に記載のように、BMP−1イソ型またはBMP−7無しに、全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)だけにより局所的に処置された対照群のウサギの代表的な骨における6週間後の尺骨欠損を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは以下の実施例14に記載のように、BMP−1−1を含むWBCDにより局所的に処置されたウサギの代表的な骨における6週間後の尺骨欠損を示す。
【図7】図7Aおよび7Bは以下の実施例14に記載のように、BMP−7を含むWBCDにより局所的に処置されたウサギの代表的な骨における6週間後の尺骨欠損を示す。
【図8】図8Aおよび8Bは以下の実施例14に記載のように、BMP−1−1およびBMP−7を含むWBCDにより局所的に処置されたウサギの代表的な骨における6週間後の尺骨欠損を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
本発明が十分に理解されるように、以下の用語が定義される。
本明細書で使用され、理解される“抗体”または“抗体分子”は、天然に、合成により、または半合成により生産されたかどうかにかかわらず、タンパク質分子もしくはその一部、またはいずれか他の分子である特定の結合メンバーを表し、そしてそれはイムノグロブリン可変軽鎖領域またはそのドメイン(V)もしくは一部、イムノグロブリン可変重鎖領域またはそのドメイン(V)もしくは一部によって形成される抗原結合ドメインを有する。“抗体”という用語はまた、イムノグロブリンの抗原‐結合ドメインに同一であるか、または相同な抗原‐結合ドメインを有するいずれかのポリペプチドまたはタンパク質分子を包含する。抗体は、“ポリクローナル”、すなわち、抗原の異なる部位に結合する抗原‐結合分子の集団、または抗原の1カ所だけに結合する同一の抗原‐結合分子の集団であってもよい。本明細書で使用され、理解される抗体分子の例としては、公知のクラスのイムノグロブリン(たとえば、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD)のいずれかおよびそれらのイソ型;FabまたはF(ab′)分子のような、抗原結合ドメインを含むイムノグロブリンフラグメント;1本鎖抗体(scFv)分子;二重scFv分子;単一ドメイン抗体(dAb)分子;Fd分子;ディアボディー分子;およびそのような分子を含む融合タンパク質を含む。ディアボディーは2つのディアボディーモノマーの会合によって形成され、そしてそれは2つの完全な抗原結合ドメインを含むダイマ−を形成し、ここでそれぞれの結合ドメインはそれ自体2つのモノマーそれぞれに由来する領域の分子間会合によって形成される(たとえば、Hol1iger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:6444−6448(1993)を参照されたい)。そのような抗体分子の使用は、当該技術分野で利用可能な非常に多数の抗体検出システムおよびフォーマットを提供し、それらは、全血、血漿、血清、および種々の組織抽出物を含む混合物中の特有のBMP−1イソ型を選択的に検出するために適用されてもよい。BMP−1イソ型を検出するための抗体分子を使用するフォーマットの例としては、イムノブロッティング(たとえばウェスタンブロット、ドットブロット)、免疫沈降、アフィニティー法、イムノチップなどが挙げられるが、それらに限定されない。当該技術分野で公知の多様な方法のいずれかが利用されて、特定のBMP−1イソ型、または少なくとも1つのエピトープ(抗体結合部位)を含む該BMP−1イソ型の一部に対する抗体分子が産生されてもよい。
【0044】
“循環する(circulate)”および“循環する(circulating)”は個体の血管系を通って移動するか、または別のやり方で運ばれるどんなものも説明する。
【0045】
“障害(disorder)”および“疾患(disease)”という用語は同義語であり、原因または病原体にかかわらず、いずれかの病的状況を表す。組織における“欠損”は異常な、または欠陥のある組織増殖の部位を表す。“疾患”または“障害”は1種以上の組織における1種以上の“欠損”によって特徴付けられてもよい。
【0046】
本明細書で使用する “処置(treatment)”および“処置する(treating)”という用語は、疾患または障害の1種以上の症状または徴候を緩和する、疾患または障害の進行を阻害する、疾患または障害の進行を阻止するかまたは、進行を無効にする(退行を引き起こす)、または疾患または障害の開始を妨害するいずれかの処方を表す。処置には、予防を含み、そして疾患または障害の治癒を含むが、それが不可欠ではない。
【0047】
“治療的有効量”は、状態の進行を全体的に、または部分的に阻害する、障害の1種以上の症状を少なくとも部分的に緩和する、または別の化合物(たとえば骨形成性BMP)の治療的な、または別の有益な効果を高めるか、または触媒する化合物(たとえば、治療的に使用される場合のBMP−1イソ型またはBMP−1イソ型結合分子)の量である。治療的有効量は、予防的に有効な量でもありうる。治療的に有効である量は患者のサイズおよび性、処置されることになる状態、状態の重症度および求められる結果に依存することになる。一定の患者にとって、治療的有効量は当業者に公知の方法によって決定されうる。
【0048】
本明細書に開示される種々のポリペプチドを記載するために使用される場合、“単離された”という用語は天然の環境の要素から確定され、そして分離および/または回収されているポリペプチドを意味する。天然の環境の汚染要素は、ポリペプチドの診断的または処置的使用を典型的に妨害することになる材料であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含んでいてもよい。ポリペプチドの天然の環境の少なくとも1つの要素が存在しないことになるため、単離されたポリペプチドは、ポリペプチドを発現するように操作された組換え細胞内のin situにおけるポリペプチドを含む。しかし、通常、単離されたポリペプチドは少なくとも1つの精製ステップによって調製されることになる。“単離されたポリヌクレオチド”または単離されたポリペプチドをコードする核酸は、そのような核酸の天然の供給源、たとえばヒトゲノム中で通常会合している少なくとも1種の汚染物質の核酸分子から確定され、そして分離される核酸分子である。単離されたポリヌクレオチドは天然において見いだされる形状または配置以外の状態である。従って、特定のポリペプチドをコードする核酸分子は天然の細胞に存在するため、単離されたポリヌクレオチドは、そのような特定のポリペプチドをコードする核酸分子と識別される。しかし、単離されたポリヌクレオチドは、細胞に含まれ、通常はポリペプチドを発現する、ポリペプチドをコードする核酸分子を含むが、たとえば天然の細胞とは異なるクロモソームの位置にある核酸分子は含まない。
【0049】
“ゲル”は半固体のゼリー様材料を意味する。
凝血物ゲルに適用される“均質”は、凝血塊の集塊を連結する非均質線維性ネットワークとは対照的に、凝血物ゲルが均質な硬度を有することを意味する。
【0050】
凝血物ゲルを説明するために本明細書で使用される“シリンジで吸引可能な(syringeable)”は、針を詰まらせずに、または粉々に砕けて集塊にならずに、18〜23ゲージまでの範囲の針を持つシリンジに凝血物ゲルが吸引されうることを意味する。
【0051】
凝血物ゲルを説明するために本明細書で使用される“注射可能な(injectable)”は、凝血物ゲルがシリンジの開口部を通って、または18〜23ゲージまでの範囲の針を通って、開口部または針を詰まらせずに、そして粉々に砕けて集塊にならずに、シリンジから押し出されうることを意味する。
【0052】
凝血物ゲルを記載するために本明細書で使用される“適応性のある”は、骨欠損を充填するか、または覆うために、凝血物ゲルが成型、または形成されうることを意味する。適応性のある凝血物ゲルは自立していて(または物理的に安定で)、形成された型を実質的に保持することになる。
【0053】
1種以上の指定された成分またはステップを“含む”と本明細書で記載される組成物または方法は制約がなく、指定された成分またはステップは必須であるが、他の成分またはステップが該組成物または方法の範囲内で添加されてもよいことを意味する。冗長であることを回避するために、1種以上の指定された成分またはステップ“を含む(comprising)”(または“which comprises”)と本明細書で記載されるいずれかの組成物または方法はまた、同じ指定された成分またはステップ“から本質的になる(consisting essentially of)”(または“which consists essentially of”)、対応する、いっそう限定された、組成物または方法を記載し、該組成物または方法は指定された必須の成分またはステップを含み、そしてまた組成物または方法の基本的および新規な特徴に著しく影響を与えない、付加的な成分またはステップを含んでいてもよいことを意味することが理解される。また、1種以上の指定された成分またはステップ“を含む(comprising)”または“から本質的になる(consisting essentially of”)と本明細書で記載されるいずれかの組成物または方法は、いずれか他の不特定の成分またはステップを除外して、指定された成分またはステップ“からなる(consisting)”(または“which consists of”)、対応する、いっそう限定的で、閉鎖的な組成物または方法を説明することが理解される。本明細書に開示されたいずれかの組成物または方法では、いずれか指定の必須の成分またはステップの、公知の、または開示された等価物がその成分またはステップと取って代わってもよい。
【0054】
特記しない限り、他の用語の意味は、医学、生化学、分子生物学、および組織再生の分野を含む、当業者によって理解され、そして使用されるものと同じである。
本発明は、成体個体(ヒトまたは他の哺乳動物)の血液中のBMP−1イソ型が個体の組織の状態(state)または状態(condition)の生物学的マーカー(バイオマーカー)として有用であるという発見に基づく。とりわけ、成体個体の血液中の1種以上のBMP−1イソ型の存在または不在、すなわちBMP−1血液プロファイルは、個体の健康状態または骨および種々の軟組織の特有の病的状態を示す。メタロプロテイナーゼプロコラーゲンC−プロテイナーゼ(BMP−1プロコラーゲンC−プロテイナーゼとも呼ばれる)と同一であるBMP−1−1は、本来骨マトリックス中に発見された。しかし、BMP−1−1イソ型は健康な成体個体にも、種々の疾患患者の中にも血中に循環していることが見いだされない。以前に、BMP−1−1以外のイソ型の存在は組織RNA転写物のレベルにおいてだけ推測された。
【0055】
以下の表1は、正常な健康状態およびいくつかの障害、すなわち、急性骨折、慢性腎不全、進行性骨化性線維形成異常(FOP)、骨形成不全(IO)、急性膵炎、および肝硬変に関連して循環するBMP−1イソ型のプロファイルを提供する。表1の診断プロファイルを生み出した研究の記載は実施例6(以下)に提供される。
【0056】
【表1】

【0057】
個体から得られた血液は、たとえばイソ型特異的抗体または他のイソ型ディテクター分子を使用して、種々のBMP−1イソ型の存在を容易に分析されうる。その上、血液試料中のBMP−1イソ型のプロファイルは、示された病的状態のいずれかを診断するための表1のプロファイルと比較されうる。
【0058】
表1は、血液循環するBMP−1イソ型が広域スペクトルの疾患の生物学的マーカー(すなわちバイオマーカー)として有用であることを示す。表1の病状を診断するBMP−1イソ型血液プロファイルの使用は、そのようなプロファイルが生み出される機序の理解に依存しない。それにもかかわらず、種々の疾患を診断する都合のよい方法を提供する以外に、本明細書に提示されたデータとの密接な関係が存在する。とりわけ、本明細書に提示されたデータは、単一遺伝子、BMP−1の多様な生成物である循環酵素の存在を初めて証明する。その上、いずれか特有の機序または操作の理論に束縛されることを望まずに、表1のデータは、それぞれの組織または器官が特有の真正BMP(たとえば、BMP−4、BMP−5、BMP−6)を遊離すると推定されていた、真正骨形成性BMPの作用の長く保持されてきたモデルを消散させた。対照的に、表1に示すように、健康な個体ではBMP−1−3イソ型だけが循環し、真正骨形成性BMPは健康な個体の血液中に見いだされていない(以下の実施例1を参照されたい)。その上、本明細書に示すように、80%もの静脈内投与されたBMP−1−3がラットの骨折した大腿骨の同所性部位に局在することになり、無処置対照動物に比較して、骨治癒の速度が促進される(以下の実施例7を参照されたい)。さらに、ECMに富むラット頭蓋冠の培養物では、外因性に提供されたBMP−1−3が培地中への真正骨形成性BMP−4およびBMP−7の遊離を促進する(以下の実施例9を参照されたい。これらのデータは、循環するBMP−1イソ型が、ECM(真正骨形成性BMP分子の貯蔵場所である(たとえばMartinovic et al.,Arch.Cytol.Histol.,1:23−36(2006)を参照されたい))の重要なプロセッシング酵素として触媒的に働き、1種以上の真正骨形成性BMPの局所遊離をもたらすという、本明細書で示された組織修復モデルといっそう一致する。骨修復において、たとえば、BMP−1イソ型に触媒された真正BMPの遊離は局所的に働き、その後骨折した骨端の再架橋中の仮骨形成中の骨再生および修復を促進する。
【0059】
表1に示すように、いくつかの病的状態、すなわち、急性骨折、急性膵炎、および肝硬変は血液からのBMP−1−3イソ型の消失によって特徴付けられる。BMP−1−3の他に、BMP−1−5イソ型も個体の血液中に存在する場合、イソ型プロファイルは慢性腎不全(CRF)の診断に役立つ。BMP−1−3が正常な個体よりかなり高い濃度(すなわち、少なくとも正常レベルの5倍)で血液中に見いだされる場合、イソ型プロファイルはFOPまたはOIの徴候を示す。BMP−7が存在する唯一のイソ型である場合、プロファイルは急性膵炎の徴候を示す。
【0060】
軟組織器官に関しては、血液中のBMP−1−3の不在は、BMP−1−3が実質組織に蓄積し、細胞外マトリックス(ECM)のプロセッシングを促進し、それが今度は線維形成を刺激する状態を示唆してもよい。表1の軟組織の病状の一般的な特徴は、組織の進行する線維形成であり、それが処置されないと器官不全を導きうる。そのような線維形成は肝硬変および急性膵炎の特徴を示す。従って、血液プロファイルがBMP−1−3の不在を示唆し、そして骨折、慢性腎不全、FOP、またはOIの証拠がない場合、表1は肝臓または膵臓のような実質器官の特定された病状の診断を導く。そのような状況では、医療専門家はそのような器官の病状の付加的な試験を実施するように警告される。従って、そのような付加的な試験は、線維形成増加を導くコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、および他の細胞外分子の蓄積に関する標準試験を実施することによって明白であるような線維形成増加を1種以上の実質器官が提示するかどうかを確定することを含んでいてもよい。
【0061】
表1の場合、急性膵炎患者の血清は、疾患の初期のステージ、すなわち膵臓のアミラーゼおよびリパーゼのような膵臓酵素の活発な血清上昇の前に集められた。驚くべきことに、これらの患者の血液は、タンパク質レベルで以前に検出されていなかった(すなわち、mRNA転写物の検出から推定される理論的なBMP変異体というよりむしろ発現されたタンパク質としての)BMP−1−7イソ型を含んでいた。BMP−1−7の血液中における出現は膵臓の急性損傷の初期の診断マーカーとして有用である。
【0062】
BMP−1−3およびBMP−1−5イソ型は、透析中の慢性腎不全患者に見いだされ、障害におけるこれらのイソ型の特定の役割、たとえば、腎臓骨ジストロフィーと呼ばれる骨の線維形成プロセスにおける関与を暗示する。BMP−1−5イソ型はまた、慢性腎不全ラットの循環中に検出されていて、疾患の重症度を反映している。我々による、患者の血液中におけるBMP−1−5の検出はまた、タンパク質レベルでのBMP−1−5イソ型の初めての証明である。
【0063】
表1のプロファイルに従って、患者の血液中を循環するBMP−1イソ型がないことを示唆するBMP−1イソ型プロファイルは、個体が急性骨折を有する、および/または肝硬変を有することの証拠である。これらの状態の両方が線維形成を含む。そのような線維形成は急性骨折の治癒における仮骨形成の一部として有益であってもよいが、軟組織では、線維形成は破壊的であり、肝硬変に特徴的である。
【0064】
循環するBMP−1イソ型プロファイルを確定することは、個体が組織欠損または疾患の症状を提示する場合だけでなく、たとえば年に1回の健康診断の一部としてのように、担当の医療専門家によって実施される日常的な血液試験の一部として使用されてもよい。当該技術分野で公知の、多様な方法および組成物のいずれかを使用して個体から得られた血液試料中で、BMP−1イソ型は容易に検出される。そのような方法には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、トリプシン消化したBMP−1イソ型のペプチドの質量分析(MS)、およびアフィニティー法、とりわけ他のイソ型を除外して、特有のBMP−1イソ型に特に結合するアフィニティー分子を利用するものが挙げられるが、それらに限定されない。そのようなアフィニティー分子には抗体分子およびアプタマーが挙げられるが、それらに限定されない。当該技術分野で利用可能な多様なアッセイフォーマットがあり、それらは抗体分子を利用して個体の血液中に存在する標的タンパク質を検出または単離しうるため、それぞれのBMP−1イソ型に特異的な抗体分子がとりわけ好ましい。そのようなフォーマットには、濾紙(たとえば、ニトロセルロース、酢酸セルロース)、マイクロタイタープレート、ポリマー粒子(たとえば、アガロース、ポリアクリルアミド)、シリコンチップなどが挙げられるが、それらに限定されない。個体の血液からBMP−1イソ型を検出するか、または単離するために使用されるいずれか特有の方法の場合、全血の血漿または血清部分からそのような検出または単離をすることが好ましくてもよいことが理解される。
【0065】
本明細書で記載される組換えBMP−1イソ型はクローニングされ、真核および原核宿主細胞に発現された。そのような組換え細胞を利用して、本明細書で記載される方法において使用するために十分な量のイソ型を生産してもよい。本明細書で論じられるそれぞれのBMP−1イソ型の特定のコーディング配列は公知であり、コードされたアミノ酸配列は推定されている。たとえば、EMBL Nucleotide Sequence Database(worldwide web.ebi.ac.uk/embl)を参照されたい。便宜上、BMP−1−1のアミノ酸配列は本明細書では配列番号:1として含まれる。BMP−1イソ型BMP−1−3のアミノ酸配列は配列番号:2で示され、BMP−1−3をコードするcDNA配列は配列番号:3で示される。BMP−1イソ型BMP−1−5のアミノ酸配列は配列番号:6で示される。BMP−1イソ型BMP−1−7のアミノ酸配列は配列番号:7で示される。ヒト胎盤に由来し、以前に知られたBMP−1−3の形状とは異なる特性を有するBMP−1−3の新規な変異体型が発見されていて、それは配列番号:4のアミノ酸配列、および配列番号:5のコーディング配列を有する。
【0066】
BMP−1イソ型およびそのペプチドは当該技術分野で利用可能な標準組換え、合成、または半合成法によって生産されてもよい。また、BMP−1イソ型およびそのペプチドを使用し、当該技術分野で利用可能な標準方法を使用して、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体分子を含む種々のアフィニティー分子を生産してもよい。
【0067】
配列番号:1、2、4、6および7のイソ型をコードするヌクレオチド配列のすべてまたは一部は、ベクター、プライマー、ハイブリダイゼーションのための核酸プローブなどのような多様な核酸分子のいずれかの核酸配列に組み込まれてもよい。そのような組換え核酸分子を使用して、関心のあるBMP−1イソ型をコードする核酸分子をクローニングし、BMP−1イソ型ヌクレオチド配列を(たとえば種々のハイブリダイゼーション法により)同定または検出し、および/または関心のあるBMP−1イソ型をコードする核酸分子を増幅(たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プロトコルを使用して)してもよい。核酸分子は(たとえば自動核酸シンセサイザーを使用して)化学的に合成され、PCRにより生産され、および/または当該技術分野で公知の種々の組換え核酸法により生産されてもよい。核酸分子を、当該技術分野で公知の種々の改変、たとえば、ホスホジエステル結合をチオール結合に置き換えることにより合成し、種々のヌクレアーゼおよび化学物質による開裂に抵抗する分子を提供してもよい。BMP−1イソ型のすべてまたは一部をコードする特定のヌクレオチド配列(DNA、cDNA、またはRNA)を検出する方法は当該技術分野で公知であり、サザンブロット(DNAおよびcDNAの場合)、ノーザンブロット(RNAの場合)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、ドットブロット、コロニーブロット、およびDNAまたはRNA分子のin vitro転写を含むが、それらに限定されない。本明細書に記載される核酸分子は、セルロース‐含有紙(たとえば、ニトロセルロース、酢酸セルロース)、ナイロン、プラスチックマイクロタイターディッシュのウェル、ポリマー粒子(たとえばアガロース粒子、アクリルアミド粒子)およびシリコンチップを含むが、それらに限定されない多様な表面のいずれかに、標準方法により固定されてもよい。
【0068】
表1のプロファイルはまた、欠損および障害を処置する薬物発見および新規な方法にとって可能性のある標的を暗示する。たとえば、先に述べたように、BMP−1イソ型は線維形成を促進する重要な酵素として関係している。線維形成疾患を処置する好ましい方法は、組織線維形成に関連するBMP−1イソ型に対する抗体を患者に投与することを含む。そのような線維形成疾患には、線維形成腎臓疾患、肝硬変、急性膵炎、およびFOPが挙げられるが、それらに限定されない。たとえば、慢性腎不全および透析処置中の患者を処置する方法では、BMP−1イソ型に対する抗体が患者に投与されて、腎不全を遅らせ、そして腎臓骨ジストロフィーの発症を妨害してもよく、そのような腎臓骨ジストロフィーは再生プロセスを阻害するもろい骨および線維形成骨髄を導く。FOP患者では、FOP患者の特徴的な“第2の骨格”を発生させるための線維形成プロセスに依存する異所性骨化を妨害するか阻害するために、抗体分子を投与してBMP−1イソ型を阻害してもよい。好ましくは、本明細書で記載される方法において有用な抗体分子は、非常に低い免疫原性を有するか、または最も好ましくは免疫原性が全くない抗体分子であり、そのため、抗体分子を不活性化することになる患者の免疫反応を引き起こさずに、抗体分子が複数用量で患者に投与されてもよい。また、BMP−1イソ型を阻害するか、または不活性化するための抗体のような治療薬の投与が、骨折の正常な治癒中の仮骨形成における線維形成に依存する骨折の治癒も阻害してよいことが理解される。従って、患者に存在する可能性があるいずれかの骨折が治癒されるまで、または患者におけるいずれかの骨折の治癒より、BMP−1イソ型を阻害するか、または不活性化するためのいっそう重大な処置の必要性が勝るという場合を除いては、本明細書に記載のBMP−1イソ型を阻害するための治療が推奨されないことは、医療専門家によって認識されることになる。
【0069】
本発明の処置の別の方法は、特有のBMP−1イソ型を欠く患者に、組織修復を促進しうるか、または疾患を妨害しうる組換えBMP−1イソ型を投与することを含む。本明細書に示すように、BMP−1−3は循環から消失し、急性骨折の同所性部位に局在する。
【0070】
BMP−1イソ型が全身的に(以下の実施例7を参照されたい)、または局所的に(以下の実施例8を参照されたい)投与されるかどうかにかかわらず、疾患の急性形状を維持している個体への組換えBMP−1−1の投与は骨修復を促進しうる。BMP−1イソ型の投与はまた、胸部または腹部手術のような、主要な開放性手術中の虚血性急性腎不全後の患者に発生しうる血液凝血塊を溶解するために治療的に利用されてもよい。そのような事例では、手術中に形成される可能性がある凝血塊を溶解するための予防的治療として、好ましくは、BMP−1イソ型は手術前に投与される。
【0071】
急性膵炎の患者では、BMP−7イソ型の阻害を予防的に使用して、疾患の進行を妨げるか、または阻害してもよいのに対して、炎症プロセスの急性相後のBMP−7の全身投与を使用して膵臓再生を促進してもよい。BMP−1イソ型の二重機能がラットの急性腎不全において示され、その場合腎臓虚血前に注射されたBMP−1−1およびBMP−1−3抗体は腎臓機能を維持したが、虚血後のBMP−1−1イソ型の全身投与は著しくラットの生存を高めた(以下の実施例11を参照されたい)。従って、急性虚血性疾患におけるBMP−1−1イソ型の二重機能は、2種の処置方法、すなわち予防的(preventative)(予防的(prophylacitic))処置および治療的(再生的)処置を暗示する。従って、急性腎臓虚血性疾患を妨げる方法は1種以上のBMP−1イソ型に対する抗体、たとえば循環するBMP−1−3イソ型に対する抗体、および循環するBMP−1−1イソ型に対する抗体を個体に(たとえば非経口的に)投与し、線維形成を妨げるか、または線維形成の実質的な進行を妨げることを含んでいてもよい。対照的に、急性虚血性腎臓疾患を処置する方法は、1種以上の組換えBMP−1イソ型を個体に(たとえば非経口的に)投与し、疾患の亜急性ステージにおける腎臓のより好ましい再生を支持することを含んでいてもよい。慢性腎不全を処置する方法は、1種以上のBMP−1イソ型に対する抗体(たとえばBMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体)を個体に(たとえば非経口的に)投与し、線維形成および疾患の進行を阻害することを含んでいてもよい。医療専門家は個体の腎臓の状態を査定して、個体が急性虚血のリスクを持ち、それゆえ予防的処置(たとえば、BMP−1−1およびBMP−1−3イソ型を阻害するための抗体分子)の候補であるかどうか、または個体がすでに重篤な急性虚血性腎臓疾患を患っていて、治療的(再生的)処置(BMP−1イソ型の投与)の候補であるかどうかを決定しうる。
【0072】
本明細書で記載される発見の重要な側面(以下の実施例を参照されたい)は、先行技術の教示および前提とは異なり、BMPファミリー(たとえば、BMP−2、BMP−4、BMP−6、BMP−7など)の骨形成性BMPは、全身的に投与して、骨折または骨疾患の局所的修復のための治療的処置を提供するべきではないということである。なぜなら、血管壁におけるいずれかの免疫不全が局所的に骨形成性BMPを遊離し、それによって潜在的に局所軟組織の骨化を誘導する可能性があるからである。そのような血管の免疫不全は注射部位、打撲傷、および外傷において容易に発生し、そこでは局所的に利用可能な幹細胞と骨形成性BMPの組み合わせが結果的に軟組織の望ましくない骨化を生じうる。対照的に、BMP−1−3またはBMP−1−1のようなBMP−1イソ型が全身的に投与され、局所骨折部位において細胞外マトリックスから骨形成性BMPを遊離してもよい。BMP−1−1およびそのイソ型は真正BMPではないが、酵素である。
【0073】
BMP−1イソ型は、骨折または個体における(たとえば、種々の代謝的骨障害で発生するような)不適切な骨成長が特徴である骨のような、骨欠損を処置するための全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)中の活性成分として利用されてもよい。1種以上のBMP−1イソ型(たとえば、BMP−1−1、BMP−1−3)を含む、そのようなWBCDが、骨折または不適切な骨成長によって特徴付けられる他の欠損部位に移植または注射されて、骨再生を促進してもよい。1種以上のBMP送達のために調製されたWBCDは、これと同時に出願され、本発明の譲渡人に譲渡された、同時係属中の国際特許出願第PCT/US07/__に詳細に記載される。上記出願の開示はここに参照として援用される。BMP−1イソ型が、EMC由来の(または外因性供給源から導入された)真正骨形成性BMPを触媒し、骨修復活性を高めるという本発明の一部としての発見は、少なくとも1種のBMP−1イソ型または少なくとも1種のBMP−1イソ型と少なくとも1種の骨形成性BMPの組み合わせを含む、改善されたWBCDを本明細書で記載する基礎を提供する。
【0074】
従って、好ましい態様では、本発明は以下:
(a)全血;
(b)1〜500μg/mL、好ましくは2〜200μg/mL、いっそう好ましくは5〜20μg/mLの量のBMP−1イソ型、および場合により50〜500μg/mLの量の真正BMP;
(c)1〜2.5mMの濃度でカルシウムイオン(Ca++)を供給する外因性物質;
および
(d)場合により、5〜10mg/mLフィブリンおよび0.5〜5mg/mLトロンビンの混合物;を含む、骨折、または個体における不適切な骨成長が特徴である他の骨欠損を処置するための、骨形成性BMPを提供する。
【0075】
本明細書で記載される全血‐由来凝血物デバイスは好ましくは以下:
(a)(1)全血、
(2)1〜500μg/mL、好ましくは2〜200μg/mL、いっそう好ましくは5〜20μg/mLの少なくとも1種のBMP−1イソ型、
(3)5〜15ミリモル/L塩化カルシウム、
および
(4)場合により、5〜10mg/mLフィブリンおよび0.5〜5mg/mLトロンビンの混合物を一緒に混合すること;
(b)物理的に安定な(すなわち、非流体、自己‐支持、粘着性)凝血物ゲルが形成されるまでステップ(a)の混合物をインキュベーションすること;を含むステップにより調製される。
【0076】
先の態様では、1種以上の真正骨形成性BMPが、好ましくは50〜500μg/mLの量で混合ステップ(a)に添加されてもよい。
好ましい態様では、凝血物デバイスは、初めにフィブリン‐トロンビン混合物、カルシウムイオン、およびBMP−1イソ型またはBMP要素を組み合わせて第1の混合物を形成し;続いて成分の濃度が先に示された範囲内に収まり、そして機械的に安定なゲル硬度の凝血物が形成されるまで上記の第1混合物を全血と組み合わせることによって調製される。
【0077】
好ましくは、本明細書で記載されるWBCDの調製において使用される全血は、WBCDを与えられることになる個体から採取された自家全血である。なぜなら、自家全血は免疫原性でない、すなわち、非‐自己として受容者の免疫システムによって拒絶されないからである。それにもかかわらず、たとえば、患者が既に顕著な量の血液を失っている可能性があるか、またはすでに輸血をうけている可能性がある場合のように、状況によってはクロスマッチした全血が使用されてもよいことは認識される。そのような状況では、WBCDにおけるクロスマッチした全血の使用は、クロスマッチした全血を使用するどんな輸血にも関連する血清疾患と同じか、または類似のリスクを導入する。
【0078】
本発明はまた、骨欠損を処置するための1種以上のBMP−1イソ型を含む骨形成性全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)を調製するためのキットを提供する。たとえば、好ましい態様では、そのようなキットは以下のものから構成されてもよい:
(a)凍結乾燥したBMP−1イソ型を含むバイアル、
(b)凍結乾燥したBMP−1イソ型粉末を溶解するためのバッファー、
(c)バッファー中の凍結乾燥したBMP−1イソ型を溶解するためのシリンジと針、
(d)患者の血液を集めるための採血管(Vaccutainer)、
(e)1M塩化カルシウムの滅菌溶液、
(f)フィブリン‐トロンビン混合物、
(g)溶解したBMP−1イソ型と全血を混合するための容器、
(h)開放骨修復手術中に骨末端に骨形成性凝血物を適用するためのスパーテルまたはシリンジ(針あり、または針なし)および
(i)自家またはクロスマッチした全血を使用した、BMP−1イソ型を含むWBCDの調製および使用のための説明書。
実施例
実施例1.へパリンセファロースアフィニティークロマトグラフィーによる、ヒト血漿からの真正骨形成性BMPではない、BMP−1イソ型の精製、および液体クロマトグラフィー‐質量分析(LC−MS)を使用したタンパク質同定。
【0079】
この研究は本来、いずれかの骨形成性BMPがヒト血漿から検出され、そして単離されるかどうかを確定するために行われた。
血漿採集
健康な成人(年齢21〜50歳)50人の血液試料は1:9の抗凝固剤対血液比(v/v)を形成するように3.8%クエン酸ナトリウムを含むシリンジ中に採取された。血漿は遠心分離(15分間、3000xg)により得られ、それぞれの成体血漿試料のアリコートを使用して、プールされる血漿保存物が作製された。アリコート試料は分析まで−80℃で保存された。
アフィニティーカラム精製
プールされたヒト血漿(80ml)は10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で2倍に希釈され、予め10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で平衡化された5mlヘパリンセファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotech)に加えられた。結合タンパク質は1.0Mおよび2.0M NaClを含む10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)によりカラムから溶出された。
硫酸アンモニウム沈殿
飽和硫酸アンモニウム(SAS)はボルテックス上で混合しながら、最終濃度35%(w/v)になるまでタンパク質溶離液に滴下して加えられた。試料は氷上で10分間保たれ、12,000xgで5分間遠心分離された。上清は捨てられ、ペレットはその後のドデシル硫酸ナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)による分析のために調製された。
精製したタンパク質のSDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析
ペレットはLaemmliの方法に従って、10%ゲルを使用した標準SDS−PAGE上を流した。電気泳動後、SDS−PAGEゲルの一部分はニトロセルロースに移され、他は直接クーマシーブリリアントブルー(CBB)により染色された。ニトロセルロース膜は初めにBMP−7に特異的なマウスモノクローナル抗体(Genera Research Laboratory)と一緒にインキュベーションされ、一晩4℃に保たれた。アルカリ性ホスファターゼ結合ヤギ抗マウス抗体は室温で1時間、二次抗体として使用された。膜は5mlの発色性基質により染色された。ゲルの他の部分は標準染色手順(45%メタノール、10%酢酸中0.1%CBB、室温で30分間)のもとでクーマシーブリリアントブルー(CBB)により染色された。
【0080】
ゲルはCBBによる染色により明らかなそれぞれのタンパク質バンドに対応する切片に切断された。ゲル切片は、Olsen and Mann(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,101:13417−13422(2004)、Grgurevic et al.(J.Nephrol.,20:311−319(2007)により改変)により記述されたナノエレクトロスプレーLC−MSインターフェースを使用し、HPLCおよび質量分析(MS)によりそれぞれのタンパク質バンドから遊離されたトリプシン消化ペプチドを分析する方法を使用して加工処理され、それぞれの切片にどんなタンパク質が存在するかを確定した。この研究に特に関連するこの方法のステップの側面は以下に示される。
インゲル(in−gel)トリプシン消化プロトコル
ゲルのバンドはCBB染色されたゲルから切り出され、トリプシン消化された。手短に述べると、ゲル片は8分間100μlのアセトニトリルにより収縮させた。液体は除去され、ゲル片は12分間100μlの炭酸水素アンモニウムにより再膨潤させ、その後SpeedVac中で10分間乾燥させた。ジニトロスレイトール(DTT、100μl)が添加され、57℃で45分間インキュベーションした。ゲル片は57℃で8分間100μlのアセトニトリルにより収縮させ、回転分離して、液体を除去した。ヨードアセタミド(100μl)がそれぞれのゲル片に添加され、攪拌せずに暗所中、室温で45分間インキュベーションた。トリプシン(10μl)がゲル片毎に添加された。その後ゲル片は回転分離し、10分間再膨潤させた。試料はサーモミキサー中、37℃で一晩インキュベーションした。
ペプチド抽出プロトコル
試料は37℃サーモミキサーから除去された。アセトニトリル、水、およびギ酸を含む溶液(50μl)が添加された。試料は15分間超音波処理された。上清は保存チューブに移され、50μlのアセトニトリルが添加された。抽出物はSpeedVac中、真空下で完全に乾燥するまで(約40分間)乾燥させた。ペプチドは水、メタノール、およびギ酸を含む溶液10μlで再溶解された。試料は5分間超音波処理され、分析まで−20℃で保存された。
質量分析
トリプシン消化されたペプチドは以下のように、液体クロマトグラフィー‐質量分析(LC−MS)により分析された。Agilent 1100ナノフローHPLCシステム(Agilent Technologies Palo Alto,CA)はナノエレクトロスプレーLC−MSインターフェース(Proxeon Biosystems,Odense,Denmark)を使用して7−テスラLTQ−FT質量分析計(Thermo Electron,Bremen,Germany)に結合した。ペプチドは手製の75μmC18HPLCカラム上で分離され、正イオンモードにおいてオンザフライ(on−the−fly)で質量分析された。それぞれの測定サイクルは、フル質量分析(MS)スキャン、続いて選択イオンモニタリング(SIM)スキャン、MS/MS、および3つの最も強いイオンのMS/MS/MSスキャンから構成された。これは2ppmの典型的なペプチド質量精度、ならびにMS/MSおよびMS/MS/MSフラグメントイオンからの付加的な配列情報を提供した。得られたスペクトルは重心を決められ、Mascot search engine(Matrix Science)を使用してNCBInrデータベースに対して検索した。検索はトリプシン消化特異性、固定した修飾としてのカルボキシアミドメチル化、および可変性修飾としての酸化されたメチオニンにより行われた。MSおよびMS/MSスペクトルに対して、それぞれ5ppmおよび0.6Daの質量許容誤差が使用された。
結果
LS−MSおよびイムノブロッティング分析は12個のトリプシン消化されたペプチドを明らかにし、それらはNCBInrデータベースと比較された。12ペプチドは公知の骨形成性BMPのどれにも属さないが、BMP−1−3の前駆体のスプライスイソ型3(Swiss−Prot:P13497−2;配列番号:2)、すなわちプロコラーゲンC−プロテイナーゼに属することが見いだされた。12ペプチドそれぞれのアミノ酸配列は以下の通りである:
GGGPQAISIGK(配列番号:2のアミノ酸193−203)、
HVSIVR(配列番号:2のアミノ酸233−238)、
GDIAQAR(配列番号:2のアミノ酸308−314)、
ISVTPGEK(配列番号:2のアミノ酸352−359)、
LPEPIVSTDSR(配列番号:2のアミノ酸401−411)、
DGHSESSTLIGRYCGYEKPDDIK(配列番号:2のアミノ酸497−519)、
FVSDGSINK(配列番号:2のアミノ酸529−537)、
CSCDPGYELAPDK(配列番号:2のアミノ酸572−584)、
15 SGLTADSK(配列番号:2のアミノ酸653−660)、
KPEPVLATGSR(配列番号:2のアミノ酸826−836)、
FYSDNSVQR(配列番号:2のアミノ酸841−849)、
FHSDDTITK(配列番号:2のアミノ酸958−966)。
【0081】
12ペプチドは190の組み合わせ合同Mascotスコアを有し、そしてそれは10−19の確率のランダムな(誤った)同定を提示する。NCBInrデータベース中の他のタンパク質で同じセットのペプチドに匹敵するものはなかった。真正骨形成性BMPタンパク質は、LS−MSまたはイムノブロッティングにより100kDaおよび35kDaの分子量において検出されなかった。
【0082】
結果は、真正骨形成性BMPは健康な成人の血液中には通常循環しないが、BMP−1−3、すなわちプロコラーゲンC−プロテイナーゼは正常なヒト血液の可溶性タンパク質要素であることを示唆する。
実施例2.ヘパリンセファロースアフィニティークロマトグラフィーおよびその後の質量分析(MS)を使用したタンパク質同定により確定されたヒト血漿または24時間尿ラット試料から、骨形成性BMPが単離されるはずがない。
血漿採集
17人の健康な成人(21〜50歳)の血液試料は1:9の抗凝固剤対血液比(v/v)を形成するように3.8%クエン酸ナトリウムを含むシリンジ中に採取された。血漿は遠心分離(15分間、3000xg)により得られ、それぞれの成人試料のアリコートを使用して、プールされる血漿保存物が作製された。アリコート試料は分析まで−80℃で保存された。
尿採集
健康なラット(Sprague−Dawley、5ヶ月齢、Harlan Winkelmann,Borchen,Germany)の24時間尿試料は代謝ケージ中で集められた。精製前に、尿はWhatmann濾紙(大きいポアサイズ)を通して濾過し、大きな粒子を除去した。試料は研究されるまで−80℃で保存された。
血漿試料のアフィニティーカラム精製
プールされたヒト血漿(35ml)は10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で2倍に希釈され、予め10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で平衡化された5mlヘパリンセファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotech)に加えられた。結合タンパク質は1.0Mおよび2.0M NaClを含む10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)によりカラムから溶出された。
尿ラット試料のアフィニティーカラム精製
24時間尿ラット試料(20ml)は10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で2倍に希釈され、予め10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で平衡化された1mlヘパリンセファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotech)に加えられた。結合タンパク質は1.0Mおよび2.0M NaClを含む10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)により溶出された。
硫酸アンモニウム沈殿
飽和硫酸アンモニウム(SAS)はボルテックス上で、最終濃度35%(w/v)になるまでタンパク質溶離液に滴下して加えられた。試料は氷上で10分間保たれ、12,000xgで5分間遠心分離された。上清は捨てられ、ペレットはその後のSDS−PAGE分析のために調製された。ペレットはSDS−PAGE上を流し、ゲル上のタンパク質は以下に記載のように分析した。
精製したタンパク質のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウェスタンブロット分析
ペレットは下記のLaemmliの方法に従って、10%ゲルを使用して標準SDS−PAGE上を流した。電気泳動後、SDS−PAGEゲルの一部分はニトロセルロースに移され、他は直接CBBにより染色された。ニトロセルロース膜は初めにBMP−7に特異的なマウスモノクローナル抗体(Genera Research Laboratory)と一緒にインキュベーションし、一晩4℃に保たれた。アルカリ性ホスファターゼ結合‐ヤギ抗マウスが室温で1時間、二次抗体として使用された。膜は5mlの発色性基質により染色された。ゲルの他の部分は標準染色手順(45%メタノール、10%酢酸中0.1%CBB;室温で30分間)のもとでCBBにより染色された。
【0083】
ゲルはCBBによる染色により明らかになったそれぞれのタンパク質バンドに対応する切片に切断された。ゲル切片はその後加工処理され、上記のトリプシン消化ペプチドを分析する方法を使用して、それぞれの切片にどのタンパク質が存在するかを確定した。特にこの研究に関連するこの方法のステップの側面は以下に示される。
インゲルトリプシン消化プロトコル
CBBで染色されたゲル上のバンドの分子量位置を、ニトロセルロース膜上のそれらの位置と比較し、尿試料の39kDa、35kDa、および50kDaのバンド、および血漿試料の39kDaおよび35kDaのバンドがCBB染色されたゲルから切り出された。ゲル片は8分間100μlのアセトニトリルにより収縮させた。液体は除去され、ゲル片は12分間100μlの炭酸水素アンモニウムにより再膨潤させ、その後SpeedVac中で10分間乾燥させた。DTT、100μlが添加され、57℃で45分間インキュベーションされた。ゲル片は57℃で8分間100μlのアセトニトリルにより収縮させ、回転分離し、液体を除去した。ヨードアセタミド(100μl)がそれぞれのゲル片に添加され、攪拌せずに暗所中、室温で45分間インキュベーションされた。トリプシン(10μl)がゲル片毎に添加された。その後ゲル片は回転分離し、10分間再膨潤させた。試料はサーモミキサー中、37℃で一晩インキュベーションされた。
ペプチド抽出プロトコル
試料は37℃サーモミキサーから除去された。アセトニトリル、水、およびギ酸を含む溶液(50μl)が添加された。試料は15分間超音波処理された。上清は保存チューブに移され、アセトニトリル50μlが添加された。抽出物はSpeedVac中、完全に乾燥するまで(約40分間)乾燥させた。ペプチドは水、メタノール、およびギ酸を含む溶液10μlで再溶解した。試料は5分間超音波処理され、分析まで−20℃で保存された。
質量分析(MS)
トリプシン消化されたペプチドは以下のように、液体クロマトグラフィー‐質量分析(LC−MS)により分析した。Agilent 1100ナノフローHPLCシステム(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)はナノ‐エレクトロスプレーLC−MSインターフェース(Proxeon Biosystems,Odense,Denmark)を使用して7−テスラLTQ−FT質量分析計(Thermo Electron,Bremen,Germany)に結合した。ペプチドは手製の75μmC18HPLCカラム上で分離され、正イオンモードにおいてオンザフライで質量分析された。それぞれの測定サイクルは、フルMSスキャン、続いて選択イオンモニタリング(SIM)スキャン、MS/MS、および3つの最も強いイオンのMS/MS/MSスキャンから構成された。これは2ppmの典型的なペプチド質量精度、ならびにMS/MSおよびMS/MS/MSフラグメントイオンからの付加的な配列情報を生み出した。
【0084】
得られたスペクトルは重心を決められ、Mascot search engine(Matrix Science)を使用してNCBInrデータベースに対して検索した。検索はトリプシン消化特異性、固定した修飾としてのカルボキシアミドメチル化、および可変性修飾としての酸化されたメチオニンにより行われた。MSおよびMS/MSスペクトルに対して、それぞれ5ppmおよび0.6Daの質量許容誤差が使用された。
結果
正常な健康個体由来の精製された血清の全分子範囲から、またはラットの尿から単離されたいずれのタンパク質においても、質量分析により、またはウェスタンブロッティングにより真正、骨形成性BMPは全く検出されなかった。
実施例3.凍結乾燥ヒト血液試料のヌードマウスへの、および自家ラット凍結乾燥血液試料のラットへの移植による異所性骨形成の欠如
血漿採集
血液(50ml)は10人の健康なヒト個体から集められた。血液は遠心分離して細胞を除去し、血清は分析まで−20℃で保存された。自家血(5ml)は2週間に5回の間隔で6ヶ月齢のSprague−Dawleyラットから集められた。試料は遠心分離され、血清は分析まで−20℃で保存された。
ヌードマウスおよびラットへの移植
100mgの凍結乾燥したヒト血液と200mgの脱塩したラット骨マトリックス(DBM)を混合することによって骨ペレットが1つ形成され、ヌードマウスの背部分に移植された。さらに、20mgのラットの凍結乾燥した自家血は100mgのDBMと混合し、血液が採取されたラットと同じラットの脇の下の皮下に移植された。ペレットは移植3週間後に除去され、組織検査のために固定され、加工処理された。
結果
ヌードマウスの皮下に移植された試験血液試料は骨形成に関して陰性であり、血液がマウスおよびラットに異所性骨形成を誘導しうる量の真正骨形成性BMPを含まないことを示唆した。
実施例4.組換えヒトBMP−7とは異なり、全身投与されたBMP−1−1は異所性骨形成アッセイにおいて骨形成を誘導しない。
【0085】
脱塩された骨マトリックスからなる骨ペレット(100μg)は先に記載(Simic et al.,J.Biol.Chem.,281:13514(2006))のように20匹の成体Sprague−Dawleyラットの脇の下の皮下(異所性部位)に移植された。次に10匹のラットは移植後2〜7日まで20μgの組換えヒトBMP−7を静脈内注射され、一方別の10匹のラットは類似のスケジュールで組換えヒトBMP−1−1を移植された。移植2週間後ペレットは除去され、組織評価のために加工処理された。
結果
BMP−7を注射されたラットのペレットでは、移植されたDBMへのBMP−7の結合および先に記載(Simic et al,上記)の軟骨内骨形成カスケードの誘導を含む機序により軟骨および骨が形成された。対照的に、BMP−1−1を全身処置されたラットのペレットでは、軟骨または骨は全く検出されず、BMP−1−1が異所性部位では骨を誘導できないことを示唆した。
実施例5.ヒト胎盤cDNAライブラリー由来のBMP−イソ型をコードするcDNAのクローニングおよび配列解析
BMP−1−1、BMP−1−3、BMP−1−4、およびBMP−1−7のコーディング配列を含むcDNAは、GATEWAY(登録商標)組換えクローニングおよび発現システム(Invitrogen,Carlsbad,California)を使用して、ヒト胎盤cDNAライブラリーからクローニングされた。クローンの正確さは標準コロニーPCRおよび制限酵素分析によって確証された。
【0086】
cDNAクローンのヌクレオチド塩基配列が確定され、対応するアミノ酸配列が推定された。83kDaBMP−1−1のアミノ酸配列は配列番号:1に示される。BMP−1−3イソ型をコードするcDNAクローンのヌクレオチド塩基配列は配列番号:3に示され、111kDaBMP−1−3イソ型の対応するアミノ酸配列は配列番号:2に示される。91kDaBMP−1−7イソ型のアミノ酸配列は配列番号:7に示される。
【0087】
この研究においてBMP−1−1およびBMP−1−7イソ型のcDNAクローンに関して確定されたヌクレオチド塩基および対応するアミノ酸配列はEMBLおよびSwiss−Protデータベースに存在するものと同一であることが見いだされた。しかし、本明細書で確定されたBMP−1−3クローンのcDNA配列は1ヌクレオチド塩基がEMBLデータベースのそれとは異なる。とりわけ、EMBL参照配列(配列番号:3)は1487位にチミン(T)塩基を有するが、クローニングされたBMP−1−3cDNA(配列番号:5)はアデニン(A)を有し、それが今度はEMBL配列のCTG(ロイシン)から我々によって単離されたBMP−1−3cDNA配列中のCAG(グルタミン)へのコドン変化を生じる。従って、BMP−1−3のSwiss−Protデータベースのアミノ酸配列(配列番号:2)は493位にロイシン残基を含むが、単離されたcDNAクローンによってコードされる胎盤BMP−1−3タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:4)は493位にグルタミンを含む。
【0088】
単離されたcDNAクローンの胎盤BMP−1−3タンパク質に部位特異的変異誘発が実施され、報告された配列(配列番号:3)の塩基1478を転換させた、すなわちアデニン(A)からチミン(T)に交換した。これは発現すると配列番号:2のアミノ酸配列を有する“変換された”BMP−1−3タンパク質を生じた。
結果
ライブラリーから単離されたcDNAクローンから発現される場合、配列番号:4のアミノ酸配列を有する胎盤BMP−1−3タンパク質、およびSwiss−Protデータベースに報告されたアミノ酸配列(配列番号:2)を有する“変換された”BMP−1−3タンパク質は共にプロコラーゲンI、II、およびIII型をin vitroで加工処理することにおいて活性であり、“変換された”BMP−1−3タンパク質はより低い濃度において活性が高かった。しかし、単離されたcDNAクローンから発現された胎盤BMP−1−3はカルモジュリンおよびIV型コラーゲンを加工処理し、それらの特性は“変換された”BMP−1−3タンパク質により示されなかった。従って、クローニングされた胎盤ライブラリーのcDNAから発現されるBMP−1−3イソ型は、Swiss−Protデータベースにおいて報告されたBMP−1−3タンパク質とアミノ酸配列および機能的酵素特性の点で異なる。
実施例6.いくつかの特定のBMP−1イソ型はヒトの異なる疾患の血液中を循環する。
血漿採集
血液試料は、10人の健康な成人、それぞれが急性膵炎、肝硬変、急性骨折、透析中の慢性腎不全を含む疾患と診断され、それらに対して処置を受けている10人の患者、およびまれな骨疾患、すなわち進行性骨化性線維形成異常(FOP)および骨形成不全(OI)の4人の患者から採取された。血液試料は1:9の抗凝固剤対血液比(v/v)を形成するように、3.8%クエン酸ナトリウムを含むシリンジ中に採取された。血漿は遠心分離(15分間、3000xg)により得られ、それぞれの血液試料のアリコートを使用してプールされる血漿保存物が作製され、それらは列挙された正常または病的事例のそれぞれを表す。アリコート試料は分析まで−80℃で保存された。
アフィニティーカラム精製
それぞれの患者群由来のプールされたヒト血漿80mlは10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で2倍に希釈され、予め10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)で平衡化された5mlのヘパリンセファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotech)に加えられた。結合タンパク質は1.0Mおよび2.0M NaClを含む10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7)によりカラムから溶出された。
硫酸アンモニウム沈殿
飽和硫酸アンモニウム(SAS)はボルテックス上で、最終濃度35%(w/v)になるまでタンパク質溶離液に滴下して加えられた。試料は氷上で10分間保たれ、12,000xgで5分間遠心分離された。上清は捨てられ、ペレットはその後のSDS−PAGE分析のために調製された。
精製したタンパク質のSDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析
ペレットはLaemmliの方法に従って10%ゲルの標準SDS−PAGE上を流した。電気泳動後、SDS−PAGEゲルの一部分はニトロセルロースに移され、他は直接クーマシーブリリアントブルー(CBB)により染色された。
【0089】
ニトロセルロース膜は初めにBMP−1カルボキシル末端ドメインに特異的なウサギモノクローナル抗体(Sigma−Aldrich,Chemie GmbH,Germany)と一緒にインキュベーションされ、一晩4℃に保たれた。アルカリ性ホスファターゼ結合抗ウサギ抗体(Invitrogen Corporation Carlsbad,SAD)は室温で1時間、二次抗体として使用された。膜は5mlの発色性基質により染色された。
【0090】
ゲルの他の部分は標準染色手順(45%メタノール、10%酢酸中0.1%CBB;室温で30分間)のもとで染色された。
ゲルはCBBによる染色により明らかなそれぞれのタンパク質バンドに対応する切片に切断された。ゲル片はその後加工処理され、上記のトリプシン消化ペプチドを分析する方法を使用して、それぞれの切片にどんなタンパク質が存在するかを確定した。特にこの研究に関連するこの方法のステップの側面は以下に示される。
インゲルトリプシン消化プロトコル
ゲル片は57℃で8分間100μlのアセトニトリルにより収縮させ、回転分離して、液体を除去した。ゲル片は12分間100μlの炭酸水素アンモニウムにより再膨潤させ、その後SpeedVac中で10分間乾燥させた。DTT(100μl)が添加され、57℃で45分間インキュベーションされた。ヨードアセタミド(100μl)がそれぞれのゲル片に添加され、攪拌せずに暗所中、室温で45分間インキュベーションされた。トリプシン(10μl)がゲル片毎に添加され、回転分離して、ゲル片を10分間再膨潤させた。試料はサーモミキサー中、37℃で一晩インキュベーションした。
ペプチド抽出プロトコル
試料は37℃サーモミキサーから除去された。アセトニトリル、水、およびギ酸を含む溶液(50μl)が添加された。試料は15分間超音波処理された。上清は保存チューブに移され、アセトニトリル(50μl)が添加された。抽出物はSpeedVac中で完全に乾燥するまで(約40分間)乾燥させた。ペプチドは水、メタノール、およびギ酸を含む溶液10μlで再溶解された。試料は5分間超音波処理され、分析まで−20℃で保存された。
質量分析
トリプシン消化されたペプチドは以下のように、液体クロマトグラフィー‐質量分析(LC−MS)により分析した。Agilent 1100ナノフローHPLCシステム(Agilent Technologies Palo Alto,CA)はナノエレクトロスプレーLC−MSインターフェース(Proxeon Biosystems,Odense,Denmark)を使用して7−テスラLTQ−FT質量分析計(Thermo Electron,Bremen,Germany)に結合した。ペプチドは手製の75μmC18HPLCカラム上で分離され、正イオンモードにおいてオンザフライで質量分析された。それぞれの測定サイクルは、フルMSスキャン、続いて選択イオンモニタリング(SIM)スキャン、MS/MS、および3つの最も強いイオンのMS/MS/MSスキャンから構成された。これは2ppmの典型的なペプチド質量精度、ならびにMS/MSおよびMS/MS/MSフラグメントイオンからの付加的な配列情報を生み出した。
【0091】
得られたスペクトルは重心を決められ、Mascot search engine(Matrix Science)を使用してNCBInrデータベースに対して検索した。検索はトリプシン特異性、固定した修飾としてのカルボキシアミドメチル化、および可変性修飾としての酸化されたメチオニンにより行われた。MSおよびMS/MSスペクトルに関して、それぞれ5ppmおよび0.6Daの質量許容誤差が使用された。
結果
この研究の結果は表1(上記)に示され、そしてそれは通常の健康状態および示された障害に関連する、循環BMP−1イソ型のプロファイルを提供する。結果は、BMP−1−3イソ型が通常は健康な個体の血液中に存在するが、急性骨折、肝硬変、および急性膵炎の患者における循環からは消失することを示唆する。驚くべきことに、FOPおよびOI患者ではBMP−1−3イソ型が依然として存在するが、健康な個体の血液中に観察されるレベルの10倍より多く存在することが認められた。
【0092】
急性骨折患者の循環からのBMP−1−3イソ型の消失は、骨折した骨端の再架橋中の仮骨形成中の骨再生および修復において、ECMタンパク質を加工処理することにおけるBMP−1イソ型の潜在的機能を確証する。肝硬変患者の循環からのBMP−1−3の消失は、肝臓の線維形成変化に関連したプロセスにおける関与を暗示する。急性膵炎では、疾患の病態生理に関与するいくつかのECM分子がECM分子のプロセッシングにBMP−1−3を必要とする。
【0093】
急性膵炎患者の血清は疾患の初期段階、すなわち、膵臓アミラーゼおよびリパーゼのような膵臓酵素の血清における活発な上昇の前に集められた。驚くべきことに、これらの患者の血液は、タンパク質レベルで以前に検出されていないBMP−1−7イソ型を含んでいた。
【0094】
BMP−1−5イソ型は透析中の慢性腎不全患者においてだけ見いだされ、このことは、たとえば腎性骨ジストロフィーと呼ばれる骨における線維形成プロセスにおける関与のような、この酵素イソ型の特定の機能を暗示する。興味深いことに、これはまた、タンパク質レベルでのBMP−1−5イソ型の最初の証明である。以前、BMP−1−5イソ型は組織mRNA転写物のレベルにおいてだけ推測されていた。
【0095】
循環中におけるBMP−1−3イソ型の存在はGeneraによって開発された特異的BMP−1−3抗体を使用したウェスタンブロットによってさらに確証された(データは示されない)。
実施例7.虚血/再潅流前に循環するBMP−1−1およびBMP−1−3を阻害することによるラットの虚血性急性腎不全における腎臓機能の保護。
動物
体重約350〜400gの雌Sprague−Dawleyラットは室内で飼育され、水および餌は自由に与えられた。
虚血/再潅流モデル
ラットは100mg/kgケタミン、10mg/kgキシラジン、および1mg/kgアセプロマジンで(筋肉内、im)麻酔され、37℃に保たれた加温テーブルに置かれた。正中線切開が行われ、両方の腎茎部は60分間クランプで留められた。クランプの除去後、予め温められた通常の生理食塩水5mlが腹膜腔に点滴され、切開は縫合された。全部で24匹の動物が2種の異なる実験群に割り当てられた:
グループ1.対照群(n=12);処置しない虚血/再潅流モデル(生理食塩水ベヒクル、pH7.2だけを投与)
グループ2.抗体処置群(n=12);虚血/再潅流モデル+虚血/再潅流前および虚血/再潅流後5日間、16μgの抗‐BMP−1−1抗体(c=1μg/μl)および16μgの抗‐BMP−1−3抗体(c=1μg/μl)。
【0096】
血液試料は閉塞前および再潅流後0、24、72、96、120、および168時間に得られた。血漿は遠心分離によって分けられ、腎臓機能パラメータが測定された。ラットは再潅流後7日目に屠殺され、腎臓は組織構造分析のために摘出された。治療は予防的様式で、クランピング2時間前、次にクランプから開放後5日間適用された。
腎臓機能の査定
血液試料(0.5ml)は虚血後0、24、72、96、120、および168時間において眼窩静脈叢から得られた。先に記載のように(Vukicevic et al.,J.Clin.Invest.,102:202−214(1998))、血清クレアチニンはJaffe法(アルカリ性ピクリン酸)により測定され、そして血中尿素窒素(BUN)は酵素的グルタメートデヒドロゲナーゼ‐UV手順により測定された。累積的生存率は対照および実験ラットの両方に関して観察され、記録された。
腎臓の形態
組織構造検査のために腎臓は2%パラホルムアルデヒドで固定され、7μmパラフィン片が切り出され、ヘマトキシリンエオジンで染色された。尿細管拡張および/または萎縮、間質性線維症および炎症性細胞浸潤物として定義される尿細管間質損傷、ならびに腎糸球体傷害は先に記載(Vukicevic et al.,J.Clin.Invest.,同上)の以下の基準に従って、0〜4までの半定量的スケールを使用して等級付けされた:0=無変化;1=試料の1〜25%を含む限局性変化;2=試料の26〜50%に影響を与える変化;3=試料の51〜75%を含む変化;および4=試料の75%より多くに影響を与える病変。2人の独立した観察者が盲検により組織構造の研究を行った。
結果
無処理対照群のラット(グループ1、抗体処置をしない)および処置群のラット(グループ2、BMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体)由来の血液中のクレアチニンレベルは図1に示される。対照ラットでは、手順後生き延びた動物において、両腎臓の60分間クランピング、続く再潅流後に、クレアチニン(図1、斜線の付いた棒)およびBUN(示されない)は急に上昇し、虚血後24時間(1日)および72時間(3日)において高いままであり、その後7日目に正常化した。虚血前および虚血後5日間BMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体が投与された(グループ2)場合、クレアチニン(図1、縞模様の棒)およびBUN(示されない)値は低いままであった。生存率は対照群のラットで35%、虚血前および虚血後5日間BMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体で処置されたラットでは55%であった。組織構造スライド(図2)で観察されるように、抗体処置をしないで、虚血/再潅流に曝された対照群ラットの腎臓は、腎臓面積の75%を越えて構造完全性を失い、近位および遠位尿細管が拡張し、尿細管上皮を失い、そして全腎臓面積の約30%が壊死に起因する線維形成治癒を経験していた(図2、パネル2Aを参照されたい)。対照的に、虚血/再潅流損傷前にBMP−1−1およびBMP−1−3に対する抗体を与えられたラット腎臓組織の切片は腎臓構造の際立った保存を示した(図2、パネル2Bを参照されたい)。
【0097】
これらの結果は、他の状況では虚血/再潅流事象の結果として発生することになる腎臓構造に対する傷害の重症度が、虚血/再潅流事象の前にBMP−1−1およびBMP−1−3に対する中和抗体の全身投与の処方によって妨げられうることを示す。
実施例8.ラットにおける虚血性急性腎不全後のBMP−1イソ型の全身投与により高められた生存。
動物
体重約300g〜400gの雌Sprague−Dawleyラットは室内で飼育され、水と餌は自由に与えられた。
虚血/再潅流モデル
ラットは100mg/kgケタミン、10mg/kgキシラジン、および1mg/kgアセプロマジンで(im)麻酔され、37℃に保たれた加温テーブルに置かれた。正中線切開を行い、両方の腎茎部は60分間クランプで留められた。クランプの除去後、予め温められた通常の生理食塩水5mlが腹膜腔に点滴され、切開は縫合された。全部で24匹の動物が4種の異なる実験群に割り当てられた:
グループ1.陰性対照群(n=12);処置しない虚血/再潅流モデル。
【0098】
グループ2.陽性対照群((“BMP−7”)(n=8);100μg/kgのBMP−7を5日間。
グループ3.BMP−1−1処置群(“BMP−1−1”)(n=8);4μgのBMP−1−1(c=0.2μg/kg)を5日間。
【0099】
グループ4.BMP−1−1抗体処置群(“BMP−1 Ab”)(n=8);クランプ開放後(虚血/再潅流事象後)16μgの抗BMP−1−1抗体(c=1μg/μl))を5日間。
【0100】
血液試料は閉塞前および再潅流後0、24、72、96、120、および168時間に得られた。血漿は遠心分離によって分けられた。これらの試料は腎臓機能パラメータ測定のために使用された。ラットは再潅流後7日目に屠殺され、腎臓は組織構造分析のために摘出された。処置はクランピング後、およびその後5日間適用された。
腎臓機能の査定
血液試料(0.5ml)は虚血後0、24、72、96、120、および168時間において眼窩静脈叢から得られた。先に記載のように、血清クレアチニンはJaffe法(アルカリ性ピクリン酸)により測定され、血中尿素窒素(BUN)は酵素的グルタメートデヒドロゲナーゼ‐UV手順により測定された。累積的生存率は対照および実験ラットの両方に対して観察され、記録された。
結果
種々の処置群のラットの生存は図3に示される。陰性対照群(グループ1、無処置)では、両腎臓の60分間クランピング、続く再潅流後に、クレアチニンおよびBUNのレベルは急に上昇し(示されない)、60%より多い動物が生き延びられなかった(図3を参照されたい、◆のデータ点)。再潅流後すぐのBMP−1−1の投与(“BMP−1−1”群)は死亡率を著しく減少させ、無処置の陰性対照群の40%生存率と比較して80%の生存率を維持した(図3を参照されたい、▲のデータ点)。
【0101】
BMP−1−1処置ラットでは、血清クレアチニンレベルは2および3日目では高いが、4日目に急に減少し(データは示さない)、そのことはおそらく血栓形成部分における細胞外マトリックスの迅速なプロセッシングおよび壊死後線維形成組織の蓄積のために顕著な壊死を妨げる構造要素の比較的速やかな回復に起因する。クランプ除去後のBMP−1−1抗体(“BMP−1 Ab”)の5日間投与(図3を参照されたい、x印データ点)は高い死亡率を妨げることにおいて有効ではなかった(すなわち、無処置対照群でも見られるように、7日目において40%もの低い生存率)。
【0102】
この実験結果は、虚血性急性腎不全後の組換えBMP−1イソ型の投与が腎臓に対する構造傷害を減らすことおよび影響を受けた個体の生存率を増すことに有効であることを示唆する。
実施例9.BMP−1イソ型を阻害することによるラット慢性腎不全(CRF)の進行の遅延。
動物
体重約300g〜400gの雌Sprague−Dawleyラットは室内で飼育され、水と餌は自由に与えられた。
CRFの5/6腎臓切除(Nx)モデル
ラットは100mg/kgケタミン、10mg/kgキシラジン、および1mg/kgアセプロマジン(im)で麻酔され、37℃に保たれた加温テーブルに置かれた。正中線切開が行われ、両方の腎茎部は60分間クランプで留められた。左腎臓が除去され、ラットは1週間回復期間を与えられた。その後、右腎臓塊の5/6が除去され、ラットは2週間回復期間を与えられた。全部で88匹の動物が4種の異なる実験群に割り当てられた:
グループ1.対照群(n=12);生理的ベヒクル溶液を与えられた5/6Nxラット。
【0103】
グループ2.BMP−1−1抗体群(n=12);Nx+12週間、週に1度16μgのBMP−1−1抗体(c=1μg/μl)。
グループ3.BMP−1−3抗体群(n=12);Nx+12週間、週に1度16μgのBMP−1−3抗体(c=1μg/μl)。
【0104】
グループ4.BMP−1−1+BMP−1−3抗体群(n=12);Nx+12週間、週に1度16μgのBMP−1−1抗体(c=1μg/μl)および12週間、週に1度16μgのBMP−1−3抗体(c=1μg/μl)。
【0105】
血液試料は手術前、および実験期間中週に1回得た。ラットは、右腎臓塊の除去後12週間目に屠殺された。処置は12週間、週に1回静脈内(iv)に適用された。
腎臓機能の査定
血液試料(0.5ml)は眼窩静脈叢から週に1回得られた。血清クレアチニンはJaffe法(アルカリ性ピクリン酸)により測定され、血中尿素窒素(BUN)は先に記載(Vukicevic et al.,J.Clin.Invest.,同上)のように、酵素的グルタメートデヒドロゲナーゼ‐UV手順により測定された。累積的生存率は対照および実験ラットの両方に対して観察され、記録された。
腎臓形態
組織構造検査のために腎臓は2%パラホルムアルデヒドで固定され、7μmパラフィン片が切り出され、ヘマトキシリンエオジンで染色された。腎臓傷害は(Borovecki et aI.,Bone morphogenetic proteins−Bone regeneration and beyond,Vukicevic S.and Sampath K.T.編,2002)に記載のように等級付けられた。手短に述べると、自動コンピュータプログラムを使用して、糸球体、尿細管の構造、および間質線維形成の量が腎臓部分で測定された。測定されたパラメータは、正常な糸球体の数と傷害を受けた糸球体の数の対比として、および線維形成により変化した腎臓部分の割合として表現された。
結果
12週間の処置後、ベヒクル溶液だけを与えられた対照ラット(グループ1)は300mEq/Lより多いクレアチニン値を有した。単一抗体、すなわちBMP−1−1に対する抗体(グループ2)もしくはBMP−1−3に対する抗体(グループ3)により、または両方の抗体の組み合わせにより処置された動物は、対照ラットに比較して有意に低い血清クレアチニン値を有した。とりわけ、抗‐BMP−1−1抗体(グループ2)または抗‐BMP−1−3抗体(グループ3)により処置されたラットは対照ラットよりそれぞれ36%、および39%低い血清クレアチニン値を有した。抗‐BMP−1−1および抗‐BMP−1−3抗体両方の組み合わせにより処置されたラットでは、血清クレアチニン値は対照ラットより54%低かった。両方の抗体の組み合わせにより処置された動物では(グループ4)では、線維形成面積は対照ラットに比較して57%減少したが、抗‐BMP−1−1抗体だけ(グループ2)、または抗‐BMP−1−3抗体だけで処置されたラットでは、線維形成面積はそれぞれ23%および16%減少した。その上、線維形成面積は、陽性対照であるBMP−7により処置されたラットに比較して両方の抗体の組み合わせにより処置されたラットでは43%減少した。
【0106】
これらの結果は、慢性腎不全(CRF)のモデルでは、BMP−1−1とBMP−1−3の阻害が、糸球体の構造完全性を維持し、線維形成組織の蓄積を妨害し、そうしてCRF後12週間に約50%の腎臓機能を改善することによって疾患の進行を遅延させたことを示唆する。これはヒトの寿命を約120ヶ月または約10年増すことに関連する。
実施例10.全身投与されたBMP−1−1による骨折修復の促進および同所性骨折におけるBMP−1−1の局在。
動物および実験プロトコル
54匹のSprague−Dawley雌ラットがこの研究で使用された。動物は体重約300グラム(g)であった。それらは研究中、標準条件(24℃、12時間/12時間明暗周期)下、20x32x20cmケージで飼育され、水およびペレット状の市販の餌(Harlan Teklad, Borchen,Germany)を自由摂取させた。ラットは3種の処置群および2種の対照群に分けられた。
【0107】
グループ1.対照ラット(10)は外科的に生み出された骨折後、Kirschnerワイアで処置され、その後ベヒクル溶液(生理食塩水、pH7.2)だけで全身処置された。
【0108】
グループ2.ラットは1週間BMP−1−1(10μg/kg)で処置された。10匹のラットは大腿骨骨折後、Kirschnerワイアで処置され、その後BMP−1−1を静脈内に処置された。
【0109】
グループ3.ラットは3週間BMP−1−1(10μg/kg)で処置された。10匹のラットは大腿骨骨折後、Kirschnerワイアで処置され、その後BMP−1−1を静脈内に処置された。
【0110】
グループ4.ラットは5週間BMP−1−1(10μg/kg)で処置された。10匹のラットは大腿骨骨折後、Kirschnerワイアで処置され、その後BMP−1−1を静脈内に処置した。
【0111】
グループ5.陽性対照。10匹のラットは大腿骨骨折後、Kirschnerワイアで処置され、その後100μg/kgのBMP−7を5週間、全身的に注射された。
麻酔されたラットは下肢の毛を剃り、消毒することにより手術の準備をされた。中央の膝蓋骨周辺の切開により、膝蓋骨は側面から関節を外され、大腿骨顆が曝された。Kirschnerワイア(直径1.1mm、長さ2.7cm)は顆間ノッチを通って骨髄内管状構造に通された。Kirschnerワイアは膝関節に突き出ず、膝蓋骨の動きも妨害しなかった。膝関節を閉じた後、ピンで留めた右大腿骨の骨幹中央はBonarens and Einhorn(J.Orthop.Res.,97:101(1984)に記載のように、曲げ力を適用することにより折られた。手術後すぐに放射線写真が得られ、骨幹中央の骨折だけがこの研究に含まれるように、近位または遠位骨折を起こしたラットはこの実験から排除された。
【0112】
すべての動物は処置7週間後に屠殺された。放射線写真は手術後1および7週間目に2つの面:AP(前後)およびLL(側面(latero−lateral))から撮られた。
125I‐標識BMP−1−1(125I‐BMP−1−1)の生体内分布および薬物動態学
組換えヒトBMP−1−1は改変したラクトペルオキシダーゼ法を使用して、5mCiのキャリア‐フリーNa125Iにより放射ヨウ素化された。SephadexG−25カラムでのゲル濾過を使用して遊離ヨウ化物と放射ヨウ素化されたBMP−1−1(125IBMP−1−1)が分離された。カラムは0.2%Tween−80および0.1%卵白アルブミンを含む20mM酢酸ナトリウムバッファー、pH4.5で溶出した。この研究で使用された125I‐BMP−1−1調製物の比活性は0.273mCi/mgであった。ラット(n=10)は用量レベル10μg/kg、活性20μCiの125I‐BMP−1−1を単回注射された。注射容量は500μlであった。動物は注射後30分、1、3、6および24時間に屠殺された。組織は取り除かれ、重さを量られ、放射活性はガンマカウンターで測定された。ある期間の組織による125I‐BMP−1の相対取り込みは125I‐BMP−1ナノグラム(ng)/グラム(g)組織湿重量として表された。実験はまた、5匹のラットにおいて、大腿骨の外科的骨切り術後5日目の急性骨折大腿骨により実施された。
in vivoおよびex vivoでのDXAによる骨塩密度(BMD)測定
2週間のインタバルで(10週間の間)、動物は二重エネルギーX線吸収法(DXA;Hologic QDR−4000,Hologic,Waltham,MA)による骨密度測定をスキャンされた。実験の終わりに、動物は麻酔され、体重測定され、安楽死させられた。右大腿骨は取り除かれ、70%エタノールで固定され、Regional High Resolution Scanソフトウェアを備えたDXAによる骨塩含有量(BMC)およびBMDの確定に使用された。スキャン領域サイズは5.08x1.902cmであり、解像度は0.0254x0.0127であり、そしてスピードは7.25mm/sであった。スキャン画像が骨面積、骨塩含有量、および全骨の骨密度に対して分析された。
PQCT
単離された大腿骨は、ソフトウェアバージョン5.40の付いた末梢骨定量的コンピュータトモグラフィー(PQCT)X線装置(Stratec XCT Research M;Norland Medical Systems,Fort Atkinson,WI)によりスキャンされた。容積、密度、および総骨面積、骨梁、および皮質領域が確定された。
マイクロCT
マイクロコンピュータトモグラフィー(マイクロCT)装置(μCT40)およびこれらの実験で使用される分析ソフトウェアはSCANCO Medical AG(Bassersdorf,Switzerland)から得られた。右大腿骨は背腹方向にそれぞれ13μmの厚さの250切片をスキャンした。骨の三次元再構築は三角形分割アルゴリズムを使用して実施された。骨梁容積(BV、mm)、骨梁数(Tb.N、1/mm)、骨梁幅(Tb.Th、μm)、および骨梁離断性(trabecular separation)(Tb.Sp.μm)はHildebrand et al.(Comp.Meth.Biochem.Biomed.Eng.,1:15(1999)により記載された方法を使用して3‐次元(3D)画像上で直接測定した。骨梁骨パターン因子(TBPf)および構造モデルインデックス(SMI)は提供されたソフトウェアを使用してマイクロCT装置により計算した。
組織構造
大腿骨は組織構造分析のために取り除かれ、パラフィンに包埋され、10μmの切片に切り出されて、ヘマラウン(hemalaun)‐エオジンおよびトルイジンブルーにより染色された。
結果
放射性標識されたBMP−1−1は健康なラットおよび大腿骨骨折ラットに静脈内注射された。健康な動物では、放射性BMP−1−1は主に肝臓(23%)、骨(31%)、および筋肉(9%)に蓄積した。骨折ラットでは、注射されたBMP−1−1の80%は骨折部位に蓄積した。
【0113】
BMP−1−1を1週間毎日静脈内注射されたラットは、43%加速された骨再生を示し、その値は先に記載(Paralkar et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,100:6736(2003))のように、骨修復のスコアリングシステムに基づいて計算された。形成された仮骨は1週間BMP−1を処置されたラットでは43%大きく、3〜5週間BMP−1を処置されたラットでは63%および71%増大した。骨治癒は、ラット大腿骨の3つまたは4つの皮質の完全な再架橋により明らかなように、1または5週間BMP−1で処置されたラットではそれぞれ40〜80%加速された。
【0114】
in vivo骨塩密度測定は、形成された仮骨における塩蓄積増加を示したが、PQCT分析は骨折した大腿骨上の塩蓄積増加を示した。マイクロCT測定は外科的骨切り術後7週間目に、骨折再生中に新規に形成された骨梁の蓄積増加を示した。
【0115】
ラットにおけるこの急性大腿骨骨折の研究のこれらの結果は、ほとんど大部分(たとえば約80%)の全身投与されたBMP−1が骨折の同所性部位に局在すること、および全身投与されたBMP−1−1はそのような急性大腿骨骨折の治癒促進に有効であることを総合的に示唆する。
実施例11.大腿骨骨折ラットに全身投与されたBMP−1−1
先の実施例10に類似の手順を利用して、ラットの大腿骨骨折の治癒に関する、BMP−1−1イソ型、BMP−7およびBMP−1−1イソ型に対する抗体の全身投与の効果を比較する研究が行われた。
【0116】
骨折後4週間目に、BMP−1イソ型を全身処置されたラットの骨折部位における仮骨は、無処置対照ラットのそれより約20%大きく、BMP−7で全身処置されたラットより90%大きかった。
【0117】
骨折後8週間目の結果は図4に示される。骨折部分は図4A〜4Fの大腿骨写真のそれぞれにおいて丸で囲まれる。大腿骨骨折ラットへのBMP−1−1の全身投与は、BMP−7の全身投与に比較して治癒が促進された。骨折線はほとんど消失していて、皮質骨はBMP−1−1を全身処置されたラットでは再架橋されていた(図4の骨4Aおよび4Dを参照されたい)が、BMP−7で全身処置されたラットでは骨折線は依然として肉眼で見られた(図4の骨4B、4C、および4Eを参照されたい)。BMP−1−1に対する中和抗体の全身投与は骨折治癒を遅延させた(図4の骨4Fを参照されたい)。
【0118】
結果は、BMP−1イソ型の全身投与は骨欠損処置のための有効な方法であることを示唆する。
実施例12.大腿骨骨折ラットに局所投与されたBMP−1−1
骨折の動物モデル
24匹の3ヶ月齢Sprague−Dawley雄ラット(350g)は大腿骨骨折後、Kirschnerワイアで処置された。ラットは以下の3種の処置群に分けられた:
グループ1.対照ラット(8)はベヒクル溶液(生理食塩水;BMP−1−1もBMP−7も含まない)だけを含む全(自家)血‐由来凝血物デバイスにより処置された。
【0119】
グループ2.ラットはBMP−1(10μg/kgのBMP−1−1)を含む全血‐由来凝血物デバイスにより局所的に処置された。
グループ3.BMP−7(10μg/kg)を含む全血‐由来凝血物デバイスにより処置された。
【0120】
すべての動物は手術後7週間目に屠殺された。放射線写真は1、4および7週間目に2つの面、すなわちAP(前後)およびLL(側面(latero−lateral))から撮られた。
【0121】
麻酔されたラットは下肢の毛を剃り、消毒することにより手術の準備をされた。中央の膝蓋骨周辺の切開により、膝蓋骨は側面から関節を外され、大腿骨顆が曝された。Kirschnerワイア(直径1.1mm、長さ2.7cm)は顆間ノッチを通って骨髄内管状構造に通された。Kirschnerワイアは膝関節に突き出ず、膝蓋骨の動きも妨害しなかった。膝関節を閉じた後、ピンで留めた右大腿骨の骨幹中央はBonarens and Einhorn(J.Orthop.Res.,97:101(1984))に記載のように、曲げ力を適用することにより折られた。手術後すぐに放射線写真が得られ、骨幹中央の骨折だけがこの研究に含まれるように、近位または遠位骨折を起こしたラットはこの実験から排除された。
BMP−1を含む全血‐由来凝血物デバイスの調製
骨折を処置するための全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)がラット大腿骨の骨折を処置するために調製された。手短に述べると、1mlの自家全血がそれぞれのラットの眼窩叢から採取された。次に全血はトロンビン‐フィブリン試薬、1M外因性塩化カルシウム、および示された量のBMP−1−1またはBMP−7と合わせ、その後室温で30〜45分間インキュベーションし、対応する自家血を提供したラットの骨折した大腿骨への移植前の凝血物形成を可能にした。
生化学的試験
両側の大腿骨は、先に記載(Simic et al.,J.Biol.Chem.,281:13472(2006))の3点曲げ試験を含む、生化学的試験のために取り除かれた。反対側の健康な骨が陽性対照として使用された。皮質骨と骨梁の両方の生化学的特徴測定のための3点曲げ試験および圧子圧入試験が使用された。
結果
X線放射線写真分析は、手術後4週間において対照としてベヒクル溶液(BMP−1−1、およびBMP−7を全く含まない)だけを含むWBCDで処置されたラットでは、0.6±0.03皮質が治癒したが、手術後7週間において1.8±0.4の皮質が治癒したことを示した。仮骨面積は4週間で24.3±7.8mmであり、7週間では18.7±6.4mmであった。
【0122】
全血‐由来凝血物デバイス+BMP−1−1で処置されたラットでは、4週間で1.3±0.5(t−検定、対照に対してP>0.01)皮質が治癒し、一方7週間では2.9±0.9(t−検定、P>0.01)皮質が治癒した。仮骨面積は13.4±4.7mm(t−検定、対照に対してP>0.01)であり、7週間ではそれは7.6±3.8mm(t−検定、対照に対してP>0.05)であった。
【0123】
WBCD+BMP−7で処置されたラットでは、4週間で1.7±0.7(t−検定、対照に対してP>0.01およびBMP−1に対してP>0.1)の皮質が治癒したが、7週間では3.2±1.4(t−検定、対照に対してP>0.01およびBMP−1に対してP>0.1)の皮質が治癒した。仮骨面積は11.3±3.9mm(t−検定、対照に対してP>0.01およびBMP−1に対してP>0.1)であり、7週間ではそれは6.7±2.9mm(t−検定、対照に対してP>0.05およびBMP−1に対してP>0.1)であった。
【0124】
これらの結果は、大腿骨骨折修復のモデルの同所性部位(欠損部位)において局所投与されたBMP−1−1は、対照ラットに比較して骨折治癒を有意に促進したことを示唆する。驚くべきことに、組成物中でBMP−7がWBCDと一緒に使用された場合、大腿骨は対照ラットより早く治癒するが、ECMプロセッシング酵素であるBMP−1−1で処置された動物とは差がなかった。BMP−7は、商業的に、キャリアとしてのウシコラーゲンと一緒に使用される。骨修復の類似のモデルにおいて単独で移植されたウシコラーゲンは無処置対照ラットと比較して骨修復を阻害する。
生化学的試験
3点曲げ試験は、BMP−1−1処置大腿骨は全血‐由来凝血物デバイスだけ(BMP−1−1なし)により処置された対照大腿骨に比較して、再骨折するには有意に大きな最大荷重が必要であることを示唆した(以下の表2を参照されたい)。向かい側の脚の大腿骨(反対側大腿骨)と比較して、BMP−1−1により処置された骨は再骨折を引き起こすために必要な荷重は26%少なかったが;対照骨が再骨折するために必要な荷重は正常な反対側骨より51%少なかった(表2を参照されたい)。
【0125】
BMP−7で処置された骨を破壊するために必要な最大荷重はBMP−1−1により処置されたものと統計的に差がなかった。これらの結果は、BMP−1−1がラットモデルにおける急性骨折の骨修復および再生を促進すること、および全血‐由来凝血物デバイスと一緒に使用される場合、それはBMP−7と同様に効果的であることを総合的に示唆する放射線写真による発見を確証した。骨梁の圧子圧入試験は、BMP−1−1処置骨は対照動物より骨梁がいっそう多かったことを示唆する(表3を参照されたい)。
【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
実施例13.BMP−1−1およびBMP−1−3により処置された、in vitroで培養したラット頭蓋冠移植片培養物の培地へのBMP−4およびBMP−7の遊離
18日齢のラット胎児は妊娠ラットから得られ、それらの頭蓋冠は単離され、消毒され、等しいサイズに合わせ、先に記載(Vukicevic et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:8793(1989))のように、骨特異的培地を含む培養物中に配置された。そのような頭蓋冠移植片培養物は骨細胞および細胞外マトリックス(ECM)を生じる。培養48時間後に、移植された頭蓋冠は3日間毎日、100ng/mlのBMP−1−1または100ng/mlのBMP−1−3により処置された。培地は毎日集められ、−20℃で保存され、4日目にヘパリンカラムで精製された。ヘパリンカラムで精製後、タンパク質濃度が決定され、BMP−2、BMP−4、BMP−6、およびBMP−7が先に記載(Simic et al.,J.Biol.Chem.,286:13472(2006))のように、イムノブロッティングにより検出された。
【0129】
結果は、対照培養物の培地では検出可能な量の真正骨形成性BMPは全く見いだされず、一方、BMP−1−1で処置された頭蓋冠の培地ではBMP−4の成熟ドメインが検出されたがBMP−2、BMP−6およびBMP−7は検出されなかったことを示唆した。これらの結果は、BMP−1−1が骨細胞、および保存される真正BMP分子の保存場所としての役割を果たすと考えられるECMに富む胎児頭蓋冠からなる培養移植片からのBMP−4の遊離に効果を有することを示唆する(Martinovic et al.,Arch.Cytol.Histol.,1:23(2006)も参照されたい)。BMP−4に加え、BMP−1−3で処置された培養物培地ではBMP−7が検出され、BMP−1−3がBMP−1−1より多くの真正BMPを遊離することを示唆する。
実施例14.BMP−1−1およびBMP−7により局所的に処置されたウサギにおける骨欠損治癒の相乗的促進
動物
尺骨分節‐欠損モデルを使用して、成体雄New Zealand Whiteウサギ(体重3kg〜4kg)における骨治癒が評価された。移植片は、異なる量の組換えヒト成熟BMP−1−1および組換えヒト成熟BMP−7が添加された、キャリアとしての血液凝血物(Genera Research Laboratory)から構成された。これらの動物は凝血物移植片だけを与えられた動物(陰性対照)と比較された。ウサギは手術前1週間、駆虫薬で処置された。動物はまた、手術前および手術後10日間エンロフロキサシンを筋肉内注射により投与された。
【0130】
麻酔および鎮痛下のウサギを用い、前肢1本は毛を剃られ、滅菌的に用意されて、布で覆われた。約2.5センチメートルの長さで側面から切開され、尺骨を覆う組織が切断された。振動鋸により尺骨の中心に、1.5センチメートルの分節性骨膜欠損が作製された。橈骨は物理的安定性に対して完全なまま残され、内部または外部固定デバイスは全く使用されなかった。生理食塩水で十分に洗浄して骨破片および漏れ出た骨髄細胞を除去した後、移植片は適所に注意深く詰められて欠損を充填した。その後凝血物に血清が載せられた。軟組織は移植片を含むように層状に重ねて、慎重に閉じられた。動物は、耐荷重活動、水、およびウサギ用の餌を完全に許可された。
WBCD調製
血液試料は、手術1日前にウサギ片縁耳静脈から抗凝固物質を使用せずに1.5mL用量を試験管に集められた。BMP−1−1およびBMP−7はそれぞれ14μgおよび100μgの量で血液に添加された。血液試料は4℃に放置し、凝固させた。翌日、試料は8000xg、5分間遠心分離された。液体部分(血清)は除去され、保存され、凝血物は使用のために準備された。
【0131】
ウサギは以下に挙げたグループの1つに分けられ、欠損は以下のように処置された:
グループ1.BMPまたはBMP−1イソ型無しに全血凝血物デバイス(WBCD)だけで処置された対照ウサギ(n=8)。
【0132】
グループ2.14μg/1.5mLのBMP−1−1を含むWBCDで処置されたウサギ。
グループ3.100μg/1.5mLのBMP−7を含むWBCDで処置されたウサギ。
【0133】
グループ4.14μg/1.5mLのBMP−1−1+100μgのBMP−7/1.5mLを含むWBCDで処置されたウサギ。
結果
結果は図5〜8に示される。2週間に1度のX線による追跡調査から観察されるように、ウサギ尺骨欠損はWBCDだけ(BMP−1−1、およびBMP−7を全く含まない)で処置された対照ウサギでは治癒しなかった。対照グループの6週間後の代表的な骨において治癒されない欠損は図5Aおよび5B(同じ骨の2つの写真)に示される。
【0134】
BMP−1−1を含むWBCDで局所的に処置されたウサギ(グループ2)の代表的な骨における6週間後の結果は、図6Aおよび6Bに示される。BMP−7を含むWBCDにより局所的に処置されたウサギ(グループ3)の代表的な骨における6週間後の結果は、図7Aおよび7Bに示される。BMP−1−1およびBMP−7を含むWBCDにより局所的に処置されたウサギ(グループ3)の代表的な骨における6週間後の結果は、図8Aおよび8Bに示される。BMP−7を含むWBCDで処置されたウサギ(グループ3)は手術後8週間で骨欠損が再架橋されるが、BMP−1−1を含むWBCD(グループ2)で処置されたウサギは2週間で早くも初期の骨形成、そして手術後8週間で進行した治癒を示した。しかし、BMP−1−1およびBMP−7両方の組み合わせを有するWBCDにより局所的に処置されたウサギ(グループ4)は、欠損の完全な再架橋、および新規な皮質の形成を伴う尺骨の相乗的治癒を有し、6週間で早くも新規に形成された骨が顕著にリモデリングされた(図8Aおよび8Bを参照されたい)。
【0135】
これらの結果は骨折の同所性部位に局所的に適用されたBMP−1−1およびBMP−7は相乗的に作用して骨再生を促進することを示唆する。
上記のテキスト中に引用されるすべての特許、出願および刊行物は参照として本明細書に援用される。
【0136】
発明の開示または以下の特許請求の範囲から逸脱しない、本明細書に記載の発明の他のバリエーションおよび態様は今や当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の慢性腎不全を診断するために個体からの血液試料を試験する方法であって:BMP−1イソ型であるBMP−1−3、およびBMP−1−5の試料中の存在を確定するために個体の血液試料を試験することを含み、ここで個体の循環血における両方の該BMP−1イソ型の存在が個体の慢性腎不全を示す、方法。
【請求項2】
個体の急性膵炎を診断するために個体からの血液試料を試験する方法であって:BMP−1イソ型であるBMP−1−7の試料中の存在を確定するために個体の血液試料を試験することを含み、ここで個体の循環血における両方の該BMP−1イソ型の存在が個体の急性膵炎を示す、方法。
【請求項3】
BMP−1イソ型を含む、個体の虚血性急性腎不全を治療するための医薬組成物であって、ここで該医薬組成物は腎損傷の診断後に個体に全身的に投与される、医薬組成物。
【請求項4】
個体における虚血/再潅流損傷を阻害するために有効な量の、1種以上のBMP−1イソ型に特異的な1種以上の抗体分子を含む、個体の腎臓に対する虚血/再潅流傷害を処置するための医薬組成物。
【請求項5】
虚血/再潅流事象の前に、1種以上のBMP−1イソ型に対する1種以上の抗体分子が個体に全身的に投与される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
BMP−1−1に対する抗体分子、BMP−1−3に対する抗体分子、またはそのような抗体分子の組み合わせが個体に投与される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
以下:
(a)全血
(b)BMP−1イソ型
(c)外因性塩化カルシウム
(d)場合により、外因性のフィブリン及びトロンビンの混合物、ならびに
(e)場合により、骨形成性BMP
を含む、個体の骨欠損を処置するための骨形成性全血由来凝血物デバイス(WBCD)であって、
ここで、外因性塩化カルシウムは、均質で、凝集力があり、シリンジで吸収可能であり、注射可能であり、そして展性がある(malleable)凝血物ゲルであって、骨欠損部位において該欠損を充填するかまたは該欠損の骨端を再架橋するために新しい骨の成長を促進するのに十分な時間にわたって存在を維持することが可能な凝血物ゲルを提供するのに有効な量で存在する、骨形成性全血由来凝血物デバイス(WBCD)。
【請求項8】
全血が個体から採取された自家全血であるか、または個体とクロスマッチされた全血である、請求項7に記載の骨形成性WBCD。
【請求項9】
フィブリン−トロンビン混合物が、存在するときは、塩化カルシウムおよびBMP−1イソ型と結合して第一の混合物を形成し、これに対して全血が添加されて第二の混合物が形成され、そしてここで第二の混合物が、物理的に安定なゲルが形成されるまでインキュベーションされる、請求項7に記載の骨形成性WBCD。
【請求項10】
BMP−1イソ型が、BMP−1−1、BMP−1−3、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載のWBCD。
【請求項11】
BMP−1イソ型がBMP−1−3である、請求項10に記載のWBCD。
【請求項12】
BMP−1−3が、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列を有する、請求項11に記載のWBCD。
【請求項13】
BMP−1イソ型が1〜500μg/mLの量で存在する、請求項7に記載のWBCD。
【請求項14】
BMP−1イソ型が2〜200μg/mLの量で存在する、請求項13に記載のWBCD。
【請求項15】
BMP−1イソ型が5〜20μg/mLの量で存在する、請求項14に記載のWBCD。
【請求項16】
外因性塩化カルシウムが5〜15mMの濃度で存在する、請求項7に記載のWBCD。
【請求項17】
フィブリン−トロンビン混合物が存在するときは、フィブリンの濃度が5〜10mg/mLである、請求項7に記載のWBCD。
【請求項18】
フィブリン−トロンビン混合物が存在するときは、フィブリンの濃度が0.5〜5mg/mLである、請求項7に記載のWBCD。
【請求項19】
骨形成性BMPが、存在するときは、BMP−2、BMP−4、BMP−6、BMP−7、BMP−12、BMP−13、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項7に記載のWBCD。
【請求項20】
以下:
(a)1種以上の凍結乾燥されたBMP−1イソ型を含むバイアル、
(b)凍結乾燥された1種以上のBMP−1イソ型を溶解するためのバッファー、
(c)バッファー中の凍結乾燥された1種以上のBMP−1イソ型を溶解するためのシリンジ、
(d)患者の血液を集めるための採血管(Vaccutainer)、
(e)1M塩化カルシウムの滅菌溶液、
(f)フィブリン‐トロンビン混合物、
(g)溶解された1種以上のBMP−1イソ型および他の成分と全血を混合するための容器、
(h)開放骨修復手術中に骨末端に骨形成性凝血物を適用するために適したスパーテルまたはシリンジ、および
(i)骨欠損への適用に適した物理的に安定なゲルを形成するための、1種以上のBMP−1イソ型、塩化カルシウム、および場合によりフィブリンおよびトロンビンを含む混合物と混合した全血からなるWBCDの調製法および使用のための説明書であって、ここで該物理的に安定なゲルは均質で、凝集力があり、シリンジで吸収可能であり、注射可能であり、そして展性がある(malleable)凝血物ゲルである
を含む、骨形成性全血‐由来凝血物デバイス(WBCD)を調製するためのキット。
【請求項21】
BMP−1イソ型が、BMP−1−1、BMP−1−3、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
さらに骨形成性BMPを含む、請求項20に記載のキット。
【請求項23】
骨形成性BMPが、BMP−2、BMP−4、BMP−6、BMP−7、BMP−12、BMP−13、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
配列番号4のアミノ酸配列を有する単離されたBMP−1イソ型。
【請求項25】
配列番号4のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項26】
配列番号5のヌクレオチド配列を有する、請求項25に記載のポリヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−211901(P2012−211901A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92012(P2012−92012)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【分割の表示】特願2009−520864(P2009−520864)の分割
【原出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(509020251)
【Fターム(参考)】