説明

骨の治癒を加速するためのバナジウム化合物の使用

本発明は、骨の治癒を促進する必要のある患者にバナジウム系インスリン疑似剤を局所投与することによる骨の治癒の促進方法を提供する。本発明はまた、骨の治癒プロセスを加速するための薬剤の製造のためのインスリン疑似バナジウム化合物の新規な使用をも提供する。加えて、本発明はまた、骨損傷を治療する必要のある患者にインスリン疑似バナジウム化合物またはその組成物を局所投与するのに適した骨損傷治療キットを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月15日付で提出の、米国仮特許出願第61/295,234号に対して35 U.S.C. §119(e)に基づく優先権を主張し、これはすべて参考で本明細書中に引用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、同化剤としてインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を局所投与することによる患者での新規な骨の治癒方法に関するものである。本発明は、インスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物またはその組成物による骨損傷の治療方法および骨損傷の治療を目的とする薬剤の製造のためのインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物の使用、さらにはインスリン疑似バナジウム化合物の局所投与に適した骨損傷治療キットを包含する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
約600,000件の癒着不能を含む、約600万件の骨折が毎年米国であり、そのうち約10%が治癒にいたらない。実施される整形外科手術において、毎年約100万件で同種移植または 自家移植が必要である。骨の治癒を促進する一つの解決法として、骨芽細胞、線維芽細胞、軟骨芽細胞等の、細胞を、適当な環境で、生物活性のあるシグナル伝達分子、例えば、インスリンまたはインスリン疑似剤(insulin-mimetic)またはβ−TCP(リン酸3カルシウム)等のスキャホールド(Scaffolds)およびコーラーゲンで処理する、組織工学(tissue engineering)によるものがある。骨折の現状の治療方法としては、(a)電気刺激装置(PEMF、エキソゲン(Exogen)など)および(b)骨形成タンパク質(bone morphogenic protein)(BMP)、例えば、rhBMP−2/ACS(INFUSE(登録商標) Bone Graft)等の、生物剤(biologics)がある。後者は、特定の体間ケイジ(interbody cages)による脊椎固定時の自家移植片置換(autograft replacement in spine fusion)(ALIF)(2002)として、IM釘による脛骨骨折の修復(2004)ための、および頭蓋上顎骨手術(craniofacial maxillary surgery)(2006)のためのアジュバント(adjuvant)として、FDAによって認可されたが、この方法は、高価であり、1申請当たり約5,000ドルかかる(Lieberman, J.R., et al., J. Bone Joint Surg. Am., 2002, 84: 1032-1044; Trippel, S.B., et al., J. Bone Joint Surg. Am., 1996, 78: 1272-86)。
【0004】
骨折の治癒は、細胞の連続的な補充(sequential recruitment)および骨の修復に必須な因子の特定の時期での発現(specific temporal expression)を含む複雑なプロセスである。骨折の治癒プロセスは、骨折部位での血液凝固の初期形成で始まる。血栓内の血小板及び炎症細胞が走化性、増殖、血管形成及び間葉細胞の骨芽細胞または軟骨芽細胞への分化に重要ないくつかの因子を放出する。
【0005】
初期の血腫形成に続いて起こる骨折治癒プロセスは、第一次または第二次骨折治癒として分類されうる。第一次骨折治癒は、骨フラグメント間の歪(interfragmentary strain)がほとんどないまたは全くない堅固な骨内固定(rigid internal fixation)の存在下で生じ、これにより骨折ギャップにわたって直接骨が形成する。第二次骨折治癒は、固定せずにまたは堅くない固定(non-rigid fixation)により骨フラグメント間の歪に応答して生じ、これにより骨膜及び外軟組織(external soft tissue)からの応答による特徴を有する膜内及び軟骨内骨化により骨が形成する。
【0006】
膜内骨形成は骨膜で始まる。この領域内に位置する骨芽細胞は、骨マトリックスを生成し、成長因子を合成し、この部位にさらに細胞を補充する。膜内骨化が開始してからすぐに、骨折部位に直接隣接する肉芽組織が軟骨に置換されて、軟骨内骨形成を引き起こす。骨折ギャップを一時的に橋渡しする軟骨は、間葉細胞の軟骨細胞への分化によって生成する。軟骨性仮骨は、増殖性軟骨細胞から始まり、最終的には肥大軟骨細胞で支配される。肥大軟骨細胞は、血管形成を開始し、得られた血管系は骨芽前駆細胞(osteoblastic progenitor)さらには軟骨吸収細胞及び破骨細胞の補充(recruitment)のためのルートを提供し、石灰化組織を再吸収する。この骨芽前駆細胞は骨芽細胞に分化して、線維性骨を生成し、これにより骨折を癒合させる(forming a united fracture)。骨折治癒の最終段階は、線維性骨の再構成による構造体の形成という特徴があり、この構造体は元の組織と似ており、骨折前の骨の機械的完全性を有する。
【0007】
しかしながら、骨代謝のプロセスは、骨修復とはかなり異なる。骨の代謝は、骨形成と骨吸収との相互作用である。前記したような、骨修復は、連続的な補充(sequential recruitment)および間葉細胞の適当な骨芽細胞/軟骨形成細胞系への分化による骨折/欠損部位の修復を含む複雑なプロセスである。
【発明の概要】
【0008】
発明の要約
本発明は、同化剤としてのバナジウム化合物の局所投与による骨治癒のための独特なストラテジーを提供する。
【0009】
本発明の一態様では、治療上有効な量のインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を患者に局所投与することを有する、骨の疾患を治療する必要のある患者の骨の疾患の治療方法が提供される。
【0010】
本発明の他の態様では、治療上有効な量の、インスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を含む組成物を患者に局所投与することを有する、骨の疾患を治療する必要のある患者の骨の疾患の治療方法が提供される。
【0011】
本発明の一態様では、局所投与用の骨の治癒の促進を必要とする患者における骨の治癒を促進するための薬剤の製造のためのインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物の使用を提供する。
【0012】
好ましくは、骨の治癒の必要のある患者は、骨折、骨折、骨の外傷、関節固定、および外傷後の骨の手術(post-traumatic bone surgery)、補綴後の関節の手術(post-prosthetic joint surgery)、整形後の骨の手術(post-plastic bone surgery)、ポストデンタル手術(post-dental surgery)、骨の化学療法処置(bone chemotherapy treatment)、先天性骨欠損、外傷後の骨欠損(post traumatic bone loss)、手術後の骨欠損(post surgical bone loss)、感染後の骨欠損(post infectious bone loss)、同種移植片の埋め込み(allograft incorporation)または骨の放射線療法処置(bone radiotherapy treatment)に関連する骨欠損疾患(bone deficit condition)から選択される骨の疾患に苦しむ。より好ましくは、骨の疾患は骨折である。
【0013】
好ましくは、バナジウム化合物は、バナジウム系薬剤に使用されるバナジウム化合物である、バナジルアセチルアセトネート及びビス(エチルマルトラト)オキソバナジウム(IV)等のインスリン疑似有機バナジウム化合物であり、これらはインスリン疑似であり、骨の治癒及び骨折の修復について報告されたことはなかった。また、他の好ましいバナジウム化合物としては、以下に制限されないが、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、及びバナジル(IV)アスコルベート錯体(vanadyl(IV) ascorbate complex)が挙げられる。
【0014】
本発明に係るより好ましいバナジウム化合物は、1型及び2型糖尿病の動物及びヒトでの研究でインスリン疑似効果、例えば、動物研究で糖尿病の合併症のいくつかを予防することが示された有機バナジウム化合物である、バナジルアセチルアセトネート(VAC)である。従来研究されてきたVACのさらなる薬理活性としては、グルコース新生の阻害、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ活性の減少、及び抗脂肪分解がある。
【0015】
本発明のさらなる態様では、適用の必要のある患者にインスリン疑似バナジウム化合物を局所投与するために適用される、インスリン疑似バナジウム化合物及び製薬上許容できる担体を含む、薬剤デリバリー装置またはキットが提供される。バナジウム系インスリン疑似物の局所デリバリーにより、4週間で生体力学特性を有意に促進し、その効果は用量依存性であり、より少ない投与量で優れた結果が得られる。
【0016】
本発明の他のさらなる態様は、骨の自家移植、骨の同種移植、自家幹細胞処置、同種幹細胞処置、化学的刺激、電気的刺激、内固定、および外固定から選択される少なくとも一つの処置でさらに患者を治療することを組み合わせてバナジウム化合物またはその組成物を局所投与することを含む。
【0017】
ゆえに、本発明は、糖尿病であるまたは糖尿病でない、患者、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトでの骨の治癒を促進する特有な方法を提供する。本発明のバナジウムによる治療の開発によって、成長因子をデリバリーする特殊な方法の開発の必要性を取り除き、これにより治療に関連するコストを低減し、特殊な貯蔵を排除し、使用しやすさを促進するであろう。本発明の上記及び他の態様は、下記図面及び詳細な説明を参照してより良好に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、術後のX線写真:(A)アインホルン(Einhorn)モデル及び(B)モデルを本研究で使用した術後すぐに撮影した代表的なX線写真を示す。((B)では、キルシュナー鋼線が転子を通り抜けており、これにより骨折部位が安定化され、キルシュナー鋼線の移動を防止する)。
【図2】図2は、機械的検査セットアップ(Mechanical Testing Setup)を示す:(A)フィールド金属(Field's metal)で3/4インチ ナットに埋め込まれる前の無傷の大腿骨、(B)六角ナットに埋め込まれ、機械的検査装置にのせられた無傷の大腿骨(intact femur)、(C)ねじり試験後の機械的検査装置にのせられた無傷の大腿骨、(D)ねじり試験後の無傷の大腿骨、(E)治癒を示唆するらせん状骨折(spiral fracture)を示すねじり試験後の骨折した大腿骨、および(F)癒着不能(non-union)を示唆する非らせん状骨折(non-spiral fracture)を示すねじり試験後の骨折した大腿骨。
【図3】図3は、4週間後の生理食塩水およびVACの大腿骨のX線写真を示す。
【図4】図4は、術後の骨を示し、この際、VN2及びVN3は、術後4週間で集めたVACで処置した大腿骨2セットを示す(左:骨折した大腿骨;右:無傷の大腿骨)。
【図5】図5は、試験後のらせん状骨折を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、バナジウムを用いることにより、骨折部位でインスリン経路シグナル伝達を刺激することによって骨の再生を促進できるという仮説に基づく。骨へのインスリン疑似剤としてのバナジウムの生物学的効果を調査するにあたって、本発明者らは、これらの剤が骨の治癒に重要な役割を果たすことを見出した。ゆえに、本発明は、インスリン疑似バナジウム化合物を用いて様々な骨の疾患、特に骨折を治療するものである。
【0020】
本発明の一態様では、治療上有効な量のインスリン疑似バナジウム化合物を患者に局所投与することを有する、骨の疾患を治療する必要のある患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0021】
上記態様の一実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、およびビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)からなる群より選択される有機バナジウム化合物である、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0022】
上記態様の好ましい実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物がバナジルアセチルアセトネート(VAC)である、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0023】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が、骨の損傷部位に直接投与される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0024】
好ましくは、前記骨の治癒の必要のある患者は、骨折、骨の外傷、関節固定、および外傷後の骨の手術(post-traumatic bone surgery)、補綴後の関節の手術(post-prosthetic joint surgery)、整形後の骨の手術(post-plastic bone surgery)、ポストデンタル手術(post-dental surgery)、骨の化学療法処置(bone chemotherapy treatment)、先天性骨欠損、外傷後の骨欠損(post traumatic bone loss)、手術後の骨欠損(post surgical bone loss)、感染後の骨欠損(post infectious bone loss)、同種移植片の埋め込み(allograft incorporation)または骨の放射線療法処置(bone radiotherapy treatment)に関連する骨欠損疾患(bone deficit condition)から選択される骨の疾患に苦しむ。
【0025】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記骨の疾患が、骨折、骨欠損、ならびに癒合遷延(delayed union)および癒合不全(non-union)から選択される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0026】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、同種移植片/自家移植片または整形外科用のバイオ複合材料と組み合わせて使用される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0027】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が、前記インスリン疑似バナジウム化合物を含む骨移植片用のバイオ複合材料(bone graft biocomposite)によって局所投与される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0028】
他の実施形態では、本発明は、前記骨移植片用のバイオ複合材料が、自家移植片、同種移植片、異種移植片、人工生体移植片(alloplastic graft)、および合成移植片からなる群より選択される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。好ましい実施形態では、前記骨移植片は、自家移植片および同種移植片からなる群より選択される。
【0029】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、細胞毒性薬、サイトカインまたは成長阻害剤を前記バナジウム化合物と一緒に投与することを有する、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0030】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、外来骨成長刺激剤(external bone growth stimulator)、例えば、エキソゲン(Exogen)及びパルス電磁場療法(Pulsed Electro Magnetic Field Therapy)(PEMF)と組み合わせて使用される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0031】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、生物活性骨剤を前記バナジウム化合物と一緒に投与することを有する、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0032】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、ペプチド成長因子、抗炎症因子、炎症促進因子、アポトーシスの阻害剤、MMP阻害剤、および骨異化アンタゴニストからなる群より選択される生物活性骨剤の投与と組み合わせて使用される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0033】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、IGF(1,2)、PDGF(AA,AB,BB)、BMP、FGF(1−20)、TGF−β(1−3)、aFGF、bFGF、EGF、VEGF、副甲状腺ホルモン(PTH)、および副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)からなる群より選択されるペプチド成長因子の投与と組み合わせて使用される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0034】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、抗TNFα、可溶性TNFレセプター、IL1ra、可溶性IL1レセプター、IL4、IL−10、およびIL−13からなる群より選択される抗炎症因子の投与と組み合わせて使用される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0035】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、ビスホスホネート、オステオプロテゲリン、およびスタチンからなる群より選択される骨異化アンタゴニストの投与と組み合わせて使用される、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0036】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者が哺乳動物である、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0037】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者がヒトである、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0038】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者が非糖尿病の(non-diabetic)ヒトである、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0039】
他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量のインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を含む組成物を患者に局所投与することを有する、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0040】
上記態様の一実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が有機バナジウム化合物である、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0041】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記組成物が少なくとも一つの生体適合性担体をさらに含む、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0042】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記組成物が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ならびにポリ乳酸およびポリグリコール酸の共重合体からなる群より選択される少なくとも一つの生体適合性担体をさらに含む、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0043】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記組成物が、生分解性脂肪酸及び脂肪酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも一つの生体適合性担体をさらに含む、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0044】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、およびこれらの金属塩からなる群より選択される少なくとも一つの生体適合性担体をさらに含む、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0045】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、多孔質または非多孔質リン酸カルシウム、多孔質または非多孔質ヒドロキシアパタイト、多孔質または非多孔質リン酸3カルシウム、多孔質または非多孔質リン酸4カルシウム、多孔質または非多孔質硫酸カルシウム、またはこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも一つの生体適合性担体をさらに含む、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0046】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量のバナジウム化合物を含む組成物を患者に局所投与することを有し、骨の自家移植、骨の同種移植、自家幹細胞処置、同種幹細胞処置、化学的刺激、電気的刺激、内固定、および外固定からなる群より選択される少なくとも一つの処置と一緒に前記患者を治療することをさらに有する、患者の骨の疾患の治療方法を提供する。
【0047】
他の態様では、本発明は、局所投与用の骨の治癒の促進を必要とする患者における骨の治癒を促進するための薬剤の製造のためのインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物の使用を提供する。
【0048】
好ましくは、前記骨の治癒の必要のある患者は、骨折、骨の外傷、関節固定、および外傷後の骨の手術(post-traumatic bone surgery)、補綴後の関節の手術(post-prosthetic joint surgery)、整形後の骨の手術(post-plastic bone surgery)、ポストデンタル手術(post-dental surgery)、骨の化学療法処置(bone chemotherapy treatment)、先天性骨欠損、外傷後の骨欠損(post traumatic bone loss)、手術後の骨欠損(post surgical bone loss)、感染後の骨欠損(post infectious bone loss)、同種移植片の埋め込み(allograft incorporation)または骨の放射線療法処置(bone radiotherapy treatment)に関連する骨欠損疾患(bone deficit condition)から選択される骨の疾患に苦しむ。
【0049】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が無機バナジウム化合物である、局所投与用の骨の治癒の促進を必要とする患者における骨の治癒を促進するための薬剤の製造のためのバナジウム化合物の使用を提供する。
【0050】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が有機バナジウム化合物である、局所投与用の骨の治癒の促進を必要とする患者における骨の治癒を促進するための薬剤の製造のためのバナジウム化合物の使用を提供する。
【0051】
上記態様の好ましい一実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、およびビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)からなる群より選択される有機バナジウム化合物である、局所投与用の骨の治癒の促進を必要とする患者における骨の治癒を促進するための薬剤の製造のためのバナジウム化合物の使用を提供する。
【0052】
他の実施形態では、本発明は、治療上有効な量の、骨損傷の治療の必要のある患者への局所投与用に処方されるインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を含む骨損傷治療キットを提供する。
【0053】
上記態様の一実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が有機バナジウム化合物である、骨損傷治療キットを提供する。
【0054】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、およびビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)からなる群より選択される、骨損傷治療キットを提供する。
【0055】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記インスリン疑似バナジウム化合物がバナジルアセチルアセトネート(VAC)である、骨損傷治療キットを提供する。
【0056】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者が哺乳動物である、骨損傷治療キットを提供する。
【0057】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者がヒトである、骨損傷治療キットを提供する。
【0058】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者が非糖尿病の(non-diabetic)ヒトである、骨損傷治療キットを提供する。
【0059】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、前記患者が、ウマ、イヌ、およびネコから選択される動物である、骨損傷治療キットを提供する。
【0060】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、骨移植片用のバイオ複合材料をさらに含む、骨損傷治療キットを提供する。
【0061】
上記態様の他の実施形態では、本発明は、損傷した骨組織の治療のための生物活性剤をさらに含む、骨損傷治療キットを提供する。
【0062】
患者の有益な好ましい部位としては、骨の治癒が必要とされる部位およびこれらの部位に隣接した(adjacent)および/または近接した(contiguous)領域がある。必要であれば、本発明の治療方法は、骨の自家移植、骨の同種移植、自家幹細胞処置、同種幹細胞処置、化学的刺激、電気的刺激、内固定、および外固定から選択される少なくとも一つの処置と組み合わせてもよい。
【0063】
本発明のバナジウム化合物は、安全性が向上し、吸収が改善し、及び治療用のバナジウム、例えば、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、ビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)、及びバナジルアセチルアセトネート(VAC)に関連する望ましくない副作用を低減することが知られている有機バナジウム化合物であってもよい。
【0064】
インスリン疑似の利点としては、以下に制限されないが、(a)小分子のインスリン疑似の開発が骨折患者に非常に重要でありうる;(b)担体を必要とするインスリン複合材料がデュアルエージェント(dual agent)製品としてFDAの必要条件を満たすことが困難である可能性がある;および(c)バナジウム塩がより長い半減期を有し、タンパク質で一般的にみられるような貯蔵の問題を防げる可能性があることが挙げられる。
【0065】
生体内で+4(バナジル)及び+5(バナデート)化合物で存在する、バナジウムは、胃腸(GI)管内での吸収速度が低く、下痢や嘔吐などの、GI副作用が小さい。その結果、さらなる有機バナジウム化合物、即ち、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、ビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)、およびVACは、吸収及び安全性の向上のために合成されてきた(Poucheret, P., et al., Mol. Cell Biochem., 1998, 188(1-2): 73-80)。有機リガンドを有するVACは、BMOV、VS、及びVET等の、他のバナジウム化合物に比べて糖尿病抑制機能でより効果的であることが分かっている(Reul, B.A., et al., Br. J. Pharmacol. 1999, 126(2):467-477)。残念なことに、これらの研究では、バナジウム錯体の濃度及び投与量がインスリン疑似効果を得るのに必要とされる正確な投与量にまで厳密に調節されておらず、不明なままであった。本研究でデリバリーされる投与量は、厳密に調節され、様々な時点で評価される。我々の実験では、1回局所的に投与した後、病気、下痢、または嘔吐を示すことなく、4週で全部の動物が生存していたことから、この処置が安全であることが示唆される。
【0066】
具体的な治癒メカニズムとしては、以下に制限されないが、(a)骨内の石化成分を保持する、(b)骨からの石化成分の放出を阻害する、(c)骨芽細胞活性を刺激する、(d)破骨細胞活性を低減する、または(e)骨の再構築(remodeling)を刺激することが挙げられる。
【0067】
本明細書中で使用される、「治療上有効な量」ということばは、剤の投与が生理学的に有意である量を意味する。その存在によって患者の骨の治癒プロセスに検出可能な変化がある場合には、その剤の投与は生理学的に有意である。
【0068】
本明細書中で使用される、「骨損傷(bone injury)」、「損傷を受けた骨(injured bone)」などのことばは、骨折、骨の外傷、関節固定、および外傷後の骨の手術(post-traumatic bone surgery)、補綴後の関節の手術(post-prosthetic joint surgery)、整形後の骨の手術(post-plastic bone surgery)、ポストデンタル手術(post-dental surgery)、骨の化学療法処置(bone chemotherapy treatment)、先天性骨欠損、外傷後の骨欠損(post traumatic bone loss)、手術後骨欠損(post surgical bone loss)、感染後骨欠損(post infectious bone loss)、同種移植片の埋め込み(allograft incorporation)または骨の放射線療法処置(bone radiotherapy treatment)に関連する骨欠損疾患(bone deficit condition)からなる群より選択される骨の疾患を意味する。
【0069】
所定の治療に使用される薬剤組成物の実際の好ましい量は、使用される特定の形態、処方される特定の組成、用法、投与される特定の部位、および主治医または獣医等の当業者によって認識される他の因子によって異なるであろう。所定の投与プロトコルでの最適な投与速度は公知の投与量決定試験を用いて当業者によって容易に決定できる。
【0070】
本発明で使用されうるバナジウム化合物の投与量は、想定される特定の用途によって異なりうる。適当な投与量または投与経路の決定は、通常の医師の技量内によく含まれる。
【0071】
例えば、バナジウム化合物のin vivo投与を採用する際には、一般的な投与量は、投与経路によって、1日当たり約10ng/kg〜約100mg/kg 哺乳動物の体重またはそれ以上の量、好ましくは約1g/kg/日〜10mg/kg/日である。特定の投与量及びデリバリー方法に関するガイダンスは、文献に示される;例えば、米国特許第4,657,760号;第5,206,344号または第5,225,212号を参照。異なる処置や異なる疾患では異なる製剤が効果的であろうこと、および特定の骨の部位または疾患を治療することを意図した投与では、他の部位または疾患とは異なる方法でのデリバリーが必要とされる可能性があることは考えられる。
【0072】
本明細書で使用される製剤はまた、処置される特定の適応症に必要であるような一以上の活性化合物、好ましくは相互に悪影響を及ぼさない相補的な活性(complementary activity)を有するものを含んでもよい。または、あるいは加えて、製剤は、細胞毒性薬、サイトカインまたは成長阻害剤を含んでもよい。このような分子は、使用目的に効果的な組み合わせ及び量で存在する。
【0073】
本発明の方法で使用できるバナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウム化合物の治療用製剤は、所望の純度を有するバナジウム化合物を、必要であれば製薬上許容できる担体、賦形剤または安定化剤と混合することによって、貯蔵を目的として調製される(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980))。このような治療用製剤は、凍結乾燥製剤または水溶液の形態でありうる。許容できる生体適合性担体、賦形剤または安定化剤は、使用される投与量及び濃度で受容者にとって無毒であり、バッファー、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;アスコルビン酸やメチオニン等の抗酸化剤;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンズトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール:3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;グルコース、マンノース、デキストリン、またはヒアルロン等の、単糖類、二糖類、および他の炭水化物;キレート化剤、例えば、EDTA;糖類、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩を形成する対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質複合体):ならびに/あるいは、非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG))を包含しうる。
【0074】
製剤をin vivoでの投与に使用するためには、滅菌済である必要がある。このような製剤は、凍結乾燥または再構成(reconstitution)の前または後に、滅菌用濾過膜で濾過することによって容易に滅菌されうる。本明細書における治療用製剤は、好ましくは、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、静脈注射用の溶液バックまたは皮下注射針で穿刺可能なストッパーを有するバイアル瓶に入れられる。
【0075】
本明細書において使用される製剤はまた、処置される特定の適応症に必要であるような1以上の活性化合物、好ましくは相互に悪影響を及ぼさない相補活性を有するものを含んでもよい。または、あるいは加えて、製剤が、細胞毒性薬、サイトカインまたは成長阻害剤を含んでもよい。このような分子は、使用目的で効果的な組み合わせおよび量で存在する。
【0076】
必要であれば、バナジウムデリバリーシステムは、バナジウムインスリン疑似剤に加えて生物活性骨剤を含む。好ましくは、生物活性骨剤は、ペプチド成長因子(例えば、IGF(1,2)、PDGF(AA,AB,BB)、BMP、FGF(1−20)、TGF−β(1−3)、aFGF、bFGF、EGF及びVEGF)、抗炎症因子(例えば、抗TNFα、可溶性TNFレセプター、IL1ra、可溶性IL1レセプター、IL4、IL−10、およびIL−13)、炎症促進因子、アポトーシスの阻害剤、MMP阻害剤および骨異化アンタゴニスト(例えば、ビスホスホネート及びオステオプロテゲリン)から選択される。
【0077】
また、バナジウムは、例えば、コアセルベーション技術によってまたは界面重合によって、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルによって調製された、マイクロカプセルに封入されてもよい。このような調製物は、コロイド状薬剤デリバリーシステム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)でまたはマクロエマルジョンで投与されてもよい。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Edition(または17版以降), Osol A. Ed. (1980)に開示される。
【0078】
必要であれば、バナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウムは、多孔質リン酸カルシウム、非多孔質リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸3カルシウム、リン酸4カルシウム、硫酸カルシウム、自然骨、無機骨、有機骨から得られるカルシウム鉱物、またはこれらの組み合わせを含む。
【0079】
バナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウムの徐放(sustained release)または持続徐放(extended release)投与が望ましい場合には、マイクロカプセル化が包含される。徐放用の組換タンパク質のマイクロカプセル化は、ヒト成長ホルモン(rhGH)、インターフェロン−α、−β、−γ(rhIFN−α、−β、−γ)、インターロイキン−2、およびMN rgp120で、実施に成功している。(Johnson et al., Nat. Med., 1996, 2:795-799; Yasuda, Biomed. Ther., 1993, 27:1221-1223; Hora et al., Bio/Technology, 1990, 8:755-758; Cleland, "Design and Production of Single Immunization Vaccines Using Polylactide Polyglycolide Microsphere Systems" in Vaccine Design: The Subunit and Adjuvant Approach, Powell and Newman, eds., Plenum Press: New York, 1995, pp. 439-462; WO 97/03692、WO 96/40072、WO 96/07399及び米国特許第5,654,010号)。
【0080】
徐放製剤の適当な例としては、バナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウムを含む固体疎水性ポリマーの半透マトリックスがあり、このマトリックスは、成形物、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルの形態である。徐放マトリックスの例としては、1以上のポリアンヒドライド(例えば、米国特許第4,891,225号及び同第4,767,628号)、ポリエステル、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド及びポリラクチド−co−グリコリド(例えば、米国特許第3,773,919号;同第4,767,628号;および同第4,530,840号;Kulkarni et al., Arch. Surg., 1996, 93:839)、ポリアミノ酸、例えば、ポリリシン、ポリエチレンオキシドの重合体及び共重合体、ポリエチレンオキシドアクリレート、ポリアクリレート、エチレン−酢酸ビニル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオルトエステル、ポリアセチルニトリル、ポリホスファゼン、ならびにポリエステルヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、セルロース、アシル置換セルロースアセテート、非分解性ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホネート化ポリオレフィン、ポリエチレンオキシド、L−グルタミン酸及びγ−エチル−L−グルタメートの共重合体、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸共重合体、例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリドから構成される注射用マイクロスフェア)、ならびにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン−酢酸ビニル及び乳酸−グリコール酸等の重合体は100日にわたって放出が可能であるが、特定のヒドロゲルはより短期間でタンパク質を放出する。使用されてもよい追加の非生分解性ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリビニルピロリドン、エチレン酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、セルロースアセテートブチレート及びセルロースアセテートプロピオネートがある。
【0081】
または、徐放製剤は、分解性生物材料、例えば、生体内分解性脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸など)から構成されてもよい。生分解性重合体は、生体適合性、特定の分解に対する高い応答性、及び生物学的マトリックスへの活性薬剤の取り込み易さにより、魅力的な製剤である。例えば、ヒアルロン酸(HA)は、架橋されてもよく、生物学的材料用の膨潤性ポリマーデリバリーベヒクルとして使用されうる。(米国特許第4,957,744号;Valle et al., Polym. Mater. Sci. Eng., 1991, 62:731-735)。また、ポリエチレングリコールでグラフトされたHAポリマーは、望ましくない薬剤漏れおよび生理学的条件での長期間貯蔵に関連する変性を低減する改善されたデリバリーマトリックスとして調製された。(Kazuteru, M., J. Controlled Release, 1999, 59:77-86)。使用されてもよいさらなる生分解性ポリマーとしては、ポリ(カプロラクトン)、ポリアンヒドライド、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリシアノアクリレート、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスホジエステル)、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリオルトカーボネート、分解性無毒性ポリウレタン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンオキザレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリ(リンゴ酸)、キチン及びキトサンがある。
【0082】
または、生分解性ヒドロゲルを、バナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウム化合物の放出制御材料(controlled-release material)として使用してもよい。マクロマーの適切な選択により、バナジウムデリバリーシステムにおける様々なタイプのバナジウム化合物に適した透過性、細孔径及び分解速度の範囲を有する膜を製造してもよい。
【0083】
または、バナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウム用の徐放デリバリーシステムは分散液から構成されてもよい。分散液は、さらに懸濁液またはエマルジョンのいずれかとして分類されうる。バナジウム化合物用のデリバリーベヒクルにおいて、懸濁液は、液体媒質に(より均一にまたはより低い均一性で)分散する非常に小さい固体粒子の混合物である。懸濁液の固体粒子は、数ナノメートル〜数百ミクロンのサイズであってもよく、マイクロスフェア、マイクロカプセル及びナノスフェアがありうる。これに対して、エマルジョンは、少量の乳化剤によって懸濁液中に保持される2以上の非混合液体の混合物である。乳化剤は、非混合液体間で界面膜を形成し、界面活性剤または洗浄剤としても知られている。エマルジョン製剤は、油または脂肪を分散させながら水が連続相中にある水中油型(o/w)、さらには水をさせながら油が連続相中にある油中水型(w/o)双方でありうる。適当な徐放製剤の一例は、WO 97/25563に開示される。さらに、本発明においてバナジウム化合物と共に使用されるエマルジョンとしては、多重エマルジョン、マイクロエマルジョン、微液滴及びリポソームがある。微液滴は、内部に油相がある球状液層から構成される単層のリン脂質ベヒクルである(例えば、米国特許第4,622,219号及び米国特許第4,725,442号)。リポソームは、水不溶性極性液体を水溶液と混合することによって調製されるリン脂質ベヒクルである。
【0084】
または、バナジウムデリバリーシステムにおけるバナジウムの徐放製剤は、強い生体適合性及び広範な生分解特性を発揮するポリマーである、ポリ−乳酸−co−グリコール酸(PLGA)を用いて開発してもよい。PLGAの分解産物である、乳酸及びグリコール酸は、ヒトの体から素早く取り除かれる。さらに、このポリマーの分解性は、分子量及び組成に応じて数か月から数年まで調節できる。さらなる情報については、Lewis, "Controlled Release of Bioactive Agents from Lactide/Glycolide polymer," in Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems, M. Chasin and R. Langeer, eds. (Marcel Dekker: New York, 1990), pp. 1-41を参照。
【0085】
「インスリン疑似デリバリーシステム」を介した「局所的なバナジウム」の投与経路は、既知の方法に従って、例えば、即時放出、制御放出、徐放、及び持続徐放手段を介する。インスリン疑似デリバリーシステムの好ましい投与形式としては、罹患した骨部位やこの罹患した骨部位に隣接した(adjacent)および/または近接した(contiguous)領域への直接注射または罹患した骨部位やこの罹患した骨部位に隣接した(adjacent)および/または近接した(contiguous)領域へのインスリン疑似デリバリーシステムの直接的な外科的移植がある。このタイプのシステムにより、上述したように、放出の時間的な制御、さらには放出の位置決めが可能になる。
【0086】
具体的な例として、バナジウムは、デリバリーポンプを介してある部位に連続的に局所投与されてもよい。一実施形態においては、ポンプを、外側で(ポケットの中またはベルトの上に)装着し、針または柔らかいカニューレ(薄いプラスチックチューブ)を有する長い、薄い、柔軟なプラスチック管類を用いて体に取り付け、カニューレまたは針を挿入した後、皮膚の下の適所に留置する。この針またはカニューレ及び管類は、例えば、48〜72時間毎に交換してもよい。ポンプは、カートリッジ内にバナジウムを溜め、最適なデリバリー速度に基づいてバナジウムを放出しうる。必要であれば、ポンプのプログラムを作成して、四六時中連続して少量の薬剤を投与してもよく、これは特定の場合に好ましい。
【0087】
本発明は、癒合不全(non-union)及び癒合遷延(delayed union)の治療にあたって効果的でありうる。6.2百万件の骨折のうち、10%以下が毎年持続して、癒合遷延や癒合不全に進行していた(Praemer, A. and Rice D., Am. Acad. Orthop. Surg., 1992, 85-124)ため、本発明は、広範な用途があるであろう。
【0088】
一つの好ましい実施形態においては、本発明は、軍隊での外傷(military injuries)を治療するのに使用できる。近年の米国の衝突では、個人の防弾チョッキがかなり改善されたため、大惨事はより少なくなった。個人の保護でのこのような向上により死亡数、戦争での死亡率(morbidity of war)は減少したものの、特に戦争に関連する外傷の著しくより大きな割合が四肢で生じている。エネルギーレベルによっては、四肢の骨折は、単純な閉鎖骨折から顕著な骨及び軟組織の欠損が明らかである大きな部分欠損まである。戦争に関連した骨折は、合併症率が非常に高く(一研究では、47%)、癒合遷延及び癒合不全がすべての骨折のうち31%と続く(Pukljak D., J. Trauma., 1997, 43(2):275-282)。これらの骨折のうち多くは、四肢で生じる。銃創は、運動エネルギーの大部分が骨表面に広がるため、しばしば、重篤である。
【0089】
一般的な単純粉砕骨折処置は、骨格を回復し、骨が新たに形成して骨折が治癒できるまで骨折した骨を安定化することによる。適当な血流を維持し、感染症を予防しながら骨の再生をかなり促進する方法等のこのような基本的な方法の補助(adjunct)は、この分野に革命をもたらす可能性がある。バナジウム等の骨剤(osseous agent)は、インスリン経路の治癒応答を十分に引き出すことによって骨折仮骨の強度を向上する可能性がある。本非タンパク質剤の局所的な治療は、感染症または全身的な治療に関連する全身的な結果(systemic consequence)の可能性が最小ですむ。
【0090】
癒合遷延(delayed union)および癒合不全(non-union)による重篤な軍隊での外傷の高い合併症の発生率は、骨治癒を損なう危険因子を有する一般市民でみられる観察結果と同等である。危険因子としては、喫煙、老齢、ステロイドの使用、特定の薬剤(即ち、抗癌剤)及び糖尿病(DM)がある。また、危険性の高い集団に関連して骨の治癒が損なわれた場合に適切な治療方法を用いることにより、正常で、若い健常な兵隊での骨折の治癒を促進できる。
【0091】
他の実施形態では、本発明は、疲労骨折や急性のスポーツに関連した骨折(sports-related fracture)等の、様々な骨折を治療するスポーツ医学で広範な用途がある。運動中に生じる急性の骨折は、骨への過負荷(スキーでのブーツ上部の脛骨の骨折(boot top tibial fractures in skiing)によりまたは靭帯から腱までの剥離(ligament to tendon avulsion)(ロングジャンプ中の脛骨結節剥離(tibial tubercle avulsion during long jumping))から生じる。高校でのフットボールでの外傷のみで、年間38,000件の骨折を占める(DeCoster, T.A., et al., Iowa Orthop. J., 1994, 14:81-84)。スポーツによる骨折としては、以下に制限されないが、脛骨(49%)、大腿骨(7%)、及び足根骨(25%)の骨折があるが、これは、個人やけがの原因によって異なる可能性がある(DeCoster, T.A., et al., Iowa Orthop. J., 1994, 14:81-84)。本研究では、中−骨幹骨折パターン(mid-diaphyseal fracture pattern)を試験したが、他の骨折パターンも同様にして治癒すると考えられる。
【0092】
さらなる他の実施形態では、本発明は、以下に制限されないが、ウマ、イヌ、ネコ、または他の家畜若しくは野生の哺乳動物等の、哺乳動物での様々な骨折を治療するための獣医薬において広範な用途がある可能性がある。特定の有用な用途は、例えば、傷ついた競走馬の治療で見出されうる。
【0093】
本発明を限定するものではないが、下記実施例によって、本発明の特定の態様を詳細に説明する。
【0094】
実施例
材料および方法
BBウィスターラットモデル
動物源および由来
本研究で使用した糖尿病耐性(DR)BBウィスターラットは、UMDNJ-New Jersey Medical School(NJMS)の繁殖コロニーから得た。これらのラットは、制御された環境条件で飼育され、不断給餌された。
【0095】
糖尿病耐性(DR)BBウィスターラット
全86匹のDR BBウィスターラットを本研究に使用した。不適切に骨折した顆(inappropriately fractured condyle)により15匹および試験中のポッティング(potting)時の移動により5匹の、20サンプルを本研究から除いた。残りの66匹の動物を機械的検査に使用し、これらを、コントロールの生理食塩水(n=6)群、硫酸カルシウムバッファー(n=9)群、0.25mg/kg VAC(n=6)群、0.5mg/kg VAC(n=6)群、1.5mg/kg VAC(n=15)群、3mg/kg VAC(n=13)群、硫酸カルシウム担体を用いた0.25mg/kg VAC(n=6)群、及び硫酸カルシウム担体を用いた1.5mg/kg VAC(n=6)群に分けた。剖検時に、2mlの全血を集め、グルコース及びグリコシル化ヘモグロビン(%)(%HbA1c)レベルを、グリコシル化ヘモグロビンキット(Bayer HealthCare, Sunnyvale, CA)を用いて測定した。グリコシル化ヘモグロビンは、血中グルコースコントロールの時間平均測定値であり、正常な患者に比較すると、血中グルコースコントロールの低い患者では2倍高いことがありうる。
【0096】
閉鎖大腿骨骨折モデル
前記したのと同様にして右大腿骨に、閉鎖中−骨幹骨折モデル(closed mid-diaphyseal fracture model)を用いて、80〜120日齢のDR動物で、外科手術を行った。
【0097】
ケタミン(60mg/kg)及びキシラジン(8mg/kg)を腹腔内(IP)注射することにより、通常の麻酔を投与した。各ラットの右脚を毛を剃り、ベタジン(Betadine)及び70%アルコールで切開部位を洗浄した。膝蓋骨に、約1cmの内側傍膝蓋骨皮膚切開(medial, parapatellar skin incision)を行った。膝蓋骨の位置を横に変え、大腿遠位の顆間窩(interchondylar notch)を暴露した。18ゲージの針で侵入孔を作り、18ゲージの針を用いて大腿骨の穴を広げた。キルシュナー鋼線(Kirschner wire)(316LVM ステンレス鋼、0.04インチ直径、Small Parts, Inc., Miami Lakes, FL)を髄腔(medullary canal)の長さ分挿入し、大腿骨の転子に穴を開けた(drill)。キルシュナー鋼線を大腿顆と同一平面で切断した。洗浄後、4−0のバイクリル吸収性縫合糸で傷を閉じた。次に、中軸閉鎖骨折(closed midshaft fracture)を、3点屈折骨折機(three-point bending fracture machine)を用いて一方向に(unilaterally)作製した。X線で撮影して、骨折が許容できる形状かどうかを決定した。適切な骨折は、だいたい中−骨幹の、低エネルギーの、横骨折(approximately mid-diaphyseal, low energy, transverse fracture)である(図1)。ラットは、骨折後すぐに自由に歩きまわらせた。この閉鎖骨折モデルは、骨の外傷治癒(osseous wound healing)装置及び薬剤の有効性を評価するのに一般的に使用される。
【0098】
実験処置
局所的なバナジウムデリバリー
0.725mgVAC/ml 水(非常に低い投与量)、1.45mgVAC/ml 水(やや低い投与量)、4.35mgVAC/ml 水(低投与量)、及び8.7mgVAC/ml 水(高投与量)の濃度で滅菌水と混合した、バナジウム(バナジルアセチルアセトネート(VAC)、Sigma Aldrich, St. Louis, MO)の溶液 0.1mlを、骨折させる前に、髄腔内(intramedullary canal)に注射した。非常に低い投与量は0.25mg/kgに相当し、やや低い投与量は0.5mg/kgに相当し、低投与量は1.5mg/kgに相当し、および高投与量は3.0mg/kgに相当した。低投与量及び高投与量のVACを硫酸カルシウム(CaSO)1/2水和物(J. T. Baker)と組み合わせたものの分析を以下に記載する。
【0099】
CaSOを担体として用いた局所的なバナジウム処置
2gのCaSOをガラス製のバイアル瓶に入れた。このバイアル瓶を機械的対流式オーブン(mechanical convection oven)に入れ、197℃で6時間滅菌した。
【0100】
CaSO−VAC混合物を調製するために、0.8gのCaSOを、室温で1分間、400μlの生理食塩水または各VAC溶液と混合した。この混合物を1ccの滅菌シリンジ筒に詰め、シリンジのプランジャーを挿入することによってシリンジ筒の開口部にまで押し下げた。18ゲージの滅菌針をシリンジ筒に付けた後、0.1ml容の上記混合物をラットの大腿管(非糖尿病BBウィスターラット)に直接注射した後、キルシュナー鋼線を挿入して、骨折させた。
【0101】
4つの実験群を使用した:
(1)生理食塩水コントロール(0.9% NaCl):0.1mlの生理食塩水を右大腿骨の髄腔内に注射した後、キルシュナー鋼線を挿入して、骨折させた。
【0102】
(2)硫酸カルシウムバッファーコントロール:0.1mlのCaSO−生理食塩水の混合物を右大腿骨の髄腔内に注射した後、キルシュナー鋼線を挿入して、骨折させた。
【0103】
(3)0.25mg/kg 局所的VAC+担体:0.1mlのCaSO−VAC(バナジルアセチルアセトネート(VAC)、Sigma Aldrich, St. Louis, MO)の混合物を右大腿骨の髄腔内に注射した後、キルシュナー鋼線を挿入して、骨折させた。
【0104】
(4)1.25mg/kg 局所的VAC+担体:0.1mlのCaSO−VAC(バナジルアセチルアセトネート(VAC)、Sigma Aldrich, St. Louis, MO)の混合物を右大腿骨の髄腔内に注射した後、キルシュナー鋼線を挿入して、骨折させた。
【0105】
グリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)
グリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)を、グルコースとヘモグロビンのグロビン鎖との非酵素的反応によって形成した。詳しくは、グルコースは、ヘモグロビン分子内にあるアミン基と非共有結合を形成する。この反応は、赤血球のライフサイクルを通じて連続して起こるため、細胞の生存中の平均血中グルコースレベルの測定結果となる。HbA1cは、血中グルコースコントロールの時間平均測定値として認められており、正常な患者に比較すると、血中グルコースコントロールの低い患者では2倍高いことがありうる。
【0106】
剖検時に心穿刺によってラットから血液を集めた。約2mlの全血を集め、グリコシル化ヘモグロビン(%)(%HbA1c)を製造社の指示に従ってグリコシル化ヘモグロビンキット(Bayer HealthCare, Sunnyvale, CA)を用いて測定した。
【0107】
機械的検査
4週目にX線で撮影して、骨折の治癒範囲を測定した(図3)。
【0108】
骨折した外側大腿骨(fractured and contralateral femora)を骨折してから4〜5週間後に切除した。大腿骨から軟組織を除去して、髄腔内の髄内釘を除去した。サンプルを生理食塩水(0.9% NaCl)を浸したガーゼに包み、−20℃で貯蔵した。検査前に、すべての大腿骨を冷凍庫から取り出し、3〜4時間かけて室温にまで解凍した。骨折した外側大腿骨の近位端及び遠位端を、フィールド金属(Field's metal)で3/4インチ ナットに埋め込み、約12mmのガーゼ長さを残した(図2)。仮骨及び大腿骨の寸法を測定した後、20Nmの反応トルクセル(reaction torque cell)(Interface, Scottsdale, AZ)を有するサーボ油圧機(servohydraulics machine)(MTS Systems Corp., Eden Prairie, MN)を用いてねじり試験を行い、2.0deg/秒の速度で破損(failure)を試験した。破損に対する最大トルク及び破損に対する角度を、角変位データから測定した。
【0109】
破損に対するピークトルク(Tmax)、ねじれ剛性(TR)、有効剛性率(SM)、及び有効ねじり剪断応力(SS)を標準式から算出した。Tmax及びTRは外因性の特性であると考えられ、その一方、SM及びSSは内因性の特性であると考えられる。Tmaxは、角変位の増加がトルクのさらなる増加をもたらさなくなった時点として規定される。TRは、破損に対するトルク、ガーゼ長さ(埋め込まれた近位端及び遠位端間の暴露された大腿骨の距離)および角変位の関数である。SSは、破損に対するトルク、中−骨幹領域内の最大半径及び極慣性モーメントの関数である。極慣性モーメントは、大腿骨を中空楕円(hollow ellipse)として形作ることによって算出した。Engesaeter et al.(Acta Orthop. Scand., 1978, 49(6):512-518)は、中空楕円モデルを用いて算出された極慣性モーメントはわずか2%しか実測の極慣性モーメントと相違しないことを示した(Engesaeter et al., Acta Orthop. Scand., 1978, 49(6):512-518)。
【0110】
異なる群間の生体力学的パラメーターを比較するために、相当する無傷の外側大腿骨(intact, contralateral femur)値で各骨折した大腿骨値を割ることによって標準化した(図2)。標準化を用いて、ラット間の年齢及び体重の相違による生物学的な変動を最小限にした。
【0111】
ねじり試験によって測定される生体力学的パラメーターに加えて、破損(failure)の様式によって、多くの情報が提供されうる。肉眼による検査によって測定される際のねじりによる破損(torsional failure)の様式により、治癒の範囲に関する指標が提供された(図4)。中−骨幹領域でのねじれ破損は完全な癒合(complete union)を示し、その一方、骨折部位での横方向の破損は癒合不全を示した。ねじれ/横方向破損の組み合わせは一部癒合を示した(図5)。
【0112】
データおよび統計学的分析
分散分析(ANOVA)をHolm-Sidak post-hoc試験に従って行い、差異を測定した (SigmaStat 3.0, SPSS Inc., Chicago, Illinois)。P値が0.05未満であると、統計学的に有意差があると考えた。
【0113】
結果
一般的な健康状態
この生体力学試験実験で、処置群での動物の年齢が一致するようにした。外科手術時からの体重増加率(%)で処置群間の統計学的相違はなかったことから、髄腔内に局所的に注射されたバナジウムは代謝には影響がなかったことが示される(表1)。外科手術時の血中グルコースレベル及び年齢は、高投与量群及び生理食塩水群間で有意な差異を示した(表2)。しかしながら、この範囲は非DMラットの正常血糖値の範囲内であるため、この観察結果の臨床的関連は確認が困難である。これらの変動は、サンプルの大きさが小さいことおよび餌による変動の結果である可能性がある。
【0114】
すべての動物は40日以内の同様の年齢(80〜120日)内で集められた。群間の年齢の平均差は高投与量群及び生理食塩水処置群間で12日未満であり、低投与量群及びコントロール処置群間では3日未満であった。この段階でこのように年齢差が小さいことは、治癒速度の主要な分散(variance)を生じる原因にはなりにくい。
【0115】
【表1】

【0116】
機械的検査結果
正常(非糖尿病)ラットでの大腿骨骨折の治癒への局所的バナジウム治療の効果を、ねじり機械的検査によって測定した。骨折してから4週間で、1.5mg/kg〜3mg/kg VACで処置したラットは、未処置の生理食塩水群に比べて骨折した大腿骨の機械的特性の改善が認められた。破損(failure)に対する最大トルク(P<0.05)、最大ねじれ剛性(P<0.05)、有効剛性率(P<0.05)、及び有効剪断応力(P<0.05)はすべて、未処置群に比べて有意に増加した(表2)。また、破損に対する最大トルク及び最大ねじれ剛性は、未処置の生理食塩水群に比べて0.5mg/kg VACで有意に増加した(P<0.05)。骨折した大腿骨の機械的パラメーターを無傷の外側大腿骨(intact, contralateral femora)に対して標準化すると、破損に対するトルクの割合(%)(P<0.05)、最大ねじれ剛性の割合(%)(P<0.05 HD)、及び有効剪断応力の割合(%)(P<0.05)が、生理食塩水群に比べて局所的なバナジウム処置群のいくつかで有意に増加した(表2)。
【0117】
骨折してから5週間では、1.5mg/kgで処置したラットは、未処理の生理食塩水群及び3mg/kg VAc処置群に比べて、骨折した大腿骨の機械的特性の改善が認められた。破損に対する最大トルク(P<0.05)、最大ねじれ剛性(P<0.05)はすべて、未処置群に比べて有意に増加した。また、1.5mg/kg VAC群は、3mg/kg VAC群に比べ有意により高い破損に対する最大トルク(P<0.05)を示した(表3)。骨折した大腿骨の機械的パラメーターを無傷の外側大腿骨に対して標準化すると、いくつかのパラメーターは有意差ありに近づくものもあるが、有意差があるものはなかった(表3)。
【0118】
骨折してから4週間では、0.25mg/kg VAC及び硫酸カルシウム担体で処置したラットは、未処置の生理食塩水群及び硫酸カルシウムバッファー群に比べて骨折した大腿骨の機械的特性の改善が認められた。破損(failure)に対する最大トルク(P<0.05)、及び有効剛性率(P<0.05)は双方とも、未処置群に比べて有意に増加し、その一方、有効剪断応力は、未処置の生理食塩水群、硫酸カルシウムバッファー群、及び1.5mg/kg VAC w/硫酸カルシウム群に比べて、0.25mg/kg VAC w/硫酸カルシウム群で、有意に増加した(P<0.05)(表4)。骨折した大腿骨の機械的パラメーターを無傷の外側大腿骨に対して標準化すると、破損に対するトルクの割合(%)(P<0.05)、及び有効剛性率の割合(%)(P<0.05)が、未処置群及び硫酸カルシウムバッファー群に比べて、0.25mg/kg VAC w/硫酸カルシウム群で、有意に増加した(P<0.05)(表2)。最大ねじれ剛性の割合(%)は、未処置の生理食塩水群に比べて、0.25mg/kg VAC w/硫酸カルシウム群で、有意に増加した(P<0.05)(表4)。
【0119】
我々の知見によると、これは、機械的検査によって定量化した、骨折の治癒に関する局所的バナジウム処置の効果を試験した初めての研究である。我々の研究により、局所的VAC処置により、正常な動物で骨折の治癒の生体力学パラメーターが有意に向上することが示された(表2〜4)。
【0120】
4週目では、担体を使用しない1.5mg/kg及び3.0mg/kg投与量での骨折した大腿骨の破損に対するトルクの平均割合(%)は有意に増加し、この際、3.0mg/kg投与量では、未処置の生理食塩水群に比べて1.93倍増加(外側の79.0%に対して27.0%)し、および1.19倍増加(外側の59.0%に対して27.0%)した。1.5mg/kg及び3.0mg/kg投与量双方での最大ねじれ剛性の割合(%)の値は有意に増加し、この際、3.0mg/kg投与量では、未処置の生理食塩水群に比べて2.90倍増加(外側の78.0%に対して20.0%)し、および2.80倍増加(外側の76.0%に対して20.0%)した。1.5mg/kg及び3.0mg/kg投与量双方での有効剛性率の割合(%)は有意に増加し、この際、高投与量では、未処置の生理食塩水群に比べて4.75倍増加(外側の23.0%に対して4.0%)し、および4倍増加(外側の20.0%に対して4.0%)した。3.0mg/kg投与量での有効剪断応力の割合(%)は有意に増加し、この際、未処置の生理食塩水群に比べて2倍増加(外側の30.0%に対して10.0%)した。
【0121】
工業上標準的な担体(硫酸カルシウム)を導入した場合には4週目で、0.25mg/kg投与量での骨折した大腿骨の破損に対するトルクの平均割合(%)は、未処置の生理食塩水群より、2.15倍(外側の85.0%に対して27.0%)および硫酸カルシウムバッファー群より、1.30倍(外側の85.0%に対して37.0%)で、双方ともに有意に増加した。0.25mg/kg投与量での最大ねじれ剛性の割合(%)は、未処置の生理食塩水群より、4倍(外側の100.0%に対して20.0%)、有意に増加した。0.25mg/kg投与量での有効剛性率の割合(%)は、未処置の生理食塩水群より、5倍(外側の24.0%に対して4.0%)、および硫酸カルシウムバッファー群より、2.43倍(外側の24.0%に対して7.0%)で、双方ともに有意に増加した。
【0122】
これらの結果から、非糖尿病患者の骨折の治癒に対する局所的なVAC処置の驚くべき可能性が実証される。また、担体を用いるとより低投与量のVACでそのデリバリーが最適化され、有効量を低減することが示される。さらに、我々は、より高い投与量で生体力学パラメーターが向上する、VACデリバリーに対するほぼ容量依存性の反応を示す。骨折してから5週では、仮骨の大きさ及び骨の再構築の点で試験された最も高い投与量でのバナジウム化合物の有効性には限度があることが明らかである(表4)。非糖尿病及び糖尿病動物の無傷の(骨折していない)骨の機械的強度に関するバナジウムの効果を試験した以前の研究では、バナジウムが非糖尿病動物では骨のホメオスタシスに効果がないことが明らかになった(Facchini, D.M., et al., Bone, 2006, 38(3):368-377)。骨折の治癒経路は、骨のホメオスタシス経路とは異なる。これは、双方のモデルで表される矛盾する結果の主な理由であると考えられる。他の可能性としては、各研究で投与量およびデリバリー方法が異なることがある。
【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
CaSOと組み合わせたまたは単独での、VACによる骨折後4〜5週間の機械的検査の結果を、表2、表3、及び表4に、それぞれ、示す。
【0126】
【表4】

【0127】
本発明のインスリン疑似ストラテジーを、正常及び糖尿病患者の処置での大腿骨の骨折治癒の機械的検査パラメーターの比較によってさらに詳述する(表5)が、これは、機械的パラメーターの6週間での値が糖尿病患者で非常に低いことを示すが、VACを低投与量で使用した場合には、これらの値は正常患者の骨折治癒で観察される値にまで実質的に増加し、さらには同期間後では正常患者での骨折の値を超えさえした。
【0128】
【表5】

【0129】
上記データから、局所的なバナジウム処置が、骨折患者、特に非糖尿病患者を治療する有効な方法であることが示された。機械的パラメーター及びX線顕微鏡写真から、骨が骨折から4週間で埋められた(bridge)ことが明らかになった。機械的検査中に生じるらせん骨折はこの現象を再確認し、担体を使用せずに試験投与量での局所的なVACの適用により、生理食塩水コントロールに比べて2倍以上早く骨が治癒する可能性があることが示唆される。この証拠は、VAC単独、または骨折の治癒のオプションとしての担体とVACとの組み合わせの使用への多くの将来の応用が開かれる。
【0130】
前記実施例および好ましい実施形態の説明は詳細な説明であり、本発明を限定するものでなく、本発明は特許請求の範囲によって規定されると受け止められるべきである。容易に認識されるように、上記の態様の多くの変更および組み合わせが、特許請求の範囲に記載される本発明から逸脱しない限り利用できる。このような変更は本発明の範囲および概念から逸脱しないものとみなされ、すべてのこのような変更は下記特許請求の範囲の範囲に含まれると解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量のインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を骨の疾患を治療する必要のある患者に局所投与することを有する、骨の疾患を治療する必要のある患者の骨の疾患の治療方法。
【請求項2】
前記インスリン疑似バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、およびビス(マルトラト)オキソバナジウム(bis(maltolato)oxovanadium)(BMOV)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インスリン疑似バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記インスリン疑似バナジウム化合物が、骨の損傷部位に投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記骨の疾患が、骨折、骨の外傷、関節固定、および外傷後の骨の手術(post-traumatic bone surgery)、補綴後の関節の手術(post-prosthetic joint surgery)、整形後の骨の手術(post-plastic bone surgery)、ポストデンタル手術(post-dental surgery)、骨の化学療法処置(bone chemotherapy treatment)、先天性骨欠損、外傷後の骨欠損(post traumatic bone loss)、手術後の骨欠損(post surgical bone loss)、感染後の骨欠損(post infectious bone loss)、同種移植片の埋め込み(allograft incorporation)または骨の放射線療法処置(bone radiotherapy treatment)に関連する骨欠損疾患(bone deficit condition)からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記骨の疾患が、骨折、骨欠損(osseous defects)、ならびに癒合遷延(delayed unions)および癒合不全(non-unions)から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、同種移植片、自家移植片または整形外科用のバイオ複合材料と組み合わせて使用される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記インスリン疑似バナジウム化合物が、前記バナジウム化合物を含む骨移植片用のバイオ複合材料(bone graft biocomposite)によって局所投与される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記骨移植片用のバイオ複合材料が、自家移植片、同種移植片、異種移植片、人工移植片(alloplastic graft)、および合成移植片からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、細胞毒性薬、サイトカインまたは成長阻害剤を前記バナジウム化合物と一緒に投与する(co-administer)ことを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、外来骨成長刺激剤(external bone growth stimulator)と組み合わせて使用される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、生物活性骨剤(bioactive bone agent)を前記バナジウム化合物と一緒に投与することを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記生物活性骨剤が、ペプチド成長因子、抗炎症因子、炎症促進因子、アポトーシスの阻害剤、MMP阻害剤、および骨異化アンタゴニストからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチド成長因子が、IGF(1,2)、PDGF(AA、AB、BB)、BMP、FGF(1−20)、TGF−β(1−3)、aFGF、bFGF、EGF、VEGF、副甲状腺ホルモン(PTH)、および副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗炎症因子が、抗TNFα、可溶性TNFレセプター、ILlra、可溶性IL1レセプター、IL4、IL−10、およびIL−13からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記骨異化アンタゴニストが、ビスホスホネート、オステオプロテゲリン、およびスタチンからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記患者が、哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記患者が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、非糖尿病の(non-diabetic)ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
治療上有効な量のインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物を含む組成物を骨の治癒を促進する必要のある患者に局所投与することを有する、骨の治癒の促進方法。
【請求項21】
前記組成物が、少なくとも一つの生体適合性担体を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記生体適合性担体が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ならびにポリ乳酸およびポリグリコール酸の共重合体からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生体適合性担体が、少なくとも一つの生分解性脂肪酸またはその金属塩を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、およびこれらの金属塩からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記生体適合性担体が、多孔質または非多孔質リン酸カルシウム、多孔質または非多孔質ヒドロキシアパタイト、多孔質または非多孔質リン酸3カルシウム、多孔質または非多孔質リン酸4カルシウム、多孔質または非多孔質硫酸カルシウム、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される塩を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
骨の自家移植、骨の同種移植、自家幹細胞処置、同種幹細胞処置、化学的刺激、電気的刺激、内固定、および外固定からなる群より選択される少なくとも一つの処置と一緒に前記患者を治療することをさらに有する、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
局所投与を特徴とする骨の治癒を加速する必要のある患者における骨の治癒を加速するための薬剤の製造のためのインスリン疑似(insulin-mimetic)バナジウム化合物の使用。
【請求項28】
前記患者が、骨折、骨の外傷、関節固定、および外傷後の骨の手術(post-traumatic bone surgery)、補綴後の関節の手術(post-prosthetic joint surgery)、整形後の骨の手術(post-plastic bone surgery)、ポストデンタル手術(post-dental surgery)、骨の化学療法処置(bone chemotherapy treatment)、先天性骨欠損、外傷後の骨欠損(post traumatic bone loss)、手術後骨欠損(post surgical bone loss)、感染後骨欠損(post infectious bone loss)、同種移植片の埋め込み(allograft incorporation)または骨の放射線療法処置(bone radiotherapy treatment)に関連する骨欠損疾患(bone deficit condition)からなる群より選択される骨の疾患に苦しんでいる、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記インスリン疑似バナジウム化合物が、無機バナジウム化合物である、請求項27に記載の使用。
【請求項30】
前記インスリン疑似バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、およびビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)からなる群より選択される有機バナジウム化合物である、請求項27に記載の使用。
【請求項31】
治療上有効な量の、骨損傷を治療する必要のある患者へのインスリン疑似バナジウム化合物の局所投与用に処方されるインスリン疑似バナジウム化合物を含む骨損傷治療キット。
【請求項32】
前記バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)、バナジルスルフェート(VS)、バナジル3−エチルアセチルアセトネート(VET)、およびビス(マルトラト)オキソバナジウム(BMOV)からなる群より選択される、請求項31に記載の骨損傷治療キット。
【請求項33】
前記バナジウム化合物が、バナジルアセチルアセトネート(VAC)である、請求項31に記載の骨損傷治療キット。
【請求項34】
骨移植片用のバイオ複合材料をさらに含む、請求項33に記載の骨損傷治療キット。
【請求項35】
損傷した骨組織の治療のための生物活性剤をさらに含む、請求項33に記載の骨損傷治療キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−517287(P2013−517287A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549109(P2012−549109)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2011/021296
【国際公開番号】WO2011/088318
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512099655)ユニバーシティ オブ メディスン アンド デンティストリー オブ ニュー ジャージー (2)
【Fターム(参考)】