説明

骨の移植、エンジニアリングおよび再生を目的としたフカン類の使用

本発明は、骨移植、エンジニアリングおよび再生を目的とする5000および100000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨の移植、エンジニアリングおよび再生を目的とした、5000および100000g/molの間の重量平均モル質量を有するフカン類の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フカン類は、硫酸化多糖族である(BerteauおよびMulloy、Glycobiology、13巻、6号、29R〜40R頁、2003年(非特許文献1)参照)。フカン類は、主要なフコース単位の硫酸塩富化鎖(ホモフカン類)と、フコース、ガラクトース、キシロースおよびグルクロン酸単位から構成される低硫酸化鎖(キシロフコグルクロナン類)から成る多糖類である。フカン類は、藻類、特に褐藻類(pheophycea、褐藻綱)から、または、海洋無脊椎動物類から抽出することができる。フカン類は、いったん抽出されると、一般に、500000g/molを超える重量平均モル質量を有する。5000および100000g/molの重量平均モル質量を有するフカン類を得るために、フカン類の解重合のための多数の技術が存在する(欧州特許第0403377号(特許文献1)参照)。フカン類の多数の治療的用途が記載されている:抗凝固剤(欧州特許第0403377号(特許文献1)参照)、歯周病および真皮病巣の治療(国際公開第99/32099号公報(特許文献2)参照)、抗血栓剤(国際公開第01/1565号公報(特許文献3)参照)、関節炎および骨関節炎の治療(国際公開第03/018033号公報(特許文献4)参照)である。
【0003】
骨質損失の充填は、骨関節疾患および外傷(骨腫瘍、外傷後遺症、変性疾患)で多く見られる問題である。理想的な骨置換材料の詳細は、特に、1)レシピエントへの感染リスクを伴わない良好な忍容性;2)その場での骨構造への一体化;3)移植部位での応力を支持するのに十分な機械的特性を有する良質の骨新生許容能を含む。これらの材料の中でも、天然または合成生体材料が、骨移植片の代用物になる。これらの材料に望ましい特性は、骨伝導性、即ち前記材料との接触時の骨再建誘導能、および/または、骨誘導性、即ち骨外部位でも骨形成を刺激する能力である。数件の研究アプローチ(Heymannら、Review of orthopedic surgery、2001年;87巻、8〜17頁(非特許文献2)参照)は、生体材料の骨形成特性を改善することに向かう傾向にある。骨形成能を有する細胞外マトリクスタンパク質もしくは増殖因子との当該生体材料の組合せは、一方の研究路線である。これらの増殖因子類は、生体材料に組み入れられ、生体内で放出され、それによって、生体材料内で骨形成を増強することができる。リン酸カルシウム(CaP)セラミックも、薬効物質(抗がん剤、抗生物質など)の送達システムとして考えられている。骨形成細胞、即ち骨組織を構成することができる細胞の、骨代用物との組合せは、別の主要な研究路線である。この「ハイブリッド」の組合せは、第1に充填代用物、第2に自己由来骨形成細胞源を必要とする。これらの細胞は、骨芽細胞が単離される骨外植片に由来することができる。しかし、この方法では、少量の骨形成細胞が得ることができるにすぎない。骨形成細胞は、生体外および生体内での分化が可能な骨髄の骨前駆細胞に由来することもできる。この点で、全骨髄細胞か間質細胞のみを使用することができる。骨髄の前駆細胞から分化骨芽細胞クローンを得ることもできる。ラットにおいて、骨部位に注入された骨髄細胞は、独力で、調整骨欠損部に充填することができる。骨髄細胞がCaPセラミックと結合すると、セラミックは骨伝導性を獲得することができる。事実、動物で実施された多数の研究は、自己由来骨髄細胞とともにインキュベートされ、その後、骨外部位に埋め込まれたセラミック内部での骨化を実証している。さらに、骨髄細胞は、骨部位での生体材料の一体化を増強する。当該骨髄細胞は、骨再生の速さと質を促進する。
【0004】
国際公開第02/02051号公報(特許文献5)は、骨治癒における、菌種Vibrio diabolicusによって排泄される多糖の使用を記載している。当該多糖は、人工骨コーティングまたは骨伝導性充填材の調製に使用されることができる。国際公開第02/02051号公報(特許文献5)の教示によれば、高分子量(1000000g/mol程度)を有するフカン類は、骨治癒に効果を示さない。
【特許文献1】欧州特許第0403377号
【特許文献2】国際公開第99/32099号公報
【特許文献3】国際公開第01/1565号公報
【特許文献4】国際公開第03/018033号公報
【特許文献5】国際公開第02/02051号公報
【非特許文献1】BerteauおよびMulloy、Glycobiology、13巻、6号、29R〜40R頁、2003年
【非特許文献2】Heymannら、Review of orthopedic surgery、2001年;87巻、8〜17頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
骨再建に関する先行技術の不十分さおよび欠点を考慮して、本発明者らは、骨伝導特性が改善された骨代用物を提供する目標を自らに課した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、本発明者らは、この目標が、特定の族の多糖、即ち、5000および100000g/molの間の重量平均モル質量を有するフカン類を使って達成可能であることを発見した。これらのフカン類は、骨芽細胞類の遊走および増殖を、また、新骨細胞外マトリクスの合成およびその石灰化も、促進および加速することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の主題は、生体材料と、5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類とを含む骨代用物である。
【0008】
本発明で使用されるフカン類は、M1およびM2の間の重量平均モル質量を有し、当該重量平均モル質量M1およびM2は互いに独立して選択され、M1は、5000、10000、15000、20000および25000g/molの数値から選択され、M2は、40000、60000、80000、90000および100000g/molの数値から選択される。
【0009】
好ましくは、フカン類は褐藻から得られる。当業者は、本発明で使用されるフカン類の入手に通常の技術を使用することができる。使用可能な技術の一例として、前述(欧州特許第0403377号参照)のような高分子量フカン類の制御溶解とその後のゲルクロマトグラフィーでの精製による、または、前述(欧州特許第0846129号または国際公開第97/08206号公報)のような高分子量フカン類のラジカル解重合による技術に言及することができ、当業者であれば、操作条件を容易に適合させ、所望の重量平均モル質量を得られよう。
【0010】
用語「生体材料」は、機能または器官の置換に用いられる任意の材料を指すことを意図する。当該生体材料は、医療用具に使用され、また、組織、器官もしくは機能を置換または治療することを目的とするいずれかの生体材料である。
【0011】
典型的には、本発明による骨代用物を調製するためには、当業者は、骨エンジニアリングに汎用されるどの生体材料も使用することができる。例として、当該生体材料は、チタン、コラーゲン、除タンパクおよび/または脱灰骨、サンゴ、リン酸カルシウムセラミック、ヒドロキシアパタイト、ベータ−リン酸三カルシウムおよび生体活性ガラス類から成る群より選択される1種類以上の材料を含むことができる。
【0012】
有利なことに、本発明による骨代用物は、線維芽細胞増殖因子類(FGF類)、トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)、インスリン増殖因子類I(IGF類)、血小板由来増殖因子類(PDGF類)、骨形成タンパク質類(BMP類)および血管内皮細胞増殖因子類(VEGF類)を含む群より選択される1種以上の増殖因子類も含むことができる。
【0013】
好ましくは、本発明による骨代用物は、BMP類、FGF類、TGF−ベータおよびVEGF類から成る群より選択される1種以上の増殖因子類も含むことができる。
【0014】
有利なことに、本発明による骨代用物は、インターロイキン1、インターロイキン6、インターロイキン4、腫瘍壊死因子アルファ、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子およびマクロファージコロニー刺激因子から成る群より選択される1種以上のサイトカイン類も含むことができる。
【0015】
典型的には、本発明による骨代用物の生体材料の表面は、フカン類を含むコーティングを有する。
【0016】
当業者は、フカン類を含むコーティングによる生体材料表面の被覆に通常の技術を使用することができる。例として、当業者は、当該生体材料表面にフカン類を移植することができる。
【0017】
本発明による骨代用物の生体材料は、フカン類を含浸されることもできる。
【0018】
有利なことに、本発明による骨代用物は、骨髄由来、骨外植片類由来または骨膜外植片類由来の骨形成細胞類から成る群より選択される細胞類も含むことができる。
【0019】
そのような骨代用物を調製するために、当業者は、所望の細胞類と共に骨代用物のコロニー形成を実施することができる。
【0020】
1つの実施形態によれば、本発明は、骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類から成る群より選択される細胞型用であって、5000および100000g/molの間、特に10000〜40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類を含む培養培地に関する。
【0021】
典型的には、本発明による培養培地は、線維芽細胞増殖因子類(FGF類)、トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)、インスリン増殖因子類I(IGF類)、血小板由来増殖因子類(PGF類)、骨形成タンパク質類(BMP類)および血管内皮細胞増殖因子類(VEGF類)から成る群より選択される1種類以上の増殖因子類も含むことができる。
【0022】
1つの実施形態によれば、本発明は、骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類の培養のために、5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類を使用することに関する。
【0023】
1つの実施形態によれば、本発明は、骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類の群から選択される細胞類の培養方法に関し、前記細胞類が上記の培養培地中で培養されることを特徴とする。
【0024】
1つの実施形態によれば、本発明は、骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類の培養方法に関し、前記細胞類が上記の骨代用物上で培養されることを特徴とする。
【0025】
1つの実施形態によれば、本発明は、骨再生に対する活性を有する医療用具の製造のために、5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類を使用することに関する。
【0026】
典型的には、そのような医療用具は、骨の再生を促進し、例えば、病変、事故または外科処置による病巣後に起こる組織欠損を充填するために、整形外科手術、歯周手術および形成外科手術で使用することができる。
【0027】
そのような医療用具は、例えば、骨修復もしくは充填材として、骨移植片として、人工骨として、または、歯科もしくは骨関節インプラントとして使用することができる。
【0028】
そのような医療用具は、例えば、骨粗鬆症などの骨病変の治療に使用することができる。
【0029】
そのような医療用具は、例えば、フカン類を、好ましくは水和型で、例えばヒドロゲルの形態で、単独で、または、線維芽細胞増殖因子類(FGF類)、トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)、インスリン増殖因子類I(IGF類)、血小板由来増殖因子類(PDGF類)、骨形成タンパク質類(BMP類)および血管内皮細胞増殖因子類(VEGF類)から成る群より選択される1種類以上の増殖因子類との組合せとして含むことができる。
【0030】
フカン類を増殖因子と組合せることで、骨再生速度の増加が可能となる。
【0031】
好ましくは、本発明による医療用具は、水和型のフカン類と、BMP類、FGF類、TGF−ベータおよびVEGF類の群から選択される1種類以上の増殖因子類とを含む。
【0032】
典型的には、本発明による医療用具は、本発明による骨代用物を含むことができる。
【0033】
全引用文献の内容は、本詳細な説明の一部と見なすこととする。
【0034】
以下の例を使用して、本発明をさらに明確に以下に説明する。これらの例は、本発明の主題の例示として提示するにすぎず、いずれも、制約を設けるものではない。
【実施例】
【0035】
[材料および方法]
<フカン類の入手>
本発明で使用するフカン類は、既述の方法(Blackら、J.Sci.Food Agric.、3巻、122〜129頁、1952年に準拠、または、Nishinoら、Carbohyd.Res.、186巻,119〜129頁、1989年に準拠)に従ってPheophyceae、即ち褐藻類(Ascophyllum nodosum)から抽出する。使用する低分子量フカン類(LMWF)は、既述の方法によって入手する。即ち、制御された加水分解とそれに続く透過性ゲルでの分取分画法もしくはサイズ排除(欧州特許第0403377号、または、ラジカル解重合(欧州特許第0846129号および欧州特許第1207891号)によって得られる。
【0036】
<骨芽細胞の入手>
ヒト骨芽細胞は、骨折整復術中の手術ブロックで回収した骨折片に由来する。骨サンプルは、血液の細胞成分が除去されるまで、PBSで洗浄する。骨栓を3〜4mmの立方体に切断した後、培養皿に静置する。培養培地(DMEM 40%ウシ胎仔血清(FCS)、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)フンギゾン(2μg/ml))1滴を各外植片に配置し、培養皿のプラスチックに付着させる。次いで、当該培養皿をインキュベーター(37℃、空気(95%)/CO(5%))に1〜2時間入れる。次いで、20%FCSを含むDMEM培養培地で当該外植片を覆う。この培地は、3日置きに交換する。細胞は、外植片から遊走し、培養6日目以降、培養皿にコロニーを形成し、4週間の培養後、集密が達成され、次いで、培養皿から外植片を取り出す。
【0037】
<二次元骨芽細胞培養>
初代継代培養の集密骨芽細胞を24穴皿に細胞10000個/mlの割合で接種した後、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補った10%のFCSを含むDMEM培地中で24時間インキュベートする。細胞の付着、伝播後、培養培地をフカン類(10μg/ml)含有もしくは非含有の10%のFCSを含むDMEM培地に取り替える。次いで、これらの培養培地を3日置きに交換する。培養21日目に、骨芽細胞分化を完了させるために、β−グリセロホスフェート(10mM)とアスコルビン酸2−リン酸塩(25mM)を添加する。培養8、15、30および45日後、マトリクスメタロプロテアーゼの分泌を検討するため、培養上清を取り出す。細胞は、細胞カウンティングのためにトリプシン処理するか、無水エタノール(−20℃)で固定する。固定によって、その後、形態および免疫細胞化学検査が可能になる。
【0038】
<細胞培養用生体材料の調製>
生体材料は、骨梁間隙の清浄化と非コラーゲンタンパク質の除去によって得られるウシ由来の海綿骨網である。生体材料は、予め小断片に切断し(2mm×2mm)、これらの断片を無水エタノール中に48時間放置した後、37℃(空気/5%CO)の培養インキュベーター内、DMEM中で24時間インキュベートする。骨生体材料は、培養培地中、フカン類(50μg/ml)の存在下または不在下で再水和させる。
【0039】
<骨生体材料中の骨芽細胞の培養>
フカン類を含浸可能または含浸不可能な骨生体材料を含有する24穴培養皿(細胞20000個/穴)に正常ヒト骨芽細胞を接種する。これらの移植片を、DMEM、ウシ胎仔血清(10%)、アスコルビン酸(50μg/ml)、インスリン(5μg/ml)およびトランスフェリン(5μg/ml)から成る「石灰化」培養培地中で維持する。実験期間中、この培養培地は、3日置きに取り替える。培養10または30日後、このように得られる移植片を培養皿から取り出し、固定し、組織検査および走査電子顕微鏡検査用に調製する。
【0040】
<細胞のGIEMSA染色>
この染色法は、核および細胞質の可視化を可能にする。固定後、細胞を前濾過GIEMSA染料(Merck)で2分間被覆する。過剰の染料は、蒸留水で連続洗浄することによって除去する。
【0041】
<Von Kossa反応>
この反応は、培養物中のミネラル沈着物の可視化を可能にする。これらの沈着物は、黒色部分として現れる。固定後の二次元培養物を蒸留水で洗浄し、次いで、硝酸銀溶液(5%)中で30分間インキュベートする。当該材料は、蒸留水による洗浄後、日光に曝露する。
【0042】
<その場でのアルカリホスファターゼ活性の可視化>
前記細胞を、PBSで洗浄した後、緩衝液(Tris−HCl(0.05M)、pH=9.5、MgSO(0.1%)、ナフチルリン酸塩(0.1%)、ファーストレッド(0.1%))中、周囲温度で1時間インキュベートする。上清を除去し、各穴を蒸留水で2〜3回洗浄する。アルカリホスファターゼ活性陽性部分は、褐色に見える。
【0043】
<I型コラーゲンの免疫検出>
細胞もしくは骨生体材料切片を、PBSで洗浄し、次に、CHOH(80%)/H(20%)溶液中で10分間インキュベートし、内在パーオキシダーゼを不活性化する。穴もしくは切片をPBSで洗浄し、次いで、非特異的抗原部位をブロックする(0.1%スキムミルク、10分)。洗浄後、当該材料をマウス抗ヒトコラーゲンIgG(Sigma、1/40th)とともに1時間インキュベートする。洗浄後、当該材料は、さらに、マウスIgG(1/60th)(Calbiochem)に対するパーオキシダーゼ標識ヤギ抗体とともにインキュベートする。洗浄後、3,3’−ジアミノベンジデン四塩酸塩(Sigma)との反応(15分、暗所)によって、I型コラーゲン含有部分のパーオキシダーゼ活性を検出する。
【0044】
<走査電子顕微鏡検査>
10および30日目に、骨生体材料を4%パラホルムアルデヒドで固定する。生体材料は、PBSで洗浄し、2%四酸化オスミウムで45分間後固定した後、カコジル酸ナトリウム浴で3回連続洗浄し、次いで、エタノール溶液から無水エタノールまでを使って脱水する。装置中、臨界点で、液体COによるアルコールの置換を実施する。走査電子顕微鏡検査によるサンプルの至適観察に必要な表面伝導層を得るために、真空下、陰極スプレー法によってサンプル表面の金被覆を実施する。
【0045】
[結果]
<二次元培養>
骨外植片由来細胞は、培養でその真の骨芽細胞表現型を獲得する前骨芽細胞であると考えられる。この最終分化は、増殖期、マトリクス合成期、ならびに、最後に成熟および石灰化期に相当する数期後に起こる。増殖期の終了は、集密後、三次元細胞外マトリクス中の成熟骨芽細胞から成る小結節の出現を特徴とする。I型コラーゲンの合成は、これらの小結節が形成される時点で最大に達し、次いで、急速に減少する。成熟期は、アルカリホスファターゼ(AP)の発現増加を特徴とし、当該発現は、石灰化期開始時に最高点に達する。次いで、骨芽細胞の最終分化とともに、APの発現が減少する。
【0046】
<二次元培養物中での骨芽細胞の増殖>
培養培地へのフカン類の添加は、骨芽細胞の増殖を顕著に刺激する(30日目に+45%、45日目に+60%、図1参照)。
【0047】
<アルカリホスファターゼ>
培養物中の骨芽細胞によるアルカリホスファターゼ(AP)の発現速度論によって、分化経路に沿った当該細胞の進行を評価することができる。培養物中のアルカリホスファターゼの出現は、骨芽細胞分化の開始を特徴付けているが、成熟骨芽細胞は、この酵素をもはや発現しない。
【0048】
対照培養物中のAPの発現は、培養15日以降に認められ(図2a)、45日目に最大となる(図2d)。この発現は、フカン類(10μg/mL)の存在下でインキュベートした培養物中でははるかに早まる(図3a、3b、3c参照)。事実、フカン類の存在下では、APの発現は、8日間の培養以降に認められ(図3a)、15日後に最大に達し(図3b)、30日目に観察した培養物中で明らかに減少した(図3c)。フカン類存在下での培養45日後には、AP発現は、もはや観察できない。それは、ミネラル沈着物が、事実上、培養皿全体を覆っているからである。
【0049】
<I型コラーゲンのVon Kossa反応および免疫検出>
Von Kossa反応は、培養物中の骨芽細胞が分泌する細胞外マトリクスの石灰化状態の評価を可能にする(図4)。45日目の対照培養物中に、若干の石灰化小結節が検出される(図4c)が、これらの同小結節は、フカン類存在培養物中では、30日以降に認められる(図4b)。培養45日目では、多糖とともにインキュベートした骨芽細胞が発現する細胞外マトリクスは、事実上、完全に石灰化される(図4d)。
【0050】
45日後、対照培養物またはフカン類とともにインキュベートした培養物の細胞外マトリクス中にI型コラーゲンの存在が検出される(図5)。対照培養物中のこの線維状コラーゲン沈着物は、非石灰化網もしくはほぼ非石灰化網を形成し、細胞伸長に密接に関連する(図5a)。フカン類処理培養物中のI型コラーゲンの検出は、Von Kossa反応後に認められるミネラル沈着物に相当する稠密沈着物を伴うコラーゲン網を示す(図5b)。
【0051】
<ゼラチナーゼA(MMP−2)およびコラゲナーゼ3(MMP−13)の発現>
培養物中の骨芽細胞は、MMP−2およびMMP−13を発現する。MMP−2は、特に、培養開始時に発現されるが、MMP−13は、分化終了時に骨芽細胞によって発現される。当該培養物へのフカン類の添加は、骨芽細胞によるゼラチナーゼAの発現を明らかに減少させるが、MMP−13の誘導発現は、骨芽細胞系における当該細胞の分化促進の表れである。
【0052】
[結論]
培養培地へのフカン類の添加は、骨芽細胞系の分化を促進する。
【0053】
<三次元培養>
[走査電子顕微鏡検査]
走査電子顕微鏡検査は、生体材料の高分子構造、さらに、骨芽細胞によるそのコロニー形成の観察することを可能にする。
【0054】
<無細胞生体材料>
骨芽細胞を接種しない生体材料を観察すると、フカン類前処理が、骨生体材料の限外構造を変化させないことを示している(図6a、6b)。
【0055】
<骨芽細胞接種生体材料>
培養10日目、細胞は、フカン類を含浸した、または、含浸しない生体材料の表面に付着する。これらの細胞は、平坦な細胞体を有し、これが、コラーゲン網に付着し、ここから、細長い仮足が伸び、細胞外マトリクスへの付着を完成することができる(図7)。
【0056】
30日間の培養後、対照生体材料と、フカン類を含む生体材料の細胞充実度は、10日後に観察されるものよりもはるかに高く、これは、実際にコラーゲンマトリクス内部での骨芽細胞の増殖を意味する(図8)。さらに、培養30日目には、フカン類を含む生体材料の細胞密度(図8b)は、未処理生体材料で観察されるものよりもはるかに高い(図8a)。事実、フカン類なしでは、骨芽細胞(図8a)は、当該生体材料の全体積を占有せず、当該生体材料の細孔が見える。フカン類含浸後、生体材料は、高い細胞密度を示し、細孔は、大部分、細胞によって塞がれている(図8b)。骨芽細胞は、これらの細孔深くにコロニーを形成し、その縁の両側に架橋を形成する(図9)。
【0057】
細胞と接触するフィラメント状細胞外物質の存在が認められる。これは、骨芽細胞による原線維状細胞外マトリクスの分泌に相当する。さらに、骨芽細胞およびフィラメント状細胞外マトリクスと接触する球状細胞外物質の存在が認められる(図10b)。これは、石灰化マトリクスに相当する。
【0058】
[結論]
骨生体材料のフカン類含浸は、細胞付着を変化させない。
【0059】
骨生体材料のフカン類含浸は、骨芽細胞増殖を刺激する。
【0060】
骨生体材料のフカン類含浸は、骨芽細胞が分泌する細胞外マトリクスの石灰化を促進する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、フカン類の存在下および不在下における、時間の関数としての骨芽細胞数の変化を示す。
【図2】図2a、2b、2cおよび2dは、アルカリホスファターゼ活性が検出される骨芽細胞の対照培養物の写真を表し、図2a、2b、2cおよび2dは、それぞれ、培養8、15、30および45日後に撮影された写真を表す。
【図3】図3a、3b、3cは、10μg/mlのフカン類の存在下で実施された骨芽細胞培養物の写真を表し、最終的に、培養物中の細胞にアルカリホスファターゼ活性が検出され、図3a、3bおよび3cは、それぞれ、培養8、15および30日後に撮影された写真を表す。
【図4】図4a、4b、4c、4dは、骨芽細胞の対照培養物(図4aおよび4c)、10μg/mlのフカン類の存在下で実施された骨芽細胞培養物(図4bおよび4d)の写真を表し、培養物中の細胞の固定後、最終的に実施されたVon Kossa反応によってミネラル沈着物が可視化されており、図4aおよび4bは、培養30日後に撮影された写真を表しており、図4cおよび4dは、培養45日後に撮影された写真を表す。
【図5】図5a、5bは、骨芽細胞の対照培養物(図5a)、10μg/mlのフカン類存在下の骨芽細胞培養物(図5b)の写真を表し、培養45日後、培養物中の細胞に対してI型コラーゲンの免疫検出が実施される。
【図6】図6aおよび6bは、対照無細胞生体材料(図6a)またはフカン類含浸無細胞生体材料(図6b)の走査電子顕微鏡検査(SEM)によって得られた画像を表す。
【図7】図7aおよび7bは、対照生体材料(図7a)またはフカン類を含浸させ、そこで骨芽細胞を10日間培養した生体材料(図7b)の走査電子顕微鏡検査(SEM)によって得られた画像を表す。
【図8】図8aおよび8bは、対照生体材料(図8a)またはフカン類を含浸させ、そこで骨芽細胞を30日間培養した生体材料(図8b)の走査電子顕微鏡検査(SEM)によって得られた画像を表す。
【図9】図9は、フカン類を含浸させ、そこで骨芽細胞を30日間培養した生体材料の深さを示す画像を示す。
【図10】図10aおよび10bは、対照生体材料(図10a)またはフカン類を含浸させ、そこで骨芽細胞を10日間培養し、当該細胞によって分泌された細胞外マトリクスを示す生体材料(図10b)の走査電子顕微鏡検査(SEM)によって得られた画像を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量を有するフカン類を含み、骨再生活性を有する骨代用物。
【請求項2】
前記フカン類が褐藻から得られることを特徴とする請求項1に記載の骨代用物。
【請求項3】
生体材料を含む請求項1および2のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項4】
前記生体材料が、チタン、コラーゲン、除タンパクおよび/または脱灰骨、サンゴ、リン酸カルシウムセラミック、ヒドロキシアパタイト、ベータ−リン酸三カルシウムおよび生体活性ガラス類から成る群より選択される1種類以上の材料を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項5】
線維芽細胞増殖因子類(FGF類)、トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)、インスリン増殖因子類I(IGF類)、血小板由来増殖因子類(PDGF類)、骨形成タンパク質類(BMP類)および血管内皮細胞増殖因子類(VEGF類)から成る群より選択される1種類以上の増殖因子類も含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項6】
インターロイキン1、インターロイキン4、インターロイキン6、腫瘍壊死因子アルファ、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子およびマクロファージコロニー刺激因子から成る群より選択される1種類以上のサイトカイン類も含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項7】
前記生体材料の表面が前記フカン類を含むコーティングを有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項8】
前記生体材料に前記フカン類を含浸させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項9】
骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類も含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の骨代用物。
【請求項10】
前記生体材料の表面を、前記フカン類を含むコーティングで覆うことを特徴とする請求項7に記載の骨代用物の調製方法。
【請求項11】
前記生体材料に前記フカン類を含浸させることを特徴とする請求項8に記載の骨代用物の調製方法。
【請求項12】
骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類と共に請求項1ないし8のいずれか一項に記載の骨代用物のコロニー形成を実施することを特徴とする請求項9に記載の骨代用物の調製方法。
【請求項13】
骨髄、骨または骨膜に由来する前記骨形成細胞類を、5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類を含む培養培地中で培養することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類を含み、骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類から成る群より選択される細胞型用の培養培地。
【請求項15】
線維芽細胞増殖因子類(FGF類)、トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)、インスリン増殖因子類I(IGF類)、血小板由来増殖因子類(PDGF類)、骨形成タンパク質類(BMP類)および血管内皮細胞増殖因子類(VEGF類)から成る群より選択される1種類以上の増殖因子類も含むことを特徴とする請求項14に記載の培養培地。
【請求項16】
細胞を請求項15または16に記載の培養培地中で培養することを特徴とする、骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類の群から選択される細胞の培養方法。
【請求項17】
細胞を請求項1ないし9のいずれか一項に記載の骨代用物上で培養することを特徴とする骨髄、骨または骨膜に由来する骨形成細胞類の群から選択される細胞の培養方法。
【請求項18】
5000および100000g/molの間、特に10000および40000g/molの間の重量平均モル質量のフカン類を含み、骨再生活性を有する医療用具。
【請求項19】
線維芽細胞増殖因子類(FGF類)、トランスフォーミング増殖因子類(TGF類)、インスリン増殖因子類I(IGF類)、血小板由来増殖因子類(PDGF類)、骨形成タンパク質類(BMP類)および血管内皮細胞増殖因子類(VEGF類)から成る群より選択される1種類以上の増殖因子類を含む請求項18に記載の医療用具。
【請求項20】
請求項1ないし9の一項に記載の骨代用物を含む請求項18または請求項19に記載の医療用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−527306(P2009−527306A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555834(P2008−555834)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000310
【国際公開番号】WO2007/096519
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(503400455)ユニベルシテ・ルネ・デカルト・パリ 5 (6)
【出願人】(508255056)
【Fターム(参考)】