説明

骨を再建するための細胞ベースの方法及び手段

本発明は、骨欠損部位に骨芽細胞を誘引し、好ましくは血管細胞も誘引することによって骨再建を誘発するために、インビトロ単離破骨細胞又はインビトロ分化破骨細胞を、特にインビボ適用によって、骨再建に使用することに関する。破骨細胞は、走化性因子を分泌し、骨欠損部位に骨芽細胞及び血管細胞を誘引することによって、骨再建を制御できることが、本発明者らによって見出された。本発明は、さらに、骨再建に使用するための破骨細胞を含有する医薬製剤又は医療製品の製造を目的とする破骨細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨を再建(rebuilding)するための細胞ベースの方法及び手段を提供することにより、医学の分野、特に外科及び整形外科の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は身体の主要な構造支持体を形成する。骨は、主として、それを構成する骨組織によって、その安定性を獲得している。骨は、骨格の質量、形状及び物理的性質を維持するためにリモデリングを起こす。生涯を通して絶え間なく起こるこのプロセスには、骨を形成する骨芽細胞及び骨を吸収する破骨細胞という2つの主要細胞タイプが寄与している。骨リモデリングは、骨を形成する骨芽細胞と骨を消化する破骨細胞の間の緻密に調節された相互作用に頼っている。
【0003】
骨の形成と分解のバランスは正常時には緻密に制御されるが、病的状態では、又は加齢に伴って、調節が緩み、より多く分解する方向にシフトすることにより、骨粗鬆症が起こる(Teitelbaum S.L. (2000)「Bone resorption by osteoclasts」Science 289:1504-1508;Harada S.及びRodan G.A. (2003)「Control of osteoblast function and regulation of bone mass」Nature 423:349-355;Aguila H.L.及びRowe D.W. (2005)「Skeletal development, bone remodeling, and hematopoiesis」Immunol Rev 208:7-18)。この緻密なバランスは、骨芽細胞及び破骨細胞の分化並びにそれらが機能する位置へのそれらの遊走をコーディネートする機構の存在を暗示している。
【0004】
骨芽細胞は、成熟多核細胞への造血破骨細胞前駆体の分化、すなわち破骨細胞形成を制御する(Boyle W.J. et al. (2003)「Osteoclast differentiation and activation」Nature 423:337-342)。骨芽細胞は、破骨細胞前駆体の増殖に要求されるマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)と、その分化を誘発するTNFファミリーメンバーであるNF-κB活性化受容体リガンド(RANKL)とを発現させることにより、間質細胞と共同して、骨の分解を制御する(Teitelbaum S.L. (2000)「Bone resorption by osteoclasts」Science 289:1504-1508;Boyle W.J. et al. (2003)「Osteoclast differentiation and activation」Nature 423:337-342;Wagner E.F. (2002)「Functions of AP1 (Fos/Jun) in bone development」Ann Rheum Dis 61 Suppl 2:ii40-42;Kawamata A. et al. (2008)「JunD suppresses bone formation and contributes to low bone mass induced by estrogen depletion」J Cell Biochem 103:1037-1045;Bruzzaniti A.及びBaron R. (2006)「Molecular regulation of osteoclast activity」Rev Endocr Metab Disord 7:123-139;Teitelbaum S.L. (2007)「Osteoclasts: what do they do and how do they do it?」Am J Pathol 170:427-435)。
【0005】
破骨細胞は骨芽細胞機能を制御することができるという証拠もある。破骨細胞が発現させるエフリンB2と、骨芽細胞が発現させるそのエフリンB4受容体は、双方向シグナリングを可能にする(Zhao C. et al. (2006)「Bidirectional ephrinB2-EphB4 signaling controls bone homeostasis」Cell Metab 4:111-121)。エフリンB4を介した骨芽細胞へのシグナリングが骨原性の分化を強化するのに対し、エフリンB2を介した破骨細胞前駆体へのシグナリングは破骨細胞分化を抑制する。また、v-ATPase V0サブユニットD2は、破骨細胞融合に関与するだけでなく、骨芽細胞前駆体の成熟細胞への分化を阻害する未同定因子の破骨細胞による分泌も調節することが報告されている(Lee S.H. et al. (2006)「v-ATPase V0 subunit d2-deficient mice exhibit impaired osteclast fusion and increased bone formation」Nat Med 12:1403-1409)。
【0006】
発生の際には、骨芽細胞は、骨で置き換えられることになる軟骨に定着しなければならない。成人期には、骨リモデリング及び骨修復が、再建される必要がある骨領域への骨芽細胞の遊走を要求する。後者のプロセスは、MSC(間葉系幹細胞)と一緒に存在するそれらの前駆体が、骨髄のニッチに動員されることも要求する(Li L.及びXie T. (2005)「Stem cell niche: structure and function」Annu Rev Cell Dev Biol 21:605-631;Yin T.及びLi L. (2006)「The stem cell niches in bone」J Clin Invest 116:1195-1201)。組換えタンパク質として使用される多くの増殖因子、特にBMP、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)及び白血病抑制因子(LIF)は、骨芽細胞及びその前駆体を含むさまざまな細胞タイプに対して、インビトロ走化性活性を示すことが明らかにされている(Fiedler J. et al. (2004)「To go or not to go: Migration of human mesenchyal progenitor cells stimulated by isoforms of PDGF」J Cell Biochem 93:990-998;Mayr-Wohlfart U. et al. (2002)「Vascular endothelial growth factor stimulates chemotactic migration of primary human osteoblasts」Bone 30:472-477)。
【0007】
いくつかの増殖因子、例えば、それぞれ骨芽細胞及び内皮細胞の化学誘引物質として作用する血小板由来成長因子PDGFや血管内皮増殖因子VEGFは、骨再建プロセスに有利に働くことがわかっている。骨形成タンパク質BMPなど、他のいくつかは、骨格発生を調節するキー因子である。したがって、これらの増殖因子は、生体材料の性質及び機能性をさらに改良するために使用されてきた。他のいくつかも、骨手術において、可溶性成分として応用されている。組換えタンパク質として入手することができるBMPは、さまざまな臨床応用について登録されている。米国では、これらのタンパク質の発見から17年経った2007年の3月以降、OP1因子が整形外科的応用について登録され、BMP2は口腔、顎顔面及びインプラント学的応用について登録されている。他にも骨誘導効果を持つ組換えBMP2及びBMP7含有製剤がある(InductOs、INFUSEbonagraft、Osigraft)。したがって、骨再建に有利に働く増殖因子の供給源としての破骨細胞の使用は、代替解決策になる。
【0008】
これらの成長因子は、患者における骨の再成長/再建/リモデリングを増強するために使用できる可能性がある。骨は、そのような骨の再建を必要なものにし得る影響を、数多く受ける。骨は、骨折につながる機械的応力の結果として、破損を起こし得る。肉腫のような原発性悪性骨腫瘍(骨肉腫、ユーイング肉腫)又は他の組織における腫瘍から派生する続発性転移は、骨組織を破壊(骨溶解)する場合があり、しばしば外科的に除去する必要がある。細菌、ウイルス又は真菌による骨組織の感染は、骨髄炎と、それに続く骨の破壊につながり得る。抜歯又は歯の喪失は、顎骨が後退する原因になって、インプラント又は義歯の固定を妨げる場合がある。
【0009】
しかし、いくつかの組換え成長因子は、最初は期待されていたものの、骨成長の誘導物質としての能力は低いことが判明した。VEGFは、骨再建には有効性の低い因子の一例であり、それはおそらく、これらの増殖因子を吸収し、生体材料を「機能化」するために使用される化学的方法のせいであると思われる。そのような組換えタンパク質の応用に関係する技術的及び科学的問題に加えて、高いコストも、依然として、臨床応用を広く普及させるための大きな障害である。
【0010】
骨を構築する骨芽細胞は、今のところ、インビトロでは、大手術による骨髄からの間葉系幹細胞の単離によってしか、得ることができない。これは、骨腫瘍などの深刻な疾患の関与によって既に悩んでいる患者に、余分な負担を強いることになる。
【0011】
課題は、おそらく、増殖因子及び細胞を、それらを必要としている場所にターゲティングすることである。
【0012】
骨基質中のどの細胞タイプが骨再建細胞を誘引できる因子を分泌するのか、どの増殖因子がこの状況において機能することができるのか、そして骨再建細胞の遊走がどのように骨消化とコーディネートされるのかは、まだよくわかっていない。
【0013】
そのような細胞とそれらが使用する因子の同定は極めて望ましい。なぜなら、それらは、骨材料の再建が要求される、例えば骨損傷、骨折などの部位に、骨芽細胞を誘引するために使用することができるからである。
【0014】
骨疾患は我々先進諸国における大きな健康問題の一つになりつつある。いくつかの医学分野に応用することができる難易度の高い骨手術に相当する骨移植を要求する骨格欠損の症例は、毎年およそ100万例ある。例えば、我々の集団に見られる2つの主要ながんタイプ(乳がん及び前立腺がん)は骨転移と罹患骨の骨折をもたらす。骨粗鬆症による骨折は既に世界中で毎年何百万例も報告されており、人口構造の変化から骨粗鬆症性骨折の劇的な増加が予測されている。
【0015】
したがって、骨を再建するための新規な方法を開発することが、今なお必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Teitelbaum S.L. (2000) Science 289:1504-1508
【非特許文献2】Harada S.及びRodan G.A. (2003) Nature 423:349-355
【非特許文献3】Aguila H.L.及びRowe D.W. (2005) Immunol Rev 208:7-18
【非特許文献4】Boyle W.J. et al. (2003) Nature 423:337-342
【非特許文献5】Wagner E.F. (2002) Ann Rheum Dis 61 Suppl 2:ii40-42
【非特許文献6】Kawamata A. et al. (2008) J Cell Biochem 103:1037-1045
【非特許文献7】Bruzzaniti A.及びBaron R. (2006) Rev Endocr Metab Disord 7:123-139
【非特許文献8】Teitelbaum S.L. (2007) Am J Pathol 170:427-435
【非特許文献9】Zhao C. et al. (2006) Cell Metab 4:111-121
【非特許文献10】Lee S.H. et al. (2006) Nat Med 12:1403-1409
【非特許文献11】Li L.及びXie T. (2005) Annu Rev Cell Dev Biol 21:605-631
【非特許文献12】Yin T.及びLi L. (2006) J Clin Invest 116:1195-1201
【非特許文献13】Fiedler J. et al. (2004) J Cell Biochem 93:990-998
【非特許文献14】Mayr-Wohlfart U. et al. (2002) Bone 30:472-477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、骨を再建するための方法及び手段を提供することが、本発明の目的である。
【0018】
驚いたことに、本発明者らは、破骨細胞が、走化性因子を分泌し、骨欠損部位に骨芽細胞及び血管細胞を誘引することによって、骨再建を制御できることを見出した。ここに本発明者らは、成熟破骨細胞は骨再建及び/又は骨血管新生に関与することができるいくつかの増殖因子を分泌するが、それらの前駆体はそうではないことを見出した。成熟破骨細胞によって分泌される増殖因子は、骨芽細胞の走化性を調節し、よって骨芽細胞及び血管細胞を骨欠損部位に誘引する。特に、成熟破骨細胞はPDGF-bbを分泌し、それが、骨芽細胞の表面にあるPD3F/PDGF受容体β(PDGFR-β)によって認識されて、骨芽細胞の走化性を調節することが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0019】
したがって、上記の課題は、骨欠損部位に骨芽細胞を誘引し、好ましくは血管細胞も誘引することによって骨再建を誘発するために、インビトロ単離破骨細胞又はインビトロ分化破骨細胞を、特にインビボ適用によって、骨再建に使用することにより、解決される。もう一つの目的は、骨再建用又は骨欠損処置用の医薬製剤又は医療製品を製造するために破骨細胞を使用することである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
破骨細胞は、本発明では、骨芽細胞又はその前駆体(間葉系間質細胞)並びに他の細胞タイプに作用する走化性因子又は増殖因子を生産するための天然の工場として使用され、骨が修復される必要がある場所へのそれらの化学誘引に有利に働く。したがって組換え増殖因子そのものを生産する必要はない。
【0021】
本明細書において骨再建(bone building)とは、新しい骨材料の形成を指す。骨再建という用語は、特に、骨折(亀裂並びに骨粗鬆症性骨折を含む)、骨格欠損、がん、手術、骨疾患によるかもしくは他の原因による骨の喪失が起こった場合に必要になる、骨のリモデリング、修復及び再生を包含する。この用語は骨萎縮が起こった場合の骨リモデリングも包含する。一例は、1本又は数本の歯を失った後に起こる顎骨の萎縮である。
【0022】
破骨細胞が骨の分解に関与することは以前から知られていたが、破骨細胞が新しい骨材料を形成させるための手段として機能し得ること、そしてそれが、骨が再建される必要がある部位に骨を再建する骨芽細胞を誘引することのできる因子を分泌するという破骨細胞の能力によるものであることが、これまでの技術水準において記載されたことは決してなかった。
【0023】
骨欠損(bone defect)という用語は、損傷を受けた任意の骨又は少なくとも部分的に機能を失った任意の骨を包含し、これには骨折が含まれるだけでなく、収縮又は萎縮した骨も含まれる。
【0024】
破骨細胞という用語は、本発明では、インビトロ単離細胞、細胞株、そして最も好ましくはインビトロ分化細胞を包含する。
【0025】
破骨細胞の使用は、有利なことに、骨再建に使用することができる細胞を得るための簡単で非侵襲的な方法を可能にする。
【0026】
骨芽細胞とは対照的に、破骨細胞は、血液プローブ(blood probe)から始めて、特に患者の血液から単核球、好ましくはマクロファージのような単球を単離することから始めて、インビトロ分化により、容易に得ることができる。単球を使用すれば、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)及びNF-κB活性化受容体リガンド(RANKL)を細胞培養培地に加えることにより、破骨細胞をインビトロで容易に得ることができる。
【0027】
M-CSFが破骨細胞前駆体(単球、マクロファージ)の増殖を制御するのに対し、NF-κB活性化受容体リガンド(RANKL)は、破骨細胞前駆体の、成熟した機能的破骨細胞への分化を制御する。この分化プロセスは、現在では、組換えM-CSF及びRANKLを使ってインビトロで迅速に再現することができる。
【0028】
血液試料の取得は患者に大きなストレスを与えることなく手早く行われ、500mlの血液があれば、5日未満で5〜10mgの破骨細胞を得るのに十分である。
【0029】
したがって本発明の好ましい目的は、単離された自己前駆細胞から(したがって、処置されるべき患者から数日前に単離された細胞から)出発して得られる破骨細胞の使用である。これらの前駆細胞は、好ましくは、その患者の血液試料から得られた単核球である。細胞を収集するには、ドナーの静脈から(末梢静脈から、又は中心静脈カテーテルを介して)血液を採取し、標準的手法で単核球を単離する(これはアフェレーシスによって行うこともできる)。アフェレーシスによる単離には、赤血球及び血漿をドナーに戻すことができるという利点がある。
【0030】
したがって本発明は、有利なことに、非侵襲的な、骨再建のための自己細胞ベースの戦略を提供する。本発明の基礎にある思想は、患者身体の内在性骨修復系を活性化し、骨欠損部位にそれを動員することである。
【0031】
本発明の使用では、破骨細胞が患者に局所投与される。破骨細胞は、好ましくは、骨欠損の近傍に投与される(すなわち、骨欠損部位に直接投与されるか、その近くに投与される)。本発明によれば破骨細胞の機能は、他の細胞、特に骨芽細胞及び/又はその前駆体を動員することであるから、有利なことに、破骨細胞を骨欠損領域(本明細書では骨欠損部位ともいう)に正確に適用する必要はない。骨欠損部位への動員は、破骨細胞が近くに投与された場合にも機能する。
【0032】
驚いたことに、破骨細胞は、走化性因子及び増殖因子を分泌して骨欠損部位に骨芽細胞を誘引し、好ましくは血管細胞も誘引するために、他の細胞とのクロストークを何も必要としない。したがって本発明によれば、破骨細胞は、他の細胞を何も添加せずに適用することができる。特に、骨芽細胞の添加は本発明では必要ない(骨芽細胞はインビボで動員されるからである)。破骨細胞製剤には組換え増殖因子又はケモカインの添加も必要ない。したがって破骨細胞製剤は、好ましくは、組換え増殖因子又はケモカインを含有しない。ただし、成熟破骨細胞を得るために使用された痕跡量のRANKL及びM-CSFは含有する場合がある。
【0033】
本発明には、骨再建に使用するための、破骨細胞を含有する医薬製剤又は医療製品も含まれる。本発明には、さらに、骨再建用及び/又は骨欠損処置用の医薬の製造における破骨細胞の使用も含まれる。
【0034】
破骨細胞は、好ましくは、懸濁液の形で投与されるか、欠損した骨を再構築するために使用される(ヒドロゲル又はキセロゲルのような)ゲル若しくは骨セメント又はインプラントに包埋される。
【0035】
本発明には、さらに、骨欠損を持つ対象(好ましくは哺乳動物)を処置するための方法であって、以下の段階:
a)前記対象から血液を単離し、単球を濃縮する段階と、
b)単球を(上述のように)破骨細胞に分化させる段階と、
c)工程b)で得られた破骨細胞を前記対象の骨欠損領域又はその近くに適用する段階と
を伴う方法が含まれる。
【0036】
工程c)で適用される破骨細胞は骨芽細胞及び血管細胞を骨欠損部位に誘引する。次に、その骨芽細胞及び血管細胞が骨基質を再建する。
【0037】
以下の図面及び実施例によって本発明をさらに例証するが、本発明はそれらに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】破骨細胞によって分泌された因子に対する骨芽細胞及び骨芽細胞前駆体の走化性応答を表す。Raw264.7細胞(白い四角形又はカラム)及び由来破骨細胞(黒い丸又はカラム)の条件培地に応答するマウスプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞(A)及び由来骨芽細胞(分化MC3T3-E1)(C)の遊走指数。初代破骨細胞及びその前駆体の条件培地によるプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞(B)及び由来骨芽細胞(D)の走化性。比較のために、2日間及び4日間の分化後に収集されたRaw264.7細胞及び由来破骨細胞から得られる条件培地の走化性活性を示す。3重に行った4つの独立した実験の平均値±S.D.が示されている。ANOVA検定で0.05以下のP値を有意とみなし、アスタリスク(*)で印を付けた。
【図2】破骨細胞によって分泌されたPDGF-bbが骨芽細胞の走化性を誘発することを示す。Raw264.7細胞由来破骨細胞におけるPDGF-bb(A)、VEGFc(C)及びLIF(E)のノックダウン効率を、定量RT-PCRによって決定した。ノックダウン効率はそれぞれ74%、71%及び70%だった(p<0.00001、ANOVA)。対照siRNAで処理されたRaw264.7細胞由来破骨細胞(白い四角形)又はPDGF-bb(B)、VEGFc(D)及びLIF(F)の発現がサイレンシングされたRaw264.7細胞由来破骨細胞(黒い丸)の条件培地の異なる希釈液によるプレ骨芽細胞性MC3T3細胞の化学誘引(p<0.0001、ANOVA)。Bにおける■は、破骨細胞におけるPDGF-bbノックダウンのレスキューを示す。すなわち、siRNA処理した破骨細胞の条件培地に10ng/mlの組換えヒトPDGF-bbを補足した。データポイントは5つの実験の平均を表す。
【実施例】
【0039】
実施例1:破骨細胞は骨芽細胞を誘引する因子を分泌する
細胞株は全てATCC(米国メリーランド州ロックビル)から入手した。マウスプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞は、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FCS)を補足したα-MEMで維持した。マウス骨髄性Raw264.7細胞は、10%熱不活化FCSを補足した高グルコースDMEMで培養した。初代破骨細胞前駆体は8週齢C57BL/6Jマウスの長骨の骨髄から得た。密度勾配(Eurobio)上で精製した後、それらを、10%熱不活化FCSを補足したα-MEMで培養した。可溶性組換えRANKLはAbcys(フランス国パリ)から入手するか、以前記述されたようにピキア(Pichia)酵母中で生産させた(Czupalla C. et al. (2006)「Proteomic analysis of lysosomal acid hydrolases secreted by osteoclasts: implications for lytic enzyme transport and bone metabolism」Mol Cell Proteomics 5:134-143)。組換えヒトPDGF-bbはPeproTech EC(英国ロンドン)から入手し、ヒト組換えM-CSFはProspec Tany TechnoGene(イスラエル国レホヴォト)から入手した。
【0040】
破骨細胞がインビトロで骨芽細胞にシグナルを伝達できることを示すために、破骨細胞形成又は骨芽細胞形成の細胞系を使用した。まず最初に、Czupalla C. et al. 2006に記述されているように、マウス単球/マクロファージ様Raw264.7細胞を破骨細胞形成性サイトカインRANKLで刺激して、成熟破骨細胞へとインビトロで分化させた。マウス骨髄から得た初代破骨細胞前駆体と、M-CSF及びRANKLの存在下で分化させることによって得た由来破骨細胞(Bonnelye E. et al. (2008)「Dual effect of strontium ranelate: stimulation of osteoblast differentiation and inhibition of osteoclast formation and resorption in vitro」Bone 42:129-138)も使用した。
【0041】
破骨細胞の条件培地を24時間ごとに収集し、遠心分離し、20mM HEPES pH7.2で緩衝化し、さらに使用するまで-80℃に保った。
【0042】
第2に、α-MEM中に10-7Mデキサメタゾン、50μg/mlアスコルビン酸及び10mMβ-グリセロリン酸を含有する化学薬品カクテルで約15日間刺激すると成熟骨芽細胞へとインビトロで分化する、マウスプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞を使用した。
【0043】
Raw264.7細胞又はRaw264.7由来破骨細胞の条件培地がプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞又はMC3T3-E1細胞由来骨芽細胞を誘引できるかどうかを調べるために、ボイデンチャンバーアッセイを使って走化性を測定した。図1Aは、MC3T3-E1細胞に対するRaw264.7細胞の走化性活性がかなり低いことを示している。しかし、それらの走化性活性は、それらをRANKLで刺激して破骨細胞に向かって分化させると、時間と共に増加した。
【0044】
4日間のRANKL誘導分化後に、Raw由来破骨細胞の条件培地は、Raw264.7細胞(白い四角形)及び由来破骨細胞(黒い丸)の条件培地に応答して起こるマウスプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞の遊走指数によって示されるとおり(図1A)、MC3T3-E1細胞に対して明確な走化性活性を示した。この活性は、初代破骨細胞及びそれらの前駆体の条件培地によるプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞の走化性によって示されるとおり(図1B)、M-CSF及びRANKLで刺激された骨髄前駆体に由来する破骨細胞の条件培地でも観察された。
【0045】
Raw264.7由来破骨細胞の条件培地はMC3T3-E1由来骨芽細胞に対しても走化性活性を示したが、Raw264.7細胞(白い四角形)及び由来破骨細胞(黒い丸)の条件培地に応答して起こる由来骨芽細胞(分化MC3T3-E1)の遊走指数(C)によって示されるとおり、その程度は低かった(図1C)。成熟破骨細胞条件培地の走化性指数は、プレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞に対しては、MC3T3-E1細胞由来骨芽細胞と比較して、2倍高かった。同様の結果が骨髄前駆体に由来する初代破骨細胞の条件培地でも得られた(図1D)。
【0046】
これらの結果は、Raw264.7細胞又は初代骨髄前駆体に由来する破骨細胞が、骨芽細胞前駆体を(そして、それより程度は低いが、成熟骨芽細胞を)誘引することができる走化性因子を分泌する能力を、その分化中に獲得することを証明している。
【0047】
実施例2:破骨細胞によって分泌されるPDGF-bbは骨芽細胞走化性を媒介する
成熟破骨細胞によって分泌される走化性因子を同定するために、siRNAに基づく戦略を使用した。Raw264.7由来破骨細胞を、まず最初に、siRNAプローブの存在下でエレクトロポレートした。これを行うために、Raw264.7細胞をRANKLの存在下で破骨細胞に分化させた。2〜3日後に、0.5mM EDTAを含有するPBS中でインキュベートすることによって、それらを剥離した。事前設計されたステルスRNAi二重鎖又はスクランブルステルスRNAi二重鎖を、破骨細胞中にエレクトロポレートした。エレクトロポレートされた細胞を、RANKLを補足した培地に再懸濁し、48時間培養維持した。
【0048】
条件培地を収集し、全RNA単離及びタンパク質決定のために破骨細胞を処理した。マウスプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞又は化学的に分化させた骨芽細胞に、トランスフェクション試薬としてInterferinを使用して、ステルスsiRNA二重鎖オリゴヌクレオチドをトランスフェクトした。48時間後に細胞を収集し、サイレンシング効率を定量RT-PCRによって決定した。全RNAを単離し、DNaseI処理したRNAを逆転写した。定量RT-PCRは、Stratagene Mx4000 QPCRシステムとBrilliant SYBR Green QPCRキットとを使用し、製造者の指示に従って行った(Stratagene、カリフォルニア州ラホーヤ)。定量RT-PCR解析は3重に行い、GAPDHを使ってCt値を正規化した。
【0049】
siRNA処理した破骨細胞の条件培地を、それらの走化性活性について調べた。走化性応答は、48穴ボイデン・マイクロケモタクティック・チャンバーを使って、3重に測定した(Falk W. et al. (1980)「A 48-well micro chemotaxis assembly for rapid and accurate measurement of leukocyte migration」J Immunol Methods 33:239-247)。装置の下側のウェルを、20mM HEPES pH7.2を含有するα-MEM中の増殖因子又はRaw264.7細胞若しくは由来破骨細胞から得た条件培地で満たし、5μmの細孔を持つポリカーボネートメンブレン(NeuroProbe Inc.、米国メリーランド州ゲイサーズバーグ)で覆った。50μlのα-MEMに入っている細胞(0.35×105個のMC3T3-E1、0.45×105個の分化骨芽細胞又は0.25×105個の7F2細胞)を、上側のウェルに加えた。37℃で3.5時間インキュベートした後、メンブレンを取り出した。上側表面上の細胞をやさしくこすり取ることによって捨て、メンブレンの反対側に遊走した細胞を、3%パラホルムアルデヒドで固定し、トルイジンブルー(Sigma、ドイツ)で染色し、計数した。走化性指数(CI)は、所与の条件下で遊走する細胞の平均数と対照条件下で遊走する細胞の平均数との比を表す。
【0050】
図2に示すように、PDGF-bb、VEGFc又はLIFのsiRNAによる効率のよい枯渇(約80%)を、Raw由来破骨細胞で達成することができた。
【0051】
Raw由来破骨細胞におけるPDGF-bb発現量を低下させると、試験した各濃度において、プレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞を誘引するというその条件培地の能力が、約50%低下した。siRNA処理した破骨細胞の条件培地によるプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞の残存走化性活性は、おそらく、これらの細胞が依然として分泌する少量のPDGF-bbが存在することを、反映している。
【0052】
また、PDGF-bbノックダウン後に起こる走化性活性のこの喪失は、組換えPDGF-bbの添加によってレスキューされ、非siRNA処理破骨細胞の条件培地と同じ走化性活性に達することができた(図2B)。対照的に、VEGFc発現量又はLIF発現量を80%低下させても、MC3T3-E1細胞の走化性には何も影響がないままだった(図2C〜F)。組換えCCL9、IL1ra及びTwgs1はMC3T3-E1細胞の走化性活性を変化させなかったので(データ未掲載)、これらはそれ以上考慮しなかった。本発明者らは、これらの結果から、Raw264.7由来破骨細胞によって分泌されるPDGF-bbはプレ骨芽細胞性MC3T3-E1細胞に対して強力な走化性剤として作用すると結論づける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨再建(bone rebuilding)のためのインビトロ単離破骨細胞又はインビトロ分化破骨細胞の使用。
【請求項2】
破骨細胞が哺乳動物にインビボで骨欠損部位の近傍に適用される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
破骨細胞が患者から単離された前駆細胞のインビトロ分化によって得られ、同じ患者の骨欠損部位の近傍に適用される、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前駆細胞が患者の末梢血に由来する単球である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
破骨細胞が骨欠損部位に骨芽細胞及び/又は血管細胞を誘引する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
骨欠損が、骨折、骨格欠損、又は萎縮、骨疾患、がん、手術若しくは他の原因による骨の喪失である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
骨再建用及び/又は骨欠損処置用の医薬の製造における破骨細胞の使用。
【請求項8】
骨再建に使用するための破骨細胞を含有する医薬製剤又は医療製品。
【請求項9】
破骨細胞が、懸濁液の形で提供されるか、(ヒドロゲル又はキセロゲルのような)ゲル又は骨セメント又はインプラントに包埋される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用又は請求項8に記載の医薬製剤若しくは医療製品。
【請求項10】
骨欠損を持つ対象(好ましくは哺乳動物)を処置するための方法であって、以下の段階:
a)前記対象から血液を単離し、単球を濃縮すること、
b)単球を破骨細胞に分化させること、
c)工程b)で得られた破骨細胞を前記対象の骨欠損領域又はその近くに適用すること、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−529756(P2011−529756A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521559(P2011−521559)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060078
【国際公開番号】WO2010/015619
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511000821)テヒニッシェ・ウニヴェルジテート・ドレスデン (2)
【Fターム(参考)】