説明

骨インプラント適用

本発明は、インプラント手術、好ましくは歯科分野の手術における炎症を減少する1つまたは複数の生物活性物質と骨インプラントとの組合せに関する。インプラントはまた、前記骨インプラントの骨統合を促進する1つまたは複数の生物活性物質を含む。前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは、破骨細胞の増殖、分化および/または活性を低下させたり、骨芽細胞の増殖を刺激したり、かつ/または炎症を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨インプラント適用に関連し、より具体的には、骨インプラントの骨統合(osseointegration)を促進させながら、インプラント部位における炎症を防止する、骨インプラントと、1つまたは複数の生物活性物質との組合せ、骨統合を促進させることができる1つまたは複数の生物活性物質の使用、および、骨インプラントのための方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
人工装具(例えば、歯代替物など)を無機化組織において永続的に固定するためのインプラントおよびインプラント構成要素および方法が長い間知られている。インプラントをぐらつかせることを防止するためには、インプラントまたはインプラント構成要素の外側表面と、周囲の身体の骨および組織との間における直接の接触(すなわち、直接の適用)を確立することが重要である。直接の適用が実際に確立されているとき、いわゆる骨統合を得ることができ、かつ、インプラントが所定の位置にしっかりと配置される。
【0003】
そのうえ、細胞性免疫応答および体液性免疫応答によって、すなわち、好中球、マクロファージ、T細胞およびB細胞(後者により、抗体が分泌される)によって媒介されるインプラント部位での炎症性プロセスを防止することもまた重要である。
【0004】
歯科インプラントが歯喪失の処置においてますます一般的になっている。汚染された手術場でのそれらの設置にもかかわらず、成功率が比較的高い。しかしながら、感染および炎症により、潜在的なインプラント失敗が生じ得る。歯のインプラント周囲炎のミクロフローラが、主として嫌気性グラム陰性桿菌(具体的には、ポルフィロモナス・ギンギバリス(Porphyromonas gingivalis)およびプレボテラ・インテルメジア(Prevotella intermedia))および嫌気性グラム陰性球菌(例えば、ベイヨネラ・エスピーピー(Veillonella spp.))、ならびに、トレポネーマ・デンチコラ(Treponema denticola)を含むスピロヘータを特徴とする、慢性歯周炎において見出されるミクロフローラと類似している。現在、歯科インプラント設置のための標準化されている抗生物質予防的療法またはインプラント周囲炎のための広く一般に受け入れられている処置のどちらもない。感染したインプラントの処置は困難であり、通常、除去を必要とする。
【0005】
以前の研究では、様々な病原体が炎症性のインプラント周囲の病変の発達において最も重要な役割を果たすことが明らかにされている(Mombelliら、1987;Berglundhら、2002)。粘膜炎(MC)は、インプラント周囲の軟組織に限定される可逆的な炎症性反応であり、インプラント周囲炎は、咬合機能においてインプラントの周りの軟組織および支持骨に影響を及ぼす不可逆的なプロセスである(Pontorieroら、1994;Berglundhら、2002)。他の慢性的な炎症性疾患と同様に、炎症促進性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインが、インプラント周囲の疾患の進行および重篤度において重要な役割を果たしていると思われる(Konttinenら、2006;Machteiら、2006)。この点における重要なサイトカインが炎症促進性サイトカインのインターロイキン8(IL−8)である。
【0006】
インプラントが設置されるとき、組織損傷は、インターロイキン8(IL−8)の増大した産生が伴う局所的な炎症性応答を引き起こす(Pietruski JK、Pietruska MD、Stokowska W、Pattarelli GM、Rocz Akad Med Bialymst、2001、46:28〜37)。
【0007】
IL−8は炎症促進性サイトカインであり、その主たる機能が、好中球を化学誘引することである。IL−8は、炎症細胞を炎症時において組織に呼び寄せる免疫防御における重要なサイトカインである。生じる炎症促進性反応の過度な発現および長い持続は、特にインプラントの骨統合の観点からは好ましくないことがある。
【0008】
IL−8は、O2を産生するように好中球を刺激し得ると考えられ、また、その反応が、別のサイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)によって増強され得ると考えられている(Yuo A、Kitagawa S、Kasahara T、Matsushima K、Saito M、Takaku F、Blood、1991(Nov 15)、78(10):2708〜14)。
【0009】
IL−8はまた、好中球を、他の刺激に対する高まったO2応答のために予備刺激することができる(Wozniak A、Betts WH、Murphy GA、Rokicinski M、Immunology、1993(Aug)、79(4):608〜15)。著しい相違が、歯肉溝液(GCF)を分析するとき、健全なインプラント部位と、インプラント周囲炎部位との間に認められている。IL−8の総数が、プロービング深さおよび歯肉炎指数との正の相関を有した(Zou DR、Zhu H、Qu XH、Hua Xi Kou Qiang Yi Xue Za Zhi、2005(Aug)、23(4):292〜4)。IL−8は骨統合に炎症性反応を介して影響を与えるだけではない。近年の報告では、破骨細胞の分化および活性に影響を及ぼす、骨再吸収に対するIL−8の直接の影響が明らかにされている(Bendre MSら、Bone、2003(Jul)、33(1):28〜37;Bendre MSら、Cancer Res、2005(Dec 1)、65(23):11001〜9)。まとめると、発明者らは、歯科インプラントの骨統合が、ある限られたレベルのIL−8を設置部位において有することから利益を受けるであろうと仮定する。このことは、(ROS産生を含めて)炎症促進性反応を弱めておき、かつ、骨再吸収を制限し、したがって、より速い二次的なインプラント安定性に有利であると考えられる。
【0010】
インプラント手術方法の後における炎症はインプラント統合の成功または失敗のために重要であるだけでなく、患者にとっての不快の主な源でもある。したがって、炎症は、過度に反応する免疫応答のためにインプラントの喪失をもたらし得るだけでなく、加えて、インプラント部位における炎症性反応は、特に身体の高密度に神経分布した領域(例えば、口腔および頭骨における骨など)における、患者にとっては不都合である有痛プロセスである。この領域における炎症は抗炎症性薬物および鎮痛剤による患者の処置を必要とするが、鎮痛剤はまた、患者の処置費を増大させ、また、鎮痛剤には、様々な副作用、例えば、悪心、下痢、抗炎症性薬物(例えば、アセチルサリチル酸など)との不適合性などが伴い得る。このことが歯科学の分野において大きな役割を果たす。
【0011】
無歯患者の処置では通常、慎重な患者選択、詳細な手術プロトコル、および、使用されることになる人工装具構築物を慎重に設計することが含まれる。非常に成功した臨床結果が、インプラントの一次的安定性ならびに二次的安定性を得ることがかなり容易である堅い緻密骨を有する患者の処置の後で達成されている。しかしながら、あまり成功とは言えない結果が、より軟らかい特性を有する骨における処置の後で報告されている。その様々な困難さが、安定したインプラント固定がなくなることにおいて現れている(例えば、一次的安定性が得られるが、二次的安定性が治癒期間後に得られないこと)。様々な方法が、これらの困難さを克服するために提案されている。これらの方法は一般に、インプラント表面のためのさらなる新しい手段(例えば、ヒドロキシアパタイトによる被覆)を使用すること、または、インプラント固定を改善するためにインプラント表面の不規則性を調製することを伴う。
【0012】
特定の条件のもとでは、商業的に純粋なチタンまたはチタン合金から作製されるインプラントが周囲の骨組織との骨統合を可能にし、その結果、密な接触が、インプラントと、組織との間で得られることが認識されている。骨に固定されるチタンインプラントが、歯代替物および歯人工装具のための固定具として、または、他のタイプの人工装具(例えば、これらに限定されないが、指関節、義眼、人工耳、補聴器、または、例えば、骨折の治癒のためのデバイス)のための固定具として使用され得る。
【0013】
NobelBiocareは、種々の製造物のために好適な、特に骨インプラント(例えば、歯科インプラント)のために好適な独特の多孔性表面構造を有する表面材料TiUnite(登録商標)(スウェーデン国特許第7902035−0号)を提供する。TiUnite(登録商標)は、高結晶性のリン酸強化された酸化チタンから製造され、これにより、図1に示されるように、低マイクロメートル範囲での均一に分布する開口細孔の存在によって特徴づけられる、インプラントの表面における微細構造化トポグラフィーが保証される。
【0014】
骨におけるインプラントの取り込みを改善するために意図される様々なタイプの生物活性物質を使用することが既に知られている。例えば、国際特許出願公開WO95/33502、同WO96/40014および同WO98/17330では、骨成長を開始させ、かつ、刺激するために、TGF−βスーパーファミリーに属する物質の使用、例えば、いわゆるBMP(骨形態形成タンパク質)の使用が示唆される。しかしながら、BMPは、高まった骨統合を単独で促進させるための必要なシグナルを提供しないようである。
【0015】
国際公開WO2004/010887は、新しい骨形成をインプラントの周りで生じさせる、インプラントの表面または内部における成長刺激物質の使用を記載する。
【0016】
米国特許第5686116号は、骨インプラントの取付け、固定および安定化を高めるための方法を開示する。この方法は、治療効果的なレベルの元素を提供するために十分な量の医薬的に許容される第IIIa族元素含有化合物を、インプラントを受け入れるための患者に投与することを含む。この化合物は、身体に自然の状態で存在するタンパク質(例えば、ラクトフェリン)に結合することができる。しかしながら、そのようなものとしてのタンパク質の効果は開示されていない。
【0017】
国際公開WO08043175は、バイオフィルムにより取り囲まれる微生物を阻害するための組成物であって、例えば、抗菌性作用因(例えば、ラクトフェリン)を含み、インプラント表面の被覆として使用されるための組成物を開示する。しかしながら、国際公開WO08043175は、骨組織との骨統合のための骨付着表面を有する骨インプラントを開示していない。さらに、国際公開WO08043175は、インプラント方法の失敗およびその後のインプラント喪失を防止する、インプラント部位における炎症の防止、特に歯科インプラントの部位における炎症の防止には関連していない。
【0018】
一次的安定性ならびに治癒期間後の二次的安定性を、好ましくは、骨再吸収を伴うことなく、または、骨再吸収をほとんど伴うことなく得ることが、骨インプラントに関するさらなる関心事である。炎症細胞が様々な分解酵素(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ)を分泌し、これらの酵素の影響が、炎症細胞の血管外遊出を可能にするために浸潤組織を軟らかくすることであることが知られている。そのような軟化プロセスは組織をインプラント部位において不安定化し、インプラントの喪失を生じさせ得るか、または、インプラントを正しく設置することをできなくし得る。
【0019】
したがって、インプラント部位における炎症性反応に伴う不安定化およびインプラントの喪失を防止する改善された骨インプラント、および/または、インプラント部位における炎症性反応に伴う不安定化およびインプラントの喪失を防止する、骨インプラントを埋め込むための改善された方法が求められている。したがって、改善された骨インプラント、および/または、骨インプラントを埋め込むための改善された方法が好都合であると考えられる。具体的には、骨組織における確実な固定、増大した手術柔軟性、改善された手術管理、例えば、医療的手順の改善された結果による改善された手術管理、および/または、費用有効性、例えば、患者回復時間、痛みに起因する不快が少なくなること、患者にとっての医薬品の軽減された投与、潜在的副作用の制限による費用有効性、その他を可能にする骨インプラント、および/または、そのようなことを可能にする、骨インプラントを埋め込むための方法が好都合であると考えられる。
【発明の概要】
【0020】
したがって、本発明の実施形態は好ましくは、骨インプラント、骨インプラントを埋め込む方法、および、骨インプラントと、生物活性物質との組合せを調製するための1つまたは複数の生物活性物質の使用を添付されている特許請求項に従って提供することによって、この分野における1つまたは複数の不備、欠点または問題、例えば、上記において特定されることなどを、1つだけまたは任意の組合せであっても、調節、軽減、緩和または排除しようと努めるものである。
【0021】
一態様によれば、組合せは、骨インプラントと、炎症の調節、防止または軽減をすることができる1つまたは複数の生物活性物質とを含む。炎症の調節は、生物活性物質が特定の炎症促進性物質の産生(例えば、IL−8の産生)およびその後の好中球の活性化に影響を与えることを意味する。
【0022】
好ましい実施形態において、そのような1つまたは複数の生物活性物質は、前記骨インプラントの骨統合もまた促進させる。
【0023】
生物活性物質の少なくとも1つが免疫応答および炎症性応答を調節する。すなわち、生物活性物質の少なくとも1つが、炎症性反応に関与する細胞によって分泌される炎症促進性物質の影響を制限または防止する。これらの細胞についての例が、好中球、マクロファージ、T細胞などである。その影響には、炎症促進性刺激(例えば、サイトカイン、ケモカイン、インターフェロン、マトリックスメタロプロテアーゼおよび他のプロテアーゼ(特に、組織プロテアーゼ、パーフォリンなど))の防止または低下した産生および放出が伴う。
【0024】
炎症性応答はまた、上記で示される炎症細胞のいずれかの成長停止によって低下させることができる。すなわち、細胞は、分化すること、増殖することを止めることができ、または、プログラム化細胞死を受けることさえできる。
【0025】
インプラント設置プロセスに伴う炎症は有益な影響を有するが、関連した欠点でもあり得る。炎症細胞、特に、好中球細胞がインプラント部位における局所的な炎症性環境を生じさせることは、治癒プロセスのためには重要である。この微小環境において、様々な因子が、炎症性応答に関与する細胞によって分泌され、これらの因子により、軟組織の治癒が支えられ、また、骨芽細胞の増殖が誘導される。骨芽細胞の増殖は、インプラントを安全に骨統合するために重要である。すなわち、インプラントと、周囲の骨組織との間における直接の結合が、新しい骨材料によって得られる。そのうえ、インプラントの周りでの治癒した軟組織により、望ましくない物質(例えば、細菌)が骨統合プロセスに負の影響を及ぼし、および/または、骨再吸収を引き起こすことが防止され、すなわち、維持された安定性または一層さらに増大した安定性、例えば、二次的安定性に達するための低下した時間がもたらされる。この有益なプロセスが支持されることが望ましい。すなわち、治癒持続期間が、インプラントを迅速に安定化させるためにできる限り短いことが望ましい。
【0026】
他方で、炎症性応答におけるわずかな不均衡、例えば、炎症細胞(例えば、好中球)の浸潤に伴う強すぎる炎症は、不快、痛みを引き起こし、また、インプラント部位における治癒期間を延ばす恐れがあるので、患者にとっては望ましくない。最悪の場合、このことは不安定化を生じさせ得るか、または、インプラントの喪失さえ生じさせ得る。
【0027】
加えて、前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つが、破骨細胞の増殖、分化および/または活性を低下させ得ることがある。
【0028】
破骨細胞の増殖、分化および/または活性を低下させ得る前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは、イバンドロナートおよび/またはラクトフェリン、ならびに、ラクトフェリンの生物学的に機能的な誘導体またはフラグメントを含むことができる。
【0029】
ラクトフェリンの生物学的に機能的な誘導体またはフラグメントは、GenBankアクセション番号AAN11304.1を有するヒトラクトフェリンのアミノ酸配列全体の1つまたは複数のアミノ酸残基(好ましくは25%に至るまでのアミノ酸残基、より好ましくは20%に至るまでのアミノ酸残基、さらにより好ましくは15%に至るまでのアミノ酸残基、より好ましくは10%、5%、4%、3%、2%または1%のアミノ酸残基、少なくなる順に、最も好ましくは10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個のアミノ酸残基)の付加、置換、挿入または欠失に起因する、ラクトフェリンに由来する任意の分子である。
【0030】
本明細書中で使用されるような生物学的に活性なフラグメントは、改変されていないラクトフェリンの活性の(増大する順で)少なくとも50%、好ましくは60%、より好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%または99%を有する。当業者は、炎症促進性媒介因子の産生に対するラクトフェリンの影響、炎症細胞の成長、増殖、分化またはプログラム化細胞死に対する影響、あるいは、上記で述べられた炎症性応答に関与する媒介因子の量を、従来のインビトロ細胞アッセイ、FACScan、ELISAアッセイ、ウエスタンブロット、免疫組織化学技術などを使用して調べるための試験システムを組み立てるための手段を承知している。
【0031】
炎症を低下させ得る前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つはプラバスタチンおよび/またはラクトフェリンを含むことができる。
【0032】
前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは、骨芽細胞の増殖を刺激し得ることがある。
【0033】
骨芽細胞の増殖を刺激し得る前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは、ラクトフェリンおよびラクトフェリンの生物学的に機能的な誘導体またはフラグメントのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0034】
骨インプラントは、前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つにより表面において被覆または含浸することができる。
【0035】
さらなる態様によれば、骨の成長/形成を誘導し、かつ、炎症を低下させることによって骨統合を促進させることができる1つまたは複数の生物活性物質が使用される。
【0036】
別の態様によれば、骨の成長/形成を誘導し、および/または、炎症を低下させることによって骨統合を促進させることができる1つまたは複数の生物活性物質が、組合せの実施形態による組合せを調製するために使用される。
【0037】
別の態様によれば、骨インプラントのための方法は、骨インプラントを受け入れるために患者の骨における部位を調製すること、前記骨インプラントの骨統合を促進する1つまたは複数の生物活性物質を調製部位において局所投与すること、および、骨インプラントを調製部位に提供することを含む。
【0038】
本発明は、インプラント部位における低下した炎症を、特に、歯構造物のための骨インプラント(例えば、歯科用人工装具)に関連して提供する。例えば、本発明は、炎症の範囲を制限することを提供し、したがって、患者にとっての不快を軽減し、このことは、改善された患者コンプライアンスをもたらし、再生期間を短縮し、要求される鎮痛剤または抗炎症性医薬品の量を減らし、かつ、したがって、埋め込みするプロセスに関連する費用をもまた減らす。
【0039】
本発明は、骨インプラントの改善された骨統合を、特に、歯構造物のための骨インプラント(例えば、歯科用人工装具)に関連して提供する。例えば、本発明は、患者の利益のためにインプラントの二次的安定性を確実にするためにインプラント内およびインプラント周囲での骨成長を刺激することを含むことができる、骨統合のための時間を最小限に抑えることを提供し、これにより、患者は、二次的安定性のためのより短い時間を、合併症をほとんど伴うことなく、また、インプラントがぐらつく低下した危険性とともに経験する。本発明が提供し得る別の態様が、二次的安定性を得るための時間を、手術後の炎症性応答を低下させることによって最小限に抑えることである。さらに、本発明による組合せは、物質を局所投与し、それにより、インプラントの成功した骨統合を容易にし得ることを提供する。
【0040】
本発明の別の態様が、インプラント安定性を増大させる、生物活性物質(例えば、ラクトフェリンなど)により被覆される骨インプラント(好ましくは、歯科インプラント)の提供である。設置における一次的インプラント安定性は、局所的な骨質および骨量、インプラントのタイプおよび使用された設置技術に関連づけられる機械的現象である。二次的インプラント安定性は、インプラント/組織の境界および周辺骨における骨形成およびリモデリングに起因し得る安定性における増大である(Meredith、The International Journal of Prosthodontics、第11巻、第5号、1998、491頁〜501頁)。インプラント設置後、安定性における増大が、インプラント−組織の境界における骨の再生およびリモデリングから生じる。骨が境界で形成されると、成功のための要件が変化する:インプラントは今度は、骨が結合する口腔内の人工装具によって伝えられる負荷を効果的に分布させ得る必要がある。驚くべきことに、骨インプラント(好ましくは、歯科インプラント)に被覆された生物活性物質の影響がインプラント安定性に影響することが見出されている。このプロセスは、局所的な免疫応答に対する生物活性物質の影響、および/または、インプラント部位において生じる炎症の程度に対する生物活性物質の影響に関連づけられると考えられる。特に、インプラントの使用、好ましくは、ラクトフェリンにより被覆されるチタン(例えば、TiUnite(登録商標)など)を含むインプラントの使用が、二次的インプラント安定性を増大させるために驚くほど適切であることが判明した。インプラント安定性は、広く知られている方法を使用して測定することができ、例えば、共鳴周波数分析(RFA)を使用して測定することができる。この方法では、インプラントに隣接する媒体の剛性を、例えば、Osstell装置(Integration Diagnostics AB、スウェーデン)を使用して測定することができる。
【0041】
さらなる実施形態において、本発明は、骨インプラントまたはその部品と、少なくとも1つの生物活性物質とを含む、部品のキットに関連する。部品のキットにおける生物活性物質は容器に含有することができ、例えば、ビン、バイアルなどに含有することができる。キットはまた、使用のための説明書、および、単回使用のための材料、例えば、滅菌されている組織、ピペットなどを含むことができる。キットは、埋め込みする方法において使用することができる。したがって、その必要性のある患者を処置する方法におけるキットの使用が意図される。キットにおける生物活性物質は、インプラントを挿入する前に、および/または、インプラントをインプラント部位に設置した後で適用することができる。生物活性物質はまた、インプラント部位における歯肉の切開または骨におけるドリルによる穴あけの前および/または後で使用されるためのものであり得る。
【0042】
本明細書で使用する場合の用語「含む/含んでいる」は、記載した特徴、整数、ステップ、またはコンポーネントの存在を明記するものと解釈されるものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴、整数、ステップ、コンポーネント、またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないことを強調しておきたい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、TiUnite表面を有する骨インプラントの走査型電子顕微鏡(SEM)画像(A)、および、より高倍率でのインプラントの表面のSEM画像(B)、および、直径が1μm〜10μmの範囲にある微細構造の表面細孔を示す一層より高倍率でのインプラントの表面のSEM画像(C)を示す。これらの細孔は、通常の機械加工されたインプラントと比較して、より良好な骨統合を可能にし、また、加えて、これらの細孔は、抗炎症性化合物/薬物および骨芽細胞刺激物質(例えば、ラクトフェリン)によるインプラントのより大きい負荷に備えるものである。
【0044】
【図2】図2は、後方散乱走査型電子顕微鏡(B−SEM)によって測定される7匹のGottingenミニブタにおける、それぞれの0.9%NaCl浸漬コントロールインプラントと比較されるラクトフェリン浸漬インプラントの骨対インプラント接触結果のヒストグラムを示す。0.9%NaCl浸漬インプラントコントロールと比較されるラクトフェリン浸漬インプラントの平均骨対インプラント接触値が右側に示される。
【0045】
【図3】図3は、サンプル番号1でのPMNに関して行われた多形核細胞(PMN)によるIL−8分泌の阻害の結果を示す。LPS刺激されたPMNにおけるラクトフェリンによるIL−8産生の強い低下を認めることができる。
【0046】
【図4A−B】図4A及び4Bは、ラクトフェリン被覆されたTiUnite(登録商標)(図4A)および機械加工チタン(図4B)の微生物成長に対する影響をそれぞれ示す。機械加工チタンに対して、ラクトフェリンおよびTiUnite(登録商標)の驚くほどの効率を直ちに認識することができる。
【図5】図5は、歯科適用および/または顎顔面適用のための、例えば、歯科人工装具および/または顔面人工装具、補聴器などを固定することなどのためのインプラント20’を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施態様は添付の図面を参照しながら説明されるであろう。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で実施されることができ、本明細書中に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が充分かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を充分に伝達できるように提供される。添付の図面において例示される実施形態の詳細な説明において使用される用語は、本発明を制限することを意図していない。図面において、類似の数字は類似の要素を示す。
【0048】
本発明の実施形態は、インプラント部位における炎症性反応を防止もしくは制限するための、および/または、インプラントの骨統合、好ましくは、骨(例えば、頭骨または顎骨など)におけるインプラントの骨統合を改善するための手段を提供する。そのような手段はまた、制御できない骨再吸収、または、骨形成がないことのためにインプラントをぐらつかせることについての危険性を最小限に抑える。そのうえ、病原性微生物の増殖もまた驚くほど低下させ、このことは、インプラント手術に起因する副作用の防止において、例えば、発熱、炎症、痛みおよび潜在的なインプラント喪失、あるいは、低下または遅れたインプラント安定性、例えば、低下および/または遅れた二次的安定性などの防止において有益である。
【0049】
骨統合のプロセスを理解するためには、骨形成のプロセスを理解しなければならない。骨形成は、破骨細胞による骨再吸収と、骨芽細胞による骨形成との間のバランスによって特徴づけられる。インプラント関連の炎症は多くの場合、骨構造が骨におけるインプラントの設置に関連して操作されることの結果であり、多形核好中球(PMN)の浸潤を含む炎症性応答によって特徴づけられる。これらの炎症性応答は、例えば、炎症促進性媒介因子(例えば、サイトカイン(例えば、TNF−αおよびIL−1))および毒性物質(例えば、反応性酸素化学種(ROS))の増大した分泌によって特徴づけられる。これらの炎症促進性媒介因子は、骨喪失を生じさせると考えられる骨再吸収を有利にすることによって骨代謝における不均衡を引き起こすようである。
【0050】
したがって、インプラント挿入後の骨成長の開始および刺激に先立って、また、インプラント挿入後の回復および創傷治癒の一部として、炎症性応答が多くの場合、インプラントの周りでの組織において生じる。炎症性応答は、骨統合の時間における増大、したがって、二次的安定性の時間における増大をもたらし、また、長引く炎症性応答は骨再吸収をもたらすことさえあり、そして、インプラントの失敗さえももたらすことがある。インプラント、および、例えば、骨代替物により処置されている患者については、改善された骨統合を得るために、また、インプラントをぐらつかせるという危険性を軽減するために骨統合の時間を減らすことが望ましい。
【0051】
挿入後のインプラントの安定した骨統合を得るための時間は、身体が炎症性媒介因子の動員によって何らかの他の異物侵入物に関してインプラントに対して反応する「順応」プロセスと、インプラントが身体によって受け入れられるならば、インプラントが、インプラントの周りでの新しい骨形成によって骨に取り込まれ、それにより、人工装具をその後で取り付けるためのインプラントの二次的安定性が得られる「リモデリング」プロセスとから構成される。これら2つの反応は、骨統合を得るためには骨再吸収よりも多い骨形成に向けて推し進められる必要がある平衡状態で存在する。骨形成を刺激することによって上記で議論されたように、「リモデリング」プロセスを加速させることができ、また、「リモデリング」時間を短縮することができる。しかしながら、成功した骨統合では、そのような「闘い」に勝利するための再構築プロセスをもたらす短い成功した順応プロセスが前提となる。しかしながら、本発明において示されているように、同様にまた、炎症がほとんどないか、または、炎症が全くない状況(したがって、「順応」がほとんどないか、または、「順応」が全くない状況)において示されているように、骨成長シグナルを加えることが、骨統合を加速させるためには有益である。
【0052】
「順応」期間は、身体によるインプラントの受け入れが完全に達成されるまで続く。上記で議論されたように、順応がインプラント領域への好中球の動員とともに始まる。部位をインプラントのために調製すること(例えば、穴をドリルにより骨にあけること)、および、インプラントをその部位に提供すること(例えば、骨にねじ込むか、または、他の場合にはインプラントを骨に設置すること)はともに、ほとんどの場合、上記に記載されるような炎症性応答を誘導する。炎症性応答には、とりわけ破骨細胞の分化および骨分解を刺激する、顆粒に所在が特定される物質(例えば、炎症性媒介因子、ラクトフェリン、IL−1、IL−6、TNF−α、など)と同様に、ROSの好中球による産生および放出が含まれる。しかしながら、そのような炎症シグナル伝達物質の放出は、その後の「リモデリング」状態を開始させるために必要のようである。免疫系がインプラントの挿入によって誘発されないならば、「順応」期間は決して開始されない。このことは再度ではあるが、インプラントの周りでの新しい骨形成の開始をもたらさないかもしれず、長い目で見れば、インプラントの周りでの「リモデリング」または骨形成をもたらさないかもしれない。したがって、本発明は、骨成長または骨形成を刺激することによってインプラントの骨統合を確実にし、かつ、加速することを目指す。加えて、または、代替として、本発明は、埋め込み後に存在するならば、埋め込み後のインプラントの周りでの炎症性反応を低下させることを提供し、このようにして、「順応」期間を短くすることを提供する。さらに、本発明は、炎症性反応が生じないならば、「順応」シグナル(例えば、骨形成刺激物質または炎症性シグナル)を供給し、その後、インプラントの周りでの骨形成を加速させることを提供し得る。
【0053】
インプラント関連の炎症は、PMNを含む免疫細胞の浸潤によって特徴づけられる。これらの炎症性応答は、例えば、炎症促進性媒介因子(例えば、サイトカイン(例えば、TNF−αおよびIL−1)、プロスタグランジン(例えば、PGD)、トロンボキサン(例えば、トロンボキサンB)、ロイコトリエン(例えば、ロイコトリエンA)、ケモカイン(例えば、IL−8))および毒性物質(例えば、ROS)の増大した分泌によって特徴づけられる。TNF−αおよびIL−1は、骨代謝における不均衡を、骨再吸収を有利にすることによって引き起こすが、TNF−α遮断剤が、リウマチ様関節炎(関節の慢性炎症)における炎症性骨喪失の防止における確立された役割を有する。骨に対するこれらの免疫学的シグナルは、主に骨芽細胞を介して伝達されて、破骨細胞の成熟化を誘導し、これにより、二次的な骨粗鬆症を生じさせることが推定される。様々なケモカインが、細胞の遊走を、それぞれのケモカイン受容体に結合し、かつ、それぞれのケモカイン受容体を活性化することによって誘導する。これらの受容体が種々の免疫細胞タイプの表面に発現され、このことがケモカインによるそれらの特異的な誘引を可能にしている。ケモカインがPMNをインプラントの部位に呼び寄せ、これらの浸潤する免疫細胞が、既に進行中の炎症プロセスに寄与し得る。ROSには、過酸化水素(H)、次亜塩素酸(HClO)およびフリーラジカル(例えば、ヒドロキシルラジカル(・OH)および超酸化物アニオン(O))が含まれる。超酸化物アニオンは酸化窒素(NO)と反応し、非常に反応性のペルオキシニトリト酸化剤を生じさせることができる。ROSは特に不安定であり、ほとんどの生物学的分子と迅速かつ非特異的に反応する。ROSは、化学的連鎖反応(例えば、脂質の過酸化)を開始することによって、あるいは、DNAまたはタンパク質を酸化することによって細胞に損傷を与え得る。タンパク質に対する損傷は、酵素阻害、酵素変性およびタンパク質分解を引き起こす。
【0054】
本発明のインプラントおよび生物活性物質の組合せ、または、インプラントおよび生物活性物質を含むキットは、インプラント周囲炎、歯周炎、粘膜炎または周囲粘膜炎(perio−mucositis)の処置のために好適である。周囲粘膜炎は、骨再吸収および低下したインプラント安定性をもたらすインプラント周囲炎に進み得る、インプラントの嵌合成分(例えば、アバットメント)を取り囲む炎症に関連する。
【0055】
好中球は、最も多く存在する白血球である。好中球は防御の最前線に属し、どのような種類の浸潤した病原体または損傷部であれ、それらに向かって血管から非常に迅速に遊走する。好中球についての重要な化学誘因物質がインターロイキン8である。
【0056】
損傷は、例えば、穴をドリルにより骨/顎にあけること、または、インプラントを骨/顎におけるソケットに設置することであり得る。これらにより、損傷部およびインプラントに向かう、好中球を含む免疫細胞の浸潤が誘発される。通常、好中球により、病原体または侵略者が貪食される。獲物は通常、顆粒が融合して、それらの毒性物質を放出する好中球内部の小胞(食胞)において終える。好中球は、「侵略者」を殺すために2つの異なる機構を使用する。
【0057】
骨髄における好中球の発達および成熟化の期間中に、4つの異なる小胞(顆粒)が現れる。これらの顆粒は、侵入者を殺すために使用される毒性物質と同様に、遊走および食作用のために使用される受容体としての種々の物質を含有する。
【0058】
a)酸素非依存的
顆粒は、とりわけ、食胞の酸性化、タンパク質の加水分解(例えば、エラスターゼおよびカテプシンGによるタンパク質の加水分解)、リゾチームによるペプチドグリカンの分解、および、ラクトフェリンによる遊離鉄としての必須栄養分の隔離を生じさせる、食胞内に放出される非常に多数の加水分解酵素および抗菌性ポリペプチドを含有する。
【0059】
b)酸素依存的
好中球は、食胞膜において組み立てられるいわゆるNADPH−オキシダーゼを介してROSを産生および放出することができる。ROS(例えば、超酸化物アニオン、過酸化水素、次亜塩素酸)の産生は、「侵略者」を殺すことに寄与する。
【0060】
しかしながら、時には侵略者が大きすぎて、貪食できないことがあり、この場合には、いわゆる「失敗した(frustrated)食作用」が引き起こされるかもしれない。失敗した食作用の期間中、好中球はいつも通りにROSを毒性物質と一緒に食胞内に放出し、しかし、このとき、食胞は閉鎖系ではない。その代わりに、ROSおよび毒性物質が周囲の組織に漏出し、それにより、組織損傷を結果として伴う炎症性反応を引き起こす。
【0061】
いくつかのシナリオが、インプラントの挿入および生じる炎症性応答に関連して想定され得る。インプラントは、例えば、歯が抜かれた直後の新しい抜歯ソケットに挿入することができ、または、穴をドリルによりあけた後の骨に、例えば、歯肉および顎骨を貫通して穴をドリルによりあけた後の顎骨に挿入することができる。両方の状況において、激しいインプラント関連の炎症性応答が誘導され得る。別の場合において、例えば、インプラントが抜歯ソケットに設置されるならば、ソケットは、インプラントが挿入される前に治癒させることができ、これは軽微な炎症性応答を誘発するだけであるか、または、炎症性応答を全く誘発しない。炎症性応答が軽微であること、または、炎症性応答がないことはまた、ドリル・アンド・インプラント・ガイド(drill−and−implant−guided)手術が、例えば、本発明の出願人により入手可能なNobelGuideの計画および処置概念に従うなどして使用されるときに生じ得る。炎症性応答が軽微であること、または、炎症性応答がないことにより、骨統合のために要求されると思われるリモデリングプロセスの小さな開始が続く。したがって、炎症性応答を誘発することが、本発明の実施形態に従って提供され得る。
【0062】
骨の一部が、例えば、顎の一部または全体が、例えば、頭部傷害の後で再建されているならば、本来の炎症シグナルが不足しているために、インプラントの周りでの骨の「リモデリング」のための正しいシグナルを生じさせることが多くの場合、必要となり得る。本発明の実施形態はそのようなシグナルをインプラントとの組合せで提供する。
【0063】
この関連において、生物活性物質は、骨成長および/または骨形成を促進または刺激する作用因である。この関連において、生物活性物質はまた、上記で記載される作用因の中でも、炎症促進性応答を阻害する作用因を含む。一般に、上記で記載される作用因の中でも、骨成長/形成を促進または刺激し、および/あるいは、炎症促進性応答を阻害する任意の物質を、内因性の物質または合成された物質であっても、本発明の実施形態に従って適用することができ、例えば、インプラントの内部または周囲において、単独で、または、他のそのような化合物との何らかの組合せでのどちらであっても、被覆物質として適用することができ、あるいは、インプラントとの組合せでの他の形態の場合と同様に、例えば、インプラントを部位に挿入する直前に直接に埋め込み部位における投与などによって適用することができる。
【0064】
本発明の好ましい実施形態が、埋め込みする方法において使用される、インプラントおよび生物活性物質(例えば、ラクトフェリン)の組合せである。代替として、その必要性のある患者(好ましくは、ヒト)の処置において使用される、骨インプラント(例えば、本明細書中に記載されるような歯科インプラント)および1つまたは複数の生物活性物質の組合せが想定される。
【0065】
本発明の方法および使用は、生物活性物質(例えば、ラクトフェリンあるいはその誘導体、変化体および/またはフラグメント)を、皮弁を切開し、または、穴を組織ポンチにより作製し、続いて穴をドリルによりあけた後、インプラント部位において、すなわち、骨および/または軟組織において局所的に分布させることを含む。生物活性物質による骨付着表面および/または軟組織付着表面における被覆または含浸もまた意図される。骨組織に対する1つもしくはいくつかの開口部および/または軟組織付着表面を有する固定具または嵌合成分の本体内の空洞に物質を適用すること。
【0066】
好中球の顆粒に所在が特定される物質の1つがラクトフェリンである。ラクトフェリンは、トランスフェリンファミリーのタンパク質に属する80kDaの鉄結合性糖タンパク質である。好中球におけるその存在に加えて、ラクトフェリンはまた、他の分泌物において、例えば、ほとんどの哺乳動物の涙液、精液、唾液および乳汁において見出される。健康な被験者における血清中のレベルは約2μg/ml〜7μg/mlであるが、炎症プロセスの期間中には、ラクトフェリンは200μg/mlもの高い血中濃度に達し得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、生物活性物質はラクトフェリンを含む。ラクトフェリンは、多くの異なる影響を有することが示されている:例えば、鉄キレーターであることによる抗菌活性、細胞の成長および分化、胚発達、骨髄造血、内皮細胞接着、サイトカインおよびケモカインの産生に対する影響、骨溶解性サイトカイン(例えば、TNF−αおよびIL−1βなど)の放出を低下させることによる免疫系の調節、炎症性応答の調整、皮膚における創傷閉鎖を与えること、破骨細胞生成を低下させることによって破骨細胞の活性を低下させること、増殖および分化を増大させることによる骨芽細胞に対する同化作用因子、アポトーシスを低下させることによる骨芽細胞のための生存因子、骨形成の期間中における沈着するタンパク質マトリックスおよび無機化を増大させること、抗腫瘍効果。ラクトフェリン受容体が、多くの異なる細胞において、例えば、T細胞、単球、肝細胞、腸細胞および血小板などにおいて特定されている。ラクトフェリンは、骨形成活性を、脱グリコシル化されたときにおいて、ホロ形態およびアポ形態において、ならびに、この分子の様々な小さいフラグメントにおいてさえ維持する。本発明は、骨統合を支持する環境を提供しながら、炎症性プロセスを打ち消す量のラクトフェリンの投与を可能にする。
【0068】
ラクトフェリンによる骨芽細胞および骨形成に対する影響が、生理学的な濃度で生じるが、0.1μg/mlもの低い濃度でもまた生じることが示されている。ラクトフェリンが、難治性固形腫瘍に対する第I相試験において2週間服用および2週間休止のスケジュールの期間中、1g/日〜9g/日もの高い濃度で使用されているとき、血液学的毒性、肝臓毒性または腎臓毒性が何ら報告されなかった(Hayes TG、Falchook GFら、Invest New Drugs、24(3)、2006)。したがって、そのような高濃度が本発明のために想定され得る。
【0069】
破骨細胞形成の阻害が、1μg/mlを越える濃度で起こる。N−ローブ(lobe)体は、破骨細胞の発達を阻害することにおいてC−ローブ体または全長の組換えヒトラクトフェリンよりも強力である。トランスフェリンファミリーに含まれる他のメンバーが、ラクトフェリンの組換え形態であるrh(組換えヒト)タラクトフェリン(talactoferrin)と同様に試験するために興味深いかもしれない。
【0070】
本発明の特定の実施形態において、ラクトフェリンが、唯一の活性物質として使用される。ラクトフェリンを使用することの利点が、ラクトフェリンは、骨芽細胞の増殖を刺激するだけでなく、破骨細胞の分化の阻害および/または低下を生じさせることができることである。同様にまた、ラクトフェリンは、炎症を軽減することができる物質である。本発明の実施形態はまた、ラクトフェリンの脱グリコシル化された活性なフラグメントまたは一部分の使用を含むことができる。
【0071】
他の実施形態において、骨形成を刺激することが、炎症性プロセスを阻害する物質により(さらに)補われる。そのような物質は、例えば、ラクトフェリン、ラクトフェリンの生物学的に機能的な誘導体またはフラグメント、および/あるいは、プラバスタチンを含むことができる。
【0072】
Cornishら(Endocrinology、2004、145(9)、4366〜4374)は、ラクトフェリンが、骨芽細胞(骨形成)の分化を増大させ、かつ、骨芽細胞のアポトーシスを低下させることによって、インビボでの骨形成を最大で50%〜70%増大させ、また、破骨細胞生成をさらに阻害することを明らかにした。ラクトフェリンは骨成長において生理学的な役割を有するかもしれないこと、また、もしかすると、骨修復を促進させるための局所的な作用因としての有用性を有するかもしれないことが示唆される。
【0073】
Naotら(Clin.Med.Res.、2005、(3)2、93〜101)は、ラクトフェリンがインビボでの骨成長をマウスにおける右半分の頭蓋冠にわたる注入によって増大させることを示し、また、これが、破骨細胞生成の阻害、ならびに、骨芽細胞様細胞の増殖および分化の刺激のためであることを示す。
【0074】
Savarinoら(J.Biomed.Material.Res.、2005、75A、324〜332)は、骨溶解(進行性の人工装具周囲の骨喪失)がインプラント失敗のおよそ70%に関わることを記載する。これは典型的には、炎症性媒介因子の放出によって媒介されるインプラント−骨境界における粒子誘導された骨溶解のためであり、これにより、マクロファージおよび破骨細胞により誘導される骨再吸収、ならびに、結果として、インプラントのぐらつきおよびインプラント失敗がもたらされる。Savarinoらは、ラットにおけるアントラキノン系化合物の経口投与を使用しており、増大した骨体積を明らかにしている。これらの薬物は、破骨細胞の活性を低下させるという効果を有し得ること、また、炎症性反応を抑制し得ることが示唆される。しかしながら、全身投与経路は、高い局所的濃度が所望されるときには適していない。
【0075】
様々な実施形態において、適用される物質(1つまたは複数)は、炎症促進性の事象に関与する何らかの炎症性の細胞内成分/媒介因子または細胞外成分/媒介因子の産生および/または影響に対抗する抗体および/または阻害剤を含み、例えば、炎症促進性サイトカインに対する抗体(例えば、抗TNF−α)、炎症促進性媒介因子(例えば、IL−8)に対する抗体、および、炎症促進性サイトカインの受容体に対する阻害剤(例えば、IL−1受容体アンタゴニスト)を含む。抗炎症性サイトカイン(例えば、IL−10)の投与は、粒子誘導(またはインプラント誘導)の炎症性応答がインビボで調節され得る機構を提供することができる。抗炎症性サイトカインのIL−10によるマクロファージの前処理は、マクロファージからの粒子誘導されたサイトカイン放出を低下させた。抗体はポリクロナールまたはモノクローナルであってもよく、組換えにより、または、いずれかの他の知られている方法によって作製され得る。
【0076】
他の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、いずれかの免疫細胞の活性を阻害する少なくとも1つの化合物、インプラント部位へのそれらの血管外遊出を阻害する少なくとも1つの化合物(例えば、抗セレクチン、抗アドレシン、抗インテグリンおよび抗免疫グロブリン)、PMNおよび他の免疫細胞の走化性関連遊走応答を阻害する少なくとも1つの化合物(例えば、抗CCケモカイン、抗CXCケモカイン、抗Cケモカイン、抗CXCケモカイン)、または、それらの組合せを含む。
【0077】
本発明の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、骨形成性および抗炎症性の両方を有する少なくとも1つの化合物、例えば、ラクトフェリン、フラボン系化合物(例えば、アピゲニン)、アントラキノン系化合物(例えば、N,N’−ジエチルアミノ−2,6−アントラキノンジスルホンアミドおよびN,N’−(p−エトキシフェニル)−2,6−アントラキノンジスルホンアミド)、または、それらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0078】
本発明の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、骨形成性を有する少なくとも1つの化合物、例えば、種々のBMP(例えば、TGF−ベータのタイプIII受容体を介してシグナル伝達する様々なトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)イソ型(TGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3))、アドレノメジュリン、または、骨再吸収の阻害剤(例えば、エラスターゼ、カテプシンG、リゾチームおよび破骨細胞の阻害剤)、または、それらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0079】
本発明の他の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAID)に属する少なくとも1つの化合物を含むが、これらに限定されない:例えば、サリチル酸系化合物、例えば、アスピリンおよびアモキシプリン(Amoxiprin)など、アリールアルカン酸系化合物、例えば、ジクロフェナクおよびインドメタシンなど、2−アリールプロピオン酸系化合物、例えば、イブプロフェン、フェノプロフェンなど、N−アリールアントラニル酸系化合物、例えば、メフェナム酸など、ピラゾリジン誘導体、例えば、フェニルブタゾンおよびスルフィンピラゾンなど、オキシカム系化合物、例えば、ピロキシカムおよびメロキシカムなど、COX−2阻害剤、例えば、セレコキシブなど、スルホンアニリド系化合物、例えば、ニメスリドなど、その他、例えば、リコフェロン(Licofelone)およびオメガ−3脂肪酸系化合物など。
【0080】
本発明の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、免疫抑制薬物として知られているイムノフィリンリガンド、すなわち、FK506(タクロリムス)、シクロスポリンAおよびラパマイシン(シロリムス、ラパミューン(rapamune))、または、それらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0081】
本発明の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、抗酸化剤、例えば、グルタチオン、ビタミンのアスコルビン酸(ビタミンC)、ビタミンE(トコフェロール類およびトコトリエノール類)、メラトニン、抗酸化性酵素(例えば、カタラーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、様々なペルオキシダーゼなど)、および/または、鉄キレーター(例えば、トランスフェリン、ラクトフェリン、フェリチンなど)、デスフェリオキサミン、誘導性オキシドシンターゼ(iNOS)阻害剤、あるいは、それらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の他の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、炎症促進性応答および/または骨再吸収経路に関与するシグナル伝達分子を阻害する作用因、例えば、RANKLシグナル伝達を抑制する作用因、破骨細胞の細胞シグナル伝達中間体を抑制する植物由来の作用因(例えば、クルクミン(ウコン由来)、レスベラトロール(赤ブドウ、クランベリーおよびピーナッツ)、茶ポリフェノール、ゲニステイン(大豆)、ケルセチン(タマネギ)、シリマリン(チョウセンアザミ)、ググルステロン(ググル(guggul))、ボスウェル酸(boswellic acid)(サライ・ググル(salai guggul))およびウィタノリド(アシュワガンダ(ashwagandha))、ググルステロン[4,17(20)−プレグナジエン−3,16−ジオン])、または、それらの組合せを含むが、これらに限定されない。
【0083】
本発明の他の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、アラキドン酸代謝物の産生を阻害する作用因、例えば、COX−1阻害剤およびCOX−2阻害剤、5−リポキシゲナーゼまたは種々の脂質媒介因子の阻害剤(例えば、リポキシン類)、リポキシンA4と同様に抗炎症効果を有する「レソルビン(resolvin)」および「プロテクチン」と呼ばれる化学的媒介因子の新しいファミリーを含むが、これらに限定されない。
【0084】
本発明のさらに他の実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、細胞を侵害性または有害な刺激(例えば、炎症)から保護する高度に保存されたタンパク質である熱ショックタンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0085】
炎症性応答が誘発されず、それにより、骨統合のために要求されるリモデリングプロセスが欠落している状況においては、ラクトフェリンあるいは他の骨形成性の作用因および/または破骨細胞阻害の作用因(例えば、イバンドロナートなど)が、正しいシグナルを提供し、かつ、骨形成シグナルを誘発するために適用される。
【0086】
したがって、様々な実施形態において、インプラントとの組合せで提供される物質(1つまたは複数)は、上記で述べられた作用因の任意の組合せを含むが、これらに限定されない。骨成長を促進させ、および/または、炎症促進性応答を阻害する他の方法が当業者には明白である。
【0087】
本発明の1つの態様において、骨形成を刺激する生物活性物質(1つまたは複数)が、例えば、国際公開WO00/72777に開示されるように、インプラントの表面において被覆または含浸される。しかしながら、前記特許出願における教示に反して、本発明に従って少なくとも1つの生物活性物質により被覆されるインプラント材料は、生物活性なガラスではない。本発明の別の態様において、炎症を軽減または阻害する生物活性物質(1つまたは複数)がインプラントの表面において被覆または含浸される。被覆は、例えば、インプラント(例えば、TiUnite(登録商標)表面を有するインプラントなど)を生物活性物質(1つまたは複数)の好適な溶液に浸漬することによってインプラント上の滑らかな表面または粗い表面に存在し得る。被覆は、一様な層またはむらのある層の形態であってもよく、あるいは、補給所(depot)(スポット)の状態であってもよい。生物活性物質(1つまたは複数)はまた、活性物質の即時放出または持続放出のために適する、インプラントの表面におけるマトリックスまたは他の保持材に取り込むことができる。インプラントにおける微細構造が好ましくは、活性物質(1つまたは複数)の補給所のための「洞穴」として使用される(図1B)。微細構造を有するインプラントの1つのそのような例が、例えば、ラクトフェリンにより単独または徐放性マトリックスにおいて被覆される、TiUnite(登録商標)表面を有するインプラントである。
【0088】
1つの態様において、骨形成刺激物質(1つまたは複数)が、単純な露出層の形態で、または、マトリックスで、または、補給所の状態でインプラントの表面において被覆(例えば、噴霧)または含浸される。別の態様において、抗炎症性物質(1つまたは複数)が、単純な露出層の形態で、または、マトリックスで、または、補給所の状態でインプラントの表面において被覆(例えば、噴霧)または含浸される。マトリックスまたは類似する保持材は、活性物質の即時放出または遅延/持続放出のために適合化され得る。代替として、そのような種々の物質をインプラントの表面における異なる層で被覆することができる。インプラントは、インプラントを(間での「乾燥」を伴って)被覆剤の溶液において数回浸漬/インキュベーションすることによって被覆することができる。インプラントの表面は活性物質により被覆し、かつ、保護層によって、例えば、骨に設置した後での血液凝固によって溶解されるゼラチンの保護層によって覆うことができる。
【0089】
インプラントにおける微細構造(細孔)は好ましくは、被覆プロセスの期間中に活性物質(1つまたは複数)により充填される。これらの微細構造(図1Bおよび図1C)は、通常の機械加工されたインプラントと比較して、より良好な骨統合を可能にし、また、加えて、生物活性物質(例えば、ラクトフェリン)によるインプラントのより大きい負荷に備えるものである。
【0090】
2つ以上の物質が適用されるならば、これらは一緒に適用することができ、または、連続して適用することができる。すなわち、これらの物質は骨統合の状態に従って順々に適用される。最初には、抗炎症効果が、組織の炎症性反応および分解を抑制するために、または、そのような反応がないならば、骨成長シグナルを開始させるために必要になる。骨統合の後半の段階では、骨/組織の成長が重要であり、したがって、骨/組織の成長を、好適な骨成長刺激物質を加えることによって刺激することができる。抗生物質、腫れ防止剤および鎮痛剤などの適用もまた、本適用による使用のために意図され得る。異なる(または同じ)物質(1つまたは複数)の連続適用は、そのような適用のための手段を必要とする。局所注射が意図され得る。遅延放出補給所もまた使用することができるが、その目的はまた、骨に設置されているときには、インプラントへの物質(1つまたは複数)の段階的適用のための機械的手段を伴うインプラントの使用によって達成することができる。
【0091】
別の態様において、骨形成刺激物質(1つまたは複数)が、例えば、国際公開WO00/72778に開示されるように、インプラント内の空洞において提供される。さらに別の態様において、抗炎症性物質(1つまたは複数)がインプラント内の空洞において提供される。物質(1つまたは複数)をインプラントの前記空洞の内部に堆積させ、インプラントの表面に流路を介して拡散させることができる。物質(1つまたは複数)を、即時放出または持続放出のために適する表面におけるマトリックス、ゲルまたは他の保持材に取り込むことができる。
【0092】
さらなる実施形態において、物質(1つまたは複数)は、インプラントがゲルまたは溶液などとして骨に設置されているときには空洞において適用することができ、あるいは、インプラントの空洞に置かれるスポンジに吸い込ませることができる。
【0093】
さらに別の実施形態において、異なる物質を、必要性に従って空洞に連続して適用することができ、例えば、抗炎症性物質をスポンジに吸い込ませ、インプラントを顎骨に設置した直後に空洞に置くことができる:後で(例えば、2日目に)、抗炎症性物質および骨成長刺激物質の混合物により浸されるスポンジが、より短い期間またはより長い期間にわたって前回のスポンジの代わりに空洞に置かれ、このスポンジは、必要とされる毎に、新しい浸されたスポンジによって置き換えることさえでき、そして、後で(例えば、7日目に)、骨成長刺激物質により浸されたスポンジをより短い期間またはより長い期間にわたって空洞に置いてもよく、必要とされる毎に、新しい浸されたスポンジによって置き換えることさえできる。同じ活性物質または異なる活性物質を伴うスポンジはまた、必要とされるならば、毎日、あるいは、より多くの頻度で、または、より少ない頻度で交換することができる。スポンジの機能的代替物もまた使用することができる。
【0094】
この構成が有用であるためには、上記の空洞含有インプラントは、インプラントの内部および物質に浸された手段を、インプラントの外側、すなわち、患者の口の内部からの化学的および/または機械的な物質による妨害から守るためのふたまたは他の密封可能な手段を含まなければならない。
【0095】
上記の被覆/含浸と、交換可能な浸された手段の使用とのどのような組合せもまた意図される。例えば、空洞含有インプラントを、第1および必要な場合には第2の生物活性物質によりインプラントの外側および/または空洞の内部において被覆または含浸することができ、そして、順に、第2、第3などの溶液を含む浸された手段により補うことができる。
【0096】
さらにさらなる態様において、インプラントは、上記で議論されるような方法で表面において1つの活性物質により被覆することができ、そして、同じ物質または別の物質を、上記で議論されるように表面への連絡を有するインプラントの空洞において備えることができる。1つの例において、抗炎症性物質を表面において被覆することができ、骨成長刺激物質を、スポンジにおいて浸されるインプラントの空洞に適用することができる。他の組合せが当業者には明白である。
【0097】
生物活性物質(1つまたは複数)、例えば、阻害剤または抗炎症性物質などの局所的な適用または投与は、物質の全身適用と比較して、活性物質のはるかにより大きい割合が、身体全体において「希釈」されることなくインプラントの周囲において使用されることを可能にする。したがって、使用される総量が、インプラントの周りでの所望される濃度を得るために全身適用の場合よりも少なくなる。さらには、身体の臓器または他の生命上重要な部分の中毒の危険性が回避されるので、より高い局所的濃度が許容され得ることがある。より高い局所的濃度は、炎症性反応のより速いダウンレギュレーション、および/または、新しい骨形成のための正しいシグナルを誘発することをもたらし得る。骨成長刺激物質または骨形成刺激物質の局所的な適用または投与が、同じ理由から、全身適用と比較して好まれ得る。さらに、ほとんどの場合において、骨成長は局所的に所望されるだけであり、これに対して、全身適用は一般に、望まれない骨成長をもたらし得る。処置は長期間にわたって行うことができ、また、処置期間において異なる時間での異なる生物活性物質による混合処置とすることもできる。
【0098】
ラクトフェリンは、骨芽細胞の増殖を、0.1μg/mlもの低い濃度を使用するインビトロで刺激することが示されている。濃度を、1μg/ml、10μg/mlおよび100μg/mlに増大させるとそれぞれ、骨芽細胞のアポトーシスが低下し、破骨細胞の発達が阻害され、骨芽細胞の分化が刺激される。これらの影響が、インビボで生じるラクトフェリンの濃度(1μg/ml〜100μg/ml)において存在する(Cornishら、Endocrinology、2004(Sep)、145(9):4366〜74、および、Caccavo D.ら、Int J Clin Lab Res、1999、29(1):30〜5)。局所的濃度が非常に高くなり得ること(Caccavo D.ら、Int J Clin Lab Res、1999、29(1):30〜5)を考慮に入れると、局所投与またはラクトフェリンによるインプラントの被覆のための示唆される幅は0.1μg/ml〜5000μg/mlであり、例えば、好ましくは1.0μg/ml〜5000μg/ml、より好ましくは1.0μg/ml〜2500μg/ml、一層より好ましくは1.0μg/ml〜1500μg/ml、1.0μg/ml〜1250μg/ml、1.0μg/ml〜1000μg/ml、1.0μg/ml〜500μg/ml、1.0μg/ml〜250μg/ml、1.0μg/ml〜100μg/ml、さらにより好ましくは2.5μg/mlまたは5.0μg/mlまたは10.0μg/mlから、500μg/ml、250μg/ml、100μg/mlまたは50μg/mlのいずれかまでである。ラクトフェリンの現時点で最も好ましい量は、約500μg/ml〜1500μg/ml、750μg/ml〜1250μg/ml、900μg/ml〜1100μg/mlである。ラクトフェリンによる局所的処置は、溶液またはゲルを埋め込みのための部位に直接に適用することと同様に、インプラントの足場または被覆を使用する投与を含むことができる。
【0099】
患者の免疫状態を評価するための試験
本発明のさらなる態様において、患者の免疫状態が、活性物質の最も良い組合せを評価し、また、選ぶために検査される。種々の技術が、免疫状態を調べるために有用であり得る。体液を採取するための一般的な技術が、ろ紙片の使用である。これらは、容易な利用および輸送のために好ましく、また、例えば、酵素アッセイ(特に、特異的な比色測定手順に役立つプロテアーゼ酵素)において使用される。
【0100】
結合組織代謝物の出現の調査では、マイクロキャピラリーチューブが、紙繊維の混入の何らかの危険性を防止するために使用される。SkapiおよびLehner(1976)、Periodont Res、11によって開示される洗浄手順を使用することができる。当業者は代替法を知っている。
【0101】
微生物プラークの関連での潜在的なマーカー源の例として、下記のものを挙げることができる:エンドトキシン(例えば、LPS)、酵素(例えば、細菌コラゲナーゼ、細菌ヒアルロニダーゼ)、代謝最終産物(例えば、炭水化物および脂質からの酪酸およびプロピオン酸(これらは歯肉炎および歯周炎と相関する))。
【0102】
炎症の程度と、歯肉溝液(GCF)の体積と、GCF液のHS生成能との間における正の相関もまた、患者を評価するために使用することができる。
【0103】
同様にまた、患者の細胞に由来するマーカーを使用することができる。歯肉溝における好中球の数が炎症の有用なマーカーである。白血球の酵素、例えば、アルカリホスファターゼが、増大する炎症およびポケット深さと相関し、カテプシンDの増大した濃度がポケット深さと相関する。ラクトフェリンは、好中球よりも良好な、臨床指数との相関を示した。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は炎症性応答との良好な相関を与える。患者の組織において、下記のマーカーを検出することができる:コラーゲン、プロテオグリカン、マトリックスタンパク質など。特異的な宿主因子もまた測定することができる:免疫グロブリン、免疫応答、補体、エイコサノイド、サイトカイン(インプラント周囲疾患群におけるIL−6およびIL−10のレベルが臨床パラメーターとの正の相関を有する)、また、IL−10のレベルは、炎症バランスを維持するための生物の統合された免疫応答の効力に関する情報を与えるかもしれない。当業者は代替物を知っている。
【0104】
患者が、起ころうしているインプラント誘導の炎症を処置するための最も良い方法を評価するためにインプラント挿入後の免疫応答(例えば、IL−10の測定)を明らかにし、そして、本質的には、被覆を、患者の具体的な必要性に応えるために細かく調節することができるためのキットを作製することもまた可能である。
【0105】
他の実施形態において、生物活性物質はイバンドロナートおよびプラバスタチンの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態において、生物活性物質はイバンドロナートおよびプラバスタチンを組合せにおいて含む。イバンドロナートは、例えば、破骨細胞の増殖、分化および/または活性に影響を与えるか、あるいは、破骨細胞の増殖、分化および/または活性を低下させることによって、骨再吸収を低下させ、または、骨再吸収を妨げる。プラバスタチンは炎症を軽減することができる。さらに、スタチン類は、骨形成を刺激するための示された適応症を有する。実施形態によれば、イバンドロナートおよびプラバスタチンのどちらかまたは両方が、骨統合に対する同じ正の効果を有する他の作用因(例えば、ラクトフェリン)に関して本明細書中に記載されているのと同じ原理に従って骨インプラントと組み合わされる。
【0106】
様々な実施形態が骨インプラントのための方法を含む。そのような方法は、骨インプラントを収容するために患者の骨における部位を調製すること、前記骨インプラントの骨統合を調製部位において促進させる1つまたは複数の生物活性物質を局所的に投与または適用すること、および、骨インプラントを調製部位に提供することを含むことができる。
【0107】
そのような物質(1つまたは複数)の局所的な投与または適用は、破骨細胞の増殖、分化および/または活性を低下させることができる少なくとも1つまたは複数の生物活性物質の局所的な投与または適用を含むことができる。そのような物質(1つまたは複数)の局所的な投与または適用は、イバンドロナートを含む少なくとも1つまたは複数の生物活性物質の局所的な投与または適用を含むことができる。加えて、または、代替として、そのような方法は、骨芽細胞の増殖を刺激することができる少なくとも1つの生物活性物質の局所的な投与または適用を含むことができる。それにもかかわらず、加えて、または、代替として、そのような方法は、炎症を軽減することができる少なくとも1つの生物活性物質の局所的な投与または適用を含むことができる。それにもかかわらず、加えて、または、代替として、そのような方法は、ラクトフェリン、ラクトフェリンの生物学的に機能的な誘導体またはフラグメント、および、プラバスタチンのうちの少なくとも1つを含む少なくとも1つの生物活性物質の局所的な投与または適用を含むことができる。
【0108】
患者の部位を調製することは、例えば、骨インプラントを挿入するために穴をドリルにより患者の骨にあけることによって、骨切り術を準備することを含むことができる。加えて、または、代替として、部位を調製することは、骨切りのみを、骨切り術または穴を準備するために使用することを含むことができる。
【0109】
少なくとも1つまたは複数の生物活性物質の局所的な投与または適用は、生物活性物質をインプラントの表面において提供することを含むことができ、この場合、物質(1つまたは複数)が、インプラントを挿入するときに穴に適用される。代替として、または、加えて、物質(1つまたは複数)は、インプラントを挿入する前に適用することができ、例えば、刷毛などにより塗布することによって、あるいは、直接に調製部位においてスポンジまたはゲルにより適用することができる。さらには、1つまたは複数の物質と、インプラントとを組合せにおいて提供することができるが、別々に配布することができ、例えば、別個の容器および/またはバイアルなどにおいて配布することができる。インプラントを調製部位に挿入する前に、インプラントは物質に浸漬され、それにより、物質がインプラントによって調製部位にもたらされる。
【0110】
インプラントを調製部位に提供することは、インプラントをその部位に挿入すること、例えば、インプラント、例えば、ねじ型のインプラントなどを調製部位にねじ込むことなどを含むことができる。
【0111】
骨インプラントは、例えば、1つまたは複数のらせん状のねじ山渦巻きまたは円形フィンを有するねじ型のインプラントであり得る。例えば、穴を、例えば、歯科インプラントを適用するために顎骨に、また、例えば、顎顔面インプラントを適用するために頭骨に、また、例えば、脊椎インプラントについては背骨に、また、例えば、股関節インプラントについては寛骨に、また、その他の骨にドリルによりあけることができる。
【0112】
本明細書中で使用されるような骨インプラントは、例えば、患者の骨に挿入されるか、または、少なくとも部分に埋められるときなどにおける骨組織との骨統合のために考案される少なくとも1つの骨付着表面を有するインプラントを含む。
【0113】
本発明のいくつかの実施形態は、治療的処置を提供するための1つまたは複数の生物活性物質の使用を含む。治療的処置は、例えば、骨統合を含むことができる。骨統合は、骨インプラントの骨統合、例えば、歯科インプラントなどの骨統合であり得る。治療的処置は、加えて、または、代替として、炎症性疾患の予防的処置を含むことができる。治療的処置は、加えて、または、代替として、骨インプラントを埋め込んだときの炎症性疾患の処置を含むことができる。治療的処置のための1つまたは複数の生物活性物質は、ラクトフェリン、プラバスタチンおよびイバンドロナート、または、それらの任意の組合せを含むことができる。
【0114】
本発明のいくつかの実施形態は、骨統合を提供するための医薬品の製造のための1つまたは複数の生物活性物質の使用を含む。骨統合は、骨インプラントの骨統合、例えば、歯科適用および/または顎顔面適用のためのねじ型インプラントなどの骨統合であり得る。加えて、または、代替として、医薬品は、炎症性疾患の予防的処置および/または治療的処置のための医薬品であり得る。製造は、生物活性物質を骨インプラントとの組合せで提供することを含むことができる。
【0115】
図5は、歯科適用および/または顎顔面適用のための、例えば、歯科人工装具および/または顔面人工装具、補聴器などを固定することなどのためのインプラント20’を例示する。この実施形態において、インプラントは、骨(例えば、顎骨など)への付着のためのらせん状のねじ山38’を伴う本体34’を有するインプラント固定具32’を有するねじ型のインプラントである。歯科適用において、この具体的なインプラントのための顎骨の稜がインプラント固定具の遠位端(例えば、カラー部36’など)に位置することが意図される。カラー部は少なくとも1つの円周溝を有することができる。嵌合成分100’を、例えば、ヒーリングキャップ(healing cap)、ヒーリングアバットメント、永続的アバットメント、一時的ブリッジ、永続的ブリッジなどをインプラント固定具32’に取り付けることができる。この実施形態において、嵌合成分は、骨の表面から、骨を覆う軟組織(例えば、口腔における歯肉など)の表面にまで至るアバットメントである。嵌合成分は、上記で議論されるような軟組織付着表面を有することができる。らせん状のねじ山38’は1条または数条の溝(例えば、らせん状のねじ山38’の進路に従うらせん状の溝など)を含むことができる。インプラント20’、または、少なくともインプラント固定具32’はチタンまたはチタン合金から作製され得る。骨付着表面は、約0.1μm〜10μm(例えば、1μm〜7μmなど)の細孔直径を有する細孔、および/または、約0.4μm〜5μmの範囲での粗さを有する微細構造で、例えば、酸エッチング、陽極酸化およびブラスト処理の少なくとも1つによって得られる微細構造などを有することができる。そのような表面が、例えば、国際公開WO00/72776(これは、その全体が、どのような目的のためであれ、参照によって本明細書中に組み込まれる)に開示され、TiUnite(登録商標)の商標で知られており、Nobel Biocare(スイス)によってチタンインプラントにおける表面被覆として入手可能である。
【実施例】
【0116】
実施例1
Gottingenミニブタにおけるチタンインプラントの骨統合に対するラクトフェリンの影響
実施例1において、NobelReplace Tapered通常プラットフォーム(RP)をTiUnite表面インプラント(4.3×13mm)とともに使用した。部位を、2mmのドリルNP(狭域プラットフォーム)、高密度骨ドリルRPおよびねじタップRPを用いてプロトコル通りのドリルによる穴あけによって調製した。インプラントおよびドリルプロトコルは本発明の出願人により入手可能である。
【0117】
手術
下顎骨における両側での第2小臼歯をGottingenミニブタにおいて抜歯し、ドリルによる穴あけを、Replace先細り型Rp(4.3×13mm)インプラントの設置のためのプロトコルを使用して遠心側歯槽または近心側歯槽において行った。ラクトフェリン被覆インプラント(0.9vol%NaClにおける1000μg/mlのラクトフェリンにおけるインキュベーションによって被覆される)、または、コントロールのインプラント(0.9%NaClにおいてインキュベーションされる)を、歯根を除いた後の新たな抜歯ソケットに設置した。インプラントを手術後の治癒のために4週間そのままにした。0.9%NaClにおいてインキュベーションされたインプラントを陰性コントロールとして使用し、ラクトフェリン被覆インプラントと同じ様式で(しかし、何らかの汚染を避けるためにGottingenミニブタの顎骨の離れた側に)設置した。カバーねじおよび縫合を、必要とされるならば、インプラントに対して使用した。
【0118】
手術後の4週間後、インプラントを、インプラントのそれぞれの側面での1つの隣接する歯を含む、インプラントのそれぞれの側面での顎の一部と一緒に取り出した。サンプルを固定処理のために4%PFAに入れ、少なくとも1週間放置した。試験片をB−SEM(後方散乱走査型電子顕微鏡)によって評価した。マイクロCTを使用する評価もまた行った。結果が下記の表1にまとめられる。
【0119】
同時に、TiUnite表面を、浸漬期間中に付着したラクトフェリンの量に関して、また、ラクトフェリンがどのような速度でインプラントの表面から放出されたかに関して評価した。
【0120】
B−SEM分析
顎を、ダイヤモンド被覆の帯のこを備えるExakt切断装置(Exakt、Norderstedt、ドイツ)を使用して、インプラントの中心を通って近心側から遠心側への方向で縦に切った。元の試験片の2つの得られた半分を、エタノールの上昇濃度物における完全な脱水の後、光硬化性の一成分樹脂(Technovit7200VLC、Kulzers)に包埋した。一方の半分をB−SEM検出器による評価のために使用した。もう一方の半分を、光学顕微鏡観察(LM)のための研削切片を作製するために使用した。B−SEM評価のために、試験片をアルミニウムのホルダーにのり付けした。調べられる表面をダイヤモンドペーストとともに高度に研磨し、超音波クリーナーにおいて徹底的に清浄化した。その後、研磨表面を、SCD−500スパッターコーター(Bal−Tec、リヒテンシュタイン)を使用して厚さ6nmの炭素層によりスパッターリングした。試験片を、後方散乱検出器を伴うZeiss VPN−40電界陰極(field cathode)走査型電子顕微鏡により調べた。
【0121】
得られた画像を、Image Access(Imagic、スイス)ソフトウエアを使用して評価した。骨対インプラント接触の量を百分率で測定した。測定をインプラントの本体の周りでの骨面における最初の骨対インプラント接触から開始した。
【0122】
マイクロCT
使用されたCTスキャナーは、hp Integrity 64ビット 1〜16プロセッサー・システム・コンピューターによる、Microfoucus X線源を有する卓上型Cone−Beam Micro CT Scanner(5μmまたは7μmのスポットサイズ、30kVp〜70kVp/20keV〜50keV(160μA)、2048×256エレメント、6μm〜72μmの公称等方性を有する24μmピッチの検出器、9μm(10%MTF)、512×512画素、1024×1024画素または2048×2048画素の分解能の画像マトリックス)であった。
【0123】
骨対インプラント接触の量を百分率で測定した。
【0124】
実施例1の結果
1000μg/mlのラクトフェリンが、非常に穏やかな抜歯(ほとんどない外傷)との組合せで使用されたとき、骨対インプラント接触が、コントロールと比較して、はるかにより大きかった。同様にまた、ラクトフェリン被覆インプラントの周りにおける血管新生がより多いようである。このことは、血液供給が非常に重要であるので興味深い。
【0125】
炎症および再調節(remodulation)がほとんど起こらないか、または、全く起こらないシナリオをシミュレーションするために、手術を2つの方法で行った。
【0126】
激しい炎症性応答を誘導するために、多大な外傷を、歯根の抜き取りに関する大きな問題によって本研究においてシミュレーションした。すなわち、歯根を、数片に分けて、かつ、過度な作業により抜き取った。表1および図2において認められるように、使用されたラクトフェリン濃度は、炎症性反応および骨喪失を低下させるためには十分に高くなかった。表1における最初の4組の結果がこの状況をシミュレーションしている。
【0127】
ほとんどない外傷もまた、歯根の穏やかで、かつ、容易な抜き取りによって本研究においてシミュレーションした。すなわち、歯根が、無傷で、かつ、多大な作業を伴うことなく現れる。表1は、7匹のGottingenミニブタにおいて、それぞれの0.9%NaCl浸漬コントロールインプラントと比較されるラクトフェリン浸漬インプラントにおける骨対インプラント接触に関してB−SEMおよびマイクロCTの後で得られた結果を示す。より大きい数字は、より多い骨対インプラント接触およびより多い骨統合を意味する。表1および図2において認められるように、使用されたラクトフェリン濃度は、コントロールと比較して、被覆部位における再調節/新しい骨形成を誘発するためには十分であった。表1における最後の3組の結果がこの状況をシミュレーションしている。

表1:後方散乱SEM評価およびマイクロCT評価の両方に基づく骨対インプラント接触の定量化
【0128】
実施例2
チタンインプラント表面のラクトフェリンの濃度
機械研磨表面を有するチタンプレート(直径10mm)、機械研磨表面を有するチタンのねじ型インプラント、および、TiUnite(登録商標)表面を有するチタンのねじ型インプラントを、0.9%NaClに溶解されるラクトフェリン(最大、1000μg/ml)において少なくとも1時間から少なくとも2時間に至るまでの間インキュベーションし、乾燥するまで放置した。インプラントに吸着されたラクトフェリンの濃度を、種々の技術を使用して測定した。使用された測定技術はXPS(X線光電子分光法)であった。DPI(二重偏光干渉計)が別の可能な測定技術である。被覆層の厚さに対する影響もまた、AFM(原子間力顕微鏡観察)を使用して評価することができ得る。
【0129】
チタンインプラント表面のラクトフェリンの吸着
チタンインプラントに吸着しているラクトフェリンの濃度を、XPS(X線光電子分光法)を使用して測定した。機械研磨表面を有するインプラント、および、TiUnite(登録商標)表面を有するチタンインプラントを、0.9%NaClに溶解されるラクトフェリン(1000μg/ml)において2時間にわたって3回インキュベーションし、表面のタンパク質含有量を非被覆インプラントと比較した。ラクトフェリンが機械加工インプラントおよびTiUnite(登録商標)インプラントの両方に吸着されることが結論された。相対的なタンパク質濃度が、TiUnite(登録商標)表面では、機械研磨表面よりも著しく大きい。予想されるように、インプラント表面のラクトフェリン濃度が放出研究の後では低下する。しかしながら、依然として、著しい量のタンパク質が両方のタイプの表面に残っている。ラクトフェリンはTiUnite(登録商標)表面に強く結合し、水により容易に洗い流すことができなかった。
【0130】
被覆インプラントからのラクトフェリンの放出速度論
機械研磨表面を有するチタンインプラント、および、TiUnite(登録商標)表面を有するインプラントを、吸着研究について記載されるように、ラクトフェリン(1000μg/ml)において2時間にわたって3回インキュベーションした。インプラントをNaCl溶液において37℃で168時間インキュベーションし、サンプルを、ラクトフェリンの放出された量を測定するために一定の間隔で採取した。TiUnite(登録商標)インプラントが、機械研磨インプラントよりも著しく多いラクトフェリンを放出したことが結論された。ラクトフェリンの放出が、TiUnite(登録商標)インプラントからは10時間〜24時間の間で劇的に増大し、48時間後、125μg/ml/インプラントの最大値に達した。ラクトフェリンの放出が、全研究期間を通して絶え間なくゆっくり低下した。このタンパク質はTiUnite(登録商標)表面に強く結合したので、ある量の振とうが、安定した信頼できる放出結果を得るために要求された。機械加工されている研磨インプラントから放出されるラクトフェリンは、およそ24時間後、45μg/ml/インプラントの最大値に達した。その後、放出が低下して、最終的には、5日後に安定した。
【0131】
実施例3
実施例3において、NobelReplace Tapered通常プラットフォーム(RP)をTiUnite表面インプラント(4.3×13mm)とともに使用した。部位を、2mmのドリルNP(狭域プラットフォーム)、高密度骨ドリルRPおよびねじタップRPを用いてプロトコル通りのドリルによる穴あけによって調製した。5匹のGottingenミニブタを使用した。1つの被覆インプラントおよび1つのコントロールインプラントを1匹のミニブタあたり設置した。被覆インプラントは、イバンドロナート(イバンドロナート#I5784、Sigma−Aldrich)およびプラバスタチン(プラバスタチン#P4498、Sigma−Aldrich)の組合せにより被覆された。インプラントは、1000μg/mlのイバンドロナートおよび400μg/mlのプラバスタチンへのインキュベーションによって被覆された。コントロールのインプラントは0.9%NaClの溶液においてインキュベーションされた。
【0132】
インプラントおよびドリルプロトコルは本発明の出願人により入手可能である。
【0133】
実施例4
IL−8の産生に対するラクトフェリンの影響
材料および方法
2つの軟膜を2名の健康なドナー患者から受け取った。好中球を、1%デキストラン溶液、その後、Ficoll−Paque勾配遠心分離および赤血球の低浸透圧溶解によって単離した。この手順により、2つのサンプルについてそれぞれ、90%および82%の純度の多形核(PMN)細胞を得た。細胞を5×10個PMN/mlの濃度でRPMIに懸濁した。サイトカイン刺激を、ラクトフェリンの非存在下、あるいは、100マイクログラム/mlまたは1000マイクログラム/mlの濃度で、5%COにおいて37℃で18時間、LPS(InvivoGen、E.coli)の10ng/mlにより行った。
【0134】
一晩培養物を、細胞を溶解するために0.1%のTritonとともにインキュベーションした。遠心分離後、上清を、R&D DuoSetから得られるELISA(カタログ番号DY208)を製造者によって提供されるプロトコルに従って使用してIL−8検出のために使用した。サイトカイン濃度を、それぞれのアッセイのために構築された標準曲線に対する参照によって求めた。
【0135】
LPSによるIL−8の著しい刺激が、LPSを伴わないサンプルと比較して認められた。100マイクログラム/mlおよび1000マイクログラム/mlの濃度でのラクトフェリンは、好中球によって産生されるIL−8の量を低下させることができた。ラクトフェリンまたはLPSを伴わないサンプルによって産生されるIL−8のバックグラウンドを考慮に入れた場合、サンプル番号1(90%の純度)でのIL−8の低下は、ラクトフェリンを伴わない場合と比較して、100マイクログラム/mlのラクトフェリンについては75%であった。1000マイクログラム/mlについては、低下が44%であった(図3)。サンプル番号2(82%の純度)についての結果もまた、ラクトフェリンによるIL−8の低下を示した。だが、その低下は、おそらくはPMN細胞の純度が不良であったために、サンプル番号1の場合よりも著しくなかった。
【0136】
実施例5
ラクトフェリンの抗菌効果
材料および方法
機械加工のチタンディスクおよびTiUnite(登録商標)被覆のチタンディスク(φ15mm)を、室温で2時間、1mg/mlのヒトラクトフェリン(Sigma−Aldrich、#L4040)または生理学的NaCl溶液(154mM)のどちらかにおいてインキュベーションした。インキュベーション後、溶液を除き、そして、スクロース、血清およびシステインHClが補充されたブレイン・ハート・インフュージョン培養液における口内細菌のS.mitisおよびA.naeslundiiの混合培養物(CFU、約105)により置き換えた。サンプルを、37℃で2時間、振とう機で嫌気的にインキュベーションした。
【0137】
ストマッカー(stomacher)を使用して、細菌をディスクから集め、その後、付着細菌の数を血液寒天でのプレート計数によって求めた。
【0138】
結果
機械加工チタンの表面およびTiUnite(登録商標)被覆チタンの表面の両方に被覆されたラクトフェリンは、2時間のインキュベーションの後、接着しているS.mitis細菌およびA.naeslundii細菌の数を減らすことができた。このことは、ラクトフェリンは、手術処置により誘導される炎症、すなわち、インプラント領域において生じる創傷を軽減することができることだけでなく、ラクトフェリンは、病原性微生物による感染を低下させるために好適であることもまた示す。この作用様式は、創傷組織におけるラクトフェリンの抗炎症効果を増大させる。驚くべきことに、ラクトフェリンおよびTiUnite被覆チタンの使用は、ラクトフェリンおよびコントロール材料(機械加工チタン)よりも効果的であることが見出されている。微生物試験の結果が図4Aおよび図4Bに示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨インプラントと、インプラント部位における炎症を調節する1つまたは複数の物質との組合せ。
【請求項2】
骨インプラントと、インプラント部位における炎症を調節する1つまたは複数の物質を含むキット。
【請求項3】
炎症の処置または予防に使用するための、1つまたは複数の生物活性物質を被覆または含浸させた骨インプラント。
【請求項4】
生物活性物質はラクトフェリン、ラクトフェリンの誘導体もしくは変異体またはそのフラグメントを含む、請求項3に記載の骨インプラント。
【請求項5】
骨インプラントはチタンを含む、請求項3または4に記載の骨インプラント。
【請求項6】
イバンドロナートをさらに含む、請求項3〜6のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項7】
プラバスタチンをさらに含む、請求項3〜7のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項8】
前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは、前記骨インプラントの表面に被覆もしくは含浸されるか、または前記骨インプラントの空洞に堆積され、前記空洞は1つまたは複数の流路を通して骨インプラントの外側表面と流体接触している、請求項1に記載の組合せ、請求項2に記載のキット、又は請求項3〜7のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項9】
前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは、前記骨インプラントの表面に被覆もしくは含浸されるか、または前記物質の即時放出または遅延放出のために与えるマトリックスにおいて前記骨インプラントの空洞に堆積される、請求項3〜8のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項10】
骨インプラント、および前記1つまたは複数の生物活性物質の少なくとも1つは別個のユニットとして与えられ、少なくとも1つの生物活性物質は乾燥または湿潤、例えば溶液の形態である、請求項3〜9のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項11】
前記1つまたは複数の生物活性物質の1つは、局所的に作用する抗生物質、腫れ防止剤および鎮痛剤からなる群から選択された1つまたは複数の薬剤を含む、請求項1〜10のいずれかに記載の組成物、キット、または骨インプラント。
【請求項12】
骨インプラントの表面は微細構造を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項13】
骨インプラントは歯科インプラントであり、それは任意選択的に少なくとも1つのらせん状のねじ山を含む、請求項1〜12のいずれかに記載の骨インプラント。
【請求項14】
炎症は粘膜炎、周囲粘膜炎、またはインプラント周囲炎である、請求項1〜13のいずれかに記載の組成物、キット、または骨インプラント。
【請求項15】
1つの第1生物活性物質は即時放出のための層または補給所において与えられ、その第1生物活性物質は炎症部位の炎症を減少することができ、1つの第2生物活性物質は、骨成長/形成を刺激することができる前記第2生物活性物質の制御放出のために与える第2層または補給所において与えられる、請求項1〜14のいずれかに記載の組成物、キットまたは骨インプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A−B】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−527205(P2011−527205A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517041(P2011−517041)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005065
【国際公開番号】WO2010/003696
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(506260386)ノベル バイオケア サーヴィシィズ アーゲー (42)
【Fターム(参考)】